1
具体例からの準備
(2011
年
1月
26日更新)
関数解析では、適切な条件を満たす関数全体が作るベクトル空間
X(「関数空間」と呼ぶ)を考え, 関数
x ∈ Xを一つのベクトルとみなす.そして,その「ベクトルの長 さ」を「ノルム」と呼ばれる量で測る
(詳しくは2.1節参照). そうした抽象論を述べる 前にまず微積分学やルべーグ積分論の関連事項を復習しよう. 実はここでの復習が, 微 積分学やルべーグ積分論から関数解析への橋渡しになると同時に, 関数解析の抽象論に 重要な具体例を提供する.
記号に関する注意:関数を
f, g, ...等の記号で表し,その変数を
x, y, ...等の記号で表す ことが一般的だが,以下では関数解析の習慣に従って関数を
x, y, ...等の記号で表し,
その変数を
s, t, ...等の記号で表すことが多い.これは,関数解析が関数空間に属する関 数個々の特性をあまり気にせず,単に「関数空間の一点」と見ることの反映でもある.
1.1
一様収束・ワイエルシュトラスの
M-テスト定義
1.1.1 Sを集合,
x, xn, n= 0,1, ...は
S上の複素数値関数とする。
I S
上の一様ノルム
(uniform norm)を次で定める
7:
∥x∥S = sup
s∈S
|x(s)|. (1.1)
定義から明らかなように,以下が成立する:
∥x∥S = 0 ⇐⇒ x≡0,
∥x1+x2∥S ≤ ∥x1∥S+∥x2∥S, c∈C
に対し
∥cx∥S =|c|∥x∥S.
(1.2)
I lim
n ∥xn−x∥S = 0
なら,
xnは
xに
S上一様収束する
(converge uniformly)と言う.
注:
1)記号は定義
1.1.1通りとする.全ての
s ∈ Sに対し
limn xn(s) = x(s)
なら
xnは
xに
(S上) 各点収束する(converge pointwise)と言う。s
∈Sに対し
|xn(s)−x(s)| ≤∥xn−x∥S.
よって
一様収束
=⇒各点収束.
(1.3) 2)数列の収束
cn →cは
|cn−c| →0と同値. 従って, 標語的に次の対応がある:
「数列の収束」に対する絶対値
←→「関数列の一様収束」に対する一様ノルム 問
1.1.1 s∈[0,1],xn(s) =sn, x(s)def.={
0, s∈[0,1)
1, s= 1.
とする。以下を示せ:
i)xn
は
[0,1]上
xに各点収束するが一様収束しない.
ii)0< δ <1
なら、x
nは
[0, δ]上
xに一様収束する。
7∥x∥S =∞
の場合も含める.
次の定理は関数項級数が一様収束するための十分条件を与える:
定理
1.1.2 (ワイエルシュトラスの M-テスト8) Sを集合、y
n :S−→C(n
∈N),∑∞ n=0
∥yn∥S <∞
とする. このとき, 関数項級数
x=∑∞n=0yn
は
Sの各点で絶対収束し,
Nlim→∞
x−
∑N n=0
yn S
= 0.
証明:全ての
s ∈ Sに対し
∑∞n=0|yn(s)| ≤ ∑∞
n=0∥yn∥S.
よって
∥∑∞n=0|yn|∥S ≤
∑∞
n=0∥yn∥S.
以上から、全ての
s ∈Sに対し
1)∑∞ n=0
|yn(s)| ≤
∑∞ n=0
|yn|
S
≤
∑∞ n=0
∥yn∥S. 1)
より
x=∑∞n=0yn
は
Sの各点で絶対収束する。また、
x−
∑N n=0
yn S
=
∑∞ n=N+1
yn S
≤
∑∞ n=N+1
|yn|
S
≤1)
∑∞ n=N+1
∥yn∥S.
仮定より、上式右辺
→ 0 (N → ∞). 2注:定義
1.1.1の直後に述べた対応関係:
数列の収束に対する絶対値
←→関数列の一様収束に対する一様ノルム に即して言うと, 数列に関し, 「絶対収束級数は収束する」ことに対応するのがワイエ ルシュトラス の
M-テストである.数列に関し, 絶対収束級数の収束は実数の完備性と 等価であるように、実はワイエルシュトラスの
M-テストは一様ノルムの完備性と等価である(命題
2.3.2,例
2.3.4参照)。
1.1
節への補足:
定義
1.1.3 S ⊂Rd, x, xn, n = 0,1, ...は
S上の関数とする。
I
全てのコンパクト集合
K ⊂Sに対し
limn ∥xn−x∥K = 0
なら、
(xn)は
xに
(S上) 局所一様収束する(converge locally uniformly)、或いは 広義 一様収束(converge uniformly in wider sense)と言う。全ての
s∈Sに対し
K ={s}はコンパクト、また、全ての部分集合
K ⊂Sに対し
∥xn−x∥K ≤ ∥xn−x∥S
なので、
一様収束
=⇒局所一様収束
=⇒各点収束.
(1.4)8Karl Weierstrass (1815—97).
問
1.1.2 x, xn, y(n∈N)は
Rd上の有界関数で、
xn→x(Rd上局所一様)、
lim|s|→∞y(s) = 0
とする。このとき、x
ny→xy ( Rd上一様) を示せ。
連続関数列
xnが
xに各点収束しても、x は連続とは限らない(問
1.1.1)。所が、局所一様収束すれば
xの連続性が保証される:
定理
1.1.4 S ⊂ Rd, xn ∈ C(S), n = 0,1, ...が
x : S −→ Cに局所一様収束すれば、
x∈C(S).
証明:
sn, s∈S,sn −→sとし、x(s
n)−→x(s)を言えばよい。任意の
m, n∈Nに対し
|x(sn)−x(s)| ≤ ||x(sn)−{zxm(sn)}|
(1)
+||xm(sn){z−xm(s)}|
(2)
+||xm(s){z−x(s)}|
(3)
.
K def.= {sn}n≥0 ∪ {s}
はコンパクトである。x
n −→x (局所一様)より
(∗) ∀ε >0, ∃m∈N, ∥x−xm∥K < ε/3,従って、(
∗)の
mに対し
(1) + (3)<2·ε/3.
一方、(
∗)の
mに対し
xm ∈C(S)より
∃n0 ∈N, ∀n ≥n0, (2)< ε/3.
以上より
∀n≥n0に対し
(1) + (2) + (3)< ε. 21.2 Lp-
空間
(S,A, µ)
を測度空間とする。
定義
1.2.1 0 < p ≤ ∞とする。S 上
µ-a.e.で定義された複素数値可測関数全体を
M(S →C)で表す.更に
x∈M(S →C)で、∥
x∥p <∞なるもの全体を
Lp(µ)と記す、
ここで
∥x∥p =
{ (∫ |x(s)|pdµ(s))1/p
, 0< p <∞
のとき,
inf{λ∈R;|x(s)| ≤λ, µ-a.e.s}, p=∞
のとき, 但し
inf∅=∞. (1.5) Lp(µ)の元を
p-乗可積分関数と呼ぶ。またp≥1のとき
∥x∥pを
xの
Lp-ノルムと言う。
x, y ∈Lp(µ),x=y,µ-a.e.
なら
x, yは
Lp(µ)の元として
“同じ”と考え同一視する9。
D.
ヒルベルトは積分方程式の研究の中で
L2-空間 (より正確には、ℓ2空間:例
1.2.3参照) を導入した
(1904年)
10 . 1 ≤ p ≤ ∞に対する
Lp-空間はF.リースが導入した
(1910
年)
11.これらの空間は、現在でも最も基本的な関数空間として応用されている。
9
より形式的に言えば、L
p(µ)は
“x=y,µ-a.e.”という同値関係による、関数の同値類と考える。10David Hilbert (1862–1943)
11Frigyes Riesz (1880–1956)
ハンガリーの数学者
問
1.2.1 x∈M(S →C), 0< p≤ ∞とする。以下を示せ:
(i)∥x∥p = 0 ⇐⇒x= 0, µ-a.e.
(ii) 0< q <∞
なら
∥x∥qp =∥|x|q∥p/q.問
1.2.2 x, y ∈M(S →C), 0< p≤ ∞とする。以下を示せ:
(i)|x| ≤ ∥x∥∞,µ-a.e.
(ii) ∥xy∥p ≤ ∥x∥∞∥y∥p,
但し、右辺で、
0と
∞の積は
0とする。
(iii) ∥x+y∥∞≤ ∥x∥∞+∥y∥∞.
問
1.2.3 (⋆) x∈M(S →C)に対し
∥x∥q <∞となる
q∈(0,∞)の存在を仮定すると き、
limp↗∞∥x∥p =∥x∥∞
を示せ。
例
1.2.2 S ⊂Rdをルべーグ可測集合、µ を
S上のルべーグ測度とする。このときの
Lp(µ)
を
Lp(S)と記す。
例
1.2.3 Sを高々可算集合、
µを
S上の個数測度とする。このときの
Lp(µ)を
ℓp(S)と記す。
次の定理で述べるヘルダーの不等式
12と三角不等式は、今後繰り返し用いられる:
定理
1.2.4 p, q ∈ [1,∞], 1p + 1q = 1, x, y ∈ M(S → C)とする
(∞1 = 0).このとき以下 が成立する:
∥xy∥1 ≤ ∥x∥p∥y∥q (
ヘルダーの不等式
) (1.6)∥x+y∥p ≤ ∥x∥p+∥y∥p (三角不等式) (1.7)
但し、(1.6) 右辺で、
0と
∞の積は
0とする.
証明:(1.6): (p, q) = (1,
∞),(∞,1)の場合は既知(問
1.2.2)だからp, q <∞とする。
まず次の初等的不等式(問
1.2.4)に注意:1) a, b≥0
に対し
ab≤ap/p+bq/q,等号成立
⇐⇒ap =bq.(a, b) = (|x(s)|,|y(s)|)
に
1)を適用し、その後両辺を積分すれば次が判る
(問 1.2.1に も注意):
2) ∥xy∥1 ≤ ∥x∥pp/p+∥y∥qq/q.
C = ∥x∥p∥y∥q
とする。C
= ∞なら
(1.6)は自明。C
= 0なら
x = 0, µ-a.e.また は
y = 0, µ-a.e.なので
(1.6)の両辺=0. そこで
C ∈ (0,∞)を仮定する。このと き、∥
x∥p,∥y∥p ∈ (0,∞)だから
xe= x/∥x∥p, ye= y/∥y∥qとおくと、∥e
x∥pp =∥ey∥qq = 1.従って、
C−1∥xy∥1 =∥exey∥1
≤2) 1
p∥ex∥pp+ 1
q∥ey∥qq = 1 p+ 1
q = 1
両辺に
Cを乗じ
(1.6)を得る。
(1.7): p=∞
なら既知(問
1.2.2)。以下、 1≤p <∞,z =|x+y|とし、次の
(3),(4)を示す:
12Otto H¨older (1859–1937).
ヘルダーの不等式を数列の場合に示した
(1889年). 積分の場合への拡張
は
F.リースによる
(1910).3) ∥z∥pp ≤2p−1(∥x∥pp+∥y∥pp), 4) ∥z∥pp ≤(∥x∥p+∥y∥p)∥z∥pp−1.
これらから
(1.7)が出る。実際、∥
x∥p+∥y∥p =∞なら
(1.7)は自明。また
∥x∥p+∥y∥p <∞
なら
3)より
∥z∥p < ∞.従って
4)の両辺を
∥z∥pp−1で割れば
(1.7)を得る。なお、
p= 1
なら
3)は
(1.7)そのもの。
3)
の証明: 次の初等的不等式(問
1.2.4)に注意:5) a, b∈C
に対し
|a+b|p ≤2p−1(|a|p+|b|p)(a, b) = (x(s), y(s))
に対し
5)を適用し、その後両辺を積分すれば
3)を得る。従って この段階で
p= 1に対する
(1.7)は示せた。
4)
の証明: 次に注意;
∥z∥pp =∥zp∥1 =∥z·zp−1∥1 ≤ ∥xzp−1∥1+∥yzp−1∥1
更に
∥zp−1∥q =∥z∥pp−1 (q=p/(p−1)と問
1.2.1による)。故に
∥xzp−1∥1 +∥yzp−1∥1
ヘルダー≤ ∥x∥p∥zp−1∥q+∥y∥p∥zp−1∥q = (∥x∥p+∥y∥p)∥z∥pp−1.
2
注: 定理
1.2.4は簡単のために
x, y ∈M(S →C)に対して述べたが例えば
x, y ∈M(S → (−∞,∞])等の場合にも成立することは証明から明かである.
ヘルダーの不等式の
p = q = 2の場合は シュワルツの不等式、或いは コーシー ・ シュワルツの不等式と呼ばれる
13.三角不等式
(1.7)をミンコウスキの不等式と呼ぶこ ともある.
14問
1.2.4定理
1.2.4証明中の不等式
1),5)を示せ。
問
1.2.5 1≤p < q ≤ ∞とする。以下を示せ:
(i)∥x∥p ≤ ∥x∥qµ(S)1p−1q.
従って、µ(S)
<∞なら
Lq(µ)⊂Lp(µ).(ii) Lq([0,1]) ⊂Lp([0,1])
かつ等号は不成立。
問
1.2.6 1≤p < q ≤ ∞,また
µは
N上の個数測度とする。以下を示せ:
i)∥x∥q≤ ∥x∥p.
ii)ℓp(N)⊂ℓq(N)
かつ等号は不成立。
問
1.2.7 1≤p < q ≤ ∞とする。L
p(R)\Lq(R)̸=∅, Lq(R)\Lp(R)̸=∅を示せ。
13
ここでのシュワルツ は
Herman A. Schwarz (1843–1921)で、超関数理論で有名な
Laurent Schwartz (1915–2002)とは別人(綴り字中の
“t”の有無にも注意).
14Hermann Minkowski (1864–1909).
論文
“Geometrie der Zahlen”(1896)の中で、有限和の場合の三
角不等式を示した。三角不等式の積分の場合への拡張は
F.リースによる
(1910年)。
問
1.2.8 (⋆) 1 < p <∞とする。ヘルダーの不等式
(1.6)で等号が成立し、かつ両辺 が正の有限値なら、|
x|p/∥x∥pp =|y|q/∥y∥qq,µ-a.e.であることを示せ。
問
1.2.9 (⋆)ヘルダーの不等式を用い、次の(更に一般的な)不等式を示せ:
p, q, r∈[1,∞], 1p + 1q = 1r, x, y ∈M(S →C)
に対し
∥xy∥r ≤ ∥x∥p∥y∥q.問
1.2.10 (⋆)次を示せ;1
≤p < r < q ≤ ∞, θ = (1r − 1q)/(1p − 1q)とすると、任意の
x∈M(S→C)に対し
∥x∥r ≤ ∥x∥θp∥x∥1q−θ.従って
∩p≤s≤qLs(µ) = Lp(µ)∩Lq(µ).
次に述べるように,
Lpノルムでもワイエルシュトラス の
M-テスト (定理 1.1.2)に対応 する事実がある. これは、実は
Lp空間の完備性(例
2.3.5)を意味する:定理
1.2.5 p∈[1,∞],{yn}n∈N ⊂Lp(µ),∑
n≥0
∥yn∥p <∞
とする. このとき関数項級数
x=∑∞n=0yn
は
µ-a.e.で絶対収束し,
x∈Lp(µ).更に
limN→∞
x−
∑N n=0
yn p
= 0.
証明:
p=∞の場合は定理
1.1.2と同様なので
p < ∞とする。
1)
∑
n≥0
|yn|
p
単調収束定理
= lim
N↗∞
∑N n=0
|yn|
p
三角不等式
≤ lim
N↗∞
∑N n=0
∥yn∥p =∑
n≥0
∥yn∥p <∞.
従って
∑n≥0
|yn|<∞, µ-a.e.
つまり
x=∑∞n=0yn
は
µ-a.e.で絶対収束し,
x∈Lp(µ).ま た
x−∑Nn=0yn≤∑∞
n=N+1|yn|
と
1)より
x−
∑N n=1
yn
p
≤
∑∞ n=N+1
∥yn∥p
N−→→∞0.
2