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(1)

前 縁 隅 角 部 形 状 に よ る

角 柱 の 空 力 特 性 に 関 す る 研 究

九 州 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

設 計 生 産 工 学 専 攻 博 士 後 期 課 程

(2)

論 文 要 旨

氏 名 河 村 進 一 論 文 題 名 前 縁 隅 角 部 形 状 に よ る 角 柱 の 空 力 特 性 に 関 す る 研 究 橋 梁 の 長 大 化 ,ビ ル の 高 層 化 ,さ ら に 建 設 技 術 の 発 達 に よ る 構 造 物 の 軽 量 化 に よ っ て ,構 造 物 は 可 撓 性 に 富 む 構 造 と な っ て き て い る .そ の た め ,こ れ ら の 構 造 物 が 風 の 作 用 を 受 け た と き ,風 に よ る 振 動 で あ る 空 力 弾 性 振 動 が 発 生 し 易 く な り ,構 造 物 に お け る 耐 風 安 定 性 の 問 題 は ま す ま す 重 要 性 を 増 し て き て い る . 特 に 長 大 橋 の 主 塔 や 高 層 建 築 物 な ど の 塔 状 構 造 物 で は ,断 面 の 辺 長 比 が 比 較 的 小 さ い 矩 形 柱 が 採 用 さ れ る こ と が 多 く ,渦 励 振 や ギ ャ ロ ッ ピ ン グ が 発 生 す る 可 能 性 が 高 い . ま た , こ れ ら の 高 層 構 造 物 で は , そ の 受 風 面 積 が 大 き い こ と , 頂 部 近 傍 の 風 速 が 高 い こ と の た め に , 風 荷 重 も 大 き く な る . 矩 形 柱 で は ,上 流 側 隅 角 部 か ら の 剥 離 を 生 じ る た め ,そ の 空 力 特 性 は 剥 離 点 と な る 隅 角 部 の 形 状 の 違 い に よ っ て 顕 著 に 変 化 す る .従 っ て ,隅 角 部 形 状 を 変 更 し て 剥 離 流 を 制 御 す る こ と は ,風 荷 重 の 低 減 や 空 力 弾 性 振 動 の 抑 制 に 対 し て 効 果 的 な 手 法 で あ る .隅 角 部 形 状 を 変 更 す る 方 法 と し て は ,明 石 海 峡 大 橋 の 主 塔 な ど に 用 い ら れ て い る 隅 角 部 に 隅 欠 き を 設 け る 方 法 ,隅 角 部 を 斜 め に 切 り 落 と し た 形 状 と す る 方 法 ( 隅 切 り ), 隅 角 部 に 丸 み を つ け る 方 法 ( 隅 丸 ) な ど が こ れ ま で に 検 討 さ れ て き て い る . 本 研 究 で は , そ の 中 で も 隅 角 部 に 丸 み を つ け る 方 法 に つ い て 検 討 を 行 っ た . 検 討 を 行 う 上 で は 問 題 を で き る だ け 単 純 に す る こ と が 重 要 で あ る と 考 え ,対 象 と す る モ デ ル を 前 縁 隅 角 部 の み に 曲 率 を 与 え た 二 次 元 角 柱 と し ,角 柱 の 基 本 形 状 を 辺 長 B の 正 方 形 ,隅 角 部 の 曲 率 半 径 を R と し て ,R / B を パ ラ メ ー タ ー と し て 検 討 を 行 っ た . ま た , 実 構 造 物 へ の 適 用 を 考 え る と , R / B を 大 き く し 過 ぎ る こ と は 得 策 で は な い と 考 え ら れ る が ,本 研 究 を 前 縁 隅 角 部 の 曲 率 に よ る 空 力 特 性 に 関 す る 基 礎 的 研 究 と し て 位 置 付 け ,R / B を 0 ~ 0 . 5 ま で 変 化 さ せ て ,風 洞 実 験 と 数 値 流 体 解 析 の 両 面 か ら R / B に よ る 制 振 効 果 等 に 関 す る メ カ ニ ズ ム の 検 討 を 行 っ た . 以 下 に 本 論 文 の 内 容 を 示 す . 第 1 章 は 序 論 で あ り ,塔 状 構 造 物 の 大 型 化 に よ っ て 問 題 と な る 風 に よ る 構 造 物 の 振 動 お よ び 風 荷 重 の 増 加 に つ い て 触 れ ,構 造 物 断 面 の 隅 角 部 形 状 を 変 更 す る こ と の 有 効 性 を 示 し た .

(3)

性 振 動 と そ の 特 徴 お よ び 制 振 対 策 に つ い て 述 べ ,塔 状 構 造 物 の 隅 角 部 形 状 の 変 更 に よ る 流 体 力 学 的 パ ッ シ ブ 制 振 法 に 関 し て 展 望 す る . 第 3 章 で は , 本 研 究 で 使 用 し た 数 値 流 体 解 析 法 に つ い て 述 べ る . ま ず , ブ ラ フ ボ デ ィ の 空 力 特 性 に 数 値 流 体 解 析 を 適 用 す る 上 で の 問 題 点 に つ い て 触 れ る . そ の 問 題 点 を 踏 ま え た 上 で ,本 研 究 で の 数 値 流 体 解 析 に お け る 方 針 を 示 し ,使 用 し た 解 析 手 法 に つ い て 具 体 的 に 述 べ る . 第 4 章 は ,前 縁 に 曲 率 を 持 つ 角 柱 の 静 的 空 気 力 の 特 性 に つ い て の 検 討 で あ る . ま ず , R / B と 迎 角 を 変 化 さ せ て 揚 力 , 抗 力 , 空 力 モ ー メ ン ト を 測 定 し , こ れ ら の 静 的 空 気 力 特 性 に つ い て 考 察 し た . そ の 結 果 , R / B の 増 大 に よ っ て 抗 力 係 数 が 大 幅 に 低 下 し ,R / B = 0 . 1 と し た 場 合 で も ,R / B = 0 の 正 方 形 角 柱 よ り も 2 0 % 低 減 す る こ と , R / B ≦ 0 . 4 で は , 迎 角 0 ° に お け る 揚 力 係 数 の 勾 配 が 負 で あ り , 準 定 常 理 論 か ら 判 断 す る と ,ギ ャ ロ ッ ピ ン グ に 対 し て 空 力 的 に 不 安 定 で あ る こ と を 示 し た . そ こ で , 迎 角 0 ° に つ い て 詳 細 に 検 討 す る た め に 定 常 表 面 圧 力 の 測 定 を 行 っ た . そ の 結 果 , R / B = 0 . 2 で 平 均 圧 力 分 布 形 状 が 完 全 剥 離 型 か ら 再 付 着 型 に 変 化 し ,そ れ に 対 応 し て ス ト ロ ー ハ ル 数 が 顕 著 に 変 化 す る こ と か ら ,表 面 剥 離 現 象 の 臨 界 形 状 が R / B = 0 . 2 で あ る こ と を 示 し た .ま た ,数 値 流 体 解 析 に よ る 可 視 化 を 行 い ,剥 離 せ ん 断 境 界 層 を 含 む 角 柱 近 傍 の 流 れ に 変 化 が 表 れ る こ と を 確 認 し た . 第 5 章 で は ,前 縁 に 曲 率 を 持 つ 角 柱 の 動 的 な 特 性 を 検 討 す る た め に ,鉛 直 1 自 由 度 応 答 実 験 お よ び 強 制 加 振 法 に よ る 非 定 常 表 面 圧 力 の 測 定 を 行 っ た .こ れ ら の 結 果 か ら , 測 定 し た 換 算 風 速 域 Vr ≧ 3 0 に お い て , R / B ≦ 0 . 2 で は ギ ャ ロ ッ ピ ン グ が 発 生 す る が ,R / B ≧ 0 . 3 で は ギ ャ ロ ッ ピ ン グ が 発 生 し な い こ と を 確 認 し た .ま た ,ギ ャ ロ ッ ピ ン グ が 生 じ な い R / B に つ い て は ,振 動 時 の 平 均 圧 力 分 布 が 再 付 着 型 に な っ て お り ,こ の こ と が ギ ャ ロ ッ ピ ン グ の 発 生 を 抑 制 し て い る 原 因 で あ る こ と を 示 し た . 第 6 章 で は ,第 4 章 で 数 値 流 体 解 析 に よ っ て 示 さ れ た 角 柱 近 傍 の 流 れ の 違 い を 実 験 的 に 検 証 す る た め に ,角 柱 側 面 近 傍 に ス パ ン 方 向 に 設 置 し た タ フ ト に よ る 流 れ の 可 視 化 実 験 と ス パ ン 方 向 に 配 置 し た 圧 力 測 定 孔 に よ る 表 面 圧 力 測 定 を 行 っ た .ビ デ オ 撮 影 さ れ た 可 視 化 映 像 を 画 像 処 理 す る こ と に よ り ,タ フ ト の 振 れ 幅 か ら ,流 れ の 三 次 元 性 を 知 る こ と が で き ,タ フ ト の 振 れ 幅 が 大 き い ほ ど , 圧 力 の ス パ ン 方 向 相 関 が 低 い 傾 向 が あ る こ と を 確 認 し た . ま た , R / B の 増 大 に よ っ て 角 柱 近 傍 の 流 れ の 三 次 元 性 が 弱 く な り , R / B = 0 . 2 で そ の 変 化 が 顕 著 に 表 れ る こ と を 示 し た .風 洞 実 験 で 現 れ た こ れ ら R / B に よ る 流 れ の 三 次 元 性 の 変 化 に つ い て は , 三 次 元 数 値 流 体 解 析 を 行 え ば 説 明 で き る こ と を 確 認 し た . 第 7 章 は 結 論 で あ り , 本 研 究 の 成 果 を 要 約 し て い る .

(4)

目 次

第1章

序論 ... 1

1.1 研究の背景... 1 1.2 研究の目的および構成 ... 2

第2章

矩形断面柱の空力特性に関する既往の研究... 4

2.1 矩形断面柱の風による振動 ... 4 2.1.1 渦励振 ... 5 2.1.2 ギャロッピング... 5 2.1.3 臨界断面比 ... 7 2.2 塔状構造物の空力弾性振動に対する制振対策 ... 9 2.3 隅角部形状変更による空力的パッシブ制振法 ... 11 2.3.1 隅切り,隅欠きに関する研究... 11 2.3.2 隅丸に関する研究 ... 14

第3章

ブラフボディの空力特性に関する数値解析 ... 17

3.1 ブラフボディ周りの流れの数値解析に関する既往の研究... 17 3.1.1 流れの基礎方程式 ... 17 3.1.2 低レイノルズ数域での研究 ... 18 3.1.3 高レイノルズ数域での研究 ... 19 3.2 本研究で用いる解析手法... 21 3.2.1 解析の方針 ... 21 3.2.2 離散化と解法アルゴリズム ... 21 3.2.3 基礎方程式の一般曲線座標系への変換 ... 22 3.2.4 数値解析モデル... 26

(5)

第4章

前縁に曲率を有する角柱の静的空気力および定常圧力特性... 32

4.1 静的空気力特性... 32 4.1.1 実験方法 ... 32 4.1.2 静的空気力測定結果... 35 4.2 定常表面圧力特性 ... 39 4.2.1 実験方法 ... 39 4.2.2 測定値の補正と結果の表示法... 42 4.2.3 定常圧力測定結果および考察... 45 4.3 数値流体解析による検討... 52 4.3.1 二次元数値流体解析による周辺流れと空気力 ... 52 4.3.2 風洞実験結果と数値流体解析結果との比較 ... 58 4.4 静的空気力特性のまとめ... 63

第5章

前縁に曲率を有する角柱の応答特性および非定常圧力特性... 66

5.1 たわみ1自由度応答特性... 66 5.1.1 実験方法 ... 66 5.1.2 応答測定結果および考察... 67 5.2 非定常圧力特性... 69 5.2.1 実験方法 ... 69 5.2.2 測定結果の補正と結果の表示方法 ... 72 5.2.3 振動時の平均圧力分布 ... 74 5.2.4 非定常圧力特性... 79 5.3 応答特性と非定常圧力特性との関係 ... 83 5.4 動的特性のまとめ ... 86

第6章

前縁に曲率を有する角柱の周辺流れ特性 ... 87

6.1 タフト法による流れの可視化... 87 6.1.1 実験方法 ... 87 6.1.2 可視化実験結果および考察 ... 90

(6)

6.2 表面圧力に現れる流れの三次元性... 97 6.2.1 実験方法 ... 97 6.2.2 実験結果および考察... 99 6.3 まとめ... 104

第7章

結論 ...106

表 目 次

表2-1 風により構造物に生ずる現象の種類... 4 図2-1 風を受ける振動物体に作用する力 ... 6 図2-2 矩形柱の断面比による抗力係数,背圧係数,ストローハル数の変化... 8 図2-3 橋梁主塔用非同調型パッシブ制振装置の例 ... 10 図2-4 塔に対する流体力学的パッシブ制振法 ... 10 図2-5 隅丸,隅切り,隅欠き... 11 図2-6 隅欠き断面と隅切り断面の応答特性... 12 図2-7 隅欠き断面の前縁付近の流れパターン ... 13 図2-8 隅欠き三次元角柱の応答特性 ... 13 図2-9 隅丸三次元角柱の応答特性... 14 図2-10 ローター付き三次元角柱の応答特性(ローター配置の影響) ... 15 図3-1 物理空間と計算空間との対応 ... 23 図3-2 解析領域... 28 表4-1 静的空気力測定の実験条件... 32 図4-1 供試模型... 33 図4-2 静的空気力測定システム ... 34 図4-3 空気力の定義... 35 図4-4 抗力係数... 36

(7)

表4-2 揚力係数勾配が負になる迎角範囲 ... 37 図4-6 空力モーメント係数 ... 38 図4-7 圧力測定孔の配置... 40 図4-8 導圧管の配管... 40 図4-9 圧力測定孔の向き... 41 図4-10 定常圧力測定システム... 41 表4-3 定常圧力測定の実験条件 ... 41 写真4-1 周波数伝達関数測定方法... 42 図4-11 導圧管の圧力伝達特性 ... 43 図4-12 風速による平均圧力係数分布の変化... 46 図4-12 風速による平均圧力係数分布の変化(続き)... 47 図4-12 風速による平均圧力係数分布の変化(続き)... 48 図4-12 風速による平均圧力係数分布の変化(続き)... 49 図4-13 平均圧力係数分布(V=10.0m/s) ... 50 図4-14 変動圧力係数分布(V=10.0m/s) ... 50 図4-15 R/B によるストローハル数の変化 ... 51 図4-16 流線図(二次元数値流体解析)... 53 図4-17 圧力分布図(二次元数値流体解析)... 54 図4-18 渦度分布図(二次元数値流体解析)... 55 図4-19 空気力の時刻歴(二次元数値流体解析)... 56 図4-20 揚力のスペクトル解析結果(二次元数値解析) ... 57 図4-21 ストローハル数の二次元解析値と実験値の比較 ... 59 図4-22 抗力係数の実験値と解析値の比較 ... 59 図4-23 平均圧力係数分布の解析値と実験値の比較 ... 60 図 4-24 数値解析による角柱周辺の瞬間圧力分布(揚力最大時)... 61 図4-25 変動圧力分布(R/B=0)... 62 図5-1 鉛直 1 自由度振動系 ... 67 図5-2 たわみ 1 自由度応答特性 ... 68 表5-1 使用機器... 70 図5-4 圧力測定孔の配置... 71 表5-2 非定常圧力測定の実験条件... 71 図5-5 導圧チューブの圧力伝達特性 ... 73 図5-6 振動時平均圧力係数 ... 75 図5-6 振動時平均圧力係数(続き) ... 76 図5-6 振動時平均圧力係数(続き) ... 77

(8)

図5-6 振動時平均圧力係数(続き) ... 78 図5-7 非定常圧力特性(Vr=15) ... 80 図5-8 側面に作用する非定常圧力(R/B=0) ... 81 図5-9 側面に作用する非定常圧力(R/B=0.3) ... 82 図5-10 側面中央(測点 9)に作用する非定常圧力 ... 84 図5-11 応答特性と非定常圧力測定点 ... 85 図6-1 模型形状と座標系... 88 図6-2 タフト設置方法と撮影範囲... 88 図6-3 模型およびカメラの設置状況 ... 89 図6-4 画像処理... 89 図 6-5 曲率半径による流れの変化(V=10m/s,Re = 6.8×104... 91 図 6-6 風速によるタフトの振れの変化(R/B=0) ... 92 図 6-7 風速によるタフトの振れの変化(R/B=0.2) ... 93 図6-8 角柱側面近傍の流速ベクトル(ZY 平面,X/B=0) ... 95 図6-9 角柱側面近傍の流速ベクトル(ZX 平面,Y/B≒0.035) ... 96 図6-10 圧力測定孔の配置... 98 図6-11 測定システム ... 98 図6-12 平均圧力係数分布(中央断面,V=10m/s)... 101 図6-13 変動圧力係数分布(中央断面,V=10m/s)... 101 図6-14 平均圧力係数分布(スパン方向,V=10m/s) ... 102 図6-15 変動圧力係数分布(スパン方向 V=10m/s)... 102 図6-16 変動圧力のスパン方向相関(V=10m/s) ... 103 図6-17 圧力のスパン方向相関(V=10m/s) ... 103

(9)

主要記号一覧

A :角柱の応答振幅あるいは加振振幅 2A/B :無次元倍振幅 B :角柱断面の流れ方向辺長(正方形断面の辺長) B/D :矩形断面の辺長比 CD :抗力係数 CL :揚力係数 CM :空力モーメント係数 CP :圧力係数 CPm :平均圧力係数 CPrms :変動圧力係数 CPf :非定常圧力係数 D :角柱断面の流れ直角方向辺長 FD :抗力 FL :揚力 FM :空力モーメント l :模型のスパン方向長さ p :圧力 Re :レイノルズ数 Sc :スクルートン数 St :ストローハル数 u :流速ベクトル u, v, w :x 方向,y 方向,z 方向流速 V :風洞風速または数値解析における一様接近流速 Vr :換算風速 x, y, z :物理空間上の座標 α :迎角 ρ :空気密度 ξ,η,ζ :計算空間上の座標 φ :振動変位と圧力との位相差

(10)

第1章 序論

1.1 研究の背景 橋梁の長大化,ビルの高層化,さらに建設技術の発達による構造物の軽量化によって, 構造物は可撓性に富む構造となってきている.そのため,これらの構造物が風の作用を 受けたとき,風による振動である空力弾性振動が発生し易くなり,構造物における耐風 安定性の問題はますます重要性を増してきている.特に長大橋の主塔や高層建築物など の塔状構造物では,断面の辺長比が比較的小さい矩形柱が採用されることが多く,渦励 振やギャロッピングが発生する可能性が高いといえる.また,これらの高層構造物では, その受風面積が大きいこと,頂部近傍での風速が高いことのために,風荷重も大きくな る.風による振動を抑制できる断面形状および風荷重を低減できる断面形状を探求する ことは,風工学の分野の中での重要な課題である. 通常の土木・建築構造物はブラフボディと呼ばれる非流線形物体であり,周辺の流れ には,剥離,再付着,渦の放出などを伴う複雑な流れ場が形成される.この流れの剥離 現象によって,構造物の表面には大きな圧力変化が生じ,その圧力差による空気力が発 生する.物体に作用する風荷重や変動空気力によって生じる空力弾性振動の特性は,そ の断面形状に大きく左右されることがこれまでの研究で明らかにされてきており,特に 矩形柱では,前縁からの剥離を伴うため,その空力特性は剥離点となる隅角部の形状の 違いによって顕著に変化する.従って,隅角部形状を変更して剥離流を制御することは, 風荷重の低減や空力弾性振動の制振に対して効果的な手法であると考えられる. 隅角部形状を変更する方法としては,これまでに明石海峡大橋の主塔などに用いられ ている隅角部に隅欠きを設ける方法,隅角部を斜めに切り落とした形状とする方法(隅 切り),隅角部に丸みをつける方法(隅丸)などが検討されてきている. その中で,本研究では,隅角部に丸みをつける方法について検討を行う.本研究に取 りかかる契機となったのは三次元角柱を用いて,塔状構造物の耐風性改善を検討してい る際に,隅角部に丸みを付けた場合,上流側隅角部と下流側隅角部とで丸みをつけるこ とにより,応答特性が異なることが判明したことである.そこで,隅角部に丸みを設け ることによる制振機構について,解明することを目的に本研究を遂行することにした.

(11)

1.2 研究の目的および構成 上述の背景を踏まえて,本研究では角柱の隅角部形状の変更による空力特性変化のメ カニズムについて検討を行う.メカニズムの検討を行う上で,問題をできるだけ単純に することが重要であると考えた.そこで以下のような考えからモデルを設定した. ① 三次元角柱では塔頂部あるいは塔基部からの流れが発生し,それらの影響がアスペ クト比によって変化するため,流れが複雑になる.そこで,対象を二次元角柱とし た. ② 矩形柱でギャロッピングが発生するのは,断面辺長比B/D が 0.6~3 程度の場合で あることから,基本形状は正方形とした. ③ 隅角部形状の変更は,剥離点の形状を変えることにより,剥離流を制御しようとす るものであるから,剥離点すなわち前縁隅角部の形状変更が空力特性の変化の主な 要因であると考えられる.実際の構造物を考えると,すべての隅角部を同じように 変更することになる.後縁形状の影響は断面辺長比との関係も絡むため,一般性に 欠けると考えられる.以上のような理由から後縁形状は変更しないこととした. ④ 隅角部の形状は四分円とする,その曲率半径をパラメータとして変更する. 本研究の特徴は,数値流体解析による検討をとり入れていることである.具体的には, 抗力係数やストローハル数等の基本的な空力特性量や表面圧力について,同一条件の数 値解析と風洞実験の結果を示し,両者の比較を行った上で,数値流体解析結果による角 柱周辺流れの可視化により,剥離せん断層を含む角柱近傍の流れの挙動について検討を 行っている. 上述の目的を踏まえて,第2 章から第 7 章を以下のように構成した. 第2 章では,本研究で扱う問題に関する既往の研究成果について述べる.まず,塔状 構造物に採用されることの多い断面辺長比の小さい矩形柱の空力特性について,特に正 方形角柱に作用する空気力および空力弾性振動特性を中心に述べる.次に,その空力的 制振対策の1 つである隅角部形状の変更について触れ,本研究の位置付けを行う. 第3 章では,本研究で使用した数値解析法について述べる.まず,ブラフボディまわ りの流れに適用された過去の研究を取上げて,本研究で対象とする構造物周辺流れの数 値解析上の問題点について触れ,解析に対する基本方針を立てる.さらに,使用した数 値解析法について具体的に述べる.

(12)

第4 章では,静止している角柱の空力特性について検討するために,静的空気力およ び定常圧力の測定を行った.まず,前縁隅角部の曲率半径によって,角柱の静的空気力 と表面圧力の特性がどのように変化するのかを示し,数値流体解析の結果を用いてそれ らの変化に対して考察する.高レイノルズ数の流れでの数値流体解析では,結果を定量 的に判断するためには三次元解析が必要であるが,三次元解析は多くの計算機資源を必 要とするため,本研究では,基本的には二次元解析によって定性的な判断を行い,変化 が著しい部分については,三次元解析を行って検討することとした. 第5 章では,角柱の動的な特性を検討するために,鉛直1自由度応答および非定常圧 力の測定を行った.前縁隅角部の曲率半径による,角柱の応答特性の変化を示した上で, 非定常圧力特性について述べる. 第6 章では,角柱周辺流れの三次元性について,タフト法による可視化実験と表面圧 力のスパン方向相関の測定を行い,両者の結果から考察する.また,周辺の流れの三次 元性について検討することで,二次元解析結果の妥当性についても検討する. 第7 章では,各章の検討内容を総括し,本論文の結論とする.

(13)

第2章 矩形断面柱の空力特性に関する既往の研究

本章では,本研究で扱う問題に関する既往の研究成果について述べる.まず,塔状構 造物および,それに採用されることの多い断面比の小さい矩形柱の空気力と空力弾性振 動について述べ,さらに,その制振対策を取上げ,流体力学的対策の1 つである隅角部 形状の変更に関する既往の研究を紹介し,本研究の位置付けを行う. 2.1 矩形断面柱の風による振動 構造物は非流線形であり,その周辺の空気の流れは,前面のよどみ点から発達した境 界層が表面から剥離して周辺の流れの中に押し出され,剥離せん断層を形成する.剥離 点の後方では,せん断層が巻き込み,後流にカルマン渦列を放出する.このような剥離 をともなう流れでは断面形状などによって特性が変化し,流れ方向に長い断面形を持つ ものでは,剥離した流れが再付着して周りの流れをさらに複雑にする.表2-1 に風によ り構造物に生じる現象をまとめている. 剥離した流れが形成された状況の下で,変動空気力が生じるため,種々の振動現象が 生じるのであるが,周辺の流れはまたこの振動現象により影響を受ける.すなわち,構 造物に振動を引き起こす空気力の作用は,基本的には構造物自身の振動にともなう周辺 剥離流れの変化と,さらにこれにともなう空気力が付加されるという相互作用のもとに 表2-1 風により構造物に生ずる現象の種類 静的変形 静的空気力による変形 静的現象 静的不安定現象 ダイバージェンス,横座屈 渦励振 後流の非定常性による 変動空気力がもたらす振動 限 定 振 動 バフェッティング 接近流の乱れによる 変動空気力がもたらす強制振動 ギャロッピング (曲げ 1 自由度フラッター) ねじれフラッター (ねじれ 1 自由度フラッター) 動的現象 自 励 振 動 曲げねじれフラッター (連成フラッター) 構造物の運動による非定常空気力 がもたらす振動

(14)

生じている.ここで,塔状構造物で問題となる,渦励振とギャロッピングについてまと めておく. 2.1.1 渦励振 ブラフボディに風があたると,せん断層が表面から剥がれ,その後流にカルマン渦と 呼ばれる交番渦が放出される.そのため,物体には流れと垂直方向に周期的に外力が作 用する.このとき発生するカルマン渦の発生振動数 fvは,風速V にほぼ比例し,次式の ような関係にある. V D f St= v (2.1) ここで,St:ストローハル数,D:代表長さである. このような流れの中で構造物が弾性支持されると共振風速(構造系の固有振動数f と 上式の周波数 fvが一致する風速)付近で振動が誘起される.これを渦励振といい,共振 風速をはさむ形でピーク状の応答を示す.渦励振はその発生風速域が限られていること, 振幅が構造減衰にほぼ反比例することから,周期的な外力による構造物の共振現象であ ると考えることができる.しかし,実際には渦励振域では,構造物がその固有振動数で 振動し,後流の流速変動の周波数が構造物の固有振動数と一致する同期(locking-in)現象 が生じ,強い非線形性を持った振動現象である. 同様に,ねじれ振動,流れ方向の振動も考えられるが,断面比の小さい柱状体では一 般的に風向きに垂直な方向の振動が支配的である.これが渦励振と呼ばれる現象であり, 円柱における現象が典型的である. 2.1.2 ギャロッピング 送電線に氷雪が付着すると,きわめて大きなたわみ振動が風によって発生することが ある.このような振動は静止時に剥離流れの再付着がない断面形状で,風速に比べて振 動がゆっくりしたものであるとき,すなわち換算風速が大きいとき発生する.このとき 剥離流れの流下速度が大きく,側面に作用する圧力分布は静止時の圧力分布に近くなる. このような圧力分布になると,振動にともなう上下面の圧力差が励振力となり,流れに 直角方向の振動を引き起こすことになる.また,発生後は風速の上昇と共に振幅が大き

(15)

図2-1(a)のように,二次元物体に迎角αで風が作用している状態では,抗力FD,揚力FL による上向きの力Fyが作用していることになる. α α sin cos D L y F F F = + (2.2) これを次式で定義される抗力係数CD,揚力係数CLを使って表すと l D V F CD D 2 2 1 ρ = , l D V F CL L 2 2 1ρ = (2.3)

(

α α

)

ρ cos sin 2 1 2 D L y V D C C F = l + (2.4) ここで,

ρ

:空気密度,D:物体代表長,l:物体長さである. この物体が主流直角方向下向きに一定速度で定常運動するとき,その速度を−y&とする と,上向きの空気力Fyは相対迎角

α

と相対速度Vrelを使って表すことができる. V y& = α tan (2.5) 2 2 V y Vrel = & + (2.6)

(

α α

)

ρ cos sin 2 1 2 D L rel y V D C C F = l + (2.7) また,図2-1(b)のように鉛直にバネ支持されて振動している場合に,振動が充分ゆっく りしていれば,

α

F

y

F

L

F

D

α

m

V

y& −y&

k

c

(a) 抗力・揚力と Fy (b) 風を受ける振動系と相対迎角 図2-1 風を受ける振動物体に作用する力

(16)

V y& ≅ α ,VrelV (2.8) とおくことができ,物体に作用する空気力は式(2.4)で与えることができる. ここで,α=0°まわりでF をテイラー展開し,1次の項までで表すと,y V y C d dC D V F C d dC D V F F D L y D L y y & l l 0 2 0 2 2 1 ) 0 ( 2 1 ) 0 ( = = ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ + + = ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ + + = α α α ρ α α ρ (2.9) 図2-1(b)の振動方程式は変位 y を上向きに正とすると次式のようになる. 0 = + + +cy ky Fy y m&& & (2.10) また,式(2.9)で振動に関与するのは第二項のみであるから,これを振動方程式(2.10) に代入して整理するとする. 0 2 1 0 = + ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ + + + = ky y C d dC VD c y m D L & l && α α ρ (2.11) となる.ここで,速度項が負になるときに発散振動が起こる.すなわち, 0 < + D L C d dC α (2.12) のときにギャロッピングが発生する.この式はDen Hartog の判別式と呼ばれる.単独 柱の場合,抗力係数C は正であるから,揚力係数の勾配D dCL dαが負となる物体では, ギャロッピングが発生する可能性があることを示している. 2.1.3 臨界断面比 一つの側面が主流方向に対して直角になるようにして置かれた矩形断面柱について, 流れ方向の辺長B,流れ直角方向の辺長 D に対して,断面比 B/D を定義すると,図 2-2 に示すように2 つの臨界断面比が見られる.一つ目の臨界断面は抗力係数が最大になる B/D=0.66 であり,もう一つが B/D=2.8 でストローハル数が急変する断面比である.

(17)

B/D<0.66 では,角柱の前縁で剥離した剥離せん断層は,側面に再付着せずに,角柱 背後へ流下し,後流において上面と下面に形成された 2 つのせん断層の干渉によって, 交互に巻き込まれてカルマン渦列を形成する.このB/D<0.66 の範囲では,辺長比の増 大によってせん断層の巻き込む位置が角柱に近づく.中口 2-2) らは B/D=0.66 で背圧係 数が極小になることを見出し,流れの可視化から,この臨界断面比B/D=0.66 において 剥離せん断層が角柱背後に回りこむ曲率が著しく増大することを示した.そのため,角 柱背後の渦の巻き込み位置は,B/D=0.66 において角柱背面に最も接近し,角柱背後に きわめて強いカルマン渦列が形成されて背圧が低下し,抗力係数が極大になる2-3),2-4) 臨界断面B/D=0.66 よりも大きくなると,剥離せん断層と後縁との直接干渉が生じる ようになり,剥離せん断層の巻き込みが阻害される.そのため,背圧は回復しはじめ, 抗力も減少する.またB/D の増加により,せん断層の巻き込みが角柱から遠ざかるのに 伴って,渦の放出間隔が増大し,ストローハル数が減少して行く.このような2 つの臨 界断面の中間の断面比0.66≦B/D≦2.8 を持つ角柱では,ギャロッピングが発生する. もう一つの臨界断面B/D=2.8 を超えて B/D が増加すると,剥離せん断層が定常的に 側面に再付着するようになり,後縁から再び剥離して,後流でカルマン渦を形成する.

0

1

2

3

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0

1

2

3

4

C

D

-C

pb

St

B/D

C

D

C

pb

St

D

B

図2-2 矩形柱の断面比による抗力係数,背圧係数,ストローハル数の変化

(18)

このストローハル数の急変は,剥離せん断層の挙動の変化に対応する.つまり,B/D>2.8 では,前縁で剥離したせん断層と角柱側面との間に干渉が生じ,せん断層の不安定性が 増して側面上で渦を形成する. 臨界断面は,矩形断面のほかにも発見されている.たとえば,D形断面2-5),2-6) や台形 断面 2-7) のような前縁で剥離する物体ならば,B/D に相当する形状のパラメータを適当 に定義することで B/D=0.66 に対応する臨界断面があらわれることが知られている.ま た,溝田ら 2-8) は,矩形柱を流れに直角方向に一定振幅で強制加振させたとき,共振風 速付近では,臨界断面は物体静止時より薄く,B/D≒0.4 であることを明らかにしている. 2.2 塔状構造物の空力弾性振動に対する制振対策 構造物の長大化により,これまで問題にならなかったような現象も検討しなければな らなくなってきている.例えば,長大吊橋の主塔では,架設時には独立柱となり振動し やすい状態になるため,何らかの制振対策が必要であったが,吊橋の完成系においては, 塔頂付近がケーブルで固定されるため振動が拘束され,振動時にケーブル系が減衰力と して機能し,風による振動が深刻な問題となることはなかった.しかし,最近の長大吊 橋の主塔では完成系においても,従来の吊橋の主塔に比べて固有振動数が低く,設計風 速以下での風による振動が発生する可能性があることが確認されている2-9),2-10) ここでは,塔状構造物の風による振動の制振対策とについて述べる.これらの制振対 策は構造力学的対策と流体力学的対策に分けられる.また,それはさらに,アクティブ 方式とパッシブ方式に分けられる.

構造力学的対策には,同調型質量ダンパー(TMD:Tuned Mass Damper)や流体式 ダンパー(TLD:Tuned Liquid Damper)に代表されるパッシブ方式と ATMD(Active Tuned Mass Damper)に代表されるアクティブ方式がある.

TMD や TLD 等の同調型ダンパーは,構造物に動吸振器に相当する振動系をとりつけ ることになり,付加する振動系の質量,バネ,減衰の組み合わせにより,構造物を制振 するものである.パッシブ方式では動力を必要としないが,固有振動数,減衰などの同 調条件が厳しく,これらがずれると,制振効果は著しく低下する.このような欠点を改 良するために,構造物の振動をセンサーで感知し,TMD の質量の動きが制振力として 働くように,アクチュエーターを用いて積極的に制御するアクティブ制振法(ATMD な ど)が開発されている.しかし,停電時に制振効果が発揮されないという欠点がある. そこで,最近では,パッシブ方式とアクティブ方式の両方を組み合わせた,ハイブリッ ド方式が良く用いられている.明石海峡大橋では,架設時にTMD3 基,セミアクティブ AMD1 基が使用され,完成後にも TMD2 基が使用されている.

(19)

また,架設中の橋梁の主塔に対しては,図2-3 に示すようなスライディングブロック 等の非同調型のパッシブ制振装置が使われることもあったが,現在では,ほとんど使わ れることはない. 流体力学的方法は,振動方程式の右辺の外力すなわち空気力を小さくすることである. 構造力学的な対策と同様に流体力学的対策も,アクティブ方式とパッシブ方式がある. パッシブ方式は,構造物の形状を変更することで空気力の低減を図るもので,これまで 個々の形状について試行錯誤的に変化させて,風による振動を抑制できる形状を選定し ている.橋梁主塔に対する空力的パッシブ制振法は,図2-4 のように,隅切りやプレー ト,デフレクター等で剥離流をコントロールする方法,スリットを設けて上流と下流の 圧力差を低減する方法等がある.この内,隅角部形状の変更によるものについては次節 傾斜台 ワイヤー 重錘 滑車 バネ オイルダンパー 重錘 重錘 オイルダンパー (a) スライディング ブロック方式 (b) ダンパー スプリング方式 (c) ダンパー重錘方式 (d) 水中ブロック方式 図2-3 橋梁主塔用非同調型パッシブ制振装置の例 (a)デフレクター   (b)プレート    (c)隅切り(隅欠き)   (d)スリット 図2-4 塔に対する流体力学的パッシブ制振法

(20)

で詳しく述べることとする. 2.3 隅角部形状変更による空力的パッシブ制振法 隅角部形状変更でこれまで検討されてきているものは,図 2-5 に示す 3 種類であり, それぞれ隅角部に対して,(a)丸みをつける隅丸,(b)斜めに切り落とす隅切り,(c) 長方形に切り欠く隅欠き,と呼ぶ.特に,隅欠きと隅切りについては,混同することが 多いので,ここでは,このように定義しておく. D D D B B B a a a a R (a)隅丸 (b)隅切り (c)隅欠き 図2-5 隅丸,隅切り,隅欠き 2.3.1 隅切り,隅欠きに関する研究 白石ら2-11) B/D=1.46 の矩形断面に対して隅欠き,隅切りを施した二次元剛体模型 を用いて検討を行っている.これらの応答特性を図 2-6 に示しているが,隅欠きでは a/D=2/18~3/18 とするとギャロッピング発振風速が上昇し,空力的に安定化している が,それ以上になると逆に応答特性は原断面より悪くなっている.また,隅切りについ ても検討されているが,隅欠きのほうが空力安定化効果が高いことを示している.これ らの制振メカニズムは,水素気泡法による流れの可視化実験により検討されている.そ の検討結果として,前縁部の切り欠きによる二つの剥離点の干渉によって流れパターン が変化し,図2-7 のように最適サイズである a/D=2/18 では剥離せん断層が断面側面に 接近し,再付着化の傾向を示すとともに,後流幅も減少するため,空力的に安定化する としている.このような隅欠き断面は,東神戸大橋,明石海峡大橋,来島大橋等の主塔 に採用されている.

(21)

また,天野2-12) は隅欠き,隅切りを施したアスペクト比5 の三次元正四角柱ロッキン グ模型に対して,換算風速 Vr≦20 で応答を測定している.その結果,二次元角柱と同 様に隅切りより隅欠きのほうが効果が高いこと,図2-8 に示すように最適サイズは発振 風速が最も高くなるa/D=4/60(≒0.067)であり,白石らの示した二次元角柱の最適サ イズa/D=2/18(≒0.111)よりも小さいことを示している.また,構造減衰によっても 変化するが,δ≒0.2 の場合 a/D≧10/60 では,渦励振のみの応答となっており,ギャロ

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0

5

10

15

20

25

30

35

40

original a/D=1/18 a/D=2/18 a/D=3/18 a/D=4/18 a/D=5/18 a/D=6/18

Nondi

m

.

Doubl

e

A

m

p

. (2A/D

)

Reduced Wind Verocity (Vr)

(a)隅欠き

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0

5

10

15

20

25

30

35

40

original a/D=2/18 a/D=4/18 a/D=6/18

N

o

nd

im

. D

o

ub

le A

mp

. (2A

/

D

)

Reduced Wind Verocity (Vr)

(b)隅切り

(22)

ッピングに対して安定化しているといえる.

(a)隅欠きなし (b)a/D=2/18 (c)a/D≧4/18 図2-7 隅欠き断面の前縁付近の流れパターン

(23)

2.3.2 隅丸に関する研究 河井ら 2-13),2-14) はアスペクト比 10 の正四角柱の隅角部を隅切り,隅欠き,隅丸の三 種類に変更した三次元ロッキング模型を用いて,その変更サイズと減衰定数を変えて応 答測定を行っている.図2-9 に示すように隅丸の場合は隅欠き,隅切りとは異なり,変 更サイズすなわち曲率半径が大きいほど,制振効果が高い結果になっている.

0.000

0.005

0.010

0.015

0

5

10

15

20

R/B=0 R/B=0.1 R/B=0.15 R/B=0.2 R/B=0.25 R/B=0.5

Y

rms

/H

V/fB

図2-9 隅丸三次元角柱の応答特性 ここまでは,4 箇所の隅角部すべてに形状変更を行ったものについて見てきたが,形 状変更を施す位置を変えて検討したものもある. 塔状構造物を模擬したアスペクト比 12 の三次元角柱で,隅角部に回転ローターを設 置した弾性模型を用いて応答測定が行われている.これは,隅角部に設置されたロータ ーを回転させることにより境界層内に運動量を付加し,剥離流をコントロールしようと する空力的アクティブ制振法の1つとして検討されているものであるが,ローターの設 置位置を変えた実験ケースでの応答も測定されている2-15).ローターの半径R は断面辺 長B の 10%(R/B=0.1)である.図 2-10 に示す応答図は,ローター静止時のローター 配置の違いによる応答の変化を示したものである.本来,隅角部形状の変更は剥離をコ ントロールして,空気力を低減しようとするものであるから,上流側隅角部の影響が大

(24)

きいと考えられるが,この実験結果から,断面の前縁形状だけでなく,後縁形状も塔の 応答特性を左右する大きな要素となることが分かる.高換算風速域での応答特性を見る と,後縁に曲率を持つTYPE3,TYPE4 ではギャロッピングと見られる振動が発生して いる.また,渦励振域では前縁形状が同じ TYPE1 と TYPE4 の比較および TYPE2 と TYPE3 の比較から,後縁隅角部に丸みがあることにより,渦励振の最大振幅が増大し ている. 0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 0 5 10 15 20 25 30 35 40 TYPE1 TYPE2 TYPE3 TYPE4

Nondim. Double Amplitude (2A/H)

Reduced Velocity (Vr=V/fB)

wind TYPE1 TYPE2 TYPE4 TYPE3 wind wind wind 図2-10 ローター付き三次元角柱の応答特性(ローター配置の影響) 以上見てきたように,隅角部に曲率を設けることにより,空力弾性応答特性が顕著に 変化することが報告されてきているが,この隅角部の曲率変化が与える空力特性の変化 のメカニズムについて,詳しくは検討されてきていない.この点が本研究の目的である.

(25)

参考文献(第2 章)

2-1) Den Hartog, J. P. : Mechanical Vibrations, McGraw-Hill, 1956.

2-2) 中口博,橋本貴久裕,武藤真理:矩形断面の柱の抗力に関する一実験,日本航空 宇宙学会誌,第16 巻,第 168 号,pp.1-5,1968.

2-3) 林正徳,桜井晃,大屋裕二:一様流中に置かれた二次元矩形柱の変動特性,九州 大学工学集報,第54 巻,第 2 号,pp.137-144,1981.

2-4) Nakamura, Y. and Tomonari, Y. : Pressure distributions on rectangular prisms at small incidences, Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Vol.21, No.54, pp.205-213, 1979.

2-5) Nakamura, Y. and Hirata, K. : Critical geometry of oscillating bluff bodies, Journal of Fluid Mechanics, Vol.208, pp.375-393, 1989.

2-6) 林正徳,大屋裕二,岩崎直道,槙本隆:二次元柱の抗力および後流に関する一実 験,九州大学工学集報,第50 巻,第 6 号,pp.767-773,1977. 2-7) 林正徳,桜井晃,森田直弘,榊和幸:台形断面柱の臨界形状に関する実験,九州 大学工学集報,第54 巻,第 2 号,pp.151-158,1981. 2-8) 溝田武人,岡島厚:振動する角柱まわりの流線と非定常流体力に関する実験的研 究,土木学会論文報告集,第327 号,pp.49-60,1982. 2-9) 川畑篤敬,嶋田正大,高井茂,柳原則行,小泉幹男,秦健作:明石海峡大橋主塔 の耐風設計,NKK 技報,No.147,pp.27-34,1994. 2-10) 秦健作,辰巳正明,大倉幸三,大西悦郎:明石海峡大橋主塔の制振対策,土木 学会論文集No.507/I-30,pp.279-289,1995. 2-11) 白石成人,松本勝,白土博通,石崎浩,長田信,松井俊彦:隅切りによる矩形 断面の空力安定化効果,第9 回風工学シンポジウム論文集,pp.193-198,1986. 2-12) 天野輝久:一様流中における三次元正四角柱の渦励振及びギャロッピングに及 ぼす隅欠き・隅切りの効果,日本建築学会構造系論文集,第478 号,pp.63-39, 1995. 2-13) 河井宏允,高口真,中村孝行:超高層建築物の渦励振に及ぼす隅の形状の効果, 第13 回風工学シンポジウム論文集,pp.281-286,1994.

2-14) Kawai, H. : Effect of corner modifications on aeroelastic instabilities of tall buildings, Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics, Vol. 74-76, pp.719-729, 1998.

2-15) 久保喜延,V.J.モディ,小坪千野,加藤九州男,山口栄輝:動く表面を用いた 境界層制御による塔状構造物の空力弾性振動に対する制振,構造工学論文集, Vol.41A,pp.823-828,1995.

(26)

第3章 ブラフボディの空力特性に関する数値解析

一般的に構造物はブラフボディと呼ばれる非流線形物体であり,その周辺流れは物体 前面での流れの衝突,その後,物体表面からの流れの剥離,再付着を伴い物体背後に渦 を放出し複雑な流れ場を形成する.さらに,構造物の周りの流れは,レイノルズ数が高 く,乱流状態にある.このような理由から,構造物周辺流れは数値流体解析を行う上で 難しい問題の一つである.本章では,ブラフボディの空力特性に関する数値流体解析に ついて既往の研究を概観し,本研究で使用した数値解析手法について述べる. 3.1 ブラフボディ周りの流れの数値解析に関する既往の研究 3.1.1 流れの基礎方程式 構造物周辺の流れ場は浮力を無視できる強風状態であり,風速は音速と比べると十分 に小さいため,流れは非圧縮粘性流体と仮定する.基礎方程式はNavier-Stokes 式と連 続の式である.これらの式を代表流速V,代表長さ B,密度ρを用いて無次元化すると, 以下のようになる. 0 div = = u D (3.1) u u u u+ = + Δ ∂ ∂ Re p t 1 grad grad) ( (3.2) ここでu,p,Re はそれぞれ流速ベクトル,圧力,レイノルズ数を示す. 式(3.1),(3.2)を連立して解けば流れ場の挙動を知ることができる.しかし,特別な状 態を仮定しない限り,これらの解を理論的に求めることは不可能である.そこで通常, これらの式の近似解を求めようとする場合,差分法,有限要素法,境界要素法といった 手法により離散化し,数値的に解かれる. 差分法は,流れの数値解析において代表的な計算手法であり,多くの実績がある.3.1.2 および 3.1.3 に関連して行われた研究のほとんどが,差分法によって行われたものであ る.差分法による離散化は,基礎方程式の微係数を差分近似で置きかえるシンプルなも のである.一般曲線座標系の採用により,任意形状の物体まわりの流れにも対応できる. 有限要素法とは,解析領域を要素と呼ばれる小領域に分割し,要素ごとに積分してマ トリクス方程式を導くため,差分法に比べてプログラムが複雑になる反面,要素や解析 領域の形状,境界条件の取り扱いに優れている.近年流れの数値解析への適用が増えて

(27)

境界要素法は,古くからポテンシャル流れ問題を解く手段として用いられ,流れ解析 がブラフボディのまわりに適用されるようになった初期には,離散渦法として多くの二 次元解析の適用例がある.最近では粘性流れにも適用されているが,その実績は他の手 法に比べると少ないといえる. 次項からは,低レイノルズ数域と高レイノルズ数域とに分けて,ブラフボディまわり の空力特性の解析に数値流体解析を適用した既往の研究成果の概要を述べる. 3.1.2 低レイノルズ数域での研究 低レイノルズ数域では,流れ関数・渦度法による二次元層流解析が多く行われている. ブラフボディへの最初の適用は,コンピュータを用いずに行われた Thom3-1) Re=10, 20 での円柱周りの定常計算である.その後,Kawaguti3-2)も同様な手法で計算し,Thom と同じ結果が得られること,Re≧40 でも数値計算上は定常解が存在することを示して いる. Payne3-3)はコンピュータを使って円柱周りの流れの非定常計算をRe=40,100 にて行 い,Re=100 では実験で現れる渦放出が見られないことを示した.Hirota, Miyakoda3-4) はRe=40 で定常解が存在すること,Re=100 では周期的な渦の放出が得られることを示 した.Fromm, Harlow3-5)は平板周りの流れをRe=15~6000 で行い,抗力係数,後流の 流速分布,流れの可視化などの実験結果と良く一致することを示した.

Harlow, Welch3-6)は,流れ関数・渦度法を使わずに,Navier-Stokes 方程式と圧力のポ アソン方程式を交互に解くことで時間進行を行う MAC 法を提案し,自由表面を持つ波 の砕波に適用した.この MAC 法によって,速度と圧力が変数として用いられるように なった.本研究の数値解析も MAC 法に準じた計算アルゴリズムを採用しているので後 で述べる. その後,数千程度までの低レイノルズ数では,多くの二次元解析がなされている.岡 島3-7)Re=150~800 において,角柱の断面辺長比 B/D を 0.6~8 に変化させ,B/D に よる抗力係数,ストローハル数の変化が概ね捉えられることを示している.Franke, Rodi, Schöung3-8)は角柱周辺流れに対してRe=300 までカルマン渦放出を計算し,岡島 の実験値 3-9)とストローハル数がほぼ一致すること,円柱まわりの流れについて Re=66 ~5000 で行い,Re≧1000 ではストローハル数が実験値を上回っていくことを示してい る.

(28)

3.1.3 高レイノルズ数域での研究 構造物周りの流れは,剥離を伴い,その背後には周期的な渦を発生させるため,基本 的に非定常な現象である.また,レイノルズ数が高く,流れ場は乱流状態となっている. 高レイノルズ数の乱流を粗い格子で解析すると,Navier-stokes 方程式の対流項のもつ 強い非線形性のために計算が不安定になり,数値解は発散してしまう.このような数値 的不安定性を回避するための手段として,一般的には何らかの方法で乱流をモデリング したり,数値粘性効果を導入して数値的に安定化させて計算を行っている. 乱流モデリングの手法は大きく分けて2 つあり,一つが k-εモデルに代表される乱流 モデルであり,もう一つが空間格子のスケールで平均操作を行うラージエディシミュレ ーション(LES)である.LES は空間乱流のモデリングのレベルを極力抑え.格子より 大きなスケールの構造をコンピューターにより数値的に計算し,格子スケール以下の運 動を乱流理論によりモデル化されたSub Grid Scale(SGS)応カモデルで表現するもの である. ブラフボディ周りの流れは,前面での流れの衝突,隅角部からの剥離,側面での再付 着,後流への渦の放出という複雑な流れ湯を形成するため,解析領域内に性質の異なる 流れが混在する.このような複雑な流れの解析においては,標準的な乱流モデルでは一 定の精度を確保することが難しい.村上ら3-10) は標準k-εモデルによる解析では角柱前 面における乱流粘性が過大に評価されるため,カルマン渦が放出されなくなるという欠 点を報告し,乱流モデルの改良を行っている 3-11).ブラフボディ周辺流れに対して適用 可能なモデルも提案されている.Kato, Launder3-12) は修正k-εモデルを用いて正方形 角柱周りの流れを精度よく解析できることを示している. LES において一般的に用いられるスマゴリンスキーモデルは,一様等方性乱流ではコ ルモゴロフ相似則に基づく理論的なモデル定数CS≒0.2 を用いることで実験と良く一致 する.また,乱流混合層,チャンネル内流れ等の基本乱流ではモデル定数をチューニン グすることで,ある程度の精度が確保されているが,構造物周りの流れのような複雑な 乱流に対する適応性は良くない.その後,モデル定数を変数とするなどの改良が行われ, モデル定数を流れ場から直接求めるダイナミックSGS モデル 3-13) がブラフボディ周辺 流れに対しても成果をあげている.しかし,LES では乱流のモデル化を最小限に抑えて いるため,計算負荷が大きいことが問題である.また,計算時間を短縮するために,格 子間隔を大きくとると,対流項のもつ非線形性のために計算が安定に進まなくなる. 対 流項に風上差分を用いて数値的な安定性を確保し, 格子間隔を大きくする手法3-14),3-15) も最近研究されつつあるが,LES による乱流粘性効果と三次風上差分の数値粘性効果の 両方が同時に作用するため,精度的には問題がある.

(29)

呼ばれる手法である.層流,乱流にかかわらず,流れ場の基礎式はNavier-Stokes 方程 式であるから,これにできるだけ細かい格子と高精度の離散化手法を適用すれば,乱流 であっても層流と同様に数値解を求めることが可能である.従来,直接シミュレーショ ンとはスペクトル法などの高精度な離散化手法を用いるものであった.ブラフボディ周 辺流れでは,後流に渦が放出され,それが下流境界まで影響を及ぼすため,スペクトル 法の適用は困難である. 現在では,乱流モデルを用いずに,ある程度細かい格子と高次の風上差分あるいは安 定化項を含む有限要素法を用いるものも直接シミュレーションと呼ぶことがある.一般 曲線座標と三次風上差分3-16) を用いる解析を,田村ら3-17),3-18) は矩形柱に対して行って いる.その結果二次元解析では抗力係数,変動揚力係数等を過大評価してしまうが,三 次元解析では,実験値と良く一致することを示している.最近では,有限要素法による 直接シミュレーションの適用も行われている.平野・渡邊・丸岡3-19),3-20) は辺長比2, 4の矩形柱について,安定化有限要素法による解析を行い,二次元解析と三次元解析と の結果の比較を行っている.また,枝元・米田3-21) は流れ方向に並列配置した角柱につ いて三次元解析を行っている.これらの有限要素法による直接シミュレーションにおい て,二次元解析では風洞実験と異なる流れを示す場合があるが,三次元解析では風洞実 験結果とよく一致することを示している. ここまで,高レイノルズ数の数値流体解析手法について述べてきたが,高レイノルズ 数の流れ場は乱流状態にあり,本質的に三次元的な挙動を示す.二次元柱まわりの流れ は時間平均的に見れば,二次元的な流れであるため,これまでに多くの解析が二次元の 解析空間で行われてきた.乱流モデルを用いる手法では,スパン方向の拡散をモデルに よって表現できれば,二次元解析からでも実験結果と良く一致した結果が得られる.二 次元解析においても実験値と良く一致した空力特性を算出できることは,計算時間の短 縮につながるため,数値解析の設計への利用という観点からは期待できるが,すべての 流れに対して適用可能な乱流モデルは存在しないので,より多くの形状に対して解析を 行い,その適用性を慎重に検討する必要があると考えられる. LES,直接シミュレーションでは,矩形柱まわりの二次元流体解析から得られる空力 特性は,実験結果と定性的にはほぼ一致するものの,定量的には一致しない.これは二 次元解析では,流れが本来もつ三次元的な挙動が再現されないためであり,定量的に空 力特性を把握するには,三次元解析が必要であることを示している.

(30)

3.2 本研究で用いる解析手法 3.2.1 解析の方針 高レイノルズ数の流れに対するブラフボディ周辺の流れ解析の手法には,いくつかの 選択肢があるが,本研究の数値解析の目的は,角柱周辺流れの挙動をシミュレートし, 前縁の曲率半径による空力特性および周辺流れの変化について検討することである.そ のためには,できるだけモデリングを行わずに,基礎方程式を忠実にシミュレートする 方法が良いと考えた.そこで,乱流モデルを用いずに対流項に三次精度の風上差分を用 いる手法を採用した. 本研究の数値解析で用いた離散化手法は多くの実績がある差分法とし,O型境界適合 格子で離散化された一般曲線座標系のNavier-Stokes の式と,圧力に関する Poisson 方 程式を MAC 法に準じて解き,Euler の陽解法によって時間進行を行う.高レイノルズ 数の流れに対しては,乱流モデルを用いずに,対流項に三次風上差分を使用することで 対処する.この手法によれば,対流項から生じる数値的不安定性に対して,三次風上差 分のもつ四階の拡散項の作用により,物理粘性を覆い隠さずに格子サイズ以下の運動を 排除することができ,安定性を確保しながら計算を進めることができる.また,O型格 子を用いることによって,空力特性に対して支配的であると考えられる角柱表面近傍の 流れは細かい格子で解き,角柱から離れた位置では粗い格子を用いて,比較的少ない格 子点数での解析を行うことができる. 本来三次元解析を行うことができれば,三次元解析を行うことが最良であるが,三次 元解析を行うには膨大なメモリーと計算時間が必要となるため,現状ではすべてについ て,三次元解析を行うことは困難である.そこで,基本的な解析は二次元解析を行うこ とで対処し,特に三次元解析の必要性が高い現象に対しては,三次元解析を行うことに より,周辺流れの三次元性を論ずることにした. 以下では,本研究で用いる数値解析手法について説明する. 3.2.2 離散化と解法アルゴリズム 計算アルゴリズムには MAC 法 3-6) を用い,式(3.1)を直接解く代わりに,式(3.2)の発 散をとることによって得られるPoisson 方程式(3.3)と Navier-Stokes の式(3.2)を交互に 解くことによって時間進行を行う.

(31)

(

)

D Re t D p + Δ ∂ ∂ − • − = Δ div(u grad)u 1 (3.3) ここで,時間積分をEuler の陽解法で近似し,時間積分間隔を tδ とすると,式(3.3)およ び (3.2)は次のようになる.

(

)

t D p n n n n δ + • − = Δ + u u grad) ( div 1 (3.4) n n n n n n Re p t u u u u u Δ + − = • + − + + 1 grad grad) ( 1 1 δ (3.5) ここで,変数の右上の添字は時間ステップを示す. 数値計算では,式(3.4)から得られる代数方程式を SOR 法で解いて圧力pn+1を算出し, 式(3.5)より流速を求める.ただし,式(3.3)に含まれるDは連続の式(3.1)が完全に満たさ れるならば0 となるが,初期条件あるいは境界条件の不正確さや時間進行による誤差の 累積を避けるためにDn ≠0,Dn+1 =0として扱っている.また,式(3.3)の右辺第三項は 他の項とのオーダー評価から無視している. 空間の離散化は,支配方程式を一般曲線座標に変換し,すべての変数を同一点に配置 するレギュラーメッシュ上で,対流項は式(3.6)に示す三次風上差分 3-16),その他の空間 項は二次中心差分を使用した. x f f f f f U x f f f f U x f U i i i i i i i i i i i i δ 4δ 4 6 4 12 ) ( 8 1 1 2 2 1 1 2 2 + − − + + − − + + − + + − + − + − ≅ ∂ ∂ (3.6) ここで,Uは移流速度であり, xδ は計算空間上での格子間隔,変数の添え字 i は格子番 号である. 3.2.3 基礎方程式の一般曲線座標系への変換 ブラフボディの空力特性を数値的に求める上で,剥離現象を表現することが必要であ るから,解析対象物の形状をより正確に表現することが重要となってくる.差分法で流 体解析を行う場合,矩形柱まわりの流れならばデカルト座標上で,円柱まわりの流れな らば円筒座標上で離散化すれば良い.本研究で対象としているような曲線部と直線部を 持つ断面形状まわりを,上記のような格子で表現しようとすると,形状を直方体の集合 として粗いモデル化をしたり,内挿補間によって格子ごとに境界条件として組み込んだ りすることになり,数値解の精度の悪化を招く.そこで基礎方程式を一般曲線座標系に 拡張し,計算空間の境界を解析対象物の形状に対応させる境界適合格子 3-22) を用いる.

(32)

この手法を用いれば,物体形状をより正確に表現できる. MAC 法の基礎方程式(3.2),(3.3)を二次元デカルト座標系で表記すると ⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + + − = + + 2 2 2 2 Re 1 y u x u x p y u v x u u t u ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ (3.7) ⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + + − = + + 2 2 2 2 Re 1 y v x v y p y v v x v u t v ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ (3.8) t D y D x D x v x v y u x u y p x p ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ∂ ⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + + ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎝ ⎛ + + ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎝ ⎛ = ⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 Re 1 2 (3.9) D u x v x =∂ + ∂ ∂ ∂ (3.10) 図3-1 のような物理空間(x, y)と計算空間(ξ,η)の関係が ) , ( ) , ( y x y x η η ξ ξ = = , ) , ( ) , ( η ξ η ξ y y x x = = (3.11) のように与えられるとすると,一階微係数は η ξ η ξ η ξ η ξ f f f f f f y y y x x x + = + = (3.12) で与えられる.また, x y ) , ( ) , ( ) , ( ) , ( η ξ η ξ η η ξ ξ y y x x y x y x = = = = ξ η ξ η 物理空間 計算空間 図3-1 物理空間と計算空間との対応

(33)

⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ = ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ dy dx d d y x y x η η ξ ξ η ξ , ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ = ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ η ξ η ξ η ξ d d y y x x dy dx (3.13) が成り立つので,両式を比較して ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ − − = ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ = ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎣ ⎡ − ξ ξ η η η ξ η ξ η η ξ ξ x y x y J y y x x y x y x 1 1 (3.14) なる関係が得られる.ここで, ξ η η ξy x y x J = − (3.15) 各成分を等値すると J x J y J x J y y x y x ξ ξ η η ξ η η ξ = , =− , =− , = (3.16) が成り立つので式(3.12)は J f x f x f J f y f y f y x ) ( ) ( η ξ ξ η η ξ ξ η + − = − = (3.17) さらにこれを繰り返して,二階の微係数まで求めて基礎方程式に代入して整理すると

(

)

(

)

⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + − + + + ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − − = − + − + 2 2 2 2 2 2 2 Re 1 1 ∂η ∂ γ ∂ξ∂η ∂ β ∂ξ ∂ α ∂η ∂ λ ∂ξ ∂ κ ∂η ∂ ∂ξ ∂ ∂η ∂ ∂ξ ∂ ∂ ∂ ξ η ξ ξ η η u u u u u J p y p y J u J uy vx u J vx uy t u (3-18)

(

)

(

)

∂ ∂ ∂ ∂ξ ∂ ∂η ∂ ∂η ∂ ∂ξ κ∂ ∂ξ λ ∂ ∂η α ∂ ∂ξ β ∂ ∂ξ∂η γ ∂ ∂η η η ξ ξ ξ η v t uy vx J v vx uy J v J x p x p J v v v v v + − + − = − ⎛ − ⎝ ⎜ ⎞ ⎠ ⎟ + ⎛ + + − + ⎝ ⎜ ⎞ ⎠ ⎟ 1 1 2 2 2 2 2 2 2 Re (3.19) t D v x v x v y v y u x u x u y u y J p p p p p J n δ ∂ξ ∂ ∂η ∂ ∂η ∂ ∂ξ ∂ ∂ξ ∂ ∂η ∂ ∂η ∂ ∂ξ ∂ ∂η ∂ γ ∂ξ∂η ∂ β ∂ξ ∂ α ∂η ∂ λ ∂ξ ∂ κ η ξ ξ η η ξ ξ η + ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − + ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − + ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − = ⎟ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + − + + 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 2 1 (3.20) ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − + − = ∂ξ ∂ ∂η ∂ ∂η ∂ ∂ξ ∂ η ξ ξ η u y u x v x v y J D 12 (3.21)

図 2-1(a)のように,二次元物体に迎角αで風が作用している状態では,抗力 F D ,揚力 F L による上向きの力 F y が作用していることになる.  ααsincos DLyFFF=+ (2.2)  これを次式で定義される抗力係数 C D ,揚力係数 C L を使って表すと  lDVCDFD2 21 ρ= , lDVCLFL221ρ= (2.3)  ( α α )ρcossin 21 2 DLyVDCCF=l+ (2.4)  ここで, ρ :空気密度,D:物体代表長, l :物体長さである.
図 2-6  隅欠き断面と隅切り断面の応答特性
図 2-8  隅欠き三次元角柱の応答特性
図 3-2  解析領域
+7

参照

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