米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)
著者 山根 崇邦
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 7
ページ 2649‑2749
発行年 2018‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000309
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六二一二六四九
米 国 連 邦 営 業 秘 密 防 衛 法 ( D T S A ) の 研 究 ( 一 )
山 根 崇 邦
Ⅰ はじめに
1 本研究の意義
2 本研究の検討課題Ⅱ DTSAの制定背景および立法の特徴
1 DTSAの制定背景
⑴ 営業秘密の窃取等の急増により米国経済が被る損害の拡大
⑵ 既存の法制による対応の限界
2 立法の特徴
⑴ 営業秘密侵害訴訟に係る連邦管轄権および一方的差押えの創設
⑵ 営業秘密保護のルールの統一?Ⅲ DTSAの規律とその解釈・適用
( )同志社法学 六九巻七号六二二米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六五〇
1 連邦裁判所の管轄権
2 保護対象
︱
営業秘密⑴ 秘密保持のための合理的措置
⑵ 非公知性・非容易確認性
⑶ 有用性
⑷ 営業秘密の特定、範囲
3 規制行為
︱
不正利用⑴ 不正な取得行為
⑵ 不正な開示・使用行為
⑶ 施行日を跨いで行われる不正利用と改正法の適用範囲
4 適用除外等
⑴ 内部告発を目的とした営業秘密の開示行為の免責
⑵ 出訴期限
(以上、本号)
5 一方的差押え
6 救済
7 米国外の行為に対する域外適用の可能性
8 小括Ⅳ DTSA施行後の一年間に出された裁判例の統計的分析Ⅴ おわりに
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六二三二六五一
Ⅰ は じ め に
本稿は、二〇一六年五月一一日に成立・発効した、米国連邦営業秘密防衛法(D ef en d T ra de S ec re ts A ct o f
二〇一六、以下﹁DTSA﹂という)について研究を行うものである )1(。DTSAは、急増する営業秘密の窃取等に対応するために米国が整備した、営業秘密の保護に関する新たな連邦民事法である。具体的には、DTSAは、営業秘密の窃取等に関する罪を定めた連邦刑事法(連邦経済スパイ法)として構成されていた合衆国法典第一八編第九〇章を改正し、連邦法下における営業秘密の不正利用に対する民事訴訟手続や民事的救済等の規定を新たに盛り込むものである )2
(。これにより合衆国法典第一八編第九〇章は、﹁営業秘密の保護﹂という表題の下、刑事的な規定(連邦経済スパイ法)と民事的な規定(DTSA)の双方を備えた連邦営業秘密保護法として再構成されることになった。本稿がなぜDTSAに注目するのか、その理由を明らかにすることから始めよう。
1 本 研 究 の 意 義
本稿がDTSAに注目する理由は、主に次の二点である。 第一に、我が国や欧州の近年の営業秘密関連立法において、米国の法制がたえず一つのモデルとして参照されている点である。例えば、我が国では、二〇一〇年以降、国外への技術情報漏洩事件が相次いだ。これを受けて我が国は、二〇一五年に不正競争防止法を改正し、主に営業秘密の刑事的保護の強化を図った )3
(。その際に立法のモデルとしたのが、米国の連邦経済スパイ法(
E co no m ic E sp io na ge A ct o f 19 96
)である )4(。同法は、営業秘密の漏洩(特に外国への漏洩)に厳正に
( )同志社法学 六九巻七号六二四米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六五二
対処するために、米国が一九九六年に制定した連邦刑事法である
)5
(。
また、欧州では、二〇一〇年頃から、EU域内における営業秘密保護の不統一かつ不均衡な状況が、域内市場の経済成長に悪影響を及ぼし、EUの競争力の低下を招いている、といった懸念が示されるようになった
)6
(。これを受けて欧州は、EU全域における営業秘密の基本的な保護枠組みの確立と調和を目的として、二〇一六年五月二七日に営業秘密の保護に関するEU指令を採択した(同年六月八日施行。各加盟国は、二〇一八年六月九日までに、国内法において本指令が担保されるよう措置する必要がある )7
()。その際に立法のモデルとしたのが、米国の統一営業秘密法(
U nif or m T ra de Se cr et s A ct
、以下﹁UTSA﹂という)である)8
(。UTSAは、各州の営業秘密保護が不統一な状況を是正するために、全国統一州法委員会が一九七九年に制定(一九八五年に改正)した営業秘密の民事的保護に関する模範法である。各州は、UTSAを模範として州営業秘密法を制定するよう推奨され、現在までに四八州においてUTSAが採択されている(UTSAの一部の規定を取り込んだ州営業秘密法を制定しているノースカロライナ州を実質的な採択州として含めた )9
()。
このように、近年の営業秘密関連立法においては、我が国も、そして欧州も、米国の法制を一つのモデルとして参照している。確かに、我が国は法改正にあたって米国に限らず、ドイツや韓国の不正競争防止法も参照している。また、欧州もEU指令案の作成にあたって、UTSAのほかに、日本やスイスの不正競争防止法も参照している。しかし、そうした各国法制度間の競争の中にあっても、米国の営業秘密法制の影響力は抜きん出ている。これは一つには、米国が、営業秘密法制をいち早く企業の競争力や自国経済の繁栄にとって不可欠な制度と位置づけ、刑事制裁か民事的救済かを問わず、営業秘密の不正利用に対する効果的な措置をたえず模索してきたことによるのだろう )₁₀
(。営業秘密の保護のあり方を考えるうえで、米国の経験から学ばない手はないという理解が各国の共通認識となっている。
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六二五二六五三 とりわけ現在、重要なデータのデジタル化や国際貿易の増加に伴って、営業秘密の窃取が容易化し、営業秘密の不正利用が国際的に急増している。こうした状況に鑑みれば、米国が今回の立法において、営業秘密の不正利用に対してどのような措置を講じているのかを確認しておくことは、我が国の将来の法制を考えるうえでも重要なことである。本稿が、米国の新たな連邦民事法制であるDTSAに注目する一つの理由はここにある。
第二に、DTSAは、米国の営業秘密法制が裁判所において具体的にどのように解釈・適用されているのかを把握するのに適している点である。
DTSAの制定以前には、州ごとに営業秘密法の内容が異なっていた。また、州裁判所で判断されるケースと連邦裁判所で判断されるケースとが混在していた。そのため、米国の営業秘密訴訟の全体像を掴むことが難しかった。これに対しDTSAは、すべての州に共通に適用される連邦民事法制である。また、その判断は連邦裁判所でなされる。そのため、米国の営業秘密訴訟を総体として把握するのに適している。
DTSA施行後の一年間において、DTSAに基づく請求がなされた訴訟の件数は四八六件にのぼるといわれている )₁₁
(。管見の限り、このうち八五件の訴訟では、既に二〇一七年五月一一日の時点で、連邦裁判所の判断が下されている )₁₂
(。これらの判断の多くが、トライアル(事実審理)前の、訴訟の早期段階で示された判断である。具体的には、訴え却下、訴状の修正、暫定的救済(一方的差押え、緊急差止命令、暫定的差止命令)、サマリ・ジャッジメントの各申立に対する判断が大半を占める。この点、米国の営業秘密訴訟においては、トライアルまで行くケースはそれほど多くはなく、むしろトライアル前の攻防が訴訟の帰趨を決する重要な局面となることの方が多いといわれている )₁₃
(。それゆえ、DTSA施行後の一年間に出された裁判例を分析することでも、DTSAの運用実態の相場観を掴むことはできるように思われる。
( )同志社法学 六九巻七号六二六米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六五四
また、八五件の訴訟の中には、我が国の裁判例と事案が類似している事件も数多く含まれる。それゆえ、そうした事件において、米国の裁判所がDTSAをどのように解釈・適用し、事案を解決しているのかを知ることは、我が国の実務にとっても有益なように思われる。いずれにしても、裁判所における営業秘密法制の運用実態を把握するのに適していることが、本稿がDTSAに注目するもう一つの理由である。
2 本 研 究 の 検 討 課 題
そこで次に、本稿が、DTSAの何をどのように検討するのかを示しておこう。 まず、Ⅱでは、米国がなぜDTSAを制定したのか、またどのような立法を行ったのか、DTSAの制定背景と立法の特徴を明らかにする。その際には、DTSA法案(S. 18 90
)を作成した司法委員会(T he C om m itt ee o n th e Ju dic ia ry
)の立法資料を参照する。具体的には、同委員会が本法案を上院および下院に提出するにあたってまとめた報告書(以下、それぞれ上院報告書 )₁₄(、下院報告書 )₁₅
(という)の記述、および同委員会のメンバーが上院本会議で行った本法案提出理由の説明 )₁₆
(を参照しながら、分析を行う。
次に、Ⅲでは、DTSAの規定内容、各規定の立法趣旨を概観したうえで、それらの規定が裁判例においてどのように解釈・適用されているのかを明らかにする。その際には、前記の立法資料を参照するとともに、DTSA施行後の一年間に出された八五件の裁判例および二〇一七年五月二三日、八月三〇日に出された一方的差押えの認容事例二件の計八七件の裁判例を参照しながら、分析を進める。
Ⅳでは、DTSA施行後の一年間に出された八五件の裁判例を統計的に分析し、その特徴を明らかにする。その際には、裁判地、当事者の属性と関係、申立の種類(
e. g.
訴え却下、訴状の修正、暫定的救済、サマリ・ジャッジメント等)、( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六二七二六五五 申立の対象となっている営業秘密の種類、暫定的救済(一方的差押え、緊急差止命令、暫定的差止命令)の平均審理期間・認容率・救済内容等に注目しながら、分析を進める。
最後に、DTSAに関する以上の研究から、我が国にどのような示唆が得られるのかを明らかにして、本稿の結びとしたい(Ⅴ)。
以下、順に検討していこう。
Ⅱ D T S A の 制 定 背 景 お よ び 立 法 の 特 徴 1 D T S A の 制 定 背 景
前述のとおり、DTSAは、二〇一六年五月一一日に制定された、営業秘密の保護に関する新たな連邦民事法である。ではなぜ米国はDTSAを制定したのだろうか。その理由は、一言でいえば、急増する営業秘密の窃取等に既存の法制では十分に対応できないと判断したからである。立法資料からは、司法委員会が、連邦経済スパイ法には運用面で限界があり、州営業秘密法にもルールの統一性および州際事例への対応能力の面で限界がある、と認識していたことが窺える。以下、順にみていこう。⑴ 営 業 秘 密 の 窃 取 等 の 急 増 に よ り 米 国 経 済 が 被 る 損 害 の 拡 大
まず、立法資料で強調されているのは、今日の経済活動における営業秘密の重要性である。例えば、上院報告書は、﹁営業秘密は近年、米国企業の知的財産ポートフォリオにおいてその重要性を増しつつある。財務、科学、技術に関す( )同志社法学 六九巻七号六二八米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六五六
るものをはじめ、さまざまな形態の情報からなる営業秘密は、米国に拠点を置く多くの企業にとって、ビジネスを行い、競争上の優位性や財政上の成功を獲得するうえで不可欠の要素となっている﹂と述べている )₁₇
(。同様に、下院報告書も、﹁知識とイノベーションに基礎を置くグローバル経済において、営業秘密は、企業にとって最も価値のある財産の一つである﹂と指摘している )₁₈
(。
ところが、このような価値ある営業秘密が近年、深刻な窃取の脅威にさらされており、そのことが米国経済に大きな打撃を与えているという。例えば、上院報告書は、毎年、議会図書館の蔵書数を超える知的財産が、国内の企業、大学、連邦省庁のネットワークから盗まれているとしたうえで、営業秘密の窃取により米国経済が被る損害を次のように見積もっている(引用内の注は省略)。
or r f te en C he T
を明発なた新すらも上栄繁と産向の質の活生やた業なが、もに他。いてっるに状いくにれま況生 イ削がれ、シノベー欲ョがノ意るす対にンョシーベイのンつた。め人のてべす、果結のこにる効あ手段もの果失いつを 雇失が用一人の分万〇れわなているだけでく、起業家の年二毎さばらにこの報告、によれ書、取営っよにて窃の密秘業 額のこ。るれさ定推とるえ超をルド億〇〇〇三間年、はア最け。るす敵匹に額出輸間年向近はジアの国衆合るけおに、 ﹁害るたし表発近最が会員委す告関に取窃の産財的知国報書損にる被が済経国米てっよ取に窃の密秘業営、ばれよ米R es po ns ib le E nt er pr ise A nd T ra de & P ric ew at er ho us eC oo pe rs L L P
が行った研究では、営業秘密の窃取による年間コストが、四八〇〇億ドルにのぼるおそれがあると言われている )₁₉(﹂。
⑵ 既 存 の 法 制 に よ る 対 応 の 限 界
このように営業秘密の窃取が深刻な脅威となる中で、営業秘密の窃取等の被害を受けた企業は、法的手段に頼ること( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六二九二六五七 になる。その際の選択肢としては、主に連邦経済スパイ法と州営業秘密法の二つが考えられる。しかし、司法委員会によれば、これら二つの法制には限界があるという。
①連邦経済スパイ法による対応の限界 例えば、上院報告書は、連邦経済スパイ法の限界を次のように指摘している。﹁本委員会は、経済スパイや営業秘密の窃取との闘いが、連邦の法執行機関にとって最優先課題である一方で、連邦捜査局(FBI)や司法省が利用できる資源には限りがあるため、営業秘密の窃取を防ぐには、刑事上わずかな解決策しかないとの認識をもつに至った )₂₀
(。﹂
ここで司法委員会が連邦経済スパイ法の限界として挙げているのは、同法の規定内容ではなく、その運用、つまりFBIや司法省が捜査および訴追に投じることができる資源の限界である。
確かに、我が国がモデルとした連邦経済スパイ法の規定内容は、非常に強力なものである。例えば、同法が規定する営業秘密窃取罪(
18 U .S .C .§ 18 32
)を見てみよう。それによれば、州際または外国との取引に供される製品やサービスに関係する営業秘密を、その保有者以外の利益となることを知りながら、故意に、﹁営業秘密を窃取し、許可なく流用し、入手し、持ち出し、隠匿し、または欺罔、偽計もしくは詐術によって入手した者﹂または﹁営業秘密を許可なく複写し、複製し、写生し、作図し、撮影し、ダウンロードし、アップロードし、変更し、破壊し、写真複写し、模写し、送信し、引渡し、送付し、郵送し、通信し、もしくは伝達した者﹂は、﹁一〇年以下の懲役もしくは本編に規定された罰金︹二五万ドル以下または利得額の二倍のいずれか大きい方の額︺に処し、またはこれを併科する﹂とある(18 U .S .C .§ 18 32
(a
)(1
)︱(2
))。ここでは同罪の量刑の重さが目を引く。また、同罪の他の規定に目を向けると、未遂や共謀行為、窃取された営業秘密の転得行為も処罰対象に含まれており(18 U .S .C .§ 18 32
(a
)(3
)︱(5
))、処罰範囲も広い。さらに、法人( )同志社法学 六九巻七号六三〇米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六五八
も処罰対象に含まれ、法人がこれらの犯罪を行った場合には、五〇〇万ドル以下の罰金が科せられる(
18 U .S .C .§ 18 32
(b
) )₂₁()。
この他にも、営業秘密の窃取を構成する一切の財産の没収を裁判所が命じることができる規定(
18 U .S .C .§ 18 34
)や、営業秘密窃取罪を構成する行為が合衆国外でなされた場合でもその行為者が合衆国市民または同法人であるか、当該行為の一部が合衆国内でなされていれば連邦経済スパイ法が適用されるとする域外適用の規定(18 U .S .C .§ 18 37
)もある。では、このように非常に強力な連邦経済スパイ法に関して、その運用面で具体的にどのような問題があるというのだろうか。この点に関して、司法委員会の主要メンバーである
H at ch
上院議員は、上院本会議における法案提出理由の説明の中で、次のように指摘している。すでとこう ₂₂) がの経済我が国企業主直導ーンョシしベノイの日今、は面でて邦いといないてし与寄が法い連解の問題のる決、現行に 追局、訴るされのは、年結でにめたるあ数複が人告被平間こ均の一なから明らかこ。すでのるにい件程度〇とまってど なにすぎもいの意外程な度数人〇〇三が人たし訴起でとこはで至は合場のく、多で例事たっ、に。追ませんりあしかも訴 イに間年〇二の後定制法連パス済経邦、てっがたし連﹁、官邦密疑検のかれずいの取窃の容秘済業が、経察スパイか営 る罪とすることができそ場合は特にうです。﹂、有し二労追とにの足を踏むのす。同じで力上訴をで犯の罪法連の別、邦 、あるためIFBと司約がっ制たしうこ。すまりあに点省法のは追こすや費を源資な、貴に重訴査捜題問のつ一たやた 要投る必めがあるたしてじ中集を源資な雑複もりよ罪き、らわ求めうとい多が合場るれめいがで景専門的て科学的な背 るいいとだけすだ例事ま万え超をルド〇一が額償そ賠。訴のに損犯の上法邦連の他、は追理と査捜の密秘業営、は由害 ﹁、るか士護弁な富豊験経、す聞と門専を密秘業営、近らいは法のるす討検を追訴が省司た、常通、とすまりよに話最
(。﹂
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六三一二六五九 以上のとおり、司法委員会の認識によれば、営業秘密犯罪の専門性ゆえに、FBIと司法省はその捜査と訴追に他の連邦法上の犯罪よりも複雑な資源を集中的に投じる必要があり、その結果、司法省が訴追を検討するのは、事実上、損害賠償額が一〇万ドルを超える事件に限られている点に、連邦経済スパイ法の限界があるというわけである。
②州営業秘密法による対応の限界 以上は、急増する営業秘密の窃取等への刑事的な対応の限界であったが、司法委員会によれば、民事的な対応、すなわち州営業秘密法による対応にも限界があるという。
⒜ 州営業秘密法の不統一とそれに伴う企業の管理コストの増大 その一つが、州営業秘密法の不統一とそれに伴う企業の管理コストの増大である。 今日、すべての州で州営業秘密法(民事法)が制定されている。その多くは、UTSAを採用するものである。UTSAは、営業秘密の保護に関する州法の統一を意図して全国統一州法委員全国会議(
N at io na l C on fe re nc e of C om m iss io ne rs o n U nif or m S ta te L aw s
)において制定された模範法である(一九七九年制定、一九八五年改正)。各州はこれを模範として州営業秘密法を制定することが推奨され、現在までに、ニューヨーク州とマサチューセッツ州を除く四八州においてUTSAが採用されている。もっとも、各州は州営業秘密法を制定する際にUTSAに独自の修正を加えることが許容されており、実際、多くの州が修正を加えた。その結果、各州の法律の内容にばらつきが生じた。例えば、出訴期限については、二年から六年まで州ごとに異なっている(UTSAは三年 )₂₃
()。また、営業秘密の成立要件に関しても、UTSAで要件とされている﹁非容易確認性﹂を要件としない州もあれば )₂₄
(、UTSAでは要件とされない﹁取引または事業において使用されているか、
( )同志社法学 六九巻七号六三二米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六六〇
使用が意図されている情報﹂であることを要件とする州もあり )₂₅
(、一様でない。他にも、申立が可能な救済(差止、損害賠償)の内容や改正法の適用範囲の取扱い等に関して、UTSAとは異なる規定を設ける州がみられる )₂₆
(。
このように、州営業秘密法は、UTSAを採用する州の間においても統一が図られたとは言いがたい状況にある。これにUTSA未採用の二州を加えると、州ごとのばらつきがより顕著となる。このため、複数の州でビジネスを行う企業では、州ごとにその州法に適したコンプライアンスプログラムを策定する必要がある )₂₇
(。こうした州際ビジネスを営む企業にのしかかる多大な管理コストが、急増する営業秘密の窃取等への州営業秘密法による対応の一つの限界というわけである )₂₈
(。
⒝ 州裁判所による州際事例への対応の限界 もう一つが、州裁判所による州際事例への対応の限界である。 州営業秘密法に基づく民事訴訟については、州裁判所が一般的な管轄を有する。州裁判所の手続や命令は、基本的には州内で生じた事件の審理を念頭に構成されている。しかし、急増する営業秘密の窃取事例では、窃取された営業秘密が一つの州だけにとどまることは稀であり、別の州に持ち出されたり、複数の州で使用されるケース(州際事例)が多い )₂₉
(。そのため、ディスカバリや文書送達を効率的に命じることができない等、州裁判所が州際事例への対応に苦慮することが多かった )₃₀
(。
また、州際事例では、営業秘密を窃取した者が証拠の破壊や隠匿、国外逃亡を企てるおそれもある。こうした事態に対処するには、裁判所が州境を越えた迅速な救済を命じることが必要となるが、この点に関する州裁判所の対応能力にも限界があった。そのため、連邦裁判所による対応が可能な連邦民事法の制定が期待されていた )₃₁
(。
以上の点について、
H at ch
上院議員は、法案提出理由の説明の中で次のように敷衍している。( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六三三二六六一
を味一統に邦連。すまし意準訟遠永は間期のこ、合基がのに訴すまりなに的率効かあるはは続手のこ、ばれ場 ₃₂) りばれけなわらもてし請要行を発の書令命出提書取録言な間まかせ秘業営、りあがとこる密か続。この手んきは数週に 行該当、い申を請に所の他、州に対して裁文書または証判のむっ住人物の証言が要とな必たは地場ずま、元士護弁、合 は。すでのるいてれら州限済救るきでのとこる頼にと内り州まに州の他、ばえ例﹁。﹂す実際な異が況状にから明はで際 ﹁、州を訟訴ので内州、は法、定とすまい言くすやりか想しがる者害被の取窃密秘業営がてたまに州の数複、りおわ
(。﹂
らし秘密を守れるようにな営ければなりませんの業 ₃₃) 、あはでけるす持維を状現ばりれすとうろ守を密秘業営まだに業も自ていお所判裁邦連がに企あ不国十分でります。米 っ失だを値価のけ護るけ受を保的法して不まて密らか用利正、っうがたし﹁。﹂すでのは秘業なる、残念とが、その営ら 続司法手にを迅速行め、おたるあがれそ必るす亡逃がうで要財なに公が報情し洩漏が産的が知の業企。すたらかるあ者 ﹁し効もとこるれら得に的率が可済救、はで訟訴密秘業不欠取事窃を密秘業営、はで例たでしうそ、らなぜな。す営
(。﹂
2 立 法 の 特 徴
そこで司法委員会は、急増する営業秘密の窃取等に対処すべく、次のような内容を柱とするDTSA法案(S. 18 90
)を連邦議会に提出したというわけである。すなわち、﹁S. 18 90
法案は、連邦経済スパイ法を改正し、新たに営業秘密の不正利用に対する連邦法上の民事的救済を規定するものである。これにより、営業秘密の保有者は、他の知的財産︱
著作権、特許、商標など︱
の保有者⋮⋮と同じく、︹その不正利用に対する︺救済を連邦裁判所に求めることができる。本法案は、営業秘密の不正利用に対してエクイティ上の救済と損害賠償の付与を認めている。また、﹃不正利用(m isa pp ro pr ia tio n
)﹄の定義についてはUTSAの定義に倣っている。さらに本法案は、不正利用が疑われる当( )同志社法学 六九巻七号六三四米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六六二
事者の財産を一方的に(
ex parte
)差し押さえることができる迅速な救済も認めている。ただし、この救済が認められるのは、証拠保全と営業秘密の拡散防止に必要な場合に限られる。また、裁判所が一方的差押え命令を発令する場合、第三者の事業活動への弊害を最小限に抑え、差押えの対象となる財産の開示を防ぎ、審尋の開催日を可能な限り早い時期に設定しなければならない。このほか本法案では、誤って差押えが行われた場合の制裁についても規定している )₃₄(。﹂
⑴ 営 業 秘 密 侵 害 訴 訟 に 係 る 連 邦 管 轄 権 お よ び 一 方 的 差 押 え の 創 設
司法委員会は、これらの中でも、営業秘密の不正利用に対する民事訴訟の連邦管轄権を規定したことと一方的差押え制度を規定したことの二点に、DTSAの最大の意義を見いだしている。いずれも、州裁判所による州際事例への対応の限界という、州営業秘密法が抱えていた問題に対処しようとするものである。一方的差押え制度の意義に関しては、後で詳しく検討することにして(Ⅲ5)、ここでは連邦管轄権について、一言しておきたい。それは、DTSA制定以前でも、一定の場合には、州営業秘密法に基づく請求を連邦裁判所に提起できたという点である。なぜか。
第一に、技術上の営業秘密の不正利用が主張されるケースでは、特許権の侵害も併せて主張される場合が少なくないからである )₃₅
(。この場合には、連邦特許法に基づく侵害訴訟等として連邦裁判所に管轄が認められることになる(
28 U . S.C .§ 13 67
、付加管轄)。第二に、原告と被告の州籍(
cit iz en sh ip
)が相違しており、訴額が七万五〇〇〇ドルを超える場合には、州法に基づく訴訟であっても連邦に管轄権が認められるからである(28 U .S .C .§ 13 32
(a
)、州籍相違管轄)。図一のとおり、二〇〇〇年前後から連邦裁判所に係属する営業秘密訴訟の件数は大幅に増加している。二〇〇七年に
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六三五二六六三 は年間二五件程度の連邦地裁判決が出されているが、この件数は二〇〇七年以降も増加の一途を辿っていることが別の研究で明らかにされている )₃₆
(。
このように、DTSAが制定される以前から、営業秘密の不正利用にかかる州際事例の一部は連邦裁判所で処理されていた。しかし、(元)従業員による非技術上の営業秘密の不正利用の事案が増加する中でネックになっていたのが、州籍相違管轄における完全州籍相違(
co m ple te d iv er sit y
)要件であった。州籍とは、自然人の場合には本居のある州を、法人の場合には設立されたすべての州およびビジネスの主要地としている州を意味するところ(28 U .S .C .§ 13 32
(c
)(1
))、かかる州籍が原告と被告とで一つでも重なる場合には、連邦裁判所に州籍相違管轄は認められないとするのが完全州籍相違要件である )₃₈(。本要件ゆえに、(通常、州籍を同じくする)会社と従業員間の営業秘密訴訟の多くが連邦裁判所への係属を否定された )₃₉
(。
そこでDTSAは、州籍相違管轄や付加管轄の有無にかかわらず、より一般的に営業秘密訴訟に対する連邦裁判所の管
【図1】営業秘密訴訟における連邦地裁判決の年間件数の推移(37)
1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 Count Fitted Values
35 30 25 20 15 10 5
−
Federal Study Table1: Decisions By Year
(1950-2007)
( )同志社法学 六九巻七号六三六米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六六四
轄権を認めることにしたというわけである。
⑵ 営 業 秘 密 保 護 の ル ー ル の 統 一 ?
DTSAは、営業秘密の保護に関する連邦法上の統一的なルールを定めている。しかし、その効力については次のように規定している。すなわち、政府機関等への営業秘密開示の免責規定(18 U .S .C .§ 18 33
(b
))を除き、本法の規定は、﹁営業秘密の不正利用に関する⋮州法⋮が定める他のいかなる救済にも優先するものとして、またはそれらに取って代わるものとして解釈してはならない﹂(D T SA § 2
(f
), 18 U .S .C .§ 18 38
)₄₀()。つまり、DTSAは州営業秘密法に対して専占せず、本法と異なる内容の州営業秘密法の規定であっても有効に存続するというわけである。これにより、営業秘密の保護に関して、連邦法上の統一的なルールと州法上の不統一のルールとが併存することになった。実際、DTSA施行後の裁判例を眺めてみると、営業秘密の保有者が、DTSAに基づく請求と州営業秘密法に基づく請求を併せて行うケースが大半を占めている。そのため、州際ビジネスを行う企業の管理コストの問題は、DTSA制定後も残されることになった。
DTSAが州営業秘密法に対する専占を規定しなかったのは、各州を代表する議員から構成される司法委員会において、各州法上で確立された既存のプラクティスに混乱や不利益をもたらす可能性がある専占規定の創設にコンセンサスが得られなかったからだと言われている )₄₁
(。﹁本法は、知的財産を窃取された者に効果的で効率的な救済を保証しつつも、州法を専占することなく、適法なビジネスに対する混乱を回避することを意図している﹂という上院・下院報告書の一節は )₄₂
(、このことを示唆しているのであろう。
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六三七二六六五
Ⅲ D T S A の 規 律 と そ の 解 釈 ・ 適 用
次に、DTSAの規律を概観するとともに、それらを解釈・適用した裁判例をみていこう。1 連 邦 裁 判 所 の 管 轄 権
第一に、連邦裁判所の管轄権についてである )₄₃
(。DTSAは、﹁その保有する営業秘密を不正利用された者は、当該営業秘密が、州際通商もしくは外国との通商に用いられる製品やサービスに関連するものである場合、またはそのような利用が意図された製品やサービスに関連するものである場合には、本項に基づいて民事訴訟を提起することができる。﹂(
18 U .S .C .§ 18 36
(b
)(1
))、﹁本条に基づき提起された民事訴訟の第一審管轄権は、合衆国地方裁判所が有する。﹂(18 U .S .C .§ 18 36
(c
))と規定している。 これにより営業秘密の保有者は、広く一般に、営業秘密の不正利用に対する民事訴訟を連邦裁判所に提起することが可能になった。今後は、営業秘密訴訟の多くが連邦裁判所で審理されることが見込まれる )₄₄(。
もっとも、DTSAは、訴訟要件として、﹁当該営業秘密が、州際通商もしくは外国との通商に用いられる製品やサービスに関連するものである場合、またはそのような利用が意図された製品やサービスに関連するものである場合﹂という限定を付している(
18 U .S .C .§ 18 36
(b
)(1
))。そのため、例えばA州で一店舗のみ営業をしている美容院店Xの顧客名簿(営業秘密)が退職従業員Yによって不正取得され、同一地区で使用されたというような事例では、当該顧客名簿がもっぱら州内での営業に関係するものであり、﹁州際通商もしくは外国との通商に用いられる製品やサービス﹂や﹁そのような利用が意図された製品やサービス﹂に関連するものではないために、DTSAに基づく訴えが認められないこ( )同志社法学 六九巻七号六三八米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六六六
とになる。この場合、Xとしては、DTSA施行後も、A州の営業秘密法に基づいて州裁判所に訴訟を提起する必要がある。
このようにDTSAが、もっぱら州内取引に供される製品やサービスにのみ関連する営業秘密をその適用対象から除外している理由は、連邦議会がDTSAを制定する際の立法権限の根拠を合衆国憲法一条八節三項の州際通商条項(
C om m er ce C la us e
)に置いているためである。すなわち、州際通商条項は、複数の州にまたがる取引または外国との通商に関わる事項についてのみ連邦議会に立法権限を付与している。それゆえ、この範囲を越える事項については各州に立法権限が留保され、他に憲法上の根拠がない限り、連邦議会は立法をなすことができない。同様の制限は、連邦商標法(一九四六年ラナム法、15 U .S .C . 22
)にもみられる )₄₅(。
2 保 護 対 象 ― 営 業 秘 密
第二に、保護対象についてである。DTSAは、保護対象の営業秘密の定義について、連邦経済スパイ法の定義を踏襲したうえで、これに微修正を加えている。まずは定義を確認しよう(18 U .S .C .§ 18 39
(3
)、罫線筆者)。﹁営業秘密﹂とは、有形または無形を問わず、また、その保存、編集、記憶方法が物理的、電子的、図形的、写真もしくは文書によるか否かを問わず、様式、企画、編集物、プログラム装置、製法、デザイン、試作品、方法、技術、工程、手順、プログラムまたはコードを含む、あらゆる形態・種類の財務、事業、科学、技術、経済または工業に関する情報であって、次の要件を満たすものをいう。A 保有者が、その情報の秘密性を保持するために、合理的な措置を講じているものであること、および
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六三九二六六七 B 当該情報が、その情報の開示または使用によって経済的価値を得ることのできる他の者に一般的に知られておらず、かつ、その者が正当な手段によっては容易に確認することができないものであって、そのことによって現実にまたは潜在的に独立した経済的価値を有するものであること。
この定義から、営業秘密としての保護を受けるためには、⑴保有者がその情報の秘密性を保持すために合理的な措置を講じていること(秘密保持のための合理的措置)、⑵当該情報が一般に知られておらず、正当な手段によっては容易に確認することができないこと(非公知性・非容易確認性)、⑶当該情報が現実にまたは潜在的に独立した経済的価値を有すること(有用性)、という三つの要件を充たす必要があることが分かる。
こうした営業秘密の要件は、UTSAにおける営業秘密の要件と基本的に共通している )₄₆
(。実際、司法委員会によれば、﹁連邦法上の営業秘密の定義は、UTSAを採用している州の裁判所が理解しているものの範囲とかなり違うものになることを意図していない﹂とされる )₄₇
(。以下、各要件について順にみていこう。
⑴ 秘 密 保 持 の た め の 合 理 的 措 置
一つ目の要件は、保有者がその情報の秘密性を保持すために合理的な措置を講じていることである(18 U .S .C .§ 18 39
(3
)(A
))。我が国の営業秘密訴訟では、秘密管理性要件が最大の争点とされ、同要件の充足を否定する裁判例も少なくない。しかし、DTSA施行後の一年間に出された裁判例(八五件)の中で、本要件の充足を否定したものは、管見の限り三件にとどまる。そこで、どのような場合に本要件が否定されているのか、これら三件の否定例から見ていくことにしよう。
( )同志社法学 六九巻七号六四〇米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六六八
①否定例 一件目が、
R ab en T ire C o., L L C v. M cF ar la nd , 20 17 U .S . D ist . L E X IS 26 05 1
(W .D . K y. F eb . 24 , 20 17
)である。本件は、タイヤ販売取付業者Xが、ⅰ元従業員にに購ヤイタるけおA担外訴、るあで客入当的職際るめ留き引を退者がXⅲ、名氏の顧在潜Xの
Y
がてらか客顧たいしX当のに時職在担上売料ⅱ、トーポレ数を手売販たし載記2。的いいてれさ載記に体し具ら何が置措のめとなててるあで案事う、とたい立のしえ訴却下を申 訴たの持保密秘はに状の三候を点Xの、地補の社ータンセスビーサ自のしし、がY、ろことた張営主とるあで密秘業い
Y
新のX、たし示開に2 裁判所は次のように述べて、Yの申立を認容した(訴え却下)。﹁本件におけるXの訴状には、Xが本件情報の拡散を防ぐためにどのような措置を講じたのかについての主張が全くない。例えば、Y
や1。切基づく張が一主含れていないま た持するらめに何かを保が性密秘の報情件本措X、はのこ置推に実事なうよるせさ測にを的得説をと訴たいてじ講に状 4444 ⋮。いないXれさ唆示らの何とこたいてれさ限制を有共のはて⋮る、てえ本を張主ういと超あで﹄報情密機﹃が報情件
Y
報該当てっよに約契持保密秘が情2Y
、1Y
、2づ請過看てっとに求くえ対基にASTDしなするに文原調強(。﹂あいでのもな的定決る ₄₈) とても、この点の欠落、は営業秘密の不正利用したしにこれに応答しなかった。X最Xも有利になるように訴状を解は
Y
のり申立はこの問題を正面から取ず上に、らわかかもたげっあでのもる3()
以上のとおり、本要件の立証責任はXにあるにもかかわらず、Xは、訴状において秘密保持のためにどのような措置を講じたのかを一切明らかにせず、Yの申立に対しても応答しなかったというのであるから、本件は、訴えを却下されてもやむを得ない事案であったといえる。
二件目が、
A rc hie M D , I nc . v . E lse vie r, In c., 20 17 U .S . D ist . L E X IS 37 14 1 , C op y. L . R ep .
(C C H
)P 31 , 06 5
(S.D .N .Y .
M ar . 13 , 20 17
)である。本件では、人体解剖、疾病の発生および治療に関する医学上の概念を分かりやすく伝えるため( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六四一二六六九 にXが作成した3D動画について、本要件の充足性が問題となった。
Xは、自社の3D動画は慎重に保護されており、一部のユーザーしか見ることができないのだから、本要件を充足すると主張した。しかしXは、二〇〇〇年七月以降、医学分野の教科書等の出版を専門とする出版社Yとの間で動画使用許諾契約を締結していた。その結果、Yの出版する教科書を購入した者は誰でも、Yの学習サイト上で、その出版物に関連したXの3D動画を見ることができた。また、Yは、二〇一四年七月の動画使用許諾契約の終了後に、訴外ZにXの動画に代わる教材の作成を依頼し、その際、参考資料としてXの3D動画を提供していた。
以上の事実をもとに、裁判所は、﹁競合他社一社を含め、世界中の誰もが、Yの教科書を購入すれば、それに対応するX社製動画にアクセスできる﹂のだから、﹁Xが﹃当該情報の秘密性を保持するために合理的な措置﹄を講じているとは認められない﹂として、Xの請求を却下するサマリ・ジャッジメント(
su m m ar y ju dg m en t
)を下した(非公知性も否定) )₄₉(。Xは何ら秘密保持義務を課すことなく、Yにオンライン上での動画使用許諾を与えたのであるから、本件も、本要件の充足がおよそ困難な事案であったといえる。
三件目が、
M .C . D ea n, In c. v. C ity o f M ia m i B ea ch , 19 9 F . S up p. 3 d 13 49
(S.D . F la . A ug . 8 , 20 16
)である。本件では、マイアミ労働組合のY
基市チービミアイマていづに法開公報情州ダリロフ、が(2)。照参⑤⑵3Ⅲ 充、本要件の主足性がたな争めなたっかとわ争はていつに性用有点(なの掲後、はていつに点争の否成用っ利正不たび
ce rti fie d pa yr oll s
よ易お秘と題問が性性該密業っ営の)(簿名払支与な当た非認。容非・性知公確のY情与給のX報がY
給を)に開示請求しなた、Xの式正1Yが、本要件の不充足を理由にXの訴え却下を申し立てたところ、裁判所は次のように述べて、Yの申立を認容した(ただし、Xに訴状の修正機会を付与)。
( )同志社法学 六九巻七号六四二米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六七〇
裁判所はまず、Xの給与支払名簿が
Y
定ばれよにれそ。たし認を緯経たれさ出提に、1、請請けをに委託し、Xと下Xけた契際の。そし結締を約 )ろを締結したとこ工、Aが改修事の下契約主修りンセンターの改(工事にあた、シゼネコン業者訴外Aと請負契約ョ
Y
ンベンコ・チービミアイマが1ら契され、の後、主そ約基づいてAかに 簿与支払名すを提出るな給間式正たし載をどな務時務勤義記が支課提にAらかXが簿名払出与こさ給た。れうしてXの 、、所住、名氏の員業従れし対にX、か置が定規じ会同社号保賃、付給の外以与給、率障金質転番号、実運免許証番、 、と約契主も録を規が義るす出提し記報さ情与給の)む含をて定務れXいおに約契け請たの間下︱受。れをこけて、A 査し対にA、で的目るすす監を守遵の例条同、はに約本、従件員員業主の者業け請下(業改従のてべるわ携に事工修契
Y
、同が締結する公的契約には市めの賃金条例が適用されるた1Y
うるあでけわいとたれさ出提に1₅₀)(。
以上を踏まえて裁判所は、Xが秘密保持のための合理的措置を講じているといえるかどうかにつき、次のように判示した。﹁Xは、主契約、下請け契約、
が契で、Xは主、約に基づいてA 提契主。たし供自を報情与給の社の約が要ら約契け請下たれめ件定し件要じ同と、対、ェAたし結締を約契主にでトク
Y
的公州ダリフロ賃びよお、例条金録記て法れジロプの市るさの律規っよに言文1張主といないてっ行をの ₅₁) っの報情該当、てれよに法方のか密ず秘た性かたじ講を置措のらを何にめのるす持保い外にすれそはたま約契、以際る
Y
を務義との任責してべすう負てう対に負。こに供提を報情与給Aと、はXたっなに1(。﹂﹁Xは、Aが当該情報を使用することについて、契約その他の保護措置によって何らかの制限を課したという主張も行っていない )₅₂
(。﹂したがって、﹁︹本件のXのように︺何らの保護措置も講じずに第三者に自由に情報を提供することは、情報の秘密保持のための行為という法律上の必要条件を満たさない⋮⋮とするYの主張は正しい )₅₃
(。﹂﹁情報の秘密保持義務を負わない他者に当該情報を開示することによって、当該情報が営業秘密であるとの主張は否定されるのである )₅₄
(。﹂
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六四三二六七一 本判決は、Xの給与情報につき、Xの社内では当該情報へのアクセスが適切に制限されていたことは否定していない )₅₅
(。また、当該情報が一般に知られておらず、かつ適切な手段によって容易に確認できないものであって、独自の価値を有することも認めている )₅₆
(。その意味で本件は、本要件の充足がおよそ困難な先の二つの裁判例とは事案が異なる。
そうした中で、本判決は、Xが、その情報の秘密保持義務または使用制限義務を負わないAに当該情報を開示したことを理由に、本要件の充足を否定している。本判決は、たとえ公共機関による監査に必要な手続の一環でなされた開示であっても、秘密保持義務を課すことなく外部に情報を開示すると、非公知性の有無にかかわらず、営業秘密の保護が否定されることを示した判決として、注目される。
②肯定例 以上は本要件の否定例における判断であった。では、本要件を肯定した裁判例ではどのような判断がなされているのであろうか。本要件を肯定した裁判例は多数にのぼるので、理由づけが示された主なものを見ていくことにしよう。
例えば、
F irs t W es te rn C ap ita l M an ag em en t C om pa ny v. M ala m ed , 20 16 W L 83 58 54 9
(D . C olo ., S ep t. 30 , 20 16
)は、次のように述べて本要件の充足を肯定した。﹁審尋においてX側証人は、顧客関係管理のデータベース(CRM)には何らかの形でパスワードが設定されており、Xは自社の顧客について公表していないと述べた。実際、暫定的差止命令に関する審尋での証言によって、Xが、CRMに収録されている情報を必要としない自社従業員︱
人事担当取締役やCFOなどの上層部の人間を含む︱
がCRMにアクセスできないようにしていることがはっきりと証明された。本裁判所は、公衆によるアクセスを防ぐために会社が措置を講じなければならないとするDTSA⋮⋮の要件が、これによって十分満たされているものと認定する )₅₇(。﹂
( )同志社法学 六九巻七号六四四米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)二六七二
また、
H en ry S ch ein , I nc . v . C oo k, 20 16 U .S . D ist . L E X IS 81 36 9 , * 11 - 12
(N .D . C al. , J un e 22 , 20 16
)は、﹁Xは、これらの情報を秘密として保持するために、秘密保持契約の締結を従業員に義務づけたり、プログラムやエントリー・ポイントをパスワードで保護することでアクセスを制限するなどのさまざまな手段を講じた﹂として、本要件の充足を認めた。同様に、
Sy nt el St er lin g B es t S ho re s M au rit iu s L td . v . T riz et to G ro up ., I nc ., 20 16 U .S . D ist . L E X IS 13 09 18 , * 19
(S.D . N .Y . S ep t. 23 , 20 16
)は、﹁被告(反訴原告)Xは、情報の秘密性を維持する合理的な措置として、当該情報を使用する者に対し、秘密保持に関する規定遵守や制限を義務づけ、かつC us to m er E xc ha ng e
などの厳しく管理されたサーバを通じたアクセスのみを認めている﹂として、P ro t. Te ch s., In c. v. R ib le r, 20 17 U .S . D ist . L E X IS 33 20 0 , * 5 - 6
(D . N ev .
M ar . 8 , 20 17
)は、﹁Xが、秘密保持契約の締結を従業員に義務づけ、エントリーポイントでパスワードを入力しなければデータにアクセスできなくするなど、これらの情報の秘密性を守るために合理的な措置を講じた﹂として、M iss io n C ap ita l A dv iso rs , L L C v. R om ak a, N o. 1 : 16 -c v- 58 78 , a t 4
(S.D .N .Y . J uly 29 , 20 16
)は、﹁Xは、情報にアクセスするためにパスワードを設定したり、従業員用のハンドブックやYとの雇用契約に広範な秘密保持条項を盛り込むなどの方法で、この情報の秘密性を保持している﹂として、T & S B ra ss & B ro nz e W or ks , I nc . v . S la nin a, 20 16 U .S . D ist . L E X IS 18 64 27 ,
* 21
(D .S .C . D ec . 20 , 20 16
)は、﹁Xは、営業秘密の窃取を防ぐために、秘密保持契約の締結、表示の記載をはじめとする物理的な安全確保手段、ITポリシーおよび情報保護手続を含む合理的な措置を講じた﹂として、それぞれ本要件の充足性を肯定している。これらの裁判例では、本要件を肯定する要素として、従業員や取引相手(情報の使用者)との秘密保持契約の締結およびパスワード設定等による情報へのアクセス制限の二点が重視されている。この点、DTSA制定以前の状況を調査
( )米国連邦営業秘密防衛法(DTSA)の研究(一)同志社法学 六九巻七号六四五二六七三 した実証研究によれば、裁判所は、州営業秘密法上の﹁秘密保持のための合理的努力﹂要件を肯定する要素として、これら二つを重視してきたとされる )₅₈
(。その意味では、上記の裁判例は、従来の立場を踏襲するものといえる。
一方、秘密保持契約を欠く事案において、本要件の充足を認めた裁判例として、
Sle ek ez , L L C v . H or to n, 20 17 U .S . D ist . L E X IS 71 41 0
(D . M on t. A pr . 21 , 20 17
)がある。裁判所は、Xが、提出された修正訴状において、﹁一般人がこの情報にアクセスできないようにしたこと、Xの連携先または同社従業員のうち、当該営業秘密を知る必要がある(ne ed - to -k no w
)者にだけその一部を教えたこと、この情報を秘密として扱わなければならない点を周知させたこと、Xのビジネスアカウントのパスワードが知られないようにしたこと、Xのビジネスアカウントを︹Xのオーナーの︺訴外Aにだけ教えたこと﹂を主張している点に注目し、﹁これらの主張に照らせば、Xは、自社の営業秘密を保護するための合理的な措置を講じたことを示すもっともらしい事実を主張しているものと認められる﹂と判示した )₅₉(。
本判決は、秘密保持契約の締結を欠く事案において、Xが自社の営業秘密にアクセスできる者を知る必要がある者に制限し、パスワード設定も行っていたことを理由に、本要件の充足性を肯定しており、注目される。こうした本判決の判断には、本件のXが非常に小規模の会社であり、アクセス制限だけでも従業員に対する秘密保持義務の発生を認めやすい事案であったことも影響しているものと推測される。
もっとも、本要件を否定した裁判例は三件にとどまる。そのため、どのような要素が欠けると本要件が否定されることになるのかといった点の見極めは、今後の裁判例の動向を見守る必要がある(最終校正の段階で四件目の事例があることに気づいた。同事例の検討は他日を期したい)。