降雪地域にある石川県立中央病院歯科口腔外科における顎顔面骨骨折の臨床的検討
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(2) 2. 日口外傷誌 20:1-5,2021. 顎顔面骨折の様態も変化していくとされている。当院の位. 直接受診 8 例,他院紹介 38 例(歯科医院 15 例,他医療機. 置する石川県は,日照率の低い日本海側気候型で,その特. 関 23 例)であった(Figure 3) 。. 性が顕著に現れる冬期は,北西からの季節風により気温が. 4.受傷原因. 低く,雪の降る日が多い 。近年では北陸地方で記録的な. 受傷原因は転倒 59 例,交通外傷 21 例,転落 13 例,殴. 大雪がみられ多くの社会的被害を及ぼした。雪害には人的. 打 9 例,スポーツ 6 例,作業事故 2 例であった(Figure 4) 。. 被害の報告 2)もあり,地域の外傷様式を把握する上で,こ. 5.治療. れらの状況を検討する意義がある。整形外科領域の外傷で. 治療は観血的整復固定術 47 例,非観血的整復固定術 17. はこれら雪害による外傷の検討の報告は散見されるが,顎. 例,保存治療(顎間固定を除く)41 例,その他(他地域. 顔面領域において関連を検討した報告はない。これまでの. 居住のため転院など)5 例であった(Figure 5) 。. 1). 顎顔面骨骨折の統計検討の報告では,受傷原因として交通 事故と転倒が多いとされている。これらと降雪との関連を 検討する。. 考 察 当院は救急救命センターを有し,金沢市を中心に近隣の. 対象および方法. 地域を含め約 70 万人の医療圏に対応している。外傷の統 計的検討は地域性,病院や科の救急診療体制,または時代. 2012 年 1 月から 2017 年 12 月までの 6 年間に当科を受. 背景などにより特徴づけられる。当院が位置する石川県. 診し,顎顔面骨骨折と診断された 110 例(歯槽部単独,陳. は,全域が豪雪地域(豪雪地帯対策特別措置法に基づく). 旧例は除く)を対象とした。性差,年齢,受傷部位,受診. に指定され,雪害に対し防除や改善に努めている。降雪地. 経路,受傷原因,治療方法について診療録をもとに後ろ向. 域では雪害による人的被害として除雪作業時や転倒による. き調査を行った。またこれらの結果に基づき,冬季の受傷. 受傷が報告される。地域の外傷様式を把握する上で,これ. 状況について検討を行った。本研究は石川県立中央病院倫. らの状況を検討する意義がある。当院受診の顎顔面骨骨折. 理委員会の承認を受けて実施した(承認番号第 1582 号)。 結 果 対象期間の顎顔面骨骨折の患者は 110 例であった。 1.性差・年齢 男性 73 例,女性 37 例(男女比 2:1),年齢分布は 0 歳 ~ 93 歳であり中央値は 42 歳であった(Figure 1) 。 2.受傷部位 受傷部位は下顎骨骨折 93 例,中顔面骨骨折 7 例,中顔 面骨・下顎骨骨折合併 10 例であった(Figure 2) 。 3.受診経路 受診経路は院内紹介 64 例(救急部 50 例,他科 14 例),. Figure 2 Type of fractures. Figure 1 Age and gender distribution. Figure 3 Route to hospital visit.
(3) 2021 年 4 月 釜本宗史・他 降雪地域における顎顔面骨骨折の臨床的検討. 3. Figure 4 Cases of injury. Figure 5 Treatment of fracture. の 110 例について臨床的検討を行い,降雪との関連を検討. してまとめている報告も散見されるが,本検討において. した。受傷年齢については 20 歳代が 20 例(18.2%)と最. は,これらの受傷機転,エネルギーの大きさの違いから別. も多く,70 歳代では 8 例(7.3%)と減少していたが,20. の分類とした。それでも一般にいわれているように転倒が. 歳代から 80 歳代まで年代による大きな差はなかった。中. 最も多く,次いで交通外傷であり,近年の報告と近似して. 央値は 42 歳であった。これは後に述べる受傷原因が影響. いた 3-7)。交通外傷においてはこれまでの報告でも云われ. したと考える。顎顔面骨骨折の原因として代表的な交通外. ているように,自動車の安全装置や安全性能の充実などか. 傷や転倒外傷は男女比 2.0:1 と男性に多く認め,諸報告. ら受傷件数が全国的に減ってきている8)。転倒は高齢化社. と同様であった。男女比は男性の屋外での活動機会が多い. 会を背景に増加傾向にあるといわれている7)。石川県の総. ことに起因するといわれているが,近年の報告では,女性. 人口は 1,147,447 人(2017 年 10 月 1 日現在)で,65 歳以. の社会進出などによる行動の拡大により男女比は小さく. 上の高齢者人口は 326,574 人,高齢化率は 28.9%とされる。. なってきているとされる3)。受傷部位については院内他科. 日本の高齢化率は 28.1%であり全国平均に近い数値であ. との分担があり,報告する病院の特徴が反映される傾向が. る。総人口が減少していくなかで,増加し続けてきた高齢. ある。当院では頰骨骨折,鼻骨骨折は主に形成外科が担っ. 者人口は 2040 年にかけて更なる増加が見込まれ,特に 75. ている。そのため当科が扱った顎顔面骨骨折は下顎骨骨. 歳以上の後期高齢者の比率が高まっていくと見込まれてい. 折 93 例(84.5%) ,中顔面骨骨折 7 例(6.4%) ,中顔面骨・. る1)。今後,当院医療圏においても転倒による下顎骨骨折. 下顎骨骨折合併 10 例(9.1%)であった。90%以上が下顎. の 増 加 が 予 想 さ れ る。 治 療 は 観 血 的 整 復 固 定 術 47 例. 骨,及び下顎骨を合併した骨折であった。受診経路は院内. (42.7%),非観血的整復固定術 17 例(15.5%),保存治療. 紹介 64 例(53.6%:うち救急部 50 例(45.5%) ,他科 14 例. 41 例(37.3%),その他 5 例(4.5%)であった。これまで. (8.1%)),直接受診 8 例(7.3%),他院紹介 38 例(34.5%:. の諸家の報告と比して,保存治療を行った症例が多い。当. うち歯科医院 15 例(13.6%),他医療機関 23 例(20.9%)). 科では顎骨骨折治療は第一に手術治療を選択している。顎. であった。当院は救急救命センターを有していることか. 関節突起骨折については,関節頭部では非観血的整復固定. ら,多くの急性外傷はセンターを経由することとなってい. 術,または患者の合併疾患や社会的要因にて保存治療を. る。また,院外からは医科,歯科を問わず紹介を受けてい. 行っている。関節突起頸部骨折において近年では,手術ア. ることから地域での顎骨骨折を扱う診療科として認知され. プローチの見直しから頸部,基部とも観血的整復固定術を. ていると考えられた。また下顎骨骨折が多い理由として,. 行っているが,調査期間中の関節突起頸部骨折は非観血的. 特徴的な症状である開口障害や咬合異常ののみが生じた場. 整復固定術の方針としていた。今回は詳細な受傷部位につ. 合には歯科医院や当院を直接受診していたことが多いため. いて検討していないが,転倒による受傷,下顎骨骨折が多. と考えられた。受傷原因は転倒 59 例(53.6%),交通外傷. いことから,非手術例の顎関節突起骨折が多かったと予想. 21 例(19.1%),転落 11 例(10.0%),殴打 9 例(8.2%),. した。本検討で顎関節突起頸部骨折は 43 例を認め,この. スポーツ 6 例(5.5%),作業事故 4 例(3.6%)であった。. うち 28 例が保存治療(顎間固定を除く)を行っていた。. これまでの諸家の報告で “転倒” と “転落” を同じ原因と. 年齢や患者状態で考慮された結果ではあるが,これが諸家.
(4) 4. 日口外傷誌 20:1-5,2021. の報告と比して保存治療が多い結果となったと考える。こ. なかったのは降雪期間,冬季の活動量の減少や,雪害に対. れについては当科として再度,検討の必要があると考え. する防除が整備されている事などが影響しているかもしれ. る。以上の結果をもとにして当院の地域の気候的特徴であ. ない。石川県では “雪に強い住まいづくりマニュアル” を. る降雪の関連について検討した。県全域が豪雪地域に指定. 策定されており,豪雪の時以外は雪下ろしなどが不要な耐. されており,調査期間中も雪害による人的被害として除雪. 雪型住宅の整備が進められている1)。このため受診患者の. 作業時や転倒による受傷が複数報告されている2)。松枝ら. 多くが居住する金沢市を中心とした市街地では,雪下ろし. は,新潟県において除雪関連外傷の 187 例の検討をしてお. が必要な状況は少なくなっている。一方で,石川県南部で. り,受傷原因の中で転倒は 76 例(40.6%)と最も多く,. は積雪量も多く,地域の高齢化から除排雪は困難で作業は. 骨折は 68 例(36.3%)であった 9)。この中で転倒を原因と. 危険性を伴う。当院の医療圏が市街地を中心としている事. した受傷では体幹・脊椎,上肢,下肢が多かった。一方で. も,降雪が影響した受傷が少ない結果に反映したかもしれ. 顔面や頸部に関連した外傷は 22 例(11.8%)であった。. ない。顎顔面骨折の多くの原因の大部分を占めた転倒につ. 調査期間中の受傷状況を月別に検討を行った(Table 1,. いては,これらの転倒様式によって受傷状況は変わると思. Figure 6)。降雪期間である 12 月から 3 月において,特別. われる。厚生労働省は職場の転倒災害の中で,転倒を「滑. に受傷が多いことはなかった。1 月と 2 月は年間において. り 」,「 つ ま づ き 」,「 踏 み 外 し 」 の 3 種 類 に 分 類 し て い. 最も受傷が少ない期間であった。除雪に関連した受傷も認. る10)。本検討で受傷原因として最も多い転倒の原因につい. めなかった。先に述べたように受傷原因として多くを占め. て検討した(Table 2)。転倒受傷の 59 例のうち追跡不可. るのは転倒,交通事故であった。降雪が影響した受傷が少. であった 4 例を除き,55 例で転倒の原因を検討した。「滑. Table 1 Causes of injury by month. Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Oct. Nov. Dec.. Tumbling. Trafficaccidents. Falls. Blow. Sportsaccidents. Accidentat work. Total. 3 2 6 4 5 3 5 6 3 7 7 8. 2 0 2 5 2 0 2 3 1 0 1 3. 0 1 1 1 1 1 1 3 1 1 1 1. 0 1 0 2 1 1 0 3 0 0 0 1. 0 0 1 0 0 1 0 0 2 1 1 0. 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0. 6 4 10 13 9 6 8 15 7 9 10 13 n=110. Table 2 Causes of tumbling pattern Stumbling, Stepping off, Sliping. 30(54.5). indoor. in home. 7(12.6). in hospital. 3( 5.5). walking related. 18(32.7). snowfall related. 2( 3.6). outdoor Jan.. Figure 6 Cases of injury by month. Total(%) n = 55. Transient-loss of consciousness. 16(29.0). After drinking. 9(16.4).
(5) 2021 年 4 月 釜本宗史・他 降雪地域における顎顔面骨骨折の臨床的検討. 5. り」 , 「つまづき」 , 「踏み外し」にあたるものが 30 例(54.5%) ,. 月に金沢市でも記録的な大雪に見舞われ大きな混乱をもた. 一過性意識消失後の受傷が 16 例(29.0%),飲酒後の受傷. らした。このような例外的な期間においても改めて検討し. が 9 例(16.4%)であった。さらに「滑り」,「つまづき」,. たい。また,顎顔面骨骨折で多い受傷原因の一つである転. 「踏み外し」の群において屋内の受傷が 10 例(18.1%),. 倒について,「滑り」 ,「つまづき」,「踏み外し」で区別し. うち院内・施設内転倒が 3 例(5.5%)であった。屋外の. て検討していくことも必要と考える。. 受傷は 20 例(36.3%)で,うち降雪関連は 2 例(3.6%) であった。交通事故と降雪についての関連は不明である が,本検討において転倒受傷の 59 例のうち降雪関連の顎 顔面骨骨折は 2 例,全体の 3.6%と少なかった。小澤らは, 通常,積雪のない佐世保地区での降雪関連外傷について報 告している。全症例 117 例中,転倒を受傷機序とした例は 107 例,転倒しかけて捻った例が 3 例,合せると 94.0%を 占めた。全体のうち 55 例(47%)が骨折で,うち 31 例 (全骨折の 56%)が橈骨遠位端骨折を認めた。全例が雪道 で転倒し手を突いて発症していた 11)。降雪に関連する転 倒では「滑り」に相当する状況が多いことが予想される。 背側,または側方に転倒することによって受傷する。この ため雪に関連した転倒受傷では顎顔面骨骨折は生じにくい のではないかと考えられた。 結 語 今回われわれは,過去 6 年間に当院を受診した顎顔面骨 骨折 110 例について臨床的検討を行い,その概要を報告 し,降雪と顎顔面外傷との関連について分析した。今回の 検討において,当院の医療圏における降雪関連の顎顔面骨 骨折はごく僅かであった。降雪に関連する転倒, 「滑り」 では顎顔面骨折を生じる転倒様式には至らないことがわ かった。今回の検討期間には含まれていないが,2018 年 2. 本論文に関して,開示すべき利益相反はありません。 本論文の要旨は第 20 回日本口腔顎顔面外傷学会総会・学術大 会(2018 年 7 月,福岡市)において発表した。 文 献 1)石川県 HP.https://www.pref.ishikawa.lg.jp 2)総務省消防庁 HP「今冬の雪による被害状況等」.https:// www.fdma.go.jp/ 3)田中茂男,大島摩耶,他:当科にて入院加療を行った顎顔面 骨骨折 183 例の臨床的検討.日大口腔科学,45:1-8,2019. 4)冨永雄介,匠原 健,他:顎顔面骨折 147 例の臨床的検討. 日口外傷誌,16:25-31,2017. 5)坂田啓恵,杉本圭佑,他:当科における顎顔面骨折入院例の 検討.磐田市総合病院誌,21:16-22,2019. 6)高崎義人,萩原僚一,他:高崎総合医療センター歯科口腔外 科における新設から 5 年間の顎顔面骨骨折に関する臨床統計 的観察.日口診誌,29:55-59,2016. 7)釜本宗史,石井 興,他:姫路赤十字病院歯科口腔外科にお ける顎顔面骨折症例過去 20 年間の臨床統計的検討.愛院大 歯誌,50:465-471,2012. 8)小山貴寛,飯田明彦,他:顎骨骨折患者の長期臨床統計 —過 去 32 年間について—.新潟歯学会誌,39:49-54,2009. 9)松枝宗則:除雪外傷の発生状況の検討.整形・災害外科, 52:199-201,2009. 10)厚生労働省 HP.https://www.mhlw.go.jp/index.html 11)小澤慶一,萩原博詞,他:佐世保地区における降雪関連外傷 について.整形外科と災害外科,51:227-229,2002..
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