博士(歯学) 亀山純香 学位論文題名
Short‑term mechanical stress inhibits osteoclastogenesis via suppression of DC‑STAIVIP in RAW264 . 7cells (短時間の機械的刺激はRAW264.7 細胞においてDC‑STAMP の 発 現 抑 制 に よ っ て 破 骨 細 胞 分 化 を 抑 制 す る )
学位論文 内容の要旨
【緒言】破骨細胞は造血幹細胞由来の多核の巨細胞で、生体内で唯一骨吸収能を有し、骨 のりモデリングに重要な役割を果たしている。破骨細胞の分化や機能に異常をきたすと、
大理石骨病や骨粗鬆症、関節リウマチなどが誘発されるため、破骨細胞は様々な骨疾患の 標的細胞として注目されており、破骨細胞分化の制御メカニズムの解明は非常に重要であ る。RANKLは破骨細胞分化に必須の因子である。RANKLシグナルはマスター転写因子である NFATclを誘導し、NFATclによって破骨細胞の分化や機能に必要な破骨細胞関連遺伝子の多 くが転写制御されている。
機械的刺激は骨のりモデリングに重要な制御因子である。機械的刺激が欠如すると、骨粗 鬆症を引き起こし、過剰な機械的刺激は病的な骨吸収を引き起こす。近年、機械的刺激が骨 組織に受容、伝達される分子メカニズムを解明するため、様々な実験系が考案されている。
代表的なものとして、潅流刺激・圧迫刺激・伸展刺激・静水圧などを機械的刺激として用い た実験系があり、機械的刺激が、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞の分化やアポトーシスを誘導 することが報告されている。骨芽細胞や骨細胞に対して機械的刺激をかけた系は数多く報告 されているが、破骨細胞を単独培養して、直接機械的刺激を加えた報告はわずかである。そ こで当研究室では破骨細胞の単独培養を行い、直接的な機械的刺激による破骨細胞分化への 影響について検討を行ってきた。これまでに、48時間の機械的刺激によって破骨細胞分化 が抑制されたことを報告したが、刺激を加えた直後の変化については明らかにされていなぃ。
そこで本研究では、24時間までの短時間の機械的刺激が、破骨細胞の分化に及ばす影響と そのメカニズムを解明することを目的とした。
【 材料 と 方 法 】RAW264.7細 胞を、RANKL添加 培養液 を用いてtypeIcollagenーcoated BioFlex Culture Platesにて72時間培養した後、Flexercell tension systemを用い、30 cycle/分、10%伸展刺激を6、12、24時間作用させた。TRAP染色にて、破骨細胞(2核以 上)数および巨大破骨細胞(8核以上)数を測定し、破骨細胞関連遺伝子のmRNA発現量の変 化をりアルタイムPCR法にて定量した。続いて、DC―STAMP、E−cadherin、IntegrinBVおよ ―354―
びIntegrinロ3の タ ン パ ク 質 発 現 量 の 変 化 を ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ 法 に て 解 析 し た 。 さ ら に 、NFATcl、2、 お よ び3のmRNA発 現 量 の 変 化 を り ア ル タ イ ムPCR法 に て 定 量 し 、NFAT の 転 写 活 性 の 変 化 を ル シ フ ェ ラ ー ゼ ア ッ セ イ に て 測 定 し た 。
【 結 果 】24時 間 の 伸 展 刺 激 を 加 え る こ と に よ っ て 、 コ ン ト ロ ー ル 群 と 比 較 し て 、TRAP陽 性 破 骨 細 胞 数 お よ ぴ 巨 大 破 骨 細 胞 数 は 有 意 に 減 少 し た 。 破 骨 細 胞 の マ ー カ ー と さ れ る 破 骨 細 胞 特 異 的 遺 伝 子(TRAP、CTR、MMP−9、Cath−K、CIC7お よ びATP6i)のmRNA発 現 量 は 、6、12、 24時 間 の い ず れ の 時 点 で も 有 意 に 減 少 し 、TRAP陽 性 破 骨 細 胞 数 と の 相 関 が 認 め ら れ た 。 ま た 、 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 に 必 須 の 融 合 因 子 で あ るDC−STAMPお よ び0c−STA卿 のmRNA発 現 量 も 伸 展 刺 激 に よ っ て 減 少 し た 。DCーSTA卿 の タ ン パ ク 質 発 現 量 は 、24時 間 の 伸 展 刺 激 に よ っ て 顕 著 に 減 少 し 、 細 胞 接 着 因 子 で あ るE―cadherin、Integrin8Vお よ びIntegrinロ3の タ ン パ ク 質 発 現 量 も 減 少 し た 。 破 骨 細 胞 分 化 のmasterswitchで あ るNFATc1のmRNA発 現 量 は 、6時 間 で 減 少 し 、12時 間 以 降 増 加 し 、NFATc2お よ び3のmRNA発 現 量 は 変 化 し な か っ た 。 NFATの 転 写 活 性 は 、 伸 展 刺 激 に よ っ て 有 意 に 増 加 し た 。
【 考 察 】 破 骨 細 胞 が 多 核 化 す る た め に 、 細 胞 融 合 は 必 須 の 現 象 で あ り 、 細 胞 同 士 が 接 着 し 、 細 胞 と 骨 が 接 着 し 、 細 胞 膜 同 士 が 融 合 す る と い う 多 く の 段 階 か ら 成 り 立 っ て い る 。 DC―STAMPは 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 に 必 要 不 可 欠 で あ る と 報 告 さ れ て お り 、NFATclはDC−STAMP の プ ロ モ ー タ ー 領 域 に 結 合 し 直 接DC―S1.AMPの 発 現 を 誘 導 す る た め 、NFATclIDC―STAMPシ グ ナ ル は 、 破 骨 細 胞 の 多 核 化 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 近 年 、OC―STAMPが 同 定 さ れ 、 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 はOC―STAMPとDC―STAMPに よ っ て 協 同 的 に 調 節 さ れ て お り 、0C−STAMPと DC―STAMPはRANKL一NFATc1シ グ ナ ル に よ っ て 誘 導 さ れ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 本 研究 で は 、 伸 展 刺 激 に よ っ て 破 骨 細 胞 数 と と も にDCーSTAMPと0c−STAMPのmRNA発 現 量 が 減 少 し、
さ ら に 、DC−STAMPの タ ン パ ク 質 発 現 量 も 伸 展 刺 激 に よ っ て 減 少 し た 。 こ れ ら の 結 果 よ り 、 伸 展 刺 激 が 破 骨 細 胞 の 分 化 を 抑 制 し た の は 、DC―STAMPとOCーSTAMPの 発 現 抑 制 に よ っ て 細 胞 融 合 が 阻 害 さ れ た の が 原 因 と 考 え ら れ た 。
接 着 因 子 で あ るEーcadherinとIntegrinaVロ3も ま た 、 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 に 関 係 し て い る 。E−cadherinは 前 駆 細 胞 同 士 の 接 着 に 重 要 な 役 割 を 果 た す こ と が 知 ら れ て い る 。 本 研 究 で は 伸 展 刺 激 に よ っ てE−cadherinのmRNA発 現 量 と タ ン パ ク 質 発 現 量 が 減 少 し た 。 一 方 で 、 IntegrinaVロ3は ヘ テ ロ ダ イ マ ー と し て 機 能 し 、 前 駆 細 胞 が 骨 と 接 着 す る た め に 重 要 で あ る と 報 告 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、IntegrinロVとIntegrinロ3の い ず れ もmRNA発 現 量 と タ ン パ ク 質 発 現 量 が 減 少 し た た め 、 細 胞 融 合 に 必 要 なIntegrinaV日3が 減 少 し た と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 伸 展 刺 激 が 破 骨 細 胞 の 分 化 を 抑 制 し たの は 、DC―STAMPと0C―STAMPと同 様 に 、 E−cadherinとIntegrinQVロ3の 発 現 が 抑 制 さ れ た こ と も 影 響 し た と 考 え ら れ た 。 NFATc1は 破 骨 細 胞 分 化 に 必 須 の 転 写 因 子 で 、 多 く の 破 骨 細 胞 関 連 遺 伝 子 を 転 写 制 御 し て
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い る 。 今 回 、 伸 展 刺 激 に よ っ て 、NFATclに よ っ て 転 写 制 御 さ れ る 破 骨 細 胞 関 連 遺 伝 子 のmRNA 発 現 量 や タ ン パ ク 質 発 現 量 が 減 少 す る こ と を 見 い だ し た 。 こ の こ と は 、NFATc1のmRNA発 現 量 が6時 間 で 減 少 し た こ と に よ る の か も し れ な い 。 し か し な が ら 、NFATc1のmRNA発 現 量 が 12時 間 以 降 増 加 し た こ と や 、NFATの 転 写 活 性 が 増 加 し た こ と は 、 こ の 現 象 を 説 明 で き な い こ と か ら 、 伸 展 刺 激 に よ っ てNFATの 転 写 活 性 を キ ャ ン セ ル す る 負 の 制 御 因 子 が 誘 導 さ れ た 可 能 性 が 考 え ら れ た 。 例 え ぱ 、 伸 展 刺 激 に よ っ てNFATc1に 対 す る 転 写 抑 制 因 子 が 誘 導 さ れ た 可 能 性 や 、 破 骨 細 胞 関 連 遺 伝 子 の エ ピ ジ ェ ネ テ ィ ッ ク な 変 化 に よ る 遺 伝 子 の 発 現 抑 制 が 生 じ た 可 能 性 を 推 測 で き る が 、 さ ら な る 研 究 が 必 要 で あ る 。
【 結 論 】 短 時 間 の 伸 展 刺 激 に よ っ て 破 骨 細 胞 の 分 化 が 抑 制 さ れ た 。 こ れ は 、DC―STAMPな ど の 細 胞 融 合 に 必 要 な 分 子 の 発 現 が 、 伸 展 刺 激 に よ っ て 抑 制 さ れ た た め に 、 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 が 抑 制 さ れ た こ と に よ る と 示 唆 さ れ た 。
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学 位論文 審査の要旨 主査 教授 飯田順一郎 副 査 教 授 鈴 木 邦 明 副 査 教 授 網 塚 憲 生
学 位 論 文 題 名
Short‑term mechanical stress inhibits osteoclastogenesis via suppression of DC ― STArvIP in RAW264 . 7cells (短時間の機械的刺激はRAW264.7 細胞においてDC‑STAMP の 発 現 抑 制 に よ っ て 破 骨 細 胞 分 化 を 抑 制 す る )
審 査 は審 査 担当 者 が 一同 に 会し て 約 1 時間半 かけて行 った。ま ず申請者に 本 論文 の 概 要の説明 を求め、 口頭試問 形式で提 出論文の 内容及び 関連分野に つい て 試 問 し た 。 申 請 者 は 論 文 の 概 要 を 以 下 の よ う に 説 明 し た 。
【目 的 】 機械的刺 激は骨の りモデリ ングにお いて重要 な役割を 果たしてい るこ とが 明 ら かにされ つっある が、破骨 細胞に対 して機械 的刺激を 直接作用さ せた 報告 は 少 ない 6 こ れ まで 我 々 は破 骨 細胞 分化 誘導系に 48 時間の伸 展刺激を直 接 作用 さ せ た場合、 破骨細胞 の分化誘 導能が抑 制される ことを報 告した。本 研究 では 、 6 時 間か ら 24 時 間 ま での 短 時間 の 伸展刺 激が破骨 細胞分化 にどのよう な 影響を与えるかを検討した。
【材料と 方法】RAW264.7 細 胞を、 RANKL 添 加培養液を 用いて 72 時間培養した後、
Flexercell tension system を用 い 、 30 cycle/ 分、 10 % 伸展刺激 を 6 、 12 、 24 時間作用 させた。 TRAP 染色にて 破骨細胞( 2 核以上)数およぴ巨大破骨細胞( 8 核 以上)数 を測定し 、破骨細 胞関連遺伝 子の mRNA 発現 量の変化 をりアルタイム PCR 法に て 定 量し、タ ンパク質 発現量の 変化をウ ェスタン ブロッテ ィング法に て解 析した。
【結 果 】 24 時間の伸 展刺激に よって、 コントロ ール群と 比較して 、 TRAP 陽性破 骨細 胞 数 および巨 大破骨細 胞数は有 意に減少 した。破 骨細胞の マーカーと され る破骨細胞特異的遺伝子(TRAP 、 CTR 、MMP ー9 、Cath ―K 、ClC7 およぴATP6i )のmRNA 発現 量 は 、6 、 12 、 24 時 間のいず れの時点 でも有意 に減少し た。 DC ― STAMP お よ ぴ OC − STAMP の mRNA 発現量も伸 展刺激に よって減 少した。 DC − STAMP のタン パク 質発 現 量 は、 24 時 間 の 伸展 刺 激に よ っ て顕 著 に 減少 し 、細 胞 接 着因 子であ る EIcadherin 、 IntegrinaV お よ び Integrin ロ 3 のタ ンパク質 発現量も 減少した 。
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NFATcl の mRNA 発 現量 は 、 6 時 間 で 減 少 し 、12 時間 以降増 加し 、NFATc2 およ ぴ3 のmRNA 発 現量 は変 化し なか った 。NFAT の転 写活 性は 、伸 展刺激によって有意に 増加 した 。
【考察】DC ―STAMP は破骨細胞の細胞融合に必要不可欠である。近年、OC ーSTAMP が同 定さ れ、 破骨 細胞 の細 胞融 合はOC ―STAMP とDC ―STAMP によって協同的に調 節さ れて いる こと が明 らか とな った。 本研 究で は、 伸展 刺激によって破骨細胞 数 と と も にDC −STAMP とOC ー STAMP の mRNA 発現 量が 減少し 、さ らに DC ― STAMP の タン パク 質発 現量 も伸 展刺 激に よって 減少 した 。こ れら の結果より、伸展刺激 が破骨細胞の分化を抑制したのは、DC ―STAMP とOC −STAMP の発現抑制によって細 胞 融 合 が 阻害 され たこ とが 原因 と考 えら れた 。IntegrinQV ロ 3 は 前駆 細胞 と骨 との 接着 、E ー cadherin は前 駆細胞同士の接着に重要な役割を果たすことが知ら れ て い る 。 本 研 究 で は 伸 展 刺 激 に よ っ て E ー cadherin 、 IntegrinQV お よ び Integrin ロ3 のmRNA 発 現量と タン パク 質発 現量 がい ずれ も減 少し た。 従っ て、
伸展 刺激 が破 骨細 胞の 分化 を抑 制した のは 、E −cadherin とIntegrinQV ロ3 の発 現が 抑制 され たこ とも 影響 した と考え られ た。
本 研究 では 、伸 展刺 激に より 、NFATc1 に よっ て転 写制 御される破骨細胞関連 遺 伝 子 の mRNA 発 現量 や タ ン パ ク 質 発 現 量 が減 少し た。 NFATc1 の mRNA 発現 量が 12 時 間以 降増 加し たこ と、 およ ぴNFAT の転 写活 性が 増加 したことは、この現象 を説 明で きな い。 すな わち 伸展 刺激に よっ てNFAT の 転写 活性をキャンセルする 負の制御因子が誘導された可能性が考えられるが、さらなる研究が必要である。
【 結 論 】 短 時 間 の伸 展 刺 激 に よ っ て 破 骨 細胞 の分 化が 抑制 され た。 これ は、
DC ― STAMP など の細 胞融 合に 必要な分子の発現が、伸展刺激によって抑制された た め に 、 破 骨 細 胞 の 細 胞 融 合 が 抑 制 さ れ た こ と に よ る と 示 唆 さ れ た 。 以 上 の 論 述 に 引 き 続 き 、 以 下 の 項 目 を 中 心 に 口 頭 試 問 を 行 っ た 。 1 ) IntegrinaV ロ3 と破 骨細 胞分 化の関 連性 にっ いて
2 ) 矯正カ と歯 の移 動に つい て
3 ) 機械的 刺激 と生 理現 象の 再現 性に つい て 4 ) 本研究 の今 後の 方向 性に つい て
矯正 カに よる 歯の 移動 のメ カニ ズムに おい て、 破骨細胞前駆細胞などに機械 的 刺激 が直 接加 わっ た場 合に は、 破骨細 胞の 分化 誘導が抑制されるが、その要 因 を明 らか にし た研 究成 果で ある 。機械 的刺 激と 骨代謝との関連について、一 っ の要 因を 明ら かに した 成果 であ り、骨 代謝 の分 野における新たな現象を提示 し た論 文と 高く 評価 でき る。 口頭 試問に おい て、 申請者からは明快な回答と説 明がなされ、さらに今後の研究の展望についても評価された。審査担当者は、申請 者 が 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
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