http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title 複合筋活動電位(CMAP)を用いたボツリヌス毒素および抗毒素 の定量法の開発 Author(s) 鳥居, 恭司 Editor(s) Citation 大阪府立大学, 2009, 博士論文. Issue Date 2009 URL http://hdl.handle.net/10466/10408 Rights
大阪府立大学博士(獣医学)学位論文
複合筋活動電位(
CMAP)を用いたボツリヌス毒素
および抗毒素の定量法の開発
鳥居 恭司
目 次 緒 論··· 1 第 1 章 複合筋活動電位(CMAP)によるボツリヌス毒素活性の測定 第 1 節 CMAP によるボツリヌス毒素の生物活性の定量 Ⅰ.緒言··· 8 Ⅱ.材料および方法··· 9 Ⅲ.結果···13 Ⅳ.考察···17 第 2 節 各型ボツリヌス毒素の神経筋伝達抑制効果ならびに筋弛緩効果の比較 Ⅰ.緒言···35 Ⅱ.材料および方法···36 Ⅲ.結果···37 Ⅳ.考察···39 第 2 章 CMAP を用いたボツリヌス抗毒素の定量 Ⅰ.緒言···50 Ⅱ.材料および方法···50 Ⅲ.結果···54 Ⅳ.考察···56 総 合 考 察 ···66
謝 辞···71
1 緒論 ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は芽胞形成能をもつグラム陽性偏性 嫌気性桿菌であり、産生する神経毒素の抗原性の違いによりA 型から G 型に分 類されている[74, 84]。ボツリヌス菌は毒素の血清型以外に、タンパク質や糖 分解性、発育至適温度など生化学的な性状により分類され、Ⅰ群には蛋白分解 性のA、B および F 型菌、Ⅱ群には蛋白非分解性の B、E および F 型菌、Ⅲ群 にはC および D 型菌、Ⅳ群には G 型菌が属している[33]。 すべての型の毒素は菌体内で神経毒素(NTX)と無毒成分との複合体の形で 産生され、菌が融解する際に放出される。複合体毒素は分子量の違いにより、 LL 毒素、L 毒素および M 毒素に分けられ、A 型菌は LL 毒素、L 毒素および M 毒素を、B、C および D 型菌は L および M 毒素を、E および F 型菌は M 毒素 のみを、G 型菌は L 毒素のみを産生する[47, 49, 59, 67, 68, 89]。A 型菌の産 生する複合体毒素の分子量は、M 毒素が 300 kDa 、L 毒素が 500 kDa および LL 毒素が 900 kDa である[36]。M 毒素は NTX と無毒成分から構成され、L 毒素は M 毒素と血球凝集素から構成されており、LL 毒素は L 毒素の重合体で ある。複合体毒素は経口摂取された後、腸管から吸収されて血液により運ばれ、 NTX と無毒成分に解離する。無毒成分は胃や腸管内で NTX を保護する働きを 持つ。NTX は神経筋接合部位に作用し、神経伝達物質の遊離を特異的に阻害し、 ヒトや動物に致死的な弛緩性麻痺を引き起こす[37]。NTX は約 150 kDa の 1
2 本鎖ポリペプチドであり、菌自身の産生する蛋白分解酵素あるいは動物体内の 消化酵素により、約50 kDa の軽鎖と約 100 kDa の重鎖がジスルフィド結合で 結ばれた2 本鎖の構造に変化する。重鎖は機能的に重鎖 C 末端領域(Hc)と重 鎖 N 末端領域(HN)に二分され、Hc は神経筋接合部の神経細胞膜上の受容体 の認識および結合に、HNはエンドサイトーシスや脂質二重膜でのチャネル形成 などによる軽鎖の細胞内への侵入および移行に関与している[10, 25, 34, 65]。 軽鎖は亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性を持ち、標的蛋白を切断・分解する [85, 86]。その標的蛋白はシナプトブレビン、シンタキシンならびに SNAP-25 (synaptosomal-associated protein of 25 kDa )などのいわゆる SNARE (soluble N-ethylmaleiamide-sensitive factor attachment protein receptor) 蛋白であることが報告されている[41, 42]。各型の毒素により、その標的蛋白 と切断部位が異なることが明らかとなっており、A および E 型毒素は SNAP-25、 B、D および F 型毒素はシナプトブレビン、C 型毒素は SNAP-25 およびシンタ キシンを切断する[60, 77]。Hc が結合する受容体については A、B および C 型で同定されており、A 型は SV2、B 型はシナプトタグミンおよびガングリオ シドの複合体、C 型はガングリオシドである[18, 63, 65, 95]。 ヒトのボツリヌス中毒は主としてA、B、E および F 型菌によって起こり、C およびD 型菌は鳥類や家畜のボツリヌス症の原因となる[76, 90]。ヒトのボツ リヌス症は高い濃度の毒素の摂取あるいは菌または芽胞の摂取によって引き起 こされ、食餌性ボツリヌス症、創傷性ボツリヌス症、乳児および大人の腸管定
3 着性ボツリヌス症に分けられる[55, 62, 71, 92]。ボツリヌス症の治療の多くは ウマに免疫した抗毒素製剤が使用されているが、最近ではヒトの血液由来の抗 毒素製剤も使用されている[4, 12, 35, 94]。 ボツリヌス毒素の生物活性の評価法はマウス腹腔内投与(ip LD50)試験法が 標準法とされている[70]。この試験は毒素を腹腔内に投与し、毒素が呼吸筋に 作用することで呈する呼吸困難による致死を評価する。試験の測定は投与後 4 日目まで観察し、その間の累積死亡率を求め、投与群の半数が死亡する点(50% 死亡点)を統計的手法で算出する。この試験は、致死を指標にする直接力価法 であることから、使用する動物の種類、系統、年齢、体重などにより反応が異 なるのみならず、測定の時期、場所、または測定者によって得られるLD50値に バラツキが生じることから、信頼性のある値を得るためには多数のマウスが必 要となる[61, 79]。近年、動物愛護の観点から、世界的に実験動物の使用を制 限することが求められており、種々の実験動物を使用している試験について代 替法が検討されている[88]。動物試験の代替法は、動物に与える苦痛を少なく する(refinement)、使用動物数を削減する(reduction)、動物を使用しない方 法に置き換える(replacement)の 3R が提唱され検討されている。in vitro の 試験系であるエンドペプチダーゼ活性測定は動物を使用せずに測定が可能であ る[30, 99]。しかし、マウス ip LD50試験法よりも測定感度が低いこと、なら
びに軽鎖の持つ活性のみを指標にしていることが欠点である。ex-vivo の試験系 であるmouse diaphragm assay(MDA)はマウス ip LD50試験法よりも測定感度
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が高いが、試験に供するためにマウスの横隔膜および横隔神経を取り出す必要 があり手技が煩雑である。また、調製された標本により結果のバラツキが大き く再現性に難点がある[5, 88, 100]。in vivo の試験系の mouse flaccid paralysis assay は、毒素を投与した後肢の弛緩をスコアで評価する方法である[78, 93]。 この方法は、マウスip LD50試験法よりも測定感度は高く、マウスを斃死するこ とはないが、スコアで評価を行うため、得られるデータが離散的であるという 欠点がある。このようにこれまで確立されている各試験系にはいずれも欠点が あり、ボツリヌス毒素の生物活性の評価法はいまだにマウスip LD50試験法を使 用しているのが現状である。 ボツリヌス抗毒素の抗体価測定方法は、毒素活性測定法同様にマウス ip LD50 試験法に基づいたマウス中和試験法により行われている[32]。マウス中 和試験法は、試験毒素および抗毒素を反応させた反応液をマウスの腹腔内に投 与し、投与後 4 日目の生存数を測定する。中和できなかった残存毒素の影響で 死亡した動物の累積死亡率を求め、投与群の半数が死亡する点(50%中和点) を統計的手法により算出し、標準抗毒素とサンプルの 50%中和点の比からサン プルの抗体価を求める。この試験法における抗体価の測定限界は、10∼100 mU/ml とされている[10, 80]。これは、免疫動物の血清および抗毒素製剤の抗 体価測定には十分な感度であるが、微量な抗体価測定には不向きである。この 試験法についても様々な代替法の検討が行われている。in vitro の試験系として hapten-labeled elution 法 、 immunoprecipitation assay 、 enzyme-linked
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immunosorbent assay (ELISA)法などが検討され、いずれの測定法も検出感度 は約1 mU/ml と報告されている[17, 31, 52, 82]。しかし、いずれも抗原抗体 反応であり、毒素の中和活性を有しない抗体分子を検出する可能性を除去でき ないことが欠点である[80, 83, 96]。ex-vivo の試験系としては、毒素の生物活 性の評価同様に MDA がある。この試験法における毒素中和抗体の検出感度は マウス中和試験法よりも高く、0.3 mU/ml 程度まで測定が可能であると報告さ れている[19, 20, 28, 81]。しかし、試験に供する標本の調製が煩雑である[19, 20, 28, 88]。in vivo の試験系の一つとして、毒素の生物活性の評価同様に mouse flaccid paralysis assay がある[40]。これは毒素と抗毒素の反応液を後肢に投 与し、残存毒素による後肢の弛緩をスコアで評価する方法である。この試験法 の検出感度はマウス中和試験法よりも高く、約1 mU/ml まで測定が可能である が、得られるデータが離散的であるという欠点がある。このように様々な代替 試験法が検討されているが、それぞれ欠点があるため、毒素の生物活性の評価 同様に常法としては使用されていない。 筋弛緩作用を有するボツリヌス毒素の医薬品としての応用は、まず斜視の治 療に用いられて以来、眼瞼痙攣、痙性斜頚、ジストニア、痛みならびに泌尿器 疾患など多岐にわたる治療に利用されている[11, 38, 54, 91, 97]。微量の使用 で治療効果が高いボツリヌス毒素製剤は、現在では神経疾患の治療薬として不 可欠なものとなりつつある。治療用ボツリヌス毒素製剤で使用されている単位 は毒素活性測定法の代替が進んでいないこともあり、いまだにマウス ip LD50
6 を指標としており、1 マウス ip LD50=1 単位と設定されている。しかし、マウ スの系統による感受性の差などにより、各種製剤により 1 単位投与後の筋弛緩 効果が異なるという問題が生じている。例えば A 型毒素製剤の BOTOX®と Dysport®を同じ単位で比較したところ、筋弛緩効果が1:1 から 1:11 まで製剤間 で治療効果が異なるという報告があり、臨床現場で問題とされている[6, 48, 73, 99]。このため、毒素製剤の単位はマウス ip LD50ではなく、毒素の持つ本来の 作用である神経筋伝達抑制効果あるいは筋弛緩効果を指標にする必要があると 考えられる。また、治療用毒素製剤では高用量で長い期間頻回投与した患者に おいて、治療効果が減弱する症例があり問題とされている[8, 21, 80]。この治 療効果減弱の原因は患者血清に含まれる毒素に対する中和抗体によるとされて いる。患者血清に含まれる中和抗体の定量は、マウス中和試験法により行われ ているが、マウス中和試験法の測定限界値よりも少ない中和抗体量を血中に含 有しても、毒素製剤による治療効果は減弱するという報告がされている[80]。 このため、中和抗体により毒素の治療効果が減弱していると診断するためには、 マウス中和試験法より高感度な測定系が必要である。 本研究では、ボツリヌス毒素の生物活性の測定を、致死活性を指標としたマ ウスip LD50ではなく、その薬効である神経筋伝達抑制作用により、毒素の生物 活性を定量することを考えた。神経筋伝達抑制作用を評価する試験系はいくつ か存在するが、その中で臨床において各種神経疾患の診断に使用されている複 合筋活動電位(CMAP)測定に着目した。神経からの興奮は神経伝達物質によ
7 り筋肉に伝達され、筋肉側が興奮し活動電位を呈する。ボツリヌス毒素を筋肉 内投与すると毒素が神経筋接合部に作用し、神経伝達物質の放出を阻害し、筋 肉への興奮伝達が遮断される。このため、ボツリヌス毒素を投与すると投与筋 肉の CMAP 振幅が低下することが知られている[15, 45, 46]。本研究では、 CMAP を応用して、毒素の生物活性の測定法(CMAP 試験法)および抗毒素の 中和抗体価測定法(CMAP 中和試験法)の開発を試みた。また、各型毒素の神 経筋伝達抑制効果を比較検討した。あわせて、測定感度、試験精度の違いおよ び相関性について、マウスip LD50試験法とCMAP 試験法、マウス中和試験法 とCMAP 中和試験法をそれぞれ比較検討した。
8 第 1 章 複合筋活動電位(CMAP)によるボツリヌス毒素活性の測定 第 1 節 CMAP によるボツリヌス毒素の生物活性の定量 Ⅰ.緒言 ボツリヌス毒素は神経筋接合部に作用し、シナプス前膜からのアセチルコリ ンの放出を抑制することで弛緩性筋麻痺を引き起こす。このボツリヌス毒素の 神経筋伝達抑制効果を数値化することが可能であれば、毒素の生物活性を定量 できると考えられる。神経筋伝達抑制は、ボツリヌス中毒症以外に重症筋無力 症やイートン・ランバート症候群などの各種末梢神経疾患でも生じる[66, 69]。 この病態を診断する際にはCMAP が使用されている[45, 46]。CMAP は神経 線維が支配する筋線維を興奮させて生じるMUP (motor unit potential)の総和 である。臨床において、CMAP 測定は神経の走行に沿って電気刺激を加え、神 経が支配する筋肉のCMAP の振幅、潜時および持続時間を解析して診断に利用 している(図 1)。神経筋伝達に障害が認められる場合には、CMAP の振幅が低 下し、神経の伝導に障害が認められる場合は、CMAP の潜時および持続時間が 延長する。ボツリヌス毒素をラットの腓腹筋に投与しCMAP 測定を行った報告 がある[15]。この報告では毒素を投与することで CMAP 振幅が低下すると報 告されているが、生物活性を定量的に測定するなどの詳細な検討はされていな い。 本節では、ラットのCMAP を用いた各型毒素の生物活性の測定法の開発を試
9 みた。また、CMAP 測定により、毒素の神経筋伝達阻害活性を評価し得ること を確認するために、異なる作用機序をもつ筋弛緩剤を用いて、CMAP 振幅への 影響を検討した。さらに、CMAP 試験法とマウス ip LD50試験法で得られた結 果の測定感度、試験精度および相関性について検討した。 Ⅱ.材料および方法 1.供試菌株 ボツリヌスA 型菌として Chiba-H 株、B 型菌として Okra 株、C 型菌として CB19 株、C/D 型菌として 003-9 株、D 型菌として 1873 株、E 型菌として 35396 株、F 型菌として Langeland 株をそれぞれ用いた。 2.毒素の培養・精製
A、B、C、C/D、D、E および F 型神経毒素(150kDa、以下 NTX)を Sakaguchi らの方法の変法により調製した[75]。すなわち、A、B、E および F 型菌の培 地には2%ペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%グルコースおよび 0.025%チオグリ コール酸ナトリウムを含んだPYG 培地を使用した。C、C/D および D 型菌の培 地には0.8 %グルコース、0.5%可溶性澱粉、1.0%酵母エキス、1.0%硫酸アンモ ニウム、および0.1%システイン塩酸塩を含んだ基礎培地を作製し、基礎培地 100 ml に対し、クックドミートを 6 g、0.5%炭酸カルシウムを加えた培地を使用し
10 た。いずれも静置培養を30℃で 3∼4 日間行った後、酸沈殿、プロタミン処理、 イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過により複合体毒素を精製した。 各型のM 毒素を 10 mM リン酸緩衝液 (pH 7.5)で平衡化した DEAE セファロー スカラムに吸着させ、同緩衝液の0∼0.3 M NaCl 濃度勾配で溶出し NTX と無 毒タンパク質に分離した。得られたNTX を使用時まで‐70℃に保存した。 また、A 型毒素製剤(NTX、(財)化学及血清療法研究所製造)を使用した。 3.実験動物 マウスip LD50試験法に使用するメスのICR/CD-1 マウス(4 週齢、約 20 g) とCMAP 試験法に使用するメスの S/D 系ラット(8 週齢、約 200 g)は日本チ ャールズリバーから購入した。飼育室は明暗(12 時間点灯、12 時間消灯)、室 温(22∼25℃)および湿度(40∼60%)のコントロールを行い、食餌と水は随 意に摂取できるような環境に保った。本試験を実験動物に関する日本薬理学会 指針に基づいて行った。 4.毒素活性(マウス ip LD50)の測定 マウスip LD50試験法により、各型NTX の LD50を測定した[70]。 マウス ip LD50試験法は7 用量、用量間のインターバル 1.25、各用量 20 匹で実施し、 投与96 時間後の生死により累積死亡率を算出し、プロビット法により ip LD50 を算出した。
11 5.蛋白量の測定 各毒素の蛋白量はLowry らの方法[53]に従って測定し、牛血清アルブミン 相当量として示した。 6.CMAP 測定の刺激強度の検討 CMAP の測定は、ニコレーバイキングクエスト(ニコレー・バイオシステム ズ)を使用した。ラットを 約40 mg/kg のペントバルビタールナトリウム(ソム ノペンチル、共立製薬)を腹腔内に投与して麻酔した。眼瞼反射の消失後、ラ ットの背部および後肢を剃毛し、伏臥位に置いた。電極は、ワニ口クリップ(ニ コレー・バイオシステムズ)を用い、皮膚を挟んで使用した。刺激電極(a、b) を脊髄根上に、記録電極(‐)を後肢腓腹筋筋腹(c)に、記録電極(+)を後 肢腓腹筋腱(d)に、アース電極を尾根部(e)に各々設置した(図 2)。電気 刺激の刺激強度は 5、10、15、20、25 および 30 mA で行い、刺激時間はすべ て0.2 msec に設定した。各群 n=10 で後肢下腿部の CMAP を測定した。 7.各型 NTX の CMAP 測定 各型NTX を 0.5% ヒト血清アルブミンを含む生理食塩液で階段希釈し、A 型 NTX は 0.1∼300 ip LD50/ml、 B 型 NTX は 100∼100,000 ip LD50/ml、C 型 NTX は 1∼10,000 ip LD50/ml、C/D 型 NTX は 0.3∼100 ip LD50/ml、D 型 NTX
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は300∼100,000 ip LD50/ml、E 型 NTX は 1∼1,000 ip LD50/ml および F 型 NTX
は10∼10,000 ip LD50/ml に調製した。ラットに 麻 酔 後 、各濃度の毒素を左後
肢の腓腹筋内に0.1 ml ずつ筋肉内投与し、各群 n=5 で実施した。投与にはイン シュリンシリンジ (BD Ultra-Fine、29 G、ベクトンディッキンソン)を使用 した。CMAP の電気刺激は 25 mA、0.2 msec で行った。投与側、非投与側とも に2 回ずつ測定を行い、得られた CMAP 振幅の平均をデータに使用した。CMAP 測定は投与後0(投与前)、1、2、4、7 および 14 日に行った。 8.d-ツボクラリン(d-Tc)およびサクシニルコリン(SCC)投与による CMAP 振幅の変化 d-Tc(ナカライテスク)を 0.1∼0.9 mg/ml、および SCC(東京化成工業)を 1∼9 mg/ml の 3 倍階段希釈で生理食塩液により調製した。各濃度の薬物をラッ トの尾静脈から0.1 ml ずつ静脈内投与し、各希釈群 n=5 で実施した。d-Tc の投 与 3 分後、SCC の投与2分後に CMAP を測定した。使用するラットには投与 後の呼吸を確保するため気管にチューブを挿管し、1 回換気量は 2 ml、呼吸数 は70 回/分に設定し、人工呼吸器(シナノ製作所)を稼働させた。 9.統計解析
CMAP 振幅の解析には Statistical Analysis for Neurotoxin(SAN version 2.2)を作製し用いた。筋電図付属ソフトにより一つの CMAP の波形を 2000 の
13 ポイントにドット化し、各ドットの座標上の位置を数値化した。そのデータを SAN によりドットの情報から振幅の上端から下端までの幅を数値変換し CMAP 振幅とした。 各型NTX の神経筋伝達抑制効果の定量性については、CMAP 振幅を縦軸に、 毒素活性量を横軸にして、回帰分析により直線性を検討した。 d-Tc、SCC 投与の検定は SAS(Ver.9.1)を使用してヨンクヒール・タープス トラ(Jonckheere-Terpstra) の傾向性検定を行った。 Ⅲ.結果 1.供試 NTX の毒素活性 各型NTX の毒素活性は、A 型 9.3 107 ip LD50/mg、B 型 1.2 108 ip LD50/mg、 C 型 1.4 107 ip LD50/mg、C/D 型 8.3 107 ip LD50/mg、D 型 5.1 108 ip LD50/mg、E 型 8.0 106 ip LD50/mg、ならびに F 型 4.7 106 ip LD50/mg であ った。また、A 型毒素製剤の毒素活性は、89.7 ip LD50/vial であった。 2.刺激強度と CMAP 振幅 個々の筋線維はそれぞれ閾値刺激量が異なる。CMAP で測定を行う際には、 刺激部位のすべての筋線維を興奮させる刺激が必要となるため、電気刺激の強 度について検討した。その結果、20 mA 以上の刺激でほぼ一定の CMAP 振幅が
14 得られた(図 3)。刺激部位のすべての筋線維が興奮する最大刺激は 20 mA 付 近であると考えられた。通常、神経伝達検査では最大刺激の1.2 倍の最大上刺激 が用いられる[44, 45]。このため、ラットを用いた CMAP の電気刺激条件もそ れに準じて25 mA に設定した。 3.各型 NTX 投与による投与側 CMAP 振幅の反応 各型NTX を投与した群の CMAP 振幅を測定したところ、各型 NTX は用量依 存的にCMAP 振幅を低下させた。A、E および F 型 NTX を投与した時の CMAP 振幅は、投与後2 日目まで低下し、その後回復傾向を示した。B、C、C/D およ びD 型 NTX を投与した時の CMAP 振幅は、投与後 4 日目まで低下し、7 日目 以降徐々に回復した(図4∼10)。 4.各型 NTX 投与側 CMAP 振幅の解析 各型 NTX の投与後の CMAP 振幅を解析したところ、A、C、C/D および E 型NTX は 1 ip LD50以下の毒素活性量でCMAP 振幅が低下した。A、B、C、 C/D および D 型 NTX の投与後 1、2、4、7 および 14 日目における CMAP 振幅、 ならびにE および F 型 NTX の投与後 1、2 および 4 日目における CMAP 振幅 は用量反応性があり、縦軸をCMAP 振幅の logit 変換値、横軸を ip LD50のlog
値として回帰分析したとき直線性が認められた。各型NTX で CMAP 振幅を低 下させるために必要な毒素活性量は異なったが、すべてのNTX において最小活
15 性量の約300 倍まで直線性が得られた(表 1)。この直線性が得られる最大活性 量/最小活性量の比は、すべてのNTX において約 300 であった。 5.マウス ip LD50試験法およびCMAP 試験法の試験精度の比較 A 型 NTX を用いて、マウス ipLD50試験法およびCMAP 試験法の試験精度を 比較した。マウスip LD50試験法およびCMAP 試験法によりそれぞれ 2 回測定 し、マウスip LD50試験法はマウス1 匹あたりの ip LD50値、CMAP 試験法は ED50値をそれぞれ算出した。また、ip LD50値およびED50値のCV 値(変動係 数:標準偏差/平均値)を算出し比較した。その結果、マウスip LD50試験法の CV 値は 11.5%であったのに対し、CMAP 試験法の CV 値は 5.9%であった(表 2)。 6.マウス ip LD50試験法およびCMAP 試験法の相関性 A 型毒素製剤を用いて、マウス ip LD50試験法およびCMAP 試験法により得 られる力価について比較した。A 型毒素製剤をマウス ip LD50 試験法および CMAP 試験法によりそれぞれ 3 回測定した。マウス ip LD50試験法はマウス1 匹あたりのip LD50値から1 バイアルの製剤あたりの ip LD50値を算出し、CMAP 試験法は A 型 NTX との平行線検定により 1 バイアルの製剤あたりの ip LD50 値を算出した。その結果、マウスip LD50試験法では、89.7 ip LD50/vial であっ たのに対し、CMAP 試験法では 89.5 ip LD50/vial となり、両試験法で得られた ip LD50値は相関していることが示された(表 3)。
16 7.筋弛緩薬(d-Tc および SCC)投与による CMAP 振幅の変化 CMAP 振幅が神経筋伝達抑制の程度を反映しているかを評価するため、作用 機序の異なる筋弛緩薬を用いて評価を行った。被験薬は非脱分極性筋弛緩薬 d-Tc および脱分極性筋弛緩薬 SCC を使用し、各 CMAP 振幅の変化を検討した。 d-Tc はニコチン性アセチルコリン受容体の拮抗薬であり、アセチルコリンの作 用を競合的に阻害することで筋麻痺を引き起こす[50]。SCC はニコチン性ア セチルコリン受容体と結合し、最初脱分極を引き起こすが、SCC はアセチルコ リンエステラーゼで分解されないため、脱分極が持続してナトリウムチャネル が不活化状態となり、アセチルコリンが受容体と結合しても活動電位が発生し なくなる。この結果、SCC は筋弛緩を引き起こす[50]。この二つの薬剤を用 いて CMAP 振幅の変化を測定した。d-Tc の 0.01、0.03 および 0.09 mg/head 投与群のCMAP 振幅の平均値はそれぞれ Vehicle 群の約 78、15 および 2%に低 下し、SCC の 0.1、0.3 および 0.9 mg/head 投与群ではそれぞれ Vehicle 群の約 68、12 および 1%に低下した。ヨンクヒール・タープストラの傾向性検定の結 果、d-Tc および SCC 投与群は Vehicle 群と比べていずれも有意差が認められた (p<0.0001)(図 11)。 筋弛緩薬の作用は神経筋伝達抑制であるため、CMAP を測定した場合、刺激 から CMAP 振幅が発生するまでの時間(潜時)および CMAP の持続時間には 変化を生じない。CMAP 試験法でも潜時および持続時間に変化が生じていない
17 ことを確認するため、d-Tc の 0.01 mg/head および SCC の 0.1 mg/head 投与群 の投与前および投与後の潜時および持続時間を比較した。その結果、d-Tc の 0.01 mg/head および SCC の 0.1 mg/head 投与群の潜時および持続時間はともに、投 与前と差は認められなかった(図12)。 CMAP 試験法は、ボツリヌス毒素と同様に筋弛緩薬でも用量依存的に CMAP 振幅を低下させ、潜時および持続時間に変化を生じないことが明らかになり、 筋弛緩作用を持つ薬物の神経筋伝達阻害活性を評価し得ることが示された。 Ⅳ.考察 CMAP 振幅は、ボツリヌス毒素と作用機序の異なる筋弛緩薬である d-Tc およ びSCC 投与によっても用量依存的な反応が認められ、潜時および持続時間に変 化を生じなかった。この結果、CMAP 振幅は筋弛緩作用をもたらす薬物の神経 筋伝達抑制効果を反映することが示された。 CMAP 試験法を用いて、各型ボツリヌス毒素の生物活性測定の可能性を検討 した結果、すべての型の NTX において CMAP 振幅に対する用量反応性が認め られた。CMAP 振幅を低下させる毒素量は、型によって異なったが、A、B、C、 C/D および D 型 NTX は投与後 1∼14 日目まで回帰直線が得られ、E および F 型 NTX は投与後 1∼4 日目まで回帰直線が得られた。マウス ip LD50試験法は 毒素活性を評価するのに投与後4 日間必要であることから、CMAP 試験法によ
18 り投与後1 日目から評価できることは大きなメリットである。 A、C、C/D および E 型 NTX ではそれぞれ 0.01、0.1、0.03 および 0.1 ip LD50 以上の投与でCMAP 振幅が低下し、マウス ip LD50試験法の測定限界感度であ る1 ip LD50以下の毒素量を測定できた。しかし、B、D および F 型 NTX につ いては、10、30 および 1 ip LD50以上の投与でCMAP 振幅が低下し、マウス ip LD50試験法と同等あるいはそれより感度が劣る結果となった。これらの結果は、 マウスおよびラットの毒素に対する感受性の違いと考えられる。また、各型NTX 投与後におけるCMAP 振幅の回帰直線の直線性が認められる範囲は、すべての NTX においた最小活性量の約 300 倍までであった。これは幅広いレンジの毒素 活性量を測定できることを示している。 マウスip LD50試験法とCMAP 試験法の試験精度を比較すると、CMAP 試験 法はマウスip LD50試験法よりも高い精度を示すことが分かった。一般に試験法 の精度は規格幅の1/8 以下のものが正確に測定できなければならない[43]。既 存のボツリヌス毒素製剤の規格幅は70∼130%( 30%)であり、CV 値として は3.75%以内を求められる。この条件を満たすために、マウス ip LD50試験法の 結果では 10 回以上の試験が必要であり、CMAP 試験法の結果では 3 回の試験 で十分である。これらの結果から、基準を満たすために試験に使用する動物数 は、マウス ip LD50試験法では約1,500 匹必要であるのに対し、CMAP 試験法 では約100 匹以下で測定可能であると言える。 これらのことから、CMAP 試験法は各種毒素の生物活性を投与後 1 日目の測
19
定により判定が可能であり、測定レンジが広く、かつ試験精度が良い試験系で あると考えられた。
20 表 1. CMAP 振幅の回帰直線の直線性の範囲 型 直線性の範囲(ip LD50) 投与後1 日 (R2) a 投与後 2 日 (R2) 投与後 4 日 (R2) 投与後 7 日(R2) A B C C/D D E F
a, R2: Multiple correlation coefficient.
投与後14 日 (R2) (0.959) (0.915) (0.946) (0.963) (0.937) (0.954) (0.950) (0.968) (0.962) (0.949) (0.966) (0.949) (0.955) (0.968) (0.958) (0.915) (0.956) (0.971) (0.954) (0.957) (0.980) (0.953) (0.928) (0.954) (0.979) (0.932) (0.957) (0.964) (0.942) (0.930) (0.937) 0.01 10 0.1 0.03 30 0.1 1 30 10,000 100 10 30,000 30 300 ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ 0.01 10 0.1 0.03 30 0.1 1 ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ 10 10,000 30 10 30,000 30 300 0.01 10 0.1 0.03 30 0.3 10 ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ 10 10,000 30 3 10,000 100 300 0.01 10 0.1 0.03 30 ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ 10 10,000 30 3 10,000 0.01 10 0.1 0.03 30 ‐ ‐ ‐ ‐ ‐ 10 10,000 100 10 30,000
‐
‐
‐
‐
21 表 2. マウス ip LD50法およびCMAP 試験法の試験精度 A) マウス ip LD50法 マウスip LD50法(50%死亡点) 測定結果 加重平均 変動係数 (ip LD50/ マウス) (ip LD50/ マウス) (%) B)CMAP 試験法 CMAP 試験法(ED50) 測定結果 平均 変動係数 (ip LD50/ ラット) (ip LD50/ ラット) (%) 0.763 0.900 0.837 11.57 0.149 0.137 0.143 5.93
22
表 3. マウス ip LD50法およびCMAP 試験法による相関性の確認(A 型毒素
製剤の測定)
A) マウス ip LD50法
測定結果 加重平均 (ip LD50/vial) (ip LD50/vial)
B)CMAP 試験法
測定結果 加重平均 (ip LD50/vial) (ip LD50/vial)
78.9 92.0 103.7 89.7 86.2 94.3 89.4 89.5
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24 図 2. CMAP 測定時の電極の配置 a:刺激電極(+)、b:刺激電極(‐)、c:投与側測定時の記録電極(‐)及び 投与部位、d:投与側測定時の記録電極(+)、e:アース電極、f:非投与側測定 時の記録電極(‐)、g:非投与側測定時の記録電極(+)
a
b
c
e
d
g
f
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図 3. 刺激電流量と CMAP 振幅の関係
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28
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30
31
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図 11. 筋弛緩薬(d-Tc、SCC)投与筋における CMAP 振幅の変化 A, d-Tc 投与後の CMAP 振幅値 ; B, SCC 投与後の CMAP 振幅値
A
34 図 12. d-Tc(0.01 mg)および SCC(0.1mg)投与筋における CMAP の潜 時および持続時間の変化 A, 潜時の変化 ; B, 持続時間の変化
B
A
35 第 2 節 各型ボツリヌス毒素の神経筋伝達抑制効果ならびに筋弛緩効果 の比較 Ⅰ.緒言 ボツリヌス毒素は現在A および B 型が製剤化されて、様々な疾患の治療に利 用されている[2, 3, 26, 72, 74]。また、C、E および F 型毒素についても、臨 床研究の形で報告されており、これらの毒素については有効性が確認されてい る[7, 14, 16, 23, 29, 56]。B 型毒素は斜頸の治療において、A 型毒素の 100 倍 の毒素量が必要と報告されており、C 型毒素は眼瞼痙攣およびジストニアの治 療において、A 型毒素とほぼ同程度の毒素量で効果があったと報告されている [22, 24]。また、F 型毒素は眼瞼痙攣の治療において、A 型毒素の 10 倍の毒素 量が必要であったと報告されている[56]。このように、各型毒素で神経筋伝達 抑制効果ならびに筋弛緩効果を呈するのに必要な毒素量は、それぞれ異なって いる。また、毒素を治療薬として使用する場合、投与部位にのみ確実に効果を 示し、他の部位への拡散(副作用)はできるだけ少ないことが望ましい。CMAP 測定法では投与側筋肉および非投与側筋肉のCMAP 振幅を測定することができ るため、投与側筋肉の測定により薬効を、非投与側筋肉の測定により全身性の 拡散を評価できる可能性がある。 本節では、各型毒素の薬効および全身性の拡散を評価するために、投与側お よび非投与側 CMAP 振幅を測定し比較検討した。さらに、CMAP 振幅および
36
Digit abduction scoring assay(DAS assay)を用いて、各型毒素が引き起こす 神経筋伝達抑制効果および筋弛緩作用に相関が認められるか比較した。 Ⅱ.材料および方法 1.供試毒素 毒素は第1 節で使用した A、B、C、C/D、D、E および F 型 NTX を使用した。 2.各型 NTX の CMAP 測定 各型NTX の希釈および CMAP 測定は第 1 節同様に行った。記録電極を投与 側、非投与側のそれぞれの後肢腓腹筋筋腹に設置して測定した。CMAP 測定を 投与後0(投与前)1、2、4、7 および 14 日に行った。
3.Digit abduction scoring assay (DAS assay)
各型ボツリヌス毒素の筋弛緩作用の比較は DAS assay により行った。DAS assay は毒素製剤の筋弛緩効果の比較に使用されているものである[1]。この方 法はマウスの腓腹筋に毒素を投与し、投与肢の指先の形から、毒素の筋弛緩効 果を測定するものである。DAS の反応のピークは投与後 2∼3 日と報告されて いる[1]。各型 NTX の筋弛緩効果を比較するため、この DAS assay をラット に応用して実施し、各型NTX 投与後 2 日目に判定した。陰性コントロールは希
37 釈液を投与したラットを使用した。評価は盲検化して、毒素投与後の投与肢の 指先の形から 5 つの等級でスコア化した。すなわち、スコア 0 は足がフラット で非投与肢と同様に指を伸ばす状態とした。スコア1は足がフラットで非投与 肢と比べて指の幅が異なる、あるいは 2 つの指が接触しており他は完全に延び た状態とした。スコア2は足がフラットですべての指の隙間がわずか、あるい は 3 つの指が接触した状態とした。スコア3は足がフラットで 5 つの指が接触 した状態、あるいは足がカーブし 4 つの指が接触した状態とした。スコア4は 足がカーブしすべての指が接触した状態とした。 4.統計解析
CMAP 振幅の解析には第 1 節同様に、Statistical Analysis for Neurotoxin (SAN version 2.2)を用いた。 各型 NTX の神経筋伝達抑制効果の比較のため、毒素投与後の投与側 CMAP 振幅が最小になる時点のCMAP 振幅を縦軸に、毒素活性量を横軸にして回帰分 析し、投与前のCMAP 振幅を 50%低下させる毒素活性量を 50%有効量(ED50) とした。毒素非投与側も同様に、非投与側 CMAP 振幅が最小になる時点での CMAP 振幅を縦軸に、毒素活性量を横軸にして回帰分析し、投与前の CMAP 振 幅を20%低下させる毒素活性量を 20%毒性量(TD20)とした。
38
Ⅲ.結果
1.各型 NTX の投与側に対する神経筋伝達抑制効果
各型 NTX による神経筋伝達抑制効果を比較するため、CMAP 振幅を投与前 の50%低下させるのに必要な毒素量を ED50とした。その結果、ED50はD 型>
B 型>F 型>E 型>C 型>C/D 型>A 型となり、A 型 NTX は CMAP 振幅を低 下させるのに最も効果が強く、D 型 NTX は最も効果が弱かった(表 4)。 2.各型 NTX の非投与側に対する神経筋伝達抑制効果と安全域の比較 A、B、C、C/D、D および F 型 NTX の非投与側の CMAP 振幅は、投与後 4 日目まで低下し、7 日目以降回復した。E 型 NTX の非投与側の CMAP 振幅は、 それぞれ投与後2 日目まで低下し、その後回復した(図 13∼19)。 各型 NTX の拡散性を比較するため、毒素投与後 CMAP 振幅が最小になる時 点のデータを用いて、CMAP 振幅を投与前の 20%低下させるのに必要な毒素量 をTD20とした(表 3)。その結果、TD20はD 型>F 型>B 型>C 型>E 型>A 型>C/D 型となり、C/D 型 NTX は最も少ない毒素活性量で非投与側の CMAP を低下させ、D 型 NTX は最も多くの毒素量が必要であった。各型 NTX の投与 側での効果(薬効、ED50値)ならびに非投与側への拡散(毒性、TD20値)から、 TD20を ED50で除した値を安全域と定義した。安全域は F 型>C 型>D 型>E 型>A 型>C/D 型>B 型となり、F 型 NTX は最も安全域が広く非投与側に拡散 しにくく、B 型 NTX は安全域が最も狭いことから最も拡散しやすいという結果
39 が得られた。 3.各型 NTX の筋弛緩効果の比較 DAS assay を用いて各型 NTX の筋弛緩効果を比較した。横軸を毒素活性量、 縦軸をDAS スコアとしたとき、各型 NTX の筋弛緩効果は用量依存的であり、 また、直線性が認められた。筋弛緩効果を示すのに必要な毒素活性量は B 型= D 型>F 型>E 型>A 型=C 型=C/D 型となり、A、C および C/D 型 NTX は最 も筋弛緩効果が強く、B 型および D 型 NTX は最も弱いことが示された(図 20)。 CMAP と DAS の結果を比較したところ、DAS でスコア1になるためには、 CMAP 振幅を完全に消失させる毒素量よりも多くの量を投与する必要があった。 Ⅳ.考察 各型NTX の投与筋における神経筋伝達抑制効果を比較したところ、A 型 NTX は最も効果が強く、C/D、C、E および F 型 NTX は、毒素製剤として使用され ているB 型 NTX よりも効果が強かった。非投与筋における神経筋伝達抑制効果 は、投与側同様に用量依存性が認められた。投与筋については、毒素量を多く することで完全に神経筋伝達を遮断することができたが、非投与側については、 完全に神経筋伝達を遮断する毒素量まで投与すると死亡する例が認められた。 毒素の拡散性の評価は、マウス握力試験において、毒素非投与側の握力を投与
40 前の 20%低下させるのに必要な毒素量により評価されている[100]。これを CMAP 振幅に応用して、毒素非投与側における各型の比較を行った。また、毒 素を治療薬として使用する場合、有効量と副作用を生じる量の幅が広いほど安 全な薬剤となる。各型 NTX の安全性を比較するために安全域を求めたところ、 A 型 NTX は B 型 NTX よりも広く、C、D、E および F 型 NTX は、A 型 NTX よりも広い(拡散しにくい)ことが示唆された。従って、CMAP 試験法は毒素 の生物活性測定だけでなく、各型NTX の有効性および安全性を知るのに有用で あった。 ボツリヌス毒素の神経筋伝達抑制効果が筋弛緩効果と相関するかを検討する ために、DAS assay によりin vivo の筋弛緩効果を比較した。A、C および C/D 型 NTX の筋弛緩効果は最も強く、E 型および F 型 NTX の筋弛緩効果は B 型 NTX よりも強いことが示された。C 型以外のすべての NTX は CMAP 試験法に よる神経筋伝達抑制効果の強さ(ED50)とDAS assay による筋弛緩効果の強さ がそれぞれ相関していた。ED50において、C 型 NTX は A および C/D 型 NTX よりも多くの毒素活性量を必要としたが、DAS では A および C/D 型 NTX と同 じ筋弛緩効果を示し、神経筋伝達抑制効果と筋弛緩効果が相関しなかった。C 型NTX は神経筋伝達抑制による筋弛緩だけでなく、毒素が直接筋肉に作用する などの他の作用機序を介して、筋弛緩効果を促進させている可能性が考えられ た。
41
表 4. 各型の ED50, TD20,及び安全域
型 ED50 a) TD20b) 安全域
(ip LD50) (ip LD50) (TD20/ED50)
A B C C/D D E F a) ED50、投与側CMAP 振幅を 50%低下させるのに必要な毒素量 b) TD20、非投与側CMAP 振幅を 20% 低下させるのに必要な毒素量 0.09 167 0.54 0.13 206 0.85 4.67 1.57 1,226 385 1.38 36,433 50 3,772 18 7 718 11 177 59 808
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図 16. C/D 型 NTX 投与による非投与側筋肉における CMAP 振幅の用量反応 性
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図 20. DAS assay による各型 NTX の筋弛緩効果の比較(投与後 2 日) 各毒素活性量投与時のDAS の中央値を図示した。
50 第 2 章 CMAP を用いたボツリヌス抗毒素の定量 Ⅰ.緒言 ボツリヌス毒素による治療への応用が進むにつれ、頻回投与による治療効果 の低下が数多く報告されるようになった[57]。この効果減弱の原因の一つとし て、患者体内での中和抗体の産生が考えられている。患者血清に含まれる毒素 中和抗体の定量は、標準法であるマウス中和試験法により行われているが、そ の測定限界は10∼100 mU/ml と報告されている[10, 80]。その一方、マウス 中和試験法の測定限界値よりも少ない毒素中和抗体が血中に存在していても、 治療効果の低下が認められたと報告されている[80]。従って、毒素中和抗体に よる治療効果の低下を診断するには、マウス中和試験法より高感度な測定系の 開発が必須と考えられている。 これまで臨床領域においては患者体内での中和抗体の有無を定性的に調べる 方法として、extensor digitorum brevis test(EDB 試験)がある[27, 44, 87]。 この EDB 試験は患者の短趾伸筋などに毒素を投与し、CMAP 振幅の変動を測 定するもので、定性的な試験法ではあるが数mU の抗体を検出できるとされて いる。 本章では、EDB 試験の原理を利用し、CMAP を用いたボツリヌス抗毒素の中 和抗体価の測定法の開発を試みた。また、治療効果が減弱している患者血清を 用いて、CMAP による中和抗体測定法(CMAP 中和試験法)、マウス中和試験 法、ならびにELISA 法により抗体価を測定し、その測定感度を比較した。 Ⅱ.材料および方法
51 1.実験動物 マウス中和試験法にはメスの ICR/CD-1 マウス(4 週齢、約 20 g、日本チャ ールスリバー)、CMAP 中和試験法にはメスの S/D 系ラット(8 週齢、約 200 g、 日本チャールスリバー)をそれぞれ使用した。免疫血清を得るためにメスの日 本白色種ウサギ(9 週齢、約 2 kg、北山ラベス)を使用した。飼育室は明暗(12 時間点灯、12 時間消灯)、室温(22∼25℃)および湿度(40∼60%)のコント ロールを行い、食餌と水は随意に摂取できるような環境に保った。本試験を実 験動物に関する日本薬理学会指針に基づいて行った。 2.供試菌株および毒素の調製
ボツリヌスA 型菌として 62A 株、B 型菌として Okra 株、E 型菌として 35396 株、F 型菌として Langeland 株をそれぞれ用いた。NTX は第 1 章同様に培養、 精製を行った。 3.抗毒素の調製 1) 標準抗毒素 抗毒素の標準品はウマ由来のA、B、E および F 型国内標準抗毒素(国立感染 症研究所)を使用した。標準抗毒素の 1 単位(U)は、A、B および F 型では 10,000 マウス ip LD50、E 型では 1,000 マウス ip LD50の毒素をそれぞれ中和す ると報告されている[39, 61]。 2) ウサギへの A 型トキソイド免疫 初回免疫としてホルマリンによりトキソイド化したA 型 NTX (10 μg)を含む 溶液0.5 ml を Freund’s complete adjuvant (シグマ)と等量混合してウサギの皮
52 下に接種した。初回免疫から 2 週間後にトキソイドを Freund’s incomplete adjuvant (シグマ)と等量混合して、2 週間おきに 2 回追加免疫した。最終免疫 から1 週間後に全採血して血清を分離した。 4.患者血清およびコントロール血清 A 型ボツリヌス毒素製剤(BOTOX®、アラガン)を頻回投与後に効果減弱の 認められた7人の患者からインフォームドコンセントを得た後、血清を得た。 陽性コントロールとして、A、B、E および F 型ボツリヌストキソイドを投与し たボランティア 1 名の血清を採取し、また、陰性コントロールとして、ボツリ ヌス毒素を投与されていないボランティア1 名の血清を採取し、試験に供した。 患者およびコントロール血清を用いる上で、(財)化学及血清療法研究所の研 究倫理審査委員会の承認を得て実施した。 5.マウス中和試験法による中和抗体価の測定 マウス中和試験法は、既報の変法を用いて行った[58]。A 型標準抗毒素は 0.312、0.252、0.200、0.160 および 0.128 U/ml に 0.5%ゼラチンを含むリン酸 緩衝液(pH6.0)で希釈し、検体は予想される抗体価から標準抗毒素と同じ抗体 価となるように希釈した。試験毒素は0.25 ml 中に 1 試験毒素量(0.05 U/0.25 ml と反応させ、マウスに投与して半数死亡する毒素量)を含むように調製した。 抗毒素と試験毒素を等量混合し室温で 1 時間反応させ、反応液をマウス 1 匹あ たり0.5 ml ずつ腹腔内投与し投与後 4 日間観察した。各用量 10 匹で実施し、 投与後 4 日目の生死によりプロビット法を用いて 50%死亡点を算出し、A 型標 準抗毒素との相対力価から検体の抗体価を算出した。
53 6.CMAP による抗体価測定 標準抗毒素および各種血清を 0.5% ヒト血清アルブミンを含む生理食塩液で 希釈した。試験毒素は各型のNTX を用い、試験毒素として毒素単独の投与で振 幅が投与前の1/4 程度まで低下する量(A 型;10 マウス ip LD50/ml、B 型;60,000 マウス ip LD50/ml、E 型;60 マウス ip LD50/ml および F 型;600 マウス ip LD50/ml)に設定した。A 型については、測定感度を上げるために、1 マウス ip LD50/ml でも測定した。抗毒素と試験毒素を等量混合し室温で 1 時間反応させ た。ラットは第1 章同様に麻酔し、左側腓腹筋に 0.1 ml 筋肉内投与した。CMAP 測定は第1 章同様に、毒素投与前および投与後 1 日目に行った。 7.ELISA 法による抗体価の測定
ELISA 測定では、96-well マイクロタイタープレート(Maxisorp Immuno Modules、ヌンク)を使用し、A 型 NTX を固相化抗原とした。0.15 M 塩化ナ トリウムを含むトリス緩衝液(TBS、0.1 M トリス‐塩酸、0.15 M NaCl、pH 8.0)で NTX を 2 μg/ml に希釈し、各 well に 100μl ずつ分注した。プレート は4℃、一晩反応させた後、TBS で 3 回洗浄した。1%ウシ血清アルブミンを加 えた TBS を 300μl 分注し、4℃、一晩反応させプレートをブロッキングした。 0.05%Tween20 を含む TBS(TBS-T)でプレートを 5 回洗浄し、2%ウシ血清ア ルブミンおよび2%非働化ヤギ血清を含む TBS で患者血清を 200 倍に希釈し、 100μl ずつ well に分注し、37℃、2 時間インキュベートした。TBS-T で 5 回プ レートを洗浄し、2%ウシ血清アルブミンおよび 2%非働化ヤギ血清を含む TBS でペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgG、IgA および IgM 抗体(シグマ)を、各 well に100μl ずつ分注した。37℃、1 時間インキュベートした後、TBS-T で 5 回洗 浄し、TMB Microwell Peroxidase Substrate (キルケガードペリーラボラトリー
54 ズ)を各 well に 100μl ずつ分注し、室温で 30 分反応させ、0.05 M 硫酸を各 well に100μl ずつ分注して発色を停止させた後、マイクロプレートリーダーにより 450 nm の吸光度を測定した。ネガティブコントロールにはヒト血漿 (ジョージ キングバイオメディカル)を使用した。ELISA 価をネガティブコントロールの吸 光度の倍数で表記し、サンプルの吸光度がネガティブコントロールの吸光度の2 倍以上(ELISA 価>2)の場合、抗体陽性と判断した。 8.統計解析
CMAP 振幅の解析には第 1 章同様に Statistical Analysis for Neurotoxin (SAN、ver.2.2)を用いた。 標準抗毒素のCMAP 振幅を回帰分析し、データの分散、回帰直線の直線性を 確認することで、中和抗体価の定量性を確認した。 CMAP 中和試験法およびマウス中和試験法で得られる中和抗体価が実際に相 関するかを確認するため、ウサギ血清および標準抗毒素の回帰直線を平行線検 定した。 患者血清の抗体価を測定するために、標準抗毒素のCMAP 振幅を回帰分析し た。その回帰直線を検量線として使用した。 Ⅲ.結果 1.各型標準抗毒素と試験毒素の反応液投与筋の CMAP 振幅の用量反応性 A、B、E および F 型の標準抗毒素と試験毒素の反応液投与後 1 日目の CMAP 振幅は、抗体量に応じた用量反応性が認められた。回帰分析は、縦軸を CMAP 振幅、横軸を抗体価として行い、最も直線性の得られる変換方法を選択した。
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その結果、A および E 型の回帰直線では、縦軸を CMAP 振幅とし、横軸を抗体 価のlog 値としたときに、A 型では 3∼100 mU/ml、E 型では 1∼50 mU/ml の 範囲で最も直線性が認められた。B 型および F 型の回帰直線では縦軸を CMAP 振幅のlog 値とし、横軸を抗体価の log 値としたときに、B 型では 25∼100 mU/ml、 F 型では 3∼50 mU/ml の範囲で最も直線性が認められた(図 21∼24)。A 型標準 抗毒素については、試験毒素量を 1 マウス ip LD50/ml に設定したところ、1.5 mU/ml まで検量線の直線性が認められた(図 25)。 2.抗毒素血清の CMAP 中和試験法による毒素中和抗体の定量 CMAP 中和試験法およびマウス中和試験法で得られる中和抗体価が実際に相 関するかを確認するため、A 型標準抗毒素ならびにウサギ抗毒素血清の各濃度 における反応を回帰分析した。その結果、得られた回帰直線は分散が一様であ り、直線性が認められた。そこで両直線を平行線検定したところ、平行性が認 められ、Relative potency は 0.9 となった。95%信頼区間は 0.62∼1.25 であり、 二つの直線は非常に類似していた(図 26)。この結果、CMAP 中和試験法ならび にマウス中和試験法で得られる中和抗体価はほぼ一致した。 3.マウス中和試験法および CMAP 中和試験法の試験精度の比較 A 型標準抗毒素を用いて、マウス中和試験法および CMAP 中和試験法の精度 を比較した。それぞれ 3 回測定し、測定値の CV 値(標準偏差/平均値)を算 出し比較した。その結果、マウス中和試験法の CV 値は 1.37%、CMAP 中和試 験法のCV 値は 0.22%であった(表 5)。 4.A 型ボツリヌス毒素治療不応答患者血清の CMAP 中和試験法による毒素中
56 和抗体価測定 A 型毒素治療不応答患者血清中の中和抗体を CMAP 中和試験法により測定し たところ、7 名すべての患者の血清から 3∼50 mU/ml の抗体を検出した。マウ ス中和試験法では7 名の患者血清のうち 1 名の血清のみ 60 mU/ml の抗体を検 出し、ELISA 法では 2 名の患者の血清から抗体を検出した。ボツリヌス毒素非 投与のボランティアからは3 種類の測定法でいずれも抗体は検出されなかった。 マウス中和試験法およびCMAP 中和試験法の測定結果を比較したところ、マ ウス中和試験法で抗体が検出された血清 No.7 ならびに陽性コントロールの抗 体価は、二つの試験法でほぼ同じ値を示した(表 6)。血清 No.7 は ELISA 法 でも抗体陽性が確認された。CMAP 中和試験法および ELISA 法の各測定結果 を比較したところ、CMAP 中和試験法による患者血清の抗体価ならびに ELISA 測定値の相関係数は R2=0.056 であり、CMAP 中和試験法による抗体価と ELISA 法の測定値間で、相関は認められなかった。 Ⅳ.考察 本章では、マウス中和試験法の代替法として、CMAP 中和試験法が使用可能 かを検討した。その結果、CMAP 振幅は中和抗体価の用量依存的な反応を示し た。回帰直線の直線性の範囲は各型の抗毒素により異なっていた。A、B、E お よびF 型の抗毒素はそれぞれ、1、25、1 および 3 mU/ml まで直線性が認めら れ、すべての型の抗毒素でマウス中和試験法よりも高い感度の測定が可能であ った。マウス中和試験法では判定するのに投与後 4 日目までかかっていたとこ ろ、CMAP 中和試験法は投与後 1 日目に幅広いレンジの抗体価を測定すること が可能であった。CMAP 中和試験法により得られる抗体価とマウス中和試験法
57 の相関性を確認するため、マウス中和試験法により抗体価が明らかになってい るウサギA 型抗毒素血清を用いて測定した。その結果、ウサギ A 型抗毒素血清 とA 型毒素の反応は、標準抗毒素と A 型毒素の反応とほぼ一致し、CMAP 中和 試験法で得られる抗体価は、マウス中和試験法の結果と相関することが示され た。また、マウス中和試験法と CMAP 中和試験法の試験精度の比較において、 CMAP 中和試験法はマウス中和試験法よりも精度が高く、ボツリヌス抗毒素の 製剤検定などにも応用できる可能性を示した。 A 型ボツリヌス毒素製剤を頻回投与し、治療効果の減弱が認められた 7 名の 患者血清中の抗体価を CMAP 中和試験法、マウス中和試験法ならびに ELISA 法により測定した。CMAP 中和試験法で測定を行った結果、すべての患者の血 清中から微量の中和抗体が検出され、治療効果の減弱の原因は毒素に対して産 生された中和抗体であることが示唆された。マウス中和試験法では 1 名の患者 血清のみ抗体が検出され、CMAP 中和試験法よりも検出感度が低かった。ELISA 法においては 2 名の患者血清から抗体が検出されたが、中和抗体価と相関して いないことが示された。中和抗体価と相関しない原因は、今回の使用したELISA 法ではA 型 NTX を固相化抗原として測定したため、A 型 NTX を認識するすべ ての抗体を検出したためと考えられた。マウス中和試験法で陽性であったヒト 血清の中和抗体価と CMAP 中和試験法で得られた中和抗体価は、ほぼ一致し、 ウサギ血清だけでなく、ヒト血清でも二つの試験法で得られる中和抗体価に相 関性が認められた。 以上の結果から、CMAP 中和試験法はマウス中和試験法よりも高感度に測定 が可能であり、試験精度が高いことからボツリヌス抗毒素製剤の品質試験にも 応用可能であることが示された。
58 表 5. マウス中和試験法および CMAP 中和試験法の試験精度(A 型標準抗毒 素測定) A) マウス中和試験法 マウス中和試験法(50%死亡点) 測定結果 加重平均 変動係数 (U/ マウス) (U/ マウス) (%) B)CMAP 中和試験法 CMAP 中和試験法(ED50) 測定結果 平均 変動係数 (mU/ ラット) (mU/ ラット) (%) 0.850 0.830 0.850 0.843 1.37 7.378 7.354 7.384 7.372 0.22
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表 6. 患者及びボランティアの血清中の抗体価
血清 No. マウス中和試験 CMAP 中和試験 ELISAa) (mU/ml) (mU/ml) 1 NDb) 3 ND 2 ND 4 6 3 ND 4 ND 4 ND 4 ND 5 ND 4 ND 6 ND 5 ND 7 8 (Positive control) 9 (Negative control) ND ND ND
a) ELISA titer は No.9(Negative control)の吸光度を1としたときの倍数で表記し
た。 b) ND: Not detectable 60 200 50 190 3 13
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図 21. A 型標準抗毒素と試験毒素の反応液投与筋の CMAP 振幅の用量反応 性
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図 22. B 型標準抗毒素と試験毒素の反応液投与筋の CMAP 振幅の用量反応 性
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図 23. E 型標準抗毒素と試験毒素の反応液投与筋の CMAP 振幅の用量反応 性
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図 24. F 型標準抗毒素と試験毒素の反応液投与筋の CMAP 振幅の用量反応 性
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図 25. A 型標準抗毒素と試験毒素 (1 ip LD50/ml)の反応液投与筋の CMAP
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図 26. A 型標準抗毒素とウサギ抗毒素血清の反応性比較(平行線検定) ■、‐:A 型標準抗毒素、□、---:ウサギ抗毒素血清
66 総合考察 ボツリヌス毒素の生物活性を測定する方法として、マウスip LD50試験法が標 準法とされている[70]。しかしながら、この試験は、マウスの系統による毒素 に対する感受性の差、マウスの個体差ならびに試験実施者の手技の違いなどの 影響を受けやすい。例えば、マウスip LD50値のバラツキを知るために、毒素の 国際標準候補品を作製して行われたコラボレイト試験が報告されている[79]。 同一のサンプル(A 型毒素)をマウス ip LD50試験法により複数の研究施設で測 定したところ、測定施設間における毒素活性のバラツキはCV 値 22∼34%と大 きなバラツキが生じた。A 型毒素製剤の試験精度は、CV 値 3.75%以内を求めら れることから、この製剤の基準に適合させるために複数施設でマウス ip LD50 試験法により毒素の生物活性を求める場合、最大で83 回の測定を行いその平均 値を得る必要がある。このようにマウスip LD50試験法により、ボツリヌス毒素 の生物活性を求める場合、信頼性のある値を得るためには多くのマウスが必要 となる。 また、ボツリヌス抗毒素の中和抗体価測定方法には、マウス中和試験法が標 準法として使用されている[32]。この試験法における中和抗体価の測定限界値 は10∼100 mU/ml とされており、微量の中和抗体は検出できない。 マウスip LD50試験法およびマウス中和試験法の問題点を解決するために、代 替法の検討が提言されている。国際学会などで議論が行われているが、標準法
67 の問題点を解決できる適切な代替法がないため、いまだにマウスの致死を指標 とする試験系が広く行われている。 本研究では、マウスip LD50試験法およびマウス中和試験法の代替法としてラ ットを用いた CMAP 試験法および CMAP 中和試験法を行った。その結果、 CMAP 試験法および CMAP 中和試験法は、標準法よりも以下の利点があること が示された。毒素の生物活性測定(A、C、C/D および E 型)および中和抗体価 測定において、標準法よりも高感度である。標準法による毒素の生物活性ある いは中和抗体価を判定するのに 4 日かかるのに対し、CMAP 試験法および CMAP 中和試験法は投与後 1 日目に評価できる。再現性に優れていることから、 試験数を標準法よりも少なくできる。標準法が 1 試験につき 100 匹以上の動物 を使用するのに対し、CMAP 試験法および CMAP 中和試験法は 20∼30 匹の動 物しか使用しないため、動物数の削減に寄与できる。毒素の生物活性測定およ び中和抗体価測定において、投与する毒素量は神経筋伝達を完全に遮断しない ことから、筋肉の麻痺まで至らず、さらに測定は麻酔下で行うため、動物に与 える苦痛も少ない。CMAP 試験法および CMAP 中和試験法のこれらの利点は、 動物愛護の観点からも優れており、標準法の代替法として適した方法であると 考えられる。 CMAP 試験は、ボツリヌス毒素の生物活性の定量だけでなく、神経筋伝達抑 制効果を比較する薬理試験にも応用可能であることが示された。本研究におい て、d-ツボクラリン、サクシニルコリンにより用量依存的に CMAP 振幅が低下
68 したことから、神経筋伝達抑制による筋弛緩剤の薬理効果の比較に使用できる ことが示された。また、CMAP は筋肉の活動電位を測定することから、筋肉の 活動電位を遮断する薬物、ナトリウムチャネル阻害剤あるいはカルシウムチャ ネル阻害剤の薬理評価にも理論上応用可能と考えられる。本研究において、各 型ボツリヌス毒素の神経筋伝達抑制効果を比較したところ、A 型毒素の効果は 最も強いことが明らかとなった。また、筋弛緩効果も最も強いことが分かった。 しかし、A 型毒素は B および C/D 型毒素以外の各型毒素よりも非投与側へ拡散 しやすいことが示唆された。また、C 型毒素は A 型毒素同様に筋弛緩効果が最 も強く、さらに A 型毒素よりも拡散しにくいという特徴を持つことが明らかと なった。ヒトの治療における A 型毒素は、投与した筋肉以外へ拡散することに よる嚥下困難などが問題視されている[13]。ラットにおける各型毒素の神経筋 伝達抑制効果ならびに筋弛緩効果の結果をそのままヒトへ外挿できると仮定し た場合、C 型毒素は A 型毒素の問題点を解決できる可能性がある。C 型毒素は サルの吸入毒性および臨床研究によるヒトへの投与例がある[22、51]。サルへ の吸入による致死量は、A 型毒素とほぼ同じ量であり、ヒトへの投与では A 型 毒素と同等の筋弛緩効果を示すことが報告されていることから、今後治療に応 用される可能性がある。また、E 型毒素の神経筋伝達抑制効果は A、C/D およ びC 型毒素に次いで強く、安全域も F、C および D 型毒素に次いで広いが、効 果の持続は最も短いという特徴を持つことが示された。E および F 型毒素は今 回のラットにおける神経筋伝達抑制効果同様に、ヒトにおいても持続性が短い
69 ことが報告されている[7, 14, 22]。しかし、E 型毒素は中枢神経への作用に関 する報告があり、ラットの海馬に投与したところグルタミン酸の放出を抑制し、 錐体細胞からの自然放電も抑制する。このため、今後てんかんなどの中枢神経 疾患に用いられる可能性がある[9]。 ボツリヌス毒素製剤は現在A および B 型製剤が上市されて、筋緊張疾患、痛 み、泌尿器疾患など様々な疾患に適応されている。また、臨床研究として、C、 E および F 型毒素を使用して治療効果を検討する試みも数多く報告されている [7, 14, 23, 29, 56]。これらの毒素は極めて微量の投与により治療効果が得られ る。例えば、A 型毒素による眼瞼痙攣の治療における 1 回の投与量は、0.5 ng であり、痙性斜頸の治療においては10 ng である[57]。このように治療に使用 する毒素量は極めて微量であるため、抗体がわずかに存在するだけで毒素の治 療効果を打ち消す可能性がある。患者に抗体産生が確認された場合、すみやか に投与量の変更、あるいは他の型の毒素製剤への変更を検討する必要がある。 CMAP 中和試験法は、非常に測定感度が高く、マウス中和試験法では検出でき なかった微量抗体の測定も可能であった。また、CMAP 中和試験法は A 型だけ でなく、B、E および F 型毒素に対する微量の中和抗体の測定が可能であること から、それらの毒素が今後上市され、治療に使用されるようになった際にも微 量抗体測定に利用できると考えられる。 本研究で検討した CMAP 試験法および CMAP 中和試験法は、迅速に測定が 可能で動物愛護にも有用な試験方法ではあるが問題点も存在する。まず、使用