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長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習施行により筋力低下予防に寄与したと考えられた腎移植後ニューモシスチス肺炎の一症例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 48 巻第 1 号 95 ∼ 101 長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習を施行した一症例 頁(2021 年). 95. 症例報告. 長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習施行により 筋力低下予防に寄与したと考えられた腎移植後 ニューモシスチス肺炎の一症例* 内 尾   優 1)# 堀 部 達 也 1) 圖 師 将 也 1) 加 島 広 太 1) 蜂須賀 健 2)  渕之上昌平 2) 野 村 岳 志 3) 猪 飼 哲 夫 4). 要旨 【目的】体動に伴う酸素飽和度の低下により離床に難渋した腎移植後ニューモシスチス肺炎の症例に対し, 人工呼吸器管理中から Tilt Table を用いた受動立位練習を施行し,筋力,ADL の改善を認めたため報告 する。【症例と方法】70 歳代男性,7 年に生体腎移植施行。ニューモシスチス肺炎の診断で ICU 入室と なった。関節可動域練習,体位管理に加え,ICU 入室 14 ∼ 38 日目に Tilt Table による受動立位練習を 実施した。【結果】介入中の有害事象を認めず離床が可能であった。ICU 入室から 34 日目に人工呼吸器離 脱,38 日目に ICU 退室,49 日目に歩行開始,67 日目 Barthel Index 85 点で転院となった。【結論】早期 からの鎮静中断,人工呼吸器離脱が困難であった重症患者に対して,早期より Tilt Table を用い受動立 位練習を実施したことにより安全な離床,筋力および ADL 低下を予防できた可能性がある。 キーワード 早期離床,Tilt Table,受動立位練習,ICU-AW,ニューモシスチス肺炎. であるが,Non-HIV PCP では 30 ∼ 40% と高率であり,. はじめに. さらに気管内挿管を必要とする場合,死亡率は 60% 前 2)3).  ニューモシスチス肺炎(pneumocystis pneumonia:. 後まで上昇する. 以下,PCP)とは,ニューモシスチス・イロベチイと呼. では臓器移植後での増加が著しく,なかでも腎移植が. ばれる酵母真菌により生じる重篤な肺炎である。正常な. もっとも多いことが報告されている. 免疫制御の備わっているものでは発症は稀であるが,ヒ. 展進歩により腎移植患者の拒絶反応は減少し,移植腎の. ト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:. 生着率は改善したが,免疫抑制剤強化による感染のひと. 以下,HIV)感染や,膠原病,臓器移植後など(以下,. つである PCP が問題となっている。. 。近年の Non-HIV PCP による報告 4). 。免疫抑制剤の発. 1).  これらの重症患者は,多臓器の機能低下に対し,集中. PCP 発症による予後は,HIV-PCP では死亡率 10% 前後. 治療室(intensive care unit:以下,ICU)での集中的. Non-HIV)の細胞性免疫抑制状態時に発症しやすい. 。. な治療,評価が必要となる。長期間の治療では,病態の *. Passive Head Up Tilt in a Pneumocystis Pneumonia Patient after the Renal Transplant: A Case Report 1)東京女子医科大学リハビリテーション部 (〒 162‒8666 東京都新宿区河田町 8‒1) Yuu Uchio, PT, MSc, Tatsuya Horibe, PT, Masaya Zushi, PT, Kouta Kajima, PT: Department of Rehabilitation, Tokyo Women’s Medical University 2)東京女子医科大学腎臓外科 Takeshi Hachisuka, MD, Shohei Fuchinoue, MD, PhD: Department of Kidney Surgery, Tokyo Women’s Medical University 3)東京女子医科大学集中治療科 Takeshi Nomura, MD, PhD: Department of Intensive Care, Tokyo Women’s Medical University 4)東京女子医科大学リハビリテーション科 Tetsuo Ikai, MD, PhD: Department of Rehabilitation Medicine, Tokyo Women’s Medical University # E-mail: yu-uch-247@u-ths.ac.jp (受付日 2020 年 3 月 2 日/受理日 2020 年 6 月 25 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 9 月 18 日]. 改善を得られてもせん妄や筋力・身体機能低下による集 中治療室獲得性筋力低下(intensive care unit-acquired 5) weakness:以下,ICU-AW) が問題となり,重症患. 者の社会復帰を困難にさせている。ICU-AW の予防に は,鎮静中断,早期抜管,および早期離床が有用であり, これらは,せん妄期間の短縮,身体機能改善に寄与する と報告されている. 6)7). 。当院の ICU での離床は,人工. 呼吸管理中からベッド上での運動,端座位保持練習,立 ち上がり練習,立位保持練習と能動的な運動を段階に応 じて進めていく。しかし,能動的な運動による呼吸循環 動態の変動や,介助量が多く持続的な姿勢保持練習が困.

(2) 96. 理学療法学 第 48 巻第 1 号. 図 1 胸部 X 線像と CT 画像. 難である症例においては,リハビリテーションの進行が. 影を認め,肺炎の所見であった(図 1) 。範囲が広範で,. 遅延することを臨床では経験する。. またステロイド内服中であることから真菌感染症の精査.  当院は三次救急を含む ICU のある急性期病院である。. も必要と判断され,PCP 疑いで精査加療目的に同日入. 現在 ICU では理学療法士 4 名が専従配置となっており,. 院,ICU 入室となった。ICU 入室時,体温 37.6℃,平. ICU に入室した患者のうち,人工呼吸管理が 48 時間以. 均 血 圧 100 mmHg, 心 拍 数 89 bpm, 呼 吸 数 18 /min,. 上,または ICU 滞在が 72 時間以上見込まれる患者には. acute physiology and chronic health evaluation Ⅱ score. すべてリハビリテーション介入を行っている。. 19 点,sepsis-related organ failure assessment( 以 下,.  今回,腎移植後 PCP により長期人工呼吸管理を要し,. SOFA)score. 体動に伴う酸素飽和度の低下,介助量が多く通常の能動. を表 1 に示す。PCP 治療に対して抗菌薬であるスルファ. 的な離床が困難な症例を経験した。そこで早期より Tilt. メトキサゾール・トリメトプリム(Sulfamethoxazole/. Table を用いた受動的な立位練習を施行することによ. Trimethoprim:ST)合成抗菌剤,メチルプレドニゾロ. り,ICU-AW による筋力および日常生活動作(activities. ン 80 mg を開始し,入室後より非侵襲的陽圧換気(吸. of daily living:以下,ADL)能力低下を予防し,早期. : 入気酸素濃度(fraction of inspired oxygen:以下,FiO2). 歩行獲得に寄与したと考えられた症例を経験したのでそ. 0.7,呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:. の経過を報告する。. 以下,PEEP) :7 cmH2O)での管理となった。入室後. 倫理的配慮. 8). 5 点であった。ICU 入室時の検査所見. の 血 液 ガ ス に て 動 脈 血 酸 素 分 圧(partial pressure of arterial oxygen:以下,PaO2)97.1 mmHg,PaO2/FiO2.  本報告は患者およびその家族へ本発表の趣旨,内容に. (以下,P/F)139 mmHg であった。入室 2 日目,体動. ついて文書および口頭にて十分な説明を行い,書面にて. や口腔ケアにてマスクが外れると容易に酸素飽和度の低. 同意を得た。. 下を認めた。. 症   例. 1.初期評価(ICU 入室 3 日目).  70 歳代男性.  ICU 入室 3 日目よりリハビリテーションを開始した。.  診断名:PCP. Glasgow Coma Scale(以下,GCS)は E4V5M6 であり,.  合併症:なし. 意思疎通可能であった。鎮静薬は,プレセデックスを使.  既往症:11 年前 血液透析導入,7 年前 生体腎移植. 用し,Richmond Agitation-Sedation Scale(以下,RASS).  現病歴:入院前 ADL 自立。入院 1 ヵ月前より微熱,. は 0 であった。呼吸は,非侵襲的陽圧換気(FiO2:0.65,. 緩解を繰り返していた。入院前日夜間から呼吸苦が出現. PEEP:7 cmH2O)での管理であり,マスクを外し自己. し,持続するため翌日救急要請となり当院搬送となっ. にて咳嗽,喀痰可能であった。筋力は,徒手筋力検査. た。救急外来にて,酸素流量 10 L/min リザーバーマス. (manual muscle testing:以下,MMT)にて四肢は 4. クで酸素飽和度(percutaneous oxygen saturation:以. ∼ 5 レベルであった。起居動作は寝返り,起き上がり,. 下,SpO2)88% と低酸素血症を認めた。胸部 X 線とコ. 端座位保持は可能であった。ADL は,看護師介助にて. ンピュータ断層撮影法(computed tomography:以下,. ポータブルトイレが使用可能であった。SpO2 は安静時. CT)で両側上葉に広範な浸潤影,びまん性すりガラス. 98% であったが,MMT 測定や起居動作にて 80% 後半.

(3) 長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習を施行した一症例. 97. 表 1 ICU 入室時の検査所見 血液・生化学・免疫検査 WBC. 17.8. 血液ガス検査 103/µ L 6. pH. 7.335. Torr. RBC. 4.03. 10 /µ L. PaO2. 75.6. Torr. Hb. 11.0. g/dL. PaCO2. 29.7. Torr. 4. PLT. 51.1. 10 /µ L. HCO3 ‒. 15.1. mEq/L. BUN. 36.5. mg/dL. BE. ‒9.7. mEq/L. Cr. 2.45. mg/dL. AST. 35. IU/L. ALT. 27. IU/L. Na. 129. mEq/L. K. 5.0. mEq/L. CRP. 22.2. mg/dL. WBC: white blood cell(白血球) ,RBC: red blood cell(赤血球) ,Hb: hemoglobin(ヘ モグロビン) ,PLT: platelet(血小板) ,BUN: blood urea nitrogen(尿素窒素) ,Cr: Creatinine(クレアチニン) ,AST: aspartate aminotransferase(アスパラギン酸アミ ノトランスフェラーゼ) , ALT: alanine aminotransferase (アラニンアミノトランスフェ ラーゼ) , Na: Natrium(ナトリウム) , K: Kalium(カリウム) , CRP: C-reactive protein(C 反応性蛋白) ,pH: potential of hydrogen(水素イオン指数) ,PaO2: partial pressure of arterial oxygen(動脈血酸素分圧) ,PaCO2: partial pressure of carbon dioxide(動脈 血二酸化炭素分圧) , HCO3‒: hydrogen carbonate(重炭酸イオン) , BE: base excess(塩 基過剰). 図 2 治療とリハビリテーション経過. まで低下を認めた。体動にて容易に酸素飽和度の低下を. フォールを使用し,RASS は ‒ 5 であった。ADL はベッ. 認めることから,リハビリテーションは,ベッド上での. ド上全介助レベルであった。リハビリテーションは,下. 体位管理,さらなる障害予防目的に関節可動域練習を実. 側肺野の虚脱予防,改善を目的に左右側臥位での体位管. 施した。. 理,および関節可動域練習を継続した。入室 14 日目,.  ICU 入室∼ 67 日目までの治療とリハビリテーション. 抗菌薬,メチルプレドニゾロンにより炎症反応は低下を. 経過について,図に示す(図 2)。. 認めた。鎮静は,RASS‒ 2 と浅鎮静での管理が可能と なった。そこでベッド上座位姿勢から実施するも体動に. 2.治療とリハビリテーション経過(ICU 入室 4 ∼ 13 日目). 伴い SpO2 は 80% 後半まで低下を認めた。またベッド.  ICU 入室 4 日目,人工呼吸管理 48 時間以上経過して. 上座位での呼吸音は,両側下葉気管支呼吸音であり臥位. も呼吸状態の改善が得られないため,経口挿管管理と. の姿勢と変化を認めなかった。当院での ICU での離床. なった。人工呼吸器のモード設定は,Assist/Control. は,浅鎮静が可能であれば経口挿管管理中であってもリ. (FiO2:0.6,peak inspiratory pressure:12 cmH 2O,. ハビリテーション医学会のガイドラインに準拠し,多人. PEEP:10 cmH2O,換気回数 16/ 分)であった。GCS. 数,多職種の介入において座位,立位,歩行へと順次. は E1VTM1 であった。鎮静薬は,ミダゾラム,プロポ. ADL 拡大を実施している。本症例は,体動に伴う酸素.

(4) 98. 理学療法学 第 48 巻第 1 号. 図 3 Sara Combilizer 使用場面. 図 4 Tilt Table 使用時の意識レベル,バイタルサインの経時的変化. 飽和度の低下を認め,当院での通常の能動的な離床は困. 薬は,プロポフォールを使用し,RASS は ‒ 2 であった。. 難であった。また,胸部 CT にて両肺野間質陰影増強,. ADL はベッド上重度介助レベルであり,寝返りのみ協. ブラを認め,P/F 160 mmHg と改善は乏しいことから. 力動作がみられた。. 長期の人工呼吸管理が予想された。.  Tilt Table には,Sara Combilizer(Arjo, Sweden). 9). を用いた。Tilt Table 施行時には,集中治療科医,看護 3.治療とリハビリテーション経過(ICU 入室 14 ∼ 38 日目). 師協力のもと理学療法士 2 名以上にて実施した(図 3) 。 ベッドから Tilt Table への移動は体位変換・移動スラ.  本症例は,当院での通常の離床は困難であったことか. イドシートを用いて臥位にて平行移動した。方法は,臥. ら,腎臓外科医,集中治療科医,および ICU スタッフ. 位からはじめ,バイタルサイン(血圧,脈拍,呼吸数,. にて協議し,体動に伴う酸素飽和度の低下予防に配慮し. 酸素飽和度)を確認し異常を認めなければ,30,45,60. た Tilt Table を用いた受動的な立位練習を行うことと. 度と段階的に挙上を実施した。また,臥位および 60 度. した。Tilt Table 使用の目的は,機能的残気量増加によ. では RASS,GCS,呼吸音を評価した。実施時間は,臥. る呼吸状態の改善,持続的な下肢筋収縮による ICU-. 位の状態から合計 40 分間毎日実施した。なお中止基準. AW 予防とした。ICU 入室 14 日目,Tilt Table 開始時. は,Engel ら. の 人 工 呼 吸 器 の モ ー ド 設 定 は,Spontaneous モ ー ド. Tilt Table 使用時のバイタルサイン,意識レベルの経時. (FiO2:0.55,PEEP:10 cmH2O + Pressure Support:. 的変化を図 4 に示す。14 日目では,Tilt Table 傾斜に. 8 cmH2O)であった。GCS は E3VTM5 であった。鎮静. 伴い,血圧の低下,脈拍数の増加を認めることから段階. 10). の 除 外 基 準 に 準 拠 し な が ら 進 め た。.

(5) 長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習を施行した一症例. 99. 表 2 筋力,基本動作能力の経時的変化 ICU 入室 28 日目. ICU 入室 36 日目. ICU 入室 49 日目. ICU 入室 65 日目. MRC-ss. 44. 46. 52. 60. 平均握力(kg). 5.5. −. 8.0. 9.6. 平均膝伸展筋力(N/kg). −. −. 0.12. 0.16. 寝返り. 6. 6. 7. 7. 起き上がり. 5. 3. 4. 7. 端座位. 7. 6. 7. 7. FSS-ICU. 立ち上がり. 3. 2. 3. 7. 歩行. −. −. 1. 6. 合計. 21. 17. 22. 34. MRC-SS: Medical Research Council Examination sum score, FSS-ICU: functional status score for ICU. 的な傾斜が必要であった。臥位姿勢から挙上 60 度にお. ICDSC)は 2 点であった。Tilt Table は ICU 入室 14 ∼. いて,意識レベルは RASS ‒2 → ‒1,GCS E3VTM5 →. 38 日目まで使用し,使用期間中の有害事象は認めな. E3VTM6 へと変化した。触診にて両大. かった。. 四頭筋の筋収. 縮を認めた。聴診は,両側下葉気管支呼吸音から気管支 肺胞呼吸音,Fine Crackles へ変化した。入室 21 日目, Tilt Table 開始より 1 週間経過し,挙上に伴う血圧低下. 4.治療とリハビリテーション経過(ICU 入室 38 ∼ 67 日目). および脈拍数の上昇は軽減し,漸増的に挙上 60 度まで.  38 日目一般病棟転床後,GCS は E4V5M6 であり,意. 可能であった。炎症反応は徐々に陰性化するも,肺の線. 思疎通良好であった。経鼻酸素 1 L/min 使用にて安静. 維化,ブラにより酸素化の改善が乏しく,22 日目気管. 時 SpO2 98% であった。休息を十分に取りながら継続し. 切開施行となった。24 日目より日中の短時間で人工呼. て起居動作練習,ADL 練習を進めた。ADL は介助にて. 吸器を離脱し吹き流しとなった。端座位練習を開始する. 車椅子移乗,自室内トイレ移動が可能であった。49 日. も保持困難で,立位は 2 名の介助を要した。座位,立位. 目より歩行練習を開始し,55 日目 60 m 連続歩行が可能. での持続的な姿勢保持が難しいことから Tilt Table で. となった。その後も継続して ADL 改善,運動耐容能向. の受動立位練習は継続が必要であると判断した。25 日. 上目的にリハビリテーションが継続され,65 日目 MRC-. 目鎮静薬中止となった。28 日目より端座位保持が可能. SS 60 点,FSS-ICU 34 点,120 m 連続歩行可能となった。. と な り 体 動 に 伴 う 酸 素 飽 和 度 の 低 下 は 減 少 を 認 め,. ADL は Barthel Index 85 点であった。その後,在宅復. Medical Research Council Examination sum score(以. 帰に向けてさらなる運動耐容能向上,ADL 改善目的に. 下,MRC-SS) , 握 力, 等 尺 性 膝 伸 展 筋 力,functional. 67 日目転院となった。. status score for ICU(以下,FSS-ICU)を評価した。握.  ICU 入室 82 日目転院先から自宅退院となった。退院. 力は,握力計を用い,端座位にて測定し左右 3 回ずつの. 後は,当院腎臓外科外来フォローアップとなり,180 日. 平均値を算出した。等尺性膝伸展筋力は,等尺性筋力測. 目でゴルフのラウンドが可能となった。. 定装置(アニマ社製,µ TasMF-01)を用い,肢位は,股 関節 90° ,膝関節屈曲 90°の端座位にてベッド端と測定. 考   察. 足首を固定し,最大等尺性の膝伸筋の収縮を行った。測.  本症例は,ICU 入室 4 日目に経口挿管管理となった. 定は左右 3 回ずつの平均値を算出した。ICU 入室 28 日. 腎移植後 PCP の症例である。PCP は重篤な呼吸器疾患. 目からの MRC-SS,握力,等尺性膝伸展筋力,FSS-ICU. であり,長期的な呼吸管理を要す予後不良の疾患であ. の 経 時 的 変 化 を 表 に 示 す( 表 2)。28 日 目 以 降,Tilt. る。今回,14 日目において浅鎮静での人工呼吸器管理. Table に加え起居動作練習,ADL 練習を実施した。ま. が可能となり,通常の多職種による能動的な離床を試み. た,Tilt Table 挙上 60 度において,上肢挙上練習や下. たが,体動に伴う酸素飽和度の低下および介助量の多さ. 肢屈伸運動を併用した。入室 34 日目人工呼吸器全離脱,. から継続的な離床が困難であると考えられた。そのた. 38 日目 ICU 退室,一般病棟転床となった。ICU 退室時. め,離床方法は,Tilt Table を用い,呼吸状態の改善,. の Intensive Care Delirium Screening Checklist(以下,. 持続的な体幹・下肢筋収縮による ICU-AW 予防を目的.

(6) 100. 理学療法学 第 48 巻第 1 号. とした受動的な立位練習を実施した。. 管理中の入室 14 日目より Tilt Table による受動立位練.  重症患者は ICU 入室後 1 週間以内の早期から急激な. 習を実施し,65 日目において MRC-SS 60 点まで改善を. 11)12). 。超急性期に生じた. 認め,50 m 歩行を獲得した。その後,退院後の入室 6 ヵ. 筋組織の変性は ICU-AW を発症することで,人工呼吸. 月目は入院前 ADL であるゴルフでのラウンドが可能と. 器からの離脱を遅らせ,ADL 低下および社会復帰を困. な っ た。ICU に て 人 工 呼 吸 管 理 を 行 っ た 患 者 の う ち. 難にする。ICU-AW 発症のリスク因子としては,ステ. ICU 退室時に ICU-AW を発症すると退院後 90 日までの. ロイド使用,多臓器不全,人工呼吸器使用が挙げられ. 死亡率が発症していないものに比べ有意に高く,また,. 筋の横断面積の減少を認める. る. 13)14). 。本症例においては長期のステロイド使用をし. ており,SOFA score5 点であり多臓器不全の状態であっ 15). 入院以前と同等の仕事内容まで 6 ヵ月後改善を認めたの は 32% であったと報告されている. 24). 。先行研究と本症. 。ICU 入室 4 日目に呼吸状態が悪化,経口挿管に. 例を比較すると,長期の人工呼吸管理を要し ICU-AW. よる人工呼吸管理を開始したことで,ICU-AW を発症. を発症した本症例であっても早期から Tilt Table によ. た. することが予想され,ADL 低下が懸念された. 16). 。. る受動立位練習を実施することで筋力,ADL の改善に.  ICU での経口挿管患者に対して Tilt Table を用いた. 寄与した可能性がある。. 早期リハビリテーションによる RCT や禁忌事項を記載.  また,Tilt Table による筋力以外の効果としては,肺. したガイドラインは存在せず,安全性について十分に検. 活量・機能的残気量の増加. 証されていない。重症患者の早期離床を行う制限因子. が報告されている。本症例では,Tilt Table 実施前後で. 17)18). の呼吸パラメーターの正確な測定を実施していなかった. のドイツの 116 病院を対象とした調査に. が,聴診上では呼吸音の改善を認めている。また,浅鎮. よれば,気管内挿管患者の離床率は 8% であったと報告. 静下での人工呼吸器管理中の意識レベルの改善が認めら. は, 気 管 内 挿 管, 鎮 静, せ ん 妄 が 挙 げ ら れ る Nydahl ら. 19). 。. 25). ,意識レベルの改善 26). している。気管挿管患者をベッドから離床する場合,人. れ,その後の ICU 退室時には ICDSC 2 点とせん妄は陰. 工呼吸器の移動や挿管チューブの固定,ライン類の管理. 性であった。これらにより,Tilt Table における効果は,. をしたうえで,介助者は臥位から座位への姿勢変換およ. 人工呼吸器の離脱に関与し,せん妄予防にも影響があっ. びその後の立ち上がりへの介助が必要であり,多職種,. た可能性があると考えられた。. 多人数の介入が必要である。また,姿勢保持に介助を要.  本検討は,一症例報告であり,今後は早期人工呼吸器. す場合,長時間の姿勢保持練習は難しい。さらに,呼吸. 離脱が困難な患者に対し受動立位練習を行うことで,そ. 循環動態の変動を認めた場合,臥位への安楽な肢位に即. の後の筋力や ADL の改善に寄与するのか複数の患者の. 座に戻ることは困難である。本症例では経口挿管中から. 経過を検証し明らかにしていく必要があると考える。. Tilt Table を用いたことで,臥位から座位への姿勢変換 を伴わずに,立位姿勢を行うことができ,挿管チューブ などのライントラブルを最小限にし,離床を実施するこ とができたと考えられた。また,Tilt Table 実施中のリ スク管理として,傾斜角度を臥位から 30,45,60 度と 受動的な挙上を実施し,バイタルサインを確認しながら 進めた。これにより体動に伴う酸素飽和度の低下を認め ずに,受動的な立位練習が可能であった。Tilt Table 開 始後の初期は血圧の低下を認めたことから,血圧の上昇 を確認しながら段階的に進めた。なお,呼吸循環動態の 変動などにより立位姿勢から臥位へ戻る際も Tilt Table の傾斜を下げるだけで可能であり,有害事象を生じず安 全に実施することが可能であった。  Tilt Table 実 施 に よ る 効 果 に つ い て,Sarfati ら は, ICU において人工呼吸管理 3 日以上,平均鎮静期間 3 日の早期に人工呼吸器が離脱可能であった ICU 患者に Tilt Table を使用し四肢筋力の改善を早めたと報告して いる. 20). 。 本 症 例 は, 長 期 人 工 呼 吸 管 理 を 必 要 と し,. ICU 入室 28 日目における MRC-SS は 44 点,握力は 5.5 kg であり MRC-SS 48 点以下,握力男性は 11 kg 以下であ り ICU-AW の診断であった. 21‒23). 。しかし,人工呼吸器. 利益相反  開示すべき利益相反はない。 文  献 1)Thomas CF, Limper AH: Pneumocystis pneumonia. N Engl J Med. 2004; 350: 2487‒2498. 2)Mansharamani NG, Garland R, et al.: Management and outcome patterns for adult pneumocystis carinii pneumonia, 1985 to 1995 * comparison of HIV-associated cases to other immunocompromised states. Chest. 1995; 118: 704‒711. 3)Catherinot E, Lanternier F: Pneumocystis jirovecii pneumonia. Infect Dis Clin North Am. 2010; 24: 107‒138. 4)Maini R, Henderson KL, et al.: Increasing pneumocystis pneumonia, England, UK, 2000-2010. Emerg Infect Dis. 2013; 19: 386‒392. 5)Kress JP, Hall JB: ICU-acquired weakness and recovery from critical illness. N Engl J Med. 2014: 370; 1626‒1635. 6)Schweickert WD, Pohlman MC, et al.: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009; 373: 1874‒1882. 7)Burtin C, Clerckx B, et al.: Early exercise in critically ill patients enhances short-term functional recovery. Crit Care Med. 2009; 37: 2499‒2505..

(7) 長期人工呼吸管理中に受動的な立位練習を施行した一症例 8)Vincent JL, Moreno R, et al.: The SOFA (sepsis-related organ failure assessment) score to describe organ dysfunction/failure. Intensive Care Med. 1996; 22: 707‒710. 9)Williams D, Atkins G, et al.: The Sara Combilizer as an early mobilisation aid for critically ill patients: A prospective before and after study. Aust Crit Care. 2017; 30: 189‒195. 10)Engel HJ, Needham DM, et al.: ICU early mobilization: from recommendation to implementation at three medical centers. Crit Care Med. 2013; 41: 69‒80. 11)Puthucheary ZA, Rawal J, et al.: Acute skeletal muscle wasting in critical illness. JAMA. 2013; 310: 1591‒1600. 12)Schweickert WD, Hall J: ICU-acquired weakness. Chest. 2007; 131: 1541‒1549. 13)Stevens RD, Dowdy DW, et al.: Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness: a systematic review. Intensive Care Med. 2007; 33: 1876‒1891. 14)Jonghe BD, Sharshar T, et al.: Paresis acquired in the intensive care unit. JAMA. 2002; 288: 2859‒2867. 15)Lone NI, Walsh TS: Impact of intensive care unit organ failures on mortality during the five years after a critical illness. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 186: 640‒647. 16)Koch S, Spuler S, et al.: Critical illness myopathy is frequent: accompanying neuropathy protracts ICU discharge. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 287‒ 294. 17)Jolley SE, Moss M, et al.: Point prevalence study of mobilization practices for acute respiratory failure patients in the United States. Crit Care Med. 2017; 45: 205‒215. 18)Parry SM, Knight LD, et al.: Factors influencing physical. 101. activity and rehabilitation in survivors of critical illness: a systematic review of quantitative and qualitative studies. Intensive Care Med. 2017; 43: 531‒542. 19)Nydahl P, Ruhl P, et al.: Early mobilization of mechanically ventilated patients: a 1-day point-prevalence study in Germany. Critical Care Med. 2014; 42: 1178‒1186. 20)Stevens RD, Marshall SA, et al.: A framework for diagnosing and classifying intensive care unit-acquired weakness. Crit Care Med. 2009; 37: 299‒308. 21)Ali NA, Obrien JM, et al.: Acquired weakness, handgrip strength, and mortality in critically ill patients. Am J Respir Crit Care Med. 2008; 178: 261‒268. 22)Lee JJ, Waak K, et al.: Global muscle strength but not grip strength predicts mortality and length of stay in a general population in a surgical intensive care unit. Phys Ther. 2012; 92: 1546‒1555. 23)Sarfati C, Moore A, et al.: Efficacy of early passive tilting in minimizing ICU-acquired weakness: A randomized controlled trial. J Crit Care. 2018; 46: 37‒43. 24)The TEAM Study Investigators: Early mobilization and recovery in mechanically ventilated patients in the ICU: a bi-national, multi-centre, prospective cohort study. Crit Care. 2015; 19: 1‒10. 25)Chang AT, Boots RJ, et al.: Standing with the assistance of a tilt table improves minute ventilation in chronic critically ill patients. Arch Phys Med Rehabil. 2004; 84: 1972‒1976. 26)Toccolini BF, Osaku EF, et al.: Passive orthostatism (tilt table) in critical patients: Clinicophysiologic evaluation. J Crit Care. 2015; 30: 1‒6..

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参照

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