各種生体信号に関する
電気生理学的研究とその応用
伊賀崎 伴彦
2007年1月
目次
第1章 序論 1
1.1研究の背景と目的................。 1
1.2 論文の構成 ..............,.. 2
第2章 味覚刺激による脳内情報処理の電気生理学的研究とその応用 4
2.1 舌の味覚刺激に対する誘発電磁界......., 4
2.1.1 方法.. 4
2.1.2 課題. 5
2.13 結果. 6
2.1.4 考察.......................,_. 10 2.2 味覚認識機構〜甘味と大脳誘発電位〜 .............. 12 2,2.1 方法.. 13
2.2.2 結果. 15
2.2.3 考察.. 22
2.3 味覚刺激に対するヒト脳波のカオス解析.,..._,_. 23 2.3.1 方法.. 23
2.3.2 結果,. 28
2.3.3 考察.. 37
第3章 聴覚および視覚刺激による脳内情報処理の電気生理学的研究とその応 用 39
3.1健常者の言語性,至言語性P300の検討..........,.。. 39 3⊥1 方法.........................,__ 39 3.1.2 結果.。..., 41
3.1.3 考察..........................… 45 3.2 言語性疾患患者の言語性,非言語性P300の検討......._ 48 3.2.1 方法..................,.......・一 48 3.2.2 結果. 49
3.2.3 考察....,...。. 53
3.3 記憶関連電位の提唱 ,.................。.... 55
ii
3.3.1 方法 3.3.2 結果 3.3.3 考察
55 59 62 第4章 脳波による意思伝達システムの開発
4。1画面呈示法と周波数解析法の検討_..
4.1.1 方法..,..,.,.......
4.1.2 結果.....
4.1.3 考察.....
4.2.意思伝達システムの運動疾患患者への試み 4.2.1 方法.
4.2.2 結果_...
4.2.3 考察_...
第5章運動系における脳内情報処理の電気生理学的研究とその応用
5ユ 方法..................._...
5.1.1 5.1.2 5.1.3 5.2 結果 5.3 考察
対象 課題.
記録.
第6章心電図R−R間隔の電気生理学的研究とその応用
6.1健常者の心電図R−R間隔ゆらぎの定量評価......,..
6.1.1 方法..。.
6.L2 結果...........
6.L3 考察.......。.......
6.2 糖尿病患者の心電図R−R間隔ゆらぎの定量評価......
6.2.1 方法.............,..._.__..
6.2ρ2 結果_..........._一....__...._
6.2,3 考察..............._...__.._..
6.3 くも膜下出血患者の心電図R芦R間隔ゆらぎの定量評価と予後予測
6.3.1 6。3.2 6.3.3
第7章 結論
方法 ..
結果 .
考察
64
64 65 67 74 77 77 79 81
83 83 83 84 84 85 88 90 91 91 93 99
101 101 103 107 108
. 108
111 114 116
謝辞 参考文献
iii
119 120
1
第1章 序論
1.1 研究の背景と目的
生体は,ミクロな細胞間から組織間,臓器間,そしてマクロな系間に至るまで 互いが有機的に結合し,複雑かつ非線形性なシステムとして機能している.これ
らのシステムの機能を計測するのにさまざまな方法が考えられてきた.本研究で は二つの系システム,すなわち脳システムと循環器システムについて,さまざま な電気生理学的手法および工学的手法を用いて,そのメカニズムの解明を試みる.
脳システムについては,脳神経系のさまざまなネットワークにより非線形的な 特徴をもちつつ種々の機能(感覚,知覚,認知情報処理,意志,判断,感情,運 動の遂行など)を有していることが知られている.これらの機能を測定する計器 として,脳神経系の電気現象をとらえる脳波計や脳磁計,脳血流をとらえるPET,
機能的MRI(fMRI)および光トポグラフィなどがある.とくに脳波計は,他の計 測機器と比べて安価であり,可搬性を有するという特徴をもつ.また,脳波計に
よって記録される脳波は,ダイナミックに脳機能を刻々と表現する手段としては PETやfMRIなどの画像的脳機能検査と比べて時間的解像力においてはるかに優 れており,その特徴を活かして腎機能のダイナミックな変化を他覚的,定量的に 表現できるという利点もある.
脳波には,刺激と無関係に持続する電気活動である自発性脳波と,刺激によっ て引き起こされる電位変動である大脳誘発電位とがある.
自発性脳波は,感覚入力(体性感覚,視覚,聴覚など),運動,覚醒状態の変 化,認知活動などによって周波数成分が変わることが知られている.一方,大脳 誘発電位は,外界から一定の刺激を与えた場合に,それによって脳神経組織に誘 発される電位のことをいい,手足の感覚刺激によって誘発される体性感覚誘発電 位,視覚刺激によって誘発される視覚誘発電位,聴覚刺激によって誘発される聴 覚誘発電位がある.このようにして与えた刺激に直接関連して誘発された電位は,
刺激関連電位と称され,大脳皮質の中でもそれぞれの感覚を直接司る部分で誘発 される.これに対して,その刺激が何であったか,あるいはその刺激が自分にとっ てどのような意味をもつかを認知あるいは認識するような働き,すなわち高次の 認知機能を反映すると考えられる電位が,大脳誘発電位のなかでも事象関連電位
2
として区別されている.これら自発性脳波,大脳誘発電位および事象関連電位は,
病態生理学的研究や心理学的研究にとどまらず,脳機能の一般臨床検査にも広く 用いられている.また,随意運動開始前後に記録される電位を総称して運動関連 脳電位と呼び,1965年にKornhuberとDeeckeが記録に成功して以来,多数の病 態生理学的研究が行われるようになってきた.
一方,循環器システムについては,血流,血圧に重要な心臓,血管をはじめ,こ れをコントロールしている自律神経系が有機的に結合して,ゆらぎをもちっっ,生 体特有なリズムを刻んでいることが知られている.これらの機能を測定する計器 として,血圧計,電磁血流計,脈波計および心電計などがあるが,とりわけ心電 計によって計測される心電図は心臓の心筋および特殊伝導系筋の電気現象を計測 するもので,そのリズムの解析により心臓のリズム生成に関するメカニズムの解 明や循環器系における病態生理学的研究に用いられている.
以上述べたように,脳システムおよび循環器システムは複雑な結合をもち,非 線形的なシステムとして働いている.このため,これらから計測される生体信号
も複雑で非線形的な特徴をもっている.このような観点から,本研究では,脳か らの信号である脳波あるいは脳磁図,および心臓からの信号である心電図に対し て,電気生理学的手法による記録および工学的手法による解析を組み合わせるこ
とにより,脳の情報処理メカニズムあるいは自律神経系の心臓調節メカニズムの 解明,および臨床への応用を目指した.
1.2 論文の構成
本論文の構成は,以下のとおりである.
第1章は序論であり,本研究の背景と目的および論文の構成について述べる.
第2章では,味覚刺激による脳の情報処理について,脳磁図を用いた一次味覚 野の同定の試み,誘発電位を用いた甘味認知の検討,および脳波の非線形解析に
よる情報処理機構の考察を行う。
第3章では,聴覚および視覚事象関連電位を用いた言語認知機能の評価を試み る.まずは健常者を対象として有効性を確認し,つぎに言語性疾患患者に対して 臨床応用可能かを考察する.また,記憶関連電位を提唱し,同様に健常者での有 効性の確認,および症例への適用による臨床応用への検討を行う.
第4章では,重度運動疾患患者に対するコミュニケーション支援として,視覚 刺激時の脳波を利用した意思伝達システムの開発を試みる.これもまずは健常者
を対象として有効な刺激の呈示方法ならびに脳波の解析方法を検討し,その結果 を筋萎縮性側索硬化症患者に適用し,臨床応用可能化を考察する.
3 第5章では,運動準備脳電位を利用して,加齢による歩行への影響を検討する.
その際,時計誘導法という新たな手法を提案し,その有効性も考察する.
第6章では,本研究で取り扱う二つ目の生体信・号である心電図について,R−R間 隔のゆらぎを定量化することにより,自律神経の心臓調節機構が体位変換によっ てどのように変化するか,また,健常者と糖尿病患者とではどのように異なるの かを考察する.さらに,数分程度といった短時間の心電図からくも膜下出血患者 の予後を予測できるのかについての検討も行う,
第7章は,結論であり,本研究の成果を総括して述べている.
4
第2章 味覚刺激による脳内情報処理 の電気生理学的研究とその 応用
2.1 舌の味覚刺激に対する誘発脳磁界
味覚は,二上の感覚器である味蕾中の味細胞が味物質を受容し,その味を電気 的変i換,すなわち,インパルスに変換することから始まる.このインパルスは孤 束核,視床を経由して大脳皮質味覚野に至る.
サル等動物を用いた神経解剖学的および電気生理学的研究により大脳皮質味覚 野の同定が行われ,その部位は前頭弁蓋部および島皮質領域であることが報告さ れている[102,126・139].また臨床報告では,味覚野はシルヴィウス溝内前頭弁蓋部と 二部の移行部または中心溝下端腹部に限局していると考えられている【13・110】.
一方,脳波を用いたヒトの味覚誘発電位は,刺激方法の困難さなども手伝ってほ とんど研究がなされていなかった【24].Kobal[64]の報告によると,誘発電位の頂点 潜時は約450msで,その最大ピークは正中中心部(Cz)にあり,動物実験によっ て得られた見地と一致しない.これは,前頭弁蓋部や島皮質の位置がシルヴィウ ス溝内の深い場所に存在しているために,誘発電位の記録では,これらの場所か
ら発生する電位を正確に記録できないことに起因している.
最近,SQUIDセンサを用いた脳磁計が開発され,脳に生じた微弱な電流の変化 を脳磁界として捕えることが可能になった,特に誘発電位記録と違って脳の溝内 部の興奮を良く記録することができることが報告されている岡.そこで本節では,
ヒトの味覚誘発磁界(GEF)を記録し,その発生源の同定を試みた.
2.1.1 方法 対象
味覚刺激課題では健常人男性5名(22〜44歳)を対象とし,電気刺激課題では 味覚刺激課題を受けた被験者のうちの4名を対象とした.
5
記録
1.位置決めシステム
全5例においてMR立体画像を得た.装置はSignal Advantage(GE Medical Systems高高,1.5T)を用い,連続スライス厚1.5mmのT1強調画像によっ て立体構成した,映像時に直径7mmの肝油球を直根と左右外耳孔前方に装 着し,肝油球中心を通る直交3軸座標系を定義した.脳磁界の計測直前に,
肝油球をコイルと置換し,コイルに流した信号を磁界としてSQUIDで計測 することにより,頭部座標系における脳磁センサの位置を決定した[89,90].
2.誘発磁界計測
被験者は,リクライニングシート型の椅子に座り,ヘルメット品品磁計(CTF Sys七ems二二)を被る.この脳磁心は,液体ヘリウムを入れた容器のそこが ヘルメット型に被験者の頭部を包み込み,容器の底に配置されたSQUIDセ ンサによって,頭皮から湧き出る磁界を頭部全体の最大66点で一度に推定 できる装置である.
誘発磁界信号は,DC〜100Hzでフィルタされたあと,サンプリング周波数 625Hzにて刺激前200msから刺激後800msまで記録された.
2.1.2 課題 1.味覚刺激課題
被験者は,舌を口から出して軽く上歯で舌を噛み舌の位置を固定する.刺激 溶液は,チューブを介して舌の右前半部に与えられる.味刺激開始のトリガ はチューブの先端から5mm先に取り付けた反射温光センサを味溶液が通過 した時点とした.舌を刺激した廃液は下唇にあてた容器を介してポリバケツ に蓄えられる.味刺激時間は約5秒で,舌の洗浄時間は約10秒とした.味 刺激の種類は,10%グルコース,0.3M食塩水および蒸留水とし,刺激後の洗 浄は蒸留水で行った.加算回数は40回とした.
2.電気刺激課題
味覚刺激課題と同じ舌の部位に一対の銀塩化銀電極を配置し,電気刺激を 行った.刺激頻度は2.7Hz,刺激持続時間は200μs,刺激強度は感覚閾値の 約3倍とした.また,加算回数は100回とした.
6 解析
味覚刺激課題では,刺激後約150〜210msに出現するN175m反応の頂点潜時に,
電気刺激課題では,刺激後難35〜40msに出現するP40m反応の頂点潜時に着目 して信号源推定を行った.P40mおよびN175mは後述するように左右両半球1個 ずつの電流双極子型なので左右2個の電極双極子モデルを用いた.電流双極子モ デルに必要な頭部を近似する球体は,個々の被験者のMRから読み取った頭皮座 標から最小自乗法によって計算した.画像処理ワークステーションとしてIndigo
(Smcon Graphics欝欝)を用い,計算されたN175m電流双極子の位置と方法を,
MR画像上にスーパーインポーズした【90」.
2.1.3 結果 1.味覚刺激課題
図2.1は,10%グルコース液で舌を刺激した時の,ある被験者の頭皮上から 記録された誘発脳磁界の分布を示しているが,両側に反応が出現しており,
この反応の頂点潜時は約208msであった.この反応について2個の電流双極 子モデルを用いて開発上マップで表わすと図2.2のように湧き出しと吸い込 みが2か所に明確に現れる.また,電流源推定を行い,MRI画像と重ね合 わせると,その位置は前頭弁蓋部と島皮質の境界付近にあることがわかった (図2.3).一方,蒸留水刺激を見ると,やはり同じような潜時をもって両側 性に反応が出現したが,グルコース刺激と比較してS/N比が悪く,電流源推 定では推定誤差が20%以上となり同定できなかった.
図2.1:味覚刺激時の誘発脳磁界の頭皮上分布
7
図2.2:味覚刺激後のN175m頭皮上磁界分布
図2.3:味覚刺激後のN175m信号源推定
表2.1は各被験者の頂点潜時および電流源推定位置をまとめたものである.
これを見ると,反応の頂点潜時は被験者間で約150〜210msと非常にばらつ きがあることがわかる.また,総則に対象性を持って反応が出現した例が2 例,両側ではあるが,左側が優位に出現した例が2例であった.しかしなが
ら,グルコース溶液による脳内電流源推定位置はいずれも総則または左側の 前頭弁蓋部であった.
8
表2.1:誘発脳磁界N175mの潜時とその電流源推定位置 N175m response
subject age/sex stimulus*
1atency【ms】 dipole estimation NM. 44/皿ale
N.N. 36/male T.1. 23/male
KH. 40/male A.K. 32/male
91ucose water glucose
water glucose
NaCl water 91ucose glucose
208 211 147 152 152 126 151 163 160
bilateral opercu㎞
not located**
bilateral opercuhn not located**
left>right operculm lefし>right operculm left>right operculm left>right operculm[
not located**
*glocose…10%glucose, NaCl…0.3M NaCl, water…distilled water.**dipole且t error>20%.
2.電気刺激課題
図2.4は,舌を電気刺激したときの,図2.1〜2.3と同一被験者の頭特上から 記録された誘発脳磁界の分布を示しているが,潜時約40msと90msで両側 に反応が出現している.この反応について2個の電流双極子モデルを用いて 頭早上マップで表わすと図2.5のようにいずれも湧き出しと吸い込みが2か 所に明確に現れる.また,電流源推定を行い,MRI画像と重ね合わせると,
その位置はP40mが中心溝付近(一次体性感覚野),P90mが前頭弁蓋門付 近(二次体性感覚野)にあることがわかった(図2.6).
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図2.4:電気刺激時の誘発脳磁界の頭皮上分布
9
図2.5:電気刺激後のP40m(左)およびP90m(右)の頭雪上磁界分布
図2.6:電気刺激後のP40m(上)およびP90m(下)の信号源推定
10 3.味覚誘発磁界と体性感覚誘発磁界の潜時
図2.7上は,舌に対する電気刺激によって得られた頭皮上64チャンネルの 誘発磁界を重ねてトレースしたもので,潜時約40msと90msに反応が現れ ている(矢印).前者が一次体性感覚や,後者が二次体性感覚野のものと思 われる.一方,図2.7下は,同一被験者の舌に対するグルコース刺激によっ て得られた反応であるが,潜時約110ms,150msおよび250msなどに反応が 出現している(矢印).光センサから舌に味溶液が到達するまでの時間は,
43.4±9.7msなので前二者は体性感覚の,後者の反応は味覚によるものと推 定した.
・,E蜘St
癩圏@譜丁重:轡
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ゆ護》ρ壇
毒諺
薮罐
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.o謡
蓼
㍉254滋s
私0、 50属レ 霊006⑤、 156.◎ 200爵 2§0.Oms
図2.7:同一被験者への舌への電気刺激(上)および味覚刺激(下)による誘発磁界
2.1.4 考察
本節では,味覚刺激課題により舌をグルコース溶液および食塩水で刺激した際 に得られた誘発脳磁界のうち,最初に出現するN175m波形に注目して解析を行っ た.また,味覚刺激課題で得られた誘発脳磁界反応が,味覚そのものから誘発され たものか,体性感覚,中でも二次体性感覚野に生じた電流源によって誘発された
ものかを調べるために,電気刺激課題により同一被験者の舌を電気刺激し,P40m およびP90m波形に注目して解析を行った.
11 Funakoshiら【24]はヒトの頭皮上から味溶液刺激に対する大脳誘発電位を記録し,
この誘発電位が潜時約150msおよび潜時約500〜1000msをもつ二つの陽性成分か らなることを報告した.前者の成分は,舌に溶液が接触した際の触刺激によって 誘発された体性感覚誘発電位で,後者の成分が味覚誘発電位であると結論づけた.
この遅い潜時をもつ成分は,最近のヒトの味覚反応時間と比較して長潜時である ことから,もっと高次の認知過程に関係した電位であろうと推定されている.
Karhuら161]は舌を電気刺激して誘発脳磁界を記録し, P55mとN140mの二つの 成分を見いだしている.彼らは,前者は一次体性感覚野に発生源を持ち,後者は 二次体性感覚野が発生源であると位置づけている.
本節で記録したN175mの成分は確かに二次体性感覚野に発生した電位を記録し ているのかもしれない.しかしながら,舌の電気刺激と味刺激に対する反応にお ける潜時の違いや,推定された発生源が二次体性感覚野よりもさらに前頭部の弁 蓋部と島皮質の境界領域であったことなどから,得られた誘発脳磁界は味覚によ るものであることが示唆された.
12
2.2 味覚認識機構〜甘味と大脳誘発電位〜
大脳皮質における味覚認知機構の解明には,動物による微小電極等を用いた電 気生理学的研究や免疫活性物質を用いた形態学的研究も重要であるが,一方にお いては官能検査などのヒトの心理学的側面をも含めた研究を進めることも重要な ことである.最近,脳波(EEG),陽電子断層撮影装置(PET),機能的核磁気共 鳴装置(fしmction MR1),超伝導量子干渉素子(SQUID)などの非侵襲的実験方 法が用いられるようになり,官能検査の最も欠点であった心理計測の定量化が可 能になってきた.
1971年,Funakoshiら圏は,スプーンに味溶液を入れ,機械的にスプーンが回 転することにより舌に味溶液がかかるようにし,このスプーンの回転をトリガにし てEEGを加算することにより誘発電位を記録した.彼らは,得られた誘発電位に 潜時が異なる2つの明瞭な成分があることを確認した.すなわち味刺激旧約200ms
に出現する早期成分は味溶液が舌に接触した際の触覚による反応であり,約500〜
1500msに出現する遅引成分を味覚誘発電位であるとしたが,はっきりとした反応 が得られたのは酸味と塩味刺激で,甘味と苦味刺激でははっきりとした反応をみ ることができなかった,
Koba1圓は,純粋に味覚の反応だけを得るために刺激物質をガス状にして刺激 を行った.その結果,刺激後300〜500msで味覚誘発電位を確認した.それゆえ彼 は,Funakoshiら図が確認した遅期成分は味覚誘発電位ではないと言及した.こ のように,これまでの脳波の研究において,味覚に関する誘発電位については必 ずしも一致した結論が得られておらず,十分な解析がなされているとはいえない.
1965年にSutton[151]らによって大脳誘発電位の割判成分は外因性の刺激によって 左右されず,被験者の心理変化や課題遂行に必要な心理過程によって変化する成 分であることが明らかにされた.彼らは,これを事象関連電位と呼んだ.したがっ て,R皿akoshiら【241によって見つけられた500〜1500msの陽性電位は,その潜時 からみてこの事象関連電位ではないかと考えられる.
Murayamaらは, SQUIDを用いて世界で初めて非侵襲的にヒトの大脳皮質一次 味覚野を同定することに成功した【85一鋼.しかしながら,このシステムが超高感度 磁気センサであることから特別な設備が必要であること,設備費や維持費(液体 ヘリウム補充費)が高価なこと,頭部をしっかりとセンサ部に固定しなければな らないこと,金属類や電解質液を使用できないことなど多くの制約があることも 事実である.一方,EEG記録はこれらの制約が比較的少なく,簡便に記録できる ことから感覚認知などの機能的観測によく使用されている[42,43].ここでは,EEG 計測の中の一つである大脳誘発電位を用いて甘味の認知に関する研究を行ったの
で報告する.
そこで本節では,まず,純水刺激時と,さまざまな濃度の甘味(サッカロース
13 溶液)刺激時の大脳誘発電位を記録して解析を行い,甘味に関する誘発電位が存 在するのかどうかを調べた.次に,純水刺激と甘味刺激という刺激物質の違いや 刺激強度の違い,また,甘味認知と非認知というヒトの感覚による違いが大脳誘 発電位にどのように反映されているのかということについて実験を行った.
2.2.1 方法 対象
低濃度甘味認知課題では健常人男性6名(21〜24才)を対象とし,高濃度甘味 認知課題ではさらに1名を加えた7名を対象とした.
課題
被験者は椅子に座り,頭部固定台に顔を入れ体勢を固定する.舌を口から出し て軽く上歯で舌を噛み,舌の位置を固定する.被験:者には舌を味溶液流出端に近 づけてもらい,何も知らせずに味溶液を流して味覚刺激を行う.味刺激開始のト
リガーは流出端から5mm先に取り付けた反射型光センサを味溶液が通過した時点 とした.味刺激時間は2秒間で,味刺激旧約10秒間純水を流して舌を洗浄し,同 様の手順で味覚刺激を繰り返し行った.
1.低濃度甘味認知課題(脳波記録なし)
6名の被験者に,純水および認知閾付近の4種類の低濃度の甘味刺激(サッ カロース10mM,20mM,30mM,50mM)の計5種類の刺激を,それぞれ出 現頻度20%でランダムに50回与えた.被験者にはあらかじめ押しボタンを 持たせておき,味刺激を開始してから甘味を感じた時点ですぐにボタンを押 してもらい,甘味を感じなかったらボタンは押さないように指示した.この 課題では脳波記録を行っていない.
2.低濃度甘味認知課題(脳波記録あり)
純水とサッカロース10mM,20mM,30mMおよび50mM溶液の計5種類の
刺激を前項と同じ被験:者に与えて大脳誘発電位の計測を行った.この時の各 味溶液の出現頻度はそれぞれ20%で被験者にランダムに刺激した.被験者に は,あらかじめ押しボタンを持たせておき,味刺激が終了してから5秒後に ブザーが鳴り,被験者は,その味刺激に対して甘味を感じたか感じなかった かをボタン押しで判定させた.1試行を50回刺激とし,各被験者10試行ず つ行った.この課題では脳波記録を行った.
14 3.高濃度甘味認知課題(ギムネマ葉非使用)
7名の被験者に,純水刺激および甘味をはっきりと認知できる濃度の甘味刺 激(300mMサッカロース)をそれぞれ出現頻度50%でランダムに刺激した.
被験者には押しボタンを持たせておき,甘味を感じたか感じなかったかをボ タン押しで判定させた.1試行を50回刺激とし,各被験者6試行ずつ行った.
この課題でも脳波記録を行った.
4.高濃度甘味認知課題(ギムネマ葉使用)
前項と同じ被験者に対して日を改めて,実験の各試行前に甘味抑制効果のあ るギムネマの葉を5分間噛んでもらい,前項と同様の実験を行った.被験者 には押しボタンを持たせておき,甘味を感じたか感じなかったかを溶液刺激 5秒後にボタン押しで判定させた.1試行を35回刺激とし,各被験者8試行 ずつ行った.この課題でも脳波記録を行った.
記録
前節で説明したように,課題2,3,4では脳波を記録した.そのときのシステ ムの構成を図2.8に示す.脳波の測定部位は国際10−20電極法に基づき,頭山上13
か所の部位(F3, Fz, F4, C3, Cz, C4, P3, Pz, P4, T3, T4, T5, T6)に電極
を置き,両耳朶連結を基準電極とした.刺激前200msから刺激後2000msまでの 脳波を1ms間隔でサンプリングし,パーソナルコンピュータに取り込んだ.
㊧』
⑱㊤撃順O
EEG
AのConve比e「
Personal Computer
図2.8:実験装置概略図および記録電極配置図
頭皮上の電極は,国際10−20電極法に基づいて13か所から脳波を記録した.得られた脳波はサン プリング時間1msでパーソナルコンピュータに取り込まれる.
15 2.2.2 結果
低濃度甘味認知課題
表2.2および表2.3に各刺激回数と甘味認知の回数およびボタン押しまでに要し た時間を示す.表2.2より,認知閾付近の甘味刺激に対して,その濃度が増すにつ れて甘味認知の回数が増えていること,また表2より刺激強度に関係なく,刺激開 始からおよそ1200msから1300msの間で押していることがわかる.脳で甘味を認 知してからボタン押しをさせるまでのタイムラグをおよそ100msと考えると,実 際に甘味を認知した時間は刺激後およそ1100〜1200msであると思われる.
表2.2:各刺激の回数と甘味認知の回数(11=6)
sttmulUS ≠とof stimulus ヲ与をof recogllitiol]L distilled water
10mM sucrose 20mM sucrose 30mM sucrose 50mM sucrose
64 63 57 61 51
3 (4.7%)
12 (19.0%)
20 (35.1%)
35 (57.4%)
44 (86.3%)
表2.3:ボタン押しによる甘味認知時間(n=6)
stimulUS time tO reCOgIlitiOI1 distilled water
10mM sucrose 20mM sucrose 30mM sucrose 50mM sucrose
1182±841 1309±470 1268±433 1313±446 1216±356
純水刺激時および甘味刺激時の加算平均波形を図2.9に示す.この加算平均波 形から特徴的な電位変化として,刺激後およそ200ms(潜時200ms)で陰性の電 位変動(上向き)が,甘味刺激時のみに潜時1000〜1200ms陽性の電位変動(下 向き)が計測されていることがわかる.以後,潜時約200msで計測された陰性の 電位のことをN200,潜時1000〜1200msで計測された陽性の電位のことをP1100
と呼ぶことにする.表2.4は,これら二つの反応の潜時を頭皮上の各部位でまとめ
16
たものである.いずれの反応も分散分析の結果,刺激強度問の潜時には有意差が 見られず,また各部位間にも有意差は見られなかった.しかし,P3, Pz, P4, T5,
T6の後頭,後側頭付近は潜時が長くなる傾向が見られた.
F3 Fz
F4−
T3 C3 Cz
C4
T4.
T5.
P3,
Pz、
P4 T6
_ Sucrose (N=2800)
一一一・Distilled Water(N=700)
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1・v
0 1000
Time【msec1
2000
図2.9:純水刺激および味覚認知閾付近の濃度(10mM,20mM,30mM,50mM)
のサッカロース刺激により得られた誘発電位
サッカロース刺激によって得られた誘発電位にはN200およびP1100の二つのピークが見られる
(矢印).
17
表2.4:各種味刺激による甘味誘発電位N200およびP1100成分の平均潜時【ms]
(n=6)
electrode F3 Fz F4
distiUed water 10mM sucrose
20mM sucrose
30mM:sucrose
50mM sucrose
196±44 194±45 187±41 184±42 1115±60 1111±64 193±44 194±44 1138±123 1139±129
191±32 189±33 1126±102 1131=ヒ106
202±54 202± 56
1139±126 1141±125
198±46 185±41 1112±66 193±43 1136±134
192±31 1126±104
203±53 1140±125
electrode T3 C3 Cz C4 T4
distiUed water 10mM sucrose
20mM sucrose
30mM sucrose
50mM sucyose
300±32 201±47 19ユ±38 190±36 1123±65 1114±60
202± 23 209± 28
1130±130 1138±134 189±31 190±31 1136±121 1131±104
202± 53 203± 53
1138±126 1144±126
201±49 206±36 190±37 190±34 1115±59 1113±61
204±34 203=ヒ34 1141±133 1137±134
192±31 192±30 1131±104 1133±104
206±53 203±56 1142=ヒ129 1148±123
201±32 189±31 1121±67 202±33 1135±135
190±30 1131±104
202±54 1140±128
electrode T5 P3 Pz P4 T6
distilled water
10皿Msucrose
20mM sucrose
30mM sucrose
50mM sucrose
216±37 216±35 219±44 216±46 1119±49 1127± 54 210±26 213±25 1138±129 1140±134
208±38 205± 36
1146±115 1140±100 221±56 219±57 1161±117 1164±122
219:土34 219=ヒ35
214±44 218±42
1129± 56 1131± 56
214±25 213±25 1142±130 1138±131
207±39 207±39 1138±102 1144±100
228±60 225±58 1164±121 1164±120
218±35 216±42 1119±48 213±25 1135±131
206±34 1139±102
224±58 1165±120
18 このような反応が,甘味刺激の強度によるものなのか,あるいは「甘い」とい
う被験者の主観的な感覚によるものなのかを調べるため,以下に刺激強度別解析 および被験者の感覚別の解析を行った.
図2.10Aは,純水,20mMサッカロースおよび50mMサッカロースに対する誘 発電位を示す.各電位の値は,刺激前200msから刺激開始までの平均値を基線と して基線からの差を測定した.これを見るとわかるように,各測定部位において,
N200の電位(図2.10B)は刺激強度に関係なくほぼ一定を示している.各測定部 位ごとに分散分析を行った結果,すべての部位で刺激強度に対する電位変化に有 意差を示さなかった.すなわち,N200の電位は刺激溶液の濃度に関して影響され ないことがわかった.また,各測定部位間の比較を行うと,前頭付近でもつも高 振幅となり,頭頂から後頭,側頭へかけて低振幅になる傾向が見られた.以上の 解析結果より,それぞれの測定部位におけるN200反応の潜時と電位は,各刺激に 対してほぼ一定の値をとり,刺激強度とは無関係であることがわかった.このこ とは,今回与えた刺激を純水刺激と甘味刺激に大別した場合,この二つの間で差 がなかったことも示している.よって,刺激後,約200msに現れる陰性の誘発電 位は,主に味覚刺激を舌に受けた際の触刺激により起きた反応であると考えられ
る.また,この反応の潜時が,前頭,頭頂から後頭,後側頭へかけて長くなる傾 向にあることと,電位が前頭付近から後頭,側頭にかけて小さくなっていること は,この電位が前頭側頭部付近で誘発されたことを表していると考えられる.
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鑑」、、。1
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蒲賑」 枷 C P11001難癖羅〉
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図2.10:各刺激強度別誘発電位と頭皮上電位分布
A=純水,20mMサッカロースおよび50mMサッカロース刺激によって得られた誘発電位波形. B:
N200反応の頭聖上電位分布.純水刺激およびサッカロース刺激によって得られた振幅は有意差が 見られなかった.C:P1100反応の一皮上分布.刺激強度の増加にともない振幅も増加している.
19
図2.10Cは,純水,20mMおよび50mMサッカロース刺激時のP1100反応の振 幅を示している.図より,刺激濃度が大きくなるに伴って,P1100反応の振幅は比 例的に増加していることがわかる.また,電位分布は頭頂Czを中心として,その 周りの前頭部,頭頂部,後頭部で大きな電位がでているが,側頭,後側頭付近で は振幅は小さくなった.また,左右差は見られなかった.
P1100反応の潜時は,刺激強度によらず,およそ1100msとほぼ一定の値をとり,
また,部位間の有意差は無かった.この潜時は,ボタン押し課題(表2.2)で示し た反応時間から約100msを差し引いた値とよく一致するものであった.一方,振 幅は味溶液の刺激濃度が増すにつれて増大することがわかった.これは一見する
と,刺激強度と相関を持って変化するように見られるが,表2.3で示したように刺 激強度の増加に伴い,被験者が「甘い」と感じる回数も当然多くなるので,この 反応が「甘い」,「甘くない」という認知に対する反応ではないという結論にはな
らない.そこで,先程得られた誘発電位を,被験者の「甘い」「甘くない」という 感覚別に誘発電位を収録してP1000における解析を試みた.
図2.11Aおよび図2.11Cに,それぞれ頭頂部Czにおける各刺激に対する甘味認 知時および甘味非認知時の加算平均波形を示す.被験者が刺激に対して甘味を認 知した時は,P1100が顕著に現れているが,甘味を認知しなかったときはほとん
ど出現していないことがわかる.
熱雰卜.
軽熱
o 鷲ooo
西隠1剛鵬1 P1100
C Cz
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P1100
…胤・・..一...欣.,...,一鮎__.2ヤ
一:虻愚
論々
ノ
図2.11:甘味認知別誘発電位と頭皮上電位分布
A:純水,20mMサッカロースおよび50mMサッカロース刺激における甘味認知時の誘発電位波形.
B:甘味認知時のP1100の頭皮上電位分布.刺激強度に関わらず電位が出現している. C:純水,
20mMサッカロースおよび50mMサッカロース刺激における甘味非認知時の誘発電位波形. D:甘 味非認知時のP1100の封皮上電位分布.刺激強度に関わらずほとんど電位が出現していない.
20 図2.11Bおよび図2.11Dは,それぞれ甘味認知時および否認知時におけるP1100
反応の振幅を示している.甘味認知時は,二皮上の各部位で純水およびサッカロー スの濃度の濃さに関わらずP1100の反応がある一定の大きさで出現している.一 方,甘味否認知時にはP1000反応はほとんど出現していなかった.つまり,刺激 に対して被験者が「甘い」と感じたときにのみ現れ,それが甘味を持たない純水 刺激に対してでも被験者が「甘い」と感じた場合には出現していること,また,そ の振幅の大きさは味刺灘の濃度が増加してもあまり変化がなかったことなどから,
この反応が甘味認知に関連している電位ではないかと推測される,しかし,感覚 別の解析を行う場合,それぞれの刺激に対して甘味認知,非認知の2つの場合に 分けて加算平均を行わなければならないので,一人分の加算平均では加算回数が 不足して電位を測定することができなかった.よって,今回の解析では被験者全 員分の加算平均をもとにした全加算の値のために統計的処理が困難であった.そ こで,甘味を抑制することで知られているギムネマ葉【5qを用いて実験を行った.
高濃度甘味認知課題
その結果を表2.5に示す.各溶液の上段がギムネマ葉を使用しなかった時の,下 段がギムネマ葉を使用した時の甘味認知回数を示している。ギムネマ葉を使用し なかった実験では,1003回の300mMサッカロース刺激に対して941回甘味を認 知した.一方,ギムネマ葉を用いた実験ではギムネマ葉の効果により甘味が抑制
され,969回の300mMサッカロース刺激に対して42回しか甘味を認知せず,被験 者がほとんど300mMサジカロースを純水と同じように甘く感じていないことがわ
かる.
表2,5:ギムネマ葉使用時および非使用時における甘味認知の回数(n=7)
stimulus gy皿nema #of stimulus #of recogIlition
distilled water
300mM sucrose
not used used not used used
1028 895 1003
969
7 2 941
42
(0.7%)
(0.2%)
(93.8%)
(4.3%)
図2.12Aに,ギムネマ葉非使用時における300mMサッカロース刺激時と純水刺 激時の加算平均波形(上段)およびギムネマ葉使用時における300mMサッカロー ス刺激時と純水刺激時の加算平均波形(下段)をそれぞれ示す.図2.12Bは,ギ ムネマ二不二用時およびギムネマ葉使用時の300mMサッカロース刺激に対する
21 P1100反応を示している.ギムネマ葉不使用時におけるサッカロース刺激時にの み大きな電位が現れ,ギムネマ葉を使用した実験では純水刺激時とサッカロース 刺激時の電位に差がなかった.2つの実験におけるサッカロース刺激時の電位を比 較すると,「甘い」と感じる通常の実験時のみ大きな電位が現れ,ギムネマ葉を使っ て甘味を抑制された状態の時の電位よりもF3, Fz, F4, C3, Cz, C4, P3, Pz, P4
の頭頂とその周辺の部位において有意に大きかった.
A Non・Gymnema−suα。s・ (N=102助 州 一D醐edW曲r(N=1003}
Cz ¥ ㍊鼠 ・
、
Gymnema =言諸w。,。,傑鵡
鋭:竺1・・
0 1000 20DO
Tirne lmsecl
B
■300mM sucrose(no㎎ymema〕 P1100 國300mM Su併。・e{9卿・ma)
□Di醐ilbd盟・・ 3 Fz F4
頃 1乱 』」
・1 V
T3 C3 Cz C4 T4
匡」 』」 』ヨ
T5 P3 Pz P4 T6
n37
]匙_曜一
図2.12:ギムネマ葉使用時,非使用時における高濃度サッカロース刺激誘発電位 A:ギムネマ三二使用時における誘発電位波形ではP1100反応が現れているが,ギムネマ葉使用時 にはほとんど出現していない.B:P1100反応の二皮上分布.ギムネマ葉使用時の振幅は非使用時 の振幅に比較して有意に減少している.
22 以上の結果より,P1100反応の電位は通常の実験の300mMサッカロース刺激時
のみ大きく現れ,ギムネマ葉を使用した実験の300mMサッカロース刺激時と純水 刺激時は変わらなかった.すなわち,同じ濃度の甘味刺激を与えて,甘味を認知で
きる場合と認知できない場合を比べた結果,甘味を認知できる場合のみ大きな電 位が現れたということである.一方,その電位の大きさは,10mM〜50mMサッカ
ロース溶液のような低濃度刺激時の値よりも大きくなることはなかった.すなわ ち,P1100反応の電位は刺激強度とは無関係であると考えられる,以上のことよ
り,P1100反応の電位は刺激強度に関係なく,被験者が味覚刺激に対して「甘い」
と感じる主観的な感覚を反映した電位であることが示唆される.
2.2.3 考察
純水および各種濃度の甘味刺激を与えた際に得られた誘発電位は,明瞭な二つ のピークを持つことを確認した.潜時約200msに出現するN200反応は,刺激の種 類,強度,被験者の感覚とは無関係に出現したことから,主に舌に溶液が接触し た際の触刺激によって誘発された体性感覚由来の電位であると思われる.しかし,
SQUIDを用いた実験では,味覚刺激後約150〜250msに反応が現れており,その
発生源は,前頭弁蓋部および島皮質周辺の境界領域であると報告されている[85−8司.
この領域は動物を用いた実験で触ニューロンと味覚ニューロンが混在している部 位[102]なので,今回得られたN200反応には一次味覚誘発電位が含まれている可能 性が大いにある.
P1100反応については,その反応時間や甘味刺激時にのみ出現する電位である ことから,味覚関連事象電位であろうと推察される.Rmakoshiら【241は,潜時約 500〜1500msに発生した陽性電位を一次味覚誘発電位であると結論づけた.しか
し,この電位は一次味覚電位としてはあまりにも長潜時であることから,もっと高 次の認知過程に関連した電位であろう推定されていた.もし,彼らが測定した長 潜時の陽性電位が甘味認知に関連した電位であると仮定すると本研究で測定した P1100反応と非常に良く一致した結果となる.この電位の脳における空間的局在は 残念ながらEEG記録では推定できない.なぜならEEG記録の場合は脳の両側頭 部に発生した電位は正中線上で電位が加算され最大電位として現れるからである.
多分,P1100反応の発生源は1ヶ所ではなく,認知という高次の情報処理行ってい く過程で複数の部位から発生しているものと思われる、この点に関してはSQUID などによる計測で明らかにしていく必要があると思われる.
23
2.3 味覚刺激に対するヒト脳波のカオス解析
最近の映像技術の進展は,脳算計(MEG),機能七型磁気共鳴映像法(fMRI)
および陽電子放射断層撮影(PET)のようなさまざまな非侵襲的な方法により,
ヒトの大脳の活動を測定することを可能にした.MurayamaらはMEGを用いて ヒトの一次味覚野を同定を試み,それが前頭弁蓋部,島皮質の境界領域にあると 報告した[85].また,fMRIやPETを用いた研究でも,同様の報告がなされてい
る[2,101・146・147】.
しかしながら,味を識別するためには,多くの他の感覚(例えば,食物の形,色 香り,舌触り,温度さらにはそのときの外界の環境)からの入力も非常に重要な 要素であり,これらが高次機能領野で統合されて初めて認識できることになる.
また,味覚認知の際,脳内では知覚,学習,記憶といった情報処理がなされてい る.既知の味の認知と未知の味のそれを比較すると,既知の味では記憶を元にし た認知となり,未知の味では学習的な認知となるはずであるが,前述の理由によ りこういった味の認知システムの区別は困難である.本章が目指すところは,学 習や記憶といった脳内情報処理を含めた味覚認知システムの解明である.
そこで,本章では,味覚認知時における脳内情報処理の様子を総轄的に捕らえ るために,脳波に対しフラクタル次元を用いて定量化することを試みた匹2一剣.
2.3.1 方法 対象
被験者は21〜30歳の健常者7名(男性6名,女性1名)で,実験の趣旨を説明
し,書面で承諾を得た.
課題
被験者は椅子に座り,頭部固定台に顔を入れ,舌を出して閉眼状態で実験を受
けた.
まず,このままの状態で閉眼安静時の脳波を測定した.つぎに,舌に味物質流 出端を近づけ,何も知らせずに蒸留水を流して無味刺激時の脳波を測定した.
その後,四基本味(塩味,苦味,酸味,甘味)のいずれかの味溶液を無作為な 順番で流して脳波を測定した.刺激後,10秒間ほど蒸留水で舌を洗浄し,つぎの 味刺激を行った.4つの味刺激とその後の舌の洗浄の終了をもって1巡とし,これ を3減して1試行とした.被験者に課した試行数は以下に説明する課題ごとに2ま たは4試行行い,試行間に10分ほど休憩をはさんだ.
24
●高濃度味刺激課題
塩味刺激として300mM塩化ナトリウム,苦味刺激として1mM塩酸キニー ネ,酸味刺激として40mM酢酸甘味刺激として500mMサッカロースの各 水溶液を準備した.これらの味溶液の濃度は,被験者が味刺激を受けると同 時にその味をはっきり認知できる程度に設定した.
●低濃度味刺激課題
塩味刺激として51mM塩化ナトリウム,苦味刺激として0.026mM塩酸キニー ネ,酸味刺激として3mM酢酸,甘味刺激として14mMサッカロースの各水 溶液を準備した.これらの味溶液の濃度は,被験者が味刺激を受けると同時 に無味ではないなんらかの味であることを認知できる程度(認知閾圓)に設 定した.また,被験者は舌の洗浄後,受けた味刺激がどの味であったかを回 答するよう指示された.
記録
脳波の測定部位は,国際10−20電極法に基づくC3, C4, T3, T4, T5, T6, Czを 探査電極とし,両耳朶連結を基準電極とした.脳波は脳波計(NIH:ON KOHDEN Neurofax)で増幅され, A/D変換器(CONTEC AD12−8T)を介してパーソナル コンビ。ユータ(NEC PC−9801RX2)に入力された.このときのサンプリング間隔 は2ms,サンプリング時間は赤外線反射型センサが味物質の流出端通過を検知し た時刻から2048msとした.
解析
以下の手順でフラクタル次元を求めた.
1.時系列の埋め込み
実験や観測で得られるデータが,もしも2変数ならば2次元の位相空間にそ の状態をプロットできる.また,さらに多くのπ変数のデータが得られるな らば,η次元の位相空間も可能となる.
しかしながら,通常はたいてい1変数が多い.例えば,実験等により振動現 象を測定する場合を考える.単振動,減衰振動の測定を行う場合,質点の位 置と速度を同時に測定するのではなく,通常は位置の時間変化のみを測定し,
速度は後に位置の変化から求めることができる.こうして位置の時間に対す る連続したデータ∬(のさえあれば,その時間微分錐)が求まり,位相空間
25
(∬(孟),和))の状態がわかる.しかし,実際問題として,微分の操作を行うと いうのは高周波の雑音を強調しやすい.
そこで,その代わりとして1変数のデータで2次元あるいはη次元の位相 空間が構成可能なことをTakensが示した[156】.この方法を埋め込み法という
(図2.13).
X(t) X量1》
Xt i 一.
= dt ・
Time Series Xt4》
t2》 ・
. Xt :
≒←一一=
X(t+T)
X(t4)
X(t2)
X㈹
量0 量1
2D Pase Space
量2 X(t+2 r》
,ご
t3 t4 X{tの・… 、
…… S:
lX{2》
X(t)
X㈹
t
㈹…・♪
X(壮。)X(t2)X(t1)
. X(t+T)
3D Phase Space
図2.13:埋め込み法
τ=2ムォのとき,2次元(左下)では@(オ。),∬(ε2)),(∬伍),皿(オ3)),…,3次元(右下)で は@(む0),τ(ε2)),∬(オ4)),@(オ1),雌3)),∬(オ5)),…,のように位相空間を再構成する.
この方法でη次元の位相空間を構成するためには,1変数のデータ∬(のに対 して,ある時間遅れ丁を決めることによって次式のようにして得られる.
皿(孟)=@(の,∬(孟+ア),…,∬(オ+(η一1)τ)) (2.1)
時間遅れ丁の決め方は,原理的には任意の大きさでよいが,あまりに小さな 値を選ぶと独立な成分が小さく状態を把握しづらくなる.また,あまり大き な値を選ぶとカオス特有の初期値に敏感な依存性のために雑音が拡大されて,
不必要な誤差を多く取り入れてしまう.そこで,これまでの経験的な判断か ら平均周期の数分の一を選べばよいということが知られている[1551.