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聴覚および視覚刺激による脳内情報処理の電気生理学的研究とその応

ドキュメント内 1難癖羅〉 (ページ 43-140)

究とその応用

 1965年にSuttonら[151]がある刺激を認知し不確かさが解消されたときに,刺激 の約300msec後に頭頂部から陽性電位が記録されると発見して以来,この陽性電 位(P300)は認知機能を表す[152]ということで,痴呆[1岡や分裂病[131]その他の精 神疾患の認知機能障害を検討する電気生理学的評価方法として用いられるように

なってきている.

 刺激としては音刺激,なかでも周波数の異なる2種類のバースト音を聞き,低 頻度刺激に対してカウントあるいはボタン押しをさせるというオドボールパラダ イムがよく用いられている.その他視覚刺激,体性感覚刺激を用いた研究もなさ れ[92・145】,P300潜時は刺激のモダリティ間で異なるといわれている,

 本章の第1節および第2節ではP300を言語性疾患に臨床応用するために,聴 覚,視覚刺激を言語性と非言語性とに分類し,それぞれの刺激を用いた揚合の健

常者[53]および言語性疾患患者[54]における事象関連電位(event−related potentiaB,

ERP)を検討する.

 また,第3節では注意干渉を用いて記録した記憶関連電位(memory・related P300)【94]

を提唱し,その臨床応用の有効性を検討する.

3.1 健常者の言語性,非言語性P300の検討

3.1.1 方法 対象

 20歳代〜80歳代の神経学的,聴覚,視覚的に正常な健常者で,各年代5名ずつ の計35名を対象とした.1名を除き全員が右利きであった.また全被験者には本 実験の目的と方法を事前に説明し了解を得た.

40 課題

 被験者には室温を一定にしたシールドルームにて,日本臨床神経生理学会が推 奨するオドボールパラダイムを行った.刺激としては以下のようにして聴覚,視 覚の2種類の刺激をそれぞれ非言語性,言語性とに分けて呈示した.

 刺激の呈示順序は全例視覚の非言語性,言語性,聴覚の非言語性,言語性の順

序とした.

1.聴覚刺激

 重言語性聴覚刺激は標的刺激を2000Hzの純音,標準刺激を1000Hzの純音  とし,言語性聴覚刺激の標的刺激は『あ』,標準刺激は『い,う,え,お』と  し,80dBの刺激強度で呈示した.聴覚刺激は被験者の眼前1mに置いたス  ビーカから呈示された.いずれの刺激も標的刺激が20%,標準刺激が80%と  なるように無作為に呈示し,被験者には標的刺激に対するボタン押し課題を  与えた.刺激呈示時間は200ms,刺激間隔は2secとした.

2.視覚刺激

 非言語性視覚刺激は標的刺激を『○』,標準刺激は『×』とし,言語性視覚  刺激の標的刺激は『あ』,標準刺激は『い,う,え,お』とした.視覚刺激  は被験者の眼前1mに置いたディスプレイ上に呈示された.いずれの刺激も  標的刺激が20%,標準刺激が80%となるように無作為に呈示し,被験者には  標的刺激に対するボタン押し課題を与えた.刺激呈示時間は500msで,刺激  間隔は2secとした.

記録

 電極は皿電極を国際10−20法のFz, Cz, Pz, P3, P4に置き,両耳朶連結を基 準電極とし時定数1秒で記録した.高周波遮断域は60Hzに設定し,同時に眼電図

(眉間と右眼下外側の双極)も記録しながら記録中に電位が200μVを超えたもの は,自動的に削除されるようにした.皮膚抵抗は常に5kΩ以下に保ち,分析時間 はいずれの刺激でも刺激前100msから刺激後1000msとした.また,加算は標的 刺激と標準刺激とに分けて行い標的刺激が20回加算されるまで記録した.標的刺 激が連続した場合は自動的に後続は記録から除外した,

分析

 各被験者の低頻度刺激に対するERP波形の中から各成分の同定を以下のように 行った.まずN150は潜時65〜230msの間の陰性頂点とし, P200成分はN150に

41 引き続く陽性頂点,N250はP200に続き現れる陰性頂点とした. P300潜時は刺激 時から250〜700msまでに現れる最大陽性成分の頂点で求めた.振幅は刺激呈示前 100ms分の平均を基線とした基線一頂点間で測定した.しかし, P200, N250では それぞれの前後の成分から振れ幅が影響されるため,N250振幅はN250−P300間 の,P200はP200−N250間の電位差で求めた.

検定

各データの年齢との相関,部位別の比較はt−test行い刺激間の比較はpaired t−test を用いた.有意水準はP<0.01とした.

3.1.2 結果 波形

 32歳女性の標的刺激に対するERPの典型的波形を図3.1に示した.左から非言 語性聴覚刺激,言語性聴覚刺激,非難語性視覚刺激,言語性視覚刺激に対する波 形で,それぞれ上から正中前頭部(Fz),正中中心部(Cz),正中頭頂部(Pz),

左頭頂部(P3),右頭頂部(P4)から記録されたものである.

N1…N150, P2…P200, N2…N250, P3…P300.

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図3.1:32歳女性における聴覚(左),視覚(右)の標的刺激に対するERP

42  P300に関しては,視覚刺激で振幅が大きく,非言語性視覚刺激は非言語性聴覚 刺激よりも長潜時であるものの,同様の波形と頭皮上分布を示した.一方,N150,

P200に関しては,聴覚と視覚で明らかに異なる頭言上分布を示した. N150, P200 は聴覚の場合,前頭,中心部優位の傾向であり,視覚の場合は頭頂部優位の傾向

を示した.

P300の甲皮上電位分布

 表3.1に,各刺激に対するP300の頭皮上電位分布を示した.各被験者の最大振 幅を100とし;各電極がその最大振幅の何%になるかを求め,全被験者の平均±標 準偏差で表した.

表3.1:各刺激に対するP300の頭皮上電位分布

      auditory       visual electrode

      nolレverbal[%]  verbaユ[%]    nonFverba1[%]  verba1[%]

Fz

Cz

Pz P3 P4

74.9±21.9 78.7±19.6 92.2±14.8 82.1±12.5 86.2±15.5

67.5±25.0 77.0±20.0 91.7±12.9 78.7±17.5 83.0±13.6

55.6±26.8 58.1±28.7 95.6±10.2 82.9±16.8 84.8±14.8

55.2±34.9.

52.5±29.4 90.1±16.9 74.4±24.4 74.9±23.5

 聴覚,視覚の言語性,非言語性ともに,P300は正中頭頂部(Pz)で最大電位を 示した.左右頭頂部(P3, P4)を比較すると有意差はなかったが,聴覚,視覚刺 激とも言語性,非言語性によらず右優位の傾向を認めた.

P300潜時と振幅

 表3.2に,Pzにおける各ERP成分の潜時とP300の振幅を示した.

 P300の平均潜時は,聴覚刺激の場合,非言語性で334.5±34.3ms,言語性で 414。1±61.6ms,視覚刺激の場合,非言語性で365.2±25.7ms,言語性で407.8±

39.4msであった.非言語性と言語性との比較では,聴覚,視覚刺激ともに,言語 性が童言語性よりも長潜時であった(Pく0.0001).聴覚と視覚刺激との比較では,

古言語性では,視覚刺激のほうが聴覚よりも長潜時であり(P<0.0001),言語性 では聴覚と視覚刺激間で有意差は得られなかった.

43  P300の平均振幅は,聴覚刺激の場合,非言語性で15.5±5,4μV,言語性で10.4

±6.2μV,視覚刺激の場合,非言語性で19。6±7.6μV,言語性で20。2±7.8μVで あった.漏壷語性と言語性の比較では,聴覚刺激のみ非命語性が言語性よりも高 振幅であり(P<0.0001),視覚刺激では両者に有意差はなかった。聴覚と視覚刺 激の比較では,非言語性,言語1生ともに視覚刺激が聴覚よりも高振幅であった(非 言語性P<0.001,言語性.P<0.0001).

表32:Pzにおける各ERP成分の潜時とP300の振幅

       auditory

component

       non−verbal    verbal

    visual

non−verbal     verba1 1atency[ms】

 N150  P200  N250  P300

88.5±11.7  107.5±13.8 168。3±15.6  200.5±21.6 223.0±27.3  273.0±35.5 334.5±34.3  414.1±6L6

150.0±20.0  180.0±27.0 208.0±16.1  231.2±25.7 251.9±21.9  278.6±28.7 365.2±25.7  407.8±39.4 amplitudσ[μV]

 P300     15.5±5.4   10.4±6.2 19.6±62    20.2±7.8

P300の加齢への影響

 図3.2に,Pzにおける各年代ごとの総加算平均波形を示した.左から非言語性 聴覚刺激,言語性聴覚刺激,非言語性視覚刺激,言語性視覚刺激に対するもので

あり,上から20歳代,30歳代で,一番下が80歳代である.また,表3.3は,各 ERP成分の潜時と年齢との相関を示したものである.

 聴覚,視覚の非言語性と言語性のすべてに加齢に伴い潜時の延長が見られた.

〃をP300潜時,皿を年齢とした場合,聴覚の場合,非言語性は相関係数:が0.54,

回帰直線は〃=286.3+0.896,P<0.01,言語1生は相関係数0.617,回帰直線は シ=315.2+1.837∬,.P<0.001となり,いずれも年齢と高い相関を示しながらも,

一年あたりの延長率は言語性のほうが大きい結果となった.視覚の揚合は,非言 語性で相関係数0.557,回帰直線〃=328.6+0.69%,P<0.01,言語性の相関係 数0.542,回帰直線はッ=353.3+1.035¢,P<0.01となり,延長率に関してはや

はり聴覚刺激と同じく言語性のほうが大きくなった.なお,振幅と加齢とに相関

はなかった.

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表3.3: 各ERP成分ρ潜時と年齢との相関

moda工ity component electrode

auditory  non−verbal

verbal

N150

P200

N250

P300

N150

P200

N250

P300

Fz

Cz

Fz

Cz

Pz Fz

Cz

Pz Fz Fz

Cz

Pz Fz

Cz

Pz

  n.S.

0.591***

0.516**

0.709***

0.718***

0.684***

0.609***

0.615***

0.540***

  n.S.

0.595***

0.699***

0.639***

0.682***

0.593***

0.547**

0.617***

visuaユ non_verbal

verbal

N150

P200

N250

P300

N150

P200

N250

P300

Fz

Cz

Fz

Cz

Pz

Fz・

Cz

Fz Fz

Cz

Pz Fz

Cz

Pz

0.721***

0.598***

  n.S.

  n.S.

0.665***

0.620***

0.557**

0.535**

0.653***

0.610**

0,527**

0.656***

0.514**

0.486**

0.527**

0.542**

n.s.…nQt sign迅cant,**…P<0.01,***…P〈0・001

45

N1…N150, P2…P200, N2…N250, P3…P300.

図3.2:各年代ごとの総加算波形 N150, P200, N250

 表3.2より,潜時については,N150, P200, N250のすべてにおいて,聴覚,視 覚ともに,言語性は非言語性よりも長潜時であった.N150, P200は,非言語性,

言語性質に,視覚が聴覚刺激よりも長潜時であった.N250に関しては,非言語性 のみ視覚が聴覚よりも長潜時であり,言語性では聴覚と視覚刺激での有意差はな

かった.

 これらの成分と加齢の影響については,表3.3より,聴覚刺激に関してはN150 では相関を認めないが,P200ではFzにおいて言語性,非言語性ともに相関を認め た.また,N250ではすべての部位において正の相関がみられた.一方,視覚刺激 に関してはP200では聴覚と同じ結果が得られたが,大きな違いはN150でもFz,

Czにおいて相関がみられたことと, N250では非難語性に相関がみられなかった

ことである.

3.1.3 考察

 刺激を聴覚,視覚の言語性,非難語性に分類して健常者の事象関連電位を検討 した.聴覚より視覚刺激でP300の振幅が大きく,また非言語性では視覚刺激の方 が長潜時という結果となったが,これはSimsonら【145】, Pfe任erbaumら【115]の報告

と一致する.いずれの刺激でも年齢とP300に直線的な正の相関が見られ相関係 数は刺激の種類によらずほぼ一定した値を示した.延長率に関しては一年当たり

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