成年被後見人の選挙権の制約の合憲性 : 公職選挙 法一一条一項一号の合憲性
著者 竹中 勲
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 2
ページ 135‑174
発行年 2009‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011771
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一三五同志社法学 六一巻二号
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性 ―公職選挙法一一条一項一号の合憲性―
竹 中 勲
(六〇五)
目 次はじめに一 成年後見制度の憲法上の位置づけ
㈠ 成年後見制度の一九九九年の改正
㈡
年後見制度の成法上の位置づけ憲
⑴ 年権化体具の障保的法憲の定後決成自・権由自と度制見己
⑵ 年後見制度と成正処遇の三類型適
制被後見人の選挙権の約成に関する法制度の内年容二 ⑶手保成年後見制度と護の目段のための二様的
㈠ 国民の選挙権の憲法的保障と法律によるその具体化
㈡ 成年被後見人の選挙権の制約に関する法制度の内容
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一三六同志社法学 六一巻二号
(六〇六)
はじめに
本稿は︑﹁二一世紀高齢者法システムの憲法公法学的検討﹂の一環として (
定権ていつに︵約制の挙︑選の人見後被年成 1)
める公職選挙法一一条一項一号︶の合憲性について検討しようとするものである︒なお︑本稿は資料的覚書にすぎない︒
日本国憲法が念頭に置く﹁具体的人間﹂は︑たとえば︑判断能力を指標とする類型化を試みれば︑﹁判断能力が十分な個人﹂︵A︶と﹁判断能力が十分でない個人﹂とに大別され︑後者は﹁判断能力が不十分な個人﹂︵B︶と︑﹁判断能 力が欠如した個人﹂︵C︶とに類型化されうる (
を者分にと者齢高と齢ら高非年成は者年成けれれあ化論理法憲でまくはうれこ︑んろむ︒る︑さと大にと者年成者年別 個い︒人︵でな能分十が力・断判B齢C︶は︑年を指標とすれば︑未成 2)
行う際に有益な視点を得るための類型化の作業であり︑判断能力の程度は︑個人ごとに異なること︑自己決定対象事項・判断すべき対象事項ごとに異なることが留意されなければならない︒
成年被後見人となる可能性のある﹁判断能力が十分でない個人﹂︵B・C︶としては︑﹁認知症高齢者﹂のみならず﹁知 三 成年被後見人の選挙権の制約の合憲性
㈠
年性例判裁るす連関に点論の憲被成の約制の権挙選の人見後合
決外地裁判決⑶〇〇五年の在二日本人選挙権訴訟最高裁大法廷判 邦憲連カリメアの年一〇〇二たしとを違例の制約の合憲に関する裁判性⑵約年被後見人の成選挙権の制 ⑴ 権選挙犯罪・一犯般罪処刑者の選挙
㈡
よる憲法学説おび関関係団体の見すに成選年被後見人の挙性権の制約の合憲解
㈢ 私見 ⑴ 憲法訴訟における違憲審査の構造・審査項目 ⑵ 成年被後見人の選挙権の制約の合憲性
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一三七同志社法学 六一巻二号 的障害者﹂︑﹁精神障害者﹂などをあげることができ︑これらの判断能力が十分でない個人の適正な処遇の原理・あるべき具体的法システムの探求に際しては︑各類型の差異を念頭に置いた個別具体的検討が求められる (
︒が︑﹁成年被後見 3)
人の選挙権の制約の合憲性﹂という憲法問題に関する限り︑これらの諸個人に共通する問題であるということができよう︒また︑この憲法問題は︑︿判断能力が十分でない個人の自己人生創造希求権 (
析い分もらか角視うと﹀討検の実内の 4)
されるべき問題として︑位置づけることができよう︒
一 成年後見制度の憲法上の位置づけ
㈠ 成年後見制度の一九九九年の改正 戦前の明治民法︵明治二九年四月二七日法律八九号・明治三一年六月二一日法律九号︶の定める後見制度は︑﹁家﹂制度を前 提とし︑﹁個人︹本人︺のための制度ではなく︑家ないし家長のための制度﹂であったとされる (
︶・お福追求権︶・二四条︵家族生活にけ由性等平的質本の両ると厳尊の人個幸自国条戦後の日本命憲法一三︵個人の尊重原理と生 の明治民法︒後見制度は︑ 5)
一四条︵法の下の平等︶のもとでは違憲となる部分があるため修正されなければならないことになり︑﹁日本国憲法の施
行に伴う民法の応急的措置に関する法律﹂︵昭和二二年四月一九日法律七四号︶︑﹁民法の一部を改正する法律﹂︵昭和二三年
一月一日施行︶により民法改正が行われた︒ある論者は︑﹁法定後見人に関する明治民法の規定は︑家のための後見とい
う理念に貫かれていたが︑︹日本国憲法の下での民法改正により︺その根本の趣旨において﹃被後見人のため﹄の制度に変更されたものと解すべきである﹂と指摘する (
しい図企を革変的本根の法続相族親古︒︑が正改法民の度今︑﹁もとっも 6)
たものではなく︑旧法︹明治三一年以来︑昭和二二年五月二日まで続いた民法︺の中から︑新憲法に照らして︑憲法違反と
(六〇七)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一三八同志社法学 六一巻二号
なるような規定︑すなわち﹃個人の尊厳﹄や﹃両性の本質的平等﹄に背くような規定を整理しただけであり︑民法を根
本的に改良するためには︑なお多くの改正を加えなければならないものがある (
﹂との指摘もなされていた︒ 7)
日本国憲法の下での成年後見制度は︑一九九九年に大幅に改正されるに至っている (
成に﹁たれさ置設内局事民省務法︒ 8)
年後見問題研究会﹂による報告書の作成 (
見省が室官事参局事民務成法びよお﹂︵案試綱作しる関意るす対に界各係・た表公の︶明説足補要すに正改の度制見関 ︵法民会議審制七︶︑月七年部九九一法見会に後年成﹁るよ等成会員委小法後年 9)
照会︵一九九八年四月一四日︶を経て︑一九九九年に︑四法律案が第一四五回国会に提出され︑第一四六回国会において可決成立した︵同年一二月一日︶︒四法律とは︑①﹁民法の一部を改正する法律﹂︵平成一一年法律一四九号︶︑②﹁任意後
見契約に関する法律﹂︵同年法律一五〇号︶︑③﹁民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律﹂︵同年法律一五一号︒以下﹁整備法﹂という︶︑④﹁後見登記等に関する法律﹂︵同年法律一五二号︶であり︑二〇〇〇年四月
から施行された︒
﹁に案試綱要るす関正成改の度制見後年 (
うての改正につい﹂制では︑次のよ度産産﹂禁準び及度制治治禁一第﹁の 10)
に改正の理念・内容が説明されている︒
﹁﹃自己決定の尊重﹄の理念と﹃本人の保護﹄の理念との調和を旨として︑各人の多様な判断能力及び保護の必要性の程度に応じた柔
軟かつ弾力的な措置を可能とする利用しやすい制度を設計するために︑①軽度の痴呆 (
との象対を者るあに態状等害障神精︑害障的知︑ 11)
し︑保護の内容︵代理権又は同意権・取消権︶及び対象行為の範囲の選択を当事者の申立てにゆだねる新しい保護類型として﹃補助﹄
類型︵後記一︶を新設するとともに︑現行の二類型の内容を弾力化して名称を改め︑②現行の準禁治産類型に相当する﹃保佐﹄類型︵後
記二︶に関しては︑新たに︑保佐人に代理権及び取消権を付与した上で︑保佐人の代理権の設定及び範囲の選択を当事者の申立てにゆ
だね︑③現行の禁治産類型に相当する﹃後見﹄類型︵後記三︶に関しても︑新たに︑日常生活に必要な範囲の行為については︑専ら本
(六〇八)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一三九同志社法学 六一巻二号 人の判断にゆだねて取消権の対象から除外することとし︑次の三類型を制度化するものとする︒⁝⁝﹂︵傍線は筆者︶︒
のし不十分な方々を︑保護支力援する﹂制度と説明し ( ﹁H︑在現の︵局事民省務法き能つに念概の﹂度制見後年の断P害︶は︑﹁︹認知症・知的障成判精神障害などの理由で︺・
判当りよに害障の上神精︑﹁は者担案立法正改法民年九九九一︑ 12)
断能力が不十分であるため︑契約締結等の法律行為における意思決定が困難な者について︑その判断能力を補い︑その者の権利や利益を擁護する制度 (
︶︒る者筆は線傍︵いてし明説と﹂ 13)
現行の成年後見制度︵法定後見・任意後見︶のうち︑法定後見︵後見・保佐・補助︶の対象者について︑民法は﹁後見﹂対象者を﹁精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者﹂︵七条︶︑﹁保佐﹂対象者を﹁精神上の障害に
より事理を弁識する能力が著しく不十分である者﹂︵一一条︶︑﹁補助﹂対象者を﹁精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者﹂︵一五条一項︶と規定する︒前述の日本国憲法が念頭に置く具体的人間の三類型との関連でみる
と︑﹁後見﹂・﹁保佐﹂・﹁補助﹂類型は︑基本的には 00000︑類型Bの細分化としてとらえることのできるものである︵もっとも︑
成年被後見人につき﹁日用品の購入その他日常生活に関する行為﹂については専ら本人の判断にゆだねて取消権の対象から除外すると
されたこと︹民法九条ただし書︺など︑個別的事項ごとに細やかな検討を要する︶︒
㈡ 成年後見制度の憲法上の位置づけ 成年後見制度と憲法による人権保障との関連構造については︑次の諸点を指摘することができる︒
⑴ 成年後見制度と自由権・自己決定権の憲法的保障の具体化
成年後見制度は︑基本的には 00000︑自由権︵経済活動の自由︹=憲法二二条の職業選択の自由および二九条の財産権︺など︶・自(六〇九)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四〇同志社法学 六一巻二号
己決定権︵憲法一三条︶の憲法的保障を十全にするための法システムととらえることができよう︒この点で︑成年後見
制度は社会権︵憲法二五条等︶を実現する法システムそれ自体ではないととらえられる (
ス契害者自立支援法など︶において約・サシ供提スビーる方すと介媒を式障法すサ体化険社会福祉るース法制︵介護保ビ 法っとも︑憲を二五条等具︒も 14)
テムが採用されるに至っている現行法制の下では︑契約締結能力が十分でない成人にとっては︑成年後見制度は社会福祉サービスを受けるための不可欠の制度となっていることが留意されなければならない︒
⑵ 成年後見制度と適正処遇の三類型
成年後見制度の理念︵﹁﹃自己決定の尊重﹄の理念と﹃本人の保護﹄の理念との調和を旨として﹂︹成年後見制度の改正に関する要綱試案︺︑﹁自己決定権の尊重︑残存能力の活用︑ノーマライゼーション等の改正理念﹂︹付帯決議 (
︑連ていつに造構関のと法憲と︺︶ 15)
コメントする︒私見によれば︑憲法一三条前段の個人の尊重原理は﹁個人を基点とする適正な処遇が確保されなければならないとの原理﹂を宣明したものであり︑憲法一三条が要請する適正処遇の内容は︑①﹁自己決定権の尊重を内実と
する適正処遇﹂と②﹁自己決定権の尊重ということでは説明できない適正処遇﹂とに大別され︑さらに︑①は﹁自己決定の尊重を内実とする自己決定権の尊重﹂という類型︵①ア︶と﹁自己決定の尊重とはいえないがなお自己決定権の尊
重といいうるもの﹂という類型︵①イ︶とに分けられる (
人知十後生で者害障的︵な合場の定一︑がうよ分判いこ成の定一いなのとた断っ至にるす有を力能えとつもため定ていに遇処の に的年は基本後︑は度制見行の型現︒︑類成①ア・①イの適正 1600000)
や最重度の認知症高齢者等︶については︑類型②の適正処遇について定めたものということになろう︒ (六一〇)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四一同志社法学 六一巻二号
⑶ 成年後見制度と保護目的のための二様の手段
前述の法務省民事局の説明における︿本人を﹁保護し支援する﹂﹀という用語には︑﹁目的﹂レベルのものと﹁手段﹂レベルのものとの両者が混在しているようである︒保護﹁手段﹂レベルでみると︑成年後見制度における﹁保護し支援する﹂手段のうちには︑︵
α
︶﹁公権力によるサービスの任意的提供手段﹂のみならず︑︵β
︶﹁本人の自由権・自己決定権を制約する手段﹂とが含まれているととらえることができよう (
︒ のいなし要を意同人の本で置措るよにもの立属うよえいとるすに法型類の︶
β
︵は定て申の者の外以人本︑に型類の ま同はた置て立申の人に意の基づく諸措︒法定は︵α
︶本 17)また︑後者の︵
β
︶の類型に属する手段には︑厳密にみると︑﹁本人の保護を目的として﹂本人の自由権・自己決定権を制約する手段︵β
ア︶と︑﹁本人の取引相手の保護を目的として﹂本人の自由権・自己決定権を制約する手段︵β
イ︶とが含まれているようである︒
手段︵
α
︶・︵β
︶と憲法理論︵人権制約の正当化原理論など︶との関連構造について︑コメントする︒私見によれば︑憲法一三条後段の﹁公共の福祉﹂規定は︑基本的に︑人権制約の正当化原理について定めたものと解することができる︒同人権制約正当化原理として︑基本的には︑これまで︑①他者加害阻止原理︵=︿他者の権利利益を害する国民の行動︵作為・
不作為︶を阻止するために公権力が介入し︑身体の自由・精神活動の自由・経済活動の自由を制約することは正当化されうる︵すなわち︑
一定の場合には正当化され合憲とされうる︶との原理﹀︶・﹁内在的制約原理﹂・﹁自由国家的公共の福祉﹂︑②社会権実現等の目的での経済的自由制約原理︵=︿憲法二五条以下の社会権実現等の積極的な目的で公権力が介入し︑経済活動の自由を制約する
ことは正当化されうるとの原理﹀︶・﹁外在的・政策的制約原理﹂・﹁社会国家的公共の福祉﹂︑③自己加害阻止原理︵=︿自己
の権利利益を害する国民の行動︵作為・不作為︶を阻止するために公権力が介入し︑身体の自由・精神活動の自由・経済活動の自由を
制約することは正当化されうるとの原理﹀︶・﹁限定されたパターナリスティックな制約﹂原理・﹁本人の客観的利益の保護﹂
(六一一)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四二同志社法学 六一巻二号
原理が提示されてきている︒そして︑第四の原理として︑いわば④﹁︵限定された︶公益確保原理﹂︵=︿一定の重要な公
益を確保するために人権は一定の要件の下に制約されうるとの原理﹀︶といったものが精密化して提示されうるかについて︑なお論議の途上にある︒③の自己加害阻止原理は︑判断能力が十分でない個人に対する﹁弱い﹂自己加害阻止原理と︑判
断能力が十分な個人に対する﹁強い﹂自己加害阻止原理とに類型化される︒自己加害阻止原理に基づく人権制約の正当化事由として︑﹁被介入者個人の独自の生き方・方針の尊重の要件﹂および﹁︵当該人権につき︶より制限的でない手段
を選択すべきとの要件﹂の充足が求められる (
︒ 18)
手段︵
β
ア︶は自己加害阻止原理に基づく制約︑手段︵β
イ︶は他者加害阻止原理に基づく制約ととらえることが可能であり︑また︑両手段は成年後見制度に内在するととらえることが可能である︒しかし︑成年被後見人の選挙権の行使の制約は︑手段︵
β
ア︶︑︵β
イ︶のいずれの内容ともとらえることができず︑また︑成年後見制度に内在するとはいいがたいものであり︑それはいかなる人権制約正当化原理・正当化事由により正当化されうるかが︑慎重に吟味されなければならない︒
二 成年被後見人の選挙権の制約に関する法制度の内容
㈠ 国民の選挙権の憲法的保障と法律によるその具体化 憲法は︑国民の能動的権利︵参政権・統治過程へ参加する権利︶を保障する諸規定として︑憲法一五条一項・三項︑四三条一項︑四四条ただし書︑七九条︑九三条二項︑九五条︑九六条等の諸規定を置いている︵また︑関連して︑二一条︹表
現の自由︺等の規定を置いている︶︒従来︑憲法学説において︑選挙権の法的性質に関するいわゆる﹁権利一元説﹂と﹁権
(六一二)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四三同志社法学 六一巻二号 利公務二元説﹂との論議がなされてきているが︑この論議が︑選挙権の制約の正当化事由・合憲性判断基準の構成にどのような影響を及ぼすかについては︑なお︑慎重な検討を要しよう (
︒ 19)
右の憲法諸規定を具体化する公職選挙法︵昭和二五年法律一〇〇号︶などの現行法令のもとで実際に選挙権を行使できるためには︑選挙権行使のためのいわゆる積極的要件および消極的要件︵欠格事由を定めた欠格条項に該当しないこと︶を
充足することが必要とされている︒国会議員については︑積極的要件として︑①日本国民であることという国籍要件︑②年齢満二〇年以上の者であることという年齢要件︑③選挙人名簿・在外選挙人名簿に登録されていることという登録
要件が定められており︵同法九条一項︑四二条一項︶︑また︑消極的要件に関して欠格事由が定められている︵同法一一条︑
二四二条︶︒地方公共団体の長および議会の議員の選挙については︑積極的要件として︑①②③に加えて④居住要件が定
められ (
︶︒︵由が定められている同格法一一条︑二四二条事欠に︑法九条二項︶︑同様消︵極的要件に関して同 20)
選挙人名簿については︑︵一九六六年の改正︹昭和四一年法律七七号︺により︶永久選挙人名簿制度が採用され︵同法一九
条一項は﹁選挙人名簿は︑永久に据え置くものとし︑かつ︑各選挙を通じて一の名簿とする﹂と規定する︶︑死亡・国籍の喪失・他市町村への住所移転等のため選挙人名簿から﹁抹消﹂される場合︵同法二八条︑三〇条の一一︶を除き︑そのまま登録し
ておかれる︒
選挙人名簿の登録については︑︵一九六九年の改正︹昭和四四年法律三〇号︺により︑基本選挙人名簿・補充選挙人名簿にかえて︑
住民基本台帳の記録に基づき市町村選挙管理委員会が登録資格を調査して登録するという︶職権登録主義が採用されている︵同法
一九条二項︶︒在外選挙人名簿の登録については︑申請登録主義が採用されている︵同法三〇条の二第三項︑三〇条の五第一項︶︒
市町村の選挙管理委員会は﹁選挙人名簿の調製及び保管の任に当たるものとし︑毎年三月︑六月︑九月及び十二月︵第
二十二条第一項及び第二十三条第一項において﹃登録月﹄という︒︶並びに選挙を行う場合に︑選挙人名簿の登録を行
(六一三)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四四同志社法学 六一巻二号
うものとする﹂︵同法一九条二項︶︒﹁選挙人名簿は︑政令で定めるところにより︑磁気ディスク︵これに準ずる方法によ
り一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む︒以下同じ︒︶をもって調製することができる﹂︵同法一九条
三項︶︒﹁選挙人名簿には︑選挙人の氏名︑住所︑性別及び生年月日等の記載︵前条第三項の規定により磁気ディスクを
もって調製する選挙人名簿にあっては︑記録︶をしなければならない﹂︵同法二〇条一項︶︒
㈡ 成年被後見人の選挙権の制約に関する法制度の内容 選挙権行使の消極的要件・欠格事由に関して︑公職選挙法一一条一項は︑﹁次に掲げる者は︑選挙権及び被選挙権を 有しない︒一成年被後見人 二禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者 三禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者︵刑の執行猶予中の者を除く︒︶四公職にある間に犯した刑法︵明治四十年法
律第四十五号︶第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律︵平成十二年法律第百三十号︶第一条の罪により刑に処せられ︑その執行を終わり若しくはその執行の免除を
受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五法律で定めるところにより行われる選挙︑投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその
刑の執行猶予中の者﹂と規定する︒同条二項は﹁この法律の定める選挙に関する犯罪に因り選挙権及び被選挙権を有しない者については︑第二百五十二条の定めるところによる﹂と規定し︑同法二五二条は選挙犯罪処刑者に対する選挙権・
被選挙権の停止について規定し︑また︑政治資金規正法︵昭和二三年法律一九四号︶二八条は︑同法の定める一定の犯罪の処刑者の選挙権・被選挙権の停止について規定する (
︒ 21)
公職選挙法一一条一項一号︵﹁成年被後見人﹂︶など︑いわゆる﹁刑罰︹関連︺以外の事由による公民権停止規定﹂の
(六一四)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四五同志社法学 六一巻二号 前史をなす主要な法律規定について︑コメントする (
︒ 22)
大日本帝国憲法︵明治二二年二月一一日︑明治二三年一一月二九日施行︶三五条は︑﹁衆議院ハ選擧法ノ定ムル所ニ依リ公
選セラレタル議員ヲ以テ組織ス﹂と規定していた︒一八八九年の衆議院議員選挙法︵明治二二年二月一一日法律三号︶は︑﹁瘋癲白癡ノ者﹂︵一四条一号︶︑﹁身代限ノ處分ヲ受ケ負債ノ義務ヲ免レサル者﹂︵同条二号︶︑﹁公權ヲ剥奪セラレタル者
又ハ停止中ノ者﹂︵同条三号︶︑﹁華族ノ當主﹂︵一六条︶は﹁選擧人及被選人タルコトヲ得ス﹂と規定し︑一九一九年の同改正法︵大正八年法律六〇号︶は︑﹁禁治産者及準禁治産者﹂︵一一条一号︶︑﹁身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨償ヲ終ヘサ
ル者及家資分散若ハ破産ノ宣告ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復權ノ決定確定スルニ至ル迄ノ者﹂︵同条二号︶︑﹁華族ノ戸主﹂︵一二条︶は﹁選擧權及被選擧權ヲ有セス﹂と規定していた︒一九二五年の同改正法︵大正一四年法律四七号︶は︑﹁禁
治産者及準禁治産者﹂︵六条一号︶︑﹁破産者ニシテ復權ヲ得サル者﹂︵同条二号︶︑﹁貧困ニ因リ生活ノ為公私ノ救助ヲ受ケ又ハ扶助ヲ受クル者﹂︵同条三号︶︑﹁一定ノ住居ヲ有セサル者﹂︵同条四号︶︑﹁華族ノ戸主﹂︵七条一項︶︑﹁陸海軍軍人ニ
シテ現役中ノ者︵未タ入營セサル者及歸休下士官兵ヲ除ク︶及戦時若ハ事變ニ際シ召集中ノ者﹂・﹁兵籍ニ編入セラレタル學生生徒︵勅令ヲ以テ定ムル者ヲ除ク︶及志願ニ依リ國民軍ニ編入セラレタル者﹂︵七条二項︶は﹁選擧權及被選擧權
ヲ有セス﹂と規定していた︒
日本国憲法︵昭和二一年一一月三日︑昭和二二年五月三日施行︶のもとでの一九四七年の衆議院議員選挙法︵昭和二二年三
月三一日法律四三号︶は︑欠格条項を整理し︑選挙権・被選挙権を有しない者の範囲を狭くし︑従来欠格者とされてきた
①破産者で復権を得ない者︑②貧困により生活のため公私の救助を受けまたは扶助を受ける者︑③一定の住居を有しない者を欠格者から除外したが︑﹁禁治産者及準禁治産者﹂という欠格事由は残置された︒そして一九五〇年の公職選挙
法︵昭和二五年法律一〇〇号︶一一条一項一号では﹁準禁治産者﹂という欠格事由が削除された (
が︑﹁禁治産者﹂という 23)
(六一五)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四六同志社法学 六一巻二号
欠格事由は残置された︒一九九九年の成年後見制度の改正において︑﹁禁治産者﹂の呼称は︑﹁治産を禁ずる (
﹂という用 24)
語の問題性をも考慮し︑﹁成年被後見人﹂へと変更された︒同時に行われた公職選挙法改正では同法一一条一項一号も﹁禁治産者﹂から﹁成年被後見人﹂へと変更されたが︑同欠格事由自体は残置され︑現在に至っている︒公職選挙法自体に
は﹁成年被後見人﹂の定義規定は置かれていないので︑民法の定義︵成年被後見人とは︑﹁精神上の障害により事理を弁識す
る能力を欠く常況にある者﹂で︑家庭裁判所によって﹁後見開始の審判を受けた者﹂をいう︹民法七条・八条︺︶を利用・援用・借
用する趣旨と解せられる︒
一九九九年の︵民法改正に伴う︶整備法による改正前においては︑家庭裁判所における禁治産・準禁治産宣告の事実
を援用する形で多数の法律中に禁治産者・準禁治産者に関する欠格条項が設けられていた︒この点の問題点として︑前述の﹁成年後見制度の改正に関する要綱試案﹂に付された法務省民事局による補足説明は︑﹁本来民法上は利用者本人
を保護する制度である禁治産及び準禁治産の制度が︑他法律中の多数の欠格条項の存在により︑利用者を社会から排除する制度であるかのように国民に誤解され︑ひいては禁治産及び準禁治産の制度の利用が阻害されていると批判されて
いた﹂︑と述べている (
︒ 25)
整備法における欠格条項の見直しの基準・見直し結果については︑一九九九年改正法立案担当者は︑﹁各種制度の資 格要件等は︑⁝⁝本来︑各種の資格等が要求する能力の内容に応じて個別的・実質的に定められるべきもので﹂︑﹁本来︑禁治産及び準禁治産の宣告の有無にかかわらず︑① 資格等の付与の段階において︑その資格等に相応しい能力を有し
ているかどうかについて個別的な審査を行うとともに︑② 資格等の付与の後においても︑その資格等に基づいて活動する者が︑その資格等に相応しい能力を維持していないと認められる場合には︑実質的な能力の欠如を理由として︑罷
免・解任等の手続を採ることとするのが本来の資格審査の在り方であ﹂るが︑﹁当該資格等の根拠法律中に個別的な能
(六一六)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四七同志社法学 六一巻二号 力審査の手続が規定されていないものや︑実務的に大量の書面審査を要するなどの理由により欠格条項による画一的・形式的な審査を必要とするものに限って欠格条項を存置することとされている﹂︑と説明している (
︒また︑総務省自治 26)
行政局選挙部職員は︑﹁選挙権及び被選挙権についても︑この基本的な考え方にのっとったものである﹂と説明している (
︒ 27)
しかし︑そもそも︑選挙権は﹁各種制度の資格の付与﹂︵審議会・委員会等の委員等︑特殊法人の役員および一部の認可法人
の役員︑裁判所が選任する清算人︑公証人・人権擁護委員の資格付与など︶と同列に扱いうるものなのか︑きわめて疑問である︒
公職選挙法一一条一項一号が存在する現在︑家庭裁判所による後見開始審判と市町村選挙管理委員会による︵﹁成年
被後見人﹂という︶欠格事由に関する選挙事務等との連動関係は︑概略︑次のとおりである (
︒ 28)
家庭裁判所による後見開始審判があった場合︑家庭裁判所の裁判所書記官は後見登記等に関する法律に定める嘱託をしなければならない︵家事審判法一五条の二︑家事審判規則二一条の四第一項一号︶︒﹁登記官は︑後見開始の審判に基づく登
記又はその審判の取消しの審判に基づく登記をしたときは︑これらの審判に係る成年被後見人の本籍地︵外国人にあっては︑住所地︶の市町村長︵特別区の区長を含む︒︶に対し︑その旨を通知しなければならない﹂︵後見登記等に関する省
令︹平成一二年一月二八日法務省令︺一三条︶︒そして︑本籍地の市町村長は︑﹁その市町村に本籍を有する者で他の市町村
に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて︑第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由が
なくなったことを知ったときは︑遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない﹂︵公
選法一一条三項︶︒同一市町村内では︑市町村長と市町村選挙管理委員会との間で相互に選挙資格の確認のための通報が
行われる︵同法二九条一項︶︒また︑市町村長は︑住民票の記載︑消除または記載の修正をしたときは︑遅滞なく︑当該
(六一七)
成年被後見人の選挙権の制約の合憲性一四八同志社法学 六一巻二号
記載等で選挙人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない︵住民基本台帳
法一五条二項︑三八条︑同法施行令三一条︶︒公職選挙法の定める永久選挙人名簿制度のもとでは︑同法一一条一項等の欠格事由が生じた場合にも︑選挙人名簿への登録は抹消されず︑市町村選挙管理委員会は選挙人名簿に﹁その旨の表示﹂
をしなければならない︵同法二七条一項︶︑欠格事由が消滅すればその旨の表示の消除等の﹁修正又は訂正﹂をしなければならない︵同条二項︶︑と規定されている (
︒ 29)
三 成年被後見人の選挙権の制約の合憲性 以下では︑成年被後見人の選挙権の制約の合憲性の論点をめぐる﹁理論と実務の架橋﹂の現況を把握するため︑成年
被後見人の選挙権の制約の合憲性の論点に関連する裁判例︑および︑成年被後見人の選挙権の制約の合憲性に関する憲法学説および関係団体の見解について述べ︑最後に︑私見を提示する︒
㈠ 成年被後見人の選挙権の制約の合憲性の論点に関連する裁判例 成年被後見人︵または禁治産者︶の選挙権の制約の合憲性それ自体について明示的に述べた裁判例はみあたらない︒以下では︑成年被後見人の選挙権の制約の合憲性の論点に関連する裁判例として︑
ⅰ
選挙犯罪・一般犯罪処刑者の選挙権の制約の合憲性に関する裁判例︑
ⅱ
成年被後見人の選挙権の制約を違憲とした二〇〇一年のアメリカ連邦地裁判決︑二〇〇五年の在外日本人選挙権訴訟最高裁大法廷判決︑についてコメントする︒(六一八)