事業所における VOC 削減対策 の事例とメリット
東京都VOC対策アドバイザー 平塚 豊
VOC 排出抑制の根本対策
(1)溶剤系洗浄剤を水系洗浄剤に転換
(2)洗浄装置からの排出ガスを吸着装置で 回収
(3)洗浄装置を完全密閉化
しかしながらいずれも零細企業にとっては、
経済的にも技術的にもまたスペース的にも 実施は困難
VOC 対策アドバイザーとして
事業所訪問で受けた感想
洗浄作業おける洗浄剤蒸気の大気への 散逸の機構からみて、設備や作業方法に 改善の余地がみられた。
それらの改善を一つでも、二つでも出来る 範囲で実施すれば、VOC排出抑制が実現 できるばかりでなくコスト削減にもなる。
指摘問題点と対策提案の総括
1.洗浄装置の冷却性能
★洗浄槽から発生する溶剤蒸気を冷却して、
凝縮回収する冷却部の条件(冷却水の温度、
通水量)に無頓着なところが多い。
★古い装置はフリーボード比が一般に低い。
(0.7~1.0)
★冷却管の表面腐食による伝熱係数の低下 提案
☆冷却水は市水よりはチラー水(10~15℃)
☆ 通水量は15L/min以上
2.洗浄装置の蓋
ワークの槽への出し入れの都度手動で 蓋をしたり、取ったりが作業効率をお と すとして作業中蓋をしない。
提案
☆手動ハンドリングの場合、蓋の材質を軽い ものへ変えるか、市販ロールスクリーンを改造 して簡単に開閉できるようにする。
☆クレーン搬送の場合は図のようなプラスチ ッ ク製の常設蓋を設置する。
☆作業待ちは勿論、作業中もワークの出し 入れ以外は蓋をする。
3.洗浄装置に強い風が吹き込む環境
★工場の出入り口からの外気の吹き込み
★空調機の吹き出しの風が当たる。
提案
☆風速の早い風が直接洗浄装置に当たら
ないように衝立のような風除けを設置する。
☆部屋全体換気の換気扇の位置に気を つける。
4.洗浄装置に設けた局所排気の方法や 吸い込み風速が不適切
★従来は有機溶剤中毒予防規則により作業環 境へ溶剤蒸気を漏らさず、外気への排出を主に していた。冷却回収されずに装置から散逸する 蒸気を長方形フードや円形フードにより大きな 吸い込み風量で局所排気している例が多い。
提案
☆槽の一面から側方型フードで吸引するのは 効率がわるいので、四面少なくとも二面からスリ ットダクトで吸引する。
5.作業方法にみられる問題点
★ワーク取り出し時の引き上げ速度が速い。
★洗浄後のぬれたワークをすぐ外へ取り出 す。
★洗浄装置の起動・停止の手順があいまい
提案
☆リフターの昇降速度は5cm/s程度、手動 の場合も槽内空気を撹乱しないようゆっ くり引き上げる。
☆洗浄後のぬれたワークは冷却ゾーンで
Dwellするか、乾燥ドラフトで揮発させる。
☆装置起動は冷却水を流してからヒーター をON,停止はヒーターをOFFして液温が 下がってから冷却水をとめる。
☆作業待ち時や夜間でも装置は必ず蓋を する。
ドウエルおよび蓋の実施効果
*冷浴リンス槽上部の冷却部にワークを1分間置いて から取り出して測定した塩化メチレン蒸発濃度
(A)蒸気洗浄後取り出したワーク 1200ppm (B)ドウエル1分後のワーク 45ppm (C)上記ワークの通風乾燥3分後 40ppm
*洗浄槽に蓋をしたことによる効果
(D)蓋をした状態の洗浄機空間 15ppm (E)蓋を開けた直後の洗浄機空間 160ppm (F)開けていた蓋を閉めて1分後の
洗浄機空間 300ppm
*洗浄室空間25ppmから10ppmに低下した。
その他の提言
☆洗浄液の汚れの管理を沸点か液比重で 行い、汚れの限界濃度により液交換する
☆汚れた洗浄液の活用として行なう予備 洗浄は局所排気フードの中で行なう
事例1重機用等金属部品の熱処理工場
• 手動1槽式大型洗浄機2台を用いてトリクレ ンによる脱脂洗浄
• 年間使用量21~50トン
• 従業者数20人以下
提案
(1)装置の起動、停止の手順のマニュアル化
(2)ドウエルの実施、袋穴のあるものは5分
事例1 熱処理工場(つずき)
効果
• ドウエルの実施、起動、停止の適正化に より1ヶ月の経過であるが30%の排出 量削減ができると推定される。
• 溶剤交換時期の適正化で約30%の使
用量の削減が見込まれる。
事例2 金属めっき工場(従業者数21~30人)
• 手動1槽式洗浄機を使用、年間トリクレン使 用量10~20トン
• 大型ワークの比率が高く、予備洗浄を行なう 提案
(1)拭き取りやシャワーによる予備洗浄は槽内 の冷却エリア内で行なう。将来は捕集ダクト つき予備洗浄エリアを設置
(2)止まり穴、ねじ穴のあるワークは長めのド ウエルを行なう。
(3)冷却能力の低下。配管内、外の清掃実施
(4)小物を洗う時に開口面を狭くするのに使用の仕 切り板つき蓋の撤去
(5)開口部の局所排気方法不適切、スリット式排気 ダクトに変更。また溶剤回収装置の更新が望ましい
効果
(1)冷却効果は向上したが、大物ワークの予備洗 浄が冷却域でできないため排出削減効果は不明。
提案実現後は消費量40%削減見込
(2)仕切り板撤去で作業環境濃度が26%改善
事例2 金属めっき工場(つずき)
事例3 精密金属熱処理工場
• 手動2槽式洗浄機によるトリクレンの脱脂洗 浄、年間使用量約2.2トン
• 従業者数20人以下 提案
(1)装置のフリーボード比が小さくて冷却能力低 いので、常設の開口部のカバーを設置
(2)局所排気風量を適性値まで下げる。
効果
・カバー設置で溶剤使用量約50%削減見込
事例4 電子部品のバレル及びラック
めっき工場(従業者数31~50人)
• 4台の手動3槽式洗浄機を用いてトリクレンに よる脱脂洗浄
• 年間使用量10~20トン 提案
• 平成18年に蒸気回収装置を導入したので、
効果的に活用するため局所排気ダクトの最 適設置位置の決定や装置間の排気風量の バランスを図る提案をした。
事例4 電子部品めっき工場(つずき)
効果
• 使用量310kg/月削減、回収量53%増加
• 作業環境一般で22~40%改善、洗浄作業 中では50%削減
投資
• 溶剤回収装置の導入約3000万円
• 局所排気ダクトの設置約30万円
事例5 めっき工場(従業者数21~30人)
• 2台の手動3槽式洗浄機によるトリクレンを用 いためっき前の予備洗浄、及び仕上げ洗浄
• 年間使用量4~5トン 提案
(1)液持ち出しを減らすためワークの取り出し に時間をかける。自然乾燥ボックスを作り、そ の中でドウエルをおこなう。
(2)市販ロールスクリーンをこまめに開閉でき
事例5 めっき工場(つずき)
効果
・洗浄槽周辺で溶剤臭気がしなくなった。
溶剤の使用量が約20%低下、月約20万円 のコストダウン
事例6 事務用、家庭用空調機の冷媒配管の 加工および組立工場(従業者数100人以上)
• 自動4槽式洗浄機を用いた銅管加工品のトリ クレン脱脂洗浄。年間使用量50トン以上
提案
(1)ワーク搬出入時開放した自動扉からもれる 多量の蒸気を回収する吸引ダクトの設置と回 収装置への接続
(2)槽の冷却コイルに重点的に冷却水を流せ るように分岐した配管路毎に流量計をつけて 調節可能にする。
事例6 冷媒配管の加工及び組立工場(2)
(3)活性炭溶剤回収装置の回収率向上のため脱 着再生工程の時間を5分から10分へ延ばす。
効果
・大気排出量が67%削減
・洗浄剤の使用量約5%低下、年500万円 のコストダウンの見込み
費用
・温度計、流量計、バルブなど約120万円
事例7 金属めっき工場(従業者数51~100人)
• 自動4槽式洗浄装置によりトリクレンを用い貴金属 めっきの予備脱脂洗浄
• 年間使用量20~30トン
• 洗浄装置はフル稼働のため増設を検討中
提案
アルカリ洗浄機を導入して、銅,真鍮素材のプレス、
切削加工部品を移行する。
亜鉛ダイカスト研磨品、凹凸が多く研磨剤の除去が困 難な品物、アルミ加工品は従来どおり
事例7 金属めっき工場(つずき)
効果
・洗浄剤使用量で14%、大気排出量で34.
3 %の低減
・年間溶剤使用量約12%削減、年74.8万円 のコストダウン
投資
アルカリ超音波洗浄槽(タンク35万円、超音波