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哺乳類科学 51(2): ,2011 日本哺乳類学会 337 報 告 ベトナム中部とラオス中南部にまたがる中部チュオンソン山地系地域の生物多様性とその保護 濱田穣 京都大学霊長類研究所進化形態分野 摘要ラオス中南部とベトナム中部にまたがり, 南北に走るチュオンソン山地中部 ( 北緯 16

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日本哺乳類学会

ベトナム中部とラオス中南部にまたがる

中部チュオンソン山地系地域の生物多様性とその保護

濱 田   穣

京都大学霊長類研究所進化形態分野 摘 要 ラオス中南部とベトナム中部にまたがり,南北に走る チュオンソン山地中部(北緯 16.9–13.5 度)とその周辺 地域は,生物多様性が非常に高く,固有種や稀少種も多 く棲息し,哺乳類の新種も見つかっている.それは,こ の地域が発達した山地を含めて複雑な環境を擁するこ と,氷期には複数のレフュージア(避難所)となったこ となどによるものと思われる.多くの哺乳動物を含む動 物や植物の生物学の解明には,非常に重要な地域である. この地域は従来,開発が遅れていたが,インドシナ戦争 後に独立したラオスおよびベトナムは著しい経済発展を 遂げつつあり,とくに市場経済の導入によって農林業の 開発が急速に進んだ.それとともに山地・森林に住み, 循環農業と非木材森林産物の採集などによる伝統的農林 業を営んでいた,おもに少数民族(山岳民族)の住民を 山から低地へ,森林から道路付近へ移住させる政策,あ るいは伝統的農林業を規制する政策が実施された.小規 模で自給自足的農業を営むこの地域の住民の多くは,両 国において低所得層に入り,森林資源に依存している. 両国の政府は中部チュオンソン山地系地域にかなりの面 積の保全地域を設定し,管理官庁(委員会や事務所)が 野生生物の保護と保全地域管理にあたっているが,遂行 能力,装備と予算の不足から十分ではない.野生生物と その生息地を取巻く社会経済環境は,ベトナムとラオス において正反対なところもあるが,小規模の低所得農民 が多いことは共通している.現在,中部チュオンソン山 地系地域では,盛んに水力発電施設や道路が建設されつ つある.今後,農林産物の貿易自由化が進めば,ベトナ ムもラオスも世界的な農林業動向に組み込まれ,大規模 企業的農林業が拡大し,野生生物の生息地が失なわれる. それとともに,農林業では生活を営めないうえに生業転 換できない住民はやがて貧困化し,森林資源の取出し(伐 採,狩猟と採集)や開墾などによって,中部チュオンソ ン山地系地域における野生生物の生息地は広範に失われ るだろう.その結果として,固有種を含めた地域集団が 絶滅し,野生生物の多様性が大きく損なわれるおそれが ある.その打開のためには,周辺住民の森林資源の適正 利用を含む生計の改善,保全地域外地域を含めた野生生 物とその生息地の保全活動の強化が必要であるが,その ためには管理担当官庁の能力と装備の向上と予算の増 大,周辺住民による管理への参与と民政や土地利用など 保護に関係する政策立案への関与が必須である.これら の施策は官民に加えて,科学的な研究と実践を行うこと のできる有識者(集団)であるところの大学や研究機関 の関与が必須である.そして日本をはじめとする先進諸 国は,そうした機関への協力が必要である. は じ め に 中部チュオンソン山地系地域は,ラオス人民民主義共 和国(Lao People’s Democratic Republic,以下ラオス)の 中南部地域とベトナム(Vietnam)中部地域にあり(図 1, 2),豊かな森林環境をもち,哺乳類をはじめとする野生 生物の多様性が豊かである.この稿では中部チュオンソ ン山地系地域を,南北に走る山系の北緯 16.9 度から 13.5 度までと,その周辺地域と定義する.現在,その地域に おける生物多様性は,狩猟や生息地喪失によって失われ つつある.中部チュオンソン山地系地域における社会・ 経済・環境の現状分析から将来を予想し,今後の多様性 保護の道を考えてみたい. 中部チュオンソン山地系地域の自然環境 1.地理的条件 ラオスとベトナムは,インドシナ半島の東に位置し,

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南北に長く,北は中国と,西はタイ,カンボジア,およ びミャンマーと接し,ベトナムの東は南シナ海に面して いる.ラオスは内陸国である.チュオンソン山地は,ラ オス北部の北緯 22 度より始まり,ベトナムの北緯 11 度 まで,ベトナムとラオスにまたがって南北に連なってい る.チュオンソン Truongson はベトナム語で「長山」を 意味し,チュオンソン山地は,ラオスではサイ・プー・ ルーアン Say Phou Louang と呼ばれている.かつてはア ンナム山地 Annamite Range(Cordirella, mountain chain)と されていたが,フランス保護国(植民地)時代の言葉で あるので,ここではベトナムでの呼称を用いることにす る.地方行政単位は,ベトナムでは省(ダナンは中央直 轄市),ラオスでは県を用いる(図 1). チュオンソン山地は大きく,三つの地域(北部・中部・ 南部)に分けられる.図 2 は,これらのうち北部の南半 分と中部を示す.1)北部:ラオスは北部(北緯 22 度) から,ベトナムではゲアン Nghe An 省(北緯 20 度) から,北緯 16.9 度付近まで.ラオス側の山地は発達し ていて,ボーリカムサイ Bolikhamxai 県からカンムアン Khammouane県にかけては,標高 2,288 m の高峰をもつ が,その南のサバンナケート Savannakhet 県には高い山 がなく,山地が途切れている.ベトナム側では,北には 発達したカルスト地形もみられるが,標高 1,300 m まで の低めの山地で,クァンチ省のケサン市 Khe Sanh 付近で 山地は途切れる.山地が途切れた部分に国道 9 号線が両 国を結んで東西に走る.2)中部:北緯 16.9 度から,ベ トナムの北緯 13–13.5 度ソンバ – ダラン河 Song Ba–Da Rangまで.ラオス側では南端まで,さらにカンボジア東 北部から東部にかけて山地は連続している.中部の中ほ どにンゴックリン山 Ngoc Linh(2,598 m)を含むコンツ ム山塊(Kon Tum Massif)がある.北緯 16 度付近で山地 は東へも伸び,バックマ Bach Ma 山,ハイヴァン Hai Van 峠を経てダナン市 Da Nang のソンチャ半島 Son Tra まで つながる.最も南にプレイク高地 Play Ku Plateau があり, ダクラック高地 Dak Lak Highland との間を流れるソンバ

–ダラン河が境界となる.3)南部:ソンバ – ダラン河右岸 のダクラック高地から北緯 11 度まで.中部と南部でチュ オンソン山地は南シナ海近くまで発達していて,海岸沿 いの平地は狭い.ここで注目する中部チュオンソン山地 系地域は,2)と,その西にあるボラーベン高原 Bolaven Plateauなどのメコン河左岸,ラオス中南部の山地,なら びにこれら山地の周辺地域である. チュオンソン山地はベトナムの主要な集水域となって いる.ベトナム中部の河川は,多くはチュオンソン山地 図 1.中部チュオンソン山地系地域のあるラオス中南部とベトナム中部とその周辺地域の行政区画.

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から東方,南シナ海へ流れ,その間に盆地や狭い平野を 形成している.山地の西側にはラオスやカンボジアから のメコン河支流(セコン,セサン,スレポック河,およ びそれらの支流など)があり,西へ流れている.ラオス ではチュオンソン山地からの河川はすべてメコン河の支 流である.このためラオス中南部は地形的には,西から メコン河流域,中間緩斜地域,そしてチュオンソン山地 域という三つの地域に分けられる.メコン河流域は氾濫 原でもあり,土壌は肥沃だが,しばしば洪水被害をこう むる.中間緩斜地域は乾燥し,またその土壌は酸性で肥 沃ではない.チュオンソン山地域は,季節風の影響を受 け,年間降雨量は 2,500–3,000 mm もあるが(Duckworth et al. 1999),土地は酸性で保水力に欠け,あまり肥沃で はない.ラオス中部を流れる河川は,乾季には水量が限 られるが,ラオス南部のセコン,セカマン,セスー河な どは,流量も豊かである. 2.気候と植生 中部チュオンソン山地系地域のあるベトナム中部と ラオス中南部は,基本的には,モンスーン性の熱帯か ら亜熱帯気候である.ベトナム中部では,季節性が顕著 であり,フエ市では 9–12 月に年降水量の 3/4 に近い雨が 降る(9–12 月の合計平均降水量=1,362 mm:URL: http:// worldweatheronline.com/weather-averages/Vietnam/25603/ Hue/258075/info.aspx,最終確認日2011年11月14日).その 植生は熱帯から亜熱帯の植物相の混合で,さらに緯度, 標高,および土壌の質によって変化することもあって, 多様であり,かつ固有種が多い.標高 800 m までがフタ バガキ Dipterocarpus,ヤシ,蔓植物の多い常緑広葉樹林 で,800 m 以上では温帯林要素が多くなる(Sterling et al. 2006).さらに 1,000 m 以上になると山地林要素が優占 し,シャクナゲ類(Rhododendron)が多くなり,稜線や 山頂に針葉樹の毬果樹(松など)が多く生え,ヒバ類の 一種(Fokienia hodginsii),イヌマキ類(Podocarpaceae), イチイ類(Taxaceae),イヌガヤ類(Cephalotaxaceae)な ども多い(Sterling et al. 2006).内陸にあるラオス中南部 のメコン河流域と中間緩斜地域の気候は,タイ東北地方 と同じように,乾燥していて,季節性が強く,落葉性(乾 燥)フタバガキ林の疎林となっている.チュオンソン山 地域では,ベトナム側と同様,標高 1,000 m を境に,上 図 2.ラオス中南部とベトナム中部の山地(四角内が中部チュオンソン山地系地域).チュオンソン山脈は国境部分で北西から南東へ 走る.▲は標高 1,400 m 以上,△は標高 2,000 m 以上の山.

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部には山地常緑林が形成されるが,1,000 m 以下では,混 交落葉樹林が形成される.ラオス南部のボラーベン高原 は,年間降雨量 2,500–3,700 mm と多く(URL: http://www. laos.co.uk/Weather.html,最終確認日 2011 年 11 月 14 日), 旧火山なので土地は肥沃であり,生態学的に独特な野生 生物の生息地となっている.このように,ラオス中南部 にも多様な森林環境がある. 中部チュオンソン山地系地域の森林は,両国で手つか ずの原生林,もしくはサイクルの長い循環農業の休閑期 二次林であった.しかしベトナム戦争中,物資の輸送路 のホーチミンルートがチュオンソン山地中にあり,その ルートを中心とした地域は,米軍の爆撃,ナパーム弾に よる焼却,および枯葉剤(エージェント・オレンジ,ダ イオキシンを含む)の散布によって破壊された.自然が 回復した部分もあるが,いまだに草原や荒地のままであ る地域も広い.また,広い地域に地雷が残されていて, 現在も事故が起こっている.1975 年の戦争終了後,森林 は大規模に伐採され(政府に認められた伐採と盗伐),人 口増加や移住民によって急速に人の手が入り,農耕地, 道路,ダム,および居住区が作られている.ラオスでは 道路建設の資金獲得のための広域伐採も行われている. 沼沢地も,その多くが農業用地に変換されたため,水生 生物の生息地の減少も進んだ. 脊 椎 動 物 相 チュオンソン山地とそれにつながる低地地域は,近隣 のタイ東北地方やベトナム南部地域にくらべて脊椎動物 相の多様性が高く,固有種も多い.固有種にはドゥクラ ングール 3 種(Pygathrix spp.),コサンケイ(Lophura

edwardsi),チュオンソントビカエル(Truongson flying

frog, Rhacophorus annamensis)などがある.1990 年以降,

発見された種にサオラ(Pseudoryx nghetinhensis,1993 年 記載),チュオンソンホエジカ(Muntiacus truongsonensis, 1997 年記載)やアンナムシマウサギ(Nesolagus timminsi, 2000 年記載)がある.中部チュオンソン山地系地域のす ぐ北に隣接するラオスのカンムアン県では,ラオスイワ ネズミ(Laotian rock rat, Laonastes aenigmamus)が 2004 年 に新種記載された(Jenkins et al. 2004).本種の近縁種は 中新世に見られるだけであり,現生哺乳類の新しい科と なった(Huchon et al. 2007).鳥類では,ズグロシマドリ (Actinodura sodangorum)が 1999 年に記載されている.魚 類,両生類,爬虫類の新記載種も多数ある. 大型哺乳類を含む豊かな多様性は,(1)多様な環境が あること,(2)アジア大陸の中で北から,西から,およ び東南アジア島嶼部からの動物相の分散ルートとなった こと,(3)この山地とその周辺地域が,長い期間にわたっ て安定的な環境だったため,古い種が保存されているこ と(サオラ,アンナムシマウサギやクレンプマツなど), (4)あるいは他の地域と隔離されていた期間に,新しい 種・亜種が形成されたこと(ドゥクラングール 3 種や

Nomascus属テナガザルの種など;Jablonski 1997;Mootnick

and Fan 2011),(5)そして人類の活動が近年まで比較的少 なかったことによると考えられる.1988 年にコンサベー ション・インターナショナルが東南アジア大陸部を中心 に,インド東北地方,バングラデシュの東部,および中国 南部の地域を,インド-ミャンマー生物多様性ホットス ポットに指定した(URL: http://www.biodiversityhotspots. org/xp/hotspots/indo_burma/Pages/default.aspx,最終確認日 2011 年 11 月 14 日).中部チュオンソン山地系地域は,そ の一角を占め,その中でも特に固有性の高い地域である. この地域の野生脊椎動物の多様性と分布状況はまだ不十 分にしか知られておらず,系統地理学・進化史的含意に ついて,詳しい調査研究が待望されている. 1.哺乳類 ベトナム中部とラオス中南部では,ほぼ同様の哺乳類 相が見られる.大型哺乳類ではアジアゾウ(Elephas

maximus),トラ(Panthera tigris),クマ(ツキノワグマ,

Ursus thibetanusとマレーグマ,Ursus (Helarctos) malayanus

の 2 種),ジャワサイ(Rhinoceros sondaicus)もしくはスマ トラサイ(Dicerorhinus sumatrensis),マレーバク(Tapirus

indicus),サオラ,クープレイ(Kouprey, Bos sauveli),ガウル

(Bos gaurus),スマトラカモシカ(Capricornis sumatraensis), 野生アジアスイギュウ(Bubalus arnee (bubalis))が,中 型哺乳類では霊長類,マレーヒヨケザル(Cynocephalus

variegatus),ドール(Cuon alpinus),ネコ類,ジャコウ

ネコ類,ムササビ類,リス類などが挙げられる(Sterling

et al. 2006;Can et al. 2008).食肉目はベトナムに分布す

る 39 種の 3/4 の種が見られる.このうちジャコウネコ科 やネコ科では,大半の種が分布している.また偶蹄類は 19 種中 16 種を数える.20 世紀初めには,これよりも多 くいたが,数種の地域集団が絶滅したと推測される (Sterling et al. 2006).野生アジアスイギュウは絶滅し,エ ルドジカ(Cervus eldii)とホッグジカ(Axis porcinus)は 絶滅に近い.このように,中型 - 大型哺乳類は狩猟や生 息地の喪失や質の低下によって激減していると考えられ る.他にもアジアゾウ,ガウル,トラ,ツキノワグマも 絶滅が危惧されている.

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査は,比較的最近に,ベトナムとラオス両国の政府機関 と国際的保護団体の世界野生生物保護基金(WWF),野 生生物保護協会(WCS),国際自然保護連合(IUCN) などによって行われ,その結果がレポートされている (ベトナムでは Dickinson and Thinh 2006;ラオスでは

Duckworth et al. 1999).これらの調査では直接観察,カメ ラ・トラップによる捕捉,周辺住民へのインタビューに よって分布種の確認が行われている.以下に概要を記す. なお,和名は今泉(1988)に従ったが,それ以降のもの は本稿で与えた. i)ベトナム中部の哺乳類 ベトナム中部における比較的最近の哺乳類の存否調査 は,WWF が 2004–2007 年に行った緑の回廊森林ランド スケープ調査の一環として,2005–2006 年にトゥアティ エン=フエ省で中型以上の種に関して行われたものであ る(Thinh, V. N., Thanh, V. N., Tuoc, D., Hoang, M., Dat, L. Tl., Ha, N. M. and Dkikinson, C. An Assessment of the

Mam-mal Fauna of the Green Corridor Forest Landscape, Thua

Thien Hue Province, Vietnam. Report No 6: Green Corridor

Project, WWF Greater Mekong & Vietnam Country Programme and FPD Thua Thien Hue Province, Vietnam.

WWF. URL: http://www.huegreencorridor.org/,最終確認日 2011 年 12 月 8 日).その結果,7 目 21 科 54 種の中型以上 の哺乳類が確認され,そのうち絶滅危惧,稀少性,地域 固有性などの点で注目される哺乳類は 34 種が確認され た(表 1;分類群の記載順は Macdonald 2010 に準じた). このうちベトナム・レッドデータブック(2007 年刊)で 25 種が絶滅危惧 IA 類(Critically endangered; CR)から絶 滅危惧 II 類(Vulnerable; VU)に指定され,1 種がデー タ不足(Data deficient; DD)となっている.また,IUCN レッドリスト(2007 年)では 29 種が CR から NT(Near

Threatened)に指定され,5 種が DD 種となっている.この

ような危惧レベル指定のほかに,ベトナムでは政令(48/ 2002/ND-CP とその後に出された 32/2006/ND-CP)に よって,私的利用(exploitation)と商業目的の利用(using

for commercial purposes)が禁止(Prohibited, IB 類)もし

くは制限(restricted, IIB 類)されている.この WWF に よる調査では,8 種の霊長類が確認されたが,フェイ ヤーラングール(Trachypithecus phayrei),シルバーラ ングール(Trachypithecus cristatus),およびアッサムモ ンキー(Macaca assamensis)が確認されていない.霊長 類 調 査 か ら,ア カ ス ネ ド ゥ ク ラ ン グ ー ル(Pygathrix nemaeus)8 集団,クレストテナガザル属 Nomascus 60 集 団(この調査では種分類がされていないが,その後 の研究によってキタウスキイロホオテナガザル(N.

annamensis)とされた;Thinh et al. 2010)が確認されて

いる.ほぼ同緯度のラオスにおける分布状況(表 1)と くらべると,ベトナムでは食肉類のトラ,ウンピョ ウ(Pardofelis (Neofelis) nebulosa),ベンガルヤマネコ (Prionailurus bengalensis),ドールやツキノワグマなど多 数の種が確認されているが,ゾウや大型ウシ類が確認さ れていない. ii)ラオス中南部の哺乳類 ラオスでは 1990 年代に全国各地で調査が実施された (Duckworth et al. 1999).図 3 にはラオス中南部(サバン ナケート県以南)の国立保全地域(National Protected Area,

NPA; I~ VII),および県立保全地域と注目される地域(a から f)を示す.分布が予想される哺乳類の存否確認の リストを表 1 に示す(Duckworth et al. 1999 より抜粋,ロー マ数字とアルファベットは,それぞれ図 3 に示す地域に 対応する). アジアゾウは 10 カ所で確認され,1 カ所で暫定的な確 認(以下,10 + 1 カ所のように表す)があるなど,多く の地域で確認されている.オオグロリス(Ratufa bicolor) は多くの地域で確認されているが,ムササビ類(例,オ レンジクサビオモモンガ Hylopetes spadiceus)は,広い範 囲に分布していると思われるのに,確認されていない.こ れらの樹上性哺乳類に関して,十分な調査がない,もし くはインタビュー調査において住民の関心が低いため, 確認されなかった可能性が考えられる.また,アンナム シマウサギはまったく確認されていない.本種は,2007 年に中部チュオンソン山地系地域より少し北のナカイナ ムトゥン国立保全地域 Nakai Nam Theun(カンムアン県, 図 1)でオオツノホエジカ(Muntiacus vuquangensis)な どとともにカメラ・トラップによって確認されている (Wildlifeextra.com, Large-antlered Muntjac photographed for first time. URL:

http://www.wildlifeextra.com/go/news/large-antlered_muntjac.html#cr,最終確認日 2011 年 11 月 14 日).

霊長類は原猿類のベンガルスローロリス(Nycticebus

bengalensis)とピグミーロリス(Nycticebus pygmaeus)が

見出されたが,ベンガルスローロリスが 5 + 1 カ所で, ピグミーロリスが 2 + 1 カ所と,確認された地域は少な い(表 1).キタブタオザル(M. leonina)は,確認され た頻度が高い.アッサムモンキーは 1 + 2 カ所のみであ るが,確認されたのがボラーベン高原のドンフアサオ NPA(北緯 15 度,図 3 の V)であることが注目される.カ ニクイザル(Macaca fascicularis)は,北緯 15 度以南の 多くの地域で確認され,アカゲザル(Macaca mulatta)は 東北ボラーベン県立保全地域(図 3 の d)が確認された 地点の最も南であり,セピアン NPA(図 3 の VI)では確

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表1 . ベトナム中部とラオス中南部 ( サ バンナケート県以南 ) に 分布していると思われる ,地域固有性 ,稀少性 などの点で注目される中型以上の哺乳類の分布調査結果 ( Thinh et al. 2006; Duckworth et al. 1999 より改変) 和名 英語名 学名 保護のレベル * 1 調査地 ベトナム 調査地 ラオス中南部 * 2, 3 ベトナム 政令 48,32 * 4 ベトナム RD B 2007 * 5 IUCN 2007 * 6 CITES 2006 * 7 トゥア ティエン =フエ省 ドンプー ヴィエン NPA I セサ ップ NPA II セバンヌ アン NPA III プーシャ ントン NPA IV ドンフア サオ NPA V セピアン NPA VI ドンアン ファン NPA VII プーアヒョン ( Phou Ahyon ) a ダクチュン 高原 Dakchun ) b プーカトン 県立保全 地域 c 東北 ボラーベン 県立保全 地域 d 東南 ボラーベン 県立保全 地域 e ナムゴン 県立保全 地域 f 長鼻目 Proboscidea アジアゾウ Asian E lephant Elephas maximus IB CR EN I X ? X X + XX XXXXX ゲッ歯目 Rodentia オオグロリス Black Giant Squirrel Ratufa bicolor — V U L R /l c II * XXXXXX X X ベトナムリス Inornate Squirrel Ca llos ciur u s inor natus — — LR/lc — ケアシモモンンガ Hair y-f ooted Flying Squirrel Belomys pearsonii — C R L R/nt — オレンジクサビオ モモンガ Red-cheeked Flying Squirrel Hylopetes spadiceus IIB — LR/lc — ソメワケクサビオ モモンガ Particolored Flying Squirrel Hylopetes alboniger IIB VU EN — シロミミクサビオ モモンガ Phayre’s Flying Squirrel

Hylopetes phayrei IIB VU LR/lc — ? 小型モモンガ

Small Flying Squirrel

XX

X

X

オオアカムササビ

Red Giant Flying Squirrel

Petaur ista petauris ta IIB — LC — * マレーヤマアラシ East As ian Porcupine Hystr ix br achyura — — V U — X XXXXXXXXX 兎目 Lagomorpha アンナムシマウサギ

Annamite Striped Rabbit

N esolagus timmins i —E N D D — 霊長目 Pr imates ベンガルスローロリス

Bengal Slow Loris

Nycticebus bengalensis IB VU DD II * ? X X X X X ピグミーロリス Pygmy Loris Nycticebus pygmaeus IB VU VU II * ? X X キタブタオザル

Northern Pig- tailed Macaque

Macaca leonina II B V U V U II * X XXXXX ? XXX アッサムモンキー Assamese Macaque Macaca assamensis IIB VU VU II * X ? アカゲザル Rhesus M acaqu e Macaca mulatta IIB LR LR/nt II * ? X ? ? X カニクイザル Long-tailed Macaque Macaca fas cicularis fas cicularis IIB LR LR/nt II * X X X ? X ベニガオザル Stump-tailed Macaque Macaca arctoides IIB VU VU II * ? ? ? X フランソワラングール Francois’s Langur Trachypithecus fra n cois i IB EN VU II シルバーラングール Silvered L angur Trachypithecus germaini or T. cristatus IB VU DD II ? ? X X X ? ? X X

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表1 .(続き) 和名 英語名 学名 保護のレベル * 1 調査地 ベトナム 調査地 ラオス中南部 * 2, 3 ベトナム 政令 48,32 * 4 ベトナム RD B 2007 * 5 IUCN 2007 * 6 CITES 2006 * 7 トゥア ティエン =フエ省 ドンプー ヴィエン NPA I セサ ップ NPA II セバンヌ アン NPA III プーシャ ントン NPA IV ドンフア サオ NPA V セピアン NPA VI ドンアン ファン NPA VII プーアヒョン ( Phou Ahyon ) a ダクチュン 高原 Dakchun ) b プーカトン 県立保全 地域 c 東北 ボラーベン 県立保全 地域 d 東南 ボラーベン 県立保全 地域 e ナムゴン 県立保全 地域 f フェイヤーラングール Phayre’s Langur Trachyipithecus phayrei or T. crepusculus IB VU LR/lc II ラオラングール Lao Langur T. laotum ドゥクラングール類  3種 Douc Langur Pygathr ix spp. IB EN EN I * X ? X ? X X X ? X ホオジロ /ホオキイロ テナガザル(トサカテ ナガザル類) White-cheeked / Yellow-cheeked Gibbon Nomascus leucogenys , N. l. siki, N. l. gabriellae IB E N V U , D D I * XXXXXXXX X XXX ツパイ目 Scandentia キタホソオツパイ

Mainland Slender- tailed Tree Shr

ew Dendrogale mu rina —— L R /1 c — XX 皮翼目 Dermoptera マレーヒヨケザル Sunda Colugo Cynocephalus (Galeopter us ) variegatus IB E N L R /1 c — * 有鱗目 Pholidota ミミセンザンコウ Chines e Pangolin Manis pentadactyla IB EN LR/nt II X X X X ? X マレーセンザンコウ Sunda Pangolin Manis javanica IIB EN LR/nt II * ? X ? X X 食肉目 Carnivora キバライタチ Yellow-b ellied Weasel Mus tela kath iah IIB — LR/lc — タイリクイタチ Siber ian Weas el Mus tela sibirica セスジイタチ Back-str iped Weasel Mus tela strigidorsa IIB — VU — イタチ(種) Weasel Mus tela sp. ブタバナアナグマ Hog Badger Arctonyx collar is — — LR/lc — ? ? ? X ? インドイタチアナグマ

Large-toothed Ferret Badger Melogale pers onata —— L R /l c — * シナイタチアナグマ

Small-toothed Ferret Badger Melogale moschata — — LR/lc — イタチアナグマ(種) Ferret Badger Melogale sp. ビロードカワウソ Smooth-co ated Otter Lutroga le pers picillata IB EN VU II X X コツメカワウソ

Oriental Small- clawed Otter Amblonyx cin er eus IB VU L R /nt II * X ? X X ユーラシアカワウソ Euras ian Otter Lutra lutr a IB VU LR/nt I * カワウソ(種) Otter Lutrinae sp. X ? X X X ツキノワグマ

Asiatic Black Bear

Ur sus thibetanus IB EN VU I * X ? ? ? ? ? ? マレーグマ Sun Bear Ursus (Helarctos ) malayanus IB E N D D I * ? ? XXXX ? X クマ(種) Bear Ursus sp . X X X X X X X X

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表1 .(続き) 和名 英語名 学名 保護のレベル * 1 調査地 ベトナム 調査地 ラオス中南部 * 2, 3 ベトナム 政令 48,32 * 4 ベトナム RD B 2007 * 5 IUCN 2007 * 6 CITES 2006 * 7 トゥア ティエン =フエ省 ドンプー ヴィエン NPA I セサ ップ NPA II セバンヌ アン NPA III プーシャ ントン NPA IV ドンフア サオ NPA V セピアン NPA VI ドンアン ファン NPA VII プーアヒョン ( Phou Ahyon ) a ダクチュン 高原 Dakchun ) b プーカトン 県立保全 地域 c 東北 ボラーベン 県立保全 地域 d 東南 ボラーベン 県立保全 地域 e ナムゴン 県立保全 地域 f キンイロジャッカル Golden J ackal Canis aur eus IIB DD LR/lc — ? X ? ? ドール Dhole Cuon alpinus IB EN EN II * ? ? ? X X ? ? ? ジャングルキャット Jungle Cat Felis chaus IB DD LR/lc II スナドリネコ Fishing Cat Prionailur u s viverrinus IB EN VU II ? ? X ベンガルヤマネコ Leopard Cat Prionailur u s bengalensis IB — LC II * アジアゴールデン キャット Asian Golden Cat Catopuma temminckii IB E N VU I * ? ? X ? ? マーブルキャット Marbled Cat Pardofelis marmor ata IB VU VU I ウンピョウ Clouded Leopard Pardofelis (Neofelis ) nebulosa IB E N VU I * ? X 中型ネコ(種) Medium-sized Cat X X ヒョウ Leopard Panther a pardus IB C R L R /l c I ?? ? ? ?? ? X トラ Tiger Panther a tigris IB CR EN I * ? X X X X X X ? ? X 大型ネコ(種) Big Cat ?X X X ? ? X ビントロング Binturong Arctictis binturong IB EN LR/lc — * オーストンヘミガルス Owston’s Banded Civet Chrotogale owstoni IIB VU VU — * ブチリンサン Spotted Lings ang Prionodon pardicolor IIB VU LR/lc I * X コジャコウネコ Small I ndian Civet Viverricula indica IIB — L R/lc III * インドオオジャコウ ネコ Large Indian Civet

Viverra zibetha IIB — LR/lc — * ビルマジャコウネコ Large-spotted Civet Viverra megaspila IIB VU LR/lc — X 奇蹄目 Periss odactyla ジャワサイ

Lesser One- horned Rhinoceros Rhinoceros sondaicus IB CR CR I スマトラサイ Asian Two-horned Rhinoceros Dicer orhinus sumatrensis — EX CR I サイ(種) Rhinoceros Rhinoceros sp . ++ + + + 偶蹄目 Artiodactyla ブタ(種) Pig Sus scrofa — — L R /l c — XXXXXXX XXXXX ホイデイノシシ Heude’s Pig Sus bucculentus — — DD — ジャワマメジカ

Lesser Oriental Chevrotain Tragulus javanicus IIB — D D — *

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表1 .(続き) 和名 英語名 学名 保護のレベル * 1 調査地 ベトナム 調査地 ラオス中南部 * 2, 3 ベトナム 政令 48,32 * 4 ベトナム RD B 2007 * 5 IUCN 2007 * 6 CITES 2006 * 7 トゥア ティエン =フエ省 ドンプー ヴィエン NPA I セサ ップ NPA II セバンヌ アン NPA III プーシャ ントン NPA IV ドンフア サオ NPA V セピアン NPA VI ドンアン ファン NPA VII プーアヒョン ( Phou Ahyon ) a ダクチュン 高原 Dakchun ) b プーカトン 県立保全 地域 c 東北 ボラーベン 県立保全 地域 d 東南 ボラーベン 県立保全 地域 e ナムゴン 県立保全 地域 f オオツノホエジカ Large-antlered Muntjac Muntiacus vuquangensis IB VU DD I * X X X X X X ルーズベルトホエジカ Roosevelts ’ Muntjac Muntiacus rooseveltorum —— D D — チュオンソンホエジカ Annamite Muntjac Muntiacus truongsonens is IB DD DD — * X 小型ホエジカ Small M untjac Muntiacus spp. ? X X ホッグジカ Hog Deer Axis porcinus IB EN — I + エルドジカ Eld’ s Deer Cervus (Rucervus ) eld ii IB E N VY I ? + サンバ- Sambar Cervus (Rusa ) unicolor — VU LR/lc — * X X X X X X X X X ? ? X アジアスイギュウ [Wild Water Buffalo] Bubalus arnee (bubalis ) IB CR EN — バンテン Banteng Bos javanicu s IB EN EN — + X X ? ? ガウル Gaur

Bos gaurus (frontalis

) IB E N VU I X ? ? X X X ? ? X クープレイ Kouprey Bos sauveli IB EX CR I ? + 野生牛 Wild Cow Bos taurus? X サオラ Saola Pseudor yx nghetinhens is IB EN CR I * ? スマトラカモシカ Southern Serow Ca prico rnis sumatra ensis IB E N V U I * XXXX XXX X X 鯨目 Cetacea イラワディカワイルカ Irrawaddy Dolphin Or caella breviros tris —— V U I X ++ *1:主として Can et al. (2008)によった. *2:国立保全地域(

National Protected Area, NP

A ),県立保地域,多様性地域で, I–VII と a–f は図 3 に 対応. *3: X :分布が確認された, ?:いるかもしれないが,未確認, +:かつてはいたが,現在はいない. *4:ベトナム政令 48 /2002 /ND-CP ,3 2/ 2006 /ND-CP . IB :私的利用と商業目的の利用 の禁止された野生動物. IIB :私的利用と商業目的の利用 の制限された野生動物. *5: V

ietnam Red Data Book

(Sach Do V iet Nam), 2007 . カテゴリーは IU C N のそれに準ずる. EX = Extinct, EW =

Extinct in the wild, CR

= Critically Endangered, EN = Endangered, VU = V ulnerable, LR = Lower Risk, DD = Data deficient. *6:

IUCN Red List. EX

=絶滅 Extinct すでに絶滅したと考えられる種, EW =野生絶滅 (

Extinct in the wild

) 飼 育 ・ 栽培下であるいは過去の分布域外に, 個体 (個 体群) が帰化して生息している状態のみ生存して いる種, CR =絶滅危惧 IA 類( Critically Endangered ) ご く近い将来における野生での絶 滅の危険性が極めて高いもの, EN =絶滅危惧 IB 類( Endangered ) IA 類ほどではないが, 近 い将来における野生での 絶滅の危険性が高いもの , VU =絶滅危惧 II 類( V u lnerable ) 絶 滅の危険が増大している種. 現在の 状態をもたらした圧迫要因が引き続いて 作用する場合, 近い将来 「 絶滅危惧 I類」 のランクに移行するこ とが確実と考えられるもの.

LR: Lower Risk, cd: Con

servation dependent, nt : 準絶滅危惧 ( Near Th reat en ed ) 存 続基盤が脆弱な種. 現時点での絶滅危険度は小さ いが, 生 息条件の変化によっては 「絶滅危惧」 として上位ランクに移行する要素を有するもの ; lc ( 軽度懸念 ( Least Concern )基準に照らし ,上記のいずれにも該当しない種で ,分布が広いものや , 個体数の多い種がこのカテゴリーに含まれる . DD =情報不足( Data Deficient ),評価するだけの情報が不足し ている種.この基準は改定され LR が NT と LC にされた. *7: CI TES 附属書 : I=絶滅のおそれのある種で, 国際取引による 影響を受けているか受けることのある種が掲 げられており, 商 業目的の国際取引は禁止. II =国際取引を規制しないと絶 滅のおそれのある種が 掲げられており, 商 業目的の取引はできるが, 輸 出国政 府の管理当局が発行する輸出許可書が必要. III =ワシントン条約の締約国が自国内 の動植物の保護のために, 他の締約国 の協力を必要とする種で, 国際取引には輸出国政府の管理当局が発 行する輸出許可書又は原産地証明書が必要.

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認されていない.しかしながら,その後,セピアン NPA でもアカゲザルが確認され(Hamada et al. 2010),さらに ラオス最南地域と接するカンボジア東北地域のヴィラ チェイ Virachey 国立公園でも,アカゲザル様のマカクが カメラ・トラップで捕捉されている(Sokrith et al. 2010). ベニガオザル(Macaca arctoides)の確認された地域は Duckworth et al.(1999)のリストでは限られている.こ のようにベンガルスローロリスとマカク類が確認された 地域は,このリストではごく限られているが,Hamada et al.(2010)の調査では,より広く分布していると報告さ れている.一方,ドゥクラングールやシルバーラングー ルは比較的多くの地域で確認されている.われわれの調 査から,フェイヤーラングールがラオス中部に分布して いると推測されたが,確認されていない.テナガザル類 ではホオジロテナガザル(Nomascus leucogenys),もしく はキイロホオテナガザル(Nomascus gabriellae)が 12 カ 所で確認されている(種,亜種の判定は困難).Hylobates 属のテナガザル類(例えばボウシテナガザル,Pileated

gibbon, Hylobates pileatus)は,メコン河の左岸にあたる

チュオンソン山地系地域では見出されていない. ツパイ類ではキタホソオツパイ(Dendrogale murina) が 2 カ所で確認されている.キタツパイ(Northern tree

shrew, Tupaia belangeri)は,広域分布種なので調査され

ていない.マレーヒヨケザルは確認されていない.しか し著者は,ダクチュン Dakchung(セコン県東部のチュオ ンソン山地にある,図 1 および図 3 の b)の市場で売られ ているのを,2010 年に目撃した(図 4-1).2 種のセンザ ンコウ(ミミセンザンコウ,Manis pentadactyla とマレー センザンコウ,Manis javanica)は広い範囲で確認されて いる. 図 3.ラオス中南部の国立保全地域(NPA,ローマ数字)と県立保全地域など(a–h),およびベトナムの国立公園と自然保護区(アラ ビア数字,*:申請中,2011 年 1 月現在).ラオス I:ドンプーヴィエン(Dong Phou Vieng NPA),II:セサップ(Xe Sap NPA),III: セバンヌアン(Xe Ban Nuan NPA),IV:プーシャントン(Phou Xiang Thong NPA),V:ドンフアサオ(Dong Hua Sao NPA),VI:セピ アン(Xe Pian NPA),VII:ドンアンファン(Dong Amphan NPA).a:プーアヒョン地域,b:ダクチュン高原,c:プーカトン県立保 全地域,d:東北ボラーベン県立保全地域,e:東南ボラーベン県立保全地域,f:ナムゴン県立保全地域.

ベトナム 1:ダクロン(Dak Rong),2:フォンディエン(Phong Dien),3:タムザンとカウハイラグーン *(Tam Giang and Cau Hai Lagoon),4:サオラ(Saola),5:バックマ(Bach Ma),6:北ハイヴァン(North Hai Van),7:南ハイヴァン(South Hai Van),8:サ オラ増設(Saola Extension),9:バナ(Mt. Ba Na),10:ダンダオソンチャ(Ban Dao Son Tra),11:ングーハンソン(Ngu Han Son), 12:クーラオチャム(Cu Lao Cham),13:ソンタン *(Song Thanh),14:ンゴックリン増設 *(Ngoc Linh Extension),15:プーニン * (Phu Ninh),16:ンゴックリン(Ngoc Linh),17:モムロイ(Mom Roy),18:バックプレイク *(Bac Plei Ku),19:コンカーキン(Kon

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食肉目では,イタチはセスジイタチ(Mustela strigidorsa) など 3 種が期待されたが,まったく確認されていない. カワウソ(コツメカワウソ,Amblonyx cinereus とビロー ドカワウソ,Lutrogale perspicillata)は,比較的確認され た頻度が低いが,分布している.クマではツキノワグマ とマレーグマが広く分布しているはずであるが,クマと しか判定されていない地域もある.キンイロジャッカル (Canis aureus)とドールの分布は確認されているが,明 確でない地域も多い.トラは 7 + 3 カ所と,確認頻度は 高めであるが,中型ネコ類,ビントロング(Arctictis binturong)を含むシベット類は確認頻度が低い.セサッ プ NPA ではトラ,ヒョウ(もしくはウンピョウ)などの 図 4.(1)ラオス,セコン県,ダクチュンの市場で売られていたモモンガ,リス,ヒヨケザルなどの小哺乳類,(2)ベトナム,トゥア ティエン=フエ省,アルイ郡の市場で売られているカエル,(3)伝統医療薬品として使われるドゥクラングールの骨, ベトナム,ダナ ン中央直轄市バナで,Van Minh Nguyen 氏撮影,(4)ペットのベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis).ベトナム,クァンナム省 で,(5)ワナで捕獲され,出荷まじかのベニガオザル(体重約 10 kg),Van Minh Nguyen 氏撮影,(6)天水田(ラオス,サバンナケー ト県).メコン河近くでも灌漑施設がないので,水稲をつくることができるのは雨季のみ,(7)緩やかな斜面をもった山は林道が建設 でき,植林に好適である.ベトナム,トゥアティエン=フエ省,アルイ郡で,(8)セコン県(ラオス)とクァンナム省(ベトナム)を 結ぶ道路(国道 15 号線)を造るため,ラオスではダクチュン(セコン県)の奥で広い面積で,伐採が行われている.将来,搬出用の 林道を利用して入植が行われるだろう.

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大型ネコ類,スナドリネコ(Prionailurus viverrinus)など の中型種,ベンガルヤマネコなどの小型種も報告されて いる(Steinmetz et al. 1999). 奇蹄類では,マレーバクはかなり昔に絶滅してしまっ たようだ(Duckworth et al. 1999).サイ(ジャワサイもし くはスマトラサイ)は,かつては棲息していたという情 報のみで,確認情報はない.偶蹄類では,オオツノホエ ジカは比較的多数の地域で確認されているが,ルーズベ ルトホエジカ(Muntiacus rooseveltorum)やチュオンソン ホエジカ(Muntiacus truongsonensis)などの小型のホエ ジカはあまり確認されていない.スマトラカモシカは多 くの地域で確認されているが,サオラは,1 カ所のみで 暫定的に確認されている.ガウルは 5 地域で確認されて いるものの,クープレイは絶滅してしまったか,ごく少 ない.バンテン(Bos javanicus)は少数地域で確認され ているにすぎない.このように大型ウシ類は,ラオス中 南部で絶滅に近い.イラワディカワイルカ(Orcaella brevirostris)は,セピアン NPA のメコン河支流で確認さ れている. 以上,ふたつの調査で確認された哺乳類を中心に紹介 した.中部チュオンソン山地系地域で,ベトナムとラオ スでは哺乳類相は共通すると思われるが,アジアゾウや 大型ウシ類がベトナムでは見られない(絶滅した),ある いはごく少数になっていることが相違点である.また, これらの比較的短期間の調査では,直接確認が難しい霊 長類を含む中型以上の哺乳類は,見落とされている可能 性が高い.またインタビュー調査では,動物の見られや すさ,見たときのインパクト,あるいは回答者の興味, 活動範囲や知識によっても捕捉率が異なるようである. たとえば,ムササビ類は,我々の調査ではよく見出され ているのに,ラオスにおける調査では確認されていない. またテナガザルはかなり遠くからでもその音声が聞き取 れ,しかもテナガザルとして判定されやすい(ただし種 判定は困難).一方,マカク類は潜伏性であるため,捕捉 率が低くなる.しかし,捕捉率が低い種,特に大型ウシ 類はすべて見落とされていると期待すべきではなく,絶 滅してしまっているかもしれない.小型哺乳類の調査と ともに,今後の調査を期待したい. iii)霊長類の多様性と奇妙な分布 中部チュオンソン山地系地域の哺乳類の生物地理学 について,特に森林性哺乳動物の例として霊長類を取 り上げる.中部チュオンソン山地系地域で霊長類の多 様性は非常に高い.およそ10 万 km2の地域に,15 種前 後の霊長類が分布している.東南アジア諸国で最も多 様な霊長類種が分布するのはインドネシアだが,それ はインドネシアが多くの島々で構成され,島それぞれ に固有種があるため(例.スラウェシ島の 7 種のマカ ク)である.一方,中部チュオンソン山地系地域は連 続する一地域における多様性である.原猿類ではベン ガルスローロリスとピグミースローロリスの 2 種が分 布している.オナガザル科ではオナガザル亜科のマカ ク 5 種(ベニガオザル,アッサムモンキー,キタブタオ ザル,アカゲザル,およびカニクイザル),コロブス亜 科には,シルバーラングール,フェイヤーラングール, フランソワラングール(Trachypithecus francoisi),ラオ ラングール(Lao langur,もしくはシロマユクロラングー ル,T. laotum),そして 3 種のドゥクラングール(アカス ネドゥクラングール,Red-shanked douc langur, Pygathrix

nemaeus,クロスネドゥクラングール,Black-shanked douc

langur, P. nigripes

,ハイイロスネドゥクラングール,Grey-shanked douc langur, P. cinerea)がみられる.コロブス亜

科の各種は,現在,分類が再検討中であり,地域固有種 にされる可能性もある(Groves 2001;Brandon-Jones et al. 2004;Nadler 2010).類人猿では,クレストテナガザル類 (Nomascus 属)の 3 タイプ(種もしくは亜種),ホオジロ テナガザル,ミナミホオジロテナガザル(Southern

white-cheeked gibbon, N. l. siki),キイロホオテナガザルが見ら

れる.最近,中部チュオンソン山地系地域のテナガザル 集団が新種の,キタウスキイロホオテナガザル(N.

annamensis)と認められ(Thinh et al. 2010),N. l. siki も種

レベル(N. siki)に格上げされた(Nadler 2010;Mootnick and Fan 2011). これらのうちフランソワラングール,ラオラングール, ドゥクラングール,ピグミーロリス,およびクレストテ ナガザル類は,メコン河の左岸にしか分布していないこ とが注目される.これらの霊長類は,かつて一度もメコ ン河を渡らなかったのだろうか? 一方,メコン河の両岸 に分布する広域分布種(マカクやベンガルスローロリス など)もあり,これらは中国やインドシナ半島西部,も しくは東南アジア島嶼部(スンダランド)由来で,最近 になって分布を拡げたと考えられている(例,キタブタ オザル,Ziegler et al. 2007).このような分布状況からみ て,メ コ ン 河 が 分 散 の 障 壁 に な っ た と は 考 え 難 く (Meijaard and Groves 2006),むしろ環境要因と生息地の 好みによるものだろう.メコン河右岸のタイ東北地方と カンボジア北部の気候は,後氷期(温暖湿潤)にある現 在でも乾燥し季節性が強く,氷期にはその傾向がさらに 著しく,生息地となる常緑樹林が形成されず,分布を拡 げられなかったためだと考えられる. メコン河で東西に隔てられる分布のみならず,ベトナ

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ムでは霊長類の多くの種で,明らかに地理的に限られ, それらの多くで有力な地理的障壁が見られないことは, 奇妙である.ピグミーロリスとベニガオザルを除くベト ナムに分布する霊長類で,国の南か北かに分布が限られ, ベトナム中部に分布していない種がいくつかある.また 緯度によって棲み分けをしていると思われる種がある. ベンガルスローロリスとピグミーロリス(中国雲南省な どの高緯度にはピグミーロリスは分布していない,逆に ベトナム南部にはベンガルスローロリスは分布していな い),アッサムモンキーとキタブタオザル,アカゲザルと カニクイザル,シルバーラングールとフェイヤーラン グール,ドゥクラングール 3 種(北から赤・灰色・黒種 が南北に分かれて分布),クレストテナガザル属 5 種 (Nomascus concolor, N. leucogenys, N. siki, N. gabriellae,お よび N. annamensis それぞれの分布域は,南北に並んで分 かれている;Thinh et al. 2010)である. これらの棲み分けしていると思われる霊長類のうち, マカクにおける詳細な分布を見ると,アッサムモンキー とキタブタオザル,およびアカゲザルとカニクイザルは, それぞれ生態学的競合関係にあり,北緯 18 度付近を境に して,アッサムモンキーとアカゲザルが高緯度に,キタ ブタオザルとカニクイザルは低緯度に分布する傾向が指 摘されている(Fooden 1982)が,明確な異所性分布は示 されない.ラオスにおいてアッサムモンキーは,南は北 緯 15.2 度まで分布し(ボラーベン高原とチュオンソン山 地,しかしドンアンファン NPA での調査が必要)ている が,キタブタオザルは,北はラオス北端地域から雲南省 にまで分布していて,中国でも,広域にわたって同所性 に分布している(Hamada et al. 2007, 2010).しかし,ベ トナムではアッサムモンキーは北ベトナムでのみ,キタ オブタオザルは中部以南でのみ報告され(Can et al. 2008; Nadler 2010),ラオスから雲南省と同等の緯度域には見ら れない.逆にカニクイザルとアカゲザルはベトナムでは 共存域が幅広く(北緯 13–16 度),広範囲で自然交雑が認 められる(Fooden 1964, 1995;Hamada et al. 2010).この ようなラオスとベトナムの間の分布パターンの違いの要 因は,解明されていない.単純にベトナム中部でアッサ ムモンキーが,ベトナム北部でキタブタオザルが見落と されているだけかもしれない.しかし,北から北緯 15 度 までの地域で,ベトナム側では発達した山地が少なく, 原生林より二次林が広いこと,逆にラオス側では山地が 発達し,一次林が広いことが,両国の間におけるマカク 4 種の分布パターンの違いに関係しているようである. さらに氷期にそれぞれの種の好適気候に従って,異なっ たレフュージアに分布したこと(チュオンソン山地内で, ラオスとベトナムで条件が異なった),種の分布が人類活 動の影響による生息地喪失や質の低下,特に狩猟に影響 されたことなども考えられる.実態は,詳細な分布調査 と多様性解析研究によって解明すべき点である. iv)ホエジカの多様性と分布状況 系統地理学的に興味深い哺乳類のひとつがホエジカ類 (Muntiacus 属)である.ホエジカはチュオンソン山地に 数種いるらしいが,それらの分布と形態的・遺伝的多様 性はまだ分かっていない(Can et al. 2008).ホエジカの 系統地理学が将来,明らかにされることが望まれる.大 型のオオツノホエジカは,ラオス中部で 1994 年に記載 された(Tuoc et al. 1994;Timmins et al. 1998).現在,そ れより南方のカンボジア東北地方やベトナムのラムドン 省(北緯 11–12 度)でも見つかっているが,いずれもチュ オンソン山地系地域であり,本種はチュオンソン山地に 固有の種であるといってよい(Can et al. 2008).一方,中 型のコモンホエジカ(M. muntjak)は,東南アジアに広 く分布し,ベトナムのほぼ全土,そしてラオスにも広く 分布しており,体色変異が大きい. チュオンソンホエジカ(Giao et al. 1998)は,最初,ラ オスの私設動物園で発見され,その後,同種と思われる 個体がベトナム中部,クアンナム省のチュオンソン山地 でも見つかり,記載された.頭頂部が明るい橙色で,体 色は暗褐色で尾は黒っぽくて白い縁取りがあり,胴体か ら四肢にかけて黒っぽくなり,それぞれの蹄の上部分に 白帯がある.その後の調査で,同種はチュオンソン山地 に,かなり広く分布していることがわかった.ルーズベ ルトホエジカは,1928–29 年のアメリカ調査隊のハロル ド・クーリッジ Harold Coolidge によって北ラオスで発見 された種だが(Osgood 1932;Amato et al. 1999;なお Grubb 2005 は模式産地を北緯 31°30′ としているが,北緯 21°30′ だろう),それ以降,さらなる標本や報告はなかった.と ころが,1994 年に中部チュオンソン山地系地域より少し 北,ラオスのボーリカムサイ県ムアン・ヨ(Mueang Yo) 郡のラックサオ村(Lak Sao,北緯 18°20′,東経 105°00′) で,村の住民によって報告され,遺伝的分析に基づいて, これらが同一種と認定された(Amato et al. 1999).この 種は,チュオンソン山地や北ラオスに,おそらく不連続 に分布していると思われるが,詳細は不明である. ベトナム,ゲアン省のプーホアット Pu Hoat 保護区(北 緯 20 度)で見つかったプーホアットホエジカ(Puhoat

muntjac, Muntiacus puhoatensis;Grubb 2005)は,今のと

ころ,この保護区以外では見つかっていない.さらに 2001 年,小型で黒っぽいホエジカが中国と接するベトナ ム北部で(ラオカイ Lao Cai 省,ヴァンバン郡 Van Ban

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Districtのホアンリエンソン山地Hoang Lien Son Range)で 写真撮影された.この個体はクロホエジカ(Black munt-jac, M. crinifrons)かもしれないが,この種の分布と分類 は不明で,中部チュオンソン山地にも生息している可能 性がある(Can et al. 2008). v)哺乳類以外の脊椎動物 この地域の動物地理学的知見として,哺乳類以外の脊 椎動物についても多様性と現況を記しておく. ベトナム中部とラオス中南部地方では,キジ科やチメ ドリ科の鳥類の多様性・固有性・希少性が高いことが知 られている(Sterling et al. 2006;以下,和名は山階鳥類 研究所 1978a, b;内田・島崎 1987 により,それ以降に記 載された種については英名などから訳した).地域固有 性,稀少性などの点で注目される種を表 2 に示す. ベトナム中部にはキジ科 9 種が生息し,そのうち 4 種 がベトナム固有種,1 種がインドシナ固有種であり,6 種 が IUCN で全世界的に絶滅が危惧される種に指定されて いる.そのひとつ,カンムリセイラン(Rheinardia ocellata) は,チュオンソン山地の標高 1,900 m までの山地常緑林 に生息する.ここ以外では,マレー半島に分布するのみ である.サンケイ類(Lophura 属)にはコサンケイ,テ イオウキジ(L. imperialis),ベトナムキジ(L. hatinhensis, 研究者によってはコサンケイの亜種とする)の 3 種があ るが,それぞれの分布域は知られていない.テイオウキ ジは,1990 年と 1996 年に再発見されるまで,絶滅した と考えられていた.遺伝解析の結果,1990 年発見の個体 はハッカン(Silver Pheasant, L. nycthemera)とベトナムキ ジの,1996 年発見の個体はハッカンとコサンケイの交雑 個体だろうと示唆されている(Hennache et al. 2003).

WWFが 2005 年に行ったトゥアティエン=フエ省での

調査では,12 目 32 科 150 種の鳥類が直接目視によって確 認された(Cu, N. and Vy, N. T. An Assessment of the Bird Fauna of the Green Corridor Forest Landscape, Thua Thien

Hue Province, Vietnam. Report No. 4: Green Corridor Project,

WWF Greater Mekong & Vietnam Country Programme and FPD Thua Thien Hue Province, Vietnam. URL: http://www.

huegreencorridor.org/,最終確認日 2011 年 12 月 8 日),表 2 の出典 CV).ラオス中南部でもベトナム中部同様,キジ 科の鳥類の多様性が高く,Duckworth et al.(1999)が保 護すべき主要種としているものの中で,中南部地域に分 布している,あるいは分布が推測されているのはカンム リセイランとマクジャクの他に,シマハッカン(Siamese

fireback, Lophura diardi),セキショクヤケイ(Gallus

gallus),ハッカン(いくつかの亜種に分けられるかもしれ ない)など 7 種である. 両生類,爬虫類,魚類のこの地域の多様性は高いが, その研究は揺籃期にあり(Duckworth et al. 1999),保護す べき種と地域は,限定されていない.両生類と爬虫類で は,ベトナム中部で 1992–2004 年の間に,カメ 1 種,ヘ ビ 4 種,トカゲ 10 種,カエル 19 種が新たに記載された (Sterling et al. 2006).最近,WWF はトゥアティエン=フ エ省で,頭部に黄色がかった白いしま模様があり,身体

に赤い斑点をもつ新種のヘビ,シロクチヒバカリ(White-lipped keel back, Amphiesma leucomystax)を報告した

(David et al. 2007).この他,ジーバーミツツノクサリヘ ビ(Siever’s three horned-scale pit viper, Triceratolepidophis

sieversorum)も最近の発見である(Ziegler et al. 2000).新

種のカエルの報告も続いており,チュオンソン山地の上 流域でアンナムトビカエル(Rhacophorus annamensis), タキカエル(Cascade Frog, Rana chloronota)が見つかっ ている.タキカエルは,東南アジアに広く分布し,それ ぞれ分布域の限られた 20 種以上の種からなるミドリオ オニオイガエル(Rana livida)種コンプレックスの一つ である.この種の他にも表面上,他の地域の種と似てい ても,地域に固有な種が含まれているかもしれない. 小型爬虫類は絶滅の危険性は低いが(あるいは危険 性が評価されていない),カメや大型トカゲ・ワニ・ヘ ビ類の危険性が高い.シャムワニ(Siamese crocodile, Crocodylus siamensis)は,ラオス南部ではまだ十分に棲 息しているが,ベトナムでは野生集団の絶滅が危惧さ れている.ベンガルモニター(Bengal monitor, Varanus

bengalensis)とその亜種クラウデドモニター(Clouded

monitor,V. b. nebulosus),お よ び ミ ズ オ オ ト カ ゲ

(Water monitor, V. salvator)がチュオンソン山地系地域に 分布する.

WWFが 2000 年にベトナム,トゥアティエン=フエ省

で行った調査で確認された絶滅の危惧される両生類と爬 虫類(Truong and Bain 2006),およびラオス中南部で確 認された保護すべき爬虫類の種(Duckworth et al. 1999) を表 3 に示す.WWF の調査では両生類と爬虫類で合計 93 種が確認された.同省では,これまで 210 種が記録さ れていて,その 44%が把握されたことになる.このう ち 43 種が両生類(カエル)で,アカガエル科 13 種と アオガエル科 15 種が主要分類群で,表 3 のイボホソウ デナガガエル(Leptolalax tuberosus),アッチガガエル (Rana attigua),トラムラップトビガエル(Rhacophorus exechopygus),および表にはないが,オオヅノバブルカ

エル(Philautus (Chirixalus) supercornutus)はチュオンソ ン山地系地域固有種である.WWF の調査で確認された 50 種の爬虫類のうち,27 種はヘビ類で,そのうちナミヘ

(15)

表2 . ベトナム中部に見られる地域固有性 ,稀少性などの点で注目される鳥類 和名出典 * 1 英語名学名 Conservation Status 政令 * 2 ベトナム RDB 2000 * 3 IU C N 2000 * 4 CITES IBA Criteria* 5 RRS* 6 キジ科 コサンケイ S E dward’s pheasant Lophura edwar d si IB EN EN I テイオウキジ S E mperor pheasant Lophura imperialis IB CR NE I ベトナムキジ S V ietnamese pheasant Lophura hatinhensis IB EN EN — カッショクコクジャク S G ermain’s Peacock Polyplectron germaini IB VU NT II カンムリセイラン CV Crested argus Rheinardia ocellata IB VU VU A 1, A 2 * マクジャク S Green Peafowl Pavo muticus IB EN VU II キアシミヤマテッケイ CV Annam partrige Arborophila merlini EN A 1, A 2 * チメドリ科 ラオスヤブチメドリ S S ooty Babbler Stachyris herberti NT ウスムシクイチメドリ CV

Gray-faced tit Babbler

Macronous kelleyi LC A 2 * アカバネモズチメドリ S W

hite-browed Shrike Babbler

Pteruthius flaviscapis LC マユグロチメドリ CV Mountain fulvetta Alcippe peracensis LC A 2 * キンバネガビチョウ #1 S G

olden-winged Laughing Thrush

Garrulax ngoclinhensis VU コンカーキンガビチョウ #1 S C

hestnut-eared Laughing Thrush

Garrulax konkakinhensis

VU

ミヤマガビチョウ

S

C

ollared Laughing Thrush

Garrulax yersini EN ズグロシマドリ #2 S Black-crowned Barwing Actinodura sodangorum VU ミドリシマヤイロチョウ CV Bar-bellied pitta Pitta elliottii TL C * アンナムマルハシチメドリ CV

Short-tailed scimitar babbler

Jabouilleia danjoui TN T A 1, A 2 * その他の科 アンナムヤマゲラ CV Red-collared woodpecker Picus rabieri TN T A 1, A 3 シリアカオオゴシキドリ CV Red-vented barbet Megalaima lagrandieri LC A 3 * ビルマサイチョウ CV Brown hornbill Anorrhinus tickelli IIB V U N T — A 1, A 3 オオカワセミ CV Blyth’s kingfisher Alcedo hercules TN T A 1, A 3 *1: S = S terling et al. (2006) ,CV = Cu and V y (2006) .トゥアティエン=フエ省で WWF が 2005 年に行った調査で確認した 150 種のうち, 高い保護的価値を持ち, 分布の限られている種. *2: ベトナム政令 32 /2006 /ND-CP , IB :私的利用と商業目的の利用の禁止された野生動物. IIB :私的利用と商業目的の利用の制限された野生動物. *3: V

ietnam Red Data Book (Sach Do V

iet Nam)

2000

: EN: Endangered, CR:Critically Endang

ered, T : Threatened, VU: V u lnerable *4: IU C N (2000)

: EN: Endangered, VU: V

u

lnerable, NT

:

Near threatened, LC: Least Concern

NE: Not Evaluated

*5:

Important Bird Areas.

規準

BirdLife International, URL:

http://www .birdlife.or g/ibas/ 1-identifying/ 1. 2html , 最 終 確 認 日2 01 1年1 2月9日 ):

Globaly threatened species

A

1:

世界的に絶滅が

危惧される種(

Globally threatened species

),

A

2:生息地域限定種(

Assemblage of restricted-range species

),

A

3:バイオーム限定種(

Assemblage of Biome-restricted species

), A 4:群 れをつくる種( Congregations )である(日本野鳥の会 HP . URL: http://www .wbsj.or g /nature/hogo/others/iba/judge/index.html , 最終確認日 2011 年 12 月 9 日 ). *6: 分布域の限られた種( Restricted-range species; S tattersfield et al. 1998) . #1:コンツム高原のみ分布, #2:コンツム高原とボラーベン高原に分布

(16)

表3 . トゥアティエン=フエ省とラオス中南 部で確認された両生類と爬虫類 * 1 科和 名 /英名 学名 Vietnam TT = Hue* 2 Laos* 3 ベトナム政令 48 /2002 or 32 /2006 * 4 Conservation Status ベトナム RDB* 5 IUCN* 6 CI TES 備考 中部 南部 両生類 Bufonidae ヒキガエル科 カンボジアヒキガエル Bufo galeatus * 保護すべき種は未定 R Ingerophy ry nus 属とする説 が有力 Me gophryidae コノハガエル科 アンナンコノハガエル Brachytarsophr ys intermedius * VU イボホソウデナガガエル Leptolalax tuberosus * VU 新種記載( Rowley et al. 2010) Dicroglossidae デ ィ ク ログロス 科 ポ イランガエル Limnonectes poilani (blythii ) * NT イボト ゲ ガエル Paa verrucospinosa * NT Quasipaa 属とする説が有力 Ranidae アカガエル科 ア ッチ ガガエル Rana attigua * VU Hylarana 属とする説が有力 Rhacophoridae ア オ ガエル科 ア ンナムト ビ ガエル Rhac ophorus annamensis * VU ベトナムト ビ ガエル Rhacophorus calcaneus * NT トラムラ ップ ト ビ ガエル Rhacophorus exechopygus * VU 爬虫 類 Ge kkonidae ヤモ リ科 ト ッケ イ ヤモ リ Gekko gecko * —T V U — Agamidae アガ マ 科ベ ニ クシトカ ゲ Ac anthosaura le pidogaste r * —T N E — イン ド シナウ ォ ー タ ー ド ラゴン Physignathus cocincinus * ** — V N E — Va ra nida e オオ トカ ゲ 科 ベ ンガル モニタ ー (クラウデ ドモニタ ー) Varanus bengalensis (nebulosus ) * ** IIB/ 57 VN E I ミズオオ トカ ゲ Varanus salvator * ** IIB/ 58 VN E II Boidae ボア科 イン ドニ シキ ヘビ Python molurus * ** IIB/ 60 V, CR NE II ア ミメニ シキ ヘビ Python reticulatus * ** IIB/ 61 V, CR NE II Colubridae ナ ミヘビ 科ヒ メ ナン ダ Ptyas korros * ** — T , E N N E — C o mm on Ra tsna ke Ptyas mucosus ** IIB/ 63 V, EN NE II Elap id ae コ ブ ラ科 マレ イア マ ガ サ Bungarus c a ndidus * IIB/ 64 —N E — マ ル オ ア マ ガ サ Bungarus fasc iatus * IIB/ 67 T, EN NE — タ イワンア マ ガ サ Bungarus multicinctus * IIB/ 62 NE フ ー ド コ ブ ラ属 Naja sp. * IIB/ 68 T, EN NE III

Naja naja, N. atra, N. kaouthia

Monocellate Cobra Naja kaouthia * * た ぶん IIB/ 68 T, EN NE II Indochina Sp itting Cobra Naja siamensis * * — — NE II キン グ コ ブ ラ Ophiophagus hannah ** IIB/ 61 E, CR NE III Viperidae ク サ リ ヘビ 科 タ イワンハ ブ Trimeresurus mu crosquamatus * —— N E — フォ ー ゲ ル ミド リ ピッ ト バ イ パ ー Tr imer es ur us vogeli * — — NE II Trime re surus pope orum とも バ ン ブ ー ピッ ト バ イ パ ー Trimeresur us stejnegeri * —— N E — Em ydidae ヌマ ガ メ 科 モ エ ギ ハコガ メ Cuora galbinifr ons bourreti * *— V C R II シジク ビマ ルガ メ Cyclemys tcheponensis * * * た ぶん —N T ヒラ セ ガ メ Pyxidea mouhotii * ** — E N

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表3 .(続き) 科和 名 /英名 学名 Vietnam TT = Hue* 2 Laos* 3 ベトナム政令 48 /2002 or 32 /2006 * 4 Conservation Status ベトナム RDB* 5 IUCN* 6 CI TES 備考 中部 南部 Bataguridae バタグ ールガ メ 科 マレ ーハコガ メ Malayan Box Turtle Cuora amboinensis *— V U Ch in es e th ree-str ip ed Box Tu rt le Cuora trifasciata ? IB/ 62 CR EN II

Asian Leaf Turtle

Cyclemys dentata ** — — N T

Giant Asian Pond Turtle

He osemy s grandis ** IB/ 70 CR NT II ヒジリガ メ Yellow-headed Templ e Turt le Hieremys annandalii * IIB/ 71 EN VU II ニ シクイガ メ Malayan snail-eating Turtle Malayemys subtrijuga —V U V U II ヨツメ イシガ メ Sacalia quadriocellata * — EN III ホ オ ジ ロ ク ロ ガ メ Balck Marsh Turtle Siebenrockiella crassicollis * た ぶん — — NE II Trionychidae スッポ ン科 イボク ビスッポ ン Palea steindachneri *— E N スッポ ン Pelodiscus sinensis *— V U イン ド シナ オオスッポ ン Amyda cartilaginea ** — V U II マ ル スッポ ン Asian Giant Softshell Turtle Pelochelys cantorii *— E N II Pla tyste rnida e オオ ア タマ ガ メ 科 オオ ア タマ ガ メ Platysternon megacephalum ** * IIB/ 69 R, EN EN II Testudinidae リクガ メ 科エ ロ ンガー タ ハコガ メ Indotestudo elongata ** * IIB/ 73 V, EN VU II Impressed Tortoise Manouria impressa ** IIB/ 74 VU VU II Croc odylida e ク ロ コ ダ イル科 シ ャ ムワ ニ Si ames e Cro co d il e Crocodylus siamensis *? * IIB/ 76 CR CR I *1: 和名は一部,両生類を松井正文 氏,爬虫類を疋田努氏に教示を受けた. *2: WWF が調査し,確認( T

ruong and Bain

2006) . *3: Duckworth et al. 1999 *4: IB: W

ildlife animals proh

ibited exploitation and using for co

mmercial purposes. IIB: W

ildlife an

imals restricted exploitation,

using for commercial purposes.

*5:

Sach Do V

iet Nam (Red Data Book of V

ietnam 2000 ); E = Endangered, V = Vu ln er ab le , R = Rare, T = Threatened. 同2 00 6; EX = Extinct, EW = Extinct in the W ild, CR = Critically Endangered, EN = Endangered, VU = V u lnerable, LR = Lower risk, DD = Data Deficient. *6: 種によって IUCN の旧カテゴリーと新カテゴリーが混在: CR =

Critically Endangered, EN: Endang

ered, VU: V

u

lnerable, NT

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