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【同志社大学労働法研究会】就業規則の変更による 成果主義賃金制度導入の効力

著者 松本 恵里, 土田 道夫

雑誌名 同志社法學

巻 71

号 7

ページ 2269‑2311

発行年 2020‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2020.0000000201

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◆同志社大学労働法研究会◆

就業規則の変更による 成果主義賃金制度導入の効力

トライグループ事件・東京地裁平成30年2月22日判決

(東京地裁平成27年(ワ)第8077号地位確認等請求事件)

労働経済判例速報2349号24頁

松 本 恵 里  土 田 道 夫 

Ⅰ 事案の概要

1 Y社は、家庭教師派遣、個別指導塾、幼児向け英語教育等を業とする従 業員約2000名の株式会社である。Xは、平成24年10月1日、Y社との間で期 間の定めのない雇用契約を締結し、総務人事、財務経理、情報システム等の 専門業務等に従事してきた。Xの賃金は、平成26年11月段階で基本給42万 9000円であった。

2 Y社は、平成26年3月29日および同年4月1日、就業規則および給与規 定を始めとするその附属規程を改訂した(以下「本件就業規則変更」)。

 ⑴ Y社は、教育産業における競争の激化やY社における事業拡大に対応 するため、経験豊富な中途採用の人材を推進していたところ、グループ会社 であるA社からの転籍者との労働条件の統一を図る目的もあって、平成25 年秋頃から就業規則及び給与規程の変更の検討を開始した。Y社の旧給与規 則には、昇給に関する規定がある一方、降給の根拠規定はなく、基本給と役

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職手当について年齢・勤続年数等の年功序列的要素を元に曖昧な評価基準に よって決定されていた。そのため、高い業務能力を有する若年の社員に対し 適切な給与評価を行うことが困難である点や、中途採用の従業員にとって魅 力がない制度である点などが問題となっていた。

 ⑵ Y社は、本件就業規則変更に基づき、給与体系・支給基準等に関して 大幅な改訂を行った。まず、給与につき、社員に割り当てる職務の質および 年令・経験・勤務成績・勤務条件等についてクラスランク基準表で区分し、

別途定める人事評価規程に基づき、査定評価の上決定することとした。また、

給与体系につき、基本給・役職手当に職能手当を加えた3本立てとし、それ ぞれを明確に定義するとともに、昇格・降格につき、「人事評価の結果、ク ラスの昇格または降格に伴い、職能手当および役職手当も昇給または降給す る」と規定して、各期の人事評価と昇降給・昇格・降格を明確に関連づけた。

そして、Jクラス(一般社員)の人事考課については、J1、J2、J3の3 クラスに分類した上、人事考課によりランクを変動させる仕組みとした。

 ⑶ Y社は、平成26年3月下旬頃、新就業規則および新給与規程の案文を 作成し、取締役会での検討・承認を経て、総務人事部の担当者から事業所ご との従業員代表に意見を求めた上で、同月31日、新就業規則および新給与規 程を労働基準監督署に提出した。また、Y社は、同年4月9日、Y社の社内 イントラネットに新就業規則および新給与規程を掲載して全従業員が内容を 確認できるようにしたほか、同年6月以降、担当者が全国の支店、営業所等 を回って個別の説明会を実施した。さらに、Xの直属の上司であるCは、X に対し、同年7月18日、新給与制度および人事評価制度について説明した。

 ⑷ Y社の新給与規程の下での人事評価項目は、業務態度、知識、業務執 行、改善、組織環境構築の5項目に分かれており、項目ごとに更に3〜7項 目の小項目が規定されている。例えば、業務態度については、「勤怠」「規律 遵守」「積極性」「協調性」「報告連絡」「責任感」「マナー」の7項目であり、

業務遂行については、「常にコンプライアンス意識を持ち、コスト削減との 折り合いをつけながら業務を遂行できるか」「多くの仕事を迅速に、質を維

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持しつつ処理することができるか。アイドリング時間が長くないか」等の4 項目である。各小項目には、1〜4点の幅の評価点が設定され、従業員の現 場の管理者およびその上の上級管理者の2名が評価を行い、役員会で評価の 適切性を検証した上で最終評価を決定する。従業員の最終評価については、

人事評価規程上、上長から従業員に対し必要な説明を行うこととされている。

 本件就業規則変更後のY社従業員に対する賃金原資総額の変動をみると、

本件就業規則変更による新賃金制度施行前の平成26年10月度が1億6393万 2609円、新賃金制度が施行された同年11月度が1億6569万7943円であり、賃 金原資総額は減少していない。また、Y社従業員の平均給与月額は、本件就 業規則変更による新賃金制度施行前の平成26年10月度が27万9748円、新賃金 制度が施行された同年11月度が28万4704円であり、その後も上記金額を下回 ることは1度もなく、多くの月において29万円台であった。

3 Xは、平成25年7月に行われた関連会社への出向が平成26年8月9日に 終了した後、総務人事部付ACに配転されたが、主要業務の一つである電話 業務につき、電話督促方法にミスが多く、アルバイトを含む他のスタッフと 比較して1時間平均の電話件数が少なく、支払確約件数や入金率が格段に低 い状況にあり、もう一つの主要業務である契約データ処理についても、処理 スピードが著しく遅く、ミスも多かった。Xは、AC副部長のDから具体的 な改善指導を受けたが、その指導を聞き入れず、また、Dによるメールでの 業務指示に対しても、直ちに回答せず何度目かのメールでようやく回答した り、回答しても正面から質問に答えないという対応をした。この間、Cは、

Xの業務態度の改善を図るべく、複数回にわたってXと面談を行ったが、X は、直近の面談での指示事項について記憶にないと答えたり、私の不徳の致 すところで申し訳ない等と述べるばかりで、話合いを拒絶する態度をとり続 けた。

 平成27年2月頃、Dが長期間出向することになり、AC内においてXの指 導監督を行う上長が不在になったため、Y社は、上長不在の状態でXをAC に配置しておくことは適当ではないと判断し、Xを同月20日付でマッチング

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センター(MC)に異動させた。MCにおける業務は、手配業務および講習 会アポイント(講アポ)業務であったが、Xの目標達成率は、他の従業員の それと比較すると、中位から下位の水準に留まっていた。

4 Xは、平成26年11月度職能手当につき、J3クラスの47ランクに位置付 けられ、同日支給分給与は、合計額42万9000円(基本給20万円、職能手当22 万8000円、調整給1000円)とされた。Xに対する平成26年11月の人事評価は、

勤怠や知識に関する評価項目を除いて、ほとんどが最低の1であった。評価 参考欄には、周りとのコミュニケーションを全く取らないこと、業務改善の 指示・注意をしても改善されないこと等が記載されていた。担当役員である E常務は、平成26年12月、Xに対し、Xの人事評価が低かった旨伝えた。また、

Xの上司であるBは、平成27年5月、Xに対し、Xの人事評価の総合点を伝え、

会社の人事評価と原告の自己評価とに乖離があり、業務上のコミュニケーシ ョンが取れていないこと等を伝えるとともに、Xにその結果を伝える際には、

各項目の評価点も伝えていた。

 Y社は、平成26年11月、新給与規程および人事評価規程に基づく人事評価 を実施し、これに基づくXの評価結果は24.5点および24点であり、最低評価 のFランクであった。これに伴い、Xは、平成26年12月度から職能手当が5 ランク降格(J3クラスの42ランク)となり、同手当は1万5000円減額の21 万3000円となった。同月度分以降、調整給1000円の支給がなくなった結果、

Xの給与合計額は1万6000円減額の41万3000円となった。

 Y社は、平成27年5月、人事評価を実施したところ、Xの評価結果は24点 および22点であり、最低評価のFランクであった。これに伴い、Xは、平成 27年6月度以降、職能手当が5ランク降格(J3クラスの37ランク)となり、

同手当は1万5000円減額の19万8000円となった。Xは、それ以降の人事評価

(平成27年11月、平成28年5月、同年11月、平成29年5月)においても、い ずれも最低評価であり、その都度職能手当が1万5000円ずつ減額された。

5 Xは、①平成26年4月1日に施行された成果主義賃金制度への変更を伴 う就業規則等の変更は労働条件の不利益変更にあたるとして変更後の就業規

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則等の無効確認、②給与の減額が無効であることを前提として減額支給され た給与と労働契約で定められた給与の差額支払い、③給与減額、関連会社へ の出向命令、出向先における多数の反省文および始末書の作成命令、単純業 務命令等が違法であると主張して慰謝料の支払い等を求め、本訴を提起した。

Ⅱ 判旨:一部却下、一部棄却

1 本件就業規則変更の有効性

⑴ 就業規則の不利益変更への該当性

 「本件就業規則変更により施行された新給与規程においては、旧給与規則 において賃金の大部分を占めていた基本給を、基本給と職能手当とに分け、

Xのように東京都に在勤する一般職職員については基本給が20万円となり、

職能手当については人事評価の結果により半年に1度、クラスに応じて最大 1万円から1万5000円の降給の可能性があり得る制度となった。このように、

新給与規程は、旧来の年功序列的な賃金制度を人事考課査定に基づく成果主 義・能力主義型の賃金制度に変更するものであり、新給与規程の下では、人 事考課査定の結果によっては、旧給与規則の下で支給されていた賃金額から 減額された金額が支給される可能性があるから、そのような可能性が存する 点において、旧給与規則から新給与規程への変更は、就業規則の不利益変更 に当たるというべきである。」

⑵ 就業規則変更の合理性判断

ア 合理性判断枠組み・労働者の受ける不利益の程度

 「就業規則の不利益変更については、労働者の不利益に労働条件を変更す ることは許されないのが原則であり(労契9条)、労働者の受ける不利益の 程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組 合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的な

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ものであり、かつ、変更後の就業規則が労働者に周知されているときに限っ て、労働条件が変更後の就業規則に定めるところによることになる(同10条 本文)。

 就業規則により、年功序列的な賃金制度を人事評価に基づく成果主義・能 力主義型の賃金制度に変更する場合において、当該制度変更の際に、賃金の 原資総額が減少する場合と、原資総額は減少せず、労働者全体でみれば、従 前と比較して不利益となるわけではなく、個々の労働者の賃金の増額と減額 が人事評価の結果として生ずる場合とでは、就業規則変更の合理性の判断枠 組みを異にするというべきである。すなわち、賃金原資総額が減少する場合 は別として、それが減少しない場合には、個々の労働者の賃金を直接的、現 実的に減少させるのは、賃金制度変更の結果そのものというよりも、当該労 働者についての人事評価の結果であるから、前記の労働者の不利益の程度及 び変更後の就業規則の内容の合理性を判断するに当たっては、給与等級や業 務内容等が共通する従業員の間で人事評価の基準や評価の結果に基づく昇 給、昇格、降給及び降格の結果についての平等性が確保されているか否か、

評価の主体、評価の方法及び評価の基準、評価の開示等について、人事評価 における使用者の裁量の逸脱、濫用を防止する一定の制度的な担保がされて いるか否かなどの事情を総合的に考慮し、就業規則変更の必要性や変更に係 る事情等も併せ考慮して判断すべきである。」

イ 労働条件変更の必要性

 Y社は従前、家庭教師事業を中心としていたが、少子化等の影響を受けて 個別教室事業に注力するようになり、グループ会社であるA社の個別教室 事業を統合した上、同社従業員を転籍させ、その後個別教室数・従業員数を 急激に増加させたところ、A社とY社とでは重要な労働条件が異なっていた ため、A社出身労働者とY社出身労働者との間で労働条件の統一を図る必要 があった。また、Y社においては、旧給与規則に基づく賃金制度の下、実質 的に年功序列型の賃金体系となっていたところ、個別教室事業の事業者間に

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おける競争の激化という状況もあり、経験豊富な人材を獲得し、職務遂行に 対する意欲を高め、人材の定着度を高める必要性があった。このような観点 から、個々の従業員の能力・業績を適正に評価し、その評価を職能手当に反 映させるとともに、各従業員の努力次第で昇格・昇給のみならず、降格・降 給もあり得る制度とすることで、従業員に能力開発に向けた成果を還元する

(インセンティブ)制度として、成果主義型の賃金制度を導入して労働条件 の統一を図ったことは、前記経営上の必要性に合致するものということがで きる。

ウ 昇給・昇格等における平等性の確保

 本件就業規則変更は、従業員に対する賃金原資総額を減少させるものでは なく、賃金額決定の仕組み、基準を変更して賃金原資の配分方法をより合理 的なものに改めるものである。新賃金制度の下における個々の従業員の賃金 額は、当該従業員に対する人事評価に基づいて決定されるのであり、各従業 員について人事評価の結果次第で昇給、昇格も降給、降格もあり得るという 意味で平等性が確保されている。加えて、Y社においては、本件就業規則変 更後、従業員に対する賃金原資総額はむしろ増額しており、平均給与額も上 昇している。このように、本件就業規則変更により賃金総額は減少しないの であるから、人事評価における使用者の裁量逸脱、濫用を防止する一定の制 度的な担保がされているかが同変更の有効性判断に当たって重要となる。

エ 人事評価制度の合理性

 人事評価制度について見るに、従業員に対する人事評価は、上長2名によ り、大項目として5項目、小項目として合計20項目について1から4点の評 価点を付け、役員会での承認を経て最終評価結果として確定される。人事評 価において、評価項目をどのように構成し、どの項目をどの程度重視するか については、使用者が、事業運営において労働者にどのような業績を求め、

そのためにどのような能力開発・人材育成を図っていくかという事業経営上

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の観点を反映したものとなることから、原則として使用者の裁量に委ねられ るというべきである。

 この観点から前記認定の各評価項目をみると、Y社が裁量を逸脱濫用して 定めたとみるべき評価項目は見当たらず、被評価者に対する評価結果を還元 する(フィードバック)制度となっており、実際にも実施されていることを 併せ考慮すると、Y社における人事評価制度は、複数の評価者により、事前 に定められた評価項目に従って評価することにより、人事評価が客観的に行 われることが一定程度担保され、評価結果が被評価者に対して還元されるこ とと併せて、違法、不当な目的による恣意的な人事評価を防止する一定の制 度的な担保が具備されているということができる。そして、人事評価の結果 による成果還元(インセンティブ)と被評価者への人事評価の結果を知らせ る(フィードバック)ことにより、業務能力の向上を通じた人材育成に活用 されることが予定されていることから、制度としての合理性があり、新就業 規則等の内容の合理性があるということができる。

オ 従業員等との交渉を含む変更の手続

 Y社においては、労働組合は存在しない一方、平成26年3月下旬に新就業 規則案を完成させた後、短期間ではあるが従業員代表を通じた意見聴取を行 い、同月末までに従業員代表から特に問題ないとの意見を得ており、この意 見聴取により、従業員には、少なくとも労使間の交渉のきっかけが与えられ たとみることができる。また、従業員代表の選出手続において、選出する側 の従業員を正社員に事実上限っており、この点は手続上問題があるが、新給 与規程の適用範囲が正社員に限られており、給与規程の変更により不利益を 被り得る正社員に対して意見聴取を行っている以上、上記手続上の問題は軽 微であり、新就業規則の有効性に影響を与えるものということはできない。

⑶ 本件就業規則変更の効力

 「以上の諸事実を総合すると、本件就業規則変更は、経営上の必要性に合

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致する成果主義・能力主義型の賃金制度を導入するものであり、賃金の原資 総額を減少させるものではなく、濫用、逸脱を防止する一定の制度的担保が ある人事評価制度に基づいて昇給、降給等が平等に行われるなど、合理性の ある新たな制度に変更するものであるから、有効であるというべきである。

そして、・・・ 変更後の新就業規則、新給与規程等について周知性を認めるこ とができるから、同就業規則及び給与規程等は、Xに対してもその効力を有 する。」

2 労働契約法10条但書の適用の有無

⑴ 判断枠組み

 「労働契約法10条但書が適用されるためには、就業規則によっては変更さ れないことについて、明示、明文で合意するまでの必要はないが、当事者間 で、就業規則によっては変更されない労働条件としての合意が成立している と解釈、評価するに足りる事情が必要である。」

⑵ 具体的判断

 ①本件雇用契約においてXの月額給与が42万9000円と決まったのは、X がY社の採用面接において、前職の年俸が720万円であり最低でも600万円 が必要であると話し、その場で600万円を14か月で割った42万8571円を切り 上げた月額42万9000円とすることになったこと、②本件雇用契約書の賃金欄 には昇給・降給(降格)については、就業規則によるとの定めがあり、かつ、

同賃金額についてXとの合意による変更以外の方法を排除する旨の定めが ないことが認められる。上記①のとおり、Xの賃金額は、採用面接時の交渉 により定まったものであり、旧就業規則や旧給与規則を形式的にあてはめて 算出したものではないが、他方、②のとおり、本件雇用契約書には、昇給・

降給(降格)は就業規則によるとの定めがあり、就業規則・給与規程等にお いて定められた仕組みに従って賃金額が変動することを前提としていると見 られること、Xにおいても、昇給する場合にも改めて個別合意が必要という

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前提に立つものではないと解されること、Xは一般職員にすぎず、本件雇用 契約がY社の他の従業員と異なる特別な労働条件を前提にしたものとは認 められない上、年ごとの合意により賃金額を変動させることが予定されてい る年俸制でもないことなどの事情を総合考慮すると、XとY社において、X の賃金額につき、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合 意したものと認めることはできない。まして、Y社の賃金制度が給与決定の 仕組み自体を変えるような大幅な変更がされた場合にも、雇用契約時に定め た賃金を特約として扱うことを合意したものと認めることもできない。

3 X の人事評価に関する被告の裁量権逸脱、濫用の有無

⑴ 判断枠組み

 「雇用契約の内容として、使用者は労働者の人事評価一般について広範な 裁量権を有すると解されるから、Y社が本件人事考課制度の下で行う人事評 価の内容についても、Y社の広範な裁量的判断に委ねられるとするのが相当 である。したがって、Y社において、Xに対する人事評価について、評価の 対象となる事実の基礎を欠き、又は事実の評価が著しく合理性を欠く場合や、

不当な動機、目的に基づいて評価をしたなどの裁量権の逸脱、濫用がない限 り、人事評価に基づいてされたXの賃金減額は有効であるというべきである」。

⑵ 具体的判断

 Xは、平成26年11月および平成27年5月の本件各評価の対象期間において、

ACにおいては、ミスを犯して顧客等から様々な苦情を受け、契約データ処 理についてもその速度が著しく遅く、ミスも多かったものであり、MCにお いても、「講アポ」業務における達成率が他の従業員と比して中位から下位 の水準に止まっていた等の事実を総合すると、業務成績が良好とはいえない 状況にあった。また、Xは、評価期間において、職場での業務上必要なコミ ュニケーションを取ろうとせず、上長の指導を真摯に聞く姿勢を見せなかっ たこと、上長から繰り返し指摘・指導を受けているにもかかわらず、態度を

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改めることなく継続していること等によれば、Y社が、業務態度、業務遂行・

改善、組織環境構築の各評価項目についてXを最低評価としたことにつき、

不当な動機、目的による著しく合理性を欠く人事評価ということはできず、

Y社に裁量権の逸脱、濫用があったということはできない。

 なお、Xは、評価項目が恣意的で客観性が担保されていないこと、人事評 価マニュアルによれば、Xの評価担当者は1名であるはずなのに2名で行わ れていること、2名であるとしても、評価担当者①はI副部長であるはずで あり、Cが評価担当者①であるのはマニュアルに沿っていないこと、Xには 評価結果のみが伝えられ、その理由に関するフィードバックがなかったこと 等を主張する。しかし、Y社の人事評価制度には格別の問題はなく、評価項 目についてはある程度抽象的にならざるを得ない面がある上、どのような観 点および方法で人事考課を行うかは、原則として使用者の裁量に委ねられる こと、Y社の人事評価マニュアルによれば、評価者は原則として2名とされ、

Xの人事評価を担当役員1名ではなく2名で行っている点は同マニュアルに 沿っているものの、同マニュアルによれば、評価担当者①は本来Iであるに もかかわらず、実際にはCが当たっており、この点で同マニュアルどおり とはなっていないことが認められるが、Cは、人事評価に際して、Xの複数 の上長からXの業務状況を聴取の上で評価を行ったことが認められるから、

上記の点をもって、Xの人事評価につき裁量権の逸脱、濫用があったとまで は認められない。また、上長はXに対して評価結果を伝えており、Xが上 長に対してコミュニケーションを取ろうとしない態度に終始していたことに よれば、伝達の仕方自体をもって人事評価が恣意的であったということもで きない。

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Ⅲ 検   討

1 本判決の意義

 本判決は、就業規則の変更による成果主義賃金制度の導入について特色あ る判断を示した判決である。成果主義賃金制度とは、「労働者の年齢・勤続 年数ではなく、職務・職責・役割等の仕事の価値や、その達成度(成果)を 基準に賃金処遇を行う制度」をいう1)ところ、本件における成果主義賃金制 度は、賃金決定に際して人事評価制度を導入し、職能給に変動制を導入する こと、降給・降格規定を新設すること等を内容としている。

 就業規則の変更による成果主義賃金制度の導入については、労契法10条に 即して、①同制度の導入が労働条件の不利益変更に該当するか、②当たると して、その要件をどのように考えるべきか、の2点が問題となる2)。本判決(判 旨1)も、この手順に沿って判断しており、①について、本件就業規則変更 の労働条件不利益変更該当性を肯定した上、②の判断に進んでいるが、ここ で特色ある判断を示している。すなわち、判旨は、◯成果主義賃金制度の導 入に関して、賃金の原資総額が減少する場合と、原資総額は減少せず、労働 者全体では不利益となるわけではなく、個々の労働者の賃金の増減額が人事 評価の結果として生ずる場合とでは、就業規則変更の合理性の判断枠組みを 異にすると述べた上、◯賃金原資総額が減少しない場合は、個々の労働者の 賃金を直接的現実的に減少させるのは賃金制度変更それ自体ではなく、当該 職員に係る人事評価であるから、労働者の不利益の程度および就業規則変更 の合理性判断に際しては、人事評価の基準や評価の結果に基づく昇給・昇格・

降給・降格に係る従業員間の平等性が確保されているか否か、評価の主体・

評価の方法および評価基準・評価の開示等について使用者の裁量の逸脱・濫

1) 土田道夫『労働契約法[第2版]』(有斐閣・2016)289頁。

2) 土田・前掲注1)書570頁以下参照。

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用を防止する一定の制度的担保がされているか否か等の事情を総合的に考慮 して判断すべきであるとの判断枠組みを提示した上、この判断枠組みを本件 に適用し、本件就業規則変更の効力(契約内容変更効)を肯定した(なお、

本件就業規則変更によって、Y社の賃金原資総額が減少していないことにつ いては、Ⅰ 事案の概要2⑷参照)。

 後述するとおり(Ⅲ3⑴ウ)、本判決のこの判断は、就業規則変更の合理 性判断に際して、労働者の具体的不利益の有無・程度および経過措置の有無・

内容を考慮しないことを意味する。この点、従来の裁判例は、就業規則によ る成果主義賃金制度導入の効力につき、労働条件の不利益変更(労契10条)

の枠組みで判断しつつ、事案の特質に即した修正を行ってきた3)。本判決も、

基本的にはこれに倣っているが、賃金原資総額が減少しない場合の合理性判 断枠組み自体を大きく修正した点に特色がある。

 以下、成果主義賃金制度の導入を内容とする就業規則変更の効力に関する 学説・裁判例を整理した⑵上で、本判決の分析・評価を行う⑶。

2 就業規則の変更による成果主義賃金制度の導入

⑴ 労働条件の不利益変更への該当性

 まず、成果主義賃金制度の導入が労働条件の不利益変更に当たるか否かが 問題となる。すなわち、①成果主義賃金制度の導入は、賃金原資の削減では なく、原資の配分方法を変更するものであること、②賃金をストレートに削 減するものではなく、労働者の能力・成果によって賃金を増減させる制度で ある(その結果、成績優秀な社員は賃金が上昇することになる)ことから、

そもそも労働条件の不利益変更に該当するか否かが問題となるのである4)

3) ハクスイテック事件・大阪高判平成13・8・30労判816号23頁、県南交通事件・東京高判平成 15・2・6労判849号107頁、ノイズ研究所事件・東京高判平成平成18・6・22労判920号5頁、

クリスタル観光バス事件・大阪高判平成19・1・19労判937号135頁、社会福祉法人賛育会事件・

東京高判平成22・10・19労判1014号5頁、三晃印刷事件・東京高判平成24・12・26労経速2171 号3頁、東京商工会議所事件・東京地判平成29・5・8労判1187号70頁、Y社事件・名古屋地 岡崎支判平成30・4・27判時2407号97頁等。土田・前掲注1)書571頁参照。

4) 土田・前掲注1)書570頁参照。

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 この点、学説においては、成果主義賃金制度の導入に際して賃金総額が減 少せず、かつ、個別の賃金減額に対する経過措置や減額幅の制限といった労 働者保護措置がとられている場合は不利益変更に該当しないと説く見解があ る5)。しかし、多数説は、成果主義賃金制度の導入は、労働条件の不利益変 更に該当すると解している。労契法10条は、「労働条件〔の〕変更」を対象 とする規定であるが、この「労働条件〔の〕変更」は、労働条件を現実に変 更する場合だけでなく、不利益変更の可能性がある場合も含むというのが理 由である6)

 裁判例も、上記多数説と同様に判断している。例えば、成果主義賃金制度 への変更が問題となった事案ではないものの、第一小型ハイヤー事件は、タ クシー運転手の歩合給の計算方法を不利益に変更したが、運賃を値上げした ため、現実の賃金額は変動しない可能性があるという事案につき、労働条件 の不利益変更として扱っている7)。すなわち、判例法理は、就業規則変更が 賃金等労働条件に対して現実に不利益を及ぼすか否かを問わず、その可能性 がある場合を含めて、広く「労働条件の不利益変更」と捉えている8)。また、

年功的賃金制度を成果主義賃金制度に改訂した事案につき、8割程度の従業 員の賃金が増額しており、人事評価で平均の評価を受ければ賃金の減額幅が 少額にとどまり、原告についても当面は平均以下の評価を受ける可能性は少 ないとしても、平均以下の評価を受ける可能性がないわけではないとして不 利益変更法理を適用する裁判例がある(前掲ハクスイテック事件[注3])。

さらに、成果主義賃金制度導入に関する先例である前掲ノイズ研究所事件(注 3)は、「従業員の従事する職務の格付けが旧賃金制度の下で支給されてい た賃金額に対応する職務の格付けよりも低かった場合や、その後の人事考課 査定の結果従業員が降格された場合には、旧賃金制度の下で支給されていた

5) 廣石忠司「成果主義・年俸制」『労働法の争点[第3版]』(有斐閣・2004)206頁。

6) 土田・前掲注1)書569頁、荒木尚志=菅野和夫=山川隆一『詳説労働契約法[第2版]』(弘 文堂・2014)135頁。

7) 最判平成4・7・13判時1434号133頁。

8) 荒木尚志「判批(第一小型ハイヤー事件)」ジュリ1058号(1994)122頁。

(16)

賃金額より顕著に減少した賃金額が支給されることとなる可能性が存在す る」点において、就業規則の不利益変更に当たると判断している9)。  上記の多数説・裁判例は適切と解される。成果主義賃金制度の導入が賃金 減額の可能性を有するにとどまるという理由で労働条件の不利益変更該当性 を否定してしまうと、労働者はその効力をおよそ争えない結果となるが、そ うした事態は適切でない。したがって、成果主義賃金制度の導入を含め、労 働条件の不利益変更の可能性を含む事案については、「労働条件〔の〕変更」

(労契10条)該当性を肯定して就業規則の不利益変更法理に持ち込んだ上で、

変更の合理性判断段階で事案の特質を考慮することが適切と考える10)

⑵ 就業規則変更の合理性の判断枠組み ア 問題の所在

 次に問題となるのは、就業規則変更の合理性に係る具体的判断基準である。

この点、労契法10条およびその前身を成す判例法理によれば、就業規則の不 利益変更の合理性は、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の 必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、

⑤その他の就業規則の変更に係る事情を総合考慮して判断される11)。  裁判例は、成果主義賃金制度の導入を内容とする就業規則変更の合理性に ついても、上記の判断枠組みに従って判断している。しかし、成果主義賃金 制度導入事案においては、制度自体の導入および当該制度の実施(実際の人 事考課および格付け)という2段階によって賃金・労働条件が決定される点 に留意する必要がある。すなわち、ここでは、この一連のプロセスに基づき、

最終的には人事考課と格付けを通して初めて個別の賃金額が確定し、不利益 の内容・程度が判明することから、プロセス全体として合理性を評価する必 要があるところ、伝統的な不利益変更法理は必ずしもこのような紛争事案を

9) 同旨、前掲注3)Y社事件。

10) 荒木=菅野=山川・前掲注6)書135頁。

11) 土田・前掲注1)書560頁以下参照。代表的判例として、第四銀行事件・最判平成9・2・

28民集51巻2号705頁、みちのく銀行事件・最判平成12・9・7民集54巻7号2075頁。

(17)

前提としていない12)。また、通常の就業規則不利益変更事案は、賃金を直接 引き下げる事案であるのに対し、成果主義賃金制度は、労働者個人の働き方

(能力・職務行動・成果)によって賃金を増減させる制度であるから、賃金 を直接引き下げる変更事案と同列に解することはできない13)

 そこで、以下、学説・裁判例が成果主義賃金制度導入事案の特質をどのよ うに考慮して判断してきたかに着目しつつ検討したい(叙述の便宜上、本項 では、②労働条件の変更の必要性を先に取り上げる)。

イ 労働条件の変更の必要性

 労働条件変更の必要性について、判例は、賃金・退職金の不利益変更につ き、「そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけ の高度の必要性に基づいた合理的な内容のもの」であることを要件と解し、

高度の必要性を要求して変更の合理性を厳格に判断している14)。問題は、こ の要件が成果主義賃金制度導入事案にも適用されるか否かである。

 学説においては、賃金引下げについて要求される高度の必要性要件は、企 業の経営悪化や組織の統一等に伴う賃金原資総体の引下げに関するものであ り、成果主義人事の導入に直ちに妥当しないとして、高度の必要性を厳格に 解すべきではないと説く見解がある。すなわち、このように解さないと、通 常の企業が成果主義人事を導入することが困難となり、現実的妥当性を欠く 結果となるとする。そして、賃金原資の公平な配分、成果・能力評価の明確 化、従業員へのインセンティブの付与、生産性の向上に寄与すること、それ を通して、企業の将来の発展をもたらし、多数従業員から肯定的に迎えられ ていることが立証されれば足りると説く15)。これに対しては、成果主義賃金 制度への移行が、労働契約の本質的な部分に変更を加え、その結果、長期に わたって労働者の賃金・雇用・生活全般に影響を及ぼすことに鑑みると、制

12) 道幸哲也「成果主義人事制度導入の法的問題(3・完)」労判940号(2007)7頁。

13) 土田道夫「成果主義徹底型賃金制度と労働法」季労207号(2004)36頁。

14) 前掲注11)第四銀行事件、前掲注11)みちのく銀行事件。

15) 土田・前掲注13)論文37頁、土田・前掲注1)書571頁。

(18)

度導入に関する必要性を容易に認めるべきではなく、慎重かつ詳細な検討を 加えるべきとする見解16)や、成果主義賃金制度が賃金を一律に引き下げる 変更とは異なることをもって就業規則変更に関する厳格な合理性判断を免除 すべきではないと説く見解17)もある。

 裁判例を見ると、まず、成果主義賃金制度の導入によって多数従業員の賃 金が大幅に減少し、賃金原資総額自体が減少していると見られる事案につき、

代償措置や経過措置が不十分であり、労働者が納得できるような労使間の利 益調整がなされていない場合は、「企業存亡の危機にある等の高度の必要性」

を求める裁判例がある18)

 これに対して、賃金原資総額の減少を伴わない成果主義賃金制度導入事案 については、裁判例は、上記「企業存亡の危機」のような高度の必要性を求 めていない19)。例えば、企業が国際的競争力を要求される今日では、労働生 産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働 生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求めら れるとして高度の必要性を認める例20)、成果主義賃金制度の導入によって従 業員の活力を引き出すことにより、労働生産性を高めて会社の競争力を強化 し、会社業績を好転させることに高度の必要性を認める例(前掲ノイズ研究 所事件[注3])、商工会議所の賃金制度として、従来の意欲・態度等の抽象 的要素ではなく、現実に成果として現れる行動を軸にして評価を行う制度(役 割等級制度)に改訂することにつき、事業戦略や人材育成の観点から見て合 理的な経営判断であるとして変更の必要性を認める例(前掲東京商工会議所

16) 中野麻美「成果主義を背景とする不利益変更をめぐる判例の整理と理論的課題」季労210号

(2005)50頁。

17) 緒方桂子「成果主義人事とその法的規制の方向――土田道夫『成果主義人事と労働契約・労 働法』の検討」労旬1591号(2005)37頁参照。

18) アーク証券[本訴]事件・東京地判平成12・1・31労判785号45頁。

19) 石田信平「判批(ノイズ研究所事件)」同志社法学59巻1号(2007)318頁。

20) 前掲注3)ハクスイテック事件。同旨裁判例として、年功給は、生産性の低い者が高い賃金 を受けるという点で従業員のモチベーションに影響し、また、新規従業員の採用を困難にする ことから高度の必要性を認める裁判例(前掲注3)県南交通事件)がある。

(19)

事件[注3])がある。すなわち、裁判例は、前記第一の学説と同様、高度 の必要性について緩やかに判断しているといいうる21)

ウ 労働者の受ける不利益の程度

 就業規則改訂によって賃金を現実に引き下げる通常の事案については、労 働者の受ける不利益の程度は、労働条件変更の必要性と並んで基本的な考慮 要素となる。すなわち、判例・裁判例は、この種の事案につき、変更後の賃 金制度の適用による具体的不利益(賃金減額)の程度を認定した上、当該不 利益の程度や、それを緩和する代償措置・経過措置の有無・内容を十分考慮 して変更の合理性を判断してきた22)。これに対し、成果主義賃金制度の導入 は、労働条件を現実に引き下げるものではなく、労働者の能力・成果によっ て賃金を増減させる制度であるため、別途の考察が必要となる。

 もっとも、成果主義賃金制度の導入についても、比較的初期の裁判例は、

成果主義賃金制度の適用によって労働者が被る具体的不利益(賃金減額)の 程度を詳細に認定して変更の合理性を判断する態度を採用していた23)。これ に対して、近年の裁判例は、就業規則変更の合理性判断において労働者の具 体的不利益(賃金減額)を必ずしも重視していない。例えば、前掲ノイズ研 究所事件(注3)は、個々の従業員の具体的な評価次第では旧賃金制度の下 で支給されていた賃金額が相当程度減少することがあり、新賃金制度の下で

21) 本文に掲げた裁判例のほか、技術革新に対応して従業員のモチベーションを高めて生産性を 向上させ、会社組織を活性化させるとの観点から必要性を肯定する例(前掲注3)三晃印刷事 件(ほぼ同旨、前掲注3)Y社事件)、社会福祉法人における賃金制度として、年功賃金制から、

個人の能力・実績を重視した制度に改訂する必要性を肯定する例(前掲注3)社会福祉法人賛 育会事件)、透明で公正な賃金制度導入の必要性を肯定する例(ネオ・コミュニケーションズ・

オムニメディア事件・東京地判平成16・12・24労判886号86頁)、スタッフからジュニアスタッ フへの降格規定の新設につき、従業員の職務遂行能力の維持および能力開発に向けた動機づけ という観点から高度の必要性を肯定する例(トーマツ事件・東京地判平成30・10・18労経速 2375号14頁)等がある。

22) 例えば、退職金の支給率引下げ(大曲農業協同組合事件・最判昭和63・2・16民集42巻2号 60頁)、定年年長に伴う高年齢層従業員の基本給引下げ(前掲注11)第四銀行事件)、高年齢従 業員を対象にした賃金減額措置(前掲注11)みちのく銀行事件)等。

23) 前掲注3)ハクスイテック事件、前掲注3)クリスタル観光バス事件等。

(20)

支給された被控訴人ら賃金額が旧賃金制度下の賃金額より相当程度減少して いるとの事実を認定しながら、それを直接評価することを避け、使用者が講 じた経過措置が当該不利益に見合う相当なものか否かに関する判断に移行し ている。すなわち、同事件は、労働者の不利益の程度について、経過措置と の関係で考慮するものの、独立した考慮要素に位置づけていない24)。また、

本判決と同様に最近の裁判例である前掲東京商工会議所事件(注3)も同様 の判断を示している。すなわち、同事件は、本件における就業規則変更は、

評価次第で増額・減額のいずれもあり得る制度変更であり、一度減額されて もその後の努力次第で増額の余地も残されているため、人件費削減目的の変 更と異なり、本件変更時の減額幅を制度変更の合理性の判断に投影させるこ とは相当ではなく、賃金体系変更の合理性の判断の一要素としてはともかく、

合理性を否定する決定的要素とまでは考えられないと判断している。

 このように、ノイズ研究所事件および東京商工会議所事件が不利益の程度 を重視していないのは、就業規則の変更内容(制度内容)自体とその適用(実 際の人事考課および格付け)を明確に区別し、不利益変更の合理性判断の対 象を前者に求めたためと考えられる。この点について、ある論者は次のよう に指摘する。すなわち、賃金を現実に引き下げる従来の不利益変更事案25)

においては、変更された制度内容自体から直ちに確定的な不利益が生ずるた め、変更後の制度内容自体とその適用による不利益の程度は区別されず、一 体となって合理性判断の考慮要素となっていた。これに対して、成果主義賃 金制度の場合は、制度内容としては、賃金減額(不利益)の可能性を内在す るにとどまり、しかも、人事評価や格付けにより利益となる可能性も内在し ているため、現実にいずれとなるかは制度導入後の具体的な適用によって決 せられる。そこで、裁判所は、制度内容とその適用場面を明確に区別し、か つ、合理性の判断を制度内容について行うことから、適用の結果である具体

24) 中山慈夫「判批(ノイズ研究所事件)」ジュリ1340号(2007)123頁、斉藤善久「判批(ノイ ズ研究所事件)」法時80巻2号(2008)101頁以下参照。

25) 前掲注22)掲載の判例参照。

(21)

的不利益の程度を重視せず、これを独立した考慮要素と考えていないと解さ れる、と26)。裁判例の分析としては当を得た指摘といえよう27)

 一方、学説においても、成果主義賃金制度導入事案については、判例が通 常の就業規則変更事案について重視してきた考慮要素(労働者の具体的不利 益の程度、代償措置、関連労働条件の改善等の実質的見返り)は必ずしも必 要でなく、むしろ、ⓐ賃金原資が維持されること、ⓑ従業員が標準的評価を 受けた場合の予測賃金が現行の標準的賃金を下回ることがないこと、ⓒ対象 従業員が公正な評価によって昇給・昇格する機会を平等に保障されているこ と、ⓓ急激な変更を緩和するための適切な経過措置が講じられていることが ポイントとなり、それらが制度に組み込まれていれば、不利益性を否定すべ きであると説く見解がある28)。ノイズ研究所事件等の近年の裁判例と同旨の 見解であるが、一方、成果主義賃金制度の導入は、それまで年功賃金に慣れ 親しんできたベテラン層に大きな影響を与える変更であるから、急激な賃金 変動を緩和するための十分な経過措置を講ずることが必須となると説き、経 過措置につき、労働者の受ける不利益の程度および変更後の就業規則内容の 相当性(本項エ②)として重視する点に特色がある29)。これに対しては、上 記学説・裁判例をさらに進めて、不利益性判断自体の意義を消極視する見解 があり、成果主義賃金制度導入事案のように制度自体に確定的な不利益が内 在せず、個々の労働者に対する適用(人事評価・格付け)により不利益が生 ずる場合は、その適用が違法であれば別途不法行為法理により救済できるこ とから、さらに不利益変更法理の中で当該不利益性および経過措置を重視し て、制度自体を否定してまで救済を認めるのは過大であると説く30)

26) 中山・前掲注24)判批123頁。

27) もっとも、最近の裁判例においても、成果主義賃金制度の導入・適用によって低い評価が行 われた場合に労働者が被る具体的不利益(賃金減額)の程度を詳細に認定して変更の合理性を 判断する例も見られる(前掲注3)社会福祉法人賛育会事件、Y社事件)。

28) 土田・前掲注1)書571頁以下。

29) この点については、土田道夫「成果主義賃金制度導入時の留意点」野川忍=水町勇一郎編『実 践・新しい雇用社会と法』(有斐閣・2019)111頁も参照。

(22)

エ 変更後の就業規則内容の相当性

①人事評価制度の合理性

 変更後の就業規則の内容の相当性については、労働条件を現実に引き下げ る通常の事案においては、代償措置、関連労働条件の改善状況、経過措置、

同種事項に関する我が国社会における一般的状況等が問題となる。これに対 し、成果主義賃金制度の導入については、その特質に鑑み、成果主義の生命 線を握る人事評価制度の合理性に重点を置いて判断すべきであると説く見解 が見られる。すなわち、成果主義人事は、能力・成果の評価を通して賃金・

処遇を決定する制度であるから、人事評価と賃金決定がどのような手続を経 て行われるかという制度設計の公正さこそが制度の合理性(労契10条の①・

③)を決する要素となるというのである。より具体的には、◯公正・透明な 評価制度・処遇制度の整備・開示、◯評価結果や処遇の内容の説明・フィー ドバック、◯紛争処理制度の整備、 ◯能力開発制度や職務選択権の制度的保 障(社内公募制・社内FA制)を掲げる31)

 上記学説に対しては、第三者である裁判所が労使以上に合理的な制度につ いての判断能力を有しているとは思われないという理由から、労使間の合意 があれば、たとえそれが理念としての望ましい制度から乖離していたとして も、公序良俗に反するような著しく不当な内容でない限り、当該企業内の労 使の選択として尊重すべきとする見解がある32)。また、人事評価制度の合理 性要件を画一的に決めることは困難であるため、制度設計自体から必然的に 違法な評価(裁量権の逸脱・濫用)を生じさせるものでない限り、制度の合 理性は肯定されるとする見解もある33)。これに対しては、人事評価の制度設 計について労使自治を過度に尊重することは、一部労働者層を不利益に取り

30) 中山・前掲注24)判批123頁。

31) 土田・前掲13)論文33頁、37頁。土田・前掲注1)書294頁、572頁。

32) 大内伸哉「成果主義の導入と労働条件の変更」土田道夫=山川隆一編『成果主義人事と労働 法』(日本労働研究機構、2003)247頁。これに賛同する見解として、島田陽一「判批(アーク 証券事件)」判評506号(2001)206頁参照。

33) 中山・前掲注24)判批124頁。

(23)

扱う評価基準を生み出す可能性があるとの反論が行われている34)

 裁判例においても、上記第一の学説と同様の判断を示す例が登場している。

前掲ノイズ研究所事件(注3)は、同事件における成果主義賃金制度の導入 は、賃金原資総額を減少させるものではなく、賃金原資の配分の仕方を合理 的なものに改めるものであり、また、個々の従業員の具体的な賃金額を直接 的・現実的に減少させるものではなく、賃金額決定の仕組み・基準を変更す るものであって、個々の従業員の賃金額は、従業員の職務内容と業績・能力 の評価に基づく格付けによって決定されるのであり、どの従業員についても 職務遂行能力等の向上によって昇格・昇給する平等な機会が与えられている との評価を前提に、「新賃金制度の下において行われる人事考課査定に関す る制度が合理的なものであるということができるのであれば、本件賃金制度 の変更の内容もまた、合理的なものであるということができる」と判断して いる。

 このように、前掲ノイズ研究所事件は、上記第一の学説と同様、変更後の 就業規則内容の相当性につき、人事評価制度の合理性を中心に据えて判断を 行っている。妥当な判断と解されるが、他方、同事件の具体的判断には疑問 がある。すなわち、判旨は、本件において、人事考課制度の合理性の重要な 要素である評価プロセスや評価結果の開示・説明、それに対する労働者の意 見表明の機会の確保、紛争処理制度が十分に整備されていないとの事実を認 定しながら、人事考課の主体・方法・評価基準が整備され、考課者訓練等が 実施されていることから、「人事評価制度の合理性として最低限必要とされ る程度のもの」を備えていると評価し、人事考課制度の合理性を比較的簡単 に肯定している。しかし、裁判所自ら人事評価制度の合理性を変更後の就業 規則内容の相当性に関するポイントとして重視しながら、「人事評価制度の 合理性として最低限必要とされる程度のもの」を備えていれば足りるとして 合理性を簡単に肯定する判断は、規範と当てはめとの間の整合性を欠くとと

34) 石田・前掲注19)判批324頁。

(24)

もに、拙速な判断との観を否めない35)

 上記裁判例以降にも、人事評価制度の相当性を重視して合理性判断を行う 裁判例がある。例えば、基本給・能力給・実績給に関する具体的決定基準・

ランク等の欠如という人事評価制度の制度設計の不十分さを理由に変更後就 業規則内容の相当性を否定し、変更の合理性を否定した例36)や、第一次評 価と第二次評価を同一の者が行う(複数評価でない)ため、評価者の恣意的 な判断が入り込むことや、従業員が評価結果に不服がある場合も、他の評価 者による再評価や評価に対する審査(異議申立)の機会がなく、評価の公正 さが制度的に担保されていないとして変更後就業規則内容の相当性を否定 し、変更の合理性を否定した例37)がある。一方、合理性肯定例としては、

前掲東京商工会議所事件(注3)があり、判旨は、新たな賃金制度が公平・

公正なものとして機能するためには、人事評価が適正に行われ、等級格付け や昇給・降給の判断が適切になされることが必要であるところ、本件制度の 内容は、被考課者が考課者と面談して策定した成果目標等を目安としつつ、

35) 土田道夫「職務給・職務等級制度をめぐる法律問題」安西愈先生古稀記念『経営と労働法務 の理論と実務』(中央経済社・2009)201頁。同旨、石田・前掲注19)判批325頁。

36) 学校法人実務学園ほか事件・千葉地判平成20・5・21労判967号19頁。

37) 前掲Y社事件(注3)。本判決は、成果主義型賃金制度は、従業員の能力・成果に対する評 価によって従業員の賃金等を決定する制度であるから、その相当性を判断するに際しては、評 価の公正さが非常に重要な要素となり、業績について公正な評価がされることが制度的に担保 されている必要があると述べた上、具体的判断としては、一次評価については基準が不明確と はいえないものの、最終的評価については、賃金の大幅な減少をもたらすD評価の具体的な 基準が定められていないこと、本文で紹介したとおり、複数評価(多面的評価)を採用してい ないため評価者の恣意的判断が行われうることや、他の評価者による再評価や再審査・異議申 立制度が存在しないことに着目して、評価の公正さが制度的に担保されていないと判断してい る。本文に述べた学説(注31)と同旨の判断といえよう。なお本判決は、原告従業員が成果主 義賃金制度導入を内容とする就業規則変更の合理性を争って差額賃金請求を行ったのではな く、就業規則変更およびそれに基づく評価・減給によって損害を被ったとして不法行為に基づ く損害賠償請求を行ったことに応じて、就業規則変更が合理性を欠く場合は不法行為として違 法となるとの判断枠組みを採用しており、この点にも特色がある。結論としては、少なくとも 第一次評価と第二次評価を同一の者が行う場合のD評価に係る部分については違法となると 判断し、原告従業員がD評価を受けたことにより被った損害について、会社の不法行為に基 づく損害賠償責任を肯定している。

(25)

その達成度を考課者が被考課者の自己評価も踏まえて評価し、現等級以上の 役割を果たしているか否かを数値化した上、さらにその結果が被考課者に開 示され、異議申立てもできるというものであって、客観性と透明性を有する 人事評価制度として本件変更の合理性を基礎づけるに足りる制度であると評 価している。前掲ノイズ研究所事件と比較して、より周到な判断といいうる。

②経過措置

 前記のとおり(Ⅲ2⑵ウ)、成果主義賃金制度においては、その導入に伴 う賃金の急激な減額を緩和するための経過措置(調整給の支給等)が重要な 意義を有する(労契10条の①労働者の受ける不利益の程度および③変更後の 就業規則内容の相当性に係る考慮要素となる)。この経過措置については、

前掲ノイズ研究所事件(注3)と、前掲東京商工会議所事件(注3)が対照 的な判断を示している。ノイズ研究所事件は、職務給制度の導入に際して行 われた経過措置(調整手当)の支給期間が2年と短く(制度変更の1年目は 差額に相当する調整手当を全額支払うが、2年目は50%となり、3年目から はゼロとなる)、賃金減額がかなり急激に行われた事案であるにもかかわら ず、「経過措置は実情に応じて可能な範囲で手厚いものであることが望まし い」ところ、本件における経過措置は、いささか性急なものであり、柔軟性 に欠ける嫌いがないとはいえないが、それなりの緩和措置としての意義を有 していると述べ、経過措置の相当性を肯定している。しかし、この判断には 疑問がある。成果主義賃金制度の導入については企業の経営判断を尊重する 観点から導入の必要性を緩やかに解する以上、経過措置については、急激な 変化を緩和するための十分な措置を求めるべきであり、判旨は、些かバラン スを失した判断であると解される。職務給制度導入のような賃金制度の大幅 な変更については、「経過措置は実情に応じて可能な範囲で手厚いものであ ることが望ましい」のではなく、可能な限り十分に手厚い内容の措置である ことを求められると解すべきであろう38)

38) 土田・前掲注35)論文201頁。同旨、石田・前掲注19)判批321頁。なお、ノイズ研究所事件 の原審(横浜地川崎支判平成16・2・26労判875号65頁)は、経過措置手当を支給する理由は、

(26)

 これに対し、前掲東京商工会議所事件は、役割給制度を内容とする成果主 義賃金制度への再編を内容とする就業規則変更につき、「1年目は減額賃金 相当額を全額支給、2年目はその3分の2を支給、3年目は当初調整給の3 分の1を支給」という経過措置について、十分手厚いとはいい難いものの、

一定の緩和措置としての意義はあり、その支給期間中に2回の昇級・昇給の 機会があることによれば、変更の合理性を基礎づける要素として考慮できる と判断している。ノイズ研究所事件の経過措置と比較すれば、激変緩和措置 として評価しうるものであり、概ね妥当な判断といえよう39)

オ 労働組合等との交渉の状況

 労働組合等との交渉の状況(ⓓ)については、学説は、成果主義賃金制度 は年功賃金制度を抜本的に改める制度であるから、労働者の納得を得るため の入念な団体交渉・労使協議が求められると解している40)。また、企業内の 民主的手続で選出された従業員代表が存在していれば、従業員代表との合意 を合理性判断において十分考慮すべきであり、人事考課制度の合理性や経過 措置の妥当性についての一つの根拠となると説く見解もある41)

 裁判例も、おおむね同様に解しており、例えば、前掲ノイズ研究所事件(注 3)は、会社は、本件賃金制度の変更に当たり、あらかじめ従業員に変更内

給与の急激な減額により生ずる生活上の支障を軽減することにあり、その支給期間を考慮する 要素として、①大きな支障なく生活を変えることのできるのに相当な期間、②継続的にベース アップが予想されるときはそのベースアップにより減額が実質的になくなるとみられる期間、

③住宅ローンや子供の学費等が不要となる期間を予想した期間等を挙げ、こうした見地から、

会社の定めた2年間は余りに短く、減少額も急激であって、経過措置としては不十分であると 判断している。この判断を支持する見解として、石田・前掲注19)判批321頁参照。

39) このほか、前掲注3)三晃印刷事件は、成果主義的な職能資格制度への改訂事案につき、月 額給与が減少する従業員について3年間減額分を填補し、4年目以降に調整給を支給しつつ、

2年間で削減しゼロにするという経過措置について、効果的な激変緩和措置と評価している。

一方、前掲注3)社会福祉法人賛育会事件は、類似の事案につき、3年間の調整手当支給につ いて、代償措置として不十分と判断している。

40) 土田・前掲注1)書572頁 41) 中山・前掲注24)判批124頁。

(27)

容の概要を通知して周知に努め、労働組合との団体交渉において調整手当全 額相当分を基本給に上乗せするためにその金額に見合う職位格付けを行うべ く努力しており、労使間合意により円滑に本件賃金制度の変更を行おうとす る姿勢に欠ける点はなかったとして、変更の合理性を肯定する一要素と評価 した。また、前掲東京商工会議所事件(注3)は、使用者が役割給制度の導 入の前後を通して労働組合に対する説明や内規改正案の提示を行い、組合の 意見も一部反映させながら具体的な制度設計を進めていることや、職員に対 しても、改正の約1年前に職掌・階層ごとに人事制度改正の説明会を開催し 質疑応答をした上、改正8か月前には調整給の支給対象者には特別の説明会 を開催し、各人の役割給・調整給のシミュレーションを示すなど、丁寧な説 明の機会を設けていると評価し、変更の合理性を肯定する一理由としている。

 一方、前掲Y社事件(注3)は、会社が成果主義賃金制度の導入に際し て労働組合との間で合計7日間の労使協議を行って同意を得たものの、従業 員が大きな不利益を受けることになるD評価について、具体的な基準の明 確化や再評価の可能性が議論されていないこと等から、組合は、賃金制度変 更によって大きな不利益を被る一部の少数の者については代表する立場にな かったと判断し、変更の合理性を否定する一理由に位置づけている。

3 本判決の分析・評価

 判旨1・3に疑問があり、結論にも疑問の余地がある。

⑴ 判旨1について

ア 労働条件の不利益変更への該当性

 前記のとおり(Ⅲ2⑴)、就業規則による成果主義賃金制度の導入につい ては、①そもそも労働条件の不利益変更(労契10条)に該当するか、②該当 するとして、その要件をどのように考えるべきか、の2点が問題となるとこ ろ、本判決(判旨1⑴)は、①について、新給与規程の下では、人事考課査 定の結果によっては旧給与規則の下で支給されていた賃金額から減額された

(28)

金額が支給される可能性があることから、旧給与規則から新給与規程への変 更は、上記可能性が存する点において、就業規則の不利益変更に当たる」と 判断した。

 この判断は、先に紹介した従来の裁判例(前掲ハクスイテック事件〔注3〕、

ノイズ研究所事件〔注3〕)および学説(Ⅲ2⑴)と同様、旧就業規則の下 で支給されていた賃金額から減額された金額が支給される可能性が存在する ことを理由に、労働条件の不利益変更への該当性を肯定するものであり、妥 当と解される。

イ 就業規則の不利益変更の判断枠組み

 本判決において、最も注目すべき点は、成果主義賃金制度導入事案におけ る就業規則変更の合理性判断(上記②)に関して、判断枠組みを修正した点 にある。すなわち、判旨1⑵は、◯賃金の原資総額が減少する場合と、原資 総額は減少せず、労働者全体では不利益となるわけではなく、個々の労働者 の賃金の増減額が人事評価の結果として生ずる場合とでは、就業規則変更の 合理性の判断枠組みを異にすると述べた上、◯賃金原資総額が減少しない場 合は、個々の労働者の賃金を直接的現実的に減少させるのは賃金制度変更そ れ自体ではなく、当該職員に係る人事評価であるから、労働者の不利益の程 度および就業規則変更の合理性判断に際しては、人事評価の基準や評価の結 果に基づく昇給・昇格・降給・降格に係る従業員間の平等性が確保されてい るか否か、評価の主体・評価の方法および評価の基準・評価の開示等につい て使用者の裁量の逸脱・濫用を防止する一定の制度的担保がされているか否 か等の事情を総合的に考慮して判断すべきであるとの判断枠組みを提示した 上、この判断枠組みを本件に適用し、本件就業規則変更の効力(契約内容変 更効)を肯定した。以下、就業規則変更の合理性判断要素(労契10条)に即 して具体的に検討する。

参照

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