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グループ企業間報酬の費用控除と源泉徴収(報酬支払者における考察)

ドキュメント内 グループ企業間報酬の所得区分と費用控除 (ページ 37-53)

第1節 法人税法における人的役務提供対価の控除規定

1 損金算入に関する通則

法人税法 22 条 3 項は、損金の額に算入すべき金額について、法人税法に別段の定めがあ るものを除き、売上原価、完成工事原価等の原価の額及び販売費、一般管理費その他の費 用の額並びに損失の額で資本等取引以外の取引に係るものを掲げ、また、同条 4 項は、前 記 3 項に掲げる額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるも のとする。」と規定している。

そして、内国法人が支払う給与については、別段の定めとして、「役員給与の損金不算入

(法人税法 34 条)」、「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入(同法 35 条)」及び「過 大な使用人給与の損金不算入(同法 36 条)」の規定が設けられているところ、これらは、

いずれも内国法人が、その役員又はその役員と特殊関係にある一定の使用人に対して支給 する給与について定めた規定であり、給与のうち、一般の使用人に対する給料や退職金に ついては、別段の定めが設けられておらず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準 に従って計算することとなる。

この点について、吉牟田 勲教授は、一般の使用人は事業主と利害相対立した立場にある ので、法人税法は、その給料や退職金などの人件費について企業会計の計算をそのまま認 めることとしていると説明されている107

2 役員給与に関する規定

法人税法 34 条は、①内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与、次節で検討 を加える一定の新株予約権によるもの、使用人兼務役員の使用人としての職務に係る給与 及び下記③の適用があるものを除く。)のうち、定期同額給与、事前確定届出給与及び一定 の要件に該当する利益連動給与のいずれにも該当しないものの額、②内国法人がその役員 に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額(①又は次の③の適用がある ものを除く。)、③内国法人が、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによりその 継続性(適格分社型分割)がある(金子 宏・前掲(注 15) 362 頁)ことから、継続して資産を保有しているもの とみなすものである。このように、法人税法では、企業分割などの企業組織再編成において実態に即した手当を 行っている。このことを所得税の所得区分について考えてみると、グループ企業間における一定の報酬基準のも とそのグループ企業内における役務提供に基因して受けるものは、それが所属先企業以外から受けるものであっ ても、グループ企業を一つの組織とみること等により、従業員等の所得区分の判定を行うような法令上の手当な ども考えられる。

107 吉牟田 勲『新版 法人税法詳説-立法趣旨と解釈』207 頁(中央経済社・平成 9 年)

役員に対して支給する給与の額について、いずれも損金の額に算入しない旨規定している。

このように、法人税法は役員給与の支払について、別段の定めを設け、その損金算入に 一定の制限を行うこととしているが、これらの規定は、いずれも「内国法人がその..

役員に 対して支給する給与」についての規定であって、子会社等の役員などグループ企業の役員 に対する給与等の支払について法人税法は特に規定を設けていない。

3 グループ企業間報酬に関する規定

グループ企業間報酬については、法人税法において明文規定が設けられておらず、法人 税法 22 条 4 項により「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」108に従った計算に よることになると考えられるところ、ストック・オプションについては、平成 17 年 12 月 27 日付で公表された「ストック・オプション等に関する会計基準」において、その適用の 範囲の考え方として、子会社の従業員等に親会社株式を原資産とした株式オプションを付 与する取引についての検討内容が示されている109

それによると、子会社従業員等に親会社株式オプションが付与された場合、これに対応 して子会社従業員等から追加的に提供されると考えられるサービスの直接の受領者は子会 社であって親会社ではないが、親会社は子会社に対する追加的なサービス提供を通じて、

親会社自身の子会社に対する投資の価値を結果的に高めることを期待しているものと考え られ、このように考えると、親会社が付与する親会社株式オプションと子会社従業員等が これに応じて追加的に提供するサービスとの間にも対価関係を認めることができるから、

親会社の個別財務諸表において費用(株式報酬費用)として計上することとされている110。 このストック・オプション等に関する会計基準の整備等に対応して、平成 18 年度の税制 改正で法人税法 54 条として「新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等」が創 設されており、次節ではこの規定の内容について検討を加え、さらに、前章で所得区分の 検討を行った製造業者等が特約店等のセールスマン又は従業員等に対し交付する金品や転 籍や出向の際の給与較差補てん金を題材として、グループ企業間報酬等に係る法人税法の

108 金子 宏名誉教授は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、アメリカの企業会計における「一 般に承認された会計原則」に相当する観念であるとし、その中心となるのは、企業会計原則、中小企業の会計に 関する指針や会社法及び金融商品取引法の計算規定等であるが、それに止まらず、確立した会計慣行を広く含む と解すべきであるとしている(前掲(注 15) 257 頁)

109 ストック・オプション等に関する会計基準 24 項、ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針 22 項、62~66 項

110 豊田俊一「『ストック・オプション等に関する会計基準』の解説」(JICPAジャーナル 610 号 57 頁)。なお、

子会社の個別財務諸表における会計処理は、①子会社の報酬制度として位置付けられている場合は、子会社従業 員等から提供されたサービスの消費を費用計上(給料手当)し、同時に、報酬の負担を免れたことによる利益を特 別利益(株式報酬受入益)として計上することとされ、②子会社の報酬制度として位置付けられていない場合は、

会計処理を要しないこととされている(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針 22 項)

基本的な考え方について検討を加えることとする。

第2節 グループ企業間報酬に関する法人税の取扱い

1 新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等

平成 18 年度税制改正で創設された、「新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特 例等」は、ストック・オプション費用等の取扱いを定めたものである。この規定は、グル ープ企業間報酬としてのストック・オプション費用について規定したものではないが、そ の規定振りから、法人税法における人的役務提供対価の費用控除についての基本的な考え 方が明らかにされている。

⑴ 新株予約権を対価とする費用の損金性

法人税法 54 条 1 項は、新株予約権を対価とする費用について、次のとおり規定している。

「内国法人が、個人から役務の提供を受ける場合において...................

(傍点加筆)、当該役務の提供に 係る費用の額につきその対価として新株予約権(当該役務の提供の対価として当該個人に 生ずる債権を当該新株予約権と引換えにする払込みに代えて相殺すべきものに限る。)を発 行したとき(カッコ書省略)は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他 所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の政令で定め る所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事 由(以下「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものと して、この法律の規定を適用する。」

このように、法人税法 54 条 1 項は、その冒頭において「内国法人が、個人から役務の提........

供を受ける場合において...........

」と明記することにより、個人から役務の提供を受けることが、

この規定が適用される前提であることを明らかにしている。

⑵ 親会社が子会社の従業員等に親会社の新株予約権を直接付与する場合

法人税法 54 条 1 項の創設に関し、その立法担当者は、新株予約権の発行が役務の提供の 対価であることがこの制度の適用の前提となり、その発行が役務の提供の対価でない場合 にはそもそも当然に損金の額に算入する余地はないとし、さらに、親会社が子会社の従業 員又は役員に親会社の新株予約権を直接付与する場合について、その従業員又は役員から その親会社に役務の提供があったかどうかが、税務上の費用となるかどうかの判断基準と なるものと考えられるとした上で、この役務の提供は、基本的には直接的な役務の提供を 前提としているものであり、例えば親会社がいわゆる純粋持株会社の場合など、親子会社 が事実上一体となっている場合には、子会社の従業員又は役員から親会社に対する役務の

提供があったといえる場面もあるとの説明を行っている111

この立法担当者の説明内容から、「個人からの役務の提供を受ける場合」とは、あくまで もその個人からの直接的な役務の提供を受けることを指しているといえ、従って、法人税 法においては、親子会社でも純粋持株会社以外の場合には、子会社に対する役務等の提供 が、間接的に親会社に貢献するとしたとしても親会社に対する役務の提供がなされたこと にはならないものと考えていることは明らかである112

⑶ ストック・オプション費用の考え方

親会社が自社の従業員等に対して付与したストック・オプションに係る費用は、その権 利行使時において費用控除できるところ、親会社が子会社従業員等に対して付与したスト ック・オプションに係る費用は、直接的な役務提供を受けない者に係る支出として、一般 には、子会社に対する寄附金(子会社従業員の子会社に対する役務提供に係る費用の親会 社負担)、又は子会社従業員に対する寄附金として処理されるものと考えられる。

この親会社が負担したストック・オプション費用について伊藤雄二氏は、OECDにおける 議論において、ストック・オプション契約は、法律的には、親会社と子会社従業員の役務 提供契約113及び親会社と子会社の役務提供契約114の2つから構成とされていると位置づ けられているとし115、その考え方の根底には、ストック・オプションを付与する親会社に は、子会社の従業員の役務提供を通じて子会社がメリットを享受しているという関係が存 在するとの認識があると思われ、そうすると、親会社がストック・オプション費用を負担 することは、本来、子会社が負担すべき費用を親会社が立て替えた上でその後その回収を 放棄したに等しいから、無償取引に該当し、寄附金となる可能性が高いとされる116。 親会社が負担するグループ企業間報酬に係る費用の考え方は、その報酬制度の趣旨や内 容により区々あろうが、ストック・オプションは、その付与対象従業員等がグループ企業 内に留まり精勤が継続されることを目的するグループ企業全体の報酬制度といえるので、

111『平成 18 年版 改正税法のすべて』346 頁(大蔵財務協会・平成 18 年)

112 川田 剛教授は、最高裁ストック・オプション給与判決の問題点について、一般従業員の場合には、最高裁が いうように結果的に親会社の利益に貢献することになっていたとしても、親会社への役務提供と考えることは不 可能である旨述べられている(前掲(注 26) 46 頁)。子会社の代表取締役の役務はその代表取締役としての職務を 遂行であって、それを親会社に対する役務提供とするのは相当でないと考える。

113 子会社の従業員が子会社の業績(株価)を向上させる見返りに親会社が子会社従業員にストック・オプション を付与する契約

114 親会社が子会社の従業員を使って子会社に対してその業績(株価)を向上させるという役務を提供し、それに 対して子会社が対価を支払うという契約

115 OECD report「Employee Stock Option Plans : Impact on Transfer Pricing」

116 「無償取引と移転価格税制」(税大ジャーナル 2 号 87 頁 税務大学校・平成 17 年)。なお、伊藤雄二氏は、他 の考え方として、親会社は親会社の投資価値を高めるようなサービスの提供を子会社の従業員から受けることを 期待して、子会社の従業員とストック・オプション契約を結ぶのであり、ストック・オプションを付与するのは 役務提供の対価であるとの考えも示されている。

ドキュメント内 グループ企業間報酬の所得区分と費用控除 (ページ 37-53)

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