博 士(理 学) 並河 洋 学位 論文題 名
BIOSYSTEMATICS OF =THE GENUS STYLACTARIA
(HYDRACTINIIDAE, HYDROZOA) FROM HOKKAIDO, JAPAN
(北海道産アミネウミヒドラ属(ウミヒドラ科、
ヒドロ虫綱)のバイオシステマアイクス)
学 位論文内容の 要旨
StylactariaはHydractiniidae(ウ ミ ヒド ラ科 )に 属し 、 他 物に 付着 し て生 活す る海 産 の群 体 性ヒ ドロ 虫類 であ る 。Stylactariaは 主に 他の 動 物体 上に 生活 し 、 群体 を構 成する 個虫が栄養個虫、 生殖個 虫、 触手状個虫に分業している、 いわゆる多形性ヒド ロ虫の 一属である。St̲ylactariaの分類は、 従来、 生殖体の形態、 個虫構成、 及び各 々 の個 虫 の形 態を類別形貿とし てなされてきた。 しかし 、 栄養個虫の大きさの違い を も とに 識 別さ れて いた 近縁 種 が同 種で ある 可 能性 も指 摘さ れて いるように、 これま で 用 いら れ てき た類別形貿は変異 に富み、 正確に種を同定 できない現状にある。 また 、 こ れ ま でStylactariaの 系 統 関 係 を 解 明 す る た め の情 報 はほ とん ど得 ら れて いな い。
従って 、 種を正確に分類し、 さらに、 系統関係解朋の端緒を得るためにはそれぞれの 種の特 性を明確にする必要がある 。
北 海 道 か ら は 非 常 に 近 縁で 形態 差 の少 ない とさ れるStylactaria canchicola(Yama da,1947)とS. uchldaj(Ya■ada,1947)が知られている 。 また、 最近Stylactaria iulti霊ranosi Naiikawa,1991が 発見 され た 。 本研 究で は、 このStylactaria3種 の 生 活史 を 多数 の標本を用いて詳 細に研究し、 それぞれの 種の特性を明らかにした。 さ ら に、 その 結果 にも とづ き 、stヱlactaria属の 分類 及び 系統 関係について考察した 。 第1章で は、 まず3穐の 再 記載 を行 なっ た 。S. conchicolaは、 今 回 新し い個 虫型 が 発見 さ れ、 多 形の 程度 の 高い 種で あることが明らかと なった。 この種の群体は2型 の栄養 個虫、 2型の生殖個虫、 1型の触手状膕虫で構成されていた。 また、 個虫の有 無に関 して群体間変異がみられた 。 一方、Stylactaria uchidaiは、 原記載通り、 全
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て の 群 体 が そ れ ぞ れ1型 の 栄 養 個 虫 、 生 殖 個 虫 、 触 手 状 個 虫 で 構 成 さ れ て い た 。 以 上 の2種 は 雌 の 生 殖 体 の 構 造 に 次 の よ う な 連 い が あ っ た 。 ≦ , conchicolaの 雌 の 生 殖 体 の 柄 は 円 筒 状 で モ の 周 囲 を 複 数 の 卵 が 取 り 囲 ん で い た の に 対 し 、 量 ・uchidaiの そ れ は 杯 状 で モ の 上 に 1個 の 卵 が あ っ た 。 こ の 様 な 個 虫 構 成 と 生 殖 体 の 構 造 に お け る 差 異 で
こ の2種 は 形 態 的 に 識 別 で き る こ と が 判 明 し た 。
st亅 lactaria■ult.igranosiの 群 体 は4型 の 個 虫 、 1型 の 栄 養 個 虫 、 2型 の 生 . 殖 個 虫 、
1型 の 触 手 状 個 虫 で 構成 さ れて いた 。個 虫 構成 にはs− .conchicolaと 同様 に群 体間 変 呉 が あ っ た 。 本 種 は 生 殖体 が真 水 母様 体で ある こと で 量.canchicolaとS. uchjdaiか ら、 また、 生殖体が触手を欠き生殖個虫から遊離しなLr丶こと、 生殖体中で卵が幼生ま で発生していたこと で他の真水母様体を持っ種 から識ヨl』できた。 この 種の群体はすべ て雌であった。
野 外 に お ぃ て 、S. uchidaiの 群 体は 岩石 やフ ジッ ボ の殻 等様 々な 付 着基 上か ら採 集 されたのに対して、 豊.conchicolaと墨・iultiSranosiの群体は各々特定の巻貝HQ璽壘!Q poia aiussitatu: Nassarius iultiSranosusの 生貝 の 貝殻 上に のみ みら れ た。 この こと は 、 墨.conchicolaと量.iultigranosiとが付着基特異性の強い 種であることを示 唆し、S. conchicolaをS. uchidaiから、 ま た、 量.niultiSranosiを記載不十分な近 縁種 か ら識別す る形貫として有用であった 。 しかしながら、 野外採 集は各穐の棲息可 能な 付 着基を網 羅していなぃ可能性がある 。 この付着基特異性の分類 上の価値は、 各 々 の 穐 の 付 着 ・ 変 態 可 能な 付着 基 を実 験的 に検 証す る こと で明 確に で きる であ ろう 。 第2章 で は 、 上 記の こ とを ふま えSt,ylactaria3種 の幼 生期 の特 性 を調 査し 、以 下 の様 な 種間 の差 異を 朋ら か にし た。 1)S. conchicola絃 配偶 子を 放出 し 、S. uchi 虹iとS.IultiSranosiは 胚 を保 謹した。 2)幼生の形態は棍棒状であ った。 しかし、
量.uchidaiの幼 生 暑ま 体全 体に 刺胞を持 っ匍ふく型で、 s. conchicolaとS.lultiSran 吐iの幼 生は 、後 端 部に 刺胞 の充 満 した 待謹 型( 前端 部 を接 地゛ して 巻貝 の 通過 を侍っ 型) で あっ た。 3)変 態実 験の 結 果、s. uchidaiは 付着 基特 異性 を持 た なぃgenera listで あるのに 対し、 量.conchicolaとS. NultiS̲ranosiとは各々の 付着基である巻貝 の開 ロ 部付 近で しか 変態 で きな いspecialistで ある こと を確認した。 以上の幼生期の 特性は3種の違いを さらに明確にした。
第3章 では 、 今 回新 たに 発見 さ れたS. conchicolaの触 手状 個虫 につ い ての 新たな
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知 見 を 報 告 し た 。 触 手 状 個 虫 は 、 先 端 に 刺 胞 の 充 満 し た 糸 状 の 個 虫 で 、 他 の 付 着 動 物 と の 境 界 部 域 に 多 数 分 布 し て い た 。 こ の 個 虫 は 餌 を 捕 ら え る こ と が で き な か っ た 。 し か し 、 こ の 個 虫 が 隣 接 す る コ ケ ム シ 類Cel豊 堂orella hyalinaの 群 体 の 虫 体 の 触 手 が 起 こ す 水 流 に 乗 っ て そ の 口 部 に 接 触 し 刺 胞 を 発 射 す る 事 が 観 察 さ れ た 。 接 触 直 後 、 コ ケ I
厶シ群体は全虫体を 殻内に引き込んだ 。
以 上 の 観 察 事 実 を ふ ま え 、C,hyalinaに 対 す る 接 触 実 験 を 行 な っ た 。 栄 養 個 虫 の 触 手 で 接 触 し た 場 合 、C. hyalinaの 群 体 は 接 触 を 受 け た 虫 体 だ け を 約2分 間 殻 内 に 引 き 込 ん で い た の に 対 し 、 触 手 状 個 虫 の 接 触 で は 約30分 間 全 虫 体 を 殻 内 に 引 き 込 ん だ 。 連 続 接 触 実 験 に よ る と 、 虫 体 の 引 き 込 ん で い た 時 間 は 、 栄 養 個 虫 で は 変 化 し な か っ た が 、 触 手 状f固 虫 の 場 合 指 数 的 に 増 加 し た 。 こ の 様 なc.hjyalinaに 対 す る 触手 状個 虫 と 栄 養 個 虫 の 接 触 効 果 の 差 は 、 刺 胞 構 成 の 違 い に よ る も の で あ る こ と が 朋 ら か と な っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、S. conchicolaの 触 手 状 個 虫 は 他 の 付 着 動 物 と の 棲 息 場 所 を め ぐ る競争における防御 用の個虫であるこ とが示睦された。
第4竃 で は 、 上 記 の3種 の 差 異 を ま と め 、Stylactariaの 分 類 に つ い て 考 寮 し た 。 上 述 の よ う に 、 こ れ ら3種 は 形 態 と 幼 生 期 の 特 性 に よ っ て 十 分 に 識 別 で き た 。 形 態 形 貿 と し て は 、 生 殖 体 の 形 態 と 個 虫 構 成 が 有 用 で あ っ た 。 従 来 用 い ら れ て い た 個 虫 の 大 き さ 、 触 手 数 は 種 間 で 重 な り が あ る た め 類 別 形 買 と は な ら な か っ た 。stヱlactariaの 分 類 に お ぃ て 、 生 殖 体 型 は5型 ( 退 化 水 母 、 真 水 母 様 体 、 隠 水 母 様 体 、 異 水 母 様 体 、 生 殖 腺 が 直 接 生 殖 個 虫 の 体 壁 中 に 発 達 す る 型 ) と さ れ て い た が 、S. conchicolaとS― . りchidaiの 生 殖 体 は 棒 状 体 で あ っ た の で 、 生 殖 体 型 は6型 に 再 類 別 で き た 。S. conch icolaと ≦ .multiSranosiの 個 虫 構 成 に 砿 群 体 間 変 異 が あ っ た 。 こ の こ と か ら 、SnJ a― ! ! !! ! !で は単 一 の標 本を も とに 個虫 構 成を 特定 で きな ぃ。 特 に、 触 手 状個 虫の 有 無 は、 群 体 聞変 異が 苦 しい ので 、 指 標形質とはなら なぃ。 また、 S.£Qn!hic01aや§.m― u―!!!g!!nQ! !の様に付着基特 異的な種は、 そ のことが実験で検証 された場台にのみ 、 モ れ を も と に 近 縁 穐 か ら 識 別 す べ き で あ ろ う 。 以 上 の こ と か ら 、 多 数 の 標 本 を 用 い た 生 活 史 研 究 に よ っ て 各 々 の 群 体 の生 殖 体の 形態 、 個 虫構 成 、 及び 、 幼 生期 の 特性 (特 に 、 付 着 基 特 異 性 ) を 明 ら か に し 、 そ れ ら を も と に し て 種 を 決 定 し な け れ ば な ら な い こ と が結諭づけられた。
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学位 論文 審査の要旨 主 査 教授 馬渡 駿介 副 査 教授 久田 光彦 副査 助教授 片倉晴雄
学 位 論 文 題 名
BIOSYSTEHATICS OF THE GENUS STYLACTARIA (HYDRACTINIIDAE, HYDROZOA) FROM HOKKAIDO, JAPAN
( 北 海 道 産 ア ミ ネ ウ ミ ヒ ド ラ 属 ( ウ ミ ヒ ド ラ 科 、 ヒ ド ロ 虫 網 ) の バ イ オ シ ス テ マ ・ テ ィ ク ス )
他 物 に 付 着 し て 生 活 す る 海 産 の ウ ミ ヒ ド ラ 科 の 仲 間 は , の 見 ら れ る 、 い わ ゆ る 多 形 性 ヒ ド ロ 虫 で あ る 。 こ の 科 に お
群体を構成する個虫に分業 ける従来の類別形質は変異
に 富 み 、 正 確 に 種 を 同 定 で き な い 現 状 に あ る 。 し た が っ て 系 統 関 係 の 解 明 も ま だ ほ と ん ど な さ れ て い な ぃ . そ こ で 申 請 者 独 , 北 海 道 産 ア ミ ネ ウ ミ ヒ ド ラ 属 近 縁3種 、 す な わ ち Stylact4ria conchicola (Yamada, 194 7). S. uchidai (Yamada, 194 7). Sよ rf最 近 申 請 者 に よ っ て 発 見 さ れ たSty la ctaria multit; ranosi Nam ikawa,1991を 材 料 に 、
各 々 の 種 の 特 性 を 明 ら か に し 、 種 を 正 確 に 分 類 し 、 さ ら に 系 統 関 係 解 明 の 端 緒 を 得 る こ と を 目 的 に 研 究 を 行 っ た 。
申 請 者 倣 ま ず 、 3種 の 再 記 載 を 行 な っ た 。 そ の 結 果 、 ≦ . conchicolaは 、 新 し い 個 虫 型 の 発 見 に よ り 、2型 の 栄 養 個 虫 、2型 の 生 殖 個 虫 、 1型 の 触 手 状 個 虫 が 構 成 要 素 で あ る こ と 、S.― uchiCl,ai斌1型 の 栄 養 個 虫 、 生 殖 個 虫 、 触 手 状 個 虫 で 構 成 さ れ て い る こ と 、 そ し てS. multiSranosiは1型 の 栄 養 個 虫 、 2型 の 生 殖 個 虫 、 1型 の 触 手 状 個 虫 を 持 っ こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 生 殖 体 構 造 に お ぃ て も こ れ ま で 未 知 の 種 間 差 異 を 発 見 し 、 個 虫 構 成 と 生 殖 体 の 構 造 に お け る 差 異 で 3種 は 形 態 的 に 識 別 で き る こ と を 明 か に し た 。
さらに申請者は野外観察を行い、S. uchidaiは岩石やフジツボの殻等様々な付着基
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上 に 、 他2種 は 各 々 特 定 の 巻 貝 、 エ ゾ サ ン シ ョ ウ ガ イHomalopoma amussitatuacと ヒ メ ム シ ロ ガ イNassarius multigranosusの 生 貝 の 貝 殻 上 に の み 棲 息 す る こ と を 確 認 し 、
付 着 基 特 異 性 の 違 い も 識 別 形 質 と し て 有 用 で あ る こ と を 示 唆 し た 。 続い て申 請 者は 、幼 生期 の 特性 を調 査し 、次 の 様に 種間 差を さら に 明確 にし た。 @ I
s.conchico―laは 配 偶子 を放 出し 、S. uchidaiとS. multiKranosiは 胚を 保護 する 。
@S. uchidaiの 幼 生 は 体 全 体 に 刺 胞 を 持 っ 匍 旬 型 で 、S. conchicolaとS. multig ranosiの幼 生 は、 僮端 部に 刺 胞の 充満 した 待機 型 (前 端部 を接 地し て 巻貝 の通 過を 待 つ 型 ) で あ る 。 ◎ 変 態 実 験 の 結果 、豊 .uchidaiは付 着基 特異 性を 持 たな ぃgenerali stであるのに対し、 S―・conchicolaとS―・multigranosiとは各々の付着基 である巻貝 の開口部付近でしか変 態できないspecialistであ る。 さらに、 今回新たに 発見された S.conchicolaの 触手 状個 虫に つ いて 実験 を行い、 それが他の付着 動物との棲息場所獲 得 競 争 に お け る 防 御 用 の 個 虫 で あ る こ と を 示 唆 す る 結 果 も 得 て い る 。 3種間 の系 統関 係 に関 して は、 量 , uchidaiとS. conchicolaが より近縁であると結 諭づ けた 。 これ は、 この2種が棒状生 殖体という共有形質持ち、生 殖体の形は系統関係 を 表 わ す 子 孫 形 貰 で あ る と の 判断 に基 づ くも ので ある 。 一 方、S. conchicolaとs.
multigranosiはより多 くの幼生形質を共有する。 しかし、 それら独付着基 特異性に付 随 す る 適 応 形 貫 で あ り 、 真 の 系 統 関 係 を 反 映 し て い な い と 申 請 者 は 判 断 し た 。 最 後に 申 請者 は、stヱlacよaria属 全 体の 分類 にお いて は 、生殖 体の形態と付着基特 異 性が 有用 で あり 、従 来用 い られ てい た個 虫の 大 きさ 中触 手数 は種 間 で重 なり があ る た め類 別形 貿 とは なら ず、 個 虫構 成お よび 触手 状 個虫 の有 無に は群 体 間変 異が ある た め、 それ の みで は指 標形 買と は なら ない と結諭した。 また、stヱlactariaの生殖体型 にはいくっかのサプタ イプが認められ、 これらの形貫は≦ ty lactaria属内の系統関 ̄係 の解析に有用であるこ とを示唆した。
以上 の研 究 は、 地道 な観 察 と実 験に よっ て多 形 性ヒ ドロ 虫近 縁種 間 の分 類を 確か の も のに し、 今 後の 系統 関係 の 解析 に端 緒を 開い た もの とし て高 く評 価 され る。 審査 員 一 同は 、参 考 藷文 内容 と最 終 試験 結果 を含 めて 、 申請 者が 博士 (理 学 )の 学位 を受 け るに十分の資格がある ものと認めた。
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