加熱による角関石の光学的変化と土器焼成温度
著者 増島 淳
雑誌名 静岡地学
巻 100
ページ 51‑59
発行年 2009‑11‑21
出版者 静岡県地学会
URL http://doi.org/10.14945/00024765
静 開 地 学 第
1 0 0
号 (2 0 0 9 )
増
し 毘 的
1 9 7 0
年代,私は静大農学部加藤芳郎先生(本会元会長)の研究室へ通い,テフラや土器に合まれて いる砂粒鉱物の問定指導を受けていた.ある時先生は一つの論文を示し,r
緑色の普通角関石は,6 0 0
0C
で加熱すると褐色角関芯に変化する.8 0 0
0C
では赤色の酸化角閃芯に変化するJ
事を教示され た.さらに酸化角関石では消光角もおよそ鹿沼光に変化する.この変化を利用すれば「土器の焼成温 度が推定できるJ
事を示唆された.早速数種類の試料を電気炉で焼いていただき,論文の内容を確認した.しかし,当持はこの研究を進める環境に無く
3 0
年以上が経過した.2 0
昨年,現在の職場に就職し,改めて文献を確認したが,この種の研究は殆ど行われていないこと を知った.そこで,勤務先の電気炉を使い,私がフィー ルドとする地域内で採集した角関石を含む河川 砂や岩石等を加熱し,加熱温度の違いによる角 関石の光学的変化をまとめ,土器に含まれている (縄文土器や弥生土器など厚手の土器には,砂粒 子が 20~30% 浪入されている)角閃石の特徴 と比較し,土器焼成温度(焼成時に,土器が一 定時間保った最高温度)を推定することにした.
2 .
方法1.指定温度継続時間と
400 52
500 52 600 50 650 45
700 48
750 44
800 44
30
417 509 603 652 701 751 802 1,001
私は静岡県東部・神奈川県・山梨県から出土した土器を中心に分析している.同地域から出土する 土器の大部分は,蛍光X線分析結果からフォッサマグナ糸魚川‑静岡構造線の東側に産地を持つこと を確認した(池谷・増島,
2 0 0 9 ).
土器に混入している砂粒子は,河川等の堆積物である(増島,
1 9 9 5 ) .
そこで加熱実験試料は,本地 域内の角閃石を含む河川砂と岩石類に絞った.( 1
)加熱実験試料:河川砂は,水洗い後,簡い分けし 106~250μm の砂粒子を抽出し,10%
塩 酸 で 1~2 回煮沸クリーニングした.岩石や軽石はハンマーで粉砕後,乳鉢で磨りつぶし,砂状にして から同様な作業を行った.沼津市教育委員会
51‑
られた砂粒試料はルツボ、に入れ,
r
光洋サーモシステム社製の11500Cボックス炉KBF828N1J, 4000C ‑‑‑1000 oC (表1)の8段階の指定した温度で1時間加熱した.
冷却後,カナダパルサムとキシレンの混液で加熱封入し, 100倍の鉱物顕微鏡で角関石の光学的特 (色と消光角)を観察した.
(2) :土器片約10グラムを乳鉢で粉砕し9 加熱実験試料と同様な方法でプレパラートを作 り検鏡した。
加熱温度の下限を4000Cとしたのは,
r
土器の野焼き実験Jで土器が完成する 4種類の粘土でテストピースを作り,それぞれ3000C. 4000C . 5000Cで4時間加熱した後,水漬けすると, 3000Cの試料は 溶け崩れるが, 4000C以上では原形を保つからである.
加熱時間を 1時間としたのは,現存する「土器作り いるからである 1980;青柳@関崎, 1981).
3闘
(1 )試料について:河川砂は 閃石を含む関緑岩等の風化物 が堆積している可能性が高い8 地点で採集した(図 1) .御勅 使]11と荒]11• 昇1LÙ 峡では角関石 が確認できなかった.釜無
J I I
で は閃緑岩(花局関緑岩)を,酒 匂J I I
ではトーナル岩を開時に採した.
県東部地域の諸河川で検出さ れる角閃石はカワプ平パミス
(以後KgPと略す)か,
の凝灰岩起源なので直接これを 試料とした@
KgPは沼津市@原の中 跡で砂諜ナ1"上に漂着している 径約20cmのパミスを用い ・
凝灰岩は,修善寺以北の各地 白浜層群に属するもの し(増島, 2008),角
が最も多い沼津市・大平・横松 公民館脇の露頭で得た江ノ浦凝
の土器焼成時間は 1時間程度とされて
灰岩中の白 を用いた. 図1 試料の採集地点と珪長欝潔成岩類の分布域@
100号 (2009 )
(2) と ,
8
∞ ℃ 以 下 で 分以上である.5000C以下では短時間だが指定温度を上田る割合が大きい.6000C以上では,
程度である(表1).
(3)角関石の色変化:鉱物の色は薄片で確認するのが普通だが,砂粒子の色を夜接観察した.
があるので色合いは,やや濃色に偏る.
に角関石を検鏡すると,加熱温度の違いによる色変化は連続的で区別しにくい.
は「緑色
J .
結品の縦位置で縁色を横位置で褐色を呈すものは「褐総色」とした.褐色 焦、げ茶色は「褐色
J .
赤褐色 褐赤色は「褐赤色J
とした.10000C
では鮮赤色を呈すが,便宜上「褐赤色」に含め1'‑•試料毎に,室温‑‑‑l,
O O O
oC
の9検体,合計72検体で角関石6,265を鑑定した.けたグラフ(図2) と, KgPと凝灰岩を除いた非火山起源角関石の平均値を示し
100
君
。
60 40
20
。
% 100 80 60 40 20 O
KgP
品吋仰向指媛111
‑ , 窃 匂JII
締時・・認E方位JiI 凶 i一時一滋掛け
一寸一節制iI e書士JiI 60 I ̲略ートナIL器
一念‑B..i説法 40 Iー ト ド ポ
一也ー絞灰岩 20
.(:r .議事許1雲jトjー か
o
は色ごとに分 (関3).
室温 400 500 600 650 700 750 窓議 400 500 600 650 70日 750 800 1 OOO.C
図2.加熱温度の遣いによる、角関石の色変化(色別)
KgPと凝灰岩には縁色角関石が認められない.
噴出時に酸化変色したのだろう.再試料中の角 関石の光学的特徴から,噴出時の温度が推定で
き可能性がある.
河川砂や深成岩試料は,室温と4000Cでは緑 色角閃石が卓越する.5000Cでは褐緑色角閃石が 増加する.600uCでは総色角閃石は激減し,褐色 角関石が増加する.650 oC ‑‑‑700 oCでは殆どが褐 色角関石になる.7500Cでは大部分が, 8000Cで
% 100
言
。
60
40
20
O
室温 400 500 600 650 700 750 800
鼠3.非火山起源角関石の色変化(平均倍)
‑53‑
は殆ど全てが褐赤色角関石に変化する.
宮)11試料には低温でも褐色・褐赤色角関石が 認められるが,自形を示す事からチフラ起源と 思われる,釜無)11(閃緑岩も含む) .笛吹)11•
i
で採集した角閃石の多くは濃色で,になり,色の識別が困難である.結晶 縁の薄い部分を観察した.
(ヰ)消光角の変化:普通角関石は単斜品系 に属し,消光角c
^
13 '"'‑' 340,b= Y
である国, 1968).
はプレパラート内で立体的に任意の方向 を向き間定されているので,見かけ上直消光す る粒子もある.前記したように酸化角閃石は,
およそ底消光するとされている.消光角の測定 は「斜消光
J I
直消光J
に分け,結品の伸長方 向あるいは,へき開が,縦横共に十字線とした時に消光する場合を鹿沼光とした.
各試料の直消光する角関石の割合(率)は,
温'"'‑'6000Cでは10'"'‑'20%程度.650oC'"'‑'700oC では40'"'‑'60%程度.750'"'‑' 1.000
O c
では80%以上で,どの試料も共通している(関心.
光学的変化は, 6500Cと7500Cで顕著に現れ る.加熱温度と角閃石の色,および直消光率の 関係を表2にまとめた.
(5)光学的変化に饗する時間:釜無)11, ト ーナル岩, KgP,凝灰岩試料を7500Cで時間を 変えて加熱し (5・15・30・45分),光学的変化が どの様に進行するのか確認した(図5,6).褐 色から掲赤色への色変化と, 80%以上が直消 光する消光角変化は, 15分で急激に進行し,
30分でおよそ完了する (KgPの色変化は緩や かである).
4.土器試料の加熱実験結果
(1 )土器の加熱実験:土器を加熱し,角閃 石の光学的変化を確認した.試料は静岡・山
% 1∞
80 「コ王石高
/
/'"¥ 一念‑800
、、 j‑忍‑750
40
‑e:r:‑7日。 一心‑650 一→‑6日8
20i‑‑‑"ヤ¥ /ぷて
‑x‑5自0
緩ゑーー ‑TF 胃、九『、四回幽‑"ハ‑……‑‑時世A田F一:.‑;F、 、下b j 一報ー400 一φ-~室温
O 関
川縁 岩 } { ナ
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凝 灰 岩
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門戸
葱 士 川 笛 吹 川 釜幾 川川 宮 川 滋 匂
M川
何回診穴け円
閤4 各加熱温度における、直消光する角関石の 割合(%)
2.加熱温度と角関あの色@直消光率の関銀
% 100 80 60 40 20 O
図5.加熱時間と褐赤色角関石翠の関係
% 100
sコ
60 40 20 O
函&加熱時間と麗消光する角関石壌の関様
1 0 0
号 (2 0 0 9 )
3掴加熱実験試料土器の検鏡結果 No
Nol
No2
大磯町
No3 曽利軍
大磯町
No4
No5
No6
厚木市 No7 加曽利横 林
E4
沼津市 No8 丸 尾
曽和V 連八紋
笛吹市 No9 釈迦堂 曽和I
1 22
笛吹市 NolO釈 迦 堂 曽利E
‑55‑
。神奈川県の遺跡から出土した縄文中期土器
1 0
るのためラ焼成温度は比較 的 低 く , 火 の 回 り は 均 ー で は な い @ 縄 文 土 器 394点の検鏡結果では,直消光する角閃石の割 合 が80%を超える個体は7点しかなくラ褐赤色 閃石だけを含む{国体は 1点もないーそこでラ 加熱実験の上限温度を8000
Cとした@
土器の焼成温度が不均一な事は,褐赤色角関 を合む土器(非加熱)に褐緑色角関石が同時 に荏在する らも きる
以下にラ非加熱土器に含まれている角関石の ア)と参加熱による車消光率の変化(留 8)から,各土器の焼成温度を推定する.
N o s .
l.2 . 5 . 6 . 1 0
ま 非加熱‑‑‑‑600 OCの試料が? 20%程度でる ら,焼成温度は 500~6000C である@
NO.3は
, 500 • 600
焼成温度は600‑‑‑750
o c
い温度)である@
試科が直泊光率20
400 ‑‑‑500
o c
である.く不正確である.
し
じ
,非加熱 ~6000C の
なる事からヲ焼成
Nos ヱ
8は非加熱‑‑‑7000Cの試料がおよ り,直治率が50%以上有り,掲赤色角関石
ことからラ 8000
Cに達している@
るがラ
6500
C以 上 歩 一 部 は
関石のみからなりラ く不正確で、ある@
生角関石の光学的変化による ンク分け
100誌
80誌 60誌
40覧 20協
。 誌
10% 0 r‑
i可 。 司 令2ト')03ト104 N06 [¥]07 f¥l08 トiむ日 ¥f011O
44 100 49 97 58 103
図工
f¥lo 1 ¥f102 f¥l03 [¥]04 f¥l06 f¥lo 7 43 343 432 436 365 194
関&加熱こと器中の角関石の直消光率変化
ランク C
B A
20 を で多焼成温度は低いと思われ
まれている角関石の光学的特徴からヲ土器焼成温度をラ ンク分けした
ランクCは, 600
v c
以下の比較的低温焼成。ランクBは, 600 ‑‑‑‑750u c
の中温焼成。ランクAは, 650~8000C 程度の高温焼成である@
第
1 0 0
号 (2 0 0 9 )
i 土器競成温度かち判ること
焼成温度を知ることで伺が判るのか,山梨県 笛吹市の釈迦堂遺跡、(千点を超す土偶の 跡として全国的 国1)の分析結果を鰐 示する.
試料は縄文早期末(約
6
.20 0
年前)から後期前 半(約3,8 0 0
年前)までの131 4 5
点 式 10~15 点)である.二千数百年間 で使用された土器の変化色他手法で1ω翠
議
誌
40翠
禁
。 誌
奪実すヰ養生)10 10 10 11
析結果も加え,自然科学的視点からまとめる. 間9.
14 13 10 10 10 日 15 10
製式到の焼成温度ランク分け
(1 )焼成温度:土器型式別に,土器焼成温度を A‑‑‑Cランクで表した(図9).神ノ木台式(早期 末)から曽和五式(中期中半)までは,低・中温焼成土器 (B. Cランク)が大部分を占める.曽利 謹式(中期後半)以降は高温焼成土器 (Aランク)が増加し,その傾向は堀之内式(後期)まで続く.
(2)霊鉱物組成:各企器に含まれているOpX.,cpx, hoで三角図を作製した(国
1 0 ) .
遺跡は笛吹 )11に接する溺状地に立地する.遺跡付近で土器を作れば,笛吹)11の砂を混入するだろう.笛吹)11の鉱 物組成も公印で三角間上に示した.神ノ木台式は三角図上で分散している.諸磯式(前期)から曽利N式(中期後半)および塘之内式 (後期前半)は,約
90%
が笛吹)11の鉱物組成と一致する.曽利 V式(中期末)は笛吹)11の砂を使用した土器が,
1 5
点中2
点と少なく,鉱物組成は八ヶ岳南・井戸尻遺跡土器と似ている(増島,
1 9 9 5 ) .
opx
ho 響 詩 磯 式
ム
ゑ 諸 沢 式
C井戸尻式 営手IjI式 習字IJII式 営手IJm式 堀之内式 苔 吹)11
打。
国10.釈迦堂遺跡土器、主要3鉱物による三角図(左図は神ノ木台@麓利V式を捺いたもの)
(3)蛍光X縁分析:土器の元素組成からラ産地が糸魚、)1ト静間構造線の東西どちら側にあるのか推 定した(国11).
諸磯式から曽利N式および堀之内式は,大部分が判別図上でーヶ所に集中している.神ノ木台式は
‑57‑
O 10白。
@フォッサマヅナの東関.IJ763 フかッサマタナの西側738 O神ノ木台式
義勢神ノ木台・曽季IJV式以外 曽手IJV式
令)¥ケ岳山麓・替手IJV式
図村副土器の元素組成から見た、釈迦堂遺跡の特徴
非常に分散している.曽利V式はフォッサマグナ東西領域の境界付近
( 1
糸・静線」は釜無)11を通る) に位置する個体が多く,八ヶ岳山麓遺跡(井戸尻)出土の曽利V式の領域とも重複している.(ヰ)推論遺跡に人が住み始めた神ノ木台式の時期は,未だ完全な定住生活ではなく,各地を移動 したためか,他地域産の土器が日
全世界的な温暖期が継続する縄文前期から中期中半にかけて,土器は遺跡のごく近辺で,同ーの焼 成方法で作られ続けている.この期間は非常に安定した定住生活が営まれていた.まれに外部から搬 入された土器が認められる.
寒冷化が進行する縄文中期後半・曽利直式以降になると,土器の焼成方法が変化し(燃料の樹種が 変化した可能性もある),高温焼成された土器が増加する.
曽利V式では本遺跡産の土器が殆ど無くなる.この時期に八ヶ岳山麓の住民が山を降り,本格的に 移住して来た可能性がある.この人達は,堀之内式期も引き続き高温焼成の技法を用い,遺跡近辺で 土器作りを行った.その後人々は平野部へ移動し,遺跡、は放棄された.
8緩まとめ
粒 径106'"'‑'250μmの角関石の加熱実験により,以下のことが確認できた.
(1 )緑色角閃芯は加熱することにより, 5000Cで褐緑色に変色する粒子が増加し, 6000Cで過半数 が, 6500Cで殆どが褐色に変色する.7500Cでは大部分が, 8000Cでは殆ど全てが褐赤色に変色する.
(2)直消光する角肉おの割合は,室温'"'‑'600
O c
では10'"'‑'20%程度だが, 650 ‑‑‑700o c
では40‑‑‑‑60%に増加し, 750
u c
以上では80%以上になる.静 開 地 学 第 100号 (2009 )
(3) 縄文土器のような素焼きの土器に含まれている角関石の光学的特徴を確認すれば,土器の焼成 温度が推定できる.
(ヰ)素焼きの土器は,土器の焼成温度・重鉱物組成・蛍光X線分析を併用する事により,出土遺跡 について考古学的な手法とは異なった見方で研究できる.
(5) KgPの噴出時の温度は6000C程度と推定され,江ノ浦凝灰岩はKgPと間程度か,やや高い温度 (6500
C
には達していない)と推定される.しかし,噴出物の冷却時間の問題があり,今後の課題であ る.ア鍵終わりに
本研究を進める過程で,角関石は予備知識通りに変色せず,消光角の変化も劇的には起こらず,戸 惑い,結果として3万点を超える角関石を鑑定することになった.
どうにか結果を導き出せたのは,加藤芳郎先生のご指導や,河川砂や岩石試料の採集,貴重な土器 試料の提供などで,沼津市文化財センターの池谷信之氏をはじめとする職員の方々や,釈迦堂遺跡博 の秋山圭子氏など,多くの方々のご助力があったからである.心から感謝しミたします.1:妓 力だが今後も土器の胎土分析を継続して行く所存です.
引用文献
膏梯洋治・岡崎完樹 (1981) :土器の露天焼色季刊民俗学, 15,52四57.
池谷信之・増島 淳 (2009):蛍光X線分析法による縄文土器のフォッサマグ の判別.地域と 学史の考古学,杉山博久先生古希記念論文集刊行会編,41‑64.
(1968) :偏光顕微鏡と岩石鉱物.共立出版, 194p.
増島 淳(1995):静岡県東部地域における縄文土器の作製地について.沼津市博物館紀, 14,21‑48. 増島 淳 (2008):石棺材質調査.原分古墳,静関県埋蔵文化財調査研究所調査報告第184集.79‑90. 森 淳 ( 1980):土器を焼く集落.季刊民俗学, 1 ,1102・113.
‑59‑