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呼吸による上大静脈血流の変化の検討 (平成6年4月6日受付)

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(1)

日本小児循環器学会雑誌 11巻2号 108〜112頁(1995年)

〈原  著〉

呼吸による上大静脈血流の変化の検討

(平成6年4月6日受付)

(平成7年2月20日受理)

      自治医科大学小児科,

市橋  光  保科  優 遠藤 秀樹  倉松 俊弘

*現 東京大学小児科

五十嵐 浩  菊池  豊

白石裕比湖  柳沢 正義*

key words二上大静脈,ドプラ心エコー法,呼吸性変動

      要  旨

 超音波ドプラ心エコー法を用いて小児の上大静脈血流波形を記録し,呼吸による変化を検討した.対 象は健常小児32例で,収縮期の最大血流速度S,拡張期の最大血流速度Dを記録した.

 S波の流速はD波を下回ることはなく,D/Sは常に1以下の値をとった.また, S波, D波ともに吸 気時に増大したが,D波の呼吸性変動がS波より大であった.

 S波,D波ともに,年齢が高くなりにつれて減少した.

 呼吸による変動の大きさに関しては,年齢による差がなく,またS波よりD波の変動が大きいという パターンも共通していた.

 本研究により,健常小児における上大静脈の正常血流パターンが明らかになった.また,乳幼児と年 長児では呼吸パターンに違いはあるものの,胸腔内圧の変動には差がないと考えられた.

      はじめに

 上大静脈血流波形は収縮期と拡張期にそれぞれピー クを形成し,2峰性を示す1)2).右心系の血流は呼吸に より強く影響され,正常では上大静脈血流速度は2峰 とも吸気性に増大することが知られている2).しかし,

小児では呼吸による上大静脈血流の変化に関する検討 は十分になされていない.

 本研究でわれわれは,超音波ドプラ心エコー法を用 いて小児の上大静脈血流波形を記録し,呼吸による変 化を検討した.

        対象および方法

 対象は心雑音や心電図異常の精査を目的に来院し,

器質的心疾患を有さなかった健常小児40例のうち,パ ルスドプラ法にて上大静脈血流波形が層流パターンと して記録された32例(生後6カ月〜15歳)であった.

 装置はアロカ社製SSD−870で5MHzまたは3.5

MHzの探触子を用いた.乳児,若年幼児は眠剤内服に

別刷請求先:(〒329−04)栃木県河内郡南河内町薬師  寺3311 1

     自治医科大学小児科    市橋  光

よる睡眠時に,それ以外は安静覚醒時に仰臥位にて検 査を行った.

 上大静脈血流波形の記録は,右鎖骨上縁に探触子を 置き,左右腕頭静脈合流部と,上大静脈が右肺動脈と 交差する部位との中間にサンプルボリュームを設定し ておこなった(図1).収縮期の最大血流速度Sと拡張 期の最大血流速度Dの連続10心拍中の最大値,最小値 をSrnax, Smin, Dmax, Dminとし,計測した.また,

DとSの比,D/Sを計算した.検定はt検定を用い,

p〈0.05を有意とした.

      結  果

 上大静脈血流波形のS波の流速はD波を下回るこ とはなく,D/Sは常に1以下の値をとった.また,S波,

D波ともに吸気時に増大した(図2).

 対象全体ではSrnax, Slnin, Dmax, Dminの値はそ れぞれO.70±0.17,0.55±0.16,0.51寸0.14,0.35±

0.12(m/sec)であり, Smax, DmaxはSmin, Dmin より有意に大であった.また,Dmax/Smax, Dmin/

Sminの値は0.74±0.IL O.65+0.14であり, Dmax/

Srnaxが有意に大で, D波の呼吸性変動がS波より大

(2)

  入パ⊃ P.・弓恥・コ:こ〜

     og   ;5Hz       二鋸:1

螺騨 鰍磯

      S

秦蕊繊

\_

4

1

膓轟警︷1

︽パ薯

  璽

m照燃pnLII,1−1.、1 Illll岬.1,II|lll,−1−1−lll、1111幕柵嫌卿

lI

這,.、幽鮪 輪1・・1L』晶偽毎鯵

璽オ薯D

︐㌔竃

一一・

」一1

      図1 上大静脈血流波形

BCV:腕頭静脈, RPA:右肺動脈, SVC:上大静脈,

S:収縮期最大血流速度,D:拡張期最大血流速度

きいことがわかった(図3).

 一方,これらの値と年齢との関係では,S波の流速は 年齢が高くなるほど減少した(図4).D波の流速も,

年齢が高くなるにつれ減少した(図5).

 D/Sでは,幼若児で高い傾向があった(図6).

 呼吸による変動Srnax/Smin, Dmax/Dminは,年齢 との関係は明らかではなかったが,3歳未満の児では 変動のばらつきが少なかった(図7).

            ,  ,  ,  ,1  川    :,      ,」 , 1」皐1  ,1 11

図2 上大静脈血流波形.S波はD波より大で,とも  に吸気時に増大した.

 Inspiration:吸気時, Expiration:呼気時

      考  察

 静脈は胸腔内圧の変動により右房へ還流している.

この右房への静脈還流は,胸腔内圧に異常のない限り,

心臓側の条件に規定されていると考えられている.

 正常な上大静脈血流波形は,心室収縮期の大きなS 波と拡張期の小さなD波からなっている.S波の成因 については心房の拡張と心室の収縮による房室弁輪の 下方移動によると考えられている3).D波は三尖弁の 開放に伴う心室への血流の流入によって生ずると考え

られている.

m/sec

08

06

O.4

02

S(収縮期最大血流速度)

  「P〈001 

  Smax     Smin

m/sec

0.6

04

0.2一

D(拡張期最大血流速度)

﹁llTlー⊥

Tーー

  Dmax    Dmin

O.8

06

D/S

04

L−−

 Dmax/Smax Dmln/Smln 図3 S(収縮期最大血流速度),D(拡張期最大血流速度), D/Sの呼吸による変動  Smax:Sの連続10心拍中の最大値, Smin:Sの連続10心拍中の最小値, Dmax:D  の連続10心拍中の最大値,Dlnin:Dの連続10心拍中の最小値

(3)

110−(4) 日本小児循環器学会雑誌 第11巻 第2号

].3

1.2 1.1

 1.O xO.9N

u〕O.8

 0.7

0.6

0.5 0、4

1

0.9

0.8

 0.7 きo・6 a O.5

O.4

0.3

0.2

(a)

Oo OO

OO O

O

1

O.9

0.8

0.7 6 α

∈∪弓

O、5

0.4

O.3

(b)

︒︒

      0.2

0    2    4    6    8   10   12   14   16        0    2    4    6    8   10   12   14   16

       Age(year)

Smax=,86−,02★Age(year);R∧2=β3       Smin=,7−.02 t Age(year);RA2=,37

      図4 収縮期最大血流速度と年齢との関係

 a)Sm,、と.年齢との関係, b)Smi,と年齢との関係

(a)

Ooo

o

O.7

O.6

0.5

(b)

o o

 O OOO oo

OO

4

0

3

0

⊂︸∈O

0.2

O.1

0246810121416  0246810121416

      Age(year)      Age(year)

Dmax=,67一ρ2★Age(year);RA2=,52       Dmin=,47−,02 t Age(year);R〈2;,43

      図5 拡張期最大血流速度と年齢との関係  a)Dm。xと年齢との関係, b)Dmmと年齢との関係

xm∈の\×偲∈O

0.9

0.8

0.7

0.6

(a)

o o

Oo   O o  o

0.9

0.8

 07

.⊆ an O.6

a O.5

0.4

O.5      0.3

 0246810121416  02

       Age(year)

 Dmax/Smax=,79− ,Ol★Age(year);R〈2=,14

       図6 D/Sと年齢との関係

  a)Dmax/Sm。、と年齢との関係, b)Dmi。/Smi,と年齢との関係

(b)

o   o

Oo

oo

 o

4 6    8    10   12   14   16  Age(year)

(4)

平成7年5月1日

(a)

2.4

(b)

1.9 1.8

1.7

6  5  4− 3

⊆∈の\x価∈め

1.2

1.1

1

o O

        O

o     O         O

    O  o

。,声゜ 。。

   O O   OO  o

o

o  o o

 OO

o   o

o

o O

0246810]21416

         Age(year)

2.2

2,0

 8   ρ0

⊂一∈O\X偲∈O

1.4

1.2

1

Oo O

os

o

o

・・°°・・°

。・・。。

      o          o

O o

O      OO  Oo   O

0    2   4    6    8   10

         Age(year)

12   14   16

      図7 呼吸による変動と年齢との関係

a)Snl、X/Smil、と年齢との関係, b)Dm。x/Dmlr,

 今回の検討で,健常小児40例のうち8例のヒ大静脈 血流は乱流バターンを呈し,S波とD波を同定できな かった.探触子で静脈を圧迫すると血流速度が増加し たり連続性になったりするが4),そのことも十分考慮 して検査は施行された.また,これらの症例の年齢や 心拍数には有意差を認めなかった.カラードプラ法で 見ると左右の腕頭静脈の合流部からモザイクパターン を呈しており(図8),合流部の径や角度と関係してい る可能性が考えられ,今後検討が必要である.

 上大静脈血流はサンプル部位により,その血流波形 が異なることが知られている5).そのため,本研究では サンプルボリュームの位置を一ヒ大静脈の中央に設定し

た.

 呼吸性の変動に関しては本研究においても上大静脈 血流は吸気時に増加し,その呼吸性変動はD波がS波

より有意に大きく,成人における報告と同様であっ

た6).

 加齢による変化については,年齢が高くなるにつれ て血流速度は減少した.この原因としては,年少児ほ ど血流量に対する血管径が細い可能性や心拍数が多い 影響が考えられる.また,森らはD/Sと心拍数の関係 で,心拍数の増加に伴いD/Sが減少すると述べている が7},今回の結果では心拍数の多い幼若児でD/Sはむ しろ高い傾向にあった.これは加齢によりDもSも減 少するが,その減少率がDで大きいことによる.これ

らは,成人による報告と同様であった8).

 呼吸による変動の大きさに関しては,年齢による差 がなく,またS波よりD波が変動が大きいというパ

︑㌔

靹i一1

卓§

 R 当逼

    篭

図8 上大静脈血流の乱流パターン例.左右の腕頭静 脈合流部からモザイクパターンを呈している.

ターンも共通していた.3歳未満の児で変動の大きさ のばらつきが少ないのは,乳児,若年幼児では眠剤内 服による睡眠時に記録したためであると思われる.

 新生児や乳幼児においては,chest wallを構成する 骨の骨化が不十分であるためchest wallは柔軟であ

り,chest wallコンプライアンス/肺コンプライアンス

(Ccw/Cl)が高い9).このため,機能的残気量が低く,

気動や肺胞の開存を確保できない.そのため乳幼児で は,呼気相における声門の狭小化川,短い呼吸時間およ び長い呼気時定数 1),呼気筋の持続的緊張12)により,機i 能的残気量を維持している.これらの要因により,乳 幼児と年長児では呼吸パターンに違いはあるものの,

胸腔内圧の変動には差がないと考えられた.

(5)

112−(6) 日本小児循環器学会雑誌 第11巻 第2号

 本研究により,健常小児における上大静脈の正常血 流パターンが明らかになった.上大静脈の血流パター

ンを記録することにより,肺疾患や心疾患の病態を明 らかにできる可能性があり,今後検討すべき課題であ ると思われた.

      文  献

  1)Waxler L, Bergel DH, Gabe IT, Makin GS,

    Mills CJ:Velocity of blood flow in normal     human venae cavae. Circ Res l968;23:349−

    359

  2)Kalmanson D, Veyrat C, Chiche P:Venous     return disturbance induced arrhythmias. Car−

    diovas Res 1970;4:279 290

  3)Kallnanson D, Veyret C, Chiche P: Atrial     versus ventricular contribution in determining     systolic verlous return. Cardiovasc Res 1978;5:

    293−302

  4)里見元義:心臓超音波アトラスー小児,胎児編.ベ     クトルコア,1991,p51

  5)斉藤勇三,鶴田育男,向山茂雄,前田達郎,田村康     二:上大静脈血流波形の部位による変化.超音波     医学 1991;18:40−44

  6)井内和幸,中村由紀夫,石川忠夫,星野謙介:重症

  陳旧性心筋梗塞例における上大静脈血流速度の呼   吸性変動.日心臓会誌 1988;18:99 104

7)森 一博,鎌田政博,土肥嗣明,清野佳紀,山本裕   子:日小児会誌 1992;96:1882−1892

8)Cohen ML, Cohen BS, Kronzon I, Lighty GW,

  Winer HE:Superior vena caval blood flow   velocities in adults:ADoppler echocardiogra−

  phic study. J Appl Physiol 1986;61:215−219 9)Gerhardt T, Bancalari E二Chestwall compli−

   ance in full−term and premature infants.

   Paediatr Scand 1980;9:359

10)Fischer JT, Mortola Jp, Smith JB, Fox GS,

   Weeks S:Respiration in newborns:Develop−

   ment of the control of breathing. Am Rev    Respir Dis 1982;125:650

1/)Katayama M, Motoyama EK:Respiratory

   mechanics in children under general anesthesia    with and without PEEP. Anesthesiology 1984;

   61:A514

12)Muller N, Volgyesi G, Becker L, Bryan MH,

   Bryan AC:Diaphragmatic muscle tone. J    Appl Physiol Respirat Environ Exerise Physiol    1979;47:279

Analysis of Superior Vena Cava Flow changes by Respiration Kou Ichihashi, Yu Hoshina, Hiroshi Igarashi, Yutaka kikuchi, Hideki Endo,

  Toshihiro Kuramatsu, Hirohiko Shiraishi and Masayoshi Yanagisawa

       Department of Pediatrics, Jichi Medical School

   We studied superior vena cava flow velocity patterns and the influence by respiration in 32 normal children with pulsed Doppler echocardiography.

   The velocity of systolic wave(S)is always superior than that of diastolic wave(D). During inspiration, S and D increase significantly compared with the values during expiration. The increasing rate of D is greater than that of S. S and D decrease according to the increase of age.

There are no differences of respiratory changes between different age groups.

   This study defined the normal flow velocity patterns of SVC. And there are no differences of intrathoracic pressure between different age groups in spite of different respiratory patterns.

参照

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上大静脈 大動脈弓 肺動脈幹 心尖部 腕頭動脈 右肺動脈 上行大動脈 右肺静脈 右心房 右心室 右冠状動脈 (右冠状溝を走る) 前心静脈

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