薬剤モニタリング
~バンコマイシンを中心に~
2020/10/15 モーニングレクチャー
薬剤部 森本 幸弘
本日の内容
• 薬剤モニタリング(TDM)について • TDMが必要な抗MRSA薬について • TDM実施時で必要なポイント
薬剤モニタリング(TDM)とは
薬物の有効治療濃度域を参考に、測定した薬 物血中濃度を用いて薬効や副作用の評価を行 い、用法用量を調節する方法 TDMが有効な薬剤 ・有効血中濃度域が狭い薬剤 ・薬物の体内動態に個人差が認められる薬物 ・治療効果と副作用発現が血中濃度と相関している薬剤TDMの意義
安全性の確保 + 最大限の薬効発揮
PK-PD
• PK (薬物動態:Pharmacokinetics) 薬の用法・用量と体内での濃度推移の関係 投与→どのように吸収? →どこに分布?→どこで代謝?→どのように排泄? 指標 Cmax: 最高血中濃度 AUC24h: 血中濃度時間曲線下面積 などPK-PD
・PD (薬力学:Pharmacodynamics) 薬の体内での濃度と作用の関係 薬が体内に入るとどのような 作用(効果・副作用)を示すか? 指標 MIC: 最小発育阻止濃度 MPC:変異株出現抑制濃度 などPK-PD
PK PD PK-PD 薬の用法・用量と作用の関係 用法用量がどのような作用を示すか? 指標 AUC24h/MIC抗菌薬とPK-PDパラメータ
時 間 血 中 濃 度 MIC Cmax AUC Cmax/MIC アミノグリコシド系 キノロン系 AUC24h/MIC キノロン系 テトラサイクリン系 グリコペプチド系 アジスロマイシン リネゾリドTime above MIC (%TAM) βラクタム系 マクロライド系 リンコマイシン系 血中濃度曲線下面積 最小発育阻止濃度 最高血中濃度
抗菌薬のPK-PDターゲット値
抗菌薬の種類 PK-PDパラメータ ターゲット値 β-ラクタム系 %TAM 30 – 40% キノロン系 AUC/MIC Cmax/MIC ≧ 30–40 (肺炎球菌) ≧ 100–125 (GNR) 8 - 10 (GNR) アミノグリコシド系 Cmax/MIC AUC/MIC 8 – 10 ≧ 80–100 グリコペプチド系 AUC/MIC ≧ 400TDM(薬剤モニタリング)
濃度(mg/L) 副作用 曲線 効果 曲線 効 果 と 副 作 用 の 反 応 率 20 10 治 療 域 治 療 域当院採用抗MRSA薬
VCM TEIC ABK
LZD DAP
(左)ファイザー㈱ ザイボックス®錠600mg (右)ファイザー㈱ ザイボックス®注射液600mg
(左)meiji seika ファルマ㈱ バンコマイシン塩酸塩 点滴静注用0.5g「MEEK」
(右)東和薬品㈱ テイコプラニン点滴静注用200mg「トーワ」 武田テバファーマ㈱ アルベカシン硫酸塩注射液100mg「テバ」
TDMが必要な薬剤は
3種類のみ
VCM TEIC ABK
(左)meiji seika ファルマ㈱ バンコマイシン塩酸塩 点滴静注用0.5g「MEEK」
バンコマイシン(VCM)の特徴①
◆細胞壁合成を阻害し、殺菌的に作用する グラム陰性菌には無効 ◆各臓器への移行性あり(髄液へも移行する) ◆投与量:腎機能が正常な成人には、 通常15~20㎎/kg(実測体重)12時間毎 ◆投与:1時間以上かける 急速投与した場合には、 レッドマン症候群おこすことがある初回投与設計
初回投与設計 1回投与量 VCMの標準投与量 △975㎎ 1回15~20㎎/kg×2/日 ○1000㎎ 体重65kg ○1250㎎ 1回975~1300㎎×2/日 △1300㎎ (1950~2600㎎/日) 1バイアル=500mg (2バイアル) (2.5バイアル)バンコマイシン(VCM)の特徴②
◆臨床効果(S. aureusに対して) ・AUC/MIC≧400が効果の目安 実臨床ではAUCは測定困難、トラフ値を代替指標 ・初回目標トラフ値は10~15μg/mlに設定 ・TDM評価後、効果不良例や複雑性感染症に 対しては、 トラフ濃度15~20μg/mLを目標VCMの感受性
バンコマイシンに対する
MIC =2μg/mLのMRSAを見ることがある。
時間 血清ハ ン コマ イ シ ン 濃度
MICとVCMの治療効果
MIC=1μ g/mlの場合 AUC24/MIC=420>400 MIC=2μ g/mlの場合 AUC24/MIC=210<400 ↓ MIC=2μg/mlで AUC24/MIC=420>400するためには、 トラフ値=22が必要 ピーク値25 トラフ値11VCMの感受性と効果
MIC ≧2μg/mLのMRSAでは、 AUC/MIC≧400以上が確保しにくいため、 バンコマイシンでの効果が期待しにくい。 ↓ 代替薬を考慮する。バンコマイシン(VCM)の特徴②
◆有害事象に関連して
・有害事象等を考慮すると、
VCMの血中トラフ濃度と腎障害の関係
5% 21% 20% 33% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% <10μg/ml 10~15μg/ml 15~20μg/ml 20μg/ml≦ 腎障害発生率 2017 MRSA感染症の治療ガイドラインよりテイコプラニン(TEIC)の特徴
◆細胞壁合成を阻害し、殺菌的に作用する ◆VCMより脂溶性が高く、分布容積が大きい ため、良好な組織移行性が期待できる (髄液への移行は不良) ◆副作用:腎障害, 第8脳神経障害、肝障害 ◆目標トラフ値15~30μg/ml ◆注意事項: 有効濃度への到達が遅いので、 ローディング(負荷投与)が必要アルベカシン(ABK)の特徴
◆細菌の蛋白合成を阻害し、殺菌的に作用 グラム陰性菌にも感受性あり ◆胸水・腹水・心嚢液・滑膜液への移行は良好 (髄液への移行は不良) ◆目標トラフ値1~2μg/ml、 目標ピーク値15~20μg/ml ◆1日1回投与 ◆効果は濃度依存性:Cmax/MIC ◆副作用:腎障害, 第8脳神経障害副作用モニタリング
~特に押さえておきたい副作用 腎障害 肝障害 レッドマン 症候群 難聴 VCM ○ ○ ○ TEIC VCMに比べて頻度△ が少ない ○ ○ ABK ○ ○TDM業務の実際
◆情報収集 年齢 性別 解析ソフトの 体重 血中濃度シミュレーション 血清クリアチニン値 併用薬 副作用発現防止 臓器障害の有無TDM業務の実際
◆適切な点滴時間 VCM 1時間以上かけて点滴・・・・・ 時間依存性 (1回1gを超える場合は、0.5gあたり30分を目安に延長) ⇨レッドマン症候群を回避するため TEIC 30分以上かけて点滴・・・・・ 時間依存性 ABK 30分点滴 ・・・・・ 濃度依存性 ⇨ピーク値↑で効果↑TDM業務の実際
◆採血ポイント : 定常状態時で行う 血 中 濃 度 時間 定常状態 投与量と排泄量が等しくなり、 血中濃度の蓄積がなくなった状態TDM業務の実際
◆投与間隔を遵守する
TDM業務の実際
◆投与間隔を遵守する
TDM業務の実際
◆血中濃度採血
TDM業務の実際
◆血中濃度採血 トラフ値・ピーク値どちらを採血する? VCM トラフ値 1ポイントのみ ・・・・推奨トラフ値:10~20μg/ml TEIC トラフ値 1ポイントのみ ・・・・推奨トラフ値:15~30μg/ml ABK トラフ値 と ピーク値 ・・・・推奨トラフ値:1~2μg/ml未満 ・・・・推奨ピーク値:15~20μg/mlTDM(薬物モニタリング)
濃度(mg/L) 副作用 曲線 効果 曲線 効 果 と 副 作 用 の 反 応 率 20 10 治 療 域 治 療 域TDM解析ソフトの活用
自施設が採用している、 バンコマイシン「MEEK」TDM解析ソフトの特徴の理解 クレアチニンクリアランスが85ml/分以上の 患者に対してVCMクリアランスを一定としている ↓ 高齢者など筋肉量の低下により血清クリアチニン 値が低値を示す場合に有効投与情報を入力
場合によってローディング 投与情報を入力
結果予想
症例
症例:84歳 男性 体重43.7kg MRSA感染症 血清クリアチニン 0.87mg/dL 7/8からバンコマイシン注 1日2回 1回500mg開始 投与日 投与予定時刻 投与時間 投与量 投与時間 7月8日 16時50 500mg 60分 7月9日 10時00分 10時13分 500㎎ 60分 7月9日 22時00分 23時25分 500㎎ 60分 7月10日 10時00時 10時02分 500㎎ 60分 7月10日 22時00分 22時11分 500㎎ 60分 7月11日 10時00時 10時04分 500㎎ 60分 7/11投与直前に採血あり⇒13.1μg/dL症例: 84歳 男性 体重43.7kg MRSA感染症
投与歴を記載
8日目でトラフ値が20.1となる トラフ値が14.5となる 1日1回 1回750㎎に変更した場合 1日2回 1回500㎎で開始・継続した場合 13.1μg/dL 定常状態時の トラフ値が21.4 AUCが625.3になる 定常状態時の トラフ値が14.5 AUCが469になる
TDMの効果
• 耐性菌の出現抑制 • 副作用発現リスクの軽減 • 薬剤投与日数の短縮 • 医療費の削減 初回投与時のシミュレーションも行います 困った時は薬剤部へご相談ください参考資料 Meiji SeiKa フェルマ株式会社 TDM解析ソフト バンコマイシン「MEEK」TDM解析ソフト ハベカシンTDM解析ソフト アステラス製薬株式会社 テイコプラニンTDM解析支援ソフトウェア 2017 MRSA感染症の治療ガイドラインより