博 士 ( 農 学 ) 山 村 卓 也
学 位 論 文 題 名
Study on efficient recycling of phosphorus in sewage sludge using secretory acid phosphatase
(酸性ホスファターゼを用いた
下水汚泥中リンの効率的リサイクルに関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
世界人口は爆発的な増加を続けており、それに伴い食糧不足も重大な問題となりつっある。作物 生産のために必須となる元素の中でも特に、リンはその原料となるりン鉱石の枯渇が懸念されてい るため、限りあるりン資源を効率的に循環利用していかなければならない。下水汚泥は、廃棄物の 中ではりンの含有率および発生量がともに高く、効率的に植物が吸収・利用できれぱ将来重要なり ン資源となる可能性を持っている。しかし、植物が直接利用できない形態のりン化合物が多く含ま れているため、下水汚泥に含まれるりンの利用効率は低い。これまでのところ、下水汚泥中に含ま れるりンの効率的利用に関する研究はほとんど行われていない。
マメ科植物のルーピンは低リン耐性が強いことが知られている。ル・ーピンは根から大量の酸性ホ スファターゼ(APase)および有機酸を分泌することにより、根圏の有機態リンや難溶性無機態リンか ら 無機態リ ンを生 成して吸収・利用することが知られている。そこで、本研究ではこのAPaseおよ び有機酸の機能に着目し、これらを用いた下水汚泥中リンの効率的利用を目的として実施した。さ らにルーピンは低リン条件に適応するためにクラスター根を発達させることからクラスター根によ るAPase分 泌 や 下 水 汚 泥 中 リ ン 利 用 能 に つ い て の 検 討 も 行 い 、 以 下 の 結 果 を 得 た 。
] : 金 泌 性 酸 性 杢 墨772ニ 塗 蠱 よ 墜 之 三Z酸 t三 よ 盃 王 丞 沍 泥 丑 ≧ らQ堕Z溶 出 効 墨 下水 汚泥中に おけるAPaseの安 定性を 、高分子 処理汚 泥(HM汚 泥)と 鉄・石灰 処理汚泥(Fe‑Ca 汚泥)で調査したところ、いずれの汚泥中においても酵素活性は低下し、特にFe‑Ca汚泥中で活性の 低下が顕著であった。このことより、汚泥中に含まれるりンや重金属の他に汚泥処理方法の違いが 酵 素の安定 性に関 与してい ること が示され た。しか し、HM汚 泥におい ては、添加直後から6時間 後 までは20% 以上の 活性を維持しており、APaseが汚泥中の有機態リンに十分働く可能性が示され た。
HM汚 泥 に 根分 泌 性APaseお よ び ク エン 酸 を 添加 し て その 働きを 調べた 。分泌性APaseの 添加 量が増加するに従って、汚泥中の有機態リンの減少、および無機態リンの増加が認められ、クエン 酸の添加量に比例して汚泥からの無機態リン溶出量が増加した。以上より、これらの分泌物が下水 ―83―
汚泥からのりン放出に効果があることが示さ れた。次に、分泌性APaseや クエン酸の機能をさらに 詳し く分析するため、HM汚泥中の りン化合物を分画、定量して様々なりン化合物組成の変 化を調 査した。APaseは 主に汚泥中の低分子可溶性有機態リンを加水分解して可溶性無機態リンを生成し、
クエン酸は汚泥中の難溶性無機態リンから可 溶性無機態リンを放出することが明らかになった。ク エン酸には金属イオンと結合して難溶沈殿化 している有機態リンを可溶化する働きも認められた。
APaseのみの添加 では、生成した可溶性無機態リンの大部分が汚泥中の金 属イオンと難溶性無機態 リンを形成したためにりン放出効果は低かっ た。そこで、APaseとクエン 酸を同時に添加すること により、可溶性無機態リンの再沈殿化は防が れ、さらに汚泥中の金属イオンと結合して難溶化して いる有機態リンをクエン酸が可溶化し、それをAPaseが加水分解するという相乗効果が認められた。
2ヨ 低 塑 Z釜 佳 工 Q坐 ニ ピZ撮t三 よ る 酸 性 杢 丕7 7室 ニ 望 金 泌 担 よ 墜 遺 伝 壬 発 盟 ル ーピ ン根 にお けるAPase発現 機構 につ いて の解 析を 行っ た。ルーピンは−P条件下で 根から APaseを多量に分 泌し、根における酵素活性が著しく増加することが明らかとなった。また、APase をコ ード する 遺伝 子LASAP2も‐P条件で発現が高まった。これらは+P条件ではほとんど誘 導され ず、APaseの低リン特異的な応答性が示された。さらに、APase分泌を時間経過と共に調べ たとこ ろ、‐P条件の初 期においては誘導されず、植物体内のりン濃度が著しく低下すると誘導されたこと から、本酵素の分泌は外部の、リン濃度よりも植物体内のりン濃度に依存することが示された。根に おけるAPase誘導 には、遺伝子発現、タンパク質発現、酵素分泌が密接に 関わり合っており、植物 が体内リン濃度を通じて低リンストレスを感 知すると速やかに根で遺伝子が発現され、タンパク質 が合成され、分泌されることが明らかとなっ た。
3エ 坐 ニ 瑩Z2乏 冬 空 ニ 撮i三 担fj歪APaso金 泌 埜 王 丞 江 混 生 塑 と 劃 目 能i三 及t墨 士 効 墨 ル ーピ ン根 にお けるAPase発現 能について分析を行った。APaseの活性染色により、APaseは‐
P条件で根の全域 から分泌されるが、特にクラスター根において大量に分 泌されることが明らかと なっ た。さらに、LASAP2遺伝子の 発現はクラスター根で著しく高く、ルーピンクラスター 根はり ン 欠 乏 条 件 に お け るAPase分 泌 に お い て 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る と 考 え ら れ た 。 次 に、 ルー ピン 根に よるHM汚 泥中リンの利用能を調査した 。+P条件の根や‐P条件の非 クラス ター根は汚泥中の難溶性リン化合物を利用で きなかったが、クラスター根はこれを吸収・利用して お り 、 ク ラ ス タ ー 根 は 下 水 汚 泥 中 の り ン を 効 率 的 に 吸 収 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 これらの結果から、APaseが下水汚泥中の有機態リンを加水分解して、 放出された無機態リンを クラスター根が吸収するという効率的利用が 行われたことが示された。またクラスター根はAPase と 有 機 酸 を 同 時 に 分 泌 し て お り 、 こ れ ら が 相 乗 効 果 的 に 機 能 し た と 考 え ら れ る 。 豊I土壌磁生物h!ZヒニピZQ2乏冬2二撮形成主養金吸盤t三盈i蓋士効墨
クラスター根形成には様々な要因があり、 その中でも微生物の関与が示唆されている。そこで、
微生物とクラスター根の関係についてより詳 細に調べた。無菌条件の低リン土壌でルーピンを生育 させたところ、クラスター根の形成は認めら れたが小さく、数も少なく、非滅菌土壌で形成される ものとは著しく形状が異なった。また根全体 においても形状の違いが見られ、根量は無菌区で著し く多かった。これよルクラスター根を含めた ルーピン根の形成に土壌微生物が関与していることが
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示された。無菌土壌における植物の生育や養分吸収は非滅菌土壌で育てた場合と比較して著しく低 下しており、土壌微生物は根の形状の他に、根の機能や活性にも関わっていることが示唆された。
以 上、本研 究は下 水汚泥に 対するAPaseの働 き、有機 酸との 相乗効果 、ルーピンクラスター根 に おけるAPase高発 現が下水汚泥からのりンの効率的吸収に果たす役割について明らかにし、下水 汚泥中リンの効率的利用の可能性を示した。さらに、クラスター根形成における微生物の関与につ いても明らかにした。これらの知見は、低リン耐性の弱い植物や作物の根圏を制御することにより、
限りあるりン資源を効率的に循環利用する対策を明らかにしたものである。今後、増加する人口に 対応した持統的農業に貢献すると期待される。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
大崎 波多野 信濃
満 隆介 卓郎
学位論文題名
Study on efficient recycling of phosphorus in sewage sludge uslngSeCretoryaCidphOSphataSe (酸性ホスファターゼを用いた
下水汚泥中リンの効率的リサイクルに関する研究)
本 論 文 は6章 か ら た り 図29、 表5、 総 頁114か ら な る 英 語 論 文 で 、 別 に 参 考 論 文3 編 が付 さ れ てい る 。
リ ン は 作 物 生 産 の た め の 必須 元 素 であ る が 、枯 渇 が 懸念 さ れ てお り 、 効 率的 に 循 環利 用 し て い か な け れ ば な ら な い 。 下水 汚 泥 は、 植 物 が直 接 利 用で き な いり ン 化 合 物が 多 く 、リ ン 栄養 源 ・ とし て の 利用 効 率 は 低い が 、 リン の 含 有率 お よ び発生量 がとも に高く、 将来重 要 な り ン 資 源 と な る 可 能 性 を 持 って い る 。し か し 、下 水 汚 泥中 に 含 まれ る り ン に関 す る 研究 は ほと ん ど 行わ れ て いな い 。
マ メ 科 植物 の ル ーピ ン(LupmUsaめUSL. ) は、 根 か ら大 量 の酸性 ホスファ ターゼ (APaSe) お よ び 有 機 酸 を 分 泌 す る こ と によ り 、 根圏 の 有 機態 リ ン や難 溶 性 無機 態 リ ン を可 給 化 して 吸 収 す る 。 本 研 究 は 、 こ れ ら の機 能 を 用い た 下 水汚 泥 中 リン の 効 率的 利 用 を 目的 と し て実 施 し た 。 さ ら に ル ー ピ ン は 低 リン 条 件 でク ラ ス ター 根 を 発達 さ せ るこ と か ら クラ ス タ ー根 に よ るAPaSe分 泌 や 下 水 汚 泥 中 リ ン 利 用 能 に つ い て の 検 討 を 行 い 、 以 下 の 結 果 を 得 た 。
L盆 泌 性 酸 性 杢 墨 7Z窒 ニ 望 韮 よ 埜2三 と 酸 1三 よ 歪 工 丞 沍 渥 壷 ! 生Q堕 Z溶 出 効 墨 高 分 子 処 理 汚 泥(HM汚 泥 ) お よ び 鉄 ・ 石 灰 処 理 汚 泥(Fe‑Ca汚 泥 ) 中 に お け るAPaseの安 定 性 を 調 査 し た と こ ろ 、 酵 素 活性 は 低 下し 、 汚 泥中 に 含 まれ る り ンや 重 金 属 、微 生 物 が活 性 の 低 下 に 関 与 し て い る こ と が示 さ れ た。 し か し、HM汚泥 中 で は、 添 加 か らし ぱ ら くの 間 は 高 い 活 性 を 維 持 し て お り 、APaseが 汚 泥 中 の 有 機 態リ ン に 十分 働 く 可 能性 が 示 され た 。 HM汚 泥 に 根 分 泌 性APaseお よ び ク エ ン 酸 を 添 加 し 、 汚 泥 中 の り ン 化 合 物 を 分 画 、 定 量 一86―
し た。 APase は主に汚泥中の低分子可溶性有機態リンを加水分解し、クエン酸は汚泥中の 難溶性無機態リンを可溶化した。以上より、これらの分泌物が下水汚泥からのりン放出に 効 果が あることが明らかとなった。APase のみの添加では、生成した可溶性無機態リンの 大 部分 が汚泥中の金属イオンと結合したためにりン放出効果は低かった。しかし、APase とクエン酸を同時に添加することにより、可溶性無機態リンの再沈殿化は防がれ、さらに 汚泥中の金属イオンと結合して難溶化している有機態リンをクエン酸が可溶化し、それを APase が加水分解するという相乗効果が認められた。
2 : 低 堕 Z 釜 徃 エ O 坐 ニ ピ と 担 1 三 圭 歪 酸 性 杢 墨 7Z 窒 ニ 塗 分 泌 韮 よ 埜 遺 伝 壬 登 現 ルー ピン 根に おけ るAPase 発 現機 構に つい ての 解析 を行 った 。ルーピンは‑P 条件下で 根 か ら APase を 多 量 に 分 泌し 、 APase を コ ー ド す る 遺 伝子 LASAP2 も ‑P 条件 で発 現が 高 ま った 。これらは+P 条件ではほとんど誘導されず、APase 分泌の低リン特異的な応答性が 示 され た。さらに、APase 分泌は植物体内のりン濃度が著しく低下すると誘導されたこと から、その誘導は外部のりン濃度よりも植物体内のりン濃度に依存することが示された。
根 にお けるAPase 分泌には、遺伝子発現、タンパク質発現、酵素分泌が密接に関わり合っ ており、植物が体内リン濃度を通じて低リンストレスを感知すると速やかに誘導されるこ とが明らかとなった。
量 :と ニピと2 乏ろ空ニ担t 三盤堕 APase 金渣壷!工丞透渥生!Z 劉恩能t 三盈!墨主効墨 ル ー ピ ン ク ラ ス タ ー 根 に お け る APase 発現 能お よび HM 汚 泥中 リン の利用 能に つい て 分 析を 行った。APase は‑P 条件で根の全域から分泌されるが、特にクラスター根において 大 量に 分泌 され た。 LASAP2 遺 伝子 の発現もクラスター根で著しく高かった。‑P および+P 条件ともに非クラスター根は汚泥中の難溶性リン化合物をほとんど利用できなかったが、−
P 条件 のクラスター根は効率的に利用できることが明らかになった。これらの結果から、
ク ラス ター根から大量に分泌されたAPase が下水汚泥中の有機態リンを加水分解し、放出 された無機態リンをクラスター根が効率的に吸収したことが示された。またクラスター根 は APase と 有 機 酸 を 同 時 に分 泌 し て お り 、こ れら が相 乗的 に機 能し たと考 えら れる 。 豊 : 土 墓 懲 生 惣 壷 ! と ニ ピ と Q2 乏 冬 空 ニ 撮 形 底 主 養 金 噬 躯 t 三 盈 t 墨 士 効 墨 クラスター根形成に微生物の関与が示唆されており、これらの関係について詳細に調べ た。無菌条件の低リン土壌においてクラスター根の形成が認められたが小さく、数も少な く、非滅菌土壌で形成されるものとは著しく形状が異なった。また根全体においても形状 の違いが見られた。これよルクラスター根を含めたルーピン根の形成への土壌微生物の関 与が示された。無菌土壌における植物の生育や養分吸収は非滅菌土壌で育てた場合と比較 して著しく低下しており、土壌微生物は根の形状の他に、根の養分吸収能にも関わってい ることが示唆された。
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以上、本研究により、下水汚泥に対する APase の働き、有機酸との相乗効果、ルーピ ンクラスター根の機能について初めて明らかにし、下水汚泥中リンの効率的利用の可能性 を示した。これらの知見は学術的に高く評価されるとともに、低リン耐性の弱い作物の根 圏を制御することにより、限りあるりン資源を効率的に循環利用していく上で有益な情報 を提供するものである。よって審査員一同は,山村卓也が博士(農学)の学位を受ける に十分な資格を有するものと認めた。
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