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― ― 企業の法的責任とコンプライアンス・プログラム

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Academic year: 2021

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(1)

〈開会挨拶〉

上村達男教授(早稲田 21 世紀COE《企業 法制と法創造》総合研究所 所長)

〈共催者挨拶〉

黒田昌裕氏(内閣府経済社会総合研究所所 長)

〈基調報告〉

今井猛嘉教授(法政大学)

「企業の法的責任とコンプライアンス・プ ログラム」

〈コメント〉

Prof. Dr. Ulrich Sieber (Director at the Max Planck Institute for Foreign and International Criminal Law, Germany) Mr. Daniel Plaine (Attorney, United States)

Dr. Albrecht Schäfer (Attorney, Germany)

〈討論〉(第1部 パネル・ディスカッション)

司会  

甲斐克則教授(早稲田大学)

パネリスト

池辺d博氏(丸紅株式会社法務部),笹 本雄司郎氏(富士ゼロックス株式会社 CSR部),川崎友巳助教授(同志社大学), Prof. Dr. Ulrich Sieber, Mr. Daniel Plaine,Dr. Albrecht Schäfer, 今 井 猛 嘉教授

〈討論〉(第2部 全体討論)

〈閉会挨拶〉

白石賢氏(内閣府経済社会総合研究所主任 研究官)

《午前の部》

開会挨拶

〇田口守一 企業犯罪国際シンポジウム「企 業の法的責任とコンプライアンス・プログラ ム」を開会いたします。私は総合司会を務め させていただきます,早稲田大学の田口守一 と申します。よろしくお願いいたします。

本日は,大変お忙しい週末にもかかわらず,

早朝からお越しいただきましてまことにあり がとうございます。昨日までにお申し込みい ただいた参加者ですが,研究者,大学院学生 を含めた大学関係者が 104 名,企業の方が 110 名エントリーされております。官公庁,

弁護士等の方々が 18 名,一般の方が 6 名と なっておりまして,それに私どもを加えます とトータルで 250 名の参加が予定されており ます。今回の研究テーマにふさわしい方々に ご参加いただいたと,まことにありがたく 思っております。

本日のシンポジウムは,日本語,英語の同 時通訳方式で行います。チャンネル 1 が日本 語,チャンネル 2 が英語となっておりますの でよろしくお願いします。ボリュームはご自 分で調整してください。

最初に,このシンポジウムのためにわざわ ざ外国から駆けつけてくださいました 3 先生 をご紹介申し上げます。ドイツ・フライブル

●企業犯罪国際シンポジウム

企業の法的責任とコンプライアン ス・プログラム

―コンプライアンスの国際規準と日本の企業法制―

(2)

グからお越しのズィーバー教授です。ドイ ツ・ミュンヘンからお越しのシェーファー博 士です。アメリカ・ワシントンDCからお越 しのプレイン弁護士です。ありがとうござい ました。

それでは,主催者を代表いたしまして,早 稲田大学 21 世紀COE《企業法制と法創造》

総合研究所所長の上村達男本学法学部教授よ りご挨拶を申し上げます。よろしくお願いし ます。

〇上村達男 ご紹介いただきました上村でご ざいます。COEの刑事法グループが内閣府 経済社会総合研究所の力強いご支援をいただ きまして,共に推進してまいりました「企業 の法的責任とコンプライアンス・プログラ ム」と題します一連の研究の成果が,本日,

国際シンポジウムの形で結実したことは大変 うれしいことです。このテーマだけを見ます と,刑事法なのかなと思われるかもしれませ んが,これを刑事法の専門家がやるというこ とは,おそらく日本でははじめてのことでは ないかと思います。

民事責任も,伝統的な民事責任,市民社会 のルールは大事にしつつ,企業と市場という ものに対応したときには,やはり新しい様相 を呈してまいります。新しい課題が山積して おります。刑事法も,もちろん伝統的な刑事 法の論理は大切に守らなければいけませんが,

対象が企業と市場ということになりますと,

それにふさわしい対応をして,それによって 社会的な要請に応えていくことがどうしても 必要になってきます。

われわれ全体の共通目標は,会社法,証券 取引法,民法,刑法,労働法,環境法,訴訟 法,手続法,倒産処理法,そのほか憲法,行 政法,法思想,法史学というさまざまな法分 野において,企業と市場と市民社会という三 つのキーワードを共通ワードで研究すること です。これは従来なかったことで,相互にい ろいろな組合わせで研究するということは,

早稲田大学の中で日々ミニ学会が行われてい

るということであり,それによって新しい学 問,立法解釈というものを創造していこうと いうことです。その意味で,企業法制と法創 造ということに非常に力点を置いて研究して います。少し口はばったい言い方ですが,21 世紀の新しい法律学は早稲田大学から発して いるといわれたい。希望だけは大きいものを 持っています。

われわれは 15 年度採択のCOEです。COE というのはセンター・オブ・エクセレンス

(Center of Excellence)ということで,21 世紀の世界レベルの拠点を形成しようという 趣旨で認定されたものですが,最近中間評価 が出まして,われわれが4段階で最高ランク に位置づけられました。その中でも刑事法の 活躍がその評価の大きな要因を占めておりま す。先ほども黒田所長さんとお話ししたので すが,内閣府から大きな経済的支援を得てお りまして,COEとしてはあまりお金を使わ ないのに評価が上がるという,優等生中の優 等生の刑事法グループです。

本日の実りある進歩を期待しまして,民法 学,われわれ会社法学,証券取引法といった 分野が真正面からその成果を受け止めて,新 しい学問の創造に向けて張り切ってやってい きたいと思っているところです。

最初のご挨拶ですのでこれで終わらせてい ただきますが,本日は雨の中にもかかわらず 多くの皆様にご参加いただきまして,大変あ りがとうございます。私は授業が二つありま すので,終わってからこちらに参上したいと 思っておりますが,その成果はわれわれとし て真正面から受け止めていきたいという強い 気持ちを持っております。以上で私のご挨拶 に代えさせていただきます。どうもありがと うございます。

共催者挨拶

〇田口 続きまして,本シンポジウムの共催 者として,内閣府経済社会総合研究所所長の

(3)

黒田昌裕氏よりご挨拶いただきます。黒田所 長は慶應義塾大学商学部教授を経て,2005 年より所長に就任しておられます。よろしく お願いします。

〇黒田昌裕 おはようございます。ただいま ご紹介いただきました,内閣府の研究所の所 長をしております黒田でございます。本日の 企業犯罪国際シンポジウムは,内閣府と早稲 田大学のCOEプログラムによって創設され た研究所との共同開催ということで開催させ ていただいております。共催に参画した研究 所を代表して一言ご挨拶申し上げたいと思い ます。

まず,早朝よりこんなに熱心にたくさんの 皆さん方においでいただきまして,心より御 礼申し上げます。また,アメリカ,ドイツか らおいでいただきました先生方に心から御礼 申し上げたいと思います。それから,内外の 研究者,今日パネリストとしてご参加いただ く先生方にも心より御礼申し上げたいと思い ます。

私どもの研究所は内閣府内に創設されてい る経済社会総合研究所というところですが,

もともと経済企画庁という組織があり,その 中に経済研究所というのがありました。それ が行政改革の改編により内閣府という組織に なったとき,「経済」という見出しに「社会」

という見出しを加え,「経済社会総合研究所」

という名前に変えて,新しくスタートした研 究所です。経済という主にGDP値統計等を 中心にいろいろな経済指標を出し,経済政策 に資するような施策を研究していくというの がひとつのテーマですが,わざわざ「社会」

という名前をつけたのは,ご承知のように,

近年,経済活動は,法との関係など,社会現 象面で,いろいろな問題を引き起こしており ます。そういった問題についても,政策的に は欠かせない,いろいろな研究をやらなけれ ばいけないという状況になってきております。

そして今回のシンポジウムの「企業の法的責 任とコンプライアンス」という問題について

も,常々非常に関心を持って研究を進めてい るところです。

昨年より,先ほどご紹介のあった早稲田大 学のCOEプログラムとの共同研究というか,

もっぱら早稲田大学のCOEプログラムに参 加されている先生方にいろいろな教えを被っ ております。そういった形で,私どもの研究 所にもこういった問題についての知的アセッ トを蓄積していきたいというのが私どもの意 図です。

企業犯罪とか企業の法的責任,コンプライ アンスという問題についても,エビデンスを きちんと整えたいと考えております。今日も そのご報告が中心になろうかと思いますが,

昨年来,アンケート調査をやらせていただき ました。約 3,000 社について,企業の法的責 任およびコンプライアンス・プログラムとい うことでアンケートを採りましたが,その成 果によって,エビデンスに基づいたいろいろ な研究をこれから蓄積していきたいと思いま す。このかたちでの 3,000 社にのぼる規模の アンケートはおそらく日本ではじめてだと思 われますので,大いにご利用いただきたいと 考えております。

本日も,基調講演に引き続きまして,その アンケートの結果をいろいろご報告いただく ことになろうかと思いますが,実務家の方,

研究者の方,外国のパネリストの先生方にい ろいろなコメントをいただきまして,さらに 充実した研究にしていきたいと思います。

本日のこのプログラムは,私どもの研究所 としてはスタートしたばかりの大きなプログ ラムであり,これからまだまだ続く課題だと 思います。これをスタートにして,よりすば らしいものにしていきたいと考えております。

この研究会,シンポジウムで活発なご意見を いただいた結果を,将来の成功に結び付けら れるようなアセットの蓄積になりますことを 願って,私のご挨拶とさせていただきたいと 思います。本日はどうもありがとうございま した。

(4)

基調報告

〇田口 それではシンポジウムに移らせてい ただきます。最初に,われわれの研究会に参 加いただいております今井猛嘉教授から,

「企業の法的責任とコンプライアンス・プロ グラム」と題する基調報告をお願いいたしま す。

今井教授は東京大学をご卒業後,北海道大 学を経て,現在法政大学教授であり,法制審 議会刑事法部会幹事等を務められ,立法作業 に参画してご活躍中です。お手元の資料の中 にB5 判の「企業と法創造」の紀要の抜刷が 入っています。そこに日本語の統計等の説明 がありますので,参考にしていただければと 思います。それでは今井教授,よろしくお願 いいたします。

●基調報告

法政大学大学院法務研究科教授 今井猛嘉

「企業の法的責任とコンプライアンス・プロ グラム」

(The Relationship between the Compliance Programs and Legal Responsibilities of Japanese Corporations)

はじめに

おはようございます。ただいまご紹介にあ ずかりました今井でございます。本日は,お 手元にある「企業の法的責任とコンプライア ンス・プログラム」の関係につきまして基調 報告をさせていただきます。

いま,田口先生からご紹介がありましたよ うに,この基調報告は,昨年度内閣府のご協 力を得て行ったアンケートについての分析で す。それを基礎にして,その先にどのような 理論展開があるかということは,本日のコメ ンテーターの皆さんのご意見を伺いながらさ らに深めていくものですが,基調報告として は,昨年の経験を踏まえて,現在どのような

ことがエビデンスに基づいてわかるかという ことについて報告させていただきたいと思い ます。

これからお話しします内容は,いまもご紹 介がありました,この抜刷「季刊企業と法創 造」のところに掲げてございます。はじめて お聞きになる方もおられる方もしれませんの で,それを目にしながら聞いていただければ と思います。また,そちらの冊子の 296 ペー ジ以下には,昨年実施したアンケートの実物 があります。そして,その分析結果の図など が 243 ページ以下にありますので,随時目を 通していただければと思います。

それでは,本題のほうに入らせていただき ます。近時,わが国のみならず欧米諸国にお きまして,企業の不祥事ないしは犯罪が多発 しております。いうまでもありませんが,た とえば,アメリカにおけるエンロン事件や,

わが国においても戦後あるいは戦前から非常 に高い名声を得てきた大企業において,考え られないような不祥事が続発しています。こ れに対してどのような法的対応を取るべきか。

とりわけ刑事的な対応をどのように取るべき かということについては,すでに理論的な検 討もなされていますが,それを始めるに際し ても,実際にどのような状況にあるのか,す なわち犯罪の実態や,企業においてそのよう な犯罪防止のためにどのような努力がなされ てきたのかということを,しっかりとした統 計データに基づいて把握することが今後の法 体系を考える際の基礎になるだろうと,私た ちは思いました。そこで,昨年度ここにある ようなアンケートを実施したところです。

1 アンケートの概要 1.1 アンケートの対象

アンケートの対象,方法論ですが,先ほど 黒田所長からもご案内のとおり,国内のリー ディングカンパニー 3,100 社に対し,資料集 の後ろに載っているクエスチョネアを配布し,

回答をお願いする,そして,それを分析する

(5)

というやり方を取りました。実際に回答をい ただいたのは 942 社ですが,その多くは日本 のビジネス界を引っ張っていらっしゃるリー ディングカンパニーばかりです。詳細はそこ に書いてあるとおりですが,諸般の事情によ り,外資系の金融機関はアンケート調査から はずれております。しかしながら,外資系の 合弁会社や日本の多国籍企業等についてはア ンケートを実施しておりますので,ここで得 られた結果はかなりの確度を持ち,現在の状 況,日本の企業の方々の意識を反映している ものであろうと考えております。

1.2 アンケートの設計

そのような対象設定と回答でありますが,

それでは,どのような設問を設定したかにつ いて申し上げます。最初に申しましたように,

企業が広い意味で不祥事あるいは犯罪的な行 動をした場合,最後の結末として法的な責任 が発生しますが,中でもクリミナル・サンク ションに関連するものとしてどういったイ メージを持っておられて,それを反映してど のようなあるべき制度が考えられるかという ことについて検討を加えたかったわけです。

そこで,最終的には刑事責任に関連するよ うな問いを置いておりますが,ご存じのよう に,刑事制裁というのはどういった事例にお いても最後の手段です。ですから,企業が違 反行為に係わった場合,まず被害の認識とい うものがどうであるのか。自分が加害者であ る場合はどのような趣旨の制裁を受けている か。それは,損害賠償に始まる民事責任もあ りますし,行政庁の処分を受けるという行政 的な制裁もありますし,またマスコミによる 報道等もあるわけですが,そういった他の法 的ないしは社会的制裁を前提にしたうえで,

最後に刑事的な制裁についてどのようにお考 えであるか,あるいはどのような希望がある かということについて問いを作ってみました。

1点申し上げておきたいのは,ここでは法 人の刑事責任ということではなく,企業の刑 事責任というふうに,少し広めの問題を設定

しています。法人といえ,企業といえ,企業 のほうが広いわけですが,現在はどちらも社 会的実体であるという認識は共通していると 思います。ただ,法人の責任ということにな ると,はじめから法的な枠組みに縛られてし まい,お答えが自由でなくなる可能性もあっ たことから,エンタープライズという意味で の企業に対する問いを設定しました。

2 アンケート結果の概要

それでは,その回収結果についてどのよう なアウトラインが描けるかということですが,

図1を含めてチャートが出てくると思います し,抜刷としてお渡ししているものの中にも その図が挙がっていますので,両方ご参照い ただければと思います。問いについては,時 間の関係でここでは読み上げませんので,

296 ページ以下をご覧になってください。

繰り返しますが,最終的には企業の刑事責 任について,企業に関係する方々が,どうい う感覚を持っておられるのか,どのようなご 要望があるのかということを伺いたかったの ですが,その前提として,企業の社会的責任 というもの,あるいはそれに関して現在よく いわれているCSRというものについて,企 業の関係者の方がどのような対応を取ってい るかという問を置いております。それを見ま すと,「CSRに関する社内規定を定めている」

というご回答は約 68 パーセント,「定めてい ない」というのが 31 パーセントぐらいです。

この結果は,個人的にはやや意外でした。企 業の社会的責任というものは,公害が発生し て以降,かなり強調されてきたところであり,

CSRと呼ぶかどうかはともかくとして,十 分認識されているのではないかと思っていま したが,大きな組織ですので,明文化し,社 内規定を置いてということになると,対応が 難しいのかな,という感想を持った次第です。

その内容をもう少し分析しますと,図4,

図5に出ておりますが,企業規模が大きくな ればなるほどCSRに関する規定を設けてい

(6)

る企業が増えているという,正の関連性が認 められると思われます。企業が大きくなれば なるほど,個々の従業員の行動をトップマネ ジメントが把握することは困難ですので,あ らかじめ規範を設定して,それに従った行動 を命令するということは,当然考えられると ころだと思います。

同じく図5を見ていただくと,業界に応じ た結果が出ております。商業,不動産,サー ビス等につきましては,かなりの頻度でこの ようなCSRが設定されていますが,日常の 業務において顧客と接する機会が多い業種に おいては必然的な結果なのかな,と感じてお ります。

つぎに,問2です。問1で一般的,抽象的 にCSRに つ い て 聞 き ま し た が , 問 2 は , CSRに関して具体的にどのような項目を設 定しておられるかということです。その中で 一番多かったのは,企業の倫理あるいは法令 遵守です。これは,今日これからずっと出て くると思いますが,まさにコンプライアンス 論というものが念頭に置いている対象で,予 想された答えです。それに引き続き,公正な 競争の確保,労働環境の安全維持,顧客情報 の管理といった,丁度,現在問題となってい るような事項についてCSRとして規定が置 かれているということは,非常に興味深いと ころです。

問3ですが,ではそのようなCSRにかか わる規定がいつから定められているかという ことで,2000 年以前からこれを定めている 企業が全体の約 30 パーセント弱です。比較 的少ないといいますか,やはり近時になって,

日本だけではなく,欧米においても企業全体 の行動のタガが緩んでいるということもあっ て,CSRの要請が高まり,それを反映して 日本でも同様の対応が取られているのだろう と理解できるところです。特に日本に関して は,先ほど申しましたように,ほぼ 2000 年 を契機として大規模な企業の不祥事が続発し ていることから,それに関連していない企業

の方々も予防的措置としてこういった規定を 置いているのではないか,ということが容易 に想像できます。

ここまでの問が各企業内部のCSRに関す る取り組みであったのに対し,問4以降はも う少し対外的な問題について伺っております。

問4は,国内の取引相手に対してCSRに関 するレファレンスを行っているかということ ですが,これは昨年の段階では 9.1 パーセン トにとどまっています。日本においてCSR に関する問題意識が高まってきたのが近時で あるということから,取引をする際,相互に CSRを共通の土台としてビジネスを始める というところまではまだ至っていないのかも しれません。

問5は,同じような問題を海外との取引に ついて伺ったものです。日本から海外の企業 に対してCSRに関する照会をしたうえでビ ジネスをしているかというと,「していない」

というお答えが約9割です。

これは先ほどの問4と同じような分析が可 能ですが,問6は逆の問いです。国内の企業 が海外の企業から同種の照会を受けたことが あるかということになると,14.3 パーセント と国内に比べて高い比率が出ています。CSR という言葉からもわかるように,これはもと もとアメリカ合衆国で出てきた考えであり,

それがヨーロッパ等をも通じて日本に影響を 及ぼしていると考えられますので,海外との 取引においては,CSRに規定されているよ うなことはビジネスのごくごく基本的な事項 であり,それをきちんとやってはじめて対等 の国際的な取引ができるという考え方が,少 なくとも海外においては日本より高いのでは ないか,という分析が可能かと思います。

つぎに,問7以下の設問とその分析です。

今度は,広い意味でCSRというときに設定 されている設問の内容について問うています。

特に企業倫理,法令遵守というものに関して,

具体的にどのように取り組んでおられるかと いうことを伺いました。

(7)

具体的に言いますと,まず問7では,コン プライアンスに関して,具体的にどういった アイテムについてこれを設定されているかと いうことです。非常に興味深いのですが,ま ず第一が,「贈収賄等をしてはならない」と いうこと,続いて,「公正な取引を維持する ようにせよ」,あるいは「違法な行為を発見 したとき,それを通報せよ」というようなこ とが書いてあります。

これは,従来の日本の慣行からすると相当 の変化ではないかと思われます。言い方を変 えますと,「贈収賄をしてはいけない」,「公 正な取引慣行を害してはいけない」,「違法な 行為が発覚したら通報せよ」というのは,企 業の方にとどまらず,一般市民において当然 守るべきことでありましょう。しかし,こう いったことがあえて明文化されているという ことは,はからずもそういったことが起こっ ているという過去の教訓があるのではないか。

そういうことが思われる一方で,たとえば,

国際取引においてはコラプション(corup- tion)ということがよくいわれます。他国に おいて公共工事に入札するようなとき,その 国の政府高官に賄賂等を贈ってはいけないと いうことが,徐々に国際的な慣行になってい ますが,そういったことを日本の企業のメン バーにも認識させる意義があるようにも見受 けられます。また戻りますが,公正取引,独 占禁止法の尊重ということは,現在では日本 においてもきわめて重要なものであることが 十分認識されてきており,各企業におかれま してもそういった努力を続けておられること がわかります。

問8にまいります。今度はコンプライアン スにかかる社内教育がどの程度進んでいるの かを伺いました。社内においてコンプライア ンスについて教える制度が「存在する」と回 答された企業は,約 66 パーセントです。図 14 までずっと見ていただければと思います。

コンプライアンスないしはCSRに関する規 定を企業のトップがお作りになり,それを実

施しなければいけませんので,企業教育の一 環としてかなり積極的に取り組んでおられる ことがよくわかるかと思います。

問9は,企業の活動による違法行為の発見 ないしはその可能性が生じた場合,防止をす るシステムがあるかということですが,これ も 67.3 パーセントという高い率で「イエス」

という答えが返ってきております。2000 年 あるいは 2003 年と,ごく近時においてそう いう制度が設定されているところはあります が,企業全体として広い意味での不祥事防止 にかなりの熱意を持って取り組んでおられる ことが窺えると思います。このあたりのこと は,図 14,15 を見ていただければわかると 思います。

つぎに,問 10 です。これは,いまのコン プライアンスにかかる社内教育のあり方と連 動していますが,ある企業にコンプライアン ス・プログラムがあるというとき,それをど のようにして社内に周知徹底させるか,実施 対応について伺ったものです。人事研修,新 入社員の研修ですとか,イントラネット,

メール等を使って周知徹底させるという企業 がやはり多い。

他方で,コンプライアンス・プログラムの 実施にかかる専門家,トレーナー制度がある かどうかを伺ったところ,6パーセントの企 業において「それがある」というお答えにと どまっています。このへんの評価は難しいの ですが,「うちの企業はそういうことをしな くてもコンプライアンスが守られているので いらない」というところもあるかと思います し,そうはいっても多くの社員がいますので,

何かのために専門家を置いて徹底させている という考え方もあろうかと思います。また,

あとで出てくるかもしれませんが,費用対効 果ということもあり,コンプライアンスを 作っても,その実施については多様な対応が 取られていると思われます。

問 10 までが社内におけるコンプライアン ス・プログラムの周知徹底ということでした

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が,他方で企業の社会的責任というときには,

株主を含めて,企業の存立基盤である市民社 会における対外的な評価を維持し,高めてい く必要があります。そこで,まず,株主との 関係ではコンプライアンス・プログラムにつ いての取り組みをどのように示しているかに ついて,問 11 で伺っています。昨年段階で 約 31.5 パーセントの企業が株主総会等におい てこのようなプログラムの存在を紹介してい るということです。

このあたりは非常に興味深く,理論的にも 検討の余地があるところですが,一説により ますと,日本のみならず海外の企業において も,コンプライアンス・プログラムに積極的 に動いているひとつの大きなモチベーション としては,企業が違法な行動をすると株主か ら代表訴訟を受け,取締役等が非常に高額の 民事の損害賠償責任を負わされてしまうので,

こういうことを避けるために「自分として為 すべきことをやったのだ」,あるいは,「会社 としても積極的にそういうことをしている」

ということを表示する必要があるといわれて おり,日本でもそういった傾向がうかがわれ ます。問 11 の結果については,図 17 等に表 示されています。

問 12 も問 11 に関連するものですが,今度 は株主ではなく,消費者への対応如何という ことです。ここはまだやや低めの数値で,回 答をくださった企業の 17.2 パーセントの方々 が,消費者に対しても積極的に企業のコンプ ライアンスのあり方について公示していると いうデータが出ています。

社内のあり方に戻りますが,問 13 におい ては,会社の中でコンプライアンスの体制を 取っているところを客観的に評価するという 意味合いもあって,第三者による監督,監査 といったシステムが導入されているかという ことについて伺ったものです。現在では「導 入していない」という企業が,昨年段階では 80 パーセントと非常に多かった。しかし,

このあたりは,ご承知のように商法が会社法

に変わり,さまざまなタイプの会社が存在で きることになってくると,監査の実効性とい うこともあり,事情は変わってくるのではな いか,と予想されます。

問 14,15 から,個別の社員が法令違反を したとして,そのことに対し企業等が刑事責 任を負うかというところに話が移ってきます。

まず,問 14,15 において,「社員が法令違反 の可能性がある」という報告を受けたとき,

内部でどういう処理をされているか,内部的 に処理をしたうえで,必要に応じて外部の関 連機関に報告されているか,ということです。

ここも,図 20 で表れているように,約半数 が処理の手続を定めているということですが,

まだあまり活発には活用されていないようで す。おそらく,それは良いことだと思います が,十分準備をしているにもかかわらず違法 な行為等があまり報告されていないために,

この活動があまり目立たないという結果が出 ているのであろうと思います。しかし,先ほ どのトレーナー制度とも関連しますが,万が 一社員が違法な行為を行い,それが企業のコ ンプライアンス・プログラムに違反し,ひい てはさまざまなサンクションを受けるかもし れないというときの対応の仕方は,もう少し 考えてもよいかもしれませんし,今後は変 わってくる必要があるのかもしれません。

このような評価と関連するのが,問 17 以 下です。企業が法令違反,ないしは広い意味 でのコンプライアンス・プログラムに違反し た場合,民事,行政,刑事という法的な制裁 を負うわけですが,その際の対応を聞いてい ます。

まず,問 17 では民事的な責任に関する問 いです。ある企業が他企業との取引において

「損害を受けたことがある」と主観的に認識 しておられるのは約 26 パーセントであり,

加害企業と思われるのは6割が国内のそれで ある,というお答えです。いま,あるいは数 年先にこのデータを取ったときには変わって くるかもしれませんが,昨年の段階ではまだ,

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国内企業の取引において公正な取引慣行にか かる法規や,ビジネスの基礎となるような法 規に違反することによって損害を被ったと思 われることが多かったように思います。

問 18,19 も同じような設問です。問 18 で は,「損害を受けたといわれるが,具体的に はどのような原因が考えられるか,被害を生 ぜしめた原因については何があるか」という ことを聞いたのですが,予想されましたよう に,特許権侵害,独占禁止法違反,不公正取 引等が非常に多いという結果が出ています。

では,そのようにある会社,企業が損害を 被ったと認識した場合,どのように対応する か。まず,民事における損害賠償の請求とい うことですが,問 19 はそれに対する感想を 伺ったものです。回答企業の約 20 パーセン トの企業は不満を持っておられますが,何が 不満なのかというと,和解も含めて民事の処 理,終結までに時間がかかるというところで す。また,海外企業の取引等におきましては,

日本の企業が加害者になることも被害者にな ることもありますが,まず,準拠法の決定か らやらなければいけませんし,どこに法廷を 持ってきて訴訟を起こすのか,いつ終結する のかという事項等について予測可能性がまだ 高くないということもありまして,いったん 被害に巻き込まれると大変だ,という印象を 強くお持ちのようです。

問 20 は,企業が取引に際して犯罪と思わ れる行為に遭遇した場合,どのような対応を しているか,ということです。当局の対応に 不満があると感じられたのは 10.5 パーセント です。この問で答えられた企業関係の方がお 考えになっていたのは,犯罪といっても特許 権侵害等は日常的に起こりうるものだと思い ますが,たとえば,海外企業が違反行為をし ていて,それが犯罪を構成する場合には,民 事の場合以上に対応に時間がかかるという不 満が出てくることは当然予想されます。この あたりについては,図 24 等をご覧ください。

問 21 以下が,最もセンシティブな質問に

かかってきます。いままでいろいろ聞いてき ましたが,貴社は行政的あるいは刑事法的な 制裁を受けたでしょうか,受けた場合,どの ような対応をなさって,そこから得られる教 訓はどのようなものか,ということを伺って います。

問 21 では,法的処分を受けたというとき,

それを自主的に公表されているか,というこ とを伺っておりますが,公表することにして いる企業は約 66.6 パーセントとかなりの率に なっています。図 25 に示されています。

このアンケートを実施したときには,いつ からそのような体制を整備されているかとい うことは聞いておりませんでしたので,以下 は推測にとどめますが,他の自由記載欄等を 見ると,このように企業に対する不利益処分 のヒストリーを自主的に出すということは近 時非常に増えているように思われます。リ コールを受ける,あるいはさまざまな処分を 受けたということは何時までも隠せるもので はありませんので,先に公表し,そのことで 株価の変動等も事前に織り込んでいただくと いうことが,現在の企業の多くの対応かな,

と推測しています。

問 22 は,企業が免許の取消しや営業停止 等の行政処分を受けたことがあるか,という ことですが,回答企業の約 11.1 パーセントが

「それを受けたことがある」,といわれていま す。他方で,その回答を留保したいという企 業の方が 6.9 パーセントありました。これが 暗数であると思うと,約 20 パーセント弱の 企業の方が,さまざまな文脈において行政処 分を受けているといえます。これは結構な数 字ではないか,と思います。

つぎに,問 23 です。ここからが,まさに 刑事責任それ自体を聞いているところです。

2000 年以降において,ある企業が刑事責任,

典型的には罰金刑ですが,それを受けたこと があるか,という問には,回答された企業の 約 2.9 パーセントが「ある」というお答えで した。他方,ここでも回答を留保したいとい

(10)

う数値が 3.4 パーセントありますので,これ を暗数として見積もると,約7パーセントな いし8パーセントの企業の方々が罰金刑等の 刑事制裁を受けていることになります。日本 においてはこの程度ですが,あとで伺うよう に,他の国々と比較した場合,これが予想さ れる適切な水準かというところは議論のある ところです。

さて,いま申しあげたような刑事処分と行 政処分を合わせて,どのような業態の企業が よくこれらの制裁を受けているのか,どう いった特徴があるのか,ということを見たと ころ,建設業の方々の約 39 パーセントがこ ういった経歴があるというお答えをされてい ます。他方,金融業においては 18 パーセン トという答えが出ておりまして,以下製造業 の 12 パーセント,商業8パーセントが,こ ちらで換算したところ,行政ないしは刑事と いうかなり厳しいサンクションを受けている ことが出ています。図 28 です。

このへんの評価は非常に難しいところで,

たとえば,金融業においては伝統的に監督官 庁の指導等が非常にリジッドですから,それ に違反するということも容易に認識されるの かもしれません。ですから,ある企業におい てこの数字が高い,低いということが,直ち にその企業が属しているグループの性質,属 性を示すものではないとは思いますが,とり あえずこういった数字が出ていることは認識 可能かと思います。

問 24 までが,直近の経験等を踏まえて,

ご関心の企業の方々に,そのヒストリーにつ いて伺ってきたものです。それに対して,問 25 以降は,そういった経験を踏まえて今後 どうすべきだと思われるか,かなり自由な形 で考えを聞いています。

まず,問 25 は,いわゆるリニエンシー・

プログラムをご存じかどうか,ということで す。リニエンシー・プログラムというのは,

来年〔2006 年〕施行予定の独占禁止法にお いて入るものですが,違反をした事業者に対

して課徴金を課す際,その課徴金の額を高め る事情,あるいは低くする事情等を勘案して,

勘案できるところはリニエントな対応を取ろ うという考え方を広く指すものです。こうい う考えをご存じであるか,ということをお聞 きしたところ,33.1 パーセントの方が「知ら ない」という答えをされています。図 29 で す。

この結果は,個人的には非常に意外でした。

独占禁止法というのはビジネスをするうえで 基礎となる法律ですから,その改正動向につ いてはもっとご存じなのではないか,と思っ ていたのですが,昨年度の段階ではこういっ た数字が出ています。ただ,現在では変わっ ている可能性があります。

つぎに,「リニエンシーを知っている」と いわれたとき,その内容としてどういうもの を連想されるか,あるいはどのような評価を されているか,ということですが,それが問 26 以下です。監督官庁あるいは公正取引委 員会等がリニエントな対応をするという制度 を全般にリニエンシーといいますが,そのよ うな制度の運用はどこがやればよいのか,と いうことについては,官庁の裁量に委ねて,

事案に則した解決を望みたいと考え方が 10.4 パーセントありました。しかし,それでは明 確性の観点から問題が残るので,もう少しガ イドラインないしは立法的な対応をしてほし いという考え方が 50 パーセント強を占めて います。このあたりは図 30 に出ています。

こういった意識は,今後の立法を考えるうえ で非常に大事なファクターではないかと考え ています。

問 27,28 はもっと先の,しかし重要な要 素 に つ い て 聞 い て い ま す 。 こ の リ ニ エ ン シー・プログラムを履行する際,違反した企 業が「今後は違反をしないようにいたします。

法令遵守を徹底します」ということでコンプ ライアンス・プログラムというものをつくり,

その履行を当局に示すことが多いのですが,

問 27 は,そのようなプログラムを実施して

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いたけれど違反が起こってしまったという場 合,その点を勘案してやる必要があるかどう かということについて問いを出したものです。

そうしてよいという答えが 13.1 パーセントで す。特に「刑事訴追を控える理由としてコン プライアンス・プログラムの策定と実施を考 えてよい」と言った企業の方々がそういった 数値を示しています。詳細は図 31 〜 33 に出 ています。

いまの問いと関連して,問 28 では,その リニエンシー・プログラム,あるいはその具 体化としてのコンプライアンス・プログラム を作るとき,モデル的なものを行政のほうで 提示すべきか,あるいは業界団体の中で自主 的にやればよいかというところについて聞い ていますが,広い意味で基準を提示すべきだ というのが半数を超えています。しかしなが ら,独自でやればよいというものも 20 パー セントですので,どちらかの数字が圧倒的に 多いかということは,まだ言い切れないと思 います。

最後に,問 29 です。企業犯罪にかかわる 刑事法的制裁について,現在,企業が違反行 為をしたときには,刑罰の主たるものとして 罰金刑が予定されておりますが,他にそのバ ラエティを用意する必要があるか,というこ とについて伺っております。非常に興味深い のですが,たとえば,違反した企業名の公表 はフランスで取られている制度,あるいは違 反企業に対する保護観察を行うというのはア メリカ合衆国に存在する制度です。これらの 制度の運用はあまり活発でないと聞いており ますが,これらに積極的な意見もございまし た。また,同様のものとして,企業に対して 強制的にコンプライアンス・プログラムの策 定を義務づけ,その履行をチェックする。こ れも,保護観察,プロベーションの一種だと 思いますが,そういったことをすべきである,

といったご意見も出ています。

以上が,アンケートの結果についての簡単 な確認と,あまり意見にわたらない範囲での

コメントでした。本日は,このアンケートを 基にしてコメンテーターの方々にご意見をい ただき,また,フロアの方々とディスカッ ションさせていただくわけですが,以下の海 外の専門家の方々に話をつなげるところとし て若干のことを申し上げて,私の報告を終わ りにしたいと思います。つなぎの話というこ とでお聞きください。

おわりに

いま述べてきたようなアンケートの結果を どう捉えるべきかということが,特に刑事法 の観点からは重要ですが,そこで出ている基 本的な問題としては,二つのものがあると思 います。ひとつ目は,企業あるいは法人に対 する刑事責任をどのようにして科すのかとい うこと,二つ目は,もしもそれを前提にした 場合,いわゆるコンプライアンス・プログラ ム,リニエンシー・プログラムというものを どういうふうに構築していくべきか,という ことです。

前者の,広い意味での企業に対する刑事責 任という考えは,イギリスでコモン・ローの 発展とともに生じてきて,それがアメリカ合 衆国において発展を見て,連邦の模範刑法典 等にも規定され,現在もアメリカで使われて いるものです。このあたりについては,プレ インさんのお話なども踏まえて検討を深めた いと思っております。

後者の,コンプライアンス・プログラムと いうものも,同じくアメリカで量刑ガイドラ インの中で示された重要なファクターですの で,プレインさんのお話も伺いながら検討し たい。シェーファーさんのご報告にもあろう かと思いますが,現在,多国籍企業において はほぼ世界共通の相当似通ったコンプライア ンス・プログラムが用いられています。その 中には,当該企業が刑事訴追の危険にさらさ れた場合,どのようなディフェンスが可能か ということも書かれていて,この点について はヨーロッパとアメリカでは,あまり区別が

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なくなっているのではないか,というのが現 状です。

それが現状認識だとして,では理論的にど う対応すべきか。ご存じのように,日本の刑 法学は従来からドイツの刑法学に多くのこと を学ばせていただいておりますが,ドイツの 刑法の理論によりますと,法人というのは社 会的,倫理的非難の対象ではないので,法人 を処罰するというのはナンセンスであるとい うのが,一貫して強い主張と聞いています。

その一方で,ドイツでも秩序違反法というの がありまして,それによって非常に高額な行 政制裁金というものを違反した企業に科して います。このことをもって,ドイツの政府や 一部の学者の先生が海外でコメントされると きには,「ドイツでは法人を処罰しない。し かし,実際には処罰しているのと同じである。

したがって,現状は,他国とそう変わりはな いし,あとは調整の問題なのだ」,と言われ ることがありまして,私もそれはそうなのか な,という感じを持っています。

このあたりにつきましては,ヨーロッパ刑 法に大変造詣の深いズィーバー教授のお話を 伺いたいところです。ヨーロッパには,ドイ ツ的なシビル・ローの国と,イギリス,ある いはシビル・ローだが法人処罰を入れたフラ ンス等,さまざまなタイプの法制度が出てき ておりますが,ヨーロッパ全体としては,法 人処罰についてどのような方向に向かってい るのか,またその評価についてもコメントを いただき,午後のセッション等につなげたい と思います。

若干駆け足でしたが,本日のお話を確認い たしますと,昨年行ったアンケートの簡単な 分析を踏まえて,現在の日本の刑法学の観点 から少しコメントをいたしました。しかし,

この問題は日本の刑法学だけで対応できるも の,対応してよいものではありません。その 意味で,イギリス,アメリカ的な発想,ヨー ロッパ的な発想,またヨーロッパの中でも変 化している部分について最先端の話を聞いた

うえで,また企業の方々のご意見を伺って議 論を深めたいと思っています。ご清聴,どう もありがとうございました。

コメント

〇田口 今井先生には時間を厳守していただ きましてありがとうございました。それでは,

ただいまの今井報告に対する外国からのコメ ントをいただきたいと思います。なお,同封 のプログラムでは最初にズィーバー教授,プ レイン弁護士,シェーファー博士の順に書い てありますが,本日若干順序を変更しまして,

最初にプレイン弁護士,続いてシェーファー 博士,最後にズィーバー教授という順序でコ メントいただきたいと考えます。

プレイン氏はイェール・ロー・スクールを 修了後,反トラスト法や国際取引などを専門 に活躍されていて,現在はギブソン・ダン・

アンド・クラッチャー・ワシントンDCオ フィスというところに所属し,幅広い分野で ご活躍中を聞いております。プレイン氏の報 告については,お手元にペーパーがございま せん。パワーポイントで映させていただきま す。それではプレイン弁護士,よろしくお願 いいたします。

●基調報告へのコメント・その1 アメリカ合衆国弁護士

ダニエル・プレイン

はじめに

まず,今回の主催者の方々,こうやってお 招きいただきましてありがとうございます。

本当にすばらしい調査です。今井先生,早稲 田大学が行われた調査ですが,このようなこ とはアメリカでは行われていないと思います。

経験的な調査で非常に多くの企業が対象であ り,多くの企業が回答されています。これか らお話しする内容は,私の経験,直感に基づ くものであり,間違っている場合も多いかも

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しれません。ですから,今井先生のほうでこ ういう経験的な研究を行われたのだと思いま す。私も,アメリカの観点からいろいろお話 ししたいと思います。また,できるだけ時間 厳守でいきたい。今井先生は,そういう意味 でも非常に良い模範を示されたと思います。

いまの今井先生の研究のお話を聞いており まして,社会における企業行動の要素がいろ いろ発見されたと思います。先生は,日本の 企業の内部的あるいは外部的なコンプライア ンス・プログラムについていろいろな情報を 引き出されました。また,こういったCSR の要素にコンプライアンスがされているかと いうことを出されています。いつ,どれぐら いコンプライアンス・プログラムが実施され ているか,リニエンシーの対象になるべきか,

それとも無実なのかということをお話しされ ました。こういったものは,企業の社会的責 任のルールに関係しています。今井先生から もお話がありましたが,私のほうからはごく 簡単にアメリカの経験についてお話をしたい と思います。

1 アメリカにおけるコンプライアンス・

プログラムの現状

最近,こういった法律,社会規範は非常に 厳しく執行されています。企業内部のコンプ ライアンス・プログラムが非常に重視され,

これによってコンプライアンスを促進する。

そして,実際に違反があった際には制裁を科 すというためです。それに加えて,ルール,

規範的な企業社会行動,あるいはコンプライ アンス・プログラムに対する追加です。

これは,基本的にアメリカの企業法から出 てきたもので,まず,海外腐敗行為防止法

(Foreign Corrupt Practices Act(FCPA))

が 30 年ぐらい前に法制化されました。その 次が,サーベンス・オクスリー法です。こう いったものから非常に広範な,独立した,実 際の要件といったものが出てきたわけです。

厳しい,効果的な内部コンプライアンス・プ

ログラムが各企業で使われ,それに加えて個 人的な責任が問われています。こういったコ ンプライアンス・プログラムについて,役員 や上級幹部が守らなければならない風土が生 まれてきております。最後に,アメリカの法 制度における企業のコンプライアンス・プロ グラムの役割について,ごく簡単にお話しし たいと思います。アメリカでは,政府の規制 や刑事罰も厳しいものがあります。しかしな がら,これが企業の社会的責任のすべてでは ありません。こういう広範な文脈を考えたう えで,アメリカのモデルを評価したいと思い ます。

第1に,法律または受け入れられている社 会的な規範にはどういうものがあるか。基本 的には日本と非常に似通っています。一番基 本的なものは,企業の不正についての規則で すが,100 年ないし 200 年前に州法に載りま した。しかし,いまでは,連邦の規則におい ても企業の不正を防止しています。株主ある いは関係者,顧客にも関係してきます。証券 取引法に基づき,インサイダー取引が禁止さ れています。その他の不正行為も禁止されて います。

第2に,競争関係の反トラスト法等があり ます。これには,連邦法も州法もあります。

これもまた,別の側面ということで,アメリ カにおいては,このような並行したシステム が存在しています。この中には,特に競争に おいては 100 年前からあるような法律があり ます。遵守はされていないかもしれませんが,

アメリカでは有名な法律です。

第3に,刑事処分,民事処分,行政的な処 分も関係します。また,3倍賠償という形で も執行されています。労働を保護する法律も あり,これは強制的なものです。こういった ものが,国外においても第三国における労働 者の不合理な処遇があった場合に適用されま す。国内においても,対外的にも,強制的で ない場合もありますが,非常に効果的なプ レッシャーをNGOや市場が与えることもあ

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ります。

第4に,環境規制ですが,ここ 30 年ぐら いにわたり非常に重要性を増しています。環 境規制は,刑事的,行政的,そして民事訴訟 ということで差止め命令を求めるもの,損害 賠償を求めるものが出てきております。また,

欠陥商品の販売も企業の社会的責任で,これ も,行政,刑事,民事の差止め命令,損害賠 償といった訴訟によって守られております。

それから,汚職防止や政府に対する財・サー ビスの販売に関係する法律もあります。この 中には,不正というよりも会計に関係する違 反のものもあります。こういったものは非常 に複雑で,省庁ごとにいろいろな規則があり ます。

第5に,最近動きのあるアメリカ独自の法 律で,アメリカの国家安全保障や外交政策に 影響を与えるようなもの,あるいは国境を越 えた犯罪行為に関係するものです。このリス トに入るものとしては,アメリカの外国処分,

特に財務省が執行するものやアメリカにとっ て脅威だと見なされるような国に対するもの があります。アメリカの輸出規制,これはラ イセンシングに関係するもので,いろいろな 商品の輸出や技術に関係するものです。また,

アンチボイコット規則,これは,友好国に対 するボイコットに関係するものです。それか ら非常に包括的な一連の法律として,アメリ カのマネーロンダリングに関係する規制もあ ります。日本,ヨーロッパでも,マネーロン ダリングに関する規制が存在しています。

それから第6に,アメリカの海外腐敗行為 防止法。このコンセプトは,日本も含めた多 くのOECD加盟国により採択されています。

収賄禁止や,別のセクションにおいて正確な 記録を維持することも要件になっています。

そういう意味で,適切な企業管理,財務,会 計,記録をアメリカの発行体のほうできちん と正確な形でとどめるということ。そして,

それに対する違反は開示されます。もちろん,

そこから内部のコーポレートガバナンスの問

題に移っていくわけです。

2 今井教授の基調報告について

2.1 今井先生のコメントについて,アメリ カの観点からいくつか申し上げますと,アメ リカとの類似点もあれば違う点もあります。

質問4〜6についてですが,国内あるいは外 国のパートナーがコンプライアンス・プログ ラムを持っているかどうか聞く日本企業が少 ないのは,非常におもしろいと思いました。

最近,アメリカの企業では相当こういったこ とをしなければいけない状況になってきてい ます。また,より多くのアメリカの企業がこ ういう問合わせを行っています。特に外国企 業について,海外腐敗行為防止法というのが ありますが,それはパートナーを通じて行い ます。ですから,違反があった場合,パート ナーを通じて制裁が科されることがあります。

また,最近重要性が増している点として,

金融機関がますますマネーロンダリングの規 制対象になりつつあります。それから,最近 では,相当な注意(due deligence)がすべ ての新しい外国パートナーに課される要件と なっています。多くの大企業が,内部組織に 規制を設けて,あるいは外部の第三者の調査 機関に頼んで,新しいパートナーを調べても らう,あるいは新しいエージェントやディス トリビューターを調べてもらう。アメリカの 企業が外国で仕事をする場合には,そういっ たことも行われています。

2.2 それから,第8問は,トレーニング・

プログラムについての説明でした。アメリカ の法執行機関や企業が理解しているのは,ト レーニングなしではコンプライアンス・プロ グラムは実行できないということです。相当 のパーセンテージの日本企業の回答者が,プ ログラムをeメールで伝えるとか,メモで社 員に伝えるということをおっしゃいました。

皆さんも,企業や政府,大学に勤めていらっ しゃる人が多いと思いますが,毎日どれぐら いのメモやメールを受け取っているでしょう

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か。皆さん,どれぐらい慎重に読んでいらっ しゃるのでしょうか。そういうトレーニン グ・プログラムは,トレーナーと社員,職員 の間のコミュニケーションがなければ役に立 ちません。アメリカ企業において,コンプラ イアンス・プログラムの効果がどれぐらいか あるかということを見るとき,最初に聞く設 問のひとつが,このトレーニング・プログラ ムの詳細です。

2.3 9番目の設問です。どういうシステム をもって個々の職員の不正を防止しようとし ているか。アメリカにおいては,社外の監査 というものがあります。企業自体が行う場合 もあるし,企業が,たとえば会計企業に頼ん で監査を行ってもらう場合もあります。ある いは社員の報告もあります。いま,アメリカ の企業では,コンプライアンス・プログラム の一環としてホットラインというものを設け ています。指定された電話番号にかければ,

もしかしたら法律違反があるかもしれないと いうことを,警告者の名前を出すことなく問 題提起できます。

2.4 10 〜 12 番目の設問ですが,これも非常 に関心があります。日本においては,広範な 従業員,株主,消費者に対する通知の制度が ない,コンプライアンス・プログラムを知ら せていないということですが,アメリカでは 相当状況が違います。というのも,従業員の コミュニケーションは,研修を通じて行うか らです。特に大企業においては,広範な形で 防止のためのトレーニングが行われています。

従業員は,これによって,ルールとはどうい うものか,何ができるか,できないかという ことがわかります。

また,株主や市場の信任は,大きな問題で す。市場,投資家の信任,企業のコンプライ アンス・プログラムに対する信任が,非常に 大きな問題になっています。ご存じのように,

会社の誠実性について疑念が呈されると,1 日や数時間の間に株価が下がることもよくあ ります。アメリカ,日本でもそうですし,

ヨーロッパでもそうだと思いますが,コンプ ライアンス・プログラムの目的として,株主 の保護という側面が非常に重視されてきてい ます。したがいまして,消費者に対する通知 も良いマーケティングの一環と捉えられてい ます。多くの産業界において,消費者は,会 社がこういう内部コンプライアンス・プログ ラムを持っていることを非常に評価します。

2.5 13 問目,外部の監査人を使って基準の 違反をチェックすること。これも,日米で相 当違うと思いました。すべての監査人,特に 外部の監査人は法律上,規則上,あるいは慣 行上,監査人の責任を果たすために積極的に 不正会計,CSRの分野の不正を探そうとし ます。多くの企業にとって非常に厳しい基準 です。コンプライアンス・プログラムは,最 近,日本でよく実施されています。ただ,効 果的な実施というのはなかなか行われていな いようです。たとえば,不正があった場合,

第三者の監査や株主による評価があまり行わ れていない,と今井先生はおっしゃいました が,こうしたことは,アメリカにおいて相当 行われており,要件となっています。

2.6 21,22 の質問です。一般に対してどの 程度の通知を行うか,企業が行政処分,刑事 処分を受ける場合,それを通知するか否かと いうことですが,日米でずいぶん違いがある と思いました。昨夜シェーファー先生と少し 話したのですが,その質問には二つの解釈が あるということが指摘されました。たとえば,

米国以外での活動の場合,どういった形でそ れを開示するか,通知するかという判断が必 要です。残念ながら,それに関しては実証的 なデータがありません。しかし,私どもは,

実態というものを重視しますので,アメリカ のほうがもっと通知するのではないかと思い ます。アメリカにおいては,刑事処分,刑事 手続きの対象となった,あるいは法廷で訴追 されたということならば,その情報は遅かれ 早かれマスコミが取り上げる。ですから,少 なくとも企業自らが何らかの声明文を出して

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いくのが一般的で,そのことによって企業が 発する声明文があまり過大評価されないよう にもっていくようにしています。

また,今井先生が提起された質問の中に,

もし企業が違反したら,それに対してどの程 度寛大な取扱いがなされるのか,その際,企 業内にコンプライアンス・プログラムがあっ たならどうか,というものがありました。企 業としては,あたかもコンプライアンス・プ ログラムを刑事訴追回避の手段と考えていま すが,それだけで被疑者に対して寛大な取扱 いがされるのではなく,あくまでもそこでの 行為の性質,精神状態の分析によります。

たしかに,コンプライアンス・プログラム があったら,一定程度効果的であり,検察官 が裁量権を発揮する場合,一定程度それが考 慮されますが,そのことは,先生が言われて いる寛大さではないと思います。ただ,それ は違反の性格によって異なるでしょうし,地 域社会の政治的な見方,検察官の見方によっ て異なってきます。もし,それが連邦制度で の訴追であったなら,今井先生が指摘された ように,連邦においてもガイドラインがあっ て,かなり詳細なものが設けられています。

一般的なガイドラインとして,どういった違 反の種類なのか,どんな状況なのか,縷々説 明されている分厚いガイドラインです。そこ で唯一考慮される要素,特にガイドラインに おいて罰を受けるか否かを判断する際,コン プライアンス・プログラムがあるかないかは,

判断の対象となります。

しかし,これは氷山の一角だと思います。

と申しますのも,ただ単に検察に送られるだ けではなく,有罪の判決が下されること,米 国企業全体としての違反の数から考えると,

それはきわめて少数派だからです。逆に,連 邦のガイドラインとして,ある企業を訴追す るか,責任を問うか否かということを設定し たものはありませんし,何に対して責任を問 うのかといったものはありません。ひとつの 法の下での違反なのか,別の法の下での違反

なのか。同じ違反をいろいろな法が取り扱っ ているわけですから,どの法に照らしてそれ を考えるのか。個別の小さな犯罪を繰り返し たということで合計 50 の違反なのか,ひと つの大きな違反なのか。また,いろいろな罰 則が設けられているわけであり,その罰則が 刑事制裁とは違ってもっと一般的に使われる ものもあります。行政,民事における罰則,

罰金などです。それは連邦レベルのものもあ れば,州政府レベルで受けたものもあります。

同時に,政府機関が使うような場合,正当 な法の手続きではなく,排除(debarment) といった手段があります。たとえば,ある政 府に対する調達に関して,自らの製品を売れ ないということになるわけです。そういった 場合,これらの省庁はコンプライアンス・プ ログラムを考慮していきます。そして,それ がどの程度守られているかを判断して,ある 企業から調達するか否かを決めていきます。

2.7 そういった意味において,アメリカの 経験はかなり広いものであり,民事における 訴訟,提訴などもあります。自ら損害を受け た,あるいは損害を受けそうだと思った原告 が,民事において提訴することもあります。

また,その他企業のコンプライアンス・プロ グラムが個人の原告に与えられる救済を軽減 するといった役割を果たすこともあります。

実際,法廷に持ち込まれる件数は少ないので す。そこでそういった行為が為されたのか否 かということであり,善意があったか否かと いうことではないのです。そこでの企業の精 神状態がどうだったかということが問われな いこともあります。

同時に,市場からの罰もあります。こう いったことは,多くの米国企業にとってます ます懸念となっています。というのも,これ らのことをマスコミが報道すると同時に,株 式市場のほうもいくつかの企業の製品,役務 を調達するか否かということで,ある意味で の罰を与えるわけです。

しかし,こういったものは会社の中にある

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