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米国におけるグループ企業間報酬の取扱い

ドキュメント内 グループ企業間報酬の所得区分と費用控除 (ページ 53-59)

この章では、ストック・オプションを中心として、米国におけるグループ企業間報酬の 税務上の取扱いについて整理する。

第1節 ストック・オプションの権利行使者に対する課税

内国歳入法(以下「IRC」という。)83 条160は、役務提供の成果に関連して財産の移転 があった場合(Property transferred in connection with performance of services.)の 課税上の取扱いについて定めており、ストック・オプション(非適格)についてもこの規定 が適用される。

1 収入金額とその計上時期

IRC83 条(a) は、一般的な取扱いとして「役務提供の成果に関連して、財産が役務提供 を 受 け た 者 以 外 の 者 に 対 し て 移 転 さ れ た 場 合 に は 、 ⑴ そ の 財 産 の 公 正 市 場 価 額 (fair market value)が、⑵もしあるとすれば、その財産に支払われた額を上回る額は、その財産 に対して受益的利益をもつ者の権利が、初めて譲渡可能161となったとき、あるいは、権利 失効の実質的な危険162がなくなったときのいずれか早い時期に、その役務を提供した者の 総所得に算入するものとする。」と規定している。

すなわち、役務提供の対価として株式を交付された場合で、その交付された株式に譲渡 制限が付されていれば、その譲渡制限の解除時において、その株式の公正市場価額に相当 保し、徴税手続を簡便にしてその費用と労力とを節約し得るのみならず、担税者の側においても、申告、納付等 に関する煩雑な事務から免がれることができる。また徴収義務者にしても、給与の支払をなす際所得税を天引し その翌月 10 日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところは全くなしとはいえない。されば源 泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であって、公共の福祉の要請 にこたえるものといわなければならない。」とした上で、「源泉徴収義務者の徴税義務は憲法の条項に由来し、公 共の福祉によって要請されるものであるから、この制度は所論のように憲法 29 条 1 項に反するものではなく、ま た、この制度のために、徴税義務者において、所論のような負担を負うものであるとしても、右負担は同条 3 項 にいう公共のために私有財産を用いる場合には該当せず、同条項の補償を要するものでもない。」と判示している。

160 IRC 83 条について、川端康之「新規事業と税制-ストック・オプション税制の基礎構造-」租税法研究 25 号『租税法と企業法制』40 頁(有斐閣・平成 9 年)、渡辺徹也「ストック・オプションに関する課税上の諸問題

-非適格ストック・オプションを中心に-」税法学 550 号 70 頁(日本税法学会・平成 15 年)を参考とした。

161 譲受人の所有権について、権利失効の実質的な危険がなくなることにより譲渡可能となる(IRC83(c)⑵)

162 財産の完全な享受権について、将来にわたって実質的な役務提供の成果が条件づけられていると、権利失効 の実質的な危険を有することになる(IRC83(c)(1))

する金額が総所得に算入されることになり163、また、役務提供に関連してストック・オプ ションを付与され、権利行使価格を支払うことにより譲渡制限のない株式の交付を受けた 場合には、その株式の公正市場価格から支払った権利行使価格を控除した金額が総所得に 算入されることになる164

なお、IRC83 条(b)において、財産の移転がなされた時点での総所得の算入を選択するこ とができるとされているが、この選択をすると前述の(a)の規定は適用されず、財産につい て権利失効とされても、その際に控除することはできない。

また、適格ストック・オプションに関するIRC421 条が適用される取引165、公正な市場 価格を容易に確認できないオプション166については、このIRC 83 条は適用されない。

2 非適格ストック・オプションに対する課税

財務省規則 1.83-7 は、非適格ストック・オプションの課税(Taxation of nonqualified stock options.)について規定している。

従業員又は独立事業者の役務提供に関連して非適格ストック・オプションが付与された 場合において、オプションがその付与時において容易に確認できる公正市場価額を有して いれば、IRC83 条の(a)の規定が適用されることになり、その役務提供者は、同条で定めら れる金額の報酬を得ることになる。 また、オプションがその付与時に容易に確認できる公 正市場価額を有しないことによりIRC83 条 (a)が適用されない場合には、オプションの行 使時あるいは譲渡時において同条が適用されることになる。そしてオプションが行使され た場合、IRC 83 条(a)及び 83 条(b)は、その行使に従った財産の移転に適用され、従業員 又は独立事業者は、その移転時においてその規定で定められた金額の報酬を得ることにな る167

すなわち、従業員等が役務提供に関連して非適格ストック・オプションの付与を受けた 場合、そのストック・オプションが公正市場価額を有するのであればその価額をもって総 所得に算入されることになるが、有しない場合には、権利行使時等においてIRC 83 条(a) が適用され、取得した株式の価額と権利行使価額との差額が総所得に算入されることにな

163 IRC83(a)(1)

164 IRC83(a)(2)

165 IRC83(e)(1)。IRC 421 条が適用されるインセンティブ(適格)・ストック・オプションは、権利行使時ではな く、権利行使によって取得した株式の売却時において行使価格と売却時の市場公正価格との差額にキャピタルゲ イン課税がなされる。

166 IRC83(e)(3)

167 Reg.$1.83-7(a)

168

非適格ストック・オプションを親会社が子会社従業員等に付与したものであっても、役 務の提供に関連して子会社従業員がその権利を行使した場合には、このIRC83 条の規定が 適用され、従業員等が得る権利行使益は通常所得169として課税されることになる。

第2節 ストック・オプション付与法人の取扱い

1 役務の受益者における控除

IRC83 条(h)は、同条の規定が適用される財産譲渡等に際して、役務提供者の総所得に算 入された金額に相当する金額について、当該総所得に算入された年において、役務の受益 者(the person for whom were performed the services)においてIRC162 条のもとでの控 除を認めている170。このIRC83 条は、原則として、役務提供に関連して財産が移転した場 合の全般について適用され171、法人が従業員の役務提供に関連して財産を従業員に移転し た場合には、その役務の受益者である役務提供先の法人において費用控除の対象となる。

なお、IRC 83 条はその控除に関しIRC 162 条の適用を認めているに過ぎないため、控除 額の相当性等はIRC 162 条の問題として取り扱われることになる172

2 IRC 162 条における控除

IRC 162 条(a)(1)は、営業や事業上の費用控除の一般規定として、課税年度の営業や事業 のために支払った又は発生したすべての通常かつ必要(ordinary and necessary)な費用に ついて控除を認めることとし、実際になされた個人的な役務提供に対する給与や報酬は、

その合理的(reasonable)な金額に限って控除できることとされている。

すなわち、従業員等に対する給与については、固定給、歩合給、賞与などの形態にかか わらず、①通常かつ必要な費用であること、②合理的な金額であること、③現実に人的役 務が提供されていること、④実際に支払われるか又は発生していること、という各要件を

168 この取扱いは、最高裁ストック・オプション給与判決で示された我が国における非適格ストック・オプショ ンを行使する従業員等の課税上の取扱いと同様である。

169 米国には、我が国の所得税にある「給与所得」に対応するような特別な所得類型は存在せず、給与所得者に 対して他と異なった特別の課税方式が採用されているわけでもない(中里 実「アメリカにおける給与所得課税」、

前掲(注 149) 165 頁)

170 IRC83(h)

171 IRC83 条の適用を受けないものとして、①インセンティブ(適格)ストック・オプション、信託に関する財産 の移転又はIRC404(a)(2)の年金プラン、公正市場価額を算定できないオプションの移転、付与日の公正市場価額 を算定できるオプションの権利行使による財産の移転、IRC79 条適用のグループ生命保険が挙げられている

(IRC83(e))。

172 川端康之・前掲(注 160) 42 頁

満たすものに限り、その支払者において費用として控除できることになる173

従業員の賞与は、提供された人的役務に対し、他の給料などに加えて支払われ、かつ、

その金額が合理的な報酬を超えない場合に控除することができる174

人格の異なる別法人の費用は、自社にとって通常かつ必要なものではなく、また、人的 役務提供対価については現実に役務等の提供を受けたものではないので費用として控除す ることはできない。したがって、親会社は、役務の提供を受けない 100%所有の子会社の 従業員に支払う賞与等を費用として控除することはできない175

親会社が子会社従業員等に対し、その子会社における役務提供に関連してストック・オ プションを付与した場合、子会社従業員等が親会社に対する役務等を提供していないとす れば、親会社は子会社従業員のストック・オプション行使時において、費用控除すること はできないことになる。

3 IRC 482 条の適用

IRC482 条176は、「(法人格を有するかどうか、米国において設立されたものであるかど うか、連結申告をする要件を満たしているかどうか、を問わず)、同一の利害関係人によっ て直接又は間接に所有され又は支配される1772 以上の組織178、営業又は事業179のいずれ に対しても、財務長官又はその代理人は、脱税を防止し、あるいはそれらの事業の所得を 正確に算定するためにそれが必要であると認める場合には、それらの事業の間に総所得、

費用控除、税額控除、その他の控除を配分し、割り当て、又は振り替えることができる。

無体財産の譲渡(又は実施権の供与)の場合、その譲渡又は実施権の供与に係る所得は、そ の無体財産に帰属すべき所得に相当するものとする。」と定めている。

173 本庄 資『アメリカ法人税法講義』190 頁(税務経理協会・平成 18 年)

174 Reg.$1.162-9

175 本庄 資・前掲(注 173) 193 頁

176 IRC482 条については、川端康之「米国内国歳入法典 482 条における所得配分(一)-関係理論から見た「所 得創造理論」-」民商法雑誌 101 巻 2 号 230~238 頁を参考とした。

177 『支配される』とは、直接か間接か、法的に強制しうるかどうか、行使可能か行使されたかにかかわらずあ らゆる支配を含み、2以上の納税者が共同又は共通の目標若しくは目的を持って活動する結果生じる支配を含む。

決定要因は、その行使の形式や態様ではなく、支配の現実である。所得又は所得控除が恣意的に移転された場合 には、支配の推定が生じる(Reg.$1.482-1(i)(4))

178 『組織』とは、それが個人企業、パートナーシップ、信託、遺産財団、社団又は法人(それぞれ米国内国歳入 法又はその財務省規則において定義又は理解されているところによる)のいずれであろうと、設立、操業、又は営 業か事業の行為が行われる場所が何処であるかにかかわらず、また、それが国内の組織であるか外国の組織であ るか、免税の組織であるか、米国の連結所得税申告書を提出する関連グループのメンバーであるか、あるいは米 国の連結所得税申告書を提出しない関連グループのメンバーであるかにかかわらず、いかなる種類の組織も含む

(Reg.$1.482-1(i)(1))

179 『営業又は事業』とは,組織化されたものか又はどこで組織化されたか、個人所有のものか否か、また、当 該操業の場所にかかわらずあらゆる種類の営業又は事業活動を含む。報酬を得ての雇用は、雇用する営業又は事 業とは別個の営業又は事業を構成する(Reg.$1.482-1(i)(2))。

ドキュメント内 グループ企業間報酬の所得区分と費用控除 (ページ 53-59)

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