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米国経済再生論と戦略的通商政策 : 政策介入と市場 メカニズムの相克

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米国経済再生論と戦略的通商政策 : 政策介入と市場 メカニズムの相克

立石, 剛

九州大学経済学研究科経済学専攻

https://doi.org/10.11501/3122876

出版情報:Kyushu University, 1996, 博士(経済学), 課程博士 バージョン:

(2)

第3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

一日米通商摩擦を事例としてー

1 980年代の対米直接投資の拡大は、 米国経済再生の担い手が米国企業 なのかあるいは外資系企業なのかを問う対米直接投資論争を引き起こした。 そ こでは多国籍企業の国籍つまり、 多国籍企業は本国経済と密接な関係にあるの か、 あるいは国籍と関係のないグローバルな経済主体なのかという問題が問わ れたのである。 ライシュはこの論争において米国経済再生の担い手は米国の労 働者であり、 こうした労働者の労働能力の向上のために投資する企業であれば 国籍を問う必要はなく、 外資系企業であってもよいとした。 一方、 タイソンは 米国企業こそ米国経済再生の担い手であり、 外資系企業ではないとした。

対米直接投資論争は企業活動の国際化という現実を反映したものである。

各国企業は貿易だけでなく直接投資を通じた競争を拡大させているのである。

直接投資を通じた海外事業活動の拡大によって、 相手国市場への参入方式は、

輸出から直接投資を通じた海外生産や海外販売へと重点を移している。 こうし た企業活動の国際化は日米経済にもあてはまる。 日米多国籍企業による進出先 国での販売は輸出を大幅に上回る一方で、 日米間貿易の大半も多国籍企業の海 外事業活動にともなう企業内貿易となっている。 日米企業は貿易を中心とした 競争関係から直接投資を軸とした競争関係へと移行しているといえようJ)。

一方、 日米間での貿易および直接投資は不均衡状態にある。 日米間の貿易 の大半は企業内貿易となっているが、 その大部分を日本多国籍企業による企業

J'ただし、 日本多国籍企業は米国多国籍企業のように必ずしも積極的に国際化 を進展させたとは言えない。 日本多国籍企業の対米進出は輸出自主規制によっ て促進されたのは周知のことである。 これに対して米国多国籍企業はかなり以 前から積極的に多国籍化を果たしている。 このように多国籍化の経緯は異なる ものの、 結果的には企業活動の国際化が進展していると言えよう。

- 107 -

(3)

内貿易が占めている。 また日米多国籍企業による現地販売においても日本多国 籍企業による現地販売が米国のそれを大幅に上回っている。 企業内貿易と現地 販売における日米間の不均衡は、 対日直接投資が制限されているために生じる と米国側は指摘し、 通商問題を直接投資の分野にまで拡大させようとしている。

こうした直接投資分野の通商問題化は、 単に直接投資に関するルール形成 を目的とするものではない。 米国側は新貿易理論の理論的成果を加えて、 米国 企業の競争力強化を図るという戦略的意図を持っているのである。 米同側は、

直接投資に関する日米間の非対称性によって日本多国籍企業の競争力が強めら れ、 逆に米国多国籍企業の競争力が弱められ、 その結果、 米国経済の厚生が低 下するとの認識を持っている。 そのため米国側は直接投資分野にまで政策介入 の範囲を広げ、 米国多国籍企業の競争力強化を図ることになるのである。 こう した政策は戦略的貿易政策の直接投資版である戦略的投資政策の展開といえよ う2)O 本章では、 自国企業の多国籍化という現実に直面して、 米国側が戦略的 貿易政策を直接投資分野にまで拡大し、 戦略的投資政策を展開していることを 示し、 これが米国経済再生とどのように関連するのかを検討することを目的と する。

ここでは以下の順で、 戦略的投資政策論の内容を検討する。 まずはじめに、

戦略的投資政策論が提唱されるに至った事実背景を確認する。 ここでは、 企業 内貿易および対外事業活動の規模に焦点を絞って、 日米企業の競争関係が貿易 から直接投資に重点をおいたものになっていることを示す。 さらにこうした企 業内貿易や現地販売は日米間では不均衡状態にあることを示し、 米国側はこの ことから直接投資分野にまで通商問題の範囲を広げようとしていることを明ら かにする。 こうした事実確認を行う一方で、 戦略的投資政策の介入根拠を理論 レベルで確認する。 そこでは戦略的投資政策論が新貿易理論をその基礎に持つ

2 :このように米国多国籍企業を政策的に支援することで米国経済再生を図ろう とする立場は、 先に見た対米直接投資論争でのタイソンの立場に近い。

(4)

3章 戦略的投資政策にも とづく米国経済再生論

ことを示す。 そのうえで、 米国多国籍企業による対日直接投資が人為的に阻 され、 しかも日本多国籍企業に対して戦略的効果を生み出したことを政策介入 の根拠としていることを指摘する。 そして最後に、 以上の現状に対して、 米国 では管理貿易論のいわば直接投資版である戦略的投資政策が実際に、 日米半導 体協定という形で現れつつあることを示す。

1 . 日米関の貿易と直接投資

戦略的投資政策を主張する見解は、 あくまで米国多国籍企業の競争力強化 を重視する。 そこでは進出先国で生産もしくは販売された財やサービスをも競 争力強化の目安とする。 このような論理はどのようにして導き出されるのだろ うか。 その根拠として、 戦略的投資政策論者は次の二点を指摘する。 第 一に 日米企業の競争関係は貿易よりもむしろ直接投資を通じて行われていること、

第二に、 直接投資を通じた米国企業の日本市場参入が構造的要因によって妨げ られていること、 である。 以上のことから、 米国側は直接投資問題を通商摩擦 のなかに明示的に取り込もうとしている。 本節では戦略的投資政策論が提唱さ れる背景となった以上の二つの事実内容を統計上で確認し、 そこから米国側が どのような問題点を指摘しようとしているか明らかにしたい。

1 . 1 . 直接投資と企業内貿易

日米経済は伝統的な貿易を通じた競争関係から直接投資を通じた競争関係 へと移行している。 例えば米国多国籍企業による進出先国での販売は、 米国か らの輸出を大幅に上回っており、 例えば1 992年時点で米国多国籍企業は対 日輸出の約3倍を日本で販売している。 加えて、 米国からの輸出の大半も米|玉 多国籍企業の海外事業活動にともなう企業内貿易となっているのである。 一方、

- 109 -

(5)

日本多国籍企業と米国多国籍企業の問にはそのパフォーマンスに大きな差が見 られる。 こうした事実から、 米国側は通商問題を貿易から直接投資に移行させ ている。 以下では企業内貿易と現地販売の側面から米国商務省経済分析局のデ

ータを用いて確認しよう。

1 . 1 . 1 . 企業内貿易の拡大

日米貿易の大半は企業内貿易となっている。 例えば、 1 992年時点で、

日米間貿易の70%が企業内貿易であり、 そのうち米国から日本への輸出の6 9%、 日本から米国への輸出の70%が企業内貿易となっている(表3- 1 )

工 。 一方、 米国の対世界輸出に占める企業内貿易の割合は、 輸出の33%、 輸 入の41%を占めている。 このように米国の貿易に占める企業内貿易の比重が 大きく、 とくに日米間貿易では企業内貿易の大きさが際だっていると言えよう。

さらに企業内貿易に焦点を絞ってみると、 米国から日本への多国籍企業内の輸 出と日本から米国への多国籍企業内の輸入との間には、 大きな不均衡が存在す ることがわかる。 1 992年時点で米国から日本への企業内輸出(米国多国籍 企業親会社から日本子会社への企業内輸出と在米日本多国籍企業子会社から日 本親会社への輸出の合計)は総額326億ドルであり、 日本から米国への企業 内輸入(在日米国多国籍企業子会社から米国親会社への輸入と日本多国籍企業 親会社から在米子会社への輸入の合計)は679億ドルとなっており、 353 億ドルの輸入超過となっている。 ところで日米間の貿易不均衡総額は494億

:i)ここでの外資系および日本多国籍企業の企業内貿易は出資比率10%以上の 少数所有子会社との貿易をも含むため、 若干過大評価されていることに留意さ れたい。 しかし、 外資系および日本多国籍企業の所有形態の大半は多数所有形 態であるため、 企業内貿易としての傾向は把握することができる。

(6)

表3 -1 米国貿易と企業内貿易1; (1992年) (単位: 1 0 0万ドル)

輸 出 輸 入

対世界貿易 448,166(100.0先) 532, 663 (100. 0児) 企業内貿易 146, 454( 32.7児) 219,431( 41.2%)

米国多国籍企業に (親→子) (親←子) よる企業内貿易 99, 140( 22.1児) 85,139( 16.0先)

外資系多国籍企業 (子→親) (子←親) による企業内貿易 47,314( 10.6児) 134,292( 25.2先) 対日本貿易 47,057(100.0先) 96,412(100.0見) 企業内貿易 32, 608( 69.3先) 67,902( 70.4児)

米国多国籍企業に (親→子) (親←子) よる企業内貿易 7,401( 15.7児) 2, 003 ( 2. 1先)

日本多国籍企業に (子→親) (子←親) よる企業内貿易 25,207( 53.6先) 65, 899 ( 68. 4先)

(注1)米国多国籍企業の企業内貿易は多数所有子会社と本国親会社との間の 貿易に関するデータであり、 外資系および日本多国籍企業の企業内貿易は出資

比率10%以上の少数所有子会社と本国親会社に関するデータである (出所) U.S.Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, U.S.Direct Investment Abroad: Operations 01 U.s. Parent Companies and Their Foreign Affiliates,

Preliminaη1992 Estimates, June, 1994., U.S.Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, Foreign Direct Investment in the United States: 1992 Benchmark Survey, PreliminaηI Results, August, 1994.

- 111 -

(7)

ドルの米国の入超であり、 実にその7 1 %を企業内貿易の不均衡が占めている ことになる。 このように日米両国においては企業内貿易が貿易の主要なチャネ ルとなっており、 多国籍企業の経営戦略が貿易の方向に影響を及ぼ、 日米貿易 収支不均衡の大半を形成しているのである。

このように企業内貿易が日米間の貿易の主要部分となっているが、 この企 業内貿易の大半を日本多国籍企業が支配しており、 米国多国籍企業はほとんど 企業内貿易を支配していない。 例えば、 1 992年時点で、 米国から日本への 輸出のうち米国多国籍企業による企業内貿易が占めるシェアは約1 6 %、 円本 多国籍企業のシェアは54%と、 米国の約3倍にものぼっている。 日本から米 国への輸入に占める日本多国籍企業のシェアは68%と大きく、 これに対して 米国多国籍企業が占めるシェアは2%にすぎない。

日米間の企業内貿易の大半を日本多国籍企業による企業内貿易が占めてい るのに対して、 米国多国籍企業は日本以外の地域との間の貿易では異なるパフ

ォーマンスを見せている(表3 - 2)。 対世界企業内貿易のうち輸出では米l玉 多国籍企業による企業内貿易の規模が大きいが、 輸入では外資系多国籍企業内 貿易が主要なチャネルとなっている。 対ヨーロッパでは、 輸出では米国多国籍 企業が支配的であるが、 輸入に関してはヨーロッパ企業の企業内貿易が大きい。

ラテンアメリカおよびアジア太平洋諸国(日本を除く)との間の企業内貿易は、

途上国多国籍企業の規模が小さいこともあってか、 その大半を米国多国籍企業 が行っている。 いずれにせよ、 日米間では日本多国籍企業の企業内貿易が支配 的なチャネルとなっていることは確認できる。

次に日米多国籍企業による日米間の企業内貿易の構造を産業別 ・輸出入別 に詳しく見ることにしよう(表3 - 3)。 これによると卸売部門における日本

(8)

表3-2 米国 における企業内貿易1; (地域別) (1 9 9 2年)

(単位: 1 0 0万ドル)

地 域 輸 出 輸 入

対世界 米よ国る企多業国籍内企貿業易に (親99→1子40) (親←子) 85,139 外に資よ系る企多業国籍内企貿業易 (子→親) f( 13←親29)

47.314 4, 292

米国/外資系 2. 10 0.63

対日本 米よ国る企多業国籍内企貿業易に (親→子40) (親←チ)

7. 401 2, 139

よ 日本 る企多業国籍内企貿業易 に (子→親) (子←親)

25.207 65.899

米国/日本 0.29 O. 03

対ヨーロッパ 米よ国る企多業国籍内企貿業易に (親→子24) ( 親 r)←- 32.245 13, 114 欧によ州系る企多業国籍内企貿業易 (子→親 ) (子←親)

10.304 37,753 米国/欧州 3. 13 0.35 対ラテンアメリカ 米よ国る企多業国籍内企貿業易に (親→子 ) (親←子)

14.123 14,763 ラに米よ系る企多業国籍内企貿業易 (子→親 ) (子←親)

1. 533 5. 781 米国/ラ米 9. 21 2. 55 対(ア日本ジアを太除平く洋 ) 米よ国る企多業国籍内企貿業易に (親→子3) 1 (親←子 )

11.317 15, 446 アによジるア企多業国籍内企貿業易 (子→5親,29) 3 子←親,08( )

10.080 米国/アジア 2. 14

(、注1 )米国多国籍 企業の企業内貿易は多数所有 子 会社と本国親会社との間の 貿易に関するデータであり、 外資系多国籍 企業の企業内貿易は出資比率10%

以上の少数所有子会社と本国 親会社に関するデータである (出所)表3- 1に同じ

- 113 -

(9)

表3-3

全産業

製造業

卸売り

その他

米多国籍企業の対米企業内貿易1; (産業別) (1 9 9 2年) (単位: 1 0 0万ドル)

米国多国籍企業の企業内貿易 日本多国籍企業の企業内貿易

輸 出 輸 入 輸 出 輸 入

米親→日子 米親←日子 米子→日親 米子←日親

(先) (見) (先) (先)

7, 401 I 100 2,003 I 100 31, 856 I 100 75,392 I 100

2,389 I 32.3 1, 442 I 72.0 4,797 I 15.1 12,237 I 16.2

4,957

:

67.0 (0) 25,282

;

79.4 62,966

:

83.5

56 I O. 8 (0) 1, 777 I 5. 6 188 I O. 3

(注1 )米国多国籍企業の企業内貿易は多数所有子会社と本国親会社との間の 貿易に関するデータであり、 外資系多国籍企業の企業内貿易は出資比率10%

以上の少数所有子会社と本国親会社に関するデータである (D)非公開

(出所)表3-1に同じ

(10)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

多国籍企業の企業内貿易(輸出入)のシェアが際だって大きいことがわかる1 0 199 2年時点において日本多国籍企業による米国子会社から日本親会社への 企業内輸出の79%を卸売部門が占めている。 こうした卸売部門による輸出は 主に農産物 ・ 原料、 石油を除く鉱物・ 金属、 機械設備および周辺機器の3っか ら構成される(表3 - 4)。 これは日本の商社の役割が大きいと考えられてい る5)O 一方、 日本多国籍企業による日本から米国への企業内輸入の84%を卸 売部門が占めており、 その製品内訳を見ると自動車および関連設備と電気製品 が過半を占めている。 これは日本の自動車メーカーや電機メーカーの販売子会 社を通じた取引が多いことを反映していると言えよう。

ここでもう一度、 日米間の企業内貿易の特徴を確認しておこう。 第一に、

日米間貿易にしめる企業内貿易の割合がかなり高いこと、 第二に、 企業内貿易 は米国の輸入超過の大半の要因となっていること、 第三に、 こうした企業内貿 易の大半を日本多国籍企業の企業内貿易が占めていること、 そして第四に、 日 本多国籍企業の企業内貿易のほとんどが卸売部門によって行われていることで ある。 企業内貿易に関する以上の特徴から、 米国は通商政策においても貿易か ら多国籍企業の企業活動そのものに関するものにまで、 政策範囲を拡大させる ことになる。

tt)日本多国籍企業の企業内貿易の大半が卸売部門によって行われているという 特徴はヨーロッパ多国籍企業およびカナダ多国籍企業との比較においても確認 できる。 ヨーロッパ多国籍企業の場合、 企業内貿易に占める卸売部門のシェア は、 輸出の4O. 0%、 輸入の48. 3 %を占めている。 カナダ多国籍企業の 場合、 輸出の2O. 6 %、 輸入の3O. 2%である。 U.S.Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, Foreign Direct lnvestment in the United States:

1992 Benchmark Survey, Preliminary Results, August, 1994., Table G-23, Table G-29.

5) U.S. Congress, Office of Technology Assessment, Multinationals and the National lnterest: Playing by Different Rules, Washington DC: U.S.G.P.O., 1993.

- 115 -

(11)

表3-4 米国における日本多国籍企業卸売部門の企業内貿易1 (製品別) (1 9 9 2年) (単位: 1 0 0万ドル)

輸 出 輸 入

米子 →日親 米子← 日親

総 言十 25.282 I 100.0先 62,966 I 100.0%

自動車及び関連設備 3, 749 I 14. 8児 22, 799 I 36. 2先

専門・ 商業設備2) 19 9

0.8児 9, 404

;

14. 9児

石油を除く金属鉱物 6. 342 I 25. 1児 4.047 I 6, 4児

電気製品 847 I 3.4児 17,675 I 28. 1 %

機械設備・ 周辺機器 6,626

;

26.2先 4,020

;

6.4先

農産物・ 原料 7. 519 I 29.7児 3.083 I 4.9先

(注1) 企業内貿易は出資比率10%以上の少数所有子会社と本国親会社に関 するデータである

(注 2) 専門・ 商業設備(Professional and commercial equipment and supplies) は、 写真機器、 事務機器、 コンピュータ及び周辺機器、 商業設備、 医療機器等 である

(出所) 表3 - 1に同じ

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3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

1 . 1 . 2. 直接投資を通じた海外生産 ・ 販売の拡大

企業の外国市場参入の手段は、 輸出、 海外子会社による進出先国での現地 生産 ・販売、 そして第三国で生産されて製品を当該国へ輸出するという形態が 考えられる。 多国籍企業は次のような場合、 輸出から現地生産 ・販売に切り替 えることが多い。 第一に、 輸出に関する何らかの障壁が存在する場合である。

例えば、 政策介入による関税あるいは輸出自主規制等の人為的な参入障壁が形 成された場合、 企業は輸出から現地生産 ・販売に参入手段を切り替えることに よって、 市場を確保しようとする。 1 980年代後半の日本自動車産業の対米 直接投資がこのケースである。 第二に、 現地の生産要素を活用しようとする場 合である。 これはアウト ・ ソーシングによる本国市場への逆輸入を想定すれば よい。 米国企業への対メキシコ進出のケース、 あるいは日本企業がアジアで米 国向け製品を生産するケースがこれにあてはまる。

米国企業は既に海外子会社による現地生産 ・販売を長年にわたって行い 輸出に比べてその規模を拡大させてきた。 つまり、 米国多国籍企業は現地市場 指向の海外進出を果たす傾向にある。 フォードやGMなどの自動車産業は1 9

50年代後半にヨーロッパに進出し、 その時点で既に輸出による参入の2倍程 度を海外子会社を通じて販売してきた。 その後、 テキサス ・ インスツルメント やIBM等の企業も直接投資を通じた市場参入を果たし、 その規模は米国から の輸出の約3倍に上っている。 1 992年時点で、 こうした米国多国籍企業に よる海外子会社を通じた販売は米国からの輸出の3倍の規模に達している(図

- 117 -

(13)

3 -1) 6) 0 このように米国のリーデイングインダストリーに属する企業の 半は、 多国籍的展開を果たしており、 その規模は輸出を通じた市場参入をはる かに上回っていることがわかる。

一方、 日本多国籍企業の場合はどうだろうか。 日本多国籍企業は米同多同 籍企業に比べて海外子会社による販売に依存する度合いが輸出よりも低い。 輸 出に対して海外子会社を通じた販売は約2倍程度である。 日本多国籍企業によ る海外直接投資は1 970年代前半にアジア向け直接投資が拡大したが、 その 流れが本格化したのは1980年代後半であった。 それまでは日本企業は直接 投資よりもむしろ輸出を通じた市場参入が主要な手段であった。 しかし198

5年のプラザ合意以降は円レートの上昇によって、 直接投資が急拡大した。 こ の直接投資はアジア向けと米国向けに行われた。 特に米国向け直接投資は貿易 摩擦とくに輸出自主規制への対策として行われた側面が強く、 日本多国籍企業 は海外子会社を通じた販売の比重を高めることになった。 輸出自主規制という 人為的な参入障壁がなければ、 日本多国籍企業は為替レートの急激な変動がな い限り、 輸出による市場参入を選択しただろう。

このように、 日本多国籍企業も米国多国籍企業もその歴史的経緯は異なる が、 輸出よりもむしろ海外子会社を通じた販売の比重が高いことが確認できる。

しかし日米間に分析の対象を絞ると、 次の特徴が浮かび上がってくる。 すなわ ち、 米国多国籍企業は日本以外の地域では輸出よりもむしろ海外子会社を通じ た市場参入を果たしているにもかかわらず、 日本市場においては海外子会社を 通じた市場参入に依存する度合いが低いことである。 米国多国籍企業による海

6)米国からの輸出は、 米国多国籍企業の親会社から海外子会社向けの企業内輸 出を含んでおり、 一方、 海外子会社の販売には米国親会社向けの輸出が含まれ ている。 そのため単純な比較には注意が必要である。 しかしながら後に「所有 ベースの貿易収支」として検討するが、 その結果を見ても海外子会社を通じた 販売は米国からの輸出による販売を大幅に上回っている。

(14)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

図3 - 1 米国からの輸出と米国多国籍企業による現地販冗 ( 1 )対世界

(億ドル)

2

αillT- 一 -1一 一 一T

15α:0 iαm 5α:0

ー 一 一 一 一 一l一 一 一一 一一一 一 一1一 -1

læ21æ3193419851笥619871鰯læ91蛾199119921993

剛1海外子会社による販売凶輸出 ( 2 )対日本

(億ドル)

3

α:OT一 一一l一 一 一一一一一 一 一1--- ì --- T一一 一 一 -, -- -T - - -r ---1 ---l

2

αぉ

一 一一

;

一 一 一 ' 一 一l

11m

læ2郎防4 1鰯l蛾læ71æ81æ91剣199119921993

[1醐日本子会社による販売的輸出

(Ulffi) U.S. Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, Survey 01 Current Business, various issues., U.S. Department of Commerce, International Trade Administration, U.S. Foreign Trade High Lights 1993, Washington DC: U.S.G.P.O., 1994.

- 119 -

(15)

外子会社を通じた販売は輸出の3倍にも上っているが、 日本市場においては1 . 5倍程度でしかない。 一方、 日本多国籍企業は米国市場に参入する際、 在米子 会社を通じた販売に依存している。 その規模は輸出に比して3倍程度になる。

このように、 海外子会社を通じた日米多国籍企業の販売は輸出に比して大きい ものとなっており、 市場参入は輸出よりもむしろ直接投資を通じて行われてい ると考えられるが、 その一方で、 日米関においては異なる傾向を見せている。

2. 直接投資の非対称性と日米通商問題

企業内貿易および海外子会社を通じた販売に関する分析から、 次のことが 明らかになった。 第一に、 企業内貿易の拡大および市場参入手段としての海外 子会社による販売の比重の拡大から、 日米企業問の競争は貿易を通じた競争よ りもむしろ直接投資を通じた競争へ移行しているということである。 そして第 二に、 日米企業間の直接投資を通じた競争は、 企業内貿易および海外子会社を 通じた販売においても不均衡状態にあるということである。 こうした特徴から、

米国側は通商問題を貿易部門だけでなく、 直接投資部門にまで広げようとして いる。 第一の特徴から、 日米通商問題における直接投資問題の重要性が指摘さ れ、 第二の特徴からは、 市場参入障壁等の直接投資部門における日本市場の閉 鎖性が通商問題として取り上げられようとしている。 ここでは、 おもに第二の 特徴から、 米国側が何を問題としようとしているのかを、 幾人かの論者の見解 にしたがって整理検討する。 米国側の見解は、 日本企業と米国企業との間の企 業競争力格差という側面にはほとんど言及せず、 もっぱら日本市場における直 接投資部門での閉鎖性を主要因とするものが多い。 こうした特徴を持つ米国側 の見解を以下で詳しく見ることにしよう。

米国側が問題としている現象をもう一度ここで整理してみよう。 第一に、

日米間企業内貿易においては米国側の入超が確認された。 第二に、 米国多国籍 企業は日本市場では海外子会社を通じた販売が十分に行われていないこと、 で

(16)

3章 戦略的投資 政策にもとづく米国経済再生論

ある。 以上の二点から、 米国側は次の問題を通商問題として取り上げようとし ている。 第一に、 貿易収支不均衡調整策との関連である。 企業内貿易の拡大か らも明らかなように、 今や貿易の量および方向性を規定するのは多国籍企業に よる意思決定である。 そのため、 日米関の貿易収支不均衡を解消するためには、

多国籍企業の意思決定に影響を及ぼすような政策を行わなければならないと米 国側は主張している7;O 第二に、 日米多国籍企業間の企業内貿易および海外チ 会社を通じた販売における非対称性は、 日本市場における直接投資に関する障 壁の存在に起因するとし、 株式持ち合い等に代表されるいわゆる系列問題が直

7 )この 代表的見解と して次の見解をあげることができる。 D.].Encarnation,

Rivals Beyond Trade: America Versus ]tα�pan in Global Competition, Ithaca, New York:

Cornell Univ. Press, 1992・, D.].Encarnation, “Investment and Trade by American,

European, and ]apanese Multinationals across the Traiad," in M.Mason and D.].Encarnation(eds.), Does Ownership Matler? Japanese Multinationals in Europe,

Oxford: Clarendon Press, 1994., U.S. Congress, House Wednesday Group, Beyond Revisionism: Towards a New u.s. -Japan Policy for the Post-Cold War Era, Washington DC: U.S.G.P.O., 1993.

- 121 -

(17)

接投資を妨げる要因として問題としている8)O 以下で)1頂に検討しよう。

2. , . 企業内貿易と貿易収支不均衡調整策

前節で確認したように、 企業内貿易は米国の輸入超過の大半の要因となっ ている。 そのため日米間貿易の規模および方向は日米経済のマクロ経済要閃と

同時に多国籍企業自身の意思決定に依存していると言えよう。 日米間の貿易の 大半が多国籍企業の意思決定に依存するという見解は、 従来の貿易収支不均衡 調整論とは大幅に異なる見解である。 そこでまず、 貿易収支不均衡調整策に関 する幾つかの見解を整理する事にしよう。

日米間の貿易収支不均衡調整に関する見解は、 貿易収支不均衡の原閃を日 米経済問の貯蓄 ・ 投資バランスといったマクロ経済的要因に求める見解と、 日 本の通商政策やピジネス慣行によって形成された構造的要因が原因とする見解

8)対日直接投資が過少であることに関する米国での研究のうち代表的なものと して、 Enαmation(1992,1994), op.cit., M.Mason, American Multinationals αnd Jaμn:

Political Economy 01 ]tα�panese Capital Controls, 1899-1980, Cambridge, Mass.: Council on East Asian Studies, Harvard Univ. Press, 1992., R.Z.Lawrence, “E旺icient or

exclusionist? The import behavior of ]apanese corporate groups," Brookings Papers on Economic Activiちら no.1, 1991a., pp.:111-341., R.Z.Lawrence, “How Open is ]apan?, "

in P.R.Krugman (ed.), Trade with Japan: Has the Door OPened Wider?, Chicago and London: The Univ. of Chicago Press, 1991b., R.Z.Lawrence, “]apan's low level of inward investment: the role of inhibitions on acquisitios," Transnational Corporations,

vo1.1, no.:1, 1992., pp.47-75.を挙げることができる。

(18)

3章 戦略的投資政 策にもとづく米 国経済再生論

に大別することができる9J O この二つの見解は貿易収支不均衡の調整方法にお いても異なっている。 マクロ経済的アプローチによる貿易収支不均衡調整策は、

米国の財政赤字の削減および日本の内需拡大と、 こうしたマクロ経済要因の調

9) C.F.Bergsten and P.Stem, “A New Vision for United States-japan Economic Relations," in The Aspen Strategy Groupe(ed.), Harness the Rising Sun: An American Strategyルr Manα:ging Japan's Rise as a Global Power, Boston: U niversity Press of America, 1993. なおパーグステン国際経済研究所長は、 これまではマクロ経済

的要因を重視する立場をとり続けてきたが、 最近は市場参入障壁を含む日本経 済構造を問題視し、 政策提言に関しでも管理貿易論者に近い立場をとっている。

詳しくはC.F.Bergsten and M.Noland, Reconsilable Differences? United States-�αμn Economic Conflict, Washington DC: Insutitute for Intematinal Economics, 1993. (佐藤 英夫訳『日米衝突は回避できるか』ダイヤモンド社1 994年)および米国下 院のヒアリングU.S., House of Representatives, Committee on Ways and Means,

Subcommittee on Trade, United States-Japan Trade, Commercial, and Economic Relations, Washington DC: U.S.G.P.O., 1993.を参照されたい。

- 123 -

(19)

整の効果を貿易収支に結びつけるための為替レート調整を重視する10io 一方、

構造的アプローチによる貿易収支不均衡調整策は、 米国製品に対する構造的な 市場参入障壁の排除および市場の確保を目的とし、 301条体制による圧力を 通じて日本に米国製品の輸入自主拡大(V 1 E : Voluntary Import Expansion)

10)マクロ経済的アプローチには、 為替レートを通じた貿易収支不均衡調整に 対して対立する見解がある。 第一に、 貿易収支不均衡は為替レートではなく貯 蓄・ 投資バランスで決まるから、 為替レートの変更は貿易収支不均衡を調整す ることができないとするマッキノンの見解である( R.I.Mckinnon, An International Standard for Monetαη Stabilization, POLICY ANALYSES

ININTERNATIONAL ECONOMICS 8, Washington DC: Institute for Intemational

Economics, 1984.)。 マッキノンによると、 為替レートの変更(米国の場合は

ドルの切り下げ)は、 米国のインフレをもたらし、 米国産業の価格競争力で得 たものを相殺してしまうことになるため、 各国の通貨価値を固定することが重 要だということになる。 この見解に対して、 第二に、 同じく貯蓄・ 投資バラン スが貿易収支不均衡の原因であるとしながらも、 為替レートによる調整が有効 であるというクルグマンの見解がある(P.R.Krugman, Htωthe Adjustment Process

Worked?, Washington DC: Institute for Intemational Economics, 1991b. )。 これは貯

蓄や投資需要の変化を貿易収支の変化に変換する際、 為替レートが重要な役割 を果たすため貿易収支不均衡調整のための政策手段としても有効であるという 考えである。 この見解はマスアベニュー・ モデルとして、 最近の米国通商政策 にも反映されている。 Bergsten and Noland, oþ.cit., p.55 (邦訳p.73)参照。

(20)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

を求めるものである11:。

ところでエンカーネーション等のように対日直接投資拡大を重視する見解 によれば、 マクロ経済的アプローチと構造的アプローチは次のような問題を抱 えるという。 第一に、 日米間の貿易の大半は、 多国籍企業の意思決定を強く反 映する企業内貿易であり、 マクロ経済的要因によって左右する事ができる部分 はいわゆる独立企業間取引(Arm's-length Trade)のみである。 前節での検討 から明らかになったように、 こうした独立企業間取引が日米間貿易に占める割 合はむしろ小さいため、 マクロ経済的アプローチによる貿易収支不均衡調整の 効果は少ない。 第二に、 構造的アプローチはあくまでも貿易レベルの参入障時 問題を重視しており、 こうした貿易レベルの参入障壁は直接投資によって乗り 越えられるものである。 そのため、 彼らは直接投資レベルの問題を通商問題と して取り上げるべきだとする。

エンカーネーション等によるマクロ経済的アプローチへの批判内容をみる 前に、 資本移動と直接投資の違いを確認しておこう。 直接投資は国際資本移動

の一形態である。 こうした国際資本移動と貿易との関連性についての議論には、

例えばケインズとオリーンとの間で行われたトランスファー論争がある。 しか し、 ここではトランスファー論争のようなマクロの資本移動論と多国籍企業に よる直接投資といったミクロの資本移動論とを区別し、 後者を専ら分析の対象 とすることを断っておかねばならない。 それは以下のような理由による。 国際 資本移動には「直接投資」の他に「間接投資」ないしは「証券投資」がある。

11)前章で検討したように、 構造的アプローチの立場に近い見解として戦略的 貿易政策があるが、 これは構造的アプローチには含まれていない。 戦略的貿易 政策論は新貿易理論を基礎に特定産業部門の貿易収支を問題にするが、 貿易収 支全体の調整を政策目的としていない。 そのため、 戦略的貿易政策論を貿易収 支全体の調整論として論じることはできない。 ここで述べる構造的アプローチ とはいわゆる日本異質論やドーンブッシュ等の一方的制裁論の類である。

125 -

(21)

直接投資は、 国際収支統計上の長期資本収支の項目に現れる国際資本移動の つのタイプである。 直接投資は生産 ・販売活動を通じて投資対象を支配し、

業収益(利潤)を獲得することを目的としている。 長期資本移動のもう一つの 主要形態である間接投資ないしは証券投資は、 金融市場、 資本市場、 為替市場 などでの金融商品を通じた投資を指す。 そこでは金利などの収益格差をベース として資産運用(財テク)を目的に投資が行われ、 事業経営への参加を目的と していない点で、 直接投資と間接投資は大きく異なっている。

投資の目的が金利などの直接的な金融収益にある間接投資は、 国際的な資 金需要を反映する各国間の金利差や、 債権・株式の価格変化、 為替レートに敏 感に反応して、 投資額も短期的に大幅に増減する。 これに対して直接投資は長 期的な事業計画に沿って周到な準備のもとに行われるから、 内外金利差や為替 変動にそれほど敏感ではなく、 受入国政府にとっても安定的な資金供給となり 金融政策の撹乱要因ともなりにくい。 そのため、 高金利国から低金利国へも投 資が起こりうるし、 直接投資が一方向であるという必然性もない。

ところで間接投資増大の背景には、 圏内のネットの貯蓄超過がある。 これ に対して直接投資の動きは、 1 - Sバランスや貿易収支の動きの影響を受ける とは限らない。 例えば、 米英のように、 貿易収支が赤字でも巨額の対外直接投 資を続けている国もある。 このように、 直接投資に対しては間接投資のように 単なる国際間の資金移動ではなく、 企業の実物的な投資行動としてとらえる必 要がある。 このことから企業内貿易が大半を占める日米間貿易をマクロの資本 移動と関連させて論じることの限界が指摘されるのである。

リプシー=クラヴィスは、 米国多国籍企業の親会社と子会社をあわせた全 体としての競争力は低下していないものの、 米国の親会社による輸出は198

0年代前半に大きく低下していることに注目し、 米国貿易収支赤字はドルの過

(22)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

大評価による価格競争力の低下が原因であるとしている1270 しかし、 日米関 貿易の大半は多国籍企業による企業内貿易である。 企業内貿易は多同籍企業の 優位性を最大化するための重要な手段である。 多国籍企業は企業内貿易を行う ことで事業活動の川上から川下までを支配することができ、 また、 海外事業活 動の展開に必要な企業特殊資産を、 独立企業間取引よりも低コストで取引でき るのである。 このように企業内貿易は、 多国籍企業の事業戦略を反映するもの であることから、 エンカーネーション等によると企業内貿易は短期的な為替レ ートの変動に対してあまり敏感には反応しないと見なされる。 例えば、 前述の ように日本の自動車産業が輸出自主規制に直面したとき、 大規模な対米直接投 資を行ったが、 これは輸出代替的というより輸出創出的な効果をもたらした。

米国での生産が拡大するにつれて、 日本から米国への部品等の中間財の輸出が 拡大した。 198 5年プラザ合意以降の大幅な円高にもかかわらず、 日本企業 の親会社から米国子会社への輸出は拡大し続け、 全体としてのアメリカの輸入 量は減少しなかった。

このことを時系列的に確認しよう。 図3-2は日米間貿易を独立企業間貿 易と企業内貿易に分けて、 その推移を表したものである。 米国の対日輸出は、

198 5年以降、 とくに1987年以降急激に拡大し、 1 990年から減少に 転じている。 独立企業間貿易による米国から日本への輸出は、 プラザ合意以降 急激に拡大したが、 1 989年以降は減少に転じている。 一方、 日本多国籍企 業による在米子会社から日本親会社への企業内輸出はプラザ合意以降いったん 減少したが、 1 987年以降安定的に増加している。 米国多国籍企業の企業内

1 2; R.E.Lipsey and I.B.Kravis, “The Competitiveness and Comparative Advantage of

U.S.Multinationals 1957-1983," NBER Working Paper, No.2051, 1986. なおリプシ ー=クラヴィスのいう競争力とは、 米国親会社については米国からの輸出パフ

ォーマンス、 海外子会社に関しては現地市場での販売および第三国市場への販 売のことを指している。

- 127 -

(23)

図3-2 企業内貿易と独立企業間貿易 ( 1 )米国からの輸出

( 1 0 0万ドル)

ぼ刀)JT一一一寸一一一ー「一一一寸

5αro+一一-J----L一一-J一一一-L一一一」一一一一;一一一;一一ム一一一宇一一-J 4側+ i J1JYイ:::

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1982 1983 1捌i鰯l蛾1987 1蛾1989 1蜘1991 1992

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一寸十一企上一一寸一米

- .. - - Arm' s Length輸出ー←← 日系MNC内輸出

( 2 )日本からの輸入

6αrn

4αro 2αro

�・一総輸入 一念 一米系MNC内輸入

---Ann' s Length輸入一一 日系MNC内輸入

(出所)表3- 1に同じ

(24)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

貿易は、 ほとんど為替レート変動の影響を受けていない。 輸入では、 独立企業 間貿易による日本から米国への輸入は198 6年から90年まで減少し、 91 年から増加に転じている。 一方、 日本多国籍企業の企業内貿易は、 1 980年

代増加し続け、 90年からようやく減少している。 このように、 企業内貿易と 独立企業間貿易は為替レートの変動に対して全く異なる動きを示す。 つまり、

独立企業間取引は為替レート変動に対して敏感に反応しているのに対して、 企 業内貿易は為替レートの変動に対してあまり敏感に反応していない。 また、 日 米二国間貿易の半分以上が企業内貿易であるため、 為替レートの変動を通じた 貿易収支不均衡の為替調整論はあまり有効でないことになる。

一方、 構造的アプローチに関する批判は以下の通りである。 構造的アプロ ーチによると日米貿易不均衡は市場メカニズムによる調整では乗り越えられな いため、 貿易収支不均衡を調整するためには結果主義に基づく管理貿易が行わ れるべきとするものである。 これに対して、 エンカーネーション等の見解は、

系列の存在が対日輸出を妨げているという認識では構造的アプローチと同じで あるが、 系列は乗り越えられないものではないと考える。 米国企業が対日直接 投資を拡大し、 系列企業を吸収合併することができれば、 対日市場へのアクセ スが確保され、 対日企業内輸出も拡大することになると主張するのである1正 。

以上のマクロ経済的アプローチおよび構造的アプローチによる貿易収支不 均衡調整策に対する批判から、 次のような政策提言がなされることになる。 貿 易収支不均衡調整策に対する対案は、 対日直接投資を拡大させれば対日輸出が 拡大し、 その結果、 貿易収支の均衡が達成されるというものである。 この政策 提言は、 日米関の貿易の大半が多国籍企業の意思決定に伴う企業内貿易となっ ており、 多国籍企業の意思決定に影響を及ぼすことができれば貿易の流れを変 化させることができると認識している点では評価できょう。

しかし、 企業内貿易に関する幾つかの研究によると、 直接投資が行われた

13:House Wednesday Group,op.cit.

- 129 -

(25)

結果、 短期的には親会社から子会社への資本財および中間財の輸出が拡大する が、 現地での部品供給体制が確立するといった長期で見ると企業内貿易は縮小 するという見方もある。 さらに多国籍企業自体の性質、 例えば資源志向型直接 投資か市場志向型直接投資かあるいは国際統合生産型直接投資かによって貿易 に及ぼす効果も異なる。 エンカーネーション等の指摘にはこうした直接投資の 性質ごとの分類も、 その貿易効果に対する検討もない。 こうした点からすると、

以上の政策提言は実際の政策施行には至らないと考えられる。 ただし、 対日市 場参入が流通系列等によって妨げられており、 対日直接投資が日本市場に流通 拠点を形成することを目的に行われる場合は、 米国製品の対日市場参入にとっ ては正の効果をもたらすと考えられる。

2. 3. 直接投資の非対称性と市場参入問題

エンカーネーション、 メイソン、 ローレンス等は、 日米間の企業内貿易の 不均衡および日本市場参入における米国多国籍企業の事業活動水準の低さは、

日本多国籍企業による対米直接投資に比べて、 米国多国籍企業による対日直接 投資が人為的あるいは構造的要因によって妨げられているか、 直接投資を行っ たとしても多数所有子会社による進出を果たせないといったことが原因である

(26)

3章 戦略的投資政策に もとづく米国経済再生論

と指摘するJ 4 )。 以下ではまず、 日米間の直接投資の現状を確認することから 始めよう。

日米間の直接投資状況を見ると、 日本の直接投資受入の水準は非常に低く

J 5)、 米国企業による対日直接投資は大きく制限されている(図3-3)。 多 国籍企業は他国市場へ進出する場合、 製品、 生産あるいはマーケティングにお

ける技術、 ノウハウに関して優位性(企業特殊資産)を持っていることが前提 とされる。 そのうえで輸送、 生産そして貿易障壁等のコスト要因を考慮し、 輸 出、 ライセンスあるいは対外直接投資のいずれかの参入手段を選択する。 多同 籍企業がいったん直接投資による進出を決意すれば、 次に参入方式(M&

J 4)企業内貿易のこうした不均衡の原因を日米多国籍企業の行動様式の違いに 求める見解がある。 日本多国籍企業は貿易創出的効果をもたらすため、 日本多 国籍企業の対米直接投資が拡大すれば、 企業内貿易による対米輸出も増加する ことになる(Kojima,K.(1981), Foreign Direct Investment: A Japanese Model 01

Multinational Business Operations, London: Croom Helm, 1981. )。 一方、 米国多 籍企業は輸出破壊的効果をもたらすため、 対日進出は対日輸出を減じることに

なる(Gilpin,R.(1989), “Where Does ]apan Fit in?, " Millennium: Journal 01

Iternational Studies, vol.18, no.3., 1989. )。 この見解に対して、 同一地域に進出し た日米多国籍企業は同じ企業内貿易のパターンを示すため、 特殊日本的な要素 が原因であるという見解がある(Encarnation(1992), op.cit., Lawrence(1991b),

op.cit. )。

J 5)日本では米国多国籍企業以外の外資系多国籍企業のプレゼンスも非常に低 い。 直接投資受入額の対世界シェアは、 日本は1967年O. 8%、 1 973 年O. 8 %、 1 980年O. 7 %、 198 9年O. 7%であった。 米国は9.

4%、 9. 9 %、 16. 5 %、 28. 6 %、 ECは23. 5 %、 32. 7 %、

37. 0%、 34. 5 %であった(U.S. Dept of Commerce(1991))。

- 131 -

(27)

図3-3 米国の対外 ・ 対内直接投資

( 1 )対世界

(億ドル)

任問

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( 2 )対日本

(億ドル)

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__._一対日直接投資ー岨ーー対米直接投資|

( 11\所) U.S. Department of Commerce, Survey 01 Current Business, various issues.

(28)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

A、 新規開拓投資)と所有戦略(完全支配、 過半数所有、 少数所有、 合弁)に ついての選択を行うことになる。 通常、 多国籍企業は外国市場へ進出する際に、

進出先国の現地企業よりも高い参入コストに直面する。 この参入コストは進出 先国市場に関する情報の欠如や参入企業に対する公的あるいは民間の差別待遇 によって生じる。 そのため、 通常は進出先国市場に関する情報を多く保有する 現地既存企業に対するM&Aによって対外進出が行われることが多い。

しかし日本への進出の場合、 他の先進諸国の場合と比べてM&Aによる進 出が少なく、 少数所有形態での合弁、 新規開拓投資が多くなっている。 ローレ

ンスは外国企業による既存日本企業の買収が何らかの要因によって制限されて いるとする16)O 米国に存在するような企業買収市場が日本には存在しないと いうのである。 例えば、 日本企業どうしによるM&Aは活発に行われているが、

外国企業による日本企業を対象としたM&Aは非常に制限されており、 M&A 総件数の5%にも満たない17;O そのため、 米国企業の対日進出は新規開拓投 資かあるいは合弁形態にならざるを得なくなる。

一般的に米国多国籍企業は多数所有あるいは完全支配による直接投資を選 好するが、 日本へ進出する場合は少数所有形態による進出が多くなっている。

表3-5によると、 米国企業の対外直接投資資産の78%を多数所有子会社が 保有している。 米国多国籍企業の海外子会社総数の88%が多数所有子会社で あり、 そのうち78%が完全支配子会社である。 また、 海外 子会社による総販 売額の82%を多数所有子会社が販売しており、 そのうち69%を完全支配 会社が販売している。 このように米国多国籍企業の所有戦略は多数所有が中心 となっている。 しかしながら、 米国企業の対日直接投資資産のうち多数所有チ 会社が保有する資産は34%でしかない。 また、 米国企業の在日子会社総数の 61%が多数所有子会社であるが、 そのうち完全支配子会社は48%にすぎず、

16; Lawrence(1992),oβcit.

1 7)

Bergsten and Noland, oþ.cit., p.81 (邦訳p.107)

- 133 -

(29)

全1ft 界 総 ,�I18,225 f 16,081 イjンピ令所イJ(社数)14,423 少数所イj2,144 !折 -fj88 比 準,ノ・じ�l折イj79 /ìノ九(%) R j針1J 12

1,935 1,825 1,678 110 94 87 6

ヨーロッパ 8,907 8,244 7,542 663 93 85 7

ベルギー 548 523 489 25 95 89 5

フランス 1,068 995 863 73 93 81 7

1,184 1,070 983 114 90 83 10

イタリア 658 602 533 56 91 81 9

オランダ 877 822 770 55 94 88 6

スペイン 468 421 344 47 90 74 10

イギリス 2,150 2,025 1,906 125 94 89 6

ラテンアメリカ 同半球 2,883 2,473 2.158 410 86 76 14

プラジル 448 383 327 65 85 73 15

メキシコ 604 442 385 162 73 64 27 アフリカ 483 408 336 75 84 70 16

300 203 172 97 68 57 32

アジア木、ド洋 3,552 2,790 2,384 762 79 67 21 オーストラリア 747 655 612 92 88 82 12

[:1 み; 828 507 397 321 61 48 39

その他 165 138 126 27 84 76 16

(2 )販売額

じ7云\

全 世 界 総 JI-1,578,683 f1,298,532 J折イj 完全所有1,088,516 (口)jドル)少数所イi280,151 l前イj82 比 率一ノじJfr 1j 69 (%) E j所 イJ 18

183.723 174,956 134,973 8,767 95 73 5

ヨーロッ}\ 858,786 765,045 657,818 93,741 89 77 11

ベルギー 39,602 37,715 34,982 1,887 95 88 5

フランス 103,187 96,683 73,824 6.504 94 72 6

195,372 157,517 133,807 37,855 81 68 19

イタリア 62.822 58,296 53.681 4.526 93 85 7

オランダ 82,051 63.707 55,181 18.344 78 67 22

スペイン 35,722 32,294 26,416 3,428 90 74 10

イギリス 212,548 199,997 179,954 12.551 85 6

ラテンアメリカ 西半球 149,938 116,412 97,315 33.526 78 65 22

プラジル 34,806 27,741 22,696 7,065 80 65 20

メキシコ 48,378 30,165 23,739 18.213 62 49 38

アフリカ 17,305 14,118 11,944 3.187 82 69 18

16,533 8,310 7.498 8,223 50 45 50

アジア太平洋 345.275 213,967 174,804 131, 308 62 51 38 オーストラリア 59,012 36.717 27,941 22.295 62 47 38

十l 161, 732 72,131 59,306 89,601 45 37

」一 その的 7,123 5,724 4,164 1,399 80 58

(出所) U.S. Department of Commerce, Survey 01 Current Business, vo1.74, no.6, Table 4.

(30)

3章 戦略的投資政策にもとづく米国経済再生論

逆に少数所有子会社が39%を占めている。 販売額でみても、 多数所有子会社、

完全支配子会社を通じた販売はそれぞれ45%、 37%と半分以下となり、 少 数所有子会社を通じた販売が55%と最も大きくなる。 つまり米国企業の対日 進出は多数所有ではなく少数所有による進出が多いのであるIH)O つまり、 多 数所有子会社を保有していなければ進出先国市場に参入できないのである。

エンカーネーションは多数所有あるいは完全支配形態による対日直接投資 は、 以下の理由から重要であるとする。 少数所有形態での直接投資は進出先国 のカスタマーや消費者に対して長期にコミットすることや、 自らの製品販売の 際に必要な進出先国市場の情報をスムーズに獲得することを意味するからであ る。 日本の系列のような長期的な関係性を重視する経済ではとくに、 長期的な 投資に基づく相対的に大きな事業活動基盤が重要となる。 加えて、 流通部門へ の多数所有形態での投資は、 流通システムが厳重にコントロールされており、

高い参入障壁となっているような市場(例えば流通系列によって排他的なとな っている日本市場)へ進出する場合は重要となってくる19:O このように、 多 数所有形態での対日投資の拡大は米国企業の対日市場アクセスを確保する効果 を持っと認識されている。

以上で確認したように、 米国多国籍企業による対日直接投資の水準は低く、

直接投資形態も多数所有形態ではなく、 少数所有形態となっている。 米国にお いてはこうした直接投資の非対称性は日本の直接投資に対する障壁が要因とし て指摘されている。 対日直接投資の制限要因について米国側の見解を中心に検

I 8)米国企業の多数所有を通じた対日直接投資は通常よりも低い水準を示して いるが、 多数所有を通じた直接投資は拡大傾向にある。 1 977年時点で1 6

%であったものが、 1 990年には34%に拡大している。 しかし、 これは少 数所有形態による対日進出が減少したので、 相対的に多数所有形態のプレゼン スが上昇したと考えられる。

19) Enαrnation(1994), 0βcit., pp.21-26

- 135 -

参照

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