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計画組織化統制実施統制

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第10章  地域産業活性化策の構成要素 

  第10章においては、地域産業活性化策の諸構成要素について論じることとする。 

  10.1項では、地域産業活性化策の管理過程について、10.2項では、地域産業活 性化に必要な経営資源、インフラについてそれぞれ論じ、10.3項にて第10章のまと めを行うこととする。   

 

10.1 地域産業活性化策の管理過程 

 

本項においては、地域産業活性化策の管理過程の概念(10.1.1)、地域産業活性化 策の管理過程と情報活用(10.1.2)、地域産業活性化策の管理主体(10.1.3)に ついて論じることとする。 

 

10.1.1 地域産業活性化策の管理過程の概念 

地域産業活性化策とは、第9章の冒頭で述べたように、地域産業が自律的発展状況に至 るメカニズムを機能させるための政策である。

  地域産業活性化を実現していくには、「どのように地域産業を活性化するかを計画し、そ の計画を政策化して実行し、フォロー等を行う管理過程」が必要となる。 

本研究においては、こうしたプロセスを地域産業活性化策の管理過程と呼ぶこととする。 

 

      図10−1 地域産業活性化策の管理過程 

管理過程論は、Fayol,H.により20世紀初頭にベースとなる理論が示され、その後、管理 過程学派(Management Process School)が発展させた経営管理領域の理論である。

管理過程支援 システム

・形式知

・暗黙知

計画

計画 組織化 実施 統制 統制

・情報収集

・政策立案

・人員、資金

・ソフト、ハード

・オペレーション

・リーダーシップ

・評価、フォロー

・フィードバック

(2)

Fayolは、管理過程を「計画(予測)→組織化→命令→調整→統制」であるとし、Koontz,H.

& O’Donnell,C.(1955)は、「計画→組織化→人事化→指令→統制」であるとした。その他、

動機付けを加えるとする意見もあり、管理過程学派内でも諸説が見られる。

ただ、諸説の共通項が、「計画→組織化→統制」であり、これらを基本的な管理過程と見 なすことが出来る。少なくとも「計画(plan)→統制(control)」の二つの要素が含まれている ことが管理過程の最低条件となる。

本研究においては、図10−1に示される「計画(Plan)→組織化(Organize)→実施 (Execute)→統制(Control)」を地域産業活性化策の管理過程とする。

この管理過程を統括する「地域産業活性化策の管理主体」については10.1.3項に て論じることとし、ここでは「政策管理主体」としておく。

  計画段階では、情報収集を行った後に政策立案がなされる。 

政策立案時には、「収集された情報の分析→政策目標の設定→可能な代替案の網羅→比較 分析を通じた代替案の選択」という段階を通じて、意思決定がなされる。 

政策管理主体の能力、すなわち、情報収集能力、情報分析能力、複数代替案を網羅する 創造力、合理的な基準で代替案を絞り込む判断力が、各段階で試される。 

組織化段階では、物的・社会的組織構造が決定される。 

具体的には、政策実施に必要な経営資源(人員、資金、ハード、ソフト)を把握し、予算 化し必要となる資源を確保し、その配置を決めるのである。ここで、ハードとは、施設・

設備、道具等のモノであり、ソフトとは情報・ノウハウである。 

  次の実施というフェーズは、伝統的な管理過程学派の理論には含まれていない。

経営者の仕事は、管理を通じて「人を能率良く働かせること」であり、経営者を主体と すると、現場部門従業員が計画に従い実施し、それを経営者は統制するということになる。

図10−1は、むしろ、品質管理の分野で有名なDeming,W.E.のPDCAサイクル、す

なわち Plan→Do→Check→Action の思想に近いものである。

各従業員や現場部門が、自ら知恵を絞って自ら再発防止に努力するという思想だからこ そ、 Do がサイクルに入ってくるのである。

地域産業活性化策に関する現場とは二つある。一つは政策を実施する支援機関等の現場 であり、もう一つは政策のユーザーである企業等の現場である。

  前者の政策実施現場では、有効に機能するオペレーション(仕事の流れ)やリーダーシップ が問われる。政策管理主体、あるいはその代理者が、現場のオペレーションに関する知識、

現場におけるリーダーシップの経験を持った上で、現場に入り込んで政策立案するのが望 ましい。政策実施後も、現場に入って一緒に制度運用していくのである。 

  後者の政策ユーザーの現場については、現場訪問、経営者との継続的ネットワーキング を通じて、政策の有効な運用に努力していくことが重要である。 

  統制のフェーズでは、企業的な管理手法を志向するなら、実績データと計画データを比 較し、実績通りになるようフォローすることが必要となる。 

(3)

そして、成果を上げた人材には報い、実績が芳しくない場合はその理由を分析し、その 後の能力開発や自己啓発による自己実現につなげるのである。 

管理過程における情報活用については、10.1.2項において改めて論じることとす るが、企業経営的な管理を効率的に行うには、図10−1に示されている管理過程支援シ ステムが必要となる。 

例えば、実績値(形式知)を効率的に把握し、計画値との差異分析をタイムリーに行う。 

あるいは、政策立案に必要な諸情報(形式知と暗黙知)を持つよう支援するのである。

 

 

10.1.2 地域産業活性化策の管理過程と情報活用 

地域産業活性化策の管理過程においては、政策管理主体が、図10−2に示される体系 に基づき、各種情報をタイムリーに入手出来るかどうかが問われる。 

必要な情報を政策管理主体が把握するべき知識と考えると、野中郁次郎(1995)が言うとこ ろの「暗黙知」と「形式知」に分類される。 

野中は、言葉で伝えることが困難な個人的知識「暗黙知」と言語により伝達できる知識

「形式知」の相互循環を通じて知識が創造されていくという理論を提唱している。 

地域経済に関する各種統計データは、その数値が生じてくる背景に暗黙知の世界が広が っているとしても、明らかに形式知である。 

 

 

図10−2 活用すべき情報の体系

一方、プロの行政スタッフが持つ見識やリスクをかいくぐって自らの人生を切り開いて きた企業家の持つ人物鑑識眼等は、明らかに暗黙知である。

形式知

暗黙知

公開一次情報

公開二次情報

非公開一次情報

非公開二次情報

継続的情報収集

断続的情報収集

個別情報収集

メディア閲覧

対物観察

対人接触

<知識形態> <情報類型> <情報収集方式> <情報入手経路>

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入手性という観点から情報を類型化するなら、公開情報と非公開情報に大別され、公開 情報については公開元から取り寄せることが可能である。

非公開情報については、入手に際して情報保有者の了承を取り付ける必要があり、信頼 関係や、時としては秘密保持契約が必要となる。

また、一次情報(ナマの情報)と二次情報(加工された情報)という切り口も重要である。

自らヒアリング調査等によりナマの情報を収集する場合は、その背景を熟知している反 面、多数のデータを広範囲に収集することに多大の労力を必要とする。

公的機関等が収集したナマのデータを使用する際には、その収集法やバイアスについて 理解している必要がある。

二次情報については、情報加工した人の技量次第で価値が決まる。

質の良い非公開二次情報を多数保有していると言うことは、情報の目利き能力がある良 質のブレーンを人脈として確保していると言うことになる。

新聞記事等の公開二次情報については、情報加工を行う記者の主観、能力、専門知識、

さらには短時間に取材と執筆を済ませなければならないと言う業務上の制約、記者の所属 するメディアの特性等の問題を理解した上で参考としなければならない。

TVなどの映像系メディアは、視覚にアピールするカットを欲しいと思いがちであり、

書籍の書き手は、持論を補強するために、事例を誇張して紹介することもある。インター ネット経由の情報は、チェックを経ない自己宣伝ともなり得る。誤りとまでは言えないも のの、メディアを通じてややバイアスを加えた情報を入手するリスクが高い。

情報収集方式としては、継続的情報収集、断続的情報収集、個別情報収集の三通りがあ り、継続的情報収集とは、定期的に情報収集がなされ、時系列的な継続性があることを指 す。断続的情報収集とは、断続的な情報収集がなされることを言う。個別情報収集とは、

継続性を伴わない個別目的を達成しようとするスポット的な情報収集である。

情報入手経路としては、メディアの閲覧、対物観察、対人接触の三通りがある。

印刷物・データベース等のメディア閲覧を通じて得られる情報は公開されており形式知 である。対物観察は「百聞は一見に如かず」といった性質の情報収集であり、face to face の対人接触と同様に形式知と暗黙知の混合である。

この分類方法は、Pred,A(1977)による専門情報(specialized  information)循環の理論を 参考としている。

  Predは、専門情報を、1)private information、2)public information、3)specialized visual information の三つに分類している。1)は、face to face meeting、person to person contact を通じてもたらされる情報である。2)は各種メディアを通じてもたらされる公開情報で、3) は観察を通じてもたらされる情報である。

  管理過程支援システムは、単純な行政のコンピュータ化という次元の話ではなく、専門 情報循環の中に情報収集のためのセンサーを設置し、地域産業活性化のためのマネジメン ト活動を円滑に進めるためのシステムなのである。

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  図10−2における、メディアの閲覧を通じて得られる公開情報で、継続的な情報収集 がコストベネフィット的に許容されるものについては、形式知として容易に取り扱うこと が出来る。一方、対物観察、対人接触を通じた個別の非公開情報には暗黙知が含まれてお り、情報収集する際に感性、専門知識、理解力が問われる。

  本研究においては、前者をデータベース化情報、後者をナレッジベース化情報とする。

  データベース化情報の代表的なものが公式経済統計であり、データ入手性がよく、地域 概況を理解する上では有益である。

  公的経済統計は、産業集積が見られる「事実上の地域」ではなく、「法で定められた区域」

のデータとして一般に収集される。

  データベース化情報については、坂本光司(1996)による公的経済統計に基づく地域経済分 析手法が参考となる。坂本が分析に用いることが可能と示している公的データは、表10−

1に示されている通り多岐にわたっている。

表10−1 公的経済統計の種類(坂本光司、1996、地域づくりの経済学、ぎょうせい.より抜粋)

種類 公的経済統計例 データソース 人口 人口、夜間人口、昼間流出人口、夜間流

出人口、年齢別人口、外国人人口、人口 密度、人口集中地区人口、世帯構成

国勢調査、住民基本台帳に基づく 全国人口世帯数表、人口動態統計 年報、厚生省の将来推計人口 就業構造

産業部門別就業者、地域の製造業比率、

職業別就業構造等

国勢調査、就業構造基本調査、事 業所統計調査、労働力調査、職業 安定業務統計等

工業 業種別、地域別、規模別の工場数、従業 者数、製造品出荷額等、粗付加価値額、

現金給与額、使用エネルギー、使用土地 面積等

工業統計調査、事業所統計調査、

工業実態基本調査等

その他 商業系統計、家計・物価系統計、地方財 政系統計等

商業統計調査、消費動向調査、家 計調査年報、全国消費実態調査、

全国物価統計調査、県民経済計算 年報、個人所得指標等

人口関係だけでも、人口、夜間人口、昼間流出人口、夜間流出人口、年齢別人口、外国 人人口、人口密度、人口集中地区人口、世帯構成とある。 

国勢調査、住民基本台帳に基づく全国人口世帯数表、人口動態統計年報、厚生省の将来 推計人口がデータソースとなる。 

就業構造等については、国勢調査、就業構造基本調査、事業所統計調査、労働力調査が データソースとなる。 

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産業部門別就業者、地域の製造業比率、職業別就業構造等が測定される。 

工業分析については、工業統計調査、事業所統計調査、工業実態基本調査等がデータソー スとなる。工場数、従業者数、製造品出荷額等、粗付加価値額、現金給与額、使用エネル ギー、使用土地面積等が業種別、地域別、規模別に測定される。 

商業分析については、商業統計調査、消費動向調査等がデータソースとなる。 

商店数、従業者数、年間商品販売額、売場面積等が測定される。 

事業所分析については、事業所統計調査、会社四季報、日経会社情報、国税庁統計年報 書、高額所得法人リスト等が、労働実態分析では、職業安定業務統計、毎月勤労統計、賃 金構造基本統計、地域別最低賃金等が使用される。 

家計物価分析については、家計調査年報、全国消費実態調査、全国物価統計調査が、県 民経済分析では、県民経済計算年報、個人所得指標等が使用される。 

その他、地方財政等について坂本は、分析方法を示している。 

坂本による公的経済統計データの分析手法に加えて、ここでは国や地域の産業活性化に 関連する他の研究者達の視点も以下に列挙することとする。 

Watts,H.D.(1987)は、地域における特定工業の全国シェアを製造業全体の全国シェアで 割った立地係数の重要性を指摘している。Wattsは、地域の開業率についても重視している。

Chisholm,M. & Oeppen,.J.(1973)は、地域の業種別雇用構造、あるいは業種構造に基づ く多角化係数、特化係数の分析、地域工業の部門構成の変化に着目したシフトシェア分析 について論じている。

表10−2 各識者の重視する経済指標

 

研究者名 重視する経済指標 Watts,H.D.(1987) 立地係数、地域の開業率

関満博(1997) 加工機能に基づく分類による調査 Kruguman,P.(1994) 技術革新による生産効率の向上 Chisholm,M. &

Oeppen,.J.(1973)

地域工業の部門構成の変化、多角化係数、特 化係数

Harrison,R(1992) 国民総生産に占める工業生産の割合、工業雇

用者数、工業生産量、工業生産性の変化 Porter,M.E.(1990) 国の長期の生産性向上

Kirchhoff,B.A. &

Phillips,B.D.(1988)

開業率と廃業率の差、企業規模別の雇用創出

 

一方、関満博(1997)は、従来の産業分析の限界についてふれている。工業統計上、産業と いうカテゴリーが歴史的に最終生産物に注目するものであったため、京浜や東京城南のよ うな機械金属技能集積地の分析に工業統計の限界が出るとの見解である。 

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造船や鉄鋼等の集積地では産業別分類で違和感がさほど無く、「産業に基づく分類」が業 界団体、補助金等の政策の分類と一致しているというのが関の解釈である。

関は大田区や墨田区で「加工機能に基づく分類」の調査を実施している。

Kruguman,P.(1994)は、アジアの成長においては投入の増加の影響が大きいとしている。

そうした見地から、新興工業地域を分析する際には、投入の増加と技術革新により生産 効率が向上するかどうかが重要であると指摘している。

Harrison,R(1992)は、衰退について考える際に必要な視点は、国民総生産に占める工業 生産の割合、工業雇用者数、工業生産量、工業生産性の変化であるとしている。

Porter,M.E.(1990)は、政府の役割は大きいが部分的であると述べ、国の経済目標は長期 の生産性向上以外で規定するのは誤りであると指摘している。

Kirchhoff,B.A. & Phillips,B.D.(1988)は、アメリカの統計より、開業率と廃業率の差、正 味変化が増えるとGDP成長も高くなると言う明らかな相関関係を見いだしている。また、

雇用創出における100名規模以下の企業の比率は一貫して高いことにも注目している。

  データベース化情報である公式経済統計を用いたこれら分析は、合計値、平均値、構成 比等により全体的傾向を把握するのには有益である。しかし、一例として、我が国の開業 率には法人成りしていない自営業者のカウントが不十分であるといった各統計上の問題点 を十分把握することが、分析を行う上で欠かせない。 

  また、地域産業を分析する場合、構造的にどのような因果関係、因果順序が存在してい るのかといった問題について、正しく理解する必要がある。こうした構造モデルを把握す るには、地域と統計データ双方について、深い理解が不可欠である。 

公的経済統計の表層的な分析に基づき政策立案を行うというアプローチには机上の空論 となりかねないリスクが内在している。

 

このように、公的経済統計の課題を補完するためには、別途、個別経済調査を実施して 精査を行う必要がある。これは、企業の経営実態について高度に分析するには、財務会計 データのみならず、管理会計データが不可欠となるのと同様である。 

地域産業を深く理解するには、企業家等に対するヒアリング調査、アンケート調査を実 施することが重要である。そして、その際には、市場と経営資源、スキル、さらにはリス クとポテンシャルについての分析ノウハウが必要となる。

一方、生の情報を入手しようとヒアリング調査を行った場合も、相手方の本音を聞き出 すことが出来る保証はない。多くの情報から真実を見いだす直感力、判断力を持っている かどうかが問われる。特に重要であるのが、地域の企業家についての深い理解である。

地域の企業家についての深い理解は、地域産業についての深い理解につながる。

ここで言うところの深い理解とは、ナレッジベース化情報を蓄積することに他ならない。

対物観察、対人接触を通じ、政策管理主体が、ナレッジベース化情報を効率的に収集す ることが必要である。

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  対物観察は「訪問」が基本となる。対人接触は、1)来訪者への「応対」、2)集まりへの「参 加」、3)特定の人への「訪問」、4)特定の人達の「招集」、の4通りの方法により行われる。

  最も望ましいパターンは、下記のものである。

1) 人徳、能力、有益な情報を備えた人のところには筋の良い来訪者が日常的に来る。

2) 色々な誘いがある中で、筋の良い集まりに参加し、良質の人脈と知識を得る。

3) 人脈を活用して紹介を受け、会いたいと思う人に訪問希望を申し入れると喜んで長時 間応対してもらえる。

4) ある分野に抜きんでた見識を持つ人達を招集すると、多忙にも関わらずほぼ全員が出 席してくれる。

  暗黙知、ナレッジベース化情報を蓄積するには、このように自然と知識が集まり、共振 する場が生まれる状況を創り出すことが望ましい。地域産業活性化策の管理主体には、ナ レッジベース化情報が自然と集まるような人が含まれている必要がある。

対人接触の中で、最もハイレベルなものが、自らがネットワーキングの事務局となる「招 集」である。「参加」する人より「招集」する事務局に多くの情報が集まる。

その反面、多くの労力を事務局側が払う上、メンバーの水準の高さを確保するだけの人 物鑑識眼、ホスピタリティの面で優れていなければならない。

各分野に影響力を行使できる influencers が喜んで「招集」されることがカギとなる。

  どの様に高度な情報システムを導入しても、インターネットを一日中検索しても、質の 良いナレッジベース化情報は集まらない。

情報技術活用を通じて、データベース化情報の収集や、会議システム等の活用によるナ レッジベース化情報の収集のサポートがある程度可能となるのである。

本研究においては、必ずしもデータベース化情報の精緻な分析にこだわるというスタイ ルをとるものではない。公的経済統計については、地域の製造品出荷額等、付加価値額、

事業所数といった基本的な数値を目安として把握するという立場に立つこととする。

本研究の第四部、第五部においては、工業集積地域の実態分析やバージョンアップ政策 等について論じることとするが、そこでの関心はイノベーション創出にある。

  イノベーションは不確実性を承知でリスクをとる企業家活動により引き起こされるもの であり、統計的には外れ値の世界である。公的な経済統計の合計値や平均値を精緻に分析 する机上の秀才型アプローチによりイノベーションの実態を把握することは難しいという 基本認識に基づくこととする。

10.1.3 地域産業活性化策の管理主体

ここまで、地域産業活性化策の管理主体という曖昧な語句を使用してきた。

本項では、地域産業活性化策の管理(management)の主体がどの様な存在であるのかとい う点から論じていくこととする。地域産業活性化策の管理主体としては、一般に、多くの 人が地域内を統治する行政組織を想定するだろう。

(9)

しかし、「企業群や生活者達の活動が日常的に営まれている範囲」を地域として定義する なら、地域範囲と行政区域は必ずしも合致しないという問題がある。

結局のところ、我が国の場合、基礎的自治体(市町村)、広域行政機関(都道府県、国の諸 機関)のいずれが真剣に地域産業を活性化しようと考えるか次第で、政策の管理主体の構造 も異なってくるのである。

アメリカのように州政府の自律性がある程度あり、州立大学が各州の指揮下にある状況 と、我が国のように都道府県の自律性が低く、各地域の中核的研究機関である国立大学が 文部科学省の指揮下にある状況とでは、明らかに異なっている。

研究開発型企業の育成といった高度な支援スキームが必要となる場合や、広域地域の産 業を活性化しようとする場合には、地域産業活性化策の立案時に、国や関連する基礎的自 治体、都道府県等の間で調整が必要となる。

ここで問題となるのは、地域の産業活性化に対する意欲と中核的人材の有無である。

民主主義国家である我が国においては、市町村の首長、都道府県の首長、国会議員や地 方議会議員といった政治家の意思が地域産業政策形成に大きく影響する。

図10−3 地域産業政策立案への関与者

ところが、自治体の首長等にとって、地域産業政策は、必ずしも関心の中心ではなく、

専門知識も不足しがちである。

<政治家>

企業家精神  に富む    経営者

<工業系等の   産業関係者>

  プロの  

行政スタッフ <自治体      等の職員>

見識の高い 外部ブレーン

<公依存度     の高い       利害関係者>

<国等の       広域行政機関   の協力者>

自治体首長

国会議員・   

地方議会議員

  プロの   行政スタッフ

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首長選挙の時に頼りになるのは、公共工事産業や農林漁業の関係者、福祉政策に敏感な 高齢者等の相対的に公共依存度が高い利害関係者達である。

地域産業活性化策は常に選挙の重要な争点となるとは限らない。

さらに、国際競争を続けている製造業や研究開発型ベンチャー企業は、政治への関心は一 般に必ずしも高くない。特に、若手ベンチャー企業家は、政治意識に乏しく、選挙に関与 する時間的余裕、精神的余裕が不足している場合も多い。

その結果、ベンチャー企業家に対する地域の支援政策は、プロの視点、ユーザーである 企業家の視点が欠如した総花的な国家予算誘導型政策となりがちである。

有効な政策を打ち出そうとするなら、地域を基盤として、1)地域産業活性化に関心のある 首長、2)首長を支えるプロの行政スタッフ、3)見識の高い外部ブレーン、4)企業家精神に富 む経営者、5)国等の広域行政機関に所属するプロの行政スタッフ、が一枚岩となる状況が不 可欠となる。

特に、1)−5)が、管理主体となって地域産業活性化策を立案し、現場における実施とその 統制(フォロー)に関与していくことが重要となる。

一義的には、自治体の首長が政策のイニシアティブをとるべき存在といえるが、実際に は、図10−3に示されている各関与者間の実績、専門知識、実行力、人徳等のバランス により、政策が決定されていく。

Smilorら(1988)によるtechnopolis wheelのコンセプトは、産学官連携を重視したテクノ ポリス形成モデルであったが、それに対して図10−3は、地域産業活性化策における関 与者間のネットワーキングを示すモデルである。

執行権限を持つ首長等が地域産業に見識を持つ人材であることが望ましいが、仮に知識 等が不足していたとしても、少なくともネットワーク内に見識ある人物が存在し、政策立 案関与者達の間に良好なコミュニケーションが保たれている必要がある。 

本研究における地域産業活性化策の管理主体は、「図10−3において○印で囲まれてい る関与者によるネットワーク」とする。 

このネットワーク内に力量のある人材が揃っている場合に、意欲的な地域産業活性化策 の立案が可能となる。特に、企業家精神に富む経営者、プロの行政スタッフ、見識の高い 外部ブレーンの間の連携が重要である。 

この部分に意欲的で有能な人材が全くいない場合は、他地域の政策を参考に国の補助金 をもらい首長はそれに判を押すだけという「地方にありがちなパターン」に陥る。

仮に、地域に一定の工業集積があったとしても、企業家精神に富む経営者が欠落してい ては政策ユーザーの視点が欠落し、地域産業活性化策は空回りしてしまう。

政策により無から有を生みだすことは容易ではない。企業家の前向きなスピリットが周 囲の関係者との共振を生みだし、地域全体の推進力となるのである。

また、行政スタッフの数は揃っていても、プロ意識の高い人材が地域産業活性化への思 い入れを持ち政策を担当しなければ、志の高い政策は打ち出されない。

(11)

地域のキーマン達が真剣であるほど、力量があるほど、レベルの高い外部ブレーン、協 力者や情報提供者も多数現れる。

もちろん、公共依存度の高い利害関係者等の意見に耳を傾ける必要もある。

しかし、地域経済が発展していかなければ、福祉等の余地も無くなってしまうという認 識を地域で共有していくことが、地域産業活性化策立案時には重要となるのである。

10.2 地域産業活性化に必要な経営資源、インフラ

  本項では、10.2.1項にて地域産業活性化の前提となる立地要因について、10.

2.2項にて地域産業活性化に必要な経営資源について、10.2.3項にて地域産業活 性化に必要なインフラについて、それぞれ論じることとする。

10.2.1 地域産業活性化の前提となる立地要因

  地域産業に必要な経営資源、インフラについて述べる前に、工業立地論的な観点から立 地要因についても論じておく必要がある。

立地要因とは、いわば「その地域に工業立地したいと企業家に感じさせる要因」である。

つまり、その地域の魅力はどの様な要因により構成されているかということである。

Weber,A(1922)の工業立地論では、一般的立地要因として、輸送費、労働費、地代を挙げ、

特殊立地要因として、原料の腐敗、湿度や流水の影響といった環境・安全面の事柄を挙げ ている。その他、Weber は、自然的、技術的立地要因、社会的、文化的立地要因について も論じている。

特殊立地要因については、Weberの時代に比べて物流技術が進んだ現代においては必ず しも大きな問題とはならない。自然的立地要因については、政策的努力で必ずしも改善さ れないので、本研究の主要なテーマとはならない。

Weberの工業立地論では、工場から顧客までの輸送費、供給業者から工場までの原材料

の輸送費に大きな関心が払われている。

  輸送費については、さらに取引費用を加味して拡張することが可能である。

  労働費、地代、技術的立地要因、社会的、文化的立地要因については、産業集積におけ る地域の経営資源、インフラという概念で拡張することが可能である。

  つまり、工業立地上の魅力は、1)地域の自然環境、を除くと、2)産業集積における地域の 諸経営資源、3)地域の諸インフラ、4)輸送費と取引費用、に分類される。

Kotler,P. ,Haider,D. & Rein,I.(1993)は、「地域のマーケティング」という概念を提示し、

その対象として、ビジター、住民と働く人々、企業や産業、輸出市場の4つを挙げている。」 特に、企業誘致の際の基本条件としては、1)地元の労働市場、2)顧客やサプライヤーへの アクセス、3)開発施設・インフラの質、4)交通網、5)教育訓練機会、6)生活の質、7)企業環 境、8)R&D施設へのアクセス、9)資金供給源、10)税制・規制、であるとしている。

これらは、Weber による立地要因を、企業誘致という観点から具体的に列挙したもので

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ある。Kotlerらは、一例として、ハイテク企業には、創業費用よりも質の高い大学の存在、

研究者にとっての地域の魅力が重要であると指摘している。

Kotler らが挙げている10の基本条件には、本研究で言うところの地域の経営資源、イ

ンフラが含まれているが体系的な論理がやや不足している。本研究においては、本10.

2項にて、地域の経営資源、インフラについて体系的に論じることとする。

立地要因という観点から地域の経営資源やインフラについて考える際には、まずは産業 集積論を基礎とする必要がある。

  第5章において、この分野の様々な先行研究を体系的に論じたが、特に、20世紀初頭

にMarshall,A.(1920)が提示した考え方を原点とすることは有益である。

地域の特定産業に属する企業が集まると、そのことが人材や周辺産業の集積を呼び、技 術やノウハウもスピーディに共有されていく。分業、外部経営資源活用(外部経済化)を通じ て、様々な経済性(規模の経済性等)が確保される。

Porter,M.E.(1990)が提唱するクラスター論は、さらに国や地域の競争優位性を重視した 考え方である。 

 

 

図10−4 産業集積の発展プロセス   

Krugman,P.(1991)は「外部経済の適用範囲として政治的国境は必ずしも適切ではない」

と指摘しており、マーシャル的外部経済は、転居を伴わずに転職可能な範囲、財サービス の流通が容易にし得る範囲、人的な接触が頻繁になされる範囲で成立するとしている。

Krugman流の考え方を、本研究では「事実上の地域範囲」として採用している。

<産業群の集積プロセス>

産業群の集積

特定産業に属する企業群の集積 特定産業に属する企業群の集積

人材・周辺産業の集積 人材・周辺産業の集積

技術・ノウハウの集積 技術・ノウハウの集積 イノベーション/コラボレーション

マーシャル的外部経済の成立範囲

産業群の経済性、競争優位の確保 産業群の経済性、競争優位の確保

需要・雇用の創出

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自治体の統治範囲は「法律に基づく地域範囲」であり、「事実上の地域範囲」は情報通信 網や交通網の発達により拡大する可能性がある。 

  産業集積の発展プロセスは、図10−4に示される通り、まずマーシャル的外部経済が 成立する地域範囲内に、特定産業に属する企業群が集積する。 

その集積を通じて、需要・雇用が創出され、一定規模の経済活動を背景に分業構造が生 まれ、それが人材・周辺産業の集積につながる。

多彩なプレーヤー達が地域でイノベーション/コラボレーションを行い、そうした活動 を通じて、技術・ノウハウが伝搬(spillover)し、地域に集積されていく。

結果として、地域産業に各種の経済性(規模の経済性、範囲の経済性、ネットワークの経 済性)が生まれる。産業集積を通じて、地域企業は、低い取引費用、輸送費用により外部経 営資源を迅速に調達出来るようになる。 

中核的企業群、周辺産業が他地域に比較して相対的に競争優位となるなら、地域産業の 競争優位も確保される。 

ここで留意すべきは、産業集積によりある種の経済性は得られるが、相対的にその経済 性が優れているかどうかは個別具体論となるということである。 

Piore,M.J. and Sable,C.F.(1984)は、大量生産システムから、「柔軟な専門化」への転換、

中小企業の柔軟な分業を通じた地域産業集積について論じている。

藤川昇吾(2002)は、柔軟な専門化ではリンケージ費用が大きくなると指摘している。

藤川の言うところのリンケージ費用とは、輸送費用に、取引相手の探索、取引条件の交 渉、契約の締結、取引相手の監視といった取引費用を加えたものであり、不確実性の高い 環境下では対面接触が取引上重要となってくるとしている。しかし、現実の地域産業に埋 め込まれた(embedded)存在のプレーヤーにとっては、信頼のおけるビジネスパートナーが 多数存在している。取引費用が、柔軟な専門化を通じて膨大なものとはならないようマネ ジメントされている事例も多い点に留意する必要がある。

McCann,P.(1998)は、輸送費について、調達費用+在庫保有費用+輸送費用=ロジスティ クス費用、とトータル化し、JIT(Just In Time)と空間的集中の関係に関心を持った立地 分析を提示している。

McCann は、情報伝達費用は現代製造業にとり無視可能な費用であるが、情報の獲得は

全く異なる問題であると述べている。契約確保のために絶えざるface to faceの接触を必要 とする場合には、供給業者と顧客企業の近接立地が求められる。

この考え方に立つなら、移ろいやすい顧客ニーズ、頻繁な新製品開発の必要性等の不確 実性を有する産業は、開発、企画機能が地域的に近接立地していくことになる。

清成忠男、橋本寿朗ら(1997)は、接触の利益について、企業間の境界の曖昧性、不完全な 仕様書を前提とすると述べている。曖昧性と信頼関係をベースとして取引費用が抑えられ るのである。取引費用については、契約、制度、情報伝達に関連しており、法律と経済、

経営の学際的研究領域となっている。

(14)

Williamson,O.E.(1986)は、市場交換を内部組織に代えれば取引費用(transaction cost)が 削減されるという場合を市場の失敗と呼んでいる。

Hymer,S.H.(1976)は、産業組織、市場に問題があるからこそ、取引費用を低減するため に内部化する必要性が生じ、多国籍企業による内部化が生じると論じた。

Rugman,A.M.(1981)は、取引収益と取引費用、取引量に着目し、多国籍企業が外部市場 からの調達と内部化のどちらを選択するかについての内部化理論を提示している。

これらの理論を総合するなら、以下の通りにまとめることが出来る。

 

1) 産業集積を通じて地域産業に各種の経済性が生まれる。製造機能が集積する地域にお いては、JIT方式等により、調達費用、在庫保有費用、輸送費用をトータルで合理 的なものとする可能性がある。

2) このことは、ある企業が産業集積地域に立地した場合のメリットとなるが、その企業 個別の競争優位性を保証するものではない。

3) 成熟した低コスト志向の製品群、あるいは市場機能が未成熟な地域に関しては、巨大 な多国籍企業による内部化の方が、集積による分業形態よりも取引費用等の面で有利 な場合がある。

4) 柔軟な専門化は中小企業による分業形態であるが、規模の小さなニッチ市場、顧客 ニーズのスピーディな変化への対応に特徴がある。

5) Weberの挙げた工業立地要因は理論的な普遍性を持っているが、当時の交通網/物

流技術、情報通信網/情報通信技術を前提としており、その点を補正する必要がある 6) 移ろいやすい顧客ニーズ、頻繁な新製品開発の必要性等の不確実性を有する産業は、

現代においても開発、企画機能が地域的に近接立地していく必要性がある。

7) Kotlerらが挙げる企業誘致の際の基本条件について、地域の経営資源とインフラに

関するさらなる体系的分析を行う必要がある。

 

10.2.2 地域産業活性化に必要な経営資源 

  有益な経営資源とは何かを考える際には、野長瀬(1994)が示しているように、Man(人材)、

Machine(設備等)、Material(材料・部品等)、Money(資本)、Information(情報、技術、ノウ ハウ等)の4M1Iの体系で考える必要がある。

図10−5で示されている通り、各種経営資源を投入し、変換過程 を経て有形無形 の Product(製品)が産出されていくのが地域における企業の価値創造である。

図10−5の4M1Iの周囲を取り囲む諸機関等が、本研究においては一次インフラと 呼ぶ存在であり、10.2.3項で改めて論じる。

地域において、ある企業と、その周囲の諸機関等が、Man、Machine、Material、Money、

Informationの4M1Iを経営資源として共有しているのである。

地域企業にとっては、内部にコアとなる経営資源を持ち(内部経済)、地域全体で周辺産業

(15)

や支援機関の資源を共有する(外部経済)ことが重要となる。

ある企業が生産や研究開発等を他社に委託したり大学や公的支援機関を活用する場合、

外部経営資源を活用することになる。成長志向の中小・ベンチャー企業ほど、内部に経営 資源を揃えるのではなく、社外にパートナーを求めることになる。

そうしたパートナーは、ある一企業にとっては外部経済であっても、地域全体で共有さ れていれば、地域内の経営資源ということになる。4M1IをProductに各企業が変換す る過程をサポートし、いかに経済性や競争優位性を確保できるかが問われている。

これらの各構成要素の機能を個別に分析していくことが、地域産業政策を立案する上で は求められる。

Markusen,A.(1985)は、製品と生産要素の市場に着目し、それらの需要と供給について分 類を行い、地域市場の参加者を明示している。 

 

      図10−5 地域産業の経営資源、一次インフラ 

(野長瀬裕二、1998、広域ネットワーク時代の中小企業振興策〜プロの連帯感が支える  先進事例、地方行政 1998/9/28 号,pp2‑9,1998.)より引用 

 

Markusenは、地域市場の参加者として、生産要素については「労働、土地、資本、企業

家」の4要素としている。これは伝統的な経済学で生産要素としている労働、資本、土地 に企業家を加えたものである。

土地は地域固有のものだが、労働、資本は地元と地域外のもの、企業家については地元 出身者と移入者がある。そうした生産要素を利用する企業は、農業、鉱業、工業、建設業、

物流業、流通業、サービス業に分類され、生み出された生産財と消費財は、地域内と地域

<内部資源>

Man( 人材)

Machine( 設備等)

Material( 材料等)

Money( 資本)

Information

(情報・技術・ノウハウ)

Product

(製品)

・有形/無形

・生産財/消費財 企業内部

支援機関

公的支援機関 VC 金融機関

基盤技術を 持つ企業

各種供給業者

サービス業者 需要家

各種専門家 大学等究教育機関 公設試験場

研究機能

企業

変換 過程

<投入資源と産出>

(16)

外の需要に応じるという整理を行っている。

Markusenの分類法は、本研究における地域産業活性化策の構成要素論とは発想が異なっ

ている。本研究では、構成要素にインフラを加える点で異なっており、工業系の政策立案 に重点を置き、より網羅的に構成要素を体系化している。

  本研究においては、生み出された財(product)には、生産財と消費財があり、地域内需と 外需に分かれるという部分ではMarkusenと同様の考え方であるが、地域内に質の良い需 要家が構成要素として存在しているかを問う点で違いがある。

  顧客とのリンケージ能力が高く、厳しい品質水準を求める需要家と取り引きすることを 通じて地域産業の能力は磨かれていく。そうした需要家を需要リンケージ企業の立地とい う面で考えると、地域産業のインフラ(本研究では一次インフラ)と位置づけられることとな る。また、地域産業の経営資源については、図10−6に示される各相互関係、市場との 関係を体系的に理解する必要がある。

       図10−6 地域産業の経営資源と各種市場

  まず、情報は属人的な要素が大きい経営資源であることを理解する必要がある。

企業の情報・技術・ノウハウは、一義的には企業に機関帰属するものであるが、知的所 有権化される情報はその一部にすぎず、多くの場合、特定の人材に付随する。

Clerke,R.(1985)が指摘しているように、発明、イノベーション、普及のプロセスを経て、

人 情報

資本

設備、材料 製品

<地域産業>

<製品市場>

︿

経営資源市場﹀

資本、市場情報

経営資源、

市場情報 経営資源﹀

︿

(17)

技術は進歩し、研究は高水準の不確実性を有し、アウトプットは公共財の性格を帯びる。

  このように、情報は公共財的な性質を持つため、個人に付随するほか、ネットワーキン グを通じて地域内外で複製・共有化されることとなる。

  設備、材料については、地域外から規格化された財を購入する場合、差別化要因とはな らない。優れた地域の中小ベンチャー企業は、自社開発の設備、材料を使用し、規格化さ れた他社開発の設備、材料を改良する。

  資本は、人、設備、材料、情報を調達するために使用されるが、資本の運用については、

投融資のプロの能力や情報が必要となる。

  製品市場からは対価として資本を得る他、製品市場、需要動向、競合他社動向等の市場 情報を得る。

経営資源市場からは経営資源が確保され、価格や調達難易度等の情報が得られる。その 反面、市場を通じて地域産業の経営資源や諸情報が流出する可能性もある。

  図10−6に示されている通り、地域経営資源の中核的存在は、有益な情報を持つ人材 ということになる。そうした人材が地域外から流入し、地域の有能な人材に必要な資源が いかに供給されるかがカギとなる。

  地域産業の中核的経営資源である人材は、表10−3の通りに分類される。

  企業内の経営階層に基づき分類するなら、企業家(経営者)、管理者、従業員等に分類され る。管理者はさらに細分化することが可能である。

企業内職能に基づき分類するなら、工業集積地においては、技術者、生産技術者、技能 者が三大資源であり、その他生産管理、資材調達等の多彩な間接職能が挙げられる。

  独立性に基づき分類するなら、企業家は創業者、後継者、独立専門家に分けられるが、

最も独立心旺盛なのが創業者である。

やや独立性は下がるものの社内企業家は将来のスピンオフ候補生であり、社内専門家は 独立や移籍の機会が多く通常の従業員や管理者に比し独立性は高い。

       表10−3 地域産業の人材の分類 分類の基準 人材のタイプ

企業内経営階層 企業家、管理者、従業員、その他 企業内職能 技術者、生産技術者、技能者、その他

独立性 創業者、後継者、独立専門家、社内企業家、社内専門家、その他 所属組織 公務員、企業人、大学等の研究者、その他

所属組織に基づく分類としては、公的機関、企業、大学等の研究機関、その他の機関の いずれに所属しているかが重要である。これらの各組織の論理は大きく異なるからである。

これらの中で、地域の活力の中核となる人材は、Schumpeter(1926)が述べているように、

新結合を引き起こす企業家である。

(18)

清成忠男(1998)は、Kirzner,I.M.(1997)の企業家的発見理論をベースとして、企業家とは、

市場機会に敏感に反応する事業家であるとしている。

  各研究者達の企業家論を総合すると、予測、機敏な行動、結合、リスクテイク、利潤追 求といった諸要因が企業家の特徴である。オーストリア学派のNight,F.(1921)、Kirzner,I.M.

は、見えざる手というブラックボックスの中で企業家を取り扱うのではなく、不確実性下 でリスクをとろうとする企業家活動の意義を認めるというアプローチである。

  不確実性下で迅速に需要を確保しようとする企業家は、技術革新等のペースが速い事業 領域では不可欠の存在である。そうした企業家を支援する人材も重要である。

  我が国では、松田修一(1996)が指摘しているように、創業支援制度は年々充実しつつあり、

これまで手薄であった大学院卒企業家、技術系企業家等について、今後の地域の活力とな る可能性が残されている。

10.2.3 地域産業活性化に必要なインフラ

  図10−5は、経営資源(4M1I)と一次インフラのミックスを表現している。 

  図の周囲を取り巻く諸要素が一次インフラということになる。 

  公的支援機関、VC、金融機関、民間支援機関、エンジェル、各種専門家、大学等の教 育研究機関、公設試験場、研究機能を持つ企業、基盤技術を持つ企業、各種供給業者・サー ビス業者、需要家の12要素が一次インフラである。 

1)  公的支援機関としては、国や自治体の支援部門、それらの傘下の支援機関、第三セ クター機関等が挙げられる。 

2)  地域のVCとしては、独立系VC、地方金融機関系VC、大手VCの支店、地方自 治体系ファンド、公的VC等が挙げられる。 

3)  地域の金融機関としては、地銀、信金、信組、大手都銀の支店、公的金融機関の支 店、リース会社、公的信用保証機関、融資機能を持つ公的機関等が挙げられる。 

4)  民間支援機関としては、コンサルティング機関、調査機関等が挙げられる。 

5)  エンジェルとしては、資産を有する成功した企業家、企業家育成に熱意を持つ個人 投資家、高利回りを期待する個人投資家等、多彩な存在が挙げられる。 

6)  各種専門家としては、弁護士、弁理士、会計士等、高度な専門知識を有する人材が 挙げられる。 

7)  大学等の研究教育機関としては、大学・高専・短大、あるいは国の傘下にある研究 所、公的能力開発機関等が挙げられる。 

8)  公設試験場としては、地方自治体の傘下の工業試験場、窯業・繊維等の地場産業系 試験場、農林漁業系試験場、衛生環境系試験場等が挙げられる。 

9)  研究機能を持つ企業としては、研究開発型企業、開発部門を持つマザー工場、大手 企業・多国籍企業の研究開発拠点、民間研究企業等が挙げられる。 

(19)

10) 基盤技術を持つ企業としては、各種生産技術・技能、場合によっては設計機能を駆 使する製造企業群が挙げられる。 

11) 各種供給業者・サービス業者としては、設計、加工、材料供給、物流、情報通信、

その他事業所向け各種サービスの供給業者等が挙げられる。

12) 需要家としては、地域企業の産出する財(product)を購入する企業であり、地域産業 の能力向上に貢献する事例として、市場リンケージ機能を有し、顧客の欲する品質 等の水準を厳しく要求するリーディング企業等が挙げられる。 

  これら12要素が地域内で活躍することは、地域企業の経済性、競争優位にかかわる。 

これらの要素が地域内に無い場合、あるいはあっても量的・質的に不十分な場合、各企 業は、その機能を、地域外に求めるか、活用をあきらめるか、内部に保有するか、を選択 することとなる。 

一次インフラの質と量は、地域企業群の戦略や地域産業政策の選択肢を左右する。 

  地域にこれら一次インフラが揃っていた場合、地元密着したネットワーキング活動を日 常的に行うことが可能となる。逆にこれらが地域に不足している場合は、新しい政策を打 ち出そうとする際の制約条件となり得る。

Porter,M.E.(1990)は、顧客、供給業者、周辺産業を含む産業群からなるクラスターにつ いて論じている。Porterのダイヤモンド図によれば、生産要素の諸状況、需要の諸状況、

企業戦略/企業構造/競争状況、周辺産業/支援産業が列挙されている。

 

       

 

      図10−7 地域産業のインフラ 

(野長瀬裕二、1998、広域ネットワーク時代の中小企業振興策〜プロの連帯感が支える  先進事例、地方行政 1998/9/28 号,pp2‑9,1998.)より引用 

 

  この発想と、筆者の一次インフラの発想は近いものであるが、本研究においては、地域 産業のインフラについて、図10−7に示される通り、一次インフラ、二次インフラ、三 次インフラに分けて、さらに厳密に体系化している。 

一次インフラ

二次インフラ

三次インフラ 地域産業

  インフラ

<産業集積インフラ>

大学、公設試験場、供給業者等

<産業基盤インフラ>

交通網、通信網、エネルギー等

<QOLインフラ>

教育機関、病院、文化施設等

(20)

一次インフラとは、先に述べた通り、内部経営資源(4M1I)が不足する地域企業に外 部経営資源を提供する組織、あるいは専門家である。 

  二次インフラとは、交通網、通信網、エネルギー、水道、工業団地といった産業基盤イ ンフラである。 

  交通網としては、高速道路、高速鉄道、高速バス等の高速交通網、日常の足となる公共 交通手段として基幹道路、在来線、バス路線等が挙げられる。通信網には、放送機能を有 するCATV、光ファイバー、ADSL等による高速通信網があり、その他、電気・ガス・

上下水道、工業団地といった産業基盤が二次インフラとなる。

  三次インフラとは、教育機関、病院、文化施設、生活関連施設、レクリエーション関連 施設等のQOL(Quality of Life)関連インフラである。

  QOL関連のインフラは、住民のニーズ、今後誘致したい企業等のタイプにより、必要 とされるものが異なってくる。

  高度な研究所等を集積させたい場合、高学歴な研究者が求めるQOLがあり、大量生産 の製造工場を集積させたい場合は、それに必要なQOLがある。Kotlerら(1993)が、地域 におけるマーケティングの対象として挙げている、ビジター、住民と働く人々、企業や産 業、輸出市場、のうち、輸出市場を除いた他の3要素にQOLは関連してくる。

Evans,A.W.(1985)は、工業の集積と似た概念として 社会的集積 という概念を打ち出

している。1)友人となりたい人間を近隣の人間として得ることを望む、2)異なる人々は異な るサービスを要求し、その供給において規模の経済性が働くので、市場の大きさが必要と

なる、3)高所得の集団は好ましい自然環境に対する願望を持つ、広い敷地や庭園にも支出す

る、といった諸要素に誘導され、特定地域に特定の属性を持つ人々が集積していく。

  Evans 的な観点に立つなら、研究機関を集積させる政策を立案する場合、研究者が好む

環境を整備し、社会的集積を促進することが重要である。

 

10.3 第10章のまとめ 

本章においては、地域産業活性化策の諸構成要素について論じてきた。 

地域産業活性化策の管理過程、経営資源、インフラについて、先行研究を部分的には活 用しつつも、新しい分析のフレームワークを提示した。 

  10.1項では、地域産業活性化策の管理過程という新しい概念を打ち出し、そのため に必要な管理過程支援システムについても論じた。 

  また、管理過程において活用すべき情報を体系化し、データベース化情報/ナレッジベー ス化情報の概念を示し、その収集と活用について論じた。 

  10.2項では、地域産業活性化に必要な経営資源、インフラについて論じた。 

  まず、産業集積の経済性、近接立地のメリットにふれつつ、Weber の立地要因理論のフレー ムワークを現代流に再定義した。地域産業活性化のために必要な経営資源を4M1Iのフ レームワークにより体系化し、各経営資源間の相互関係、各種市場との関係をモデル化し

(21)

た。特に経営資源の中では、人材の重要性を示し、その類型化を行った。 

  インフラについては、一次インフラ、二次インフラ、三次インフラに類型化し、トータ ル分析するフレームワークを示した。 

  10.3項における本章のまとめをベースとし、第五部においては、地方工業集積地域 におけるグレードアップ型地域産業活性化策をいかに展開すべきかについて、地域経営資 源、地域インフラの整備策、地域イノベーション創出システム構築策を中心に提示するこ ととする。 

                                                         

(22)

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参照

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