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グループ企業間報酬の所得区分と費用控除

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Academic year: 2021

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グループ企業間報酬の所得区分と費用控除

平成 20 年度 修了

筑波大学大学院ビジネス科学研究科

企 業 法 学 専 攻

学籍番号 200740151

氏 名 秋 山 友 宏

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目 次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2 本稿の目的と構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 第一章 最高裁ストック・オプション給与判決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第1節 ストック・オプション事件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1 ストック・オプション事件の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2 最高裁ストック・オプション給与判決の判示内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第2節 最高裁ストック・オプション給与判決の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1 所得税法の観点からの検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2 法人税法の観点からの検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 3 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第3節 ストック・オプション以外のグループ企業間報酬の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1 特約店等のセールスマン又は従業員等に取扱数量等に応じて支出する費用 ・・・ 9 2 転籍者が転籍前の法人から支払を受ける給与較差補てん金 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 第4節 グループ企業間報酬における問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 第二章 グループ企業間報酬の所得区分(役務提供者における考察)・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 第1節 最高裁昭和 56 年 4 月 24 日判決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 1 所得区分判定に当たってのスタンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 2 所得税法が所得区分を設けた趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 3 給与所得の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 4 最高裁弁護士顧問料判決における給与所得のメルクマール ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 第2節 給与所得のメルクマールの考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 1 雇用契約又はこれに類する原因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2 使用者の指揮命令に服した労務の対価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 3 使用者から受ける給付 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 4 給与支給者との関係における空間的、時間的な拘束による継続的ないし断 続的な労務等の提供による対価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 5 グループ企業間報酬の給与所得該当性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 第3節 グループ企業間報酬の所得区分のあり方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 1 グループ企業間報酬の性質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 2 租税公平主義と所得区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 3 租税法律主義と所得区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 第三章 グループ企業間報酬の費用控除と源泉徴収(報酬支払者における考察)・・・・・・・ 34 第1節 法人税法における人的役務提供対価の控除規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 1 損金算入に関する通則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 2 役員給与に関する規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 3 グループ企業間報酬に関する規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

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第2節 グループ企業間報酬に関する法人税の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 1 新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 2 製造業者等が特約店等のセールスマン又は従業員等に交付する金品 ・・・・・・・・・ 38 3 出向者、転籍者に対する給与較差補てん金 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 4 グループ企業間報酬に係る法人税法上の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 第3節 グループ企業間報酬に係る源泉徴収 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 1 源泉徴収制度の趣旨と源泉徴収義務者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 2 製造業者等が特約店等のセールスマン又は従業員等に交付する金品に係る 源泉徴収 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 3 新株予約権の行使益又は転籍者に対する給与較差補てん金に係る源泉徴収 ・・・ 47 4 グループ企業間報酬に係る源泉徴収義務の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 第四章 米国におけるグループ企業間報酬の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 第1節 ストック・オプションの権利行使者に対する課税 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 1 収入金額とその計上時期 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 2 非適格ストック・オプションに対する課税 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 第2節 ストック・オプション付与法人の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 1 役務の受益者における控除 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 2 IRC 162 条における控除 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 3 IRC 482 条の適用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 第3節 日米におけるグループ企業間報酬の取扱いの差異 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 1 報酬受領者の課税上の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 2 報酬支払者の課税上の取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 3 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 第五章 グループ企業間報酬に係る法令の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 第1節 前章までの検討結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 1 グループ企業間報酬の趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 2 所得区分のあり方とその問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 3 費用控除及び源泉徴収とその問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 第2節 グループ企業間報酬に係る法令の整備(提言) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 1 提言に当たっての前提 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 2 税務処理の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 3 結論(提言)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 第3節 提言に対する若干の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 1 グループ企業間報酬の支払者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 2 役員給与の損金不算入の適用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 参考判決等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

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はじめに

本稿は、人的役務提供対価のうち、グループ企業間報酬(グループ企業内における役務 提供に直接基因して、役務提供先以外のグループ企業から支払を受ける対価をいう。以下 同じ。)の所得区分並びにその支払法人の費用控除1に係る税務上の取扱いについて考察す るものである。 なお、人的役務提供対価支払の際の源泉徴収は、徴収すべき税額の判断が所得区分に対 応してなされることから、本稿では、グループ企業間報酬に係る源泉徴収の問題も含めて 考察を加える。 1 問題の所在 ストック・オプション事件2は、外国親会社からその子会社である内国法人の役員又は 従業員に対して付与されたストック・オプションの権利行使益の所得区分について、給与 所得又は一時所得のいずれに該当するかを主たる争点とする争訟である。 給与所得3は、労務又は役務(以下「役務等」という。単に「役務」と表記する場合も ある。)の提供の対価であり、他方、一時所得4は役務等の提供の対価としての性質を有さ ないものである。所得区分の判定に関する争訟は、給与所得と事業所得との区分など、人 的役務提供対価とされる所得間において生じ得るとしても、対価性に関して全く性質の異 なる給与所得と一時所得との区分でその争いが生じることは少ない。 ストック・オプションは株価連動報酬であり、その権利行使益は、それを享受する役員 又は従業員の勤務等の成果が、直接具現されるというよりも、株価の変動という偶発的要 素に左右されることが多いといえ、このことからすれば、臨時的、偶発的な所得の実現と して一時所得の性質を有するものともいえる。 しかしながら、ストック・オプションに係る権利が役員や従業員という地位に基づき付 与されるものであり、その権利行使益は、一定の勤務を継続することなしに享受できない ものであることからして、役務等の提供の対価としての性質を否定することはできず、最 1 我が国の法人税法では、売上原価や販売費、一般管理費等の費用は「損金に算入」する(法人税法 22 条 3 項) とされている。本稿においては、グループ企業間報酬について、グループ企業内のいずれの法人の費用として控 除するかを検討するため、また、その費用はすべて損金とならない場合もあると思料されることから、「損金控除」 ではなく「費用控除」としている。 2 ストック・オプション事件については、第一章第1節の 1「ストック・オプション事件の概要」を参照。 3 所得税法 28 条《給与所得》 4 所得税法 34 条《一時所得》

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高裁(平成 17 年 1 月 25 日第三小法廷判決5(以下「最高裁ストック・オプション給与判 決」という。))は、その所得区分について、勤務から生じた給与所得と判断した6 ストック・オプションの権利行使益を一時所得等として申告したことについて「正当な 理由7」があるとして過少申告加算税の賦課決定処分を取り消した最高裁平成 18 年 10 月 24 日第三小法廷判決8によると、課税当局が、かつてはストック・オプションの権利行使 益を一時所得として取り扱っており、平成 10 年頃にその取扱いを給与所得へと変更したと の認定がなされている。 課税当局が、以前、一時所得としての取扱いをしていたのは、いかなる理由によるもの であろうか、また、その取扱いを給与所得に変更したのは、いかなる理由によるものであ ろうか。 最高裁ストック・オプション給与判決に関して、最高裁調査官の増田 稔氏は、『ストッ ク・オプションに関しては、企業会計や法人税法上の問題点等もあるが、本判決は、スト ック・オプションの権利行使益の所得税法上の所得区分の点に限って判断したものであり、 上記の問題点等について触れるものではない。』9 とコメントしている。この「法人税法 上の問題点等」について増田調査官は具体的に述べていないが、親会社におけるストック・ オプション費用の税務処理などが考えられる。 一連のストック・オプション事件において、ストック・オプションの付与会社である親 会社等はいずれも外国法人であるが、例えば内国法人である親会社が、直接的な役務提供 を受けない子会社の役員又は従業員に対して子会社での勤務に対する対価(経済的利益を 含む。)を支払った場合、その対価を給与として控除できるかといった問題が考えられる。 給与とならない場合には、子会社の役員又は従業員にとって給与所得とされる対価であっ ても、その支払者にとっては給与以外の支出となる場合も生じ得ることになる。 5 民集 59 巻 1 号 64 頁 6 一時所得の対価は、所得税法 34 条《一時所得》に規定される「労務その他の役務等の対価としての性質を有 しないもの」である点が重視されるべきであり、子会社等への継続的な勤務を条件として得ることができるスト ック・オプションの権利行使益は、その金額が株価の変動などの偶発的要因に左右されるものであったとしても 一時所得にはなり得ないと考えられることから、最高裁が一時所得には該当しないと判断したことは相当と考え る。 7 国税通則法 65 条《過少申告加算税》4 項 8 民集 60 巻 8 号 3128 頁。ストック・オプション事件の過少申告加算税に係る最高裁判決は、他に、平成 18 年 11 月 16 日第一小法廷判決(裁時 1424 号 1 頁)、平成 19 年 7 月 6 日第二小法廷判決(裁時 1439 号 4 頁)があり、 いずれも過少申告加算税の賦課決定を取り消す判断がなされている。 9 増田 稔「時の判例(米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与された ストックオプションを行使して得た利益が所得税法 28 条 1 項所定の給与所得に当たるとされた事例・最高裁平成 17 年 1 月 25 日第三小法廷判決)」ジュリスト 1310 号 149 頁

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2 本稿の目的と構成 ⑴ 目的 グループ企業間報酬については、その対価受領者である個人の所得税法上の所得区分の 問題について、その支払者である法人からみたその対価(又は金員)の法人税法上の評価(給 与、報酬、寄附金、交際費等、福利厚生費などの該当性)からの検討がなされている10 確かに、法人が直接的な役務提供を受けない別法人の従業員等に対してした金銭や経済 的利益の給付は、一般には寄附金11又は交際費等12とされ、その給付を受ける別法人の従 業員等は、法人からの贈与等として一時所得13又は雑所得14とされるのが一般的な税務上 の整理としても、それをグループ企業間報酬の所得区分の判定にそのまま適用してよいの であろうか。 一方、給与所得者としての職務遂行を条件に得ることができる対価や経済的利益であっ ても、直接的な役務提供先以外から受けるものを最高裁ストック・オプション給与判決の 結論のとおり、現行の所得税法 28 条所定の給与所得とすることは、租税法の基本原則(租 税法律主義及び租税公平主義)15に照らし相当といえるのであろうか。 本稿は、人的役務提供対価の税務処理、具体的には、グループ企業間報酬について、そ の受領者である従業員等の所得区分、その支払者である法人における費用控除や源泉徴収 に関し、現行の租税法規(所得税法、法人税法及び租税特別措置法)の規定及びその執行上 の取扱い(通達等)に内在する問題点を掲げ、それに判例法理を中心とした検討を加えるこ 10 大淵博義教授は、ストック・オプション事件に関連して、子会社従業員等は親会社に対して労務提供の事実 がないないことから、親会社から当該従業員等に対する資産又は経済的利益の移転は、個別的、具体的な反対給 付義務(対価的給付)によるものでなく、原則として資産の贈与又は経済的利益の無償の供与として寄附金とさ れるのが、これまでの伝統的な課税当局及び判例の解釈であるとされ、給与所得説に立つ判決は、法人税法の基 本的制度の認識が欠落していると説示されている(判例法人税法講座-法人税法解釈の判例理論の検証とその実 践的展開(第 27 回)-寄附金課税を巡る諸問題の考察(2)~寄附金の無償性と対価性概念を巡る諸問題~ 税経通 信 63 巻 6 号 42 頁)。 11 法人税法 37 条 7 項は、寄附金の額について、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを 問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その 他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該 金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価 額によるものとする旨規定している。 12 租税特別措置法 61 条の 4 第 3 項は、交際費等について、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、 その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為の ために支出するもの(一定のものを除く。)をいう旨規定している。交際費等から除かれるものについては、後掲 (注 121)参照。 13 所得税基本通達 34-1(5)は、「法人からの贈与により取得する金品(業務に関連して受けるもの及び継続的に 受けるものを除く。)」を一時所得とする取扱いを明らかにしている。 14 所得税基本通達 35-1(5)は、「役員又は使用人が自己の職務に関連して使用者の取引先等からの贈与等により 取得する金品」を雑所得とする取扱いを明らかにしている。 15 金子 宏名誉教授は、租税法の全体を支配する基本原則として、租税法律主義と租税公平主義を挙げ、前者は 課税権の行使方法に関する原則であるのに対し、後者は主として税負担の配分に関する原則であるとされている (金子 宏『租税法(第 13 版)』66 頁、弘文堂・平成 20 年)。

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とにより、そのあるべき方向性を考察することを目的とするものである。 ⑵ 構成 まず第一章では、最高裁ストック・オプション給与判決の判示内容を分析・検討するこ とにより、グループ企業間報酬における所得税法上又は法人税法上の問題点を明らかにす る。 第二章では、人的役務提供対価の所得区分、主として給与所得の意義、範囲について、 学説、判例を分析・検討した上で、グループ企業間報酬の所得区分のあり方とその判定に 当たっての問題点等について考察する。 第三章では、人的役務提供対価の支払について法人税法上の取扱いを整理した上で、グ ループ企業間報酬の支払に関する現行の法人税法の規定の適用とその問題点について、源 泉徴収に係る問題も含めて考察する。 第四章では、米国におけるグループ企業間の人的役務提供対価の取扱いについて考察し、 我が国と米国との取扱いの相違点等について比較・検討を加える。 最後の第五章では、前章までの検討内容を踏まえ、グループ企業間報酬の所得区分、費 用控除及び源泉徴収の取扱いの明確化・適正化のための提言を行う。

第一章 最高裁ストック・オプション給与判決

第1節 ストック・オプション事件 1 ストック・オプション事件の概要 ストック・オプション事件とは、前述のとおり、外国法人(主として米国法人)である親 会社から内国法人である子会社の役員や従業員に対して付与された親会社株式に係るスト ック・オプションの権利行使益について、その所得区分を給与所得とするか、あるいは一 時所得とするかを主たる争点とする争訟である16 ストック・オプション(以下において単に「ストック・オプション」と表示する場合は、 税制非適格の親会社方式ストック・オプションを指すものとする。)の権利行使益の所得区 分については、課税当局による公的な見解とはいえないものの、その職員が執筆した書籍 16 ストック・オプション事件では、その権利行使益の所得区分や租税法律主義違反以外にも、理由付記の不備、 信義則違反等が争点とされているが、本稿は、グループ企業間報酬の税務上の取扱いについての考察を目的とす ることから、理由付記の不備、信義則違反等についての検討は省略している。

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等で一時所得とする取扱いが示されていた17。ところが、平成 11 年頃になって、平成 8 年分以後の所得税について、一時所得等として申告をしていた納税者を中心として、その 所得区分を給与所得とする課税処分がなされ、それを不服として 100 件を超える課税処分 取消訴訟が提起された18 地裁では主として一時所得、高裁では主として給与所得とする判決がなされたところ、 最高裁により給与所得とする判断が示され、所得区分については一応の決着がなされた。 2 最高裁ストック・オプション給与判決の判示内容 ストック・オプションの権利行使益の給与所得該当性について、最高裁は次のとおり判 示した。 『本件ストックオプション制度に基づき付与されたストックオプションについては、被付 与者の生存中は、その者のみがこれを行使することができ、その権利を譲渡し、又は移転す ることはできないものとされているというのであり、被付与者は、これを行使することによ って、初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる。 そうであるとすれば、A 社は、上告人に対し、本件付与契約により本件ストックオプショ ンを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件 権利行使益を得させたものであるということができるから、本件権利行使益は、A 社から上 告人に与えられた給付に当たるものというべきである。 本件権利行使益の発生及びその金額が A 社の株価の動向と権利行使時期に関する上告人の 判断に左右されたものであるとしても、そのことを理由として、本件権利行使益が A 社から 上告人に与えられた給付に当たることを否定することはできない。 ところで、本件権利行使益は、上告人が代表取締役であった B 社からではなく、A 社から 与えられたものである。しかしながら、前記事実関係によれば、A 社は、B 社の発行済み株 式の 100%を有している親会社であるというのであるから、A 社は、B 社の役員の人事権等の 実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって、上告人は、A 社の統 括の下に B 社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができる。そして、 前記事実関係によれば、本件ストックオプション制度は、A 社グループの一定の執行役員及 び 主 要 な 従 業 員 に 対 す る 精 勤 の 動 機 付 け と す る こ と な ど を 企 図 し て 設 け ら れ て い る も の で あり、A 社は、上告人が上記のとおり職務を遂行しているからこそ、本件ストックオプショ ン 制 度 に 基 づ き 上 告 人 と の 間 で 本 件 付 与 契 約 を 締 結 し て 上 告 人 に 対 し て 本 件 ス ト ッ ク オ プ ションを付与したものであって、本件権利行使益が上告人が上記のとおり職務を遂行したこ とに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。 そうであるとすれば、本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供さ れた非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法 28 条 1 項所定の給与所 得に当たるというべきである。所論引用の判例19は本件に適切でない。』 17 最高裁平成 18 年 10 月 24 日第三小法廷判決(前掲(注 8))によると、「回答事例による所得税質疑応答集」(大 蔵財務協会)の昭和 60 年版から平成 6 年版において、一時所得として課税されることになるという趣旨が記載さ れていた(後掲(注 30))との認定がなされている。 18 平成 17 年 1 月 26 日付讀賣新聞(朝刊)、同日付朝日新聞(朝刊) 19 最高裁昭和 56 年 4 月 24 日第二小法廷判決・後掲(注 39、40)参照

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このように最高裁は、本件ストックオプション制度は、親会社(A社)グループでの精勤 の動機付け等を企画して設けられたものであるとした上で、その権利行使益は、親会社か ら給付されたものであるが、上告人は、親会社の統括のもとで子会社で代表取締役として 職務を遂行しており、その職務遂行の対価としての性質を有するものといえることから、 給与所得に該当するとした。 給与所得とする結論に導く過程において、ストック・オプション報酬の支払者とされる 親会社や上告人の勤務先である子会社における法人税の取扱いは、争点でないこともあり 何ら触れられていないことから、所得税の所得区分に限っての判断がなされたもの20とい える。 第2節 最高裁ストック・オプション給与判決の検討 1 所得税法の観点からの検討 最高裁ストック・オプション給与判決では、直接的な役務提供先でない親会社からの給 付を給与所得としていることから、最高裁は、給与所得に係る対価(経済的利益を含む。) は、必ずしも直接的な役務提供先から受けるものに限られるものではない21と判断したこ とは明らかである。しかしながら、役務提供先以外から受ける対価の給与所得該当性につ いての要件、例えば、報酬支払者と役務提供先との関係(給与所得該当性は、100%子会社 の従業員等に限られるか、あるいは 100%子会社でないとしても 50%超あるいは一定の資 本関係が必要とされるか。)、報酬支払者と役務提供者との関係(給与所得該当性は、子会 社の代表取締役など親会社の直接的な統括のもと職務を遂行していると評価し得る者に限 られるか否か。)について、その判示内容をみる限り明らかにされているとはいえない。 これらの事項については、第二章で検討を加えるが、最高裁の増田調査官は、最高裁ス トック・オプション給与判決について、『本判決は事例判決の形式を採っているが、各社の ストックオプション制度は基本的な点においては大差のないものと思われるから、本判決 は同種事案との関係でも先例的価値を有するものと考えられる。』22とコメントを付して いることに加え、資本関係が 100%に満たない事件23や子会社の代表取締役ではなく一般 20 増田 稔・前掲(注 9)149 頁 21 大淵博義教授は、所得税法 28 条に規定する給与所得の対価は、所得税法 28 条の文理解釈からして、雇用契 約等の存在を前提としての労務の提供の対価として、その使用者から支給されるものが前提であるとされる(「親 会社が子会社従業員等に付与したストック・オプションの権利行使益の所得区分」TKC税研情報 14 巻 2 号 47~48 頁)。 22 増田 稔・前掲(注 9)149 頁 23 後掲(注 92)、(注 93)及び(注 95)の各判決を参照

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従業員に係る事件24についても、上告又は上告受理の申立てがなされているものもあるで あろうが、給与所得以外の所得とする判断が示されていないことからすると、最高裁は、 子会社従業員等が親会社等から受けるストック・オプションの権利行使益は、原則として 給与所得に該当すると判断したものと考えられる。 2 法人税法の観点からの検討 最高裁ストック・オプション給与判決に対する問題点の指摘は、主として、法人税の観 点からなされている。 具体的には、子会社従業員等は親会社に対して役務提供の事実がないから、親会社から 当該従業員等に対する資産又は経済的利益の移転は、個別的、具体的な反対給付義務(対価 的給付)によるものでなく、原則として資産の贈与又は経済的利益の無償の供与として寄附 金とされるとする見解25、また、ストック・オプションの費用控除は、その付与会社(親 会社等)又は勤務先(子会社等)のいずれにおいて行うかという問題26である。 前述のとおり、ストック・オプション事件では、ストック・オプションの付与者は外国 親会社等であり、その費用控除について検討がなされていない。それに加え、権利行使益 が国外払であることから、その源泉徴収義務についての検討もなされていない。 ところで、法人税法においては、資本関係 100%の親子会社であっても、別個独立の経 済主体として理解され、連結納税を選択しない限り、それぞれが納税義務者となる。この ことを前提とすると、親会社に対し直接的な役務提供をしていない子会社の従業員等は、 その子会社に対する勤務が間接的に親会社に貢献することがあったとしても、そのことを もって親会社が子会社従業員等に対価を支払う法的関係が発生することはないことになる 27。従前、外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益について、一時 所得として取り扱われていたのは、役務提供を受けない者に対する経済的利益の供与であ り、法人からの贈与28と評価して所得区分が判定されていたものと考えられる。 ストック・オプションの権利行使益を一時所得とする立場で種々の意見が述べられてい 24 東京地裁平成 16 年 2 月 27 日判決(税資 254 号)、横浜地裁平成 17 年 4 月 13 日判決(税資 255 号順号 9990)は いずれも子会社の従業員に係るものである。前者の事件は、最高裁で上告棄却・上告受理申立てについては不受 理の決定がなされている(最高裁第三小法廷平成 17 年 3 月 15 日決定・税資 254 号)。 25 大淵博義・前掲(注 10) 26 川田 剛教授は、ストック・オプション給与判決に係る残された問題として、ストック・オプションに係る給 与は、親会社、子会社のいずれの法人の損金となるか、その給与が国内支払とした場合に源泉徴収義務者はいず れの法人とされるかなどの問題点を掲げた上、子会社での役務等の提供が親会社への役務提供と考えることは不 可能であり、子会社からの給与として整理すべきであるとされる(「ストック・オプション判決をめぐる残された 問題点-特に国際課税の観点から-」国際税務 25 巻 6 号 42~46 頁)。 27 大淵博義・前掲(注 21) 57 頁 28 前掲(注 13)

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るものの29、基本的には、親会社から子会社従業員等に対する経済的利益の給付は、役務 提供の事実がないから親会社において給与とはならず、他方、子会社従業員等も親会社に 役務提供をしていないから給与所得になり得ないとするものである30 この考え方は、権利行使益を得るために従業員等が提供する役務等の性質に着目するの ではなく、経済的利益の無償の供与(寄附金)とする対価支払者における法人税法上の評価 から導き出されたものといえる。 3 小括 最高裁は、役務提供先以外からの給付であることをもって給与所得該当性が失われるこ とはないとした。すなわち、最高裁は、ストック・オプションの権利行使益について、「職 務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益である」としているとこ ろ、ここでいう「対価」とは、職務遂行の代償として親会社から受けたものであり、子会 社役員にとっては、非独立的ないし従属的な役務を提供した代償として受けたものとして 給与所得としたものといえ、子会社役員からみた給付の性質を重視した判断である31。こ の場合、仮に子会社役員がその権利を行使しなければ親会社は経済的利益を給付する義務 を負わない点において、必ずしも勤務の代償とはいえない面もあるが、給与所得に係る対 価 は 給 与 所 得 者 と し て の 地 位 に 基 づ く 給 付32を 広 く 含 む こ と と さ れ て い る こ と か ら す れ ば、結果として給付があり、それが子会社役員としての勤務(地位)に基づくものといえる 以上、その給付は給与所得に該当すると考えられる。 29 北野弘久名誉教授は、ストック・オプションの権利行使益を一時所得とする理由として、それが、交付会社 の業績、その将来の収益力、金利、為替、国内外の景気の動向、政治や社会の情勢、投資家の動きなどによって 決まり、しかも具体的な収入金額は、被交付者の主観的判断(権利を行使しようとする時期)によって左右され るものであり、労務又は役務の対価とは無関係に生じること等を挙げられている(「ストック・オプション権利行 使益の税法上の性格」税経通信 63 巻 5 号 22 頁)。 30 平成 8 年 6 月 18 日付による改正前の所得税基本通達 23~35 共-6 は、新株等を取得する権利を与えられた場 合の所得区分として、「新株等を取得する権利を与えられた場合の所得は、一時所得とする。ただし、当該発行法 人の役員若しくは使用人又はこれらの者であった者に対し支給すべきであった給与等又は退職手当等に代えて当 該新株を与えられたと認められる場合には、給与所得又は退職所得とする。」とする取扱いが示されていた。従前、 外国法人から付与されたストック・オプションに係る経済的利益を一時所得とする理由について、回答事例によ る所得税質疑応答集(前掲(注 17))は、この取扱いに準じ、給与等に代えて与えられたもの以外であることによ り一時所得として課税される旨の説明がなされていた。 31 増田 稔氏は、「給与所得該当性は、当該給付が実質的にみて労務提供の対価といえるかどうかという観点から 判断すべきであるとした上で、従業員等が、使用者又はこれに準ずるような立場にある者(子会社の従業員等と の関係では人事権を含めて子会社の経営の実権を握ってこれを支配している親会社はこれに該当するであろう) から、従業員等という地位に基づき経済的利益を与えられ、従業員等が労務を提供したからこそその経済的利益 を与えられたという関係が認められる場合には、当該経済的利益は、労務提供の対価として給付されたものとし て給与所得に当たると解するのが相当である。」との考え方を示しており、使用者又はこれに準ずるような立場に ある者の範囲は必ずしも明らかではないが、給与所得者としての労務提供の対価といえる性質のものは、給与所 得として課税されるのが相当との考え方を示したものといえる(前掲(注 9)149 頁)。 32 最高裁昭和 37 年 8 月 10 日第二小法廷判決(民集 16 巻 8 号 1749 頁)は、支給された通勤費の給与所得該当 性に関し、勤労者が勤労者たる地位にもとづいて使用者から受ける給付は、すべて給与所得を構成する収入と解 する旨判示している。

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他方、親会社にとってみれば、子会社役員が子会社において勤務を継続し、付与したス トック・オプションの権利を行使したことにより子会社における勤務継続の代償として経 済的利益を給付したのではあるが、親会社・子会社それぞれが、独立した経済主体として 法人税の納税義務を負う存在である以上、その代償が親会社の所得金額の計算上の費用(損 金)としての性質を有するかどうかについては、親会社に対する直接的な役務提供の有無に より判断するのが客観的と考えられ、親会社に対する直接的な役務提供がない以上、子会 社に対する役務提供の代償を親会社において費用控除させないのも当然と思われる。 このように、ストック・オプションの権利行使益に係る税務処理について、役務提供者 である従業員等からみる所得税法上の観点からの検討と、その権利行使益の給付者である 親会社等からみる法人税法上の観点からの検討が考えられ、それらの整合性を図る税務処 理の構築が必要と考える。 第3節 ストック・オプション以外のグループ企業間報酬の取扱い グループ企業間で支払われる人的役務提供対価で、源泉徴収又は交際費等の観点から国 税庁が法令解釈通達としてその取扱いを明らかにしているものとして、「特約店等のセール スマン又は従業員等に取扱数量等に応じて支出する費用」があり、また、これとは性格が 異なるが、役務提供先以外から受けるものとして、「転籍者が転籍前の法人から支払を受け る給与較差補てん金」がある。 1 特約店等のセールスマン又は従業員等に取扱数量等に応じて支出する費用 源泉徴収に関する所得税基本通達において、特約店等のセールスマン又は従業員等に取 扱数量等に応じて支出する費用について、次の取扱いが示されている。 所得税基本通達 204-22 の 2(特約店等のセールスマン又は従業員等に取扱数量等に応じて支出する費用) 製造業者又は卸売業者等が、特約店等に専属するセールスマン又は専ら自己の製品等を 取り扱う特約店等の従業員に対し、その取扱数量又は取扱金額に応じてあらかじめ定めら れているところにより交付する金員は、法第 204 条第 1 項第 4 号に規定する外交員の報酬 に該当することに留意する。 この取扱いは、交際費等に係る次の 2 件の取扱通達を受けて定められたものである。 租税特別措置法通達 61 の 4(1)-13(特約店等のセールスマンのために支出する費用) 製造業者又は卸売業者が自己又はその特約店等に専属するセールスマン(その報酬につ き所得税法第 204 条の規定の適用を受ける者に限る。)のために支出する次の費用は、交際

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費等に該当しない。 ⑴ セールスマンに対し、その取扱数量又は取扱金額に応じてあらかじめ定められ て い る ところにより交付する金品の費用 ⑵及び⑶ (省略) (注) ⑴に 定 める金 品の 交 付に当 たっ て は、同 条第 1 項の規 定に よ り所得 税の 源 泉徴収 をし な けれ ばなら ない こ とに留 意す る 。 租税特別措置法通達 61 の 4(1)-14(特約店等の従業員等を対象として支出する報奨金品) 製造業者又は卸売業者が専ら自己の製品等を取り扱う特約店等の従業員等に対し、その 者の外交販売に係る当該製品等の取扱数量又は取扱金額に応じてあらかじめ明らかにされ ているところにより交付する金品の費用については、61 の 4(1)-13 の(1)に掲げる費用の 取扱いの例による。 これらの基本通達では、製造業者又は卸売業者(以下「製造業者等」という。)と特約店 等との関係について、特約店等の従業員等の取扱いに関してその特約店等が「専ら」製造 業者等の製品等を取り扱う特約店等とされる以外、特に定められておらず、従って、これ らの取扱いは、製造業者等と特約店等の資本関係を問わず適用されることになる。 ところで、特約店等のセールスマンはその特約店等との外交員契約により、また、特約 店等の従業員等は特約店等との雇用契約により、それぞれ特約店等に対し役務提供するも のであり、製造業者等からみれば、直接的な役務提供を受けない者に対する金品の支払で あることは明らかである。にもかかわらず、製造業者等はその金品を報酬として処理する ことができ、そのすべてが損金に算入される点が注目される。 この取扱いの趣旨は、セールスマンが外交員に該当すること、製造業者等のセールスマ ンと特約店等のセールスマンを同様に取り扱うことにより、交際費課税を回避するためと されているが33、他方、その金品を受ける特約店等のセールスマン、従業員等からみた場 合、その金品の所得区分についてどのように考えることになるか。 特に、特約店等と雇用契約により役務提供する従業員等の場合には、特約店に対する勤 務により製造業者等から交付を受ける金品であり、製造業者等が親会社であったとした場 合、前述の給与所得とされるストック・オプションの権利行使益と異なり外交員報酬(雑 所得等)とすることでよいのか検討を要するものと考える。 33 セールスマンについては、①所得税法上、対価の交付が取扱高等を基礎とする場合、外交員報酬とされるこ と、②外交員といえども自己の店舗を有して事業を営んでいない場合にはサラリーマンに近い存在であり、それ らに対する福利厚生費等の支出は、専属下請業者の従業員等に支出する福利厚生費等の取扱い(措通 61 の 4⑴- 18)に準ずることが相当であること、③これらのことはその特約店だけでなく、自己の直属セールスマンについ ても同様であることから、自己又は特約店の直属セールスマンについての支出は交際費等とはしない旨の説明が なされている(小山真輝編著『法人税関係 措置法通達逐条解説〔平成 19 年 12 月 1 日現在〕版』489 頁 財経詳 報社・平成 20 年)。

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2 転籍者が転籍前の法人から支払を受ける給与較差補てん金 転籍又は出向は、従来は、グループ企業間の人事交流、中高年齢者のポスト不足による 関連企業への異動が主流であったが、近年においては、企業グループ経営(事業部門の分 社化・子会社化)を担う戦略的人事という積極的意義を有し、グループ経営に不可欠の人 事制度とされている。これらの制度のうち、転籍は、転籍前の法人との労働契約を完全に 終了させた上で転籍後の法人との雇用関係に入る形態であり、復帰を予定しないのが一般 であるのに対し、出向は、使用者(出向元法人)との労働契約を維持しつつ、長期にわた って他企業(出向先法人)の指揮命令に服して労働することをいう34 所得税基本通達では、次のとおり、転籍の場合に転籍前の法人から受ける「給与較差補 てん金」を給与所得とする取扱いを明らかにしている。 所得税基本通達 35-7(転籍前の法人から支給される較差補てん金) 過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金は、法第 35 条第 3 項第 2 号に 規定する公的年金等となるのであるが、転籍者(他の法人に転籍した使用人をいう。)に対 し転籍前の法人から転籍後の法人との給与条件の較差を補てんするために支給される較差 補てん金(転籍後の法人を経由して支給されるものを含む。)は、法第 28 条《給与所得》 に規定する給与等に該当することに留意する。 転籍の場合の給与較差補てん金を給与所得として取扱う理由として、その性格は、転籍 後の法人における勤務の対価の一部と認められる上、その支払が転籍後の法人を経由して 支給される場合には、その較差補てん金も当然に給与所得に含まれることをその根拠する 旨の説明がなされている35 では、給与較差補てん金が、転籍後の法人を経由して支給される場合において、転籍前 の法人から転籍後の法人へのその交付について、法人税法上どのように考えことになるの か。法人税の基本通達では、出向の場合の給与較差補てん金の取扱いは明らかにされてい るものの36、転籍の場合についての取扱いは明らかにされていない37 転籍前の法人が転籍後の法人に対して交付する給与較差補てん金は、それを受ける転籍 者が給与所得とされることから転籍前の法人においても給与とする、転籍者から役務提供 34 土田道夫『労働法概説』174 頁(弘文堂・平成 20 年) 35 河合 厚ほか共編『平成 19 年版 所得税基本通達逐条解説』224 頁(大蔵財務協会・平成 19 年) 36 法人税基本通達 9-2-47《出向者に対する給与の較差補てん》において、出向元法人の損金とする取扱いが 示されている。 37 転籍した使用人に対する退職給与を、転籍前からの在職年数を通算して支払うとした場合、転籍前の法人、 転籍後の法人におけるそれぞれの負担額が退職給与の額となるが、相手方である法人の支給すべき退職給与の額 の全部又は一部を負担した場合には、その負担額は相手方である法人への贈与、すなわち寄附金とすると取扱い が示されているが(法人税基本通達 9-2-52)、給与較差補てん金についての取扱いは定められていない。

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を受けていないから給与ではないとしても業務上必要な損金性のある支出とする、あるい は経済的利益の無償の供与として寄附金とするなどの取扱いが考えられる。 さらに、転籍前の法人が、直接、転籍者に対して支給する給与較差補てん金については、 既に労働契約が終了しており、かつ、役務提供を受けていない転籍者に対する支給となる が、この場合、転籍前の法人はそれを給与又は業務上必要な費用として損金とすることが できるのか、また、その支給を受ける転籍者は、転籍前の法人に対し役務提供をしていな いが、所得税基本通達に定められるとおり人的役務提供対価である給与所得とすることで よいのか、検討を要するものと考える。 第4節 グループ企業間報酬における問題の所在 ストック・オプションの権利行使益に係る所得区分の検討から、グループ企業間で支払 われる人的役務提供対価については、役務等を提供する従業員等からみた所得税法上の観 点と、その権利行使益を給付する法人からみた法人税法上の観点からの検討が必要であり、 それらの整合性を図ることが必要と考えられた。 また、特約店等のセールスマン及び従業員等が製造業者等から交付を受ける金品、及び 転籍者が転籍前の法人から支給を受ける給与較差補てん金など、一定のグループ企業から 支払われる人的役務提供対価についても同様のことがいえる。 ここまでにおいて取り上げたグループ企業間における人的役務提供対価について、判決、 法令、通達により明らかにされた取扱いの概略は、次の表 1 のとおりとなる。 〔表 1〕グループ企業間における人的役務提供対価の取扱い(判決・法令・通達) 区 分 対価受領者 (従業員等) 対価支払者 ( 法 人 ) 備 考 ( 根 拠 ) 子会社従業員等が受けるストック・オ プションの権利行使益 給与所得 明らかにされて いない 最高裁ストック・オプ ション給与判決 特 約店 等(注 1)の 従 業 員等 が製 造業者 等 から取扱数量等に基づき受ける金品 報酬として雑所 得(注2) 報酬として損金 算入 所基通 204-22 の 2、 措通 61 の 4⑴-14 転籍者が転籍前の法人から支給を受け る給与較差補てん金 給与所得 明らかにされて いない 所基通 35-7 (注)1 専ら 製 造業者 の製 品 等を取 り扱 う 特約店 等に 限 る。 2 特約 店等 の 従業員 等で あ り給与 所得 者 である こと か ら、事 業所 得 ではな く雑 所 得とし た。 対価受領者である従業員等にとって、給与所得とされる対価と雑所得とされる対価とに 区分されるが、これらを区分する具体的な基準は何か。 また、対価支払者である法人の取扱いについては、報酬とすることが定められている製

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造業者等が専らその製造業者等の製品等を取り扱う特約店等の従業員等に対しその取扱数 量等に基づき支出する金品(費用)を除き、法令、通達において明らかにされていない38

第二章 グループ企業間報酬の所得区分(役務提供者における考察)

第1節 最高裁昭和 56 年 4 月 24 日判決 最高裁昭和 56 年 4 月 24 日第二小法廷判決39(以下「最高裁弁護士顧問料判決」という。) は、弁護士が毎月定時に定額を受領する顧問料報酬の所得区分(給与所得と事業所得との 区分)を争点としたものであり、また、役務提供先から受ける対価について判断したもの で あ る こ と か ら 、 役 務 提 供 先 以 外 か ら 受 け る グ ル ー プ 企 業 間 報 酬 に つ い て そ の 射 程 等40 の検討が必要となるが、最高裁が、所得区分の考え方及び事業所得との対比ではあるが給 与所得のメルクマールを判示している点において注目される。 1 所得区分判定に当たってのスタンス 最高裁弁護士顧問料判決は、所得区分のあり方について、「租税負担の公平を図るため、 所得を事業所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣 旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。」と した上で、「弁護士の顧問料についても、これを一般的抽象的に事業所得又は給与所得のい ずれかに分類すべきものではなく、その顧問業務の具体的態様に応じて、その法的性格を 判断しなければならない…」とした。 このように、最高裁弁護士顧問料判決は、所得区分の判定に当たっての基本的スタンス (①所得税法が、所得区分を設け、その区分に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、 目的を考慮すること、②報酬の名称等により一般的抽象的に所得区分が定まるのではなく、 38 平成 18 年度改正で創設された「新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等」(法人税法 54 条)に 関する立法担当者の解説では、直接的な役務等の提供を受けていない子会社従業員等に係る新株予約権を対価と する費用は、純粋持株会社の場合を除いて損金とならない旨の説明がなされている(後掲(注 111)参照)。また、 転籍の場合に支給される給与較差補てん金については、転籍の経緯、補てん金の必要性等を勘案し、支払う妥当 性があれば受領者は給与所得となり、支払者(転籍前の法人)も給与とできる旨の見解が示されている(中野百々 造『出向と転籍の税務(改訂三版)』142 頁 大蔵財務協会・平成 20 年)。 39 民集 35 巻 3 号 672 頁。弁護士が各会社との間で顧問契約を締結し法律相談等に応じることにより得る定時、 定額の顧問料報酬について、①自己の法律事務所を有し、使用人を擁して特定の事件処理のみならず、法律相談 等、継続的に弁護士業務を営んでいること、②顧問契約は、各会社の法律相談等に応じるもので、具体的には、 自らの法律事務所において口頭又は電話にて意見を述べるものであるなどの事実を挙げた上で、顧問契約に基づ く業務の態様は、自己の計算と危険において独立して継続的に営む弁護士業務の一態様にすぎず、給与所得では なく事業所得に当たるとした。 40 最高裁ストック・オプション給与判決では、この最高裁弁護士顧問料判決が、「給与所得とは雇傭契約又はこ れに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」と した点について、「所論引用の判例は本件に適切でない。」として排斥している(前掲(注 19)参照)。

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具体的な労務及び所得の態様等の考察が必要であること)を明らかにしたものといえる。 2 所得税法が所得区分を設けた趣旨 所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって利子所得から雑所得までの 10 種類に分 類(所得区分)している。所得税法がこのように所得区分を設けるのは、所得がその性質 や発生の態様によって担税力が異なる41という前提に立って、公平負担の観点から、各種 の所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定め、それぞれの態様に応 じた課税方法を定めるためである42 人的役務提供対価の所得区分は、一般に、勤労性所得といわれる給与所得や退職所得と 資産・勤労所得といわれる事業所得や雑所得に区分される。 退職所得は、雇用関係等の終了の際の長年の勤務に対する勤続報償的給与であって、給 与の一部の一括後払の性質を有するものとされ、勤務に対する対価という点において給与 所得と異なるものではなく43、また、雑所得は、他の所得区分に該当しないいわゆるバス ケット・カテゴリーであって、事業所得との関係では事業性44の有無により区分される。 人的役務提供対価の所得区分における中心的な問題は、いずれも人的役務提供対価とさ れる給与所得と事業所得(又は雑所得)との区分がその中心をなすものであり、これらの 所得と「労務その他の役務又は資産譲渡の対価としての性質を有さないもの」とされる一 時所得とは、役務等の対価性の有無という最も基本かつ重要な点で相違するから、一時所 得との区分が争点となることは少ない45 3 給与所得の意義 所得税法(28 条 1 項)は、給与所得について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びに これらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」 41 金子 宏名誉教授は、所得を①勤労性所得(給与・退職所得等)、②資産性所得(利子・配当・不動産・山林・譲 渡所得等)、③資産勤労結合所得(事業所得)の 3 種類に大別した上で、勤労性が最も担税力が小さいとしている(前 掲(注 15)175 頁)。昭和 15 年の所得税法改正で、分類所得税が導入された際、資産性所得である不動産所得と配 当利子所得に対する税率は 10%、資産勤労所得である営業(事業)所得の税率は 8.5(又は 7.5)%、勤労所得の税 率は 6%とされていた(金子 宏「シャウプ勧告と所得税」、『所得課税の法と政策』17 頁 有斐閣・平成 8 年)。 42 金子 宏・前掲(注 15)174 頁 43 金子 宏・前掲(注 15)195 頁 44 「事業」とは「自己の計算と危険において利益を得ることを目的として継続的に行う経済活動」であり、雑 所得との区分における事業性は、各種の要素を総合的に勘案した上、最終的には「社会通念」によって「事業」 に該当するかどうか判断する以外に方法はない(植松守雄(注解所得税法研究会)編『四訂版 注解所得税法』428 ~429 頁 大蔵財務協会・平成 17 年)。 45 一時所得と退職所得の区分を争点とするものに福岡地裁昭和 62 年 7 月 21 日判決(訟月 34 巻 1 号 187 頁)が ある。福岡地裁は、電力会社との委託検針契約に基づき検針員が受給した委託手数料は、給与所得ではなく事業 所得に該当し、その委託契約の解除に伴って検針員が電力会社から受給した解約慰労金及び厚生手当金は、特別 な合意に基づいて支払われるいわゆる所得源泉のない所得として、退職所得ではなく一時所得に該当すると判示 し、課税庁の処分を是認した。

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と規定している。このように、所得税法は、給与所得について、俸給、給料、賃金、歳費、 賞与など46、給与所得とされるものを例示列挙した上で、「これらの性質を有する給与に 係る所得」をその範囲として規定している。 したがって、人的役務提供対価の給与所得該当性は、「これらの性質を有する給与に係る 所得」に含まれるものの範囲を明らかにすることが重要となるが、それは、給与所得とし て例示列挙された俸給、給料、賃金等の性質やそれらに係る役務等の提供の態様を明らか にする必要があり47、それは、結局のところ、今日までになされた多くの人的役務提供対 価の所得区分に関する判決をよりどころとして、給与所得と判断された対価の性質や役務 提供の態様等についての指標(メルクマール)を明らかにすることにある。 金子 宏名誉教授は、給与所得について、前述の最高裁弁護士顧問料判決を掲げた上で、 「勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用関係またはそれに類する関係において 使用者の指揮・命令のもとに提供される労務の対価を広く含む概念である。非独立的労働 ないし従属的労働の対価48と観念してもよい。」とされる49 なお、給与所得には、国会での法案作成やその審議を行う国会議員の役務等の対価であ る歳費が含まれており、また、法人との委任契約50(又は準委任契約)に基づきその法人 の経営に関する事項の決定と執行を行う取締役(法人役員)の役務等の対価である報酬(役 員給与)も含まれる51など、その対価には、指揮命令に服するというよりは一定の裁量権 をもった役務提供によるものが含まれるが、これらも広い意味での非独立的ないし従属的 46 広辞苑によると、俸給とは、「公務員に対して支給される給与。広く会社・銀行などの勤労者に対する給与」、 給料とは、「使用人・労働者などに対してその雇い主が支払う報酬」、賃金とは、「労働者が労働を提供することに よってうけとる報酬。労働力の価値を貨幣で表したもの」、歳費とは、「衆参両院の議長、副議長および議員に毎 年給せられる金銭」、賞与とは、「官庁・会社などで 6 月・12 月などに毎月の給料とは別に支給する金銭。ボーナ ス」とされている。 47 水野忠恒教授は、「俸給・給与は精神的労働の対価、賃金は肉体的労働の対価、歳費は国会議員の職務の対価、 賞与は一時的な給与である」とした上で、「給与所得とは、『これらの性質を有する給与に係る所得』であるとさ れるので、名称による区別はあまり意味がない。むしろ、給与の性質とはどういうものかが重要である」とされ る(水野忠恒『租税法(第2版)』178 頁 有斐閣・平成 17 年)。 48 酒井克彦教授は、給与所得を所得税法上独立の所得分類としている意義について、「従属的な立場で提供され る労務又は役務の提供に脆弱性が認められることから給与所得控除などでの一定の配慮がなされている点や、独 立した事業者とは異なり非独立的な地位において提供する労務・役務提供の対価であることから損失の発生の虞 がないとして損失による担税力減殺を考慮する必要のない点にこそ見いだすことができると思われる。」とした上 で、「このことを前提として考えると、強調されるべきメルクマールは、労務又は役務の提供が非独立的ないしは 従属的な地位において行われたものであるか否かに存するということができ」ると説示される(「給与所得の意義 としての非独立的な立場からの労務提供対価-所得区分を巡る諸問題-」月刊税務事例 38 巻 3 号 53 頁)。 49 金子 宏・前掲(注 15)188 頁 50 民法 643 条《委任》。委任は、雇用・請負とともに労務提供契約の一種をなすが、雇用のように労務それ自体 の供給を目的とする契約ではなく、一定の事務を処理するための統一的な労務を目的とする。したがって、労務 の供給はその事務処理のための単なる手段にすぎず、その目的の範囲内において受任者に多少の自由裁量権があ る点で雇用と異なる(遠藤厚之助『別冊法学セミナー№186 基本法コンメンタール債権各論Ⅰ(第 4 版)』200 頁 日 本評論社・平成 17 年)。 51 前橋地裁昭和 53 年 7 月 13 日判決(訟月 24 巻 9 号 1857 頁)

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な役務等の対価に含まれるとされる52 4 最高裁弁護士顧問料判決における給与所得のメルクマール 最高裁弁護士顧問料判決は、事業所得と給与所得との区分についての「一応の基準」と した上で、事業所得は、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有 し、かつ反覆継続して遂行する意志と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる 所得」であるとし、他方、給与所得は、「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の 指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所 得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を 受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるもの であるかどうかが重視されなければならない。」と判示した53 このように、最高裁弁護士顧問料判決は、給与所得のメルクマールとして、①雇傭契約 又はこれに類する原因に基づくものであること、②使用者の指揮命令に服した労務の対価 であること、③使用者から受ける給付であること、また、④給与支給者との関係において、 何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的な労務等の提供による対価で あることを挙げている。 この給与所得のメルクマールは、前述のとおり弁護士の顧問料報酬の所得区分を念頭に 置いたものであること、昭和 56 年の判決であり、その後に出現した新たな雇用形態による 役務等の対価やストック・オプションなどのグループ企業間報酬については考慮し得ない ものともいえるが、事業所得との対比において、給与所得に見られる顕著な性質や役務等 の態様について最高裁として判示したものであり、この最高裁弁護士顧問料判決は、その 52 佐藤英明教授は、「非独立的ないし従属的労働の対価」について、「従属的」が「使用者の指揮命令に服する」 ことを意味し、「非独立的」が「自己の危険と計算によらない」という意味に使われるとした上で、「従属性」と いう要素は、それが明瞭であれば給与所得に該当するという結論を導きやすくするが、大学の非常勤講師の勤務 形態のようにそれがあまり明瞭でないとしても、それだけでは給与所得であることを否定する要素にはならず、 他方、「非独立性」とは、収入の稼得形態に関する基準であって、経済活動から生じる不利益、損失等を労務提供 者が負うか否かという判断基準であり、事業所得や雑所得との区分において決め手となるのはこの「非独立性」 の有無であるとした上で、国会議員の歳費や会社役員の報酬について、従属性(本会議や各種の委員会の開催は 個々の議員では決められないこと、会社の代表者には会社法制の義務付ける行動が求められる。)と最低限の非独 立性(国会議員としての政治活動に多額の支出を要し、その支出の有無や金額を決定しているのは議員本人であ ろうが、それらの支出は、国会議員としての地位を維持し又は次回の選挙後もそれを維持し続けるための支出と は言い得ても、歳費と具体的に対応する「費用」とは言い難いものと考えられること、会社役員の勤務は、会社 の経営状況が悪く給与の支払ができないというのは別論として、あらかじめ定められた役員報酬の額を勤務内容 にかかわらず受け取り得るものである。)を有しているとされる(「給与所得の意義と範囲をめぐる諸問題」、金子 宏編『租税法の基本問題』401~408 頁 有斐閣・平成 19 年)。 53 玉國文敏教授は、「このような一般抽象的な定義づけから、直ちに事業所得と給与所得のイズレに該当するか を判断することは必ずしも容易でない。」とし、「本判決が採用している一般的基準がそのまま事業所得ないし給 与所得の判定に際してのオール・マイティーとなり得るかについては、疑問の余地がないわけではない。」と指摘 されている(「事業所得と給与所得の区別」別冊ジュリスト 120 号 52 頁)。

参照

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