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(1)

班 長 山 口   巖 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科 班 員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器学分野 井 上   博 富山大学第二内科 石 川 利 之 横浜市立大学附属病院循環器内科 大 江   透 岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科 小 川   聡 慶應義塾大学呼吸循環器内科 奥 村   謙 弘前大学循環器・呼吸器・腎臓内科 笠 貫   宏 東京女子医科大学循環器内科学 加 藤 貴 雄 日本医科大学内科学 鎌 倉 史 郎 国立循環器病センター心臓血管内科 小坂井 嘉 夫 宝塚市立病院心臓血管外科 小 林 洋 一 昭和大学第三内科 杉     薫 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 高 柳   寛 獨協医科大学越谷病院循環器内科 中 里 祐 二 順天堂大学循環器内科 渡 辺 一 郎 日本大学内科学系循環器内科分野 協力員 家 坂 義 人 土浦協同病院循環器内科 協力員 岩 佐   篤 弘前大学循環器・呼吸器・腎臓内科 大 西   哲 NTT 東日本関東病院循環器内科 久 賀 圭 祐 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科 熊 谷 浩一郎 福岡大学循環器科 小 林 義 典 日本医科大学内科学 里 見 和 浩 国立循環器病センター心臓血管内科 庄 田 守 男 東京女子医科大学循環器内科 住 友 直 方 日本大学小児科学 副 島 京 子 慶應義塾大学心臓病先進治療学 高 月 誠 司 慶應義塾大学呼吸循環器内科 丹 野   郁 昭和大学第三内科学 池 主 雅 臣 新潟大学医学部保健学科 永 瀬   聡 岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科 平 井 真 理 名古屋大学保健学科 藤 木   明 富山大学第二内科 安 田 正 之 順天堂大学循環器内科 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会 Ⅰ 総 論 Ⅱ 各 論 1.電気生理検査に必要な設備、技術、知識 2.洞結節機能に対する電気生理検査 3.房室ブロックに対する電気生理検査 4.脚枝ブロックおよび心室内伝導障害に対する電気生理検査 5.WPW 症候群に対する電気生理検査 6.房室回帰性頻拍以外の上室頻拍に対する電気生理検査 7.心房粗動に対する電気生理検査 8.心房細動に対する電気生理検査 9.持続性心室頻拍に対する電気生理検査 10.心室期外収縮に対する電気生理検査 11.非持続性心室頻拍に対する電気生理検査 12.心室細動に対する電気生理検査 13.QT 延長症候群に対する電気生理検査 14.Brugada 症候群に対する電気生理検査 15.原因不明の失神に対する電気生理検査 16.心肺蘇生後の患者に対する電気生理検査 17.薬物治療効果の判定のための電気生理検査 18.不整脈の外科的治療法に際しての電気生理検査 19.小児の不整脈に対する電気生理検査 20.心臓再同期療法に際しての電気生理検査 21.心臓ペースメーカ植え込みに際しての電気生理検査 22.アブレーションに際しての電気生理検査 (無断転載を禁ずる)

臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン

Guidelines for Clinical Cardiac Electrophysiologic Studies (JCS 2006)

外部評価委員 杉 本 恒 明 関東中央病院 早 川 弘 一 四谷メディカルキューブ 比江嶋 一 昌 九段坂病院 三 崎 拓 郎 富山大学第一外科 矢 野 捷 介 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学 (構成員の所属は 2006 年 11 月現在)

(2)

臨床心臓電気生理学は 1969 年の Scherlag らのヒト His 束電位記録法の確立によって進展した1).臨床心臓 電気生理検査法(以下本ガイドラインでは「電気生理検 査」と略す)はそれ以前から行われていた経静脈的心臓 ペーシングとの組合せによるものであり,以来 30 年間 にこの領域における基礎医学と臨床データの集積があり 臨床不整脈への原因究明と治療への大きな発展の時代に 貢献した.抗不整脈薬の薬理学的メカニズムは数々のイ オンチャネルの発見により電気生理学的,薬理学的分類 を生み,臨床応用に試みられた.これらの薬物治療とと もにペースメーカ治療の導入が,植込み型自動除細動器 さらには近年のアブレーション治療の発展への路を拓く ことになった.これらの薬物療法,非薬物療法の適応と 評価に常に電気生理検査が様々な形で関わってきたので あり,われわれは他の非侵襲的方法との関わりのもとに 電気生理検査の有用性と限界を,各不整脈とその背景に ある基礎疾患に合わせて思いめぐらせてきたのである. 1985 年 NASPE の合同委員会による心臓電気生理検査 に関するガイドライン2)に続き,1989 年には ACC/AHA によるガイドラインが発表され3),その後のアブレーシ ョンおよび植込み型除細動器の普及に伴い 1995 年に心 臓電気生理検査およびアブレーションについての改訂ガ イドラインが示された4) 関連するガイドラインとして,1994 年には,「一時的 経静脈ペーシングに必要な知識と技術」(ACP/ACC/ AHA)5),1994 年「心臓電気生理検査に必要な知識と技 術」(ACP/ACC/AHA)6)が,2000 年「心臓電気生理検 査,カテーテルアブレーション,カルディオバージョン の臨床上必要な知識・技術に関する ACC/AHA ステー トメント」(ACC/AHA)7),2002 年には「心臓ペースメ ー カ と 抗 不 整 脈 装 置 の 植 込 み に 関 す る ACC/AHA/ NASPE 2002年訂正ガイドライン」8),2003 年には「上室 性不整脈患者の管理に関する ACC/AHA/ESC ガイドラ イン」9)など,欧米においてはエビデンスに基づいた多 くの関連ガイドラインが発表されている. 本邦では,循環器病の診断と治療に関するガイドライ ンとして,1999−2000 年度合同研究班報告に「不整脈 の非薬物治療ガイドライン」10)が発表され,そのなかに 心臓電気生理検査,心臓ペースメーカ,カテーテルアブ レーション,植込み型除細動器,外科手術,についての記 述がある.また関連するガイドラインとして,1995 年 に「心臓ペースメーカ植込みに関するガイドライン」11) があり,2002−2003 年度合同研究班報告に「不整脈薬 物治療に関するガイドライン」が示された12) しかし,今日にいたるまで心臓電気生理検査のみを対 象とした詳細なガイドラインは存在しなかった.不整脈 研究の進展は急速であり,循環器医師にとっても,不整 脈についての知見を収集し,診療に応用していくのは容 易なことではないので,作成が望まれるところであった. 本ガイドラインは,2004−5 年度の 2 年間で,「臨床 心臓電気生理検査に関するガイドライン」作成班により, ACC/AHA のガイドライン,日本循環器学会などの関連 する既に発表されたガイドラインとの整合性を保ちなが ら,本邦独自のエビデンス,医療事情を考慮し,検討を 重ねて作成されたものである.電気生理検査は心臓の電 気生理機能評価のために行われることと並行して特殊な 電位を求めることにも主眼をおいて発展してきた.例え ば,His 束電位を記録しながら,洞結節回復時間を求め る作業である.わが国には 1977 年に臨床心臓電気生理 研究会が発足し,日本不整脈学会およびその分科会や日 本心電学会,日本循環器学会およびその地方学術会で頻 繁に症例報告の形で詳細な検討が行われてきた歴史があ り,時間的には先行する欧米のガイドラインに依存しな くても特徴を出せるのではないかと考えられる. 一般に電気生理検査によって得られるデータは,ほと んどの頻脈性不整脈の“golden standard”となりうる4).臨 床的に意義のある不整脈の診断が,心電図など非侵襲的 に明らかにできない場合には,電気生理検査の適応とな ると考えられる.しかし,予後と治療効果の判定に関し ては限界があることは,各章で述べられる通りである. また,最近のカテーテルアブレーションの発展に伴い, 多くの頻脈性不整脈が,治療の対象となっている.近年 では,心房細動,一部の心室細動なども治療の対象とな りつつある.それに伴いアブレーションとは不可分の関 係において,アブレーションの前提として電気生理検査 が行われることも多くなった.本ガイドライン作成にあ たっては,臨床研究のエビデンスに基づいて記載するよ うに努めたが,電気生理「検査」に関するエビデンスは 限られており,さらに限られたエビデンスすらも日本の 多くのガイドラインと同様に欧米におけるエビデンスに 依存するので,本邦における診療方針とは異なる可能性 を否定しえない.本ガイドラインは,日本循環器学会,

総 論

ガイドライン作成の背景

1

1

(3)

日本心臓病学会,日本不整脈学会(旧日本心臓ペーシン グ・電気生理学会),日本心電学会を母体として推薦さ れた臨床心臓電気生理の拠点施設に属する班員および協 力員により調査・研究が行われ,ガイドライン全文が全 員によってチェックされた後に,最終的に班員・協力員 の合意が得られた上で,外部評価委員により確認された. 不整脈診療に携わる医師のみでなく,広く循環器診療全 般の診療に本ガイドラインが役立つことを期待するもの である. 基本的には疾患別に記載した.既存のガイドラインと の整合性について留意するとともに,わが国における特 性を考慮した.電気生理検査そのものに関するエビデン スの文献は多くないので,文献のエビデンスレベルによ る分類は行わなかった. 電気生理検査のみにとどまらず,カテーテルアブレー ションも実施している施設が多い現状に鑑みて,カテー テルアブレーションも行っている標準的な施設を想定し て記載した.本ガイドラインでは,徐脈性不整脈,頻脈 性不整脈,ペースメーカ,植込み型除細動器,カテーテ ルアブレーション,外科的治療などに関して,適応,方 法,などについて解説を加えた. 他のガイドラインで使用されている適応分類に従っ た.すなわち, クラスⅠ:電気生理検査が有用であるというデータおよ び/または一般的合意がある場合 クラスⅡ:電気生理検査の有用性に関して相反するデー タおよび/または意見の相違のある場合 クラスⅡa:有用であるというデータおよび/または意見 が多い クラスⅡb:有用であるという確証が少ない クラスⅢ:電気生理検査が有用でなく,場合によっては 有害であるというデータおよび/または一般 的合意がある状態 しかし電気生理検査は,「検査」であり,「治療」では ない.この点で,classⅢは必ずしも「禁忌」を意味する ものではなく,医師の判断,患者の希望や状態,社会的 条件により実施されることもある,ということが強調さ れるべきである.「適応」は電気生理検査の実施を制限 するものではなく,現時点のエビデンスなどに基づいた 指針の一つと見なされるべきである. 本ガイドラインの項目を,以下に示す. 1.電気生理検査に必要な設備,技術,知識 2.洞結節機能に対する電気生理検査 3.房室ブロックに対する電気生理検査 4.脚枝ブロックおよび心室内伝導障害に対する電気 生理検査 5.WPW 症候群に対する電気生理検査 6.房室回帰性頻拍以外の上室頻拍に対する電気生理 検査 7.心房粗動に対する電気生理検査 8.心房細動に対する電気生理検査 9.持続性心室頻拍に対する電気生理検査 10.心室期外収縮に対する電気生理検査 11.非持続性心室頻拍に対する電気生理検査 12.心室細動に対する電気生理検査 13.QT 延長症候群に対する電気生理検査 14.Brugada 症候群に対する電気生理検査 15.原因不明の失神に対する電気生理検査 16.心肺蘇生後の患者に対する電気生理検査 17.薬物治療効果の判定を目的とした電気生理検査 18.不整脈の外科的治療法に際しての電気生理検査 19.小児の不整脈に対する電気生理検査 20.心臓再同期療法に際しての電気生理検査 21.心臓ペースメーカ植込みに際しての電気生理検査 22.アブレーションに際しての電気生理検査

ガイドライン作成の基本方針

2

2

適応の分類

3

3

網羅された項目および疾患

4

4

(4)

心臓電気生理検査について,必要と考えられる設備, 技術,および知識について記載した13)

1)電極カテーテル

電極カテーテルには多くの種類があるが,基本的な機 能は心腔内電位の記録と心筋の電気的刺激である. 成人に使用する電極カテーテルの太さは,通常 5−7F であり,電極数は 2 極から 20 極である.細いカテーテ ルは細い血管から挿入可能であるが,トルクが伝達しに くく操作性は太いカテーテルに比べて劣る.電極間距離 は 5−10 mm の等間隔のもの,双極電極の間隔が 2−10 mm,それぞれの双極の電極間が 2−10 mm のものなど 種々ある.電極の間隔が広がれば,広範囲の心筋電位が 記録,刺激されるが,局在性は低下する.間隔が狭けれ ばより限局された部位の電気現象が反映される.カテー テルの素材によりトルク性,柔軟性,屈曲性が異なる.最 近の電極カテーテルは先端のカーブが可動性(steerable) であるものも多く,操作性は向上している.また内腔の 空いている電極カテーテルもあり,ガイドワイヤーを通 したり,圧測定,造影などに利用可能である.さまざま な使用目的に応じて適切な電極カテーテルを選択する. その他特殊なものとして,ヘイロカテーテル Halo catheter(三尖弁輪電位マッピング用カテーテル)は, 心房粗動のアブレーションに際して三尖弁輪の興奮旋回 の方向を明らかにできる. バスケットカテーテルは心内に球形のカテーテルを展開 するタイプである.バスケットはそれぞれ 8 から 10 極 の電極のついた 5 から 8 本のスプラインを有する.バス ケットカテーテルによる多点同時電位マッピングは異所 性興奮の発生部位決定に有用である.

2)X 線装置

電極カテーテルの挿入および操作には X 線透視が必 要であり心臓血管造影室で行われる.術者が電極カテー テルを操作するには,透視画面と心腔内電位のモニター 画面を同時に確認できることが必要である.また電極カ テーテルの操作に詳細な立体的位置把握が必要な場合が 多いので,biplane 透視が望まれる.

3)記録装置

心腔内電位の記録には,フィルターにより周波数帯を 選択し,増幅器により電位の大きさを調整する.His 束 電位を含め心腔内電位記録には通常 30Hz から 500Hz の バンドパスフィルターを用いる. 電位を直接記録紙に記録する場合には,時間分解能と して 10ms の精度が必須であり,少なくとも 100mm/s の 紙送り速度が必要である.ハードディスク,磁気記録装 置,データレコーダーなどに記録を保存しておけば,後 日再検討が可能である. 徐脈性不整脈に対する電気生理検査に必要な記録装置 のチャネル数は,体表面心電図 I,aVF,V1 の 3 誘導, 心内電位記録は心房,His 束と心室電位の 3 カ所の合計 6 チャネルほどで十分である.しかし頻脈性不整脈が対

機材および設備(表

1)

14)

2

各 論

電気生理検査に必要な

設備,技術,知識

1

1

はじめに

1

表 1 電気生理検査に必須な設備 X 線透視装置 (通常の心臓カテーテルに使用する一般的設備) 二方向のシネ透視ができるとアームの移動の手間がなくアブレーションに有用 記録装置および電位モニター テープやディスクにデータを記録する.モニター電位は見易く工夫する 期外刺激,連続刺激が可能なプログラム刺激装置,出力端子は二カ所以上ある 刺激装置 ことが望ましい 通電時の温度,パワーの設定ができる.通電中の温度とインピーダンスの変化 アブレーション装置 を観察できる 除細動器 心室細動,心房細動の除細動に必要 体外ペーシング装置 一時的ペーシングに必要 緊急蘇生用器材 挿管,アンビュウバッグ,救急薬品など 設   備 内   容

(5)

象となる場合は,心腔内電位と同時に体表面 12 誘導心 電図の記録が出来ると,誘発された頻拍発作が自然発作 と対比できて便利かつ有用である. 電気生理検査専用の記録装置の多くは,多チャネル記 録を A/D 変換しハードディスクおよび光ディスクに保 存するシステムであり,近年の記録装置のハードウェア はパソコンあるいはワークステーションで,記録,表示, 解析はソフトウェアを利用して行うものがほとんどであ る.同時記録のチャネル数は 30 以上からさらに 120 を 超える装置もある.

最近では,electroanatomical mapping system のように カテーテルにより記録される電気現象と解剖学的位置を 同時に解析することにより,三次元的に興奮時相を表示 する activation map,電位波高を表示する voltage map な ど新たなマッピング技術が開発されている15)

4)刺激装置

電気生理検査では,心房・心室各所に対するプログラ ム刺激が行われる.プログラム刺激では,連続刺激,お よび単発∼通常 3 連発までの期外刺激が行われる.刺激 の間隔,パルス数,刺激パルスの強さと幅がプログラム 可能であり,刺激出力部位を複数設定できる装置である 必要がある.期外刺激の連結期の調節は,順次手動で変 更する以外に,自動であらかじめプログラムできる装置 もある. 洞周期よりわずかに短い周期で一定の幅の刺激パルス (通常は 2 ms)を加えて,心筋が興奮する最小の刺激強 度を閾値という.電圧か電流の強度で表示する.通常は 刺激閾値の 2 倍の出力で刺激を行う.洞調律において各 種の伝導時間の測定を行った後に,目的によって心房連 続刺激,心房期外刺激,心室連続刺激,心室期外刺激を 行う.刺激は必要に応じて,心房(右房,左房)および 心室(右室心尖部,右室傍 His 束領域,右室流出路,左 室など)の複数の部位から選択する.刺激の目的は,不 応期の測定,頻拍性不整脈の誘発および停止,徐脈性不 整脈の誘発,などである.一般に,刺激のプロトコール を強化(連続刺激の頻度の増加,期外刺激の連結期の短 縮)すれば,臨床的な不整脈も誘発されやすくなるが (感度が増加),非臨床的な不整脈も誘発されやすくなる (特異度が低下).したがって,症例および目的とする不 整脈によって,どのような刺激プロトコールを行うか考 慮する必要がある.

5)スタッフ

スタッフとしては,術者,助手および除細動,静注薬 の投与,人工呼吸などの患者管理(医師),記録装置お よび刺激装置の操作(医師あるいは臨床工学士),全身 管理を担当するもの(医師,看護師など),X 線透視装 置などの操作を行うスタッフ(放射線技師)が必要であ る.検査の標的となる不整脈,患者の状態などによって 異なるが,医師は 2∼4 名が必要である.また,それら のスタッフはあらゆる緊急事態,合併症に対応できる技 術と知識を有していることが必要である(表 2)14) 電気生理検査を実施するにあたって必要と考えられる 技術と知識をまとめた(表 3,4).欧米では習得に必要 な最低限のトレーニングに関して勧告もなされている7) 本邦では,植込み型除細動器および心臓再同期療法につ いては研修制度があるが,電気生理検査については認定 制度がない.

技術と知識

3

表 2 電気生理学的検査に必要なスタッフ 医   師 術者,助手,刺激装置の操作および記録装置の操作,患者の管理,など 看 護 師 カテーテルの準備,介助など 放射線技師 X 線透視装置の操作など 臨床工学士 記録装置の操作,ペーシングの補助など スタッフ 内   容 表 3 電気生理検査に必要な技術 ¡経皮的に血管を通した右心系,左心系への電極カテーテ ルの挿入(内圧測定法,冠動脈造影法,心室造影法など も含める) ¡挿入した電極カテーテルの目標部位への安全な移動操作 (His 束領域,冠静脈洞,流出路,弁輪部など) ¡心腔内の電位記録とプログラム刺激法による伝導時間と 不応期測定,頻拍の誘発と停止,旋回路のマッピング ¡合併症の認識と対処 ¡体外式除細動の使用法 ¡抗不整脈薬の使用法 ¡静脈麻酔法 ¡救急処置

(6)

1)カテーテル挿入と操作

心臓の各部位に電極カテーテルを挿入するためには 様々な血管経路と穿刺部位などの特徴を理解しておく必 要がある(表 5).

2)検査のための心臓電気生理学

(1)伝導時間 心臓の電気生理検査が His 束電位の記録から始まっ た1)ことには,房室伝導時間の測定という目的があった. 体表面心電図でも RR 間隔,P 波幅,PQ 時間,QRS 幅, QT 時間の測定がなされるが,それらに加えて電気生理 検査では AH 時間,HV 時間が測定できる(図 1).AH 時間は His 束領域の心房興奮から His 束電位までの伝導 時間で,主に房室結節の伝導時間に依存する.HV 時間 は His 束から体表面心電図 QRS 波の開始までの時間で, His 束,脚,Purkinje 線維,心室に至る経路全体が反映 される. (2)不応期 心筋活動電位の特徴は第 2 相のプラトー相が存在する ことである.そのため一度興奮した心筋細胞は再分極相 に至るまで再度興奮できない状態となり,これが不応期 にあたる.この不応期の測定は心房や心室に対する電気 生理検査でしばしば行われる. 不応期は通常基本刺激の間隔(S1−S1)に依存する ため,一定の間隔の基本刺激を 8 発行い,最後に早期刺 激(S2)を加える方法が用いられる(図 1 上).S1,S2 による心房興奮は A1, A2,心室興奮は V1, V2 と表記す る.早期刺激で心房や心室を興奮させることができない 最 大 の 刺 激 間 隔 ( S 1 S 2 ) を 刺 激 部 位 の 有 効 不 応 期 (ERP:effective refractory period)と呼ぶ.

心房から心室への伝導路(主に房室結節)の有効不応 期の測定も頻繁に行われる.この場合には機能的不応期 (FRP:functional refractory period)も測定される.FRP は最小の H1H2 間隔(HV 伝導時間が一定の場合には V1V2で代用される)である. ERP と FRP の測定は房室伝導曲線を描くと理解し易 い(図 1 下).横軸は A1A2 間隔を,縦軸は H1H2 間隔 を表わす.最初は A1A2 の短縮と一致して H1H2 が短縮 するが次第に H1H2 の短縮の程度が減少し,ERP の直 前の A1A2 では逆にそれまでより延長する.これは A2 の早期性が増すにしたがって A2H2 時間がより延長する 性質(減衰伝導)を示すことによる. 表 4 電気生理検査に必要な知識 ¡適応と禁忌 ¡合併症 ¡心腔内電位の解析 ¡心臓プログラム刺激 ¡各種不整脈の特徴と電気生理検査の意義 ¡頻拍回路・機序の同定方法 ¡抗不整脈薬の作用機序 ¡アブレーション ¡電気的安全性や放射線被曝に関する認識 ¡直流除細動 表 5 カテーテルの到達部位と穿刺経路 右房 上・下大静脈 すべての静脈 His 束 右心系 大腿静脈 左心系(大動脈弁基部) 大腿動脈 冠静脈洞 上・下大静脈 前腕静脈 鎖骨下静脈 内頸静脈 大腿静脈 左房 経心房中隔 大腿静脈(右) 逆行性 大腿動脈 右室 上・下大静脈 すべての静脈 左室 逆行性(経大動脈弁) 大腿動脈 経心房中隔 大腿静脈(右) 部位 到達経路 穿刺部位 Atrium AV node His bundle Ventricle A1 H1 V1 A1 H1 V1 A1 H1 V1 A2 H2 V2 S1 S1 S1 S2

ERP: effective refractory period 有効不応期 FRP: functional refractory period 機能的不応期

H1H2

A1A2 ERP

FRP

(7)

3)不整脈の診断と治療

機序が判明していない頻拍発作に対しては誘発試験を 行う.通常は期外刺激法を用いて不応期に至るまで刺激 間隔を短縮して行く.頻拍が誘発された場合には,頻拍 周期よりわずかに短い周期で連続刺激を加えエントレイ ンメントを試みる.リエントリ機序を診断すると同時に 頻拍回路の同定に有用である.

4)合併症と救急処置

救急用薬剤,補助呼吸装置,除細動器などが必要であ る.電気生理検査とアブレーションにおける合併症の種 類と頻度を表 6 および表 7 にまとめた16,17) 洞結節機能は,洞結節固有の自動能,周囲の洞房接合 部の伝導能および洞結節に対する自律神経,の 3 者の影 響を受ける.自動能は,洞結節内のペースメーカ細胞の 自発的な脱分極に起源を有し,通常は他の伝導系より脱 分極頻度が高いことにより,心臓全体の歩調取りとなる. 洞結節に生じた自発的興奮は,洞房接合部を介して周辺 の心房へ興奮が伝導する. 洞結節の自動能や伝導能の障害による徐脈が原因で, 失神,眼前暗黒感,などの中枢神経症状を呈するものが 洞不全症候群(洞結節機能不全)である.ペースメーカ 植え込み症例の約半数を占める. 洞結節電位が体表面からは記録できないことにより, 洞結節機能評価は,心電図,ホルター心電図などを用い て非侵襲的に行われる. 洞結節機能の亢進(洞レートの増加)は甲状腺機能亢 進症,発熱および不適切洞性頻拍(IST:inappropriate sinus tachycardia)などで認められる. 分類:洞不全症候群は,1.持続性洞性徐脈,2.洞停止 あるいは洞房ブロック,3.徐脈頻脈症候群,の 3 つの 病型に分類される18) 原因:これら洞結節機能不全は,洞結節細胞の減少・組 織の線維化などの病理学的変化を基盤に発生し,慢性的 に進行性に経過する.洞結節自体の機能障害により生じ る内因性機能障害と,洞結節機能に対する自律神経系の 調節障害あるいは他の疾患に対する薬物治療によって生 じる外因性機能障害とに分類される. 診断:洞性徐脈と症状との関連を証明することが重要で ある.心電図で徐脈と症状との関連が証明されるものに おいては一般に電気生理検査による洞結節機能評価の適 応にならない.(表 8).洞結節機能不全が疑われるもの で心電図所見と症状との関連が明らかでないときには, ホルター心電図,モニター心電図などの長時間記録によ る非侵襲的な検査が行われるが,それでも明らかでない 場合には電気生理検査による洞結節機能評価(洞結節回 復時間,洞房伝導時間,固有心拍数)を行うことが有効で ある.電気生理検査では,上室性頻脈性不整脈の有無, 房室伝導障害の有無,室房逆行伝導の有無などについて も検討し,治療方針,薬物選択あるいはペーシング治療 モード決定の参考とする. 失神,めまい,眼前暗黒感などの原因が洞結節機能不 全にあることが疑われるが,徐脈と症状の関連が心電図, ホルター心電図などの非侵襲的検査では証明できない場 合,電気生理検査の適応となる.徐脈と症状との関連が 心電図,ホルター心電図などの非侵襲的検査によって証 明され,他に房室伝導障害あるいは頻拍症などの合併が 表 6 電気生理検査の合併症(文献 4 より改変引用) 死     亡 1(0.1 %) 動 脈 損 傷 4(0.4 %) 血 栓 性 静 脈 炎 6(0.6 %) 著 明 な 血 腫 2(0.2 %) 動 脈 塞 栓 1(0.1 %) 肺  塞  栓 3(0.3 %) 心 臓 穿 孔 2(0.2 %) 低  血  圧 20(2.0 %) 合併症 発生頻度(対象 1000 例) 表 7 副伝導路のカテーテルアブレーション例における合併症 (文献 5 より改変引用) 死     亡 4(0.08 %) 心タンポナーデ 7(0.13 %) 心 嚢 水 貯 留 10(0.19 %) 脳塞栓,一過性脳虚血発作 8(0.15 %) 大 動 脈 弁 穿 孔 4(0.08 %) 僧 帽 弁 損 傷 2(0.04 %) 冠 動 脈 の 損 傷 3(0.06 %) 穿刺部位の大出血や血管損傷 3(0.06 %) 完全房室ブロック 9(0.17 %) 合併症 発生頻度(対象 5247 例)

洞結節機能に対する

電気生理検査

2

2

はじめに

1

電気生理検査の適応

2

(8)

ない患者や,無症状の洞性徐脈では,一般に電気生理検 査の必要性は低いと考えられる. 房室ブロックも含めた「徐脈性不整脈」に対する電気 生理検査の適応については,「不整脈の非薬物治療ガイ ドライン」に記載されている10) 通常は,高位右房,His 束部,右室心尖部に 4 極電極 カテーテルを置き,プログラム刺激装置によりペーシン グおよび記録を行う.心血管系,洞結節機能,自律神経 系に影響を与える薬剤は,術前半減期の 5 倍以上前に中 止しておく19)

①洞結節回復時間(sinus node recovery time;SNRT)

洞結節近傍の高位右房に置いた電極カテーテルから洞 調律のレートよりも速いレート(約 10 心拍/分速いレー トから開始して,20 心拍/分ずつ 200 心拍/分まで増加 させる)で 30 秒間ペーシングを行うことにより洞結節 自動能の抑制(overdrive suppression test)を行い, overdrive の最後の刺激による心房波から最初の洞性心 房波出現までの時間を,洞結節回復時間(sinus node recovery time;SNRT)とする20).種々のレートにおける 測定値の最長の値をその症例の SNRT とする.

②修正洞結節回復時間

(corrected sinus node recovery time;CSNRT)

洞周期(sinus cycle length;SCL)による影響を除去す るために修正洞結節回復時間(corrected sinus node recovery time;CSNRT)を測定する.SNRT から SCL を 減じて,CSNRT = SNRT − SCL で求められる21)

③洞房伝導時間(sinoatrial conduction time;SACT)

A.心房連続刺激法(Narula 法) 基本洞調律より約 10 心拍/分速いレートで連続 8 拍の ペーシングを行うことにより洞周期はリセットされるの で,ペーシング停止後の回復洞周期(ペーシングによっ て生じた最後の心房波[Al]と最初の洞結節興奮によっ て生じた心房波[A2]〕の間隔)は,逆行性の洞房伝導 時間(心房→洞結節)と,基本洞周期(SCL)と,順行 性の洞房伝導時間(洞結節→心房)の合計になる22).す なわち,A1A2 間隔=[心房→洞結節への伝導時間]+ SCL +[洞結節→心房への伝導時間].したがって,AIA2 間隔− SCL =[心房→洞結節への伝導時間]+[洞結節→ 心房への伝導時間]が往復の洞房伝導時間となる. B.心房早期刺激法(Strauss 法) 洞調律周期のおいて十分に早期の心房期外刺激(A2) を加えると,A2 は洞結節が自発興奮する前に洞結節を 脱分極させるので,洞周期がリセットされる.A2 とそ の後の最初の洞結節興奮による心房興奮(A3)間隔は, [A2A3 間隔]=[心房→洞結節への伝導時間]+ SCL + [洞結節→心房への伝導時間]となる.すなわち,A2A3 間隔− SCL =[心房→洞結節への伝導時間]+[洞結節 →心房への伝導時間] この式から,心房連続刺激法(Narula 法)と同様に SACT が求められる23)

④薬理学的自律神経遮断

(pharmacologic autonomic blockade)法:

硫酸アトロピン 0.04mg/kg およびプロプラノロール 0.2mg/kg の静注により薬理学的に自律神経が遮断され て,自律神経の影響を除去した洞結節固有の機能が評価 さ れ る2 4 ). 自 律 神 経 遮 断 後 の 心 拍 数 を , 固 有 心 拍 数 (intrinsic heart rate;IHR)とする.

⑤洞結節電位直接記録法

(sinus node electrogram;SNE)

電極カテーテルを上大静脈と右房の接合部後方に置い

電気生理検査の方法

3

表 8 洞結節機能に対する電気生理検査の適応 クラスⅠ 1.失神,めまい,眼前暗黒感などの症状を有する洞結節 機能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図 などの非侵襲的検査では証明できない患者 クラスⅡa 1.失神,めまい,眼前暗黒感などの症状を有する洞結節 機能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図 などの非侵襲的検査によって証明されており,他に房 室伝導障害あるいは頻拍症などを合併する患者 2.徐脈頻脈症候群で頻脈に対する必要不可欠な薬剤によ り徐脈の悪化をきたす患者 3.無症状の洞機能不全で洞機能不全を増悪させるおそれ のある薬剤の投与が必要な場合 クラスⅡb 1.失神,めまい,眼前暗黒感などの症状を有する洞結節 機能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図 などの非侵襲的な検査によって証明されており,その 原因が他の疾患に対する薬物治療の影響であることが 疑われる患者 2.洞結節機能不全が疑われる患者で,抗不整脈の投与によ り,洞結節機能の低下が顕在化できると考えられるもの クラスⅢ 1.失神,めまい,眼前暗黒感などの症状を有する洞結節 機能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図 などの非侵襲的検査によって証明され,他に房室伝導 障害あるいは頻拍症などを合併していない患者 2.無症状の洞性徐脈

(9)

て,感度を上げてフィルターを直流レベルから 50Hz に セットする.洞結節電位は,P 波に先行する緩徐な電位 として記録される25)

⑥洞房伝導時間直接測定法:

洞結節電位の upstroke の立ち上がりから,P 波の開始 点までの時間を直接法による SACT とする26,27)

⑦洞結節不応期(sinus node refractoriness)

心房期外刺激の連結期を短縮させることにより,洞結 節の不応期にあたると,A1A3 間隔は洞周期に一致する. この連結期を洞結節不応期(sinus node refractoriness)と する28) 洞結節機能検査のなかで最も有効であり,広く行われ ている検査は,(修正)洞結節回復時間である29,30,31).し かし,持続性洞徐脈の症例では,洞結節回復時間が高度 の延長は示さない32,33)(修正)洞結節回復時間の延長は, 洞不全症候群の 35∼93 % で認められる21,33,34).Overdrive suppression の機序には不明な点もある35)が,ペーシング 後の洞周期の延長は洞結節自動能の抑制を反映する.し かし長い洞停止の機序は主として,洞房ブロックである との報告もある36,37).徐脈頻脈症候群において臨床的に 認められる心房細動停止後の洞停止時間と,洞結節回復 時間との間には,相関が認められるとの報告38,39)と,相 関関係を否定する報告がある40) 洞不全症候群の 40 % に,洞房伝導時間の延長が認め られる41)が,持続性洞徐脈の症例では,ほとんど延長を 示さない32,33).したがって洞房伝導時間測定の感度は高 いとは言えない40,41).洞房ブロックあるいは徐脈頻脈症 候群では,78 % の症例で延長を示す33).単に洞房伝導 時間が延長しているだけで,臨床的に明らかな症状を伴 う洞房ブロックが無い症例における臨床上の意義は不明 である. 薬理学的自律神経遮断(pharmacologic autonomic blockade)法は,内因性の洞結節機能障害を明らかにす ることが可能であり,洞結節機能評価の感度を上げるこ とができると考えられている42) 洞結節電位記録の臨床的意義は確定されていないが38) 洞結節電位の記録により overdrive による洞結節回復時 間の延長が,自動能の抑制であるのか,洞房伝導の抑制 であるのかの鑑別に有用である43)

洞結節不応期(sinus node refractoriness)の臨床的意義 については確立していない.

下記に,洞結節機能の各指標の判断基準を示す.

①洞結節回復時間(sinus node recovery time;SNRT)

正常値は,基本洞周期(sinus cycle length;SCL)によ って影響されるが,おおよそ 1500 ms 未満である33,44)

②修正洞結節回復時間

(corrected sinus node recovery time;CSNRT)

SCL による影響を除去したものが修正洞結節回復時 間(corrected sinus node recovery time;CSNRT)であり, 正常値は 550ms 未満である33,40).高頻度ペーシング (Overdrive suppression test)によっても,必ずしも洞機 能不全が明らかにならない例もある.特に徐脈頻脈症候 群における心房細動停止後の長い洞停止時間と,SNRT (CSNRT) との間に相関が認められないことがある.

③洞房伝導時間(sinoatrial conduction time;SACT)

心 房 連 続 刺 激 法 ( Narula 法 ) と 心 房 早 期 刺 激 法 (Strauss 法)で測定された SACT はほぼ一致する22).洞 結節電位直接記録法による SACT は,正常洞結節機能 例では 46 − 116ms,洞不全症候群では 110 ∼ 126 ms 以 上である27).直接法による SACT は,Strauss 法および Narula 法による SACT と良好な相関を示す.

④固有心拍数(intrinsic heart rate;IHR)

正常値は,(118.1−年齢)x 0.57 の± 14 %(45 歳未 満)あるいは± 18 %(45 歳以上)である.固有心拍数 が正常値未満である例は「内因性洞結節機能障害」と判 定され,正常値にある例は「自律神経調節障害」と判定 される24)

⑤洞結節不応期(sinus node refractoriness)

洞結節不応期は正常例では 250 − 380 ms であり,洞 不全症候群では 500 − 550 ms で有意差が認められる28) 前記の判断基準の正常値から逸脱する異常値を示した 例のすべてが,ペースメーカ植え込みなどの治療を必要 とするわけではない.洞結節機能検査はその異常値と症 状との関連が証明されることによって,ペースメーカ植 え込みの適応決定に有効な手段となる.治療とくにペー スメーカ植え込みの適応における電気生理検査による洞 結節機能検査値の評価は,施設によって異なっており,

臨床的意義

4

判断基準

5

治療の適応

6

(10)

現在までエビデンスとして確立したものはなく,ペース メーカ植え込みの適否と予後との関連の追跡調査研究が 困難なことを物語っている.

1)房室ブロックの定義

房室ブロックとは,心房から心室へ刺激が伝達される 際に,刺激伝導系のいずれかの部位(房室結節,His 束, His-Purkinje 系)において,伝導の遅延または途絶が認 められるもの,と定義される.

2)房室ブロックの原因

先天性と後天性に大別される.先天性では心奇形に伴 うことが多く,修正大血管転位や心室中隔欠損を伴う心 奇形などによく認められる.後天性では伝導系を含む心 筋の虚血,炎症,変性,外傷などが原因となる.後天性 房室ブロックは,一般に加齢に伴う変性,線維化などの いわゆる特発性ともいうべき原因の明らかでないものが 多い.その他,二次的なものとして,虚血性心疾患,心 筋症,心筋炎,薬剤性,膠原病,サルコイドーシスに伴 うものなどがあげられる45)

3)後天性房室ブロックの分類

後天性房室ブロックは重症度に基づいて以下のように 分類される. 1 度房室ブロック:PR 時間が 0.20 秒以上に延長 2 度房室ブロック a.Wenckebach 型ブロック(MobitzⅠ型): PR 間隔が漸次延長して房室ブロックが出現し, ブロック回復後の PR 間隔がブロック直前の PR 間隔よりも短縮する周期を繰り返す b.MobitzⅡ型ブロック PR 間隔の延長を伴わずに突然房室ブロックが出 現する c.2:1 房室ブロック 房室伝導比が 2:1 のブロック d.高度房室ブロック 房室伝導比が 3:1 以下のブロック 3 度(完全)房室ブロック 房室伝導が完全に途絶し,房室解離を示す His 束心電図におけるブロック部位に基づいて以下のよ うに分類される. 1.A-H(His 束上)ブロック 房室結節内の伝導遅延もしくは伝導途絶 2.BH(His 束内)ブロック His 束内の伝導遅延もしくは伝導途絶 3.H-V(His 束下)ブロック His 束遠位部以下の伝導遅延もしくは伝導途絶 ブロック部位の診断をはじめ,不応期測定,下位中枢 の安定性評価および潜在性ブロックの誘発を行う46)

1)His 束電位図記録

His 束電位を記録することにより,刺激伝導系の各部 位における伝導時間測定と伝導遅延・途絶部位の診断を 行う.これにより房室ブロックは A-H,BH,H-V の 3 つの部位に分類できる.

2)漸増性心房ペーシング法

房室結節 Wenckebach 型ブロックおよび His-Purkinje 系における第 2 度以上のブロックが出現する心拍数を確 認するために行う.本ペーシング法は房室結節以下の順 行性伝導能の評価に用いられるが,多くの場合房室結節

房室ブロックに対する

電気生理検査

3

3

はじめに

1

電気生理検査の適応

2

表 9 房室ブロックに対する電気生理検査の適応 クラスⅠ 1.失神・めまいなどの症状の原因として房室ブロックが 疑われるが因果関係が不明な場合 2.2 度もしくは 3 度房室ブロックに対してペースメー カが植え込まれた症例で,ペースメーカ治療後も失 神・めまいなどの症状が存在し,その原因として他の 不整脈が疑われる場合 クラスⅡa 1.ペースメーカの適応のある房室ブロック症例で洞結節 機能の評価が必要な場合 2.2 度 Mobitz 型房室ブロック・3 度房室ブロックおよ び 2 枝または 3 枝ブロックの症例でブロック部位の 同定および洞結節機能の評価が必要な場合 クラスⅡb 1.無症状の房室ブロックで伝導障害を悪化させるおそれ のある薬剤の投与が必要な場合 クラスⅢ 1.失神・めまいなどの症状と房室ブロックとの関連が心 電図で明らかにされている場合 2.症状のない 1 度房室ブロック,2 度 Wenckebach 型 房室ブロック

電気生理検査の方法

3

(11)

Wenckebach 型ブロックが出現するペーシング拍数は検 査時点での迷走神経緊張状態をみているもので,本質的 な房室結節伝導能を示すものではない.一般的には 110 心拍/分以下の低頻度刺激で A-H の Wenckebach 型ブロ ックが出現する場合は房室結節内の伝導は異常と考えら れる.また,His 束下(H-V)の伝導においては,ペー シング拍数にかかわらず 2 度以上のブロックの出現を異 常とみなす47).150 心拍/分以下の刺激頻度でブロックが 認められる場合は不応期の異常延長(>400 ms)であり, His 束下の伝導能の障害を意味する48)

3)漸増性心室ペーシング法

室房伝導の有無を確認する目的で行われる.室房伝導 の存在は血行動態面での悪影響などの問題があり,ペー スメーカ治療に際しても評価が必要である.

4)心房期外刺激法

心房,房室結節,His-Purkinje 系の有効不応期の測定 を行うが,障害があれば正常に比べ異常な延長が認めら れる.

5)オーバードライブ抑制試験

心房オーバードライブ抑制試験では頻回刺激した後の 最大洞機能回復時間を測定し,洞機能の評価を行う.こ れはペースメーカ治療に際してペーシングモード決定に 必要である.一方,心室オーバードライブ抑制試験では, 頻回刺激後の下位補充中枢自動能の安定性の評価,ある いは潜在性ブロックの誘発(overdrive suppression of conduction)などを評価する.

6)薬物負荷試験

発作性房室ブロックなどでどうしても診断が確定しな い際に行う.薬剤負荷試験法では常に高度房室ブロック 誘発の危険性があるため,ベッドサイドでは行わず,必 ず電気生理検査時に心室ペーシングが可能な状況下で行 うべきである. 硫酸アトロピン,クラス Ia 抗不整脈薬負荷などによ る房室伝導の変化等の評価を行う.アトロピンで伝導改 善が得られない場合は,房室結節以下の刺激伝導系に器 質的障害が及ぶことが示唆される.一方,クラス Ia 薬 は His-Purkinje 系に直接作用し,潜在性伝導障害を顕在 化する.薬剤投与により H-V 時間が 2 倍以上に延長す る場合,もしくは H-V 時間が 100 ms 以上に延長する場 合,さらには 2 度以上の房室ブロックが出現した場合は His-Purkinje 系の器質的伝導障害を示唆する.低用量で ブロックが誘発されれば診断意義は大きい.現在,使用 される薬剤(使用量)はシベンゾリン(1.4 mg/kg),ジ ソピラミド(1.0 mg/kg)49),プロカインアミド(10 mg/ kg)50)などである. ブロック部位により,その臨床像が異なるため,予後 や治療方針決定という観点からも,部位診断は重要であ る.標準 12 誘導心電図や Holter 心電図,運動・薬物負 荷心電図などによる診断には限界があり,確定診断には 電気生理検査が必要である. 第 1 度ブロックでは刺激伝導系のいずれかの部位で伝 導遅延が認められるが,大部分は房室結節内(A-H)で, 自律神経(迷走神経)の緊張に伴う機能的(可逆的)ブ ロックである48).しかし,His 束内や His 束より遠位で も伝導遅延が認められることがある.これらは,A-H ブロックとは異なり,その原因として特発性,もしくは 虚血や炎症などの二次的なものによる線維化や変性等, 何らかの器質的障害が存在するものと考えられている. しばしば脚枝など His 束以下の部位での伝導障害を合併 することもまれではない.したがって,たとえ第 1 度房 室ブロックでも,BH または H-V ブロックの場合は,さ らに高度の房室ブロックへの進展の可能性が高く,とり わけ失神発作などの既往例では注意深い経過観察が必要 である.また抗不整脈薬の投与などに際しても注意が必 要である.特に脚ブロックに伴う第 1 度ブロックを認め た場合は,ブロック部位診断のため電気生理検査が不可 欠である51) 2 度 Wenckebach 型ブロックの大多数は,自律神経 (迷走神経)の緊張に伴う機能的(可逆的)ブロックで52,53)

ブロック部位は His 束上である.His 束内,His 束下で みられることは比較的まれな現象であり54),何らかの器 質的障害が存在していることを示唆している.その場合, 運動負荷など心房拍数の増加に伴い,房室伝導の増悪を 認めることが多く55,56),ほとんどの例でさらに高度房室 ブロックへ進展する.

2 度 MobitzⅡ型ブロックは His 束内あるいは His 束下 の器質的伝導障害が原因とされる.運動負荷や硫酸アト ロピンに対して,伝導は不変あるいは悪化する.さらに 高度の房室ブロックへの進展が高率に認められる. 2:1 房 室 ブ ロ ッ ク は , 心 電 図 に よ る 分 類 で は , Wenckebach 型ブロックによるものか MobitzⅡ型による ものか判定困難なため,2:1 房室ブロックは特殊なタイ プとして独立して扱われることが多い.伝導比が安定し て 2:1 伝導を示す場合,いずれの部位においても発現し

臨床的意義および判断基準

4

(12)

うるため,ブロック部位の正確な診断には電気生理検査 による His 束電位図記録が必要である. 高度房室ブロックでは,ブロック部位が His 束上で機 能的原因によるものあれば硫酸アトロピンで伝導改善が 認められるが,BH,H-V ブロックではこのような改善 は望めず,より高度のブロックまたは完全房室ブロック への移行が認められる.高度房室ブロックの臨床像はブ ロック部位より下位の補充中枢の安定性,すなわち,補 充調律の出現部位とその頻度に依存している.補充調律 拍数はブロック部位が下位になるほど低下しより不安定 であり,A-H ブロックに比して BH,H-V ブロックでは Adams-Stokes 症状や心不全症状が出現しやすい57,58) 第 3 度ブロックでは,QRS 波は基本的に下位中枢か らの補充調律であることから,高度房室ブロックと同様, ブロック部位が臨床像に大きく影響する59) 通常,A-H ブロックでは,補充収縮は房室結節の伝 導途絶部位直下で His 束近傍から出現するため,QRS 波は正常である.稀に心室から補充収縮が出現すること もあり,この場合の QRS 幅は広くなる.また元来脚ブ ロックが存在していれば補充収縮が His 束近傍からであ っても QRS 幅は広くなる.成人の第 3 度 A-H ブロック の 20-50 % では幅の広い QRS を伴うことが報告されて いる60).房室接合部の心拍は毎分 45-55 前後の頻度であ るが自律神経の緊張に左右され,アトロピンやイソプロ テレノールなどの投与では増加するなど変動が見られ る.通常は明らかな自覚症状を伴わないことも多いが, 中には長時間心停止による失神発作などが認められるこ ともある.第 3 度 BH ブロックでは,正常幅の QRS 波 を示すのが一般的であるが,約 20-30 % の例で QRS 幅 の延長を認めるとされる58,59,60).H-V ブロックの補充収 縮はすべて幅の広い QRS 波を示す.H-V ブロックの中 でしばしば問題となるのは 2 枝ブロックから 3 枝ブロッ クへの移行であり,その際は完全 H-V ブロックとなる. 2 枝ブロックは,右脚ブロック+右軸偏位もしくは右脚 ブロック+左軸偏位であり,臨床的には後者が多いが, 必ずしもすべてが 2 枝ブロックから 3 枝ブロックへ進展 する経過をたどるわけではない.2 枝ブロックが存在す る例で,進行性に第 1 度もしくは第 2 度のブロックを合 併した場合は,間欠的 3 枝ブロックの出現が考えられる. この場合は,電気生理検査が必須であり,H-V 時間が 100 ms 以上に延長している例,毎分 150 以下の心房刺 激で H-V ブロックが出現する例,心房期外刺激法によ る His-Purkinje 系の有効不応期が 450 ms 以上に延長す る例などは,3 枝ブロックへの進展する可能性が高い61) 房室ブロックに対するペースメーカ治療の適応につい ては,日本循環器学会ガイドライン 1999−2000 年度 「不整脈の非薬物治療ガイドライン」に記載されている10) 脚枝ブロックおよび心室内伝導障害は,日常の診療で 遭遇することの多い心電図異常であるが,健常者にも多 く見られ,単なる心電図学的異常に過ぎないものから突 然死を生ずるものまで多彩であり,適切な判断が要求さ れる.刺激伝導系は His 束,右脚,左脚および Purkinje 線維網からなる. (1)His 束:房室結節から連続しており,長さは 10∼ 20 mm,幅は 2∼3 mm である.まず,僧帽弁輪を心房 中隔に固定させている非常に堅固な線維性構造である中 心線維体を貫通する(His 束穿通部).その後,心室中 隔上部を前方に少し進み(非分岐部),左右の脚に分か れる(分岐部).His 束分岐部は,心室中隔上部の左室 側あるいは膜性中隔下縁にあり,数 mm にわたり左脚 を分岐した後,前方に向かい右脚に移行する.His 束の 障害は,心電図上は房室ブロックとしてみられることが 多いが,脚ブロックの形を呈することもある. (2)右脚:右脚はまず右室の心内膜側を走り,いったん 心筋層に潜行した後に右室前乳頭筋に至り,Purkinje 線 維網へ移行する.右脚は直径約 1 mm,全長約 5 cm の 細長い 1 本の筋束であり,線維群をなす左脚に比べて障 害を受けやすい. (3)左脚:左脚は His 束から分枝した後,左室中隔面か ら左室自由壁に向かう複数の線維群となる.左脚の形態 については左脚前枝と後枝の 2 枝とする説,中隔枝を含 めた 3 枝とする説,明らかな分枝はなく扇状に分布して いるという説があり,いずれも組織学的に確認されてい る62,63,64).左脚の形態には個体差が大きいが,心電図学 的には左脚を前枝と後枝の 2 枝に分類するのが一般的で ある.左脚前枝は左室の前壁寄りに分布する長く薄い構 造の線維群で,左室流出路から左室前乳頭筋の基部に向 かって分布し,Purkinje 線維網に移行する.左脚後枝の 線維は短く幅広く厚い構造で,心室中隔から左室後乳頭 筋の基部へ向かい Purkinje 線維網へと移行する.線維の構 造上,左脚後枝に比べ左脚前肢の障害の出現頻度が高い.

治療の適応

5

脚枝ブロックおよび心室内伝

導障害に対する電気生理検査

4

4

はじめに

1

(13)

(4)Purkinje 線維と心室作業筋:Purkinje 線維は心室心 内膜下で交錯し,心室作業筋と接合する.Purkinje 線維 の障害からも心室内伝導障害が生じるが,障害されやす い部位は Purkinje 線維と心室作業筋の接合部位である. QRS 波は心室作業筋の興奮により形成されるが,最初 に興奮する部位は脚に接している心筋でなく,Purkinje 線維と心室作業筋の接合部位である.従って,右室では 前乳頭筋の基部に近い心尖部から,左室では心室中隔の 中央部と左室自由壁の前方,左室自由壁の後方の傍中隔 が最も早く興奮する. 心室内伝導障害の心電図診断:表 10 に心室内伝導障害 の心電図診断基準を示す65).右脚あるいは左脚が障害さ れたものを脚ブロックという.左脚前枝あるいは後枝の 障害を分枝ブロックという.2 枝(両脚)ブロックは, 右脚ブロックに左脚前枝ブロックあるいは左脚後枝ブロ ックを合併した心電図所見を示す.3 枝が障害された場 合を 3 枝ブロックとよび,心電図上は 2 枝ブロックの所 見に第 1 度あるいは第 2 度房室ブロックを伴ったものを いう. 脚枝ブロックおよび心室内伝導障害例における房室ブ ロックの予知には,心内電位記録と心臓電気刺激による 電気生理検査が有用である66) 右房,His 束電位記録部位および右室に電極カテーテ ルを留置する.洞調律時に His 束電位図の AH および HV 間隔を計測する.His 束電位記録には,4 極以上の 多極電極カテーテルを使用する.次に,心房連続刺激に 対 す る HV 間 隔 の 反 応 , 心 房 早 期 刺 激 に よ る His-Purkinje 系の有効不応期,QRS 波形の変化や電気軸の変 化,などを測定し,心室内伝導系の機能評価を行う. 潜在的な心室内伝導障害の評価には心室連続刺激によ る His-Purkinje 系の伝導障害誘発(overdrive suppression of conduction)および薬物負荷が有用である67,68,69,70) 心室内伝導障害患者に合併する脳虚血症状の原因とし て,房室ブロックの発生ではなく心室頻拍も考慮にいれ る必要がある71).特に HV 間隔が延長している患者では, 房室伝導系の検査に加えて心室プログラム刺激を行い頻 脈性不整脈の誘発を試みることにより,徐脈性不整脈に 加えて頻脈性不整脈の評価も行う. 心室内伝導障害例では,重篤な房室ブロックへ移行す る例もあるため,房室ブロック出現の可能性の有無を検

電気生理検査の適応

2

表11 脚枝ブロックおよび心室内伝導障害に対する電気生理検査の適応 クラスⅠ 1.脚枝ブロックあるいは心室内伝導遅延のある患者で, 失神,痙攣,めまい,ふらつきなどの脳虚血症状があ るがその原因が不明の患者 2.Wide QRS tachycardia で,脚ブロックあるいは心室 内伝導障害を伴う上室頻拍と,心室頻拍との鑑別が必 要な患者 クラスⅡa 1.なし クラスⅡb 1.脚ブロックのある無症候性の患者で,伝導障害を増大 または房室ブロックを誘発するおそれのある薬剤の投 与が考慮されている患者 2.無症候性の心室内伝導障害を有する患者 クラスⅢ 1.症候性の患者で,その症候と心室内伝導障害との関連 性が心電図所見などにより除外される患者

電気生理検査の方法

3

表 10 (1)完全右脚ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒以上 ② V1 誘導における rsR'型(時に Rsr',Rr'型),陰性 T 波 ③ V5,V6 や I 誘導における QRS 波の終末部に幅広い S 波および aVR の late R 波 (2)不完全右脚ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒未満 ④ V1 誘導における rsr'型(時に rsR 型),陰性 T 波 (3)完全左脚ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒以上 ② V5,V6 や I 誘導における幅広い notch または slur の ある R 波 ③ I,V5,V6 誘導における q 波の欠如 ④ V1 ないし V2 における QRS 波の終わりの幅広い S 波 (4)不完全左脚ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒未満 ② V5,V6 や I 誘導における幅広い notch または slur の ある R 波 ③ I,V5,V6 誘導における q 波の欠如 (5)左脚前枝ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒未満 ② QRS 軸は−45 度以上左方 ③ I,aVL 誘導で qR(または R)型 ④ II,III,aVF で rS 型 (6)左脚後枝ブロック ① QRS 幅が,最も広い誘導で 0.12 秒未満 ② 臨床的に右室肥大,肺気腫,広範囲側壁梗塞や垂直心 がなく,QRS 軸が+110 度以上右方 ③ I,aVL 誘導で rS 型 ④ Ⅲ,aVF で qR 型 (7)右脚ブロック+左脚前枝ブロック 完全右脚ブロックの①,②+左脚前枝ブロックの②,③ (8)右脚ブロック+左脚後枝ブロック 完全右脚ブロックの①,②+左脚後枝ブロックの②,④ (9)非特異的心室内伝導障害 QRS 波が 0.12 秒以上を示すが,右脚ブロックあるい は左脚ブロックの形態を認めない

臨床的意義

4

(14)

討することは重要である.そのためには,QRS 波形で 診断された伝導障害部位とは異なる残りの心室内伝導系 における伝導異常の有無を検索することが必要である. 心室内伝導障害にⅠ度房室ブロックの合併している場合 は,伝導が途絶されていない心室内伝導系に伝導遅延が 依存する可能性を示唆する所見である.2 枝ブロックの 患者における HV 間隔は,残存した 1 枝の伝導時間を示 している.しかし多くのⅠ度房室ブロック例の伝導遅延 部位が房室結節であること,実際に心室内伝導系に遅延 があっても必ずしもⅠ度房室ブロックを示さないことな ど,予後の判断には限界がある.脚ブロック例に対する 平均 30 ヶ月の観察では,HV 間隔≧ 100 ms では約 25 % が第 2 度∼第 3 度房室ブロックに移行する72).第 3 度房 室ブロックの予後の予測に対して,HV 時間の測定は感 度は高い(82 %)が,特異度は低い(63 %)73).また,2 枝ブロックを伴う患者における突然死の原因の多くは, 完全房室ブロックの発生ではなく,むしろ心室性頻脈性 不整脈であるとの報告があり74),心室内伝導障害の評価 のみではなく頻脈性不整脈についても評価することが必 要である. 下記の場合に伝導障害がある,と判定する. 1)2,3 枝ブロックでは,HV 間隔が 55 ms 以上, 2)150/分以下の心房連続刺激で生ずる HV 間のブロ ック75) 3)His-Purkinje 系の有効不応期が 450 ms 以上, 4)プロカインアミド負荷(300∼1000 mg,静注)に より,HV 間隔が対照時の 2 倍以上,あるいは 100 ms 以上の延長(正常では,HV 間隔の延長は 20 % 以下である),または,His 束内や His 束以下の 2 度ないし 3 度のブロックの出現.対照時,プロカ インアミド投与後,あるいはリドカイン(1∼2 mg/kg,静注)投与後の心室連続刺激による 2 度 ないし 3 度のブロックの出現. 5)心室プログラム刺激による心室頻拍,心室細動の 誘発. ペースメーカ植え込みの適応に関しては,1999 年− 2000 年度「不整脈の非薬物療法ガイドライン」に記載 されている10) 本項における Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群 とは,特に断りのない限り,発作性頻拍症の有無にかか わらず,Kent 束の順行性伝導に起因する特徴的心電図 所見である PR 時間短縮,デルタ波および QRS 間隔延 長を有する顕性 WPW 症候群とする. WPW 症候群は,1930 年に米国の Wolff と Parkinson および英国の White の共著による「Bundle branch block with short P-R interval in healthy young people prone to paroxysmal tachycardia」と題する 11 例の本症候群に関 する論文から命名された76).それまでにも Wilson らが 症例報告をしている(1915 年)77).Wolferth らは Kent に より報告されていた筋束である Kent 束(1893 年にラッ トで発見し 1914 年にヒトでも報告)が本症候群の原因 として,1933 年に Kent 束説を提唱した78).その後本症 候群における心電図所見は詳細に検討され,Rosenbaum ら79)や Ueda ら80)により心電図所見に基づいた分類がな された. WPW 症 候 群 に 対 す る 電 気 生 理 検 査 は Durrer や Wellens らにより 1960 年代後半から開始され81,82),同じ 1960 年代の後半には副伝導路の外科的離断術が Duke 大 学グループやわが国の岩らにより開発された83,84).岩は 世界初の WPW 症候群に対する外科手術における心内膜 アプローチ法を開発した.1980 年代初めから WPW 症 候群に対してカテーテルアブレーションが行われたが当 初は直流通電が用いられ85),1980 年代後半から高周波通 電が用いられるようになった86,87)

1)WPW 症候群の疫学

地域健康集団における WPW 症候群の検出頻度は人口 1 万人当たり 6∼40 人(0.06∼0.4 %)である88,89).男性: 女性比は 1:1∼2:188,89),心臓性急死は 0∼0.0025/ patient−year(約 0.001 とするものが多い)である88,90,91) WPW 症候群の約 10 % でデルタ波が消失すること,およ び 20 % 前後の症例で頻拍発作が生ずることが報告され ている92).山梨県における 3 年間の小学校・中学校・高 校への全入学生を対象とした心電図検査では,小学生と 中学生に比し高校生で WPW 症候群の罹患が多く男女差 は無く副伝導路は左自由壁に多いと報告されている89)

判断基準

5

WPW 症候群に対する

電気生理検査

5

5

はじめに

1

(15)

2)WPW 症候群の分類

①PR 時間短縮・デルタ波・QRS 間隔延長等の特徴的 心電図所見の有無による分類 1.顕性 WPW 症候群:副伝導路(通常 Kent 束)の順 行性伝導を有し特徴的心電図所見を有する 2.潜在性 WPW 症候群:副伝導路は存在するがその 順行性伝導を有さず逆行性伝導のみを有し特徴的 心電図所見を有しない 3.間欠性 WPW 症候群:特徴的心電図所見が間欠的 に出現する ②顕性 WPW 症候群の心電図所見による分類 1.Rosenbaum の分類79) (1)A 型:V1 で R パターン (2)B 型:V1 で rS パターン 2.上田の分類(C 型を追加し,A・B・C 型に分類)80) (1)C 型:V1 で QS あるいは QR パターン 3.Rosenbaum の分類や上田の分類の A 型は左室側に, B 型は右室側に,C 型は中隔に副伝導路が存在す ることが多い. 4.典型的な心電図所見の有無による分類 (1)古典的 WPW 症候群(副伝導路は Kent 束): PR 時間< 0.12sec,QRS 間隔≧ 0.12sec,デル タ波存在 (2)異型 WPW 症候群(副伝導路は Mahaim 線維 等):PR 時間≦ 0.12 sec,QRS 間隔:0.10− 0.12 sec,小さなデルタ波,あるいは PR 時 間> 0.12 sec,QRS 間隔> 0.12 sec,デルタ波 が存在 洞調律時の顕性 WPW 症候群における PR 時間と QRS 間隔は洞結節から副伝導路までの距離や房 室結節を介する順行伝導と副伝導路の順行伝導の 時間関係等で規定される. ③副伝導路の存在(推定)部位による分類 最近は,Gallagher の分類93)や電気生理学的検査所見 等から,副伝導路の存在(推定)位置を「左側壁」のよ うに詳細に表現することも多い.アブレーションのデー タに基づき,心電図Ⅰ・Ⅱ・aVF・V1 誘導等における デルタ波開始 20 ms のデルタ波の極性による副伝導路部 位推定のアルゴリズムが Arruda ら94)により報告され近 年利用されている.

3)合併する不整脈

WPW 症候群の 10−30 % に頻脈発作が認められ る9,92,95−99),最も高頻度に合併する不整脈は正方向性房 室回帰性頻拍(orthodromic atrioventricular reciprocating tachycardia(AVRT))であり,頻脈の 70 % を占める. 心房細動は,10 % ∼38 % の患者に認められる.逆方向 性房室回帰性頻拍(antidromic AVRT)は,4 % ∼10 % の患者において認められる.Orthodromic AVRT は房室 結節を順行し副伝導路を逆行するリエントリ回路のため 頻拍中はデルタ波を認めない.Antidromic AVRT は逆に 副伝導路を心房から心室へ伝導するリエントリ回路のた め頻拍中は QRS 間隔延長が認められる.複数の副伝導 路が存在すると順行路と逆行路の組み合わせで QRS 波 形の異なった房室回帰性頻拍が出現することがある.顕 性 WPW 症候群に心房細動が合併すると,高頻度かつ不 規則な心房興奮が房室結節と副伝導路の双方を順行し両 者が様々な割合で融合した QRS 波が形成されるため偽 性心室頻拍と呼ばれ心室細動に移行することがあり, Ca 拮抗薬やジギタリスのような房室結節の伝導を抑制 したり副伝導路の伝導性を亢進させる薬物は禁忌とな る.

Permanent form of junctional reciprocating tachycardia (PJRT)は減衰伝導を呈する伝導速度の遅い副伝導路 (多くは後中隔に存在)を介する orthodromic AVRT の特 殊な型で long RP'型を呈する(「6.房室回帰性頻拍以外 の 上 室 頻 拍 」 の 項 を 参 照 ). Atriofascicular や atrioventricular pathway を形成する Mahaim 線維は通常右 房 右 室 間 に 存 在 し 左 脚 ブ ロ ッ ク 型 wide QRS の antidromic AVRT を呈する. ACC/AHA により電気生理検査およびカテーテルアブ レーションに関するガイドラインが 1995 年に報告され, WPW 症候群の電気生理検査の適応として広く受け入れ られている97).しかし,電気生理検査の安全性の向上, ハ イ リ ス ク 群 の 診 断 基 準 の 確 立 や 突 然 死 に 対 す る positive predictive value の改善が得られれば適応も変化 する可能性がある9).異型 WPW 症候群の電気生理検査 の適応に関しては,これまで明確な報告はないが,古典 的な顕性 WPW 症候群の適応に準ずる. 地域における一般住人における WPW 症候群の突然死 の頻度は,0∼0.0025/person-year 前後であり,WPW 症 候群全体では突然死の頻度は高くはない88,90,91).しかし ながら,心停止から蘇生された若年症例の 10 % 以上に

電気生理検査の適応

2

図 1 伝導時間と不応期の測定

参照

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