第6章 前縁に曲率を有する角柱の周辺流れ特性
6.2.2 実験結果および考察
図6-12,6-13に模型中央断面(Z/B=0)における平均および変動圧力係数の分布を示
す.R/B≦0.1では,模型側面における平均圧力係数はほぼ一定になり, R/B が大きい ほど側面の負圧は低下するが,R/B≧0.2では,後縁付近(C~D)で圧力が回復してい る.また,変動圧力係数はR/Bが大きくなるほど低下し,R/B≧0.3では R/Bによる変 化はほとんどない.
図6-14,6-15に風速V=10m/sにおける平均および変動圧力係数のスパン方向の分布
を示す.測定位置は図6-12,6-13のC点から5mm下流側である.また,横軸は模型中 央からの距離を無次元化した Z/B である.平均圧力係数,変動圧力係数のいずれにも,
スパン方向に若干の変化が認められる.平均圧力係数に関して見れば,R/B≦0.1 では Z/B が大きいほど平均圧力係数が減少する.これは端板に近い(Z/B が大きい)部分で は,周辺流れが本来持っている流れの三次元性が,端板の効果によって拘束されるため に,流れが二次元的になり,剥離渦が強くなっているためであると考えられる.このよ うなは側面の圧力分布が平坦になる断面で顕著に見られ,後縁付近で再付着する断面で は見られない.
変動圧力係数は,R/Bが大きいほど変動圧力係数が低下し,前節で述べたタフトの振 れ幅の大小と傾向は一致している.しかし,図6-5(c)のようにR/B=0.2では模型中央部 のタフトが,ほかの部分のタフトに比べて明らかに大きく振れているのに対して,変動 圧力係数の分布にはその変化が明確には現れていない.
流れの三次元性を示す指標として,式(6.1)で表される変動圧力の相関をスパン方向の 2点間で算出する方法が良く用いられている6-5)~6-7).
( ) ( )
( ) ( )
∑ ∑
∑
−
⋅
−
−
⋅
= −
2 2
j j i
i
j j i i Pf
p p p
p
p p p
R p (6.1)
ここで,pi,piは測点iにおける圧力の時系列,圧力の時間平均である.
もし,対象としている流れ場が完全に二次元的であれば,変動圧力の相関は RPf=1 であるが,実際には流れの三次元性のために,スパン方向の距離が離れるほど0に近づ く.つまり,スパン方向の相関が低いほど,流れの三次元性が強いことを意味する.
図6-16に変動圧力のスパン方向相関を示しているが,R/Bが大きいほど,スパン方向 の相関が低いことを示している.剥離せん断層の挙動と圧力変動との間に密接な関係が あると考えると,スパン方向の相関が低いことは,流れの三次元性が高いと考えること ができる.しかし,前節のタフトの振れ幅に見られる傾向とは異なる.この違いは,あ る程度大きい圧力変動がなければタフトの振れは大きくならないのに対し,相関係数は
も,分母の圧力変動が小さい場合には相関係数の変化が大きくなることが原因であると 考えられた.そこで,このような影響を小さくするために,次式により平均値を含む形 で圧力の相関係数を算出した.
∑ ∑
∑
⋅
= ⋅
2 2
j i
j i P
p p
p
R p (6.2)
図6-17 に示した平均を含む圧力の相関係数は,全体的に見ればR/B=0の場合に相関 が最も低く,R/Bが大きいほど相関が高くなっている.しかし,模型中央部にあたるZ/B
≦1においては,R/B=0.2および0.3の相関係数はR/B=0の値を下回っている.これは,
タフト法による可視化実験結果において,模型中央部のタフトが大きく振れたことに対 応していると考えられる.
以上の結果から,平均値を含んだ相関係数(式(6.2))は,タフトの動きに対応してい るが,平均値を含まない変動圧力の相関係数(式(6.1))はタフトの動きと対応しないこ とが分かる.つまり,タフトの動きと平均値を含む相関係数は,単にスパン方向の変動 の大きさを示すのに対して,変動圧力の相関係数は,圧力変動の大きさに占めるスパン 方向の変動の割合を示している.これは,流れの三次元性の定義の違いよるもので,二 次元解析による結果が妥当であるかどうかの判断には前者を用いる必要があり,角柱に 作用する空気力の三次元性という観点で見る場合には,後者を用いる必要がある.
-2.0 -1.0 0.0
1.0 R/B=0
R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.2 R/B=0.3 R/B=0.4 R/B=0.5
M e an P res sure Co ef fi ci ent
A
B C D E
A B C D E
図6-12 平均圧力係数分布(中央断面,V=10m/s)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
1.0 R/B=0
R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.2 R/B=0.3 R/B=0.4 R/B=0.5
Flu c tu at in g Pr essu re C oe ffic ie nt
A B C D E
A
B C D E
図6-13 変動圧力係数分布(中央断面,V=10m/s)
-2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
R/B=0 R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.15 R/B=0.2 R/B=0.25 R/B=0.3 R/B=0.4
Me an Pr e ssu re C oe ffic ie n t
Z/B
図6-14 平均圧力係数分布(スパン方向,V=10m/s)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
R/B=0 R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.15 R/B=0.2 R/B=0.25 R/B=0.3 R/B=0.4
Fluct ua ti ng Pr e ss ure Co efficient
Z/B
図6-15 変動圧力係数分布(スパン方向V=10m/s)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
R/B=0 R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.15 R/B=0.2 R/B=0.25 R/B=0.3 R/B=0.4
C o rr e lation C o effici ent of Fluct uating P ressur e
Z/B
図6-16 変動圧力のスパン方向相関(V=10m/s)
0.95 0.96 0.97 0.98 0.99 1.00
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
R/B=0 R/B=0.05 R/B=0.1 R/B=0.15 R/B=0.2 R/B=0.25 R/B=0.3 R/B=0.4
C o rr elat ion Coeff ic ient of P ressur e
Z/B
6.3 まとめ
本章では,第4章で示された角柱近傍の流れの変化を実験的に検証するために,角柱 側面近傍にスパン方向に設置したタフトによる流れの可視化実験とスパン方向に配置し た圧力測定孔による表面圧力の測定を行った.タフトの振れ幅から見た流れの三次元性 と表面圧力のスパン方向相関との関係について検討を行った.また,これらの実験およ び解析から得られた主な結果を以下に列挙する.
1.ビデオ撮影された可視化映像を画像処理して,タフトの振れ幅を見ることにより,
流れの三次元性を知ることができ,タフトの振れ幅が大きいほど,圧力のスパン 方向相関が低い傾向があることを確認した.
2.R/B の増大によって,角柱側面近傍の流れの三次元性が低くなり,R/B=0.2 で 変化が顕著に現れる.
(1) R/B≦0.1 では,タフトが激しく振れ,高風速になるほど振れ幅は増加す
るため,流れの三次元性は高いと考えられる.
(2) R/B≧0.3 では,タフトはほとんど振れないため,流れの三次元性は低い
と考えられる.
(3) R/B=0.2では,風速 V≦5m/sでは R/B≦0.1と同様に高風速になるほど
タフトの振れ幅は増加するが,V≧7.5m/s では R/B≧0.3 と同様にほとん ど振れないことから,この風速域(Re = 3.4~5.1×104)でレイノルズ数 による周辺流れの変化が起こっていると考えられる.
3.タフトが動かない低風速域においても,三次元数値流体解析結果から,R/Bの増 大により流れの三次元性が弱くなるという傾向があることを確認した.
参考文献(第6章)
6-1) 流れの可視化学会編:新版流れの可視化ハンドブック,朝倉書店,1986.
6-2) 種子田定俊:画像から学ぶ流体力学,朝倉書店,1988.
6-3) 大屋裕二,深町信尊,渡辺公彦,杉谷賢一郎:扁平矩形柱周囲流における流れの
3次元性,土木学会第51回年次学術講演会講演概要集,第1部(A),pp.382-383,
1996.
6-4) 横井嘉文,亀本喬司:二次元的な境界層はく離流れに潜在する初期の三次元渦構
造(円柱上流境界層はく離の可視化観測),日本機械学会論文集(B 編),57 巻 534号,pp.427-433,1991.
6-5) Vickery, V. J. : Fluctuating lift and drag on a long cylinder of square cross-section in a smooth and in a turbulent stream, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 25, part 3, pp.481-494, 1966.
6-6) Bearman, P.W. and Obasaju, E.D. : An experimental study of pressure fluctuations on fixed and oscillating square-section cylinders, Journal of Fluid Mechanics, Vol. 119, pp. 297-321, 1982.
6-7) McLean, I. and Gartshore, I. : Spanwise correlations of Pressure on a rigid square section cylinder, Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics, Vol. 41-44, pp.797-808, 1992.
第7章 結論
本研究では,橋梁の主塔や高層ビルなどの塔状構造物の風荷重低減および空力弾性振 動抑制手法である断面の隅角部に丸みをつける方法について検討を行った.研究を進め る上では問題をできるだけ単純にすることが重要であると考え,対象とするモデルを前 縁隅角部のみに曲率を与えた二次元角柱とし,角柱の基本形状を辺長Bの正方形,隅角 部の曲率半径をRとして,R/Bをパラメーターとして検討を行った.また,実構造物へ の適用を考えると,R/Bを大きくし過ぎることは得策ではないと考えられるが,本研究 を前縁隅角部の曲率による空力特性の変化の基礎的研究として位置付け,R/Bを0~0.5 まで変化させて風洞実験と数値流体解析の両面からR/Bによる制振効果に関する検討を 行った.
各章の内容を要約すると,以下のようになる.
第1章は序論であり,塔状構造物の大型化によって問題となる風による構造物の振動 および風荷重の増加について触れ,構造物断面の隅角部形状を変更することの有効性を 示した.
第2章では,本研究で取り扱う問題に関する既往の研究成果について述べた.塔状構 造物に採用されることの多い断面辺長比の小さい角柱に生じる空力弾性振動とその特徴 および制振対策について述べ,塔状構造物の隅角部形状の変更による流体力学的パッシ ブ制振法に関して展望した.
第3章では,本研究で使用した数値流体解析法について述べた.まず,ブラフボディ の空力特性に数値流体解析を適用する上での問題点について触れ,その問題点を踏まえ た上で,本研究での数値流体解析における方針を示し,使用した解析手法について具体 的に述べた.
第4章では前縁に曲率を持つ角柱の静的空気力の特性について検討を行った.
1.迎角をα=0~15°の範囲で変化させた静的空気力測定結果から,以下のことが 確認された.
(1) R/B の増大によって,抗力係数は大幅に低下する.R/B=0.1 とした場合 でも,正方形角柱である R/B=0 に対して約 20%も低減することが確認さ れた.
(2) R/Bの増大によって,抗力係数が極小値を示す迎角は0°に近づく,その 迎角において揚力係数勾配が負から正へ変わる.
(3) R/B≦0.4 では迎角 0°において迎角に対する揚力係数勾配は負になる.
このことは準定常理論による判別式によると,迎角 0°でギャロッピング に対して空力的に不安定であることを示している.
上記(3)のように迎角 0°においてギャロッピングに対して不安定であることから,
迎角0°について詳細に検討を行うこととした.
2.迎角0°について定常表面圧力測定を行い,以下のことが確認された.
(1) 平均圧力分布形状には,完全剥離型,再付着型およびその中間の3つのパ ターンが存在し,R/Bとレイノルズ数によって,圧力分布形状が変化する.
測定した風速域内では R/B=0.2 の前後で圧力分布形状を分類することが できる.
(2) 表面の圧力変動から得られたストローハル数は,R/B=0.2を境に顕著に変 化し,R/B≦0.15ではSt≒0.13であるが,R/B≧0.25ではSt≒0.26とR/B
≦0.15の約2倍となる.
(3) R/Bの増大によって,側面における圧力の変動量は低下する.
(4) R/B=0.2 におけるストローハル数および圧力分布形状の変化は,矩形断
面の断面比 B/D=2.8 における変化と類似していることから,R/B=0.2 は 矩形断面のB/D=2.8と同様な臨界形状であると言える.
3.数値流体解析と風洞実験の両者から得られる空力特性を比較し,以下の知見を得 た.
(1) R/B=0.2の場合を除いて,二次元解析値は,ストローハル数,抗力係数,
前面および側面における圧力分布が,風洞実験による測定値とほぼ一致す ることから,二次元解析による結果も信頼できると考えられる.
(2) 抗力係数は二次元解析においても測定結果とほぼ一致しているが,三次元 解析を行うことによって,より測定値に近い値を得ることができる.これ は,背面における平均圧力および変動圧力の特性が,三次元解析によって 改善されることによるものである.
(3) R/B=0.2の平均圧力分布は二次元解析では再付着型,三次元解析および実