米国経済再生論と戦略的通商政策 : 政策介入と市場 メカニズムの相克
立石, 剛
九州大学経済学研究科経済学専攻
https://doi.org/10.11501/3122876
出版情報:Kyushu University, 1996, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
2. 市場の失敗と政策介入の正当化
新貿易理論によって、 規模の経済が機能するような産業では、 比較優位は 要素賦存によって与えられるものではなく、 政策によって作り出される可能性 が提示された。 しかしこの場合は政策介入の余地が示されただけであって、 政 策介入を正当化する理由を示すものではなかった。 しかし先進国において政府 の積極的介入を正当化する理由として次のような二つの市場の失敗が提示され た。 第一に、 高度に集中した寡占産業における独占利潤の存在である。 第てに、
ハイテク産業では、 企業が自ら開発した知識を占有することは困難であり、 他 企業に流出するという技術的外部経済のケースである。
2. , . 独占利潤の争奪
独占利潤の争奪モデルはプランダー=スペンサーによって開発されたJJ)。
実際に競争している企業が数社しか存在しないような産業では、 超過利潤が発 生するのが一般的であり、 この超過利潤をめぐって国際間で競争が生じる。 こ のような場合、 例えば政府は自国企業に補助金を与えてゲームのルールを変え ることにより、 この超過利潤を外国企業から自国企業の手に移すことが可能で ある。 そして独占レントが補助金の額より大きければ、 結局のところ政策介入 によって自国の経済厚生は高まることになる。 つまり政策介入によって自国が
戦略的と考える産業を自圏内に維持することができ、 かつ補助金を上回る独 レントの獲得という経済厚生の向上が可能となるのである。
11)JA.Brander and BJ.Spencer, “Export Subsidies and lndustrial Market Share RivalηT," Journal olInternational Economics, vol.18, no.1/2, 1985.
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この点についてブランダー=スペンサーのモデルで説明してみよう1 2、。
今ボーイング社という米国企業とエアパス社というヨーロッパ企業が300人 乗りの航空機という新製品をめぐって競争している状況を考える。 表1-1
( 1 )は両者の利潤が双方の生産をするかしないかという決断によって決まる 様子を示している。 各行はボーイング社の特定の決断に対応し、 各列はエアパ ス社の特定の決断に対応している。 それぞれのボックスには二つの数字が記入 されているが、 左下がボーイング社の利潤を、 右上がエアパス社の利潤を示し ている。 ここでは、 一社だけが参入した場合には利潤を獲得することが出来る が、 両社が参入すると、 両社とも損失を被ると想定されている。 この場合、 ど ちらの企業が利潤を得るかは、 どちらが先に生産を開始するかによって決まっ てくる。 仮にエアパス社が参入する前に、 ボーイング社が生産を開始し、 30 0人乗り航空機を生産していたとすると、 エアパス社としてはこの市場に参入 しても損失を被るだけなので、 参入するインセンティブはない。 したがって表 1 - 1の右上の状況、 すなわちボーイング社だけが生産を行い、 利潤を獲得す るという状況が生じる。
この状況を政策介入によって変えることが出来るというのがこのモデルの 重要な論点である。 例えば、 ここでヨーロッパがエアパス社に2 5の補助金を 与えたとしよう。 ぞうすると両社の利潤を示すマトリクスは表1-1 (2)の ようになる。 仮にボーイング社が先に生産を行っていたとしても、 エアパス社 は20の利潤を獲得することが出来る。 したがって、 ボーイング社の行動にか かわらず、 エアパス社は市場に参入することになる。 そうなると、 ボーイング 社は生産しても損失を計上するだけなので、 参入を見合わせざるを得なくなる。
こうして最終的に左下の状況に至ることになる。 結局、 補助金によって表1- 1の右上のマトリクスから表1 - 2の左下のマトリクスへと状況は180度変 化するのである。 ヨーロッパは2 5の補助金によってエアパス社の利潤をOか
1 2)ここで引用している表は、 クルグマンがゲーム論の手法を用いて説明した ものである。 Krugman and Obsfeld, oþ.cit.
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2章 戦略的貿易政策論
ら125へと高めることが出来た。 すなわちネットでは100だけヨーロッパ の経済厚生が高まることになる。
表1 - 1 独占企業間の競争と補助金の効果 産する
生産しない
。
エアパスに対する補助金の効果
生産する
工7ハコ|
牛産する生産しない
。
一産しない
。
産しない
。
ブランダー=スペンサーモデルは、 その後様々な角度から問題点が指摘さ れている。 まず、 理論的にはモデルの前提である企業行動が異なれば政策的合 意も正反対の帰結を生んだりする点が指摘されているI�I)。 またこのモデルで は新規参入が前提されていないが、 超過利潤が生じればそこに新規参入が生じ ると考える方が自然だろう。 こうした場合、 経済厚生を高めるはずのレントが 縮小し、 政策介入のメリットさえも消滅するケースが指摘されている。 このほ かにも、 超過利潤の状況をどれだけ政府が正確に把握できるかという問題や、
貿易相手国の報復が生じることによる貿易の縮小均衡化などが問題点として指
13)
J,Eaton and G.M.Grossman, “Optimal Trade and lndustrial Policy under Oligopoly,
Quαrterly Journal 01 Economics,
101, 1986.- 40 -
摘されている。 このように新貿易理論から戦略的貿易政策論へのモデル化には 何とか成功したものの、 実際の政策効果に関しては説得力を持つとは考えられ ないというのが大方の評価である。
2. 2. 技術的外部経済
政策介入を正当化するもう一つの議論としては、 外部経済という市場の失 敗を根拠としたものがある。 企業が研究開発投資等によって創出した知識も、
当該企業だけで占有することは困難であり、 通常は他企業に流出する傾向にあ る。 したがって、 特許制度も十分でないという現状においては、 市場メカニズ ムでは研究開発投資が過少になってしまうので、 政府による介入が正当化され るという議論である。 とくに、 コンピュー夕、 エレクトロニクス関連、 航空と いったハイテク産業では、 研究開発投資等によって技術を高めるために多くの 資源が費やされている。 したがってハイテク産業を中心とする分野に対して政 府が何らかの政策介入によって支援することは正当化されるというのである。
これに加えて、 ある産業における研究開発の成果が他産業へと波及するような 場合(例えば半導体の技術進歩はコンピュータ産業を強化する場合)には、 政 策介入の根拠は一層強まる。
クルグマンによれば、 こうした外部経済に基づく政策介入はブランダー=
スペンサーモデルの場合よりも説得力を持つという1 IJ)。 その理由として、 後 者がレント獲得をめぐるゼロ ・ サムゲームであるのに対して、 前者はプラス ・ サムとなる可能性が高いことが挙げられている。 すなわち、 これまで開発した 新技術 ・ 知識を占有できないために行われなかった研究開発投資が、 政策的支 援のもとに行われるようになったとすると、 世界経済全体の厚生が高まる可能
111; P.R.Krugman, “Does the New Trade Theory Require a New Trade Policy?, "
The World Economy, vol.15, no.4, 1992.
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2章 戦略的貿易政策論
性があるからである。 こうした外部経済への政策介入の効果は計量的に把梶す ることが困難であるが、 クルグマン自身はかなりの効果をもたらすと指摘して いる。
しかし外部経済の議論においても、 その実施にあたってはブランダー=ス ペンサーモデルと同様の問題点が指摘される。 すなわち政策介入の実施にあた っては、 全てのハイテク企業を一律に支援するといったことではなく、 それら 企業の研究開発投資活動に絞って政策的支援を行うべきとされる。 しかし現 に企業の支出のどの部分が研究開発活動に属するかを見極めるのは困難であり、
また政策支援の規模は外部経済の大きさに依存するが、 外部経済の大きさを抱 握するのはほとんど不可能であるとの問題を抱える。
こうしてブランダー=スペンサーモデルおよび外部経済が存在するケース では理論的には政策介入を正当化する道が開けたといってよいが、 現実にそれ を適用することについては多くの不確実性が存在することも指摘されている。
こうしたことから米国の中でも戦略的貿易政策を実施する事に関しては議論は 大きく二分されている。 しかしながら政策実施に関する現実の動きは、 特に経 済外交を重視するクリントン政権への移行に伴い、 現実化の方向をたどりつつ ある。
3. 戦略的貿易政策論の展開
戦略的貿易政策論は、 新貿易理論と市場の失敗を政策介入の根拠としたう えで米国経済厚生の向上を明確に意図し、 実際の政策展開を提唱する見解であ る。 こうした戦略的貿易政策論は実際の通商政策においては管理貿易論および 競争力政策として展開されている。 クリントン政権の大統領経済諮問委員会
( C E A : Council of Economic Adviser )委員長に、 管理貿易論者として有名な
タイソン女史が就任した。 またクリントン政権は経済問題、 とくに競争力問題 を外交問題や安全保障問題と同じレベルに位置づけており、 こうした政策的
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2章 戦略的貿易政策論
点の移行は通商政策において管理貿易論が採用される可能性の高いことを示し ている。 実際、 二国間交渉によって数値目標を獲得しようとする米国の通商戦
略においても管理貿易論的色彩が強いことをうかがわせる。 こうした管理貿易 論は、 貿易相手国の不公正貿易慣行に対処するために採用されるだけでなく、
ハイテク産業の育成を通じた米国経済再生という極めて戦略的側面を持ってい るのである。
以下では、 戦略的政策論と新貿易理論との関連性を政策介入の根拠を軸に 示した上で、 実際に戦略的貿易政策論がどのように展開されているかを管理貿
易論および競争力政策の二つの側面から示したい。 この二つの政策はハイテク 産業の国際競争力強化を軸とした米国経済再生という共通の目的を持ち、 管理 貿易論が対外的側面を、 競争力政策が圏内的側面を受け持つという相互補完的 な役割を果たしている。 米国が指向しつつある管理貿易的アプローチについて はタイソンの見解を中心に次の順序で検討する15)。 まず管理貿易論が主張さ れる根拠をハイテク産業の戦略性との関連で示し、 次にタイソンの管理貿易論 の特徴を明らかにする。 そこではハイテク産業を軸とした米国経済再生戦略と の関連で、 衰退産業の一時的保護という従来の保護貿易とは異なる管理貿易論 の姿を示す。 続いて戦略的貿易政策論のもう一つの側面を形成する競争力政策 について検討する。 競争力政策はハイテク産業の国際競争力強化を目的とした
各種政策手段の総称であり、 そこにはマクロ経済政策から産業部門別政策まで 含まれる。 競争力政策はレーガン政権時に既に提唱されているが、 クリントン
I 5)タイソンの管理貿易論については、L.D.Tyson, Who's Bashing Whom? Trade Conflict in High Technology Industries, Washington DC: Insutitute for Intematinal Economics, 1992. (竹中平蔵監訳『誰が誰を叩いているのか』ダイヤモンド社
199 3年)およびL.D.Tyson, “Managed Trade: Making the Best of the Second Best," in R.W.Dombush, A.O.Krueger and L.D.Tyson(eds.), An Ameηcan Trade Strategy:。戸tions for the 1勿Os, Washington DC: The Br∞kings Insutitution, 1990.を参
日百
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2章 戦略的貿易政策論
政権に移行してからさらに重要視され、 実際の政策展開をみている。 ここでは 競争力政策をレーガン政権時のものからクリントン政権下のものまで時系列的 に概観し、 とくにクリントン政権下では競争力強化を軸に経済政策の再編が行 われていることを指摘したい。
3. 1 . 新貿易理論と戦略的貿易政策論
前節で見たように、 ハイテク産業では生産経験の増加にともない継起的に 品質が改善されコストが逓減する。 またこうした技術開発の成果は他の関連産 業に波及し、 さらに不完全競争市場を形成するため後発企業に対する参入障時 ともなる。 こうした産業では一国の比較優位は要素賦存によって決定されるの ではなく、 何らかの歴史的偶然性、 例えば企業の戦略的行動や政府の政策介入 によって決定されることになる。 その結果、 収穫逓増、 技術的外部経済および 不完全競争といった特徴を示す産業では自由貿易が必ずしも最善の政策ではな く、 自国企業の国際競争力に政府が積極的に介入 ・ 支援することによって自由 貿易のケースよりも自国の経済厚生を向上させることができるのである。
ハイテク産業には、 ある不完全競争均衡状態から別の均衡状態へと移行す る静態的な側面だけでなく、 収穫逓増、 累積的循環的因果関係に代表される動 態的側面も存在する。 すなわちこうした動態的側面が機能すると、 何らかの歴 史的偶然性や政策介入によって確立された競争上の優位は自己強化的なものと なり、 永続的な動態的経路をたどることになる。 例えば日本における1 970 年代半ばの半導体市場の閉鎖は、 日本の半導体産業が自己強化的に成長する機
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会を与えることになった16:O このように動態的側面を重視する場合には政策 的には一時的な保護が非常に有効な手段となるのである。
動態的側面からハイテク産業への政策介入を重視する見解は、 価格競争よ りもむしろ新製品開発や生産工程の革新などの局面での競争を念頭に置いてい る。 これは競争や生産性上昇に関するシュンベーター的見地に立つということ ができょう17)o 技術革新といった動態的局面を重視する観点からすると、 リ カード型貿易論のように静態的状態において最も効率的な資源配分は必ずしも 将来の技術革新の機会を保証するものとはならないことになる。 このことは特 に、 ハイテク産業のように学習効果等を通じて生産局面における経験の中から 技術優位が生じる場合にはよくあてはまる。 前節で説明したように、 こうした 技術革新活動は、 技術外部性の存在および資本市場の制約によって価格機構を 通じた現時点での最適資源配分を達成する市場メカニズムでは完全には現実化 されない18)o さらに現時点での資源配分や産業の組み合わせが将来の技術機 会や技術能力に影響を及ぼし、 最終的には経済成長パターンに重要な影響を及 ぼすことになる19dO そのため、 市場メカニズムによる資源配分ではなく、 政
16) R.E.Baldwin and P.R.I三rugman, “Market Access and Intemational Competition: A
Simulation Study of 16K Random Access Memories," in P.R.Krugman, Rethinking International Trade, Cambridge, Mass.: MIT Press.,1990. (Originally published in R. F eenstra( edよEm戸irical Studies 01 Internαtional Trade, Cambridge, Mass.: MIT Press., 1988. )
17) ].A.Schumpeter, Capitalism, Socialism and Democracy, London: Allen and Unwin,
1943. (中山伊知郎・東畑精一訳『資本主義・ 社会主義・ 民主主義』東洋経済
新報社、 1 995年) 1 R)
].Stiglitz, “Technological Change, Sunk Costs and Competition," Brookings Papers on Economic Activiちんno.3, 1987.
19) Dos釘i,G.,C.Freeman凡1,R
Chαωn.昭geαωndEconomic TheωOηη" New York: Columbia Univ.Press, 1989.
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策介入による人為的な資源配分によって、 長期的 ・ 動態的な技術革新経路を確 保することが重要となる。
いずれにせよ新貿易理論の展開および独占利潤や技術外部性といった市場 の失敗の存在は、 戦略的貿易政策論における政策介入の潜在的綬拠を与えるこ とになる。 クルグマンは「第一に、 米国経済における貿易の役割と世界経済に おける米国経済の役割が変わった。 第二に、 国際貿易自体の性格も移り変わり つつあり、 他国と同様に米国もその影響を受けている。 第三に、 とりわけ産 構造と競争の分析にみられるように、 経済学の領域の中での見解の変化が、 貿 易政策を扱う経済学者の見解にも影響している」とし、 さらに米同経済の地位 の変化について「貿易政策が技術変化のペースを決定する重要な要素となりう るということである。 例えば、 自国市場の保護や補助金によるハイテク部門へ の他国のターゲティングは、 他の米国産業への重要な波及効果を実際に生んで いる米国産業の縮小をもたらしかねないのである。 こういった可能性こそが産 業政策の国際的復活をおおう関心の核心になるものである」と指摘する20Jo また貿易の性格変化に関しては、 前述のように比較優位論に基づく貿易から
「規模の経済やきわどい技術競争のリードの移り変わりによる怒意的または 時的な優位を反映しているように見えるような貿易への変化である。 今日の貿 易は、 大規模生産の優位が分業を導き、 経験上の優位の累積が初発の偶然の優 位を継続させ、 技術革新が他の産業分野に重要な波及効果をもたらすような外 部性の存在する世界として分析しなければならない。 したがって我々は現実の 貿易を伝統的経済分析の仮定である完全競争の世界としてでなく、 寡占企業間 の不完全競争の世界として見なければならない」と述べる2 1 )。 そうすると
「自由貿易に比べて積極的な貿易政策によって、 おそらくは競争相手の犠牲の もとにある国が利益する方法は二つある。 一つはより大きな「レント」を確保
20) P.R.Krugman(ed.), Strategic Trade Policy and the New International Economics,
Cambridge, Mass.: MIT Press, 1986., pp.6-7.
21) ibid., pp.7 -8.
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2章 戦略的貿易政策論
する政策能力によって、 もう一つは「外部経済性」をさらに増す政策能力によ るものである」ことになる22}O こうしてクルグマンは最後に「国際貿易に対 する新しいアプローチは、 アメリカがより積極的な貿易政策に転換する潜在的 な理論的根拠を与えるものである」と結論づける23:。
このように市場メカニズム、 ないしは静態的な資源配分に基づく分業関係 の形成は長期的 ・ 動態的な観点からは必ずしも最適といえず、 ハイテク庫業を 軸とした産業構造の高度化を通じた米国経済の再生は何らかの政策介入を必要 とすることになるのである。 こうした政策介入は管理貿易政策と競争力強化政 策の提唱と形で現れることになる2 IJ)。 こうした通商政策は市場メカニズムの 貫徹を最善とする自由貿易論と異なることはいうまでもない。 特に通商政策を 通じた自国の経済厚生の向上を明確に意図している点、 さらに経済厚生の向上 をめぐって他国との競争関係にあると認識する点において戦略思考を備えた政 策論、 つまり戦略的貿易政策論といえよう。 新貿易理論はこのように戦略的貿 易政策論という米国経済再生を強力に指向する見解を生じさせることになる。
3. 2. タイソンの管理貿易論
22) ibid. ,p.12
23) ibid.,p.15
2 IJ)新貿易理論によって政策介入への潜在的根拠が示されたが、 これが直ちに
実際の政策展開をもたらすとは限らない。 新貿易理論の提唱者の大半は、 収穫 逓増産業を特定する政府の能力および実際の政策実行可能性について懐疑的で ある。 このことからクルグマンは実際の政策遂行に関して「積極的行動主義 (Immediate activism) J、 「慎重な行動主義(Cautious activism) J、 「慎 な非行動主義(Cautious inactivism) J、 「非行動主義(Strong nonactivism) J の4つに分類している(Krugman(1986), ibid.)。 なおタイソンはこうした分類 のうち自らは慎重な行動主義者にあてはまるとしている(Tyson(1992), oþ.cit. ) 。
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2章 戦略的貿易政策論
管理貿易論は戦略的貿易政策遂行の軸である。 その最大の特色は米国経済 の再生を目的としている点にあることはいうまでもないが、 次のような特徴を 指摘することができる。 第一の特徴は、 政策の対象に関するものである。 管理 貿易論はハイテク産業という成長産業部門を対象とした貿易政策を指向してい るところに特徴がある。 この点から衰退産業の保護を目的とした貿易政策とは 異なる。 またハイテク産業の戦略性は管理貿易施行の根拠を与える。 第二の特 徴は、 ルール指向ではなく結果指向の貿易政策だという点である。 つまり貿易 のルールを管理する政策ではなく貿易量を直接的に管理する政策といえる点で ある。 第三の特徴は、 輸入よりも輸出に重点を置いた貿易政策だという点であ る。 管理貿易論は他国からの輸入急増から米国産業を保護するというものでは なく、 政策介入によって米国産業の輸出量を確保するという性質を持つ。 以下 ではこうした管理貿易論の特徴をタイソンの管理貿易論を中心に順に指摘した
。、‘.B『U‘
3. 2. 1 . 先 端 技 術 産 業に お け る管理貿 易
タイソンは新貿易理論によって示された政策介入根拠をベースにし、 以下 の四つの理由から管理貿易を通じたハイテク産業の戦略的支援の必要性を主張 する。 第一の理由はハイテク産業が米国経済厚生の向上に資するからだという
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2章 戦略的貿易政策論
ものである25;。 タイソンは米国経済厚生にとってのハイテク産業の重要性を 次のように述べる。 r1ドル分のオレンジを輸出するのと1ドル分のコンピュ ータを輸出するのとでは、 貿易収支に及ぼす影響は同じで も、 雇用や生産性、
賃金、 熟練工の育成、 研究・開発投資など、 経済の健全さを左右する重要因子 に及ぼす影響は全く違うのであるJ 26)。 つまり、 ハイテク産業においては規 模の経済性が強く働くため、 米国経済全体に技術波及効果という大きな正の外 部経済効果をもたらし、 米国内に高賃金雇用 を多く生み出し、 さらに高付加価 値生産を実現するというのがその内容である。 第二の理由は、 外国政府、 特に 日本やヨーロッパでは、 既にハイテク分野の競争力強化に積極的に政策介入し ているからである。 ハイテク産業のように不完全競争状態にある産業において は、 他国の政策介入の結果、 米国のハイテク産業が消滅する懸念があるためで ある。 こうした場合には自由貿易は米国経済再生の適切なアプローチとは言え ず、 管理貿易が 指向されることになる。 第三の理由は、 非農業輸入の約4割を
25)タイソンによるとハイテク産業とは通常研究開発に 普通以上の支出を行う か、 科学者や技術者を普通以上に 多く雇っているか、 あるいはその両方で特徴 を持つ産業のことを指す。 タイソンはこの定義を前提とし、 さらにゲリエリ=
ミラナの 分類に よ っ て以下の よ う な製 品 をハ イ テ ク製 品 と し て い る ( Tyson(1992), op.cit., Table 2.1より)。 化学製品(合成有機塗料、 農業用製品、
放射性物質、 ポリマーおよびプラスチック)、 医薬品(抗生物質その他特定製 品)、 発電機(タービン、 ピストン・エンジン)、 電気機器(電気機器その他 特定器具)、 データ処理機器(データ処理機器、 処理・貯蔵ユニット、 同部品) 電子事務機器(写真複写機、 その他)、 通信機器(電話器、 電送機器、 送信器 具、 特定機器、 部品、 付属品など)、 電子部品(集積回路およびマイクロアセ ンブリー、 半導体、 テレピ受像機、 特定部品)、 航空機(飛行機、 ヘリコプタ 一、 宇宙船、 反動推進エンジン)、 科学装置(電子計測・ 制御装置、 粒子加速 器、 光学装置)
26) ibid., p.254 (邦訳p. 397)
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占めるハイテク産業の競争力を高めることは、 貿易収支赤字の縮小にも貢献す るということである27J O 第四の理由は、 外国政府による輸入障壁や政策介入 によって競争上不利な立場に立たされているハイテク産業を政策的に支援する ことは、 米国内の保護主義圧力を軽減することが出来るからである。 つまり、
外国市場への米国企業の参入を政策的に支援することは、 米国への輸入を妨げ るという従来の保護主義と異なり、 貿易拡大的だということである。
このようにタイソンがハイテク産業分野における管理貿易を正当化する背 景には、 前で明らかにしたように、 貿易理論の新たな展開がある。 ハイテク産 業は、 従来の伝統的貿易理論が考えたような規模に関して収穫一定の産業では ない。 これらの産業では、 生産量が高まるに従って生産コストは低下し、 製品
27)タイソンは貿易収支全体の不均衡調整を目的とした管理貿易論者として認
識されることが多い。 こうした認識のもと対外収支不均衡調整論の枠内でタイ ソンの評価が議論されることになる。 例えば日本の輸入障壁問題や市場開放が 対外収支不均衡に及ぼす影響の問題等に関する議論がこれにあたる。 しかしな がら、 タイソンの主張は貿易収支全体の不均衡を問題視しているのではない。
タイソンが提唱する政策は、 あくまでハイテク産業の振興という産業政策的性 格のものであり、 この限りではハイテク産業部門の競争力低下とその結果とし ての同部門の貿易収支赤字を問題とする。 しかしながら貿易収支赤字全体の縮 小を第一目標にしているわけではない。 タイソン自身は貿易収支全体の不均衡 に関して「筆者の政策提案は、 米国の貿易赤字の救済策ではないことを強調し なければならない。 80年代の体験は、 貿易赤字が主としてマクロ経済現象で あるというオーソドックスな見方を裏付けている」と述べる( ibid., p.14 )。
確かにハイテク産業の競争力強化の結果、 賃金、 所得、 物価等のマクロ経済変 数に何らかの影響が及ぶ場合には貿易収支全体が影響を受ける場合も考えられ るだろう。 しかしながら対外不均衡調整策のーっとしてタイソンの見解を取り 扱うことは、 その背後にある米国経済再生という戦略的側面を見落とす危険性 を生じさせる。
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2章 戦略的貿易政策論
の質は向上する。 また技術進歩の成果は他産業にも波及する。 例えば、 半導体 の技術進歩はパソコンの性能を高める。 さらに、 規模に関して収穫逓増である ため、 市場構造は不完全競争となる。 したがって、 偶然の結果としてあるいは 何らかの人為的な政策介入によって、 他産業より先に生産の経験を積めば積む ほど、 競争上有利な立場に立つことが出来る。 さらに技術開発の側面で見ても、
価格シグナルを通じた現時点での最適な資源配分が最も効率的であるとする静 態的な市場メカニズムのもとでは十分な技術開発インセンティブが与えられな い。 しかしながら一端何らかの歴史的偶然性によって競争上の優位が与えられ れば技術革新の継起的な発生を通じてハイテク産業の競争優位は自己強化的に なる。 こうした点を考慮すれば、 ハイテク産業における比較優位は、 生産要素 の賦存状況ではなく、 各国の政府や企業の戦略的行動によって決定されること になると言えよう。 これらの産業では比較優位は所与ではなく、 人為的に作り 出されるものなのである。
つまり、 米国経済再生にとって重要な役割を果たすハイテク産業が米国内 に維持されるかどうかは、 米国政府の政策介入次第ということになる。 繰り返 しになるが、 新貿易理論で明らかになったように、 ハイテク産業はそれ自体の 性質一不完全競争、 動態的規模の経済ーにより歴史的経路依存性を示すた め、 いったん優位が確立されるとハイテク産業は持続的に自国内に維持され、
逆に一度劣位に至るとハイテク産業を自国から手放さざるを得ない状況になる。
このことからタイソンは通商面でのハイテク産業への政策介入の重要性、 つま り管理貿易論を主張するのである。
タイソンはその著書で半導体産業の事例を取り上げ、 半導体は米国が他|玉 に先駆けて開発したものであるにもかかわらず、 日本製半導体が世界市場を席 巻するに至った理由を検討している28)。 日本は自らの市場を閉鎖することに より、 半導体生産の経験を積んでコスト削減に成功するとともに、 米国企業に 対しては、 日本という成長市場への参入およびそれによるコスト引き下げの機
28) ibi・d., chapter 4.
-IEA 「「υ
2章 戦略的貿易政策論
会を失わせたことで損失を与えたとする。 また、 日本企業は、 日本で十分な 産経験を積んでコストを引き下げた後に、 米国市場にダンピング輸出すること
によって、 米国企業にダメージを与えたと指摘する。 その後、 日本市場におい て米国製半導体が浸透したのは、 1 986年の日米半導体協定(旧協定)とい う管理貿易政策が効果を発揮したのであり、 こうした管理貿易による圧力なし には、 日本の半導体輸入は増加しなかったと主張する。 このようにハイテク産 業においては自由貿易が最善の政策とは限らず、 圏内生産者の競争kの地位を 有利にするような政策介入が正当化されると、 タイソンは主張するのである。
3. 2. 2. 管理貿易の諸形態
以上の理由から米国はハイテク産業の貿易に関しては管理貿易アプローチ が適切であるとタイソンは主張する。 ではタイソンが提唱する管理貿易政策は どのような形態をとるのだろうか。 管理貿易に関する一般的な定義および合意 はないため管理貿易の形態には原則および実際の施行において様々なものが存 在する。 こうした形態の違いは、 第一に交渉の形態による。 多品目繊維協定 (M F A : Multifiber Agreement )とし1った多国間交渉(Multilateral Arrangement )をベースにした管理貿易、 日米半導体協定のような二国間交渉 (Bilateral Arrangement )をベースにした管理貿易、 そして301条およびス -}\-301条といった一方的措置(Unilateral Arrangement)という三つの形 態がある29)O 貿易政策に関する議論では通常、 二国間交渉では交渉に参加で きない国の利害関係が反映されないという問題および貿易摩擦が頻発するとし
29)多品目繊維協定はもともと綿製品を対象とした多国間協定である綿製品貿 易に関する長期取極(L T A Long-term Arrangement on Cotton Textile Trade 、
196 2年締結)をベースにし、 その規制対象が毛製品や人造繊維製品等にも 拡大されたものである。
ワムFhυ
う懸念から、 多国間交渉をベースとした政策の方が好ましいとされている。
第二に、 管理貿易形態の違いは政策対象の範囲の違いからも生じる。 この 場合マクロ経済というように全産業を政策対象とするか、 特定産業部門を政策 対象とするかで形態、の違いが生じる。 管理貿易政策のうち日米繕造協議(S1
1 Structural Impediments Initiative)が全産業を対象とするケースであり、 そ こではマクロ経済問題から流通障壁といった問題まで対象となる。 ー方、 特定 産 業部門を 対 象 と す る も の と し て はMOSS協 議( Market-oriented Sector-specific Talks =市場志向型分野別協議)や日米半導体協定といったもの を挙げることができる。 管理貿易的アプローチでは全産業を対象とするケース はあまりない。 貿易収支全般の均衡といった問題はマクロ経済的要因によって
説明されることが大半であり、 たとえ人為的に市場開放を達成して輸出が拡大 したとしても、 それがマクロ経済変数に影響を与えない限り為替レートの変動 によってそうした効果は相殺されるだけである。 つまり、 貿易収支全体を問題 にする場合は管理貿易的アプローチよりもむしろ、 マクロ経済変数に影響を及 ぼす政策の方が適しており、 逆に個別産業分野における貿易不均衡を問題にす る場合は管理貿易的アフローチが適することになる。
第三の違いは、 特定産業分野を対象とする管理貿易における違いであり、
貿易におけるルール形成を指向するか貿易の結果を重視するかによって生じる ものである30)o ルール重視か結果重視かという問題は管理貿易に関する議論 の中で最も激しく議論されているものである。 自国産業を産業政策や貿易政策
30)貿易の結果すなわち貿易量を重視する貿易政策は結果指向の貿易政策と呼 ばれる。 バグワティによると「管理貿易とは、 量的手段を用いて、 貿易におい て数量目標や制限を設定することを意味する。 それは結果志向型貿易とも呼ば れる」とし、 ルール志向型貿易の対極にあるとする。 ].Bhagwati, The World
Trading System at Risk, Princeton, New ]ersey: Princeton Univ. Press, 1991., p.101.
(佐藤隆三・ 小川春男訳『危機に立つ世界貿易体制- GATT再建と日本 の役割- �動草書房、 1 993年、 pp.121-122)参照。
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によって育成しようとする政府は結果指向の貿易政策を政策手段として重視す る傾向がある。 こうした結果指向の貿易政策の典型は輸出 規制(V E R :
Voluntary Export Restraints)であるが、 貿易の結果に直接的に影響を及ぼすと いう意味では反ダンピング法等もこれに該当する:!J、 o
貿易量の規制は他国からの競争に晒されている輸入競合産業において外|玉 からの輸入量に対する規制を目的として行われるいわゆる保護主義的なものだ った。 このタイプの貿易政策は米国への輸出自主規制という形を取ることが多 く、 1 956年の日本綿製品対米輸出自主規制以来、 鉄鋼産業、 民生用電機機 器、 工作機械、 輸送機械にまでその範囲を広げながら、 適用され続けている 32)O こうした輸入競合産業の保護を目的とした貿易数量政策とは対照的に、
日米半導体協定は日本による米国製半導体製品の輸入拡大を意図した管理貿易 政策である。 こうした政策は輸出自主規制の対極をなし輸入自主拡大(V 1 E
3 I )反ダンピング税(Anti -dumping Duties)や補助金相殺関税( Coun tervailing Duties)あるいは緊急輸入制限(Safeguard or Escape Clause)等の貿易救済法 (Trade Remedy Laws)は、 それ自身貿易数量制限的ではない。 それにもかか わらず貿易数量に影響を与える政策として分類される理由は、 こうした貿易救 済法の適用による輸入規制が契機となって輸出自主規制が行われるからである。
一般に輸出企業にとって輸出自主規制の方が貿易救済法による輸入規制よりも 有利であるため、 貿易救済法適用のための調査を停止するかわりに輸出国が輸 出自主規制を受け入れることが多い。
32)こうした輸出自主規制の他にも輸入競合産業において輸入数量を制限する 政 策 と し て、 特殊鋼に 適 用さ れ た市場秩序維持協 定 (0 M A : Orderly
Marketing Agreement)や輸入鋼材に対する反ダンピング手続きを迅速化するト リガ一価格制度(T P M : Trigger Price Mechanism)がある。 トリガ一価格制 度は数量規制ではなく価格水準に影響を与えるものであるが、 実質的には価格 水準の設定は輸入数量を減じるものであったため数量規制の一形態と考えられ る。
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: Voluntary Import Expand)と呼ばれる。 バグワティによれば「輸出自主規制 は特定国に対して輸出割当や規制を適用することにより特定製品の輸入を制限 するものである一方、 輸入自主拡大はあらゆる手段により特定国の特定財の輸 入を要求するものJ 33)である。
輸入自主拡大は輸出自主規制とともに保護主義の一手段として見なされ、
輸出保護主義と呼ばれることが多い:1t1)。 しかしながらタイソン等の管理貿易 論者は輸入自主拡大と輸出自主規制の聞には次のような点で大きな違いがある として両者を同様に保護主義とすることに反論する。 第一に、 輸入自主鉱大は 自国の生産者の直接的な保護を目的としたものではなく、 実際米国への輸出を 規制するものではない。 第二に、 貿易量を直接的にコントロールすること自体 を目的としているわけではないということである。 確かに貿易量を直接的にコ ントロールすることはあるが、 それは政策あるいは構造障壁によって輸出市場 が閉鎖されている場合に採用されるにすぎないとする。 こうした観点からする と、 輸入自主拡大は、 一方では自国内の保護主義的圧力を封じ込めることがで き、 他方では競争を拡大させ貿易量を増加させるため、 貿易を規制する保護主 義的政策というよりもむしろ貿易自由化策としての性質を備えるとみなされる。
以上の管理貿易の分類にしたがうと、 タイソンのように産業構造の高度化 を通じた米国経済再生を企図する戦略的貿易政策論者は、 ハイテク産業を軸と した二国間交渉形態での結果指向の管理貿易政策を指向する。 その理由は、 ま ず第一に、 GATTといった多国間ルール規定においてはハイテク産業の育成 策といった貿易の結果に重大な影響を及ぼす政策に関するルールが規定されて ない一方で、 ハイテク産業への政策介入が各国間で一般化しつつあるからであ る。 GATTのような多国間主義では、 現地調達、 政府調達あるいは反ダンピ
33) Bhagwati,].(1988), Protectionism, Cambridge, Mass.: MIT Press, 1988. (渡辺敏訳
『保護主義一貿易摩擦の震源- j]サイマル出版会、 1 989年、 PP.98-10 1 )
3 t1) í輸出保護主義」という用語はバグワティによる造語。 ibid., pp.98-101
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ング規制といった貿易結果に影響を及ぼすような政策に関するモニタリングが 不十分であり、 国際的に合意された競争のルールが形成されていない。 このこ とからタイソンは国際的なルールを明確にし、 強制できるような部門別管理貿 易協定を提唱する35;。
第二の理由は、 戦略的意図を持った閉鎖的市場を開放させるためには結果 指向の部門別管理貿易政策が有効だということである。 結果指向アプローチは、
外国市場の参入障壁が自国の産業育成を目的として行われ、 その結果、 米国の 重要なハイテク産業の競争的地位が脅かされるような場合に適用されることが 多い。 さらに301条およびスーパ-3 0 1条と いった 一方的制裁措置 ( unilateralism )や積極的相互主義(active reciprocity)が政策代替手段として 存在する場合には、 結果指向の管理貿易協定が採用される誘因を持つ。
第三の理由は、 結果指向の管理貿易論は輸出自主規制と異なり貿易肱大的 だというものである。 これまで行われてきた結果指向の管理貿易アプローチは 米国の輸入量を直接的に規制することを目的とし、 貿易量の縮小均衡をもたら すものだった。 これに対して戦略的貿易政策論の流れを汲む結果指向的アプロ ーチは、 米国からの輸出量を拡大させるという意味で貿易量の拡大均衡をもた らすと主張される。
第四の理由は、 GATTのような多角的交渉形態は交渉に多大の時間を費 やさねばならないためである。 交渉時点にでも継続されつつある他国の戦略的 介入政策は米国産業とりわけハイテク産業の将来の競争優位を脅かし続けてお り、 たとえ外国市場の閉鎖性が一時的なものであったとしても、 そこで生み出 された競争力は自己強化的なプロセスをたどるため長期的に継続し、 容易には 逆転することはできない。 こうした場合には、 GATTよりもむしろ二国間交 渉あるいは場合によっては一方的制裁措置形態による部門別交渉を通じて、
35; Tyson(l990), oþ.cit., p.150
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急、に解決にあたることが必要だとされる36)o
3. 2. 3. 米国経済再生のための管理貿易政策
こうした管理貿易論は、 繰り返しになるが貿易収支全体の均衡および衰退 産業の保護を目的としたものでなく、 ハイテク産業の輸出競争力を結果指向の 政策介入によって強化することで、 米国経済再生を目的としている。 こうした 観点からタイソンはハイテク製品の貿易を管理するための次のような政策提案 を行う。 第一は、 米国ハイテク製品の市場アクセスを拡大するための政策提言 であり、 広義の競争政策のうちに含められるものである。 つまりルールを指向 する管理貿易論の提唱である。 第二は、 反ダンピング法に関するものである。
そして第三は、 輸入自主拡大といった特定製品の市場参入が妨げられている場 合の政策であり、 ルールよりもむしろ結果指向の管理貿易の提唱である。 以下 では順に内容を見ることにしよう。
第一の政策提言は、 ハイテク産業における不完全競争という側面を重視す るものであり、 この場合、 競争政策の一形態、 つまり競争のルールを形成する ものとして管理貿易が提唱されることになる。 各国ごとに競争条件が異なって おり、 とくにハイテク産業では政策介入によって不完全競争状態が容認される ことが多いため、 米国製品が特定市場への参入に支障をきたす場合には、 米国
36)ただしタイソンはGATTの存在およびその機能を全面的に否定している わけではない。 タイソンは「グローバルなハイテク産業における市場開放には、
新たな多国間ルールや強制のメカニズムが必要になる。 それまでの問、 特定の 貿易国同士が特定産業についてひねり出した、 当座しのぎの二国間 ・ 多国間協 定が不完全ながら代役を務める」とし、 二国間交渉を通じた管理貿易協定は多 国間協定と対立する概念、ではなく、 むしろ補完的であるとする。 Tyson(1992),
oβcit., p.267 (邦訳p.414)参照。
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と当該外国市場との間の競争条件の格差を解消することが重要となるというこ とである。 何故なら人為的に市場参入を制限された米国ハイテク製品は、 市場 の規模から生じるメリットつまり規模の経済を享受することができない結果、
国際競争に生き残ることができす米国内からハイテク産業を喪失してしまうと いう懸念が生じるからである。
こうした競争政策の典型的なものとしては反トラスト政策を挙げることが できる。 この政策を最も理想的な形で効果的にするには各国間で反トラスト政 策の整合化を図ることであるが、 政治的要因によって妨げられる可能性が高い ため非現実的である。 こうした場合、 貿易相手国における競争を妨害する障壁 を特定し、 そうした障壁を当該国との交渉によって除去する方が効率的となる。
つまり、 多国間交渉よりもむしろ二国間交渉が選択されることになるのである。
198 9年より開始された日米構造協議がこの典型例である。
管理貿易政策が適用される第二の分野は反ダンピング政策である。 ヨーロ ッパ諸国や米国は日本からのハイテク製品輸入の急増に対して自国のハイテク 産業の保護を目的にますます反ダンピング法を活用しつつある。 従来、 反ダン ピング法は外国企業の反競争的行為を規制することを目的とし、 この目的にし たがうとダンピングに関する判定は圏内価格よりも輸出価格が下回るという判 定基準によっていた。 しかしながら自国のハイテク産業の保護という側面が重 視されるにつれてダンピングの判断基準も変化している。 つまり平均製造原価
( Below - cost pricing )という人為的に考案した基準によって低価格で輸出さ
れたものはすべてダンピングと認定されることになっている。 またヨーロ ッパ ではダンピング課税回避のための現地生産をもダンピングの対象にする動きが あり、 原産地規制等を含めた製品の国籍に関する厳しい定義をも適用しようと している:J7)。
経済学者は通常反ダンピング法に関しては懐疑的である。 何故ならば低価
37)このように多国籍企業の活動までも含めて通商摩擦の対象とする動きにつ いては、 本章第4節および第3章を参照されたい。
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格という消費者余剰を、 生産者を保護するため生産者余剰に転化するものと見 なすからである。 しかし、 タイソンは一度ハイテク産業の戦略性を認識すれば こうした議論は無効になるという。 ハイテク産業は米国経済に好ましい波及効 果をもたらすため、 平均製造原価を下回る価格での輸入は米国産業を脅かすも のとなるからであり、 またハイテク産業の場合、 固定費用が大きく学習効果に よる生産性上昇が重要な特徴であるため、 ダンピングによって被った米国ハイ テク産業の縮小は容易に逆転できないからである。 理想的には多国間交渉によ って政府および企業の行動ルールを形成することが望ましく、 とくに市場略 的価格設定を行う企業行動を規制することがその柱となるだろう。 しかしなが ら楽観的に見積もっても、 こうした行動ルールの形成には多数の年月を要する ことになるだろう。 こうした場合被害を被りつつある産業に対して一定の補助 金を拠出することが一つの代替案として考えられるが、 財政赤字の拡大といっ た財政支出の制約が存在する中では実行される可能性は低い。 タイソンは、 こ のような状況下では積極的な反ダンピング政策こそが米国ハイテク産業の逆調 を回復する手段であるとする。
タイソンによって提唱される管理貿易の第三の分野は、 特定国とりわけ 本を対象としたハイテク産業における輸入自主拡大協定の締結である。 この輸 入自主拡大協定は米国ハイテク製品の市場参入が人為的にあるいは構造的に妨 げられる場合に提唱される。 こうした場合にも基本的には多国間交渉によるル ールの形成によって市場アクセスを保証することが想定される。 しかしながら 前述のようにハイテク産業の戦略性を十分認識した交渉の場は存在せず、 たと え存在したとしても交渉に多数の年月を要する。 こうした場合、 構造障壁によ って参入が妨げられている外国市場に対して米国ハイテク製品に対する輸入数 値目標を明 記するような、 結果指向の協定を二国間で取り結ぶ必要が生じる。
伝統的な経済学者が、 輸入自主拡大が世界市場のカルテル化につながりGAT T体制の基盤を彫り崩すと懸念することをタイソンは認識している。 しかしタ イソンは、 特定国あるいは特定産業における市場の閉鎖性が明確に存在する場 合には、 とりわけ市場の閉鎖性が何らかの戦略性を持っている場合には、 競争
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という側面を留保してまでもこうした協定を推進すべきだとするのである。
以上のようにタイソンは、 政策介入によって貿易が左右され、 経済構造の 違いが各国の製造企業の競争を妨げている世界では、 管理貿易政策によって米 国企業とくに米国ハイテク産業のために外国市場のアクセスを改善し、 外国の 特定産業育成策の効果に対抗することは正当化できるとする。 こうした貿易政 策は多国間交渉によりグローバルなルール形成という形態をとることが最善で あるが、 GATTを通じた交渉には多数の年月を要するため、 ハイテク産業の ような自己強化的性質を有する場合には二国間交渉を含む迅速な政策遂行が重 要となる。
しかしながらタイソンは実際の政策効果に関しては懐疑的である。 例えば 米国の先端ディスプレー産業の衰退は他国の戦略的行動の結果ではなく、 米国 資本市場からの資金調達が不十分にしか行われなかったためだとして米圏内に も衰退の要因が存在することを指摘する38)o このようにハイテク産業の衰退 は対外要因だけでなく圏内要因も影響するという認識から彼女は「適当な修 を加えても、 通商政策によって、 わが国のハイテク企業が直面する競争力の危
機を解決することはできなしリ ユ9)ため、 「結局わが国のハイテク産業の運命 は、 外国との貿易戦争ではなく、 我々が圏内で行う選択次第なのだJ t1 0;とす る。 そのうえでタイソンは競争力政策を軸とする補完的な技術 ・ 産業政策の必 要性を提唱するのである。
3. 3. 競争力政策
競争力政策は、 米国において第二次世界対戦後、 自動車産業および鉄鋼産
3 8)
ibid., p.286 (邦訳p.441) 3 9)
ibid., p.286 (邦訳PP.440-441)
t1 0)
ibid., p.296 (邦訳p.456)
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業といった伝統的産業が急激に衰退する一方で、 米国経済にとって重要である ハイテク産業の競争優位をも喪失しつつあるとの認識に立つ。 競争力政策はこ うした衰退傾向を政策介入によって逆転させることで米国経済再生をはかろう とする政策の一つである。 競争力政策においては競争力は「ある国が自同氏の 実質所得を維持 ・ 拡大させる一方で、 自由 ・ 公正の市場条件のもとで国際市場 のテストにあった財やサービスを生産する度合いをいう」と定義されている
4 1 )。 競争力政策は、 このように定義された競争力の強化を、 第一に米国内で の物的資本および人的資本への投資を拡大させ、 第二に長期的な生産性上昇傾 向を生みだし、 それが世界市場において反映されながら、 第三に最終的に米国 民の生活水準を向上させる、 というプロセスで達成しようとするものである。
競争力政策は重要技術の研究開発投資促進、 インフラ基盤の強化および労 働者の育成および教育といった広範な生産基盤の形成を目的とした政策から、
さらには通貨 ・ 金融といったマクロレベルでの政策までをも含むものである。
こうした点から競争力政策は米国経済再生のための長期的および構造的取り組 みであり、 1 980年代前半の産業政策論および管理貿易論のように特定産業 の育成および強化を指向する政策介入といった性 質は幾分弱いと考えられる。
しかしながら競争力のある生産基盤の形成という政策の方向性は管理貿易論と 対立するものではなく、 むしろ相互補完的な役割を果たすと理解することがで きる。 財政赤字によって公共投資を柱とした圏内政策遂行上の制約が存在する 場合や短期的な政策対応が必要な場合には管理貿易を含む対外経済政策が米|玉
41) President's Commission on lndustrial Competitiveness, Global Comþetition:The New Rωlity, Washington DC: U.S.G.P.O., 1985., p.6このヤング ・ レポートによる競争力 の定義は米国政府関連の競争力委員会の中では一般的となっており、 クリント ン政権期にまで引き継がれている。 しかし実際に提言された政策の重点の置き 方は多様である。 これは競争力の定義が広義であることと、 競争力政策の政策 手段が多様であることにその要因があると考えられる。 つまり現実の経済状況 によって政策手段の重点の置き方が変更される。
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経済再生のための補完的政策として重要視されることになる。
以下ではレーガン政権以来の競争力強化策を概観し、 クリントン政権下で の競争力政策の特徴を競争力政策評議会の見解を中心に示したい。 その際クリ ントン政権下では競争力政策を軸に圏内政策が再編されようとしていること、
そして財政赤字という圏内政策遂行上の制約が存在する中で、 競争力政策も通 商政策に重点を移しつつあることを示そう。
3. 3. 1. 1980年代の競争力政策
1 980年代前半の米国景気の回復および、 高金利 ・ ドル高による米国産 業の競争力低下を背景に米国の貿易赤字が急拡大したため、 米国の競争力に関 する議論が高まった。 これをうけて83年6月に、 当時のレーガン政権は「産 業競争力に関する大統領諮問委員会(委員長:ジョン ・ ヤング、 ヒューレッド
=パッカード社長) Jを設置した。 当委員会は1年半の討議を経て、 8 5年通 称『ヤング ・ レポート』を提出したt12)。 この報告書は80年代後半以降の米 国の政策課題について政策立案者と米国民に勧告を行うものであり、 米国の産 業競争力、 特にハイテク産業の国際競争力の低下に対する危機感を強調し、 米 国は技術開発の促進・ 保護、 資本コストの逓減、 労働力の質の向上を図ると同 時に通商政策を重視することによって米国の競争力を高めなければならないと 指摘している。 しかし当時のレーガン政権は市場メカニズムを重視する立場を 明らかにしており、 産業政策的色彩が強い競争力政策を実際の政策として展開 することを避けた。 しかしプラザ合意以降の為替レートによるドル高調整にも かかわらず、 80年代後半以降も貿易収支赤字が拡大し続けたため、 再び焦点
t1 2) ibid. なお当委員会は86年に民問機関として競争力評議会に改編されてし
る。 なお大統領諮問委員会は再び結成され、 9 2年3月には別の組織である競 争力政策評議会が設立されている。
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が当てられることになる。
88年の大統領選挙を控えて、 持続的な巨額の貿易収支赤字および競争力 問題が再び争点となる可能性が高まった。 民主党の有力候補として注目されて いたクオモ氏は学会、 産業界からなる「貿易と競争力に関するクオモ委員会」
を組織し、 88年秋『クオモ委員会レポート』を発表した43)O これによると、
米国経済は貿易赤字の拡大、 対外債務の増大、 経済成長率の低下、 技術革新に おける優位性の低下、 輸入依存度の上昇、 生活水準の低下等にみられるように、
深刻な危機に直面している。 そのため、 米国は米国経済の成長と繁栄が国際経 済の成長と繁栄によってもたらされるという戦後一貫してみられた認識は維持 しつつも、 世界最大の消費国ではなく最大の生産国となるべく、 外交、 国内経 済政策を見直す必要に迫られている。 具体的には、 外交面では日本およびヨー ロッパ諸国に相応の負担を求め、 通商政策面では中南米を中心とする発展途上 国の経済成長と生活水準の上昇を支援することによってこれらの国の購買力を 上昇させるのと同時に、 先進国に対しては当該市場への米国製品の市場アクセ
スを確保するために厳密な相互主義を適用する。 さらに米国製品の競争力を阻 害せず、 かっ米国の威信を低下させない範囲での為替レートの安定化も重要で あるとしている。 内政面では、 財政赤字の削減、 教育 ・ インフラ投資の拡大、
産業支援策の導入、 科学技術の重視などを提案している。
8 6年MITは第二次大戦後の主要課題を検討する調査委員会を発足させ、
米国経済の将来を脅かすほどに深刻だと思われる生産性上昇率の低下問題につ いて調査研究を行った。 当委員会は、 2年間にわたり自動車、 化学、 民間航空
4 3) The Cuomo Commission on Trade and Competitiveness, The Cuomo Commmission Repoは� A New Ameηcan Formula forαStrong Economy, New York: Simon and Schuster,
1988.のちにクオモ委員会は「競争力に関するクオモ委員会」と改称し、 1 9 9 2年にも次の報告書を発表している。 The Cuomo Commission on Competitiveness, America's Agenda:・ Rebuilding Economic Strength, New York:
M.E.Sharpe, 1992.
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2章 戦略的貿易政策論
機、 民生用電子機器、 工作機械、 半導体 ・ コンピュータ ・ 複写機、 鉄鋼、 繊維、
以上の8分野の製造業について調査検討を行った。 従来の生産性に関する研究 のようにマクロ経済中心の分析ではなく、 企業内組織、 企業経営、 事業環境と いったミクロ面を重視している。 89年に発表された報告書では、 巨大な圏内 市場、 科学技術の優位、 多額な資本、 優れた教育を受けた労働者や経営者によ って支えられていた戦後の米国経済の優位性が、 内外経済環境の変化に伴い次 第に失われ始めたという認識に立っている"") 。 特に製造業分野ではこうした 傾向は顕著である。 こうした生産性の低下は時代遅れの戦略、 近視眼的な経'貼 視点、 製品開発および製造プロセスにおける技術の弱さ、 人的資源の軽視、 労 使協調体制の欠如、 対立的な政府と民間の関係といった6点が原因となってお り、 これを改善することが生産性の継続的な向上に不可欠であるとしている。
以上80年代の競争力に関する主な諸提言を見てきたが、 これらは部分的 に政策に反映されることはあったものの、 レーガン ・ ブッシュの共和党政権期 には基本的に政府が民間の経済活動に介入することへの嫌悪感が強く、 こうし た提言が効果的な形で政策に取り入れられ、 米国産業の競争力強化に向けて政 府が指導力を発揮することはなかった。
3. 3. 2. クリントン政権下の競争力政策
1 992年に発足したクリントン政権は、 財政赤字削減などこれまでにl口 避されてきた問題に初めて本格的に取り組む一方、 競争力強化を強く指向し米 国の基本戦略と位置づけた。 実際、 クリントン政権の選挙公約あるいは政権後 に打ち出した経済政策全般を見ると随所に競争力強化への提言が盛り込まれて
"")
M.L.Dertouzos et al., Mαde in America, Cambridge and Mass.: MIT Press, 1989.
(依田直也訳�M a d e i n A m e r i c a -アメリカ再生のための米 日欧産業比較- �草思社、 1 990年)
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おり、 レーガン、 ブッシュ政権とは異なって競争力政策が実際の施行に移され ていることがわかる。 こうしたクリントン政権の競争力政策は、 競争力政策評 議会の提言をもとにしたものである。 この意味で競争力政策として競争力政策 評議会の報告書を取り上げる意義があると思われる。 そこで、 クリントン政権 の競争力政策の基本形をなすと考えられている競争力政策評議会の報告書の内
容を検討することにしよう。
競争力政策評議会( Competitiveness Policy Council )は88年の包括通商・
競争力法に基づき米国産業の生産性および国際競争力向上を目的とした特定の 政策について勧告を行う機関であり、 国際経済研究所のバーグステンを議長と している11 5)。 競争力政策評議会は大統領競争力委員会から民間団体へと衣 えをした競争力評議会や民主等系のクオモ委員会とも異なり、 議会の立法に基 づいて設置された官民双方からなる独立の連邦諮問委員会であり、 大統領と議 会の両方に報告書によって競争力に関する問題の政策勧告等を行うことになっ ている。 このことは特に立法府と行政府が対立する構図にはまりやすい米国政 府においては重要な意味をなす。 例えばレーガン政権やブッシュ政権下での競 争力に関する各種の政策提言は包括通商・ 競争力法の可決という形である程度 具体化されることになった。 当時の共和党政権に対し議会は民主党が多数を占 めており、 包括通商・ 競争力法の可決にあたっては、 その対立が先鋭化し最後 には大統領の拒否権をも乗り越えて両者の妥協の上に成立するという事態まで 生じた。 つまり、 包括通商・ 競争力法は超党派で競争力問題に取り組もうとす る意思の表れであり、 これに基づいて設置された競争力政策評議会もこの意味 では共和党、 民主党や行政府や立法府といった双方を網羅して米国全体として の競争力問題への取り組みを表していると考えてもよいと思われる。 また 競争力政策評議会はその政策路行可能性や政策提言の重点の置き方を除けば、
ヤング ・ レポート以来の競争力政策のスタンスを踏襲している。 例えば競争力
11 5:後にタイソン経済諮問委員会委員長も大統領の指名をうけ競争力政策評議 会にメンバ一入りしている。
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