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大網、膵臓に播種病変を形成した盲腸原発消化管間質腫瘍(GIST)に外科的切除とメシル酸イマチニブによる術後補助化学療法を実施した犬の1例

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Academic year: 2021

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(1)

Note

Gastrointestinal stromal tumor of the cecum with

disseminated omental and pancreatic lesions

in a dog treated with surgical resection and

adjuvant imatinib mesylate chemotherapy

Hiroyuki Igarashi

1

, Kyoko Igarashi

1

Abstract

A 10-year-old female mongrel dog presented with abdominal distension. Physical, radiographic, and ultrasound

examina-tions detected an intestinal mass and ascites. Laparotomy revealed that the mass originated from the cecum and

disseminat-ed in the omentum and pancreas. Surgical resection of the mass and disseminatdisseminat-ed lesions was performdisseminat-ed. Histopathological

examination revealed the mass and lesions to be gastrointestinal stromal tumors (GISTs). Imatinib mesylate (10 mg/kg/sid)

was administered for 355 days postoperatively. The dog survived for > 855 days with no recurrence and metastasis.

Adju-vant chemotherapy with imatinib mesylate may be an effective treatment for GIST.

Key words : Adjuvant chemotherapy, GIST, Imatinib mesylate

1) Igarashi Animal Hospital, 551 Wakatsuki-higashijo, Nagano, Nagano, 381-0084, Japan Corresponding author : Hiroyuki Igarashi, Tel : 026-225-9326

E-mail address : [email protected]

(2)

大網、膵臓に播種病変を形成した

盲腸原発消化管間質腫瘍(GIST)に

外科的切除とメシル酸イマチニブによる

術後補助化学療法を実施した犬の1例

五十嵐宏之

1

,五十嵐恭子

1

 消化管間質腫瘍(Gastointestinal stromal tumor、以下 GIST)は消化管カハール介在細胞由来で、チロシンキナーゼ受 容体である CD117(KIT)の発現が特徴的な腫瘍である。その発生の一部には KIT 蛋白をコードする遺伝子である c-KIT

遺伝子変異が関与しているとされており、犬の GIST においても多くの症例で c-KIT 遺伝子変異が確認されている[13]。そ の特徴からヒトの GIST においてチロシンキナーゼ阻害薬であるメシル酸イマチニブの有効性が確認されており、近年では 犬の GIST においても同様にその有効性が報告されている[2,8]。犬において GIST は胃、小腸、大腸における発生が報告さ れており、その中でも盲腸での発生が多い。また原発巣以外に肝臓、大網、腸間膜リンパ節などに転移が起こることが報告 されている[5,7]。ヒトでは再発や転移のリスクについて、腫瘍サイズ、核分裂像数、発生部位、腫瘍破裂の有無などによる リスク分類がなされている[3,10,12]。そのリスク分類をもとに、ヒトでは高リスク群症例に対しメシル酸イマチニブによる術 後化学療法の実施により非実施群に対し無再発生存期間の延長が確認されているが、犬における術後化学療法の有効性を示 す報告はなされていない[1]。今回我々は大網、膵臓に播種病変を形成した腫瘍破裂を伴う盲腸原発 GIST に対し、外科的切 除とメシル酸イマチニブによる術後補助化学療法を実施し、良好な経過が得られているためその概要を報告する。  症例は雑種犬、10歳齢、未避妊雌、体重は11.65 kg であった。1 ヶ月前から食欲元気の低下と発熱を示し、他院にて腹水 の貯留を指摘された。詳細な検査は行われず、プレドニゾロン0.9 mg/kg、SID による内科治療が行われていたが症状の改 善が得られず当院を受診した。初診時には食欲廃絶、嘔吐が認められており、身体検査では腹囲膨満、左側心尖部において Levine Ⅳ/Ⅵの収縮期雑音が聴取された。全血球検査では強い左方移動を伴う好中球増多症(桿状核好中球3,416 /μl:基準 範囲<300 /μl、分葉核好中球43,920 /μl:基準範囲3,000 ~ 11,500 /μl)、非再生性貧血(ヘマトクリット値33.4%:基準範 囲37 ~ 55%)、血液化学検査では低アルブミン血症(2.2 g/dl:基準範囲2.6 ~ 4.0 g/dl)、低血糖(46 mg/dl:基準範囲75 ~ 128 mg/dl)、CRP(6.9 mg/dl:基準範囲≦0.7 mg/dl)の上昇が認められた。腹部超音波検査において重度の腹水貯留と 消化管由来と思われる8 cm 大の腫瘤病変、由来の特定できない1.5 cm 大の腫瘤病変を認めた。腹水検査では、比重1.032、 蛋白4.0 g/dl と滲出液であり、大量の連鎖球菌と変性好中球が認められた。以上から、消化管腫瘍の穿孔による細菌性腹膜 炎とそれに伴う敗血症と判断し、同日開腹手術を実施した。開腹時、2.5 L 程の混濁し臭気の強い化膿性腹水が貯留していた。 大型の腫瘤は盲腸より発生しており周囲を大網に被覆されていた。その他に大網の一部に1.5 cm 大、膵臓右葉領域に1 cm 大の腫瘤病変を認めた(図1)。盲腸腫瘤は盲腸壁より外方増殖性に腫瘤を形成しており、回腸、結腸とは連続していなかっ たため盲腸切除のみで摘出可能であった。大網部、膵臓右葉の腫瘤病変も同時に切除を行なった。その他、腹腔内には病変 は認められなかった。生理食塩水による十分な洗浄ののち閉腹した。腹水は細菌培養検査を実施し、α-Streptococcus が検出 され、薬剤感受性に伴い抗生物質の投与を行なった。術後低血糖は改善し、その後も低血糖を示すことはなかった。摘出組 織の病理組織学的検査の結果、盲腸腫瘤は未分化な間葉系細胞の増殖から成り立ち、腫瘍細胞は免疫化学染色にて抗ヒト CD117(KIT)ポリクローナル抗体(Dako, code A4502)に陽性であり、GIST と診断された(図2)。核分裂像数は12/50

1)いがらし動物病院 〒381-0084 長野県長野市若槻東条551

連絡責任者:五十嵐宏之 いがらし動物病院 〒381-0084 長野県長野市若槻東条551 電話番号:026-225-9326 FAX 番号:026-225-9327

メールアドレス:[email protected]

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High-Power Field(以下 HPF)であった。腫瘍細胞は漿膜面を超えて浸潤が認められた。また大網、膵臓右葉腫瘤におい ても同様の腫瘍細胞の増殖が確認され、GIST の播種性病変と診断された。  術後活動性も改善し、全身状態は良好であったが第4病日腹水の再貯留を認めた。第5病日、腹水中に糞便成分が認められ、 縫合部の裂開による腹膜炎が疑われたため同日再度開腹を行った。縫合部は裂開しており、腹腔内に少量の糞便成分の漏出 が認められた。裂開部のトリミングののち再度縫合閉鎖を行い大網の一部を被覆し、洗浄ののち閉腹した。再手術後全身状 態は改善し、腹水貯留も認められず、第14病日退院した。  本症例では核分裂像数、腫瘍サイズ、腫瘍破裂とヒトの GIST における高リスク因子が多数認められていること、手術時 に既に転移病巣が認められていることから、術後化学療法としてメシル酸イマチニブ(Veenat、NATCO、India)10 mg/ a c b 図1.開腹時肉眼所見 a.盲腸部腫瘍の術中所見。腫瘍は大網に被覆されていた。腫瘍の穿孔による細菌性腹膜炎により腹 腔内には腹水が貯留していた。b.大網部に認められた腫瘤。腫瘤から周囲 2 cm の大網を含めて腫瘤 切除を行った。c.膵臓右葉領域に認められた腫瘤。1.5 cm のマージンを確保し膵臓部分切除を行った。 図2.盲腸部腫瘤の病理組織学的所見 a.未分化な間葉系細胞の増殖が認められた。(HE 染色、200倍)、b.KIT に対する免疫組織化学染 色において腫瘍細胞は陽性を示した。(抗 KIT 免疫組織化学染色、200倍)

(4)

kg、SID で第27病日より投与開始した。メシル酸イマチニブの投与による副作用は確認されず継続的に投与を行なった。 その後第357病日まで再発、遠隔転移は認められず経過が良好であったためメシル酸イマチニブの投与を終了した。第855日 現在、再発遠隔転移は認められず良好な経過が得られている。  犬の GIST は再発率54%、転移率27%といった報告がなされている[7,11]。しかしながらその予後因子についてはまだ明確 ではない。ヒトの GIST では様々なリスク分類がなされており、現在では腫瘍サイズ、核分裂像数、発生部位、腫瘍破裂の 有無などにより分類を行う Modified Fletcher 分類(表1)が再発高リスク群を他のリスク群から効率的に選択する分類法 として有用とされている[10]。その分類の中でも本症例のように腫瘍被膜破裂症例では再発がほぼ必発であるとされてい

る[10]。また Hanazono らの報告では、ヒトの GIST のリスク分類である Fletcher 分類を犬の GIST に適応したところ、転

移の認められた全ての症例が Fletcher 分類における高リスク群に分類されたとの報告がある[6]。このことから犬の GIST

においてもヒトでのリスク分類が再発、転移の判断に応用できる可能性が示唆されている[6]

 ヒトの GIST では完全切除された GIST のなかで Fletcher 分類の高リスク群あるいは腫瘍破裂を認める症例に対しメシ ル酸イマチニブによる術後化学療法が推奨されている。GIST 症例に対し1年間のメシル酸イマチニブ投与を行なった群で は非投与群に比べ1年無再発生存率が有意に上昇している[1]。ヒトでは術後化学療法の実施期間についても評価がなされて おり、3年間投与群では1年間投与群に対し無再発生存期間と全生存期間の延長が確認されており、高リスク群では3年間の イマチニブの投与が推奨されている[9]。また補助化学療法終了後1 ~ 2年間での再発率の上昇が認められることから3年以上 の長期投与についても検討されているが現在のところ3年以上の投与の有効性を示す報告はなされていない[10]。またメシル 酸イマチニブの効果予測についてヒトでは c-KIT 遺伝子解析が有効であるとされており、特に exon11変異例では奏効率が 83.5%と有意にその有効性が報告されている[4]。犬の GIST に対してもヒトの GIST 同様にメシル酸イマチニブの有効性が 報告されている[8]。本症例においても Exon11の Sequence 解析において556番目アミノ酸近傍に6 bp の欠失変異が認められ ており、メシル酸イマチニブが奏功する可能性が高いと考えられた。犬においては現在術後補助化学療法の有効性を示す報 告はなされていないが、外科療法単独において術後に再発、転移を起こす症例は存在することから、人と同様に高リスク症 例では術後補助化学療法の実施を検討すべきではないかと考えられる。また、犬において術後補助化学療法を実施するにあ たり、その投与期間による効果の差異については報告がなく不明である。本症例では術後1年間の投与を行い休薬したが、 術後854日まで再発や転移は認められなかった。ヒトのように投与期間の延長がさらに再発率の低下や生存期間の延長に有 効であるかはさらに症例を重ね検討する必要があると考えられる。  本症例は Modiefied Fletcher 分類における腫瘍直径5 cm 以上、核分裂増数>10/50 HPF、腫瘍破裂ありと高リスク群に 分類される条件を多く満たしていることに加え、手術時に大網、膵臓に播種性病変が認められていることから再発、転移病 巣の発現のリスクが高いと考えられた症例であったが、長期間の無再発生存状態が得られた。このような良好な経過が得ら れた一因として、メシル酸イマチニブによる術後化学療法が有効であった可能性が考えられた。今後さらに症例を重ね、メ シル酸イマチニブによる術後化学療法の有効性やその実施期間に関する検討がなされることと、術後補助化学療法を適応す べき症例の選択に関わる犬におけるリスク分類の確立が進むことが期待される。 表1 Modified Fletcher 分類 リスク分類 腫瘍径(cm) 核分裂像数(/50HPF) 原発部位 超低リスク <2.0 <5 -低リスク 2.1 ~ 5.0 -中リスク <5.0 6 ~ 10 胃 5.1 ~ 10 <5 胃 高リスク - - 腫瘍破裂あり >10 - -- >10 ->5.0 >5 -<5.0 >5 胃以外 5.1 ~ 10 <5 胃以外

(5)

参考文献

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雅人、田浦保穂(2016):犬の消化管間質腫瘍(GIST)の臨床的特徴と c-KIT 遺伝子変異.日本獣医麻酔外科誌 47 (3):

参照

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