論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 ○甲 ・乙 第 2967 号 氏 名 黒川 千尋
論文審査担当者
主査 教授 宮﨑 隆
副査 教授 美島 健二
副査 教授 高見 正道
(論文審査の要旨)
学位 申請論文「 Effect of Hydrogen Peroxide Concentration and Activation Time on Hydroxyl Radical Generation and the Bleaching Effect 」 について, 上記の主査 1 名, 副査 2 名が個 別に審査を行った.
歯の漂白は臨床診療で広く使用されている. 歯の漂白メカニズムは, 「過酸化水素から発生す るヒドロキシルラジカルが, 有色二重結合分子を分解し無色分子にとする」とされている. 本 論文は, ヒドロキシルラジカルの発生量ならびに染色した濾紙の漂白効果(漂白前後の色差)
に つ い て, 過 酸 化 水 素 水 の 濃 度 と 過 酸 化 水 素 水 へ の 光 照 射 時 間 と の 関 連 性 を 検 討 し た. そ の 結果, ヒドロ キシルラ ジカルの発生量は, 過 酸化水素水の濃度が高 くなるほど, そ して光 照射 時 間 が 長 く な る ほ ど 多 く な り, 染 色 さ れ た 濾 紙 の 漂 白 度 に つ い て も 同 じ 傾 向 が 示 さ れ た. こ れ ら の 結 果 は, ヒ ド ロ キ シ ル ラ ジ カ ル の 量 と 色 素 分 解 能 と の 関 連 性 を 示 し た も の で あ り, 歯 の漂白に関する研究に有意義な情報を提供していると考えられる.
本 論 文 の 審 査 に お い て , 副 査 お よ び 主 査 か ら 多 く の 質 問 が あ り , そ の 一 部 と そ れ ら に 対 す る 回答を以下に示す.
副査 美島委員 の質問とそ れらに対す る回答
1. 極め て半減期の 短いフリー ラジカルの 活性測定に おける工夫 について述 べよ.
常温の溶液中で生成するフリーラジカルは寿命が短いため, そのまま測定すると ESR 法を用 いても検出・同定することは 難しい. そこでスピントラッピング法を用いて検出した . この方 法はトラッピング剤がフリーラジカルと素早く反応し, スピンアダクトを生成する . スピン アダクトは安定なアミノキシルであることから, このスピンアダクトを ESR で測定し, 得ら れたスペクトルから捕捉したいフリーラジカルを同定することができる.
(主査が記載)
2. ヒド ロキシラジ カル発 生量 と脱色能が 完全には比 例していな い理由を説 明せよ.
ESR は ヒド ロ キ シ ルラジ カ ル が 生 成 さ れた 瞬間 を 測 定 す る. 一 方, 染 色 さ れ た 濾 紙 は過 酸化 水素の活性化により, 切断された二重結合の蓄積によって漂白されたと考えることができる.
副査 高見委員 の質問とそ れらに対す る回答
1. 過酸 化水素の活 性化のため に用いた波 長はどのよ うに決定し たか 説明せ よ.
事前に ESRにて 370nm, 440nm, 550nm波長での30%過酸化水素におけるヒドロキシラジカ
ル発生量の比較測定をして本研究に適当と考えられる 440nmを使用することとした.
2. 現在 歯の漂白に は, 過酸化 尿素もよく 使われてい るが, ヒドロキシラジ カルの発生 量は過 酸化 水素と比べ て同等か説 明せよ.
現在, HomeBleach剤で使用される10%過酸化尿素は6.35%尿素と3.65%過酸化水素に分解し
過酸化水素からフリーラジカルが発生する. フリーラジカルは過酸化水素が活性化すること により発生するため, 3%過酸化水素と 30%過酸化水素を比較した際, 濃度の高い過酸化水素 から多くのヒドロキシラジカルが発生する. このことより, HomeBleach 剤で使用される過酸 化尿素から発生するヒドロキシラジカル量は, OfficeBleach 剤で使用される過酸化水素から 発生するヒドロキシラジカルの発生量よりも少ない.
主査 宮﨑委員 の質問とそ れに対する 回答
本研 究の結果か ら将来の歯 漂白剤開発 への展望を 述べよ.
現在, 臨床応 用されて いる歯の漂白剤は, 適 切な診断と使用法 を遵 守すれば, 安全 に短い 時間 で効果的に変色歯の色調を改善できる. 本実験では「高い濃度の過酸化水素および長い活性 化 時間により漂白効果は大きくなる」という結論を得た.しかし, 他の論 文で報告したように, 過 酸化水素から発生するラジカル量は活性化時間のみならず, 過酸化水素の pH, 活性化の可視 光の波長, 光強度, 温度上昇にも影響される. ESR 測定によるラジカル量は測定 時の短時間で の 発 生 量 で あ り, 一 方 漂 白 効 果 と し て の 色 調 変 化 は 分 解 さ れ る 色 素 分 子 の 総 量 で あ る と 考 え ら れ る. 比 較 的 濃 度 の 高 い 過 酸 化 水 素 を 短 時 間 に 活 性 化 し て 作 用 さ せ る OfficeBleach 剤 と, 作用する過酸化水素濃度は低いが一日数時間を数週間継続して作用させる HomeBleach 剤の 漂白効果はほぼ同様で あるという臨床経験が ある. 従って, 将来の 漂 白剤の開発には, 制御 さ れ た 適 切 量 の ラ ジ カ ル 発 生 お よ び 作 用 期 間 を 考 慮 す る 必 要 が あ る. さ ら に 歯 の 変 色 原 因 と な る色素の解明, 硬組織 内での動態, 変色原因 による漂白薬剤と術式 の検討, さらに 知覚過 敏を 起こさない薬剤成分の検討が必要である.
主 査 の 宮 﨑 委 員 は 両 副 査 の 質 問 に 対 す る 回 答 の 妥 当 性 を 確 認 す る と と も に, 本 論 文 の 主 張 を さらに確認するために質問を行ったところ明確かつ適切な回答が得られた.
以上の審査結果から本論文を博士 (歯学) の 学位授与に値するものと判断した.