九州新幹線松原線路橋 鋼製門型橋脚の横梁回転施工
九州旅客鉄道株式会社 正会員 加藤 勇気
1. はじめに
九州新幹線松原線路橋は、鹿児島本線久留米・荒木間に位置し、
在来線上空を交差して渡る橋長1,243mの線路橋である(図-1)。下 部工は、RC橋脚6基、鋼製門型ラーメン橋脚16基からなり、上部 工は合成床版連続箱桁の曲線桁ある。この線路橋の架設において、
狭隘な作業ヤードで施工可能な方法として、支持架台を用いず横 梁の閉合を伴う横梁回転工法を日本初の試みとして実施した。本 稿ではその概要について述べる。
2. 門型橋脚架設工法の選定
今回の施工箇所は、鹿児島本線及び久大本線上での作業であ り、線路両側に工場や住宅等が近接していることから、以下の条件 で施工する必要がある。
(1) 狭隘な作業ヤードでの施工
(2) き電停止間合(206分)での横梁架設
一般的な門型橋脚の架設方法としては、大型クレーンにより横梁 を一括架設する方法があるが、施工箇所では大型クレーンの組立 解体、進入路の確保が困難(図-2)であり、経済性においても、地盤 補強や建物補償等のコストが非常に大きくなると予測された。そこで、
全ての門型ラーメン橋脚について、線路方向に構築したベント上で 横梁を地組し、片側の脚柱を軸として横梁を回転させる横梁回転工 法(※1)を採用した(図-3)。
3. 横梁回転工法の特徴と回転装置の仕組み
横梁回転工法は、狭い作業ヤードでも施工可能なうえ、回転架 設時間(90度旋回)も約30分と短いことが特徴である。また、回転装 置は橋脚に集約されており、そのまま他の橋脚に転用可能である。
回転装置は、回転中心に配置する球面座内蔵の油圧ジャッキ(ピ ボット沓ジャッキ)と外周に配置した6台の外周ジャッキにより鉛直荷 重を支え、油圧クランプ装置と推進用クレビスジャッキを組み合わせ ることで回転方向に推進力を与える仕組みである。各ジャッキは、
制御システムにより自動で一元的に制御することが可能である。
4. 橋脚の施工管理
この工法で最も重要な点は、固定側隅角部梁と回転させた横梁 を問題なく閉合させることである。脚柱位置のずれや固定側隅角部 の傾きが大きければ、閉合に支障をきたすばかりでなく、構造上の 弱点となる可能性がある。そこで、目標とする閉合隙間は10mm、閉 合部の折れによる隙間量(t)を1mm以内とし、次の各項目において 管理をおこなった(図-4、図-5)。
鹿児島方 ↓ 門司港方 ↑
九州新幹線ルート 松原線路橋 L=1243m 久留米駅
鹿児島本線 久大本線
図-1 位置図
図-2 現地の状況
回転軸となる脚柱 カウンターウェイト
カウンターウェイト 設置用架設桁
横梁閉合部
【回転装置】
図-3 横梁回転工法 鹿児島方
門司港方 工場地帯
住宅地
キーワード : 営業線近接施工、作業ヤード、鋼製門型ラーメン橋脚、横梁回転工法、施工管理値
連絡先 : 〒812-8566 福岡市博多区博多駅前3-25-21 九州旅客鉄道(株) 施設部工事課 TEL:092-474-2452 土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
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(1)相対変位量の管理
脚柱のアンカーフレーム設置時点での許容値を、固定側、回転側そ れぞれ±15mmとし、相対変位量(a)が15mm以内となるように管理した。
また、脚柱、隅角部の据付精度は、固定側、回転側それぞれ±10mmを 許容値とし、相対変位量(a’)が10mm以内となるようにした。
(2)隅角部のずれの管理
隅角部のずれ(回転)を表す方向角(θ)が0.1度以内とした。
(3)横梁地組、現場溶接
横梁は地組部材と調整部材の 2 分割施工とし、地組部材を回転側隅 角部に現場溶接した後、現地測量により調整部材の最終的な部材長や 添接板ボルト穴位置などを測定し、工場で最終加工の上、現場にて溶 接・接合した。
5. 実際の施工における問題点
アンカーフレーム及び隅角部据付の相対変位量については、全ての 橋脚で許容値内に収めることができた。しかし、固定側隅角部の方向角
(θ)において、P13とP18の2箇所で許容値を超え、終点方に傾きすぎ ている結果となった(図-6)。そこで、再度現地で測量を行い閉合部の折 れによる隙間量を計算すると、許容値の1mm以内に収まることがわかっ たため、そのまま横梁の回転を行った(図-7)。この理由としては、
(1) 最も条件が厳しい場合(横梁 長が最短(16.1m))で許容値 を検討したが、許容値を超え た2箇所は横梁長が21m強 と比較的長かった(図-8)
(2) 固定側隅角部が終点方に傾 いているのに対し、固定側脚 柱位置が起点方にずれてい た(図-9)
の2 点が考えられ、結果的に折れ量が小さくなったと推察され る。一方、回転後の閉合隙間等、他の許容値については、全 ての橋脚で許容値内に収めることができた。
6. おわりに
作業ヤードの確保、短時間での施工といった多くの課題があ る中、今回採用した横梁回転工法は日本で初めての試みという こともあり、当初は施工にあたって多くの問題点があったが、事前 にその対策を検討・実施した結果、大きな問題も発生せず、無事
全16橋脚の回転施工を終了することができた。平成23年春の九
州新幹線鹿児島ルート全線開業に向けて、今後も無事故無災害 で工事を進めていきたい。
※1 横梁架設用回転装置については特許出願中
(鉄道・運輸機構、㈱横河ブリッジ、オックスジャッキ㈱、横河工事㈱、
㈱復建エンジニヤリングの共同出願)
(度)
- 0.15 - 0.10 - 0.05 + 0.00 + 0.05 + 0.10 + 0.15
P4 P6 P8 P10 P12 P14 P16 P18
許容値 +0.10
許容値 -0.10
P5 P7 P9 P11 P13 P15 P17 P19
+0.14 +0.11
↑ 固定側が終点方に回転している
↓ 固定側が起点方に回転している
(mm)
- 1.50 - 1.00 - 0.50 + 0.00 + 0.50 + 1.00 + 1.50
P4 P6 P8 P10 P12 P14 P16 P18
許容値 +1.0
許容値 -1.0
P5 P7 P9 P11 P13 P15 P17 P19
+0.74 +0.84
図-4 回転閉合における管理項目
図-5 折れによる隙間量
図-6 固定側隅角部据付方向角(θ) 図-7 閉合部の折れによる隙間量(t)
固定側 回転側 横梁長(短)
横梁長(長)
横梁長が長い ほど 角折れ量は 小さくなる
設計値 終点方へずれ
起点方へずれ
固定側 回転側
起点方へずれるほど角折れ量は小さくなる
隅角部が 終点方へ 傾いている 場合
設計値 終点方へずれ
起点方へずれ
終点方へずれるほど角折れ量は小さくなる 隅角部が
起点方へ 傾いている 場合
図-8 横梁長と接合部の折れとの関係
図-9 脚柱のずれと接合部の折れとの関係
地組部材 現場溶接 現 地 測 量 結 果 地組 部材
調整 部材 L - 閉合隙間 L
固 定 側
10mm 回転
装置
θ
【平面図】 a、a'
支間 隅角部
調整部材 工場加工 調整部材 現場溶接
(閉合隙間)
回 転 側
隅角部材
(固定側)
隙間量 t
添接板
添接板 閉合部添接(HTボルト)
回転横梁部材
閉合部添接(HTボルト)
固定側 回転側
脚柱
脚柱(回転中心)
土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
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