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<論説>刑訴法411条により原判決が破棄されるべき「著反正義」要件について--上訴の研究

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Academic year: 2021

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(1)刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 さ れ る べ き 「 著反正義」要件 について 上訴の研究. ご. 央. は じめ に. :羅. 笛聖謙析. 四. 検討. 五. おわ りに. 一. 本. 典. 辻. は じめ に. 我 が 国 の 刑 訴 法 は,憲 法 違 反 及 び 判 例 違 反 を 上 告 理 由 と定 め(刑 訴 法405 条),こ れ に該 当す る場 合 に は原 判 決 を破 棄 す る こ と と定 め て い る が(刑 訴 法410条1項. 。 但 し 「判 決 に影 響 を及 ぼ さな い こ とが 明 らか な場 合」 を 除. く),上 告 理 由が 認 め られ な い場 合 で も,所 定 の事 由 が あ り,原 判 決 を 破 棄 しな けれ ば 「著 し く正 義 に反 す る」(以 下 「著 反 正 義 」)と 認 め られ る と き は,最 高 裁 は,原 判 決 を破 棄 す る こ とが で き る(刑 訴 法411条)。 最 高 裁 は, 違 憲 審 査 権 を 行 使 す る終 審 裁 判 所 で あ る と と も に,最 上 級 裁 判 所 と して 法 令 解 釈 の 統 一一も任 務 とす る こ とか ら,憲 法 違 反 及 び判 例 違 反 が 上 告 理 由 と して 定 め られ て い る。 さ らに,最 高 裁 は,上 告 審 と して,訴 訟 当 事 者 の 具 体 的 救 済 の最 終 的保 障 とい う機 能 も要 請 さ れ て い る。 そ れ ゆ え,刑 訴 法 411条 は,所 定 の 上 告 理 由 が認 め られ な い場 合 で も,な お,最 高 裁 が 職 権 で 原 判 決 を 破 棄 し,具 体 的 事 案 に お け る正 義 を 実 現 す るべ き こ とを 定 めた の で あ る(1)。 1.

(2) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. も っ と も,刑 訴 法411条 は,各 号 所 定 の事 由 が あ るだ け で な く,著 反 正 義 を要 件 とす る こ とで,職 権 破 棄 が な され る範 囲 を 相 当 に限 定 して い る。 旧 刑 訴 法(大. 正 刑 訴 法)が. 絶 対 的 上 告 理 由(旧 刑 訴 法410条)に. 加 え て,現. 行 法 同様 に,判 決 に影 響 を 及 ぼす べ き法 令 違 反,甚 だ しい量 刑 不 当,再 審 該 当性,重 大 な 事 実 誤 認,原 判 決 後 の 刑 の 廃 止 を も上 告 理 由 と しつ つ(旧 刑 訴 法411条 乃 至415条),著. 反 正 義 を要 件 と して い な い こ と と比 べ る と,具. 体 的 事 例 に お け る 当事 者 救 済 の 範 囲 は,現 行 法 の 方 が 旧法 よ りも狭 くな っ た と も いえ る。 この よ うな 著 反 正 義 要 件 は,現 行 刑 事 訴 訟 に お いて 如 何 な る意 味 を 持 つ もの で あ るか 。 ま た,そ れ は,具 体 的 事 例 の 処 理 に あ た り,ど の よ うな 基 準 で 判 断 され るべ きか 。 この 問 題 は,「 『著 し く正 義 に反 す る』 と は,正 義 と い う絶 対 的 概 念 と著 しさ と い う相 対 的 概 念 とが 結 合 した一一 種不思議な言 葉 で あ り,い く らこれ を 言 い換 え て み て も,そ の 内容 が 格 別 明 確 にな る と い う類 の もの で はな い。」と の指 摘 に見 られ る と お り,具 体 的 な 適 用 例 を 積 重 ね て 検 討 され な けれ ばな らな い。 本 稿 は,数 多 くの 裁 判 例 の 中か ら,適 宜 選 別 され た もの を 分 析 し(2),そこ か ら最 高 裁 の 著 反 正 義 要 件 に対 す る一一 定 の 傾 向 を 読 取 り,今 後 の 方 向 付 け を試 み る もの で あ る。. (1)鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法(改 訂 版)」291頁(1990年,青. 林 書 院)。. (2)職 権 破 棄 の適 否 は,厳 密 に い え ば,最 高 裁 が 審判 した 全 て の事 件 で 問 題 とな り う る もの で あ るが,本 稿 で そ れ を全 て網 羅 す る こ とは 適 わ な い 。 そ れ ゆ え, 本 稿 は,重 要 な 裁 判 例 を 抽 出 す る た め の 手 段 と して,「TKC法. 律情報 デー タ. ベ ー ス」(判 例 デ ー タベ ー ス)及 び 「 第 一 法 規 法 情 報 総 合 デ ー タ ベ ー ス 」(判 例 体 系)を 利 用 し,「刑 訴 法411条 」 を キ ー ワ ー ド ・参 照 条 文 と して ヒ ッ トした 事 件 を 中心 に分 析 対 象 と した 。. 2.

(3) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 二. 刑 訴 法411条 の 法 意. 本 稿 の テ ー マで あ る著 反 正 義 要 件 につ いて 検 討 す る前 提 と して,刑 訴 法 411条 の 意 義 を 明 らか に して お く。 最 決 昭 和24年7月22日 集3巻10号1669頁. 刑 集3巻8号1369頁. 及 び最 決 昭 和24年10月20日 刑. は,本 条 につ い て,上 告 申立 理 由 を定 め た もの で は な く,. 刑 訴 法405条 所 定 の上 告 理 由が な くて も原 判 決 を破 棄 しな けれ ば著 し く正 義 に反 す る場 合 に,こ れ を 是 正 す るべ く,上 告 裁 判 所 が 職 権 で 破 棄 す る こ とを 可 能 に した規 定 で あ る と判 示 して い る。 旧刑 訴 法 と は異 な り,現 行 刑 訴 法 が 上 告 理 由を 憲 法 違 反 及 び判 例 違 反 に限 定 した こ とか ら,そ れ 以 外 の 場 合 に お いて もな お具 体 的 事 案 に お け る適 切 ・妥 当 な 事 件 処 理 及 び当 事 者 の 救 済 を 図 る た め に,原 判 決 を 破 棄 しう る場 合 を 拡 張 した の で あ る(3)。 本 規 定 か らは,原 判 決 に環 疵 ・過 誤 が あ って も著 反 正 義 と まで は いえ な い と き に は,原 判 決 を 維 持 しその ま ま確 定 させ る こ と もで き るた め,「 「大 岡裁 き』 的 効 用 を 発 揮 す る た めの 高 度 の 司 法 政 策 的 判 断 と して 活 用 され る 余 地 」 が 残 さ れ て い る(4)。 そ れ ゆ え,本 条 に よ る職 権 破 棄 は,当 事 者 の 具 体 的 救 済 と い う機 能 か ら要 請 され るの で はな く,最 高 裁 が 司 法 の 最 高 責 任 者 と して 司 法 全 体 の 公 正 の 水 準 を 維 持 し,国 民 の 司 法 に対 す る信 頼 を 維 持 す る た め の もの で あ る とす る見 解 も主 張 され る(5)。 確 か に,本 条 の 規 定 文 言 か らは,当 事 者 の 主 張 如 何 にか か わ らず 最 高 裁 が 職 権 で 破 棄 す べ き もの と され,当 事 者 の 具 体 的 救 済 と い う観 点 は捨 象 され て い る よ う に も思 わ れ (3)平 場 他[平 場 安 治]「 注 解 刑 事 訴 訟 法 ・下 巻(全 訂 新 版)」246頁(1983年,青 林 書 院 新 社),藤 540頁(1996年,青. 永 他 編[原. 田 國男]『 大 コ ンメ ンタ ー ル 刑事 訴 訟 法 ・第6巻 」. 林 書 院)。. (4)田 宮 裕 『刑 事 訴 訟 法(新 版)」493頁(1996年,有 (5)平 場(前 掲 注(3))『注 解 刑 事 訴 訟 法 」247頁 。. 3. 斐 閣)。.

(4) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. る。 しか し,最 判 昭 和30年9月29日. 刑 集9巻10号2102頁. に よ る と,最 高 裁. は上 告 人 の 上 告 趣 意 書 に包 含 され て いな い事 項 につ いて 常 に職 権 で 調 査 し な けれ ばな らな いわ けで はな く,実 際 上 も,当 事 者 は上 告 理 由 に加 え て 実 質 的 な主 張 を 刑 訴 法411条 所 定 の理 由 にか か ら しめ て い る こ と,上 告 審 の 判 文 上 も 「所 論 にか ん が み … … 」 との 表 現 を 前 置 して 職 権 審 査 を 加 え て い る こ と も考 え る と,本 条 は,実 質 的 に は上 告 理 由 に準 じた扱 いが な され て お り,当 事 者 の具 体 的救 済 と い う観 点 を 捨 象 す る こ と はで き な い で あ ろ う。 この こ と は,刑 訴 法411条 が上 告 に適 用 さ れ る だ け で な く,特 別 抗 告 に も準 用 され う る こ と(6)から も,裏 付 け られ る。 以 下,刑 訴 法411条 各 号 所 定 の破 棄 事 由 ご とに,具 体 的事 例 を分 析 す る。. 三. 破棄事由ごとの分析. 1.判. 決 に影 響 あ る法 令 違 反(1号). 判 決 に影 響 を 及 ぼす べ き法 令 違 反 と して,実 体 法 に対 す る もの と,手 続 法 に対 す る もの とを 区 別 して 分 析 す る。. (1)実 体 法 違 反 ①. 犯 罪 成 立 要 件 に関 す る誤 り. (6)最. 決 昭 和26年4月13日. 5号771頁,最. 刑 集5巻5号902頁,最. 決 昭 和37年2月14日. 31日 刑 集17巻11号2391頁,最 41年1月28日 和48年10月8日 頁,最. 刑 集38巻11号2984頁,最. 決昭. 刑 集28巻2号1. 大 決 昭 和63年2月17日. 刑集. 決 平 成7年6月. 刑 集37巻7号901頁=柏. 年 事 件 の 再 抗 告 に も本 条 の 準 用 を 認 め る。. 4. 決昭和. 判 時667号92頁,最. 刑 集44巻3号283頁,最. 。 最 決 昭 和58年9月5日. 刑 集15巻. 決 昭 和38年10月. 刑 集18巻6号399頁,最. 決 昭 和49年3月13日. 決 平 成2年4月20日. 28日 刑 集49巻6号785頁. 同 旨,最. 決 昭 和47年4月28日. 刑 集27巻9号1415頁,最. 決 昭 和59年11月20日. 人 事 件 は,少. 決 昭 和39年7月17日. 刑 集20巻1号1頁,最. 42巻2号299頁,最. 決 昭 和36年5月9日. 刑 集16巻2号85頁. 少女殺.

(5) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 無 罪 と され るべ き場 合 で あ るの に,犯 罪 成 立 要 件 の 解 釈 を 誤 って 有 罪 判 決 が 下 され た場 合,判 決 に影 響 を 及 ぼ し,か つ 著 反 正 義 と認 め られ う る。 原 判 決 が 犯 罪 構 成 要 件 の 解 釈 を 誤 っ た もの と して,偽 証 罪 にお け る 「法 律 に よ り宣 誓 した証 人 」 に は違 法 に宣 誓 させ て しま った 被 告 人 も含 む と解 した例(最 大 決 昭 和27年11月5日. 刑 集6巻10号1159頁),業. 務上横領罪の成. 立 に は被 告 人 自身 の 利 得 目的 を 不 要 と解 した例(最 判 昭 和28年12月25日 刑 集7巻13号2721頁),二. 項詐欺罪 の成立 には被欺岡者 の財産処分行為 を不. 要 と解 した例(最 判 昭 和30年4月8日. 刑 集9巻4号827頁),い. った ん 横 領. が 成 立 した後 の 横 領 行 為 も別 途 独 立 して 横 領 罪 を 構 成 す る と解 した 例(最 判 昭 和31年6月26日. 刑 集10巻6号874頁),い. わ ゆ る三 角 詐 欺 に際 し被 欺 岡. 者 の 財 産 処 分 行 為 及 び それ を な しう る地 位 を 不 要 と解 した 例(最 判 昭 和45 年3月26日. 刑 集24巻3号55頁),わ. いせ つ 図 画 所 持 罪 に は 外 国 で 販 売 す る. 目的 で 所 持 した場 合 も含 む と解 した例(最 判 昭 和52年12月22日 刑 集31巻7 号1176頁)な. どが 挙 げ られ る。 ま た,過 失 犯 に お け る過 失 の 解 釈 適 用 を. 誤 っ た もの と して,最 判 昭 和41年6月14日 年12月20日 刑 集20巻10号1212頁,最 頁,最 判 昭 和44年3月20日. 判 昭 和41. 判 昭 和42年10月13日 刑 集21巻8号1097. 判 時551号95頁,最. 号96頁,最 判 昭 和47年5月4日 刑 集26巻9号538頁,最. 刑 集20巻5号449頁,最. 判 昭和44年12月5日. 刑 集26巻4号255頁,最. 判 昭和48年3月22日. 判 時577. 判 昭 和47年11月16日. 刑 集27巻2号240頁. な どが 挙 げ. られ る。 さ らに,正 当行 為 の 要 件 につ いて 判 断 を 誤 った 例(最 判 昭 和50年 4月3日. 刑 集29巻4号132頁),正. (最判 昭和27年5月2日 巻12号1573頁,最. 当 防衛 の要 件 に つ い て 判 断 を 誤 った 例. 刑 集6巻5号721頁,最. 判 昭 和59年1月30日. 判 昭 和44年12月4日. 刑 集38巻1号185頁),緊. 件 につ いて 判 断 を 誤 っ た例(最 判 昭 和47年6月13日. 刑 集23. 急避難の要. 判 時695号119頁)も. あ. る。 も っ と も,観 念 的 競 合 と して 有 罪 判 決 が 下 され た 一 部 が 無 罪 で あ るが, 5.

(6) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 処 断 刑 に変 更 はな か っ た例(最 決 昭 和45年10月22日 刑 集24巻11号1516頁), 併 合 罪 中の 一一 部 が 法 律 上 無 罪 と され るべ きで あ っ たが,他 き もの が 多 数 あ っ た例(最 判 昭和29年5月11日 和29年5月11日 396頁)で. 刑 集8巻5号653頁,最. に有 罪 とな るべ. 刑 集8巻5号647頁,最. 決 昭 和40年5月27日. 判昭. 刑 集19巻4号. は,不 著 反 正 義 を理 由 に 原 判 決 が 維 持 さ れ た。 ま た,身 代 金 目. 的 拐 取 罪 で 解 放 減 軽 規 定 の 適 用 を 認 めな か っ た点 は誤 りで あ るが,量 刑 に お いて 相 当で あ っ た と して 原 判 決 が 維 持 され た例(最 決 昭 和54年6月26日 刑 集33巻4号364頁)も. 見 られ る。 ま た,被 告 人 の み が上 告 した事 件 で,. 原 判 決 の 環 疵 が 被 告 人 に有 利 に は た らいて い た場 合 に,原 判 決 を 維 持 した 例(最 判 昭 和27年10月31日 刑 集6巻9号1129頁)も. 見 られ る。. 他 方,以 下 の よ う に,原 判 決 の 法 令 解 釈 適 用 の 誤 りが 被 告 人 に有 利 に は た らい た もの を,最 高 裁 が 是 正 した例 も見 られ る。 構 成 要 件 要 素 の 解 釈 適 用 を 誤 っ た例 と して,業 務 上 過 失 致 傷 罪 の 業 務 性 が 否 定 され た例(最 判 昭和33年4月18日. 刑 集12巻6号1090頁),占. 領時代の. 沖 縄 か ら麻 薬 を 持 込 む 行 為 が 「輸 入 」 に 当 た らな い と され た例(最 大 判 昭 和41年7月13日. 刑 集20巻6号656頁),公. 選 法 違 反 に お け る戸 別 訪 問 行 為 が. 否 定 され た例(最 判 昭和43年12月24日 刑 集22巻13号1595頁),公. 務執行妨害. 罪 につ いて 公 務 該 当性 が 否 定 され た例(最 判 昭 和48年5月25日. 刑 集27巻5. 号1115頁),公 年7月14日. 文 書 殿 棄 罪 につ い て文 書 該 当性 が否 定 さ れ た例(最 判 昭 和52. 刑 集31巻4号713頁)が. 挙 げ られ る。 ま た,学 生 運 動 や 争 議 行 為. につ いて 違 法 性 が 否 定 され た例(最 判 昭 和33年12月25日 刑 集12巻16号3555 頁,最 判 昭 和33年12月25日 刑 集12巻16号3627頁,最 集29巻7号422頁,最. 判 昭和50年10月24日 刑 集29巻9号777頁,最. 年10月24日 刑 集29巻9号860頁,最 頁,最 大 判 昭 和51年5月21日 刑 集31巻3号544頁),過. 判 昭 和50年8月27日. 判 昭 和51年5月6日. 刑 集30巻5号1178頁,最. 刑. 判 昭 和50. 刑 集30巻4号519 判 昭 和52年5月6日. 剰 避 難 の 判 断 を 誤 って 減 軽 され た例(最 判 昭 和35 6.

(7) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 年2月4日. 刑 集14巻1号61頁),期. 例(最. 判 昭 和33年11月4日. ②. 罪数判断の誤 り. 待 可 能 性 の 判 断 を誤 って 無 罪 と され た. 刑 集12巻15号3439頁)も. あ る。. 罪 数 判 断 を 誤 り,処. 断 刑 に 変 更 を 生 じ る べ き 場 合,原. 判 決 が 破 棄 され う. る 。 そ の 例 と して,包. 括 一一 罪 を 併 合 罪 と 判 断 し た 例(最. 判 昭 和28年12月18. 日 刑 集7巻12号2565頁,最. 判 昭 和29年7月2日. 刑 集8巻7号991頁),牽. 連. 犯 を 併 合 罪 と 判 断 し た 例(最. 判 昭 和57年3月16日. 挙 げ られ る 。 ま た,刑. に 基 づ く刑 の 変 更 に 伴 う 軽 重 の 判 断 を 誤 っ た. 例(最. 法6条. 判 昭 和26年7月20日. 刑 集5巻8号1604頁)や,累. の 要 件 に 反 して 前 科 が 認 定 さ れ た 例(最 1537頁,最. 判 昭 和28年10月16日. も っ と も,以. 刑 集36巻3号260頁)が. 犯 加 重 につ いて そ. 判 昭 和28年7月17日. 刑 集7巻10号1940頁)も. 下 の よ う に,原. 見 られ る。. 判 決 が 維 持 され る例 も見 られ る。 そ の 例 と. して,一 罪 と さ れ る べ き 事 実 が 併 合 罪 と 評 価 さ れ た が,結 併 合 加 重 さ れ る べ き で あ っ た 例(最 頁=不. 著 反 正 義 の 判 示 な し,最. 不 著 反 正 義 の 判 示 な し),一 た が,宣. 決 昭 和29年11月9日. 決 昭 和43年12月19日. 決 昭 和57年2月17日. 頁)が. 刑 集22巻13号1559頁=. 決 昭 和49年10月14日. ま ま 累 犯 加 重 し た が,そ た 例(最. 犯 加 重 に 関 して,控. 訴確定裁. 刑 集18巻6号375. 訴 審 が 前 科 を 認 定 しな い. の 刑 は 累 犯 加 重 を しな か っ た 第 一 審 と 同 一 で あ っ. 判 昭 和26年7月17日. 刑 集5巻8号1460頁),累. 法59条 の 適 用 は 違 法 で あ る が,再. 犯 加 重 に 際 し,刑. 犯 で あ る こ と に 変 わ り は な く,同56条,. 57条 の 適 用 自体 は 適 法 で あ っ た 例(最 653頁)も. 刑. っ て 刑 法45条 が 適 用 さ れ た が,量. 反 正 義 は な い と さ れ た 例(最 決 昭 和39年7月9日 挙 げ られ る 。 ま た,累. 刑 集8巻11号1735. 刑 集36巻2号206頁),別. 判 の 後 に 実 行 さ れ た 犯 罪 に つ い て も,誤 刑 上,著. 局 他 の 犯 罪 とで. 罪 関 係 に あ る 複 数 の 犯 罪 が 併 合 罪 と評 価 さ れ. 告 刑 が 相 当 な 範 囲 で あ っ た と さ れ た 例(最. 集28巻7号372頁,最. 刑 集7巻7号. 決 昭 和27年4月10日. 見 ら れ る 。 こ れ ら の 事 例 は,法. 7. 刑 集6巻4号. 令 解 釈 適 用 に 誤 り は あ る が,具.

(8) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 体 的 科 刑 が 相 当 で あ っ た 点 が 重 視 さ れ た も の で あ る 。 ま た,法 の 誤 りが 被 告 人 に 有 利 な も の で あ り,被. 告 人 の み が 上 告 して い た 事 件 で 不. 著 反 正 義 を 理 由 に 原 判 決 が 維 持 さ れ た も の と して,罪 人 に 有 利 で あ っ た 例(最 正 義 の 判 示 な し),誤. 刑 法48条2項 頁,最. 決 昭 和30年12月15日. 数 判 断 の 誤 りが 被 告. 刑 集9巻13号2783頁=不. っ て 累 犯 加 重 を 否 定 し た 例(最. 集22巻12号1335頁),酒. 令解釈適用. 著反. 決 昭 和43年11月7日. 刑. 税 法 違 反 に 対 す る 罰 金 と 懲 役 の 併 科 に 際 し誤 っ て. が 適 用 さ れ た 例(最. 決 昭 和28年4月9日. 判 昭 和25年10月12日. 刑 集7巻4号837頁=不. 刑 集4巻10号2073. 著 反 正 義 の 判 示 な し). が 挙 げ られ る 。 ③. 付 加 刑,執. 行猶予等の誤 り. 付 加 刑 で あ る 没 収 ・追 徴 の 要 件 に つ い て 解 釈 適 用 を 誤 っ た 例 と して,そ の 要 件 に 反 して 誤 っ て 没 収 又 は 追 徴 が 命 じ られ た 例(最 日 刑 集7巻10号1910頁,最 昭 和37年12月12日 年12月11日. 判 昭 和29年3月26日. 刑 集16巻12号1672頁=第. 刑 集41巻8号352頁,最. 判 昭 和28年10月13. 刑 集8巻3号337頁,最. 大判. 三 者 没 収 違 憲 事 件,最. 判 昭 和62. 判 平 成15年10月28日. 判 タ1138号81頁)が. 挙 げ られ る 。 ま た,執. 行 猶 予 要 件 の 解 釈 適 用 を 誤 っ た 例 と して,執. を 誤 り そ の 適 否 を 検 討 しな か っ た 例(最 1728頁),執. 巻2号155頁)が. 刑 集8巻11号. 刑 集20巻1号1頁,最. 決 昭 和54年3月27日. 判 昭 和32年11月1日. 刑 集11巻12号3037頁)も. 件 に 反 して 執 行 猶 予 と さ れ た 例(最. 11号1551頁)や,没 集9巻2号332頁,最. 刑 集33. 挙 げ ら れ る 。 ま た,保 護 観 察 要 件 の 解 釈 を 誤 っ て そ れ が 付. さ れ て し ま っ た 例(最. 年2月24日. 判 昭 和29年11月5日. 行 猶 予 取 消 請 求 に つ い て,そ の 要 件 に 反 し誤 っ て 認 容 さ れ た 例. (最 決 昭 和41年1月28日. 逆 に,要. 行猶予要件の判断. 判 昭 和31年11月22日. 収 ・追 徴 が さ れ な か っ た 例(最 判 昭 和32年2月21日. 刑 集24巻2号29頁)に. 8. 刑 集10巻. 判 昭 和30年2月18日. 刑 集11巻2号849頁,最. お い て,原. あ る。. 判 決 を 破 棄 し,被. 刑. 判 昭 和45 告 人 に不 利.

(9) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. に変 更 され た例 も見 られ る。 他 方,法 令 解 釈 適 用 の 誤 りを 認 めつ つ,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た例 と して,没 収 の 適 用 法 令 に誤 りが あ った が,対 象 物 は いず れ に せ よ没 収 され るべ き もの で あ っ た例(最 判 昭 和28年3月27日. 刑 集7巻3号. 659頁=不. 著 反 正 義 の判 示 な し,最 決 昭和33年3月4日. 刑 集12巻3号367. 頁)や,執. 行 猶 予 要 件 の 解 釈 に誤 りが あ っ たが,実 刑 と した 量 刑 につ いて. 甚 だ しい不 当性 は認 め られ な い と され た例(最 大 判 昭 和28年6月10日 7巻6号1404頁)が ④. 刑集. 挙 げ られ る。. その 他. その 他 の 実 体 法 解 釈 適 用 の 誤 りを 理 由 に破 棄 され た 例 と して,刑 法5条 但 書 に お け る外 国 判 決 の 判 断 を 誤 って 本 刑 に算 入 しな か った 例(最 大 判 昭 和30年6月1日 2263頁),法. 刑 集9巻7号1103頁,最. 判 昭 和30年10月18日 刑 集9巻11号. 定 刑,処 断 刑 に反 した 罰 金 額 が 科 さ れ た例(最 判 昭 和31年5. 月10日 刑 集10巻5号649頁),少 和39年8月27日. 年 に対 し誤 って 定 期 刑 を 科 した 例(最 判 昭. 集 刑152号621頁),公. され た例(最 判 昭 和44年10月3日. 訴 時 効 の起 算 点 を誤 り,時 効 不 成 立 と. 刑 集23巻10号1222頁)が. あ る。. (2)手 続 法 違 反 ①. 裁判構成上の違法. 裁 判 の 構 成 上 違 法 が あ り,本 号 に よ って 破 棄 され た 事 例 と して,審 理 に 関 与 しな か っ た裁 判 官 が 判 決 の み に関 与 した例(最 判 昭 和25年3月30日 集4巻3号454頁,最. 判 昭和28年4月17日. 刑 集7巻4号873頁),規. 刑. 定 に反 し. て 判 事 補 が 合 議 制 の 裁 判 に裁 判 官 と して 関 与 した例(最 判 平 成19年7月10 日刑 集61巻5号436頁),忌. 避 理 由の 解 釈 適 用 を 誤 り,不 当 に忌 避 申立 簡 易. 却 下 が な され た例(最 決 昭 和48年10月8日. 刑 集27巻9号1415頁=検. 察抗告. 事 例)が 挙 げ られ る。 ま た,付 審 判 請 求 手 続 で 捜 査 資 料 を 請 求 代 理 人 に閲 9.

(10) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 覧 謄 写 させ た行 為 が,裁 判 所 の 裁 量 を 逸 脱 して い る と して,審 理 の 一都 が 取 消 され た例(最 決 昭 和49年3月13日. 刑 集28巻2号1頁)も. あ る。. これ に対 し,裁 判 構 成 上 の 違 法 が あ るが,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た例 と して,準 起 訴 手 続 に基 づ く公 判 に検 察 官 の 職 務 を 行 う弁 護 士 の 代 わ りに検 察 官 が 出席 し,判 決 が 言 渡 され た例(最 判 昭 和31年2月10 日刑 集10巻2号159頁=不. 著 反 正 義 の判 示 な し),検 察 官 不 在 で 判 決 が 宣 告. され たが,こ れ に よ って 「被 告 人 に実 質 的 な 利 益 侵 害 」 が 生 じな か っ た と され た例(最 決 平 成19年6月19日. 刑 集61巻4号369頁),判. 決 書 の 一一 部 に署. 名 押 印の 欠 鉄 が あ るが,他 の 記 載 か ら裁 判 所 の 構 成 等 に違 法 はな か っ た例 (最 決 昭 和36年11月30日 28巻3号64頁),簡. 刑 集15巻10号1799頁,最. 決 昭 和49年4月19日. 刑集. 裁 管 轄 事 件 につ い て,地 裁 に事 物 管 轄 が あ る との 前 提 で. 控 訴 審 が 破 棄 自判 したが,宣 告 刑 に お いて 相 当で あ っ た と され た例(最 決 昭 和43年12月17日 刑 集22巻13号1476頁)が ②. 挙 げ られ る。. 審 判 権 限 に関 す る王 段疵. 裁 判 所 が そ の 審 判 権 限 を逸 脱 した た め,本 号 に よ り破 棄 さ れ た 例 と し て,特. に控 訴 審 に関 す る もの が 顕 著 で あ る。 その 例 と して,不 利 益 変 更 禁. 止 に違 反 して 控 訴 審 が 第 一一 審 よ りも重 い刑 を 科 した例(最 大 判 昭 和26年8 月1日 刑 集5巻9号1715頁,最. 判 昭 和31年4月19日. 刑 集10巻4号588頁),. 控 訴 審 が 事 実 取 調 を しな い ま ま,犯 罪 事 実 不 存 在 と した第 一一 審無罪判決を 破 棄 し,自 判 した例(最. 判 昭 和34年6月16日. 和41年12月22日 刑 集20巻10号1233頁),複. 刑 集13巻6号969頁,最. 判昭. 数 可 分 の公 訴 事 実 の うち,被 告 人. が 控 訴 して いな い原 有 罪 判 決 につ いて,控 訴 審 が 審 判 した例(最 判 昭 和28 年9月25日. 刑 集7巻9号1831頁,最. 判 昭 和44年10月2日. 刑 集23巻10号1175. 頁)が 挙 げ られ る。 ま た,簡 裁 が その 科 刑 権 限 を 超 え る刑 を 科 した例(最 判 昭和30年12月20日. 刑 集9巻14号2906頁),準. 抗 告 決 定 で不 服 申立 の 対 象. と され て いな い事 項 につ いて 裁 判 され た例(最 決 昭 和59年11月20日 刑 集38 10.

(11) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 巻11号2984頁),不. 告 不 理 に違 反 して 起 訴 され て い な い事 件 を 有 罪 と した. 例(最 判 昭 和26年11月2日. 刑 集5巻12号2327頁)も. これ に対 し,最 決 昭 和25年6月8日. あ る。. 刑 集4巻6号972頁. で は,起 訴 され て. いな い犯 罪 につ いて 有 罪 判 決 を 下 したが,他 の 有 罪 事 実 に よ り処 断 刑 に変 更 はな か っ た た め,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た 。 また,被 告 人 の 控 訴 趣 意 書 につ いて 判 断 を 遺 脱 して い るが,そ の 暇 疵 が 判 決 に影 響 を 与 え な い もの で あ った と され た 例(最 判 昭和25年7月6日 1205頁,最 決 昭 和27年7月12日. 刑 集6巻7号910頁,最. 刑 集4巻7号. 判 昭 和30年7月19日. 刑 集9巻9号1885頁,最. 判 昭 和31年3月27日. 刑 集10巻3号403頁=不. 著反. 正 義 の 判 示 な し)も,や. は り原 判 決 が 維 持 され て い る。 さ ら に,訴 因 変 更. 手 続 に関 して,訴 因 変 更 な く訴 因 外 事 実 を 認 定 した点 は違 法 で あ るが,被 告 人 の 具 体 的 防 御 上 不 利 益 はな か っ た と され た例(最 決 昭 和40年12月24日 刑 集19巻9号827頁),控. 訴 審 に よ る訴 因 変 更 が 必 要 で あ る との 判 断 は誤 り. で あ るが,第 一審 に は事 実 誤 認 が あ り,こ れ を 破 棄 して 有 罪 と した 点 で 結 論 自体 は 維 持 され た例(最. 決 平 成15年2月20日. 判 時1820号149頁)も,原. 判 決 が 維 持 され て い る。 ③. 訴 訟 条 件 に関 す る判 断 の 誤 り. 原 判 決 が 訴 訟 条 件 を 満 た さな い に もか か わ らず,実 体 判 決 を 下 した た め,本 号 に よ り破 棄 され た例 と して,併 合 罪 の 一一 部 につ いて,一 事 不 再 理 違 反 に反 して 有 罪 判 決 が 下 され た例(最 判 昭 和26年8月2日 1727頁),審. 刑 集5巻9号. 理 の 結 果 認 め られ た罪 名 に よ る と公 訴 時 効 が完 成 して い る に. もか か わ らず,起 訴 状 記 載 の 罪 名 の ま ま有 罪 判 決 が 下 され た 例(最 判 昭 和 26年12月25日 刑 集5巻13号2623頁,最. 判 昭 和31年4月12日. 540頁,最 判 昭和39年11月24日 刑 集18巻9号610頁),親. 刑 集10巻4号. 告 罪 につ いて 告 訴 が. な い ま ま,親 告 罪 で はな い一一 部 の 事 実 の み が 起 訴 され,有 罪 判 決 が 下 され た例(最 判 昭 和27年7月11日. 刑 集6巻7号896頁)が 11. 挙 げ られ る。.

(12) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. こ れ に 対 し,最 判 昭 和55年12月17日 刑 集34巻7号672頁=チ. ッソ川 本 事. 件 で は,公 訴 権 濫 用 に よ り手 続 を 打 切 っ た控 訴 審 の 判 断 は誤 りで あ るが, 事 件 の 性 質 上,第 一審 有 罪 判 決 を 復 活 させ る まで の 必 要 はな い と して,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 を 維 持 して い る。 ④. 被告人の防御権侵害. 被 告 人 の 防 御 権 侵 害 を 理 由 に破 棄 され た例 と して,必 要 的 弁 護 事 件 で 弁 護 人 の 立 会 な く審 理 さ れ た 例(最 判 昭 和27年3月28日. 刑 集6巻3号559. 頁),弁 護 人 に対 し公 判 期 日を通 知 しな い ま ま審 理 さ れ た例(最 判 昭 和27年 1月31日 集 刑59号475頁,最. 判 昭和28年7月31日. 判 期 日を 変 更 した に もか か わ らず,誤. 刑 集7巻7号1651頁),公. って 前 の 公 判 期 日 に被 告 人 及 び弁 護. 人 が 出頭 しな い ま ま判 決 宣 告 を して しま っ た例(最 判 昭 和35年6月10日 集14巻7号970頁),誤. 刑. って 被 告 人 不 出頭 の ま ま判 決 が 言 渡 され た た め,上. 訴 権 行 使 が 妨 げ られ た例(最 決 昭 和38年10月31日 刑 集17巻11号2391頁)が 挙 げ られ る。 ま た,被 告 人 の 訴 訟 能 力 に関 して,控 訴 裁 判 所 が,被 告 人 が 心 神 喪 失 状 態 に あ る の に公 判 手 続 を 停 止 しな い ま ま有 罪 の 自判 を した 例 (最判 昭和53年2月28日. 刑 集32巻1号83頁),死. 刑 判 決 を 受 け た被 告 人 が,. 訴 訟 無 能 力 状 態 で 控 訴 を 取 下 げ た例(最 決 平 成7年6月28日 785頁)も,本. 刑 集49巻6号. 号 に よ り破 棄 され て い る。. これ に対 し,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た例 と して,召 喚 手 続 に暇 疵 が あ り被 告 人 が 出 頭 で き な か っ た が,弁 護 人 が 出頭 して い た 例 (最 判 昭 和27年4月10日. 刑 集6巻4号648頁),必. 要的弁護 事件で弁護人 な. く開 廷 され た例(最 大 判 昭 和26年11月28日 刑 集5巻12号2423頁,最 30年6月16日. 刑 集9巻7号1150頁),国. 決 昭和29年11月30日 人 の1人. 判昭和. 選 弁 護 人 の選 任 時 期 が遅 れ た例(最. 刑 集8巻11号1898頁=不. 著 反 正 義 の判 示 な し),弁 護. に公 判 期 日の 通 知 が され な か っ たが,他 の 弁 護 人 が これ に代 わ っ. て 十 分 弁 護 を して い た と さ れ た 例(最 判 昭 和27年10月7日 12. 刑 集6巻9号.

(13) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 1109頁,最. 判 昭 和32年4月16日. 刑 集11巻4号1372頁=不. 著反正義の判示な. し)が 挙 げ られ る。 これ らの 事 例 は,具 体 的 事 例 にお け る手 続 経 過 か ら, 被 告 人 の 防 御 上 実 質 的 に不 利 益 はな か っ たか,非 常 に軽 微 な もの に と ど ま る もの で あ っ た こ とが,そ の 理 由 と され て い る。 ⑤. 書類等送達の王 段疵. 書 類 送 達 手 続 に違 法 な 点 が あ っ た た め,本 号 に よ り破 棄 さ れ た 例 と し て,控 訴 趣 意 書 最 終 日を 定 め た催 告 書 が 被 告 人 に送 達 され ず,控 訴 趣 意 書 不 提 出 を 理 由 に控 訴 棄 却 さ れ た 例(最 決 昭 和26年4月13日 902頁),被. 刑 集5巻5号. 告 人 の 住 所 を 誤 認 した 結 果,住 所 不 知 を 理 由 に公 判 召 喚 状 を 公. 示 送 達 と し,被 告 人 不 出頭 の ま ま審 理 され た例(最 判 昭 和27年11月28日 刑 集6巻10号1274頁),控. 訴 審 の 第 一 回 公 判 期 日 まで に検 察 官 側 控 訴 趣 意 書. が 被 告 人 に送 達 され な い ま ま,控 訴 審 の 審 理 が 開 始 され た 例(最 判 昭 和28 年7月10日. 刑 集7巻7号1505頁)が. 挙 げ られ る。 また,被 告 人 側 は期 限 内. に控 訴 申立 書 を 速 達 郵 便 に付 したが,規 則 に反 して そ の 翌 日 に裁 判 所 に配 達 され た例(最 決 昭 和39年7月17日. 刑 集18巻6号399頁)も. 見 られ る。. これ に対 し,手 続 に環 疵 が あ っ たが,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た例 と して,起 訴 状 謄 本 送 達 の 方 式 が 適 式 で な か った が,被 告 人 本 人 又 は弁 護 人 が これ を 現 実 に受 領 し,実 質 的 に防 御 に影 響 が な く,ま た 適 宜 異 議 が述 べ られ て い な か っ た例(最 決 昭和26年4月12日 頁,最 決 昭 和27年5月31日 6巻7号913頁,最. 刑 集6巻5号788頁,最. 決 昭和33年9月12日. 刑 集5巻5号893. 決 昭 和27年7月18日. 刑 集12巻13号3007頁),被. 刑集. 告 人 に控. 訴 趣 意 書 差 出最 終 日が 通 知 され な か っ たが,弁 護 人 にそ の 通 知 が な され, 弁 護 人 が 期 間 内 に控 訴 趣 意 書 を提 出 し,適 宜 異 議 が述 べ られ な か った 例 (最 決 昭 和28年12月19日 刑 集7巻12号2588頁=不 挙 げ られ る。 ⑥. 証拠調手続の王 段疵 13. 著 反 正 義 の 判 示 な し)が.

(14) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 証 拠 調 手 続 に関 す る違 法 を 理 由 に,本 号 に よ って 破 棄 され た例 と して, 以 下 の もの が あ る。 まず,証 拠 能 力 の 判 断 を 誤 っ た もの と して,被 告 人 が 否 認 して い る事 件 で,弁 護 人 の 同意 の み で 書 証 に証 拠 能 力 を 認 め た例(最 判 昭 和27年11月21日 刑 集6巻10号1223頁,最 11号1329頁),自. 判 昭 和27年12月19日 刑 集6巻. 白の 任 意 性 に疑 い が あ る と され た例(最 判 昭 和32年5月. 31日 刑 集11巻5号1579頁,最. 判 昭 和33年6月13日. 刑 集12巻9号2009頁)が. 挙 げ られ る。 ま た,証 拠 の 信 用 性 に関 す る判 断 を 誤 っ た もの と して,自 の 信 用 性 に 疑 い が あ る と さ れ た例(最 696頁=幸. 判 昭 和32年2月14日. 浦 事 件,最 判 昭 和42年10月3日. 月21日 判 時607号89頁,最 和55年7月1日. 判 時971号124頁,最. 刑 集11巻2号. 判 時497号68頁,最. 判 昭和45年7月31日. 判 昭 和45年7. 刑 集24巻8号597頁,最. 判 昭 和57年1月28日. 白. 判昭. 刑 集36巻1号67頁. =鹿 児 島夫 婦 殺 人 事 件) ,被 害 者 又 は証 人 供 述 の信 用 性 に疑 い が あ る と さ れ た例(最 判 昭 和49年11月21日 判 時789号103頁,最 時924号134頁,最. 判 昭 和54年3月27日. 判 昭 和56年10月29日 判 時1035号141頁),共. 用 性 に疑 いが あ る と され た例(最 判 昭 和52年3月17日 判 平 成 元 年6月22日. 刑 集43巻6号427頁=山. 判. 犯者供述の信. 判 時850号109頁,最. 中事 件)被 告 人 の 弁 解 を排 斥. した判 断 の 根 拠 が,実 況 見 分 調 書 記 載 の 不 正 確 な 資 料 に基 づ い た 「採 証 法 則 」 に違 反 す る もの で あ っ た例(最. 判 昭 和43年8月2日. 判 時530号85頁). が 挙 げ られ る。 特 に,証 拠 の 信 用 性 に関 す る判 断 の 誤 りは,3号. に も該 当. しう る た め,本 号 と重 畳 的 に適 用 され る例 が 顕 著 で あ る。 これ に対 し,原 判 決 が,証 拠 許 容 要 件 を 満 たす に もか か わ らず,証 拠 能 力 を否 定 した た め被 告 人 に有 利 な 判 断 を 示 したが,最 高 裁 が 本 号 に よ りこ れ を覆 した例 も あ る(最 判 昭和28年4月16日 61年4月25日. 刑 集40巻3号215頁)。. 刑 集7巻4号865頁,最. 判昭和. ま た,あ る証 拠 が 不 適 法 に有 罪 認 定 の. 根 拠 と され た が,当 該 証 拠 を 除 い て も犯 罪 事 実 の 認 定 が 可 能 で あ った た め,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され た例(最 決 昭 和28年2月17日 14. 刑.

(15) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 集7巻2号237頁=不 号96頁=不 ⑦. 著 反 正 義 の 判 示 な し,最. 著 反 正 義 の 判 示 な し)も. 判 昭 和45年11月5日. 判 時612. 見 られ る 。. 判 決 理 由等 の 王 段疵. 判 決 理 由 に王 段疵 が あ る と して,本. 号 に よ り破 棄 さ れ た 例 と して,判. 由 に 齪 齪}又 は 論 理 則 違 反 が 認 め られ た 例(最 7号1533頁,最. 判 昭 和31年1月31日. 刑 集10巻1号119頁),認. と の 間 に 理 由 不 備 が あ る と さ れ た 例(最 2286頁,最. 判 昭 和37年8月21日. る と さ れ た 例(最. 判 昭 和35年12月16日. 判 昭 和33年6月24日. 刑 集12巻10号. 定 評 価 に 誤 りが あ. 判 時954号124頁),審. 判 昭 和33年4月25日. 刑 集14巻14号2126頁)が. 号 と 重 畳 適 用 さ れ る こ と が 多 い 。 ま た,判. 刑 集7巻. 定 事 実 と証 拠. 刑 集16巻8号1303頁),鑑. 判 昭 和54年12月4日. 由 不 備 が あ る と さ れ た 例(最. 判 昭 和28年7月17日. 決理. 理 不 尽 に よ る理. 刑 集12巻6号1161頁,最. 挙 げ ら れ る 。 こ の 事 例 も,3 決 書 の 作 成 日 付 と して 弁 論 終 結. 前 の 月 日 が 記 載 さ れ て い た た め,判. 決 が 口 頭 弁 論 に 基 づ か な い と して,破. 棄 さ れ た 例(最. 刑 集20巻2号49頁)も. 判 昭 和41年2月24日. こ れ に 対 し,犯. 罪 阻 却 事 由 の 主 張 に 判 断 を 示 さ な い 違 法 が あ っ た が,そ. の 主 張 が 失 当 で あ る こ と が 明 白 で あ っ た 例(最 巻7号1634頁)は,不. 告 人 に 不 利 益 は な い と さ れ た 例(最 判 昭 和38年8月23日. 22巻4号342頁)も,不 ⑧. 合. 判 昭 和27年3月18日. 刑 集6巻3号498. 判 昭 和43年4月26日. 刑集. 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持 され て い る。. 未決勾留算入の王 段疵. (最 判 昭 和33年4月25日. 11月7日. 刑 集7. 刑 に 対 す る 影 響 は な い な ど,被. 刑 集17巻6号628頁,最. 未 決 勾 留 算 入 の 計 算 を 誤 り,本. り,不. 決 昭 和28年7月23日. 著 反 正 義 を 理 由 に 原 判 決 が 維 持 さ れ た 。 ま た,併. 罪 の 一一 部 に つ い て 判 断 が 遺 脱 さ れ た が,科. 頁,最. 見 られ る。. 刑 算 入 さ れ な か っ た た め,破. 刑 集12巻6号1203頁)が. 当 に 本 刑 算 入 さ れ た た め,本 刑 集12巻15号3504頁,最. あ る が,逆. 号 に よ り破 棄 さ れ た 例(最. 判 昭 和43年7月11日. 15. 棄 され た 例. に,計. 算 を誤. 判 昭 和33年. 刑 集22巻7号646頁,.

(16) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 最 判 昭 和52年7月1日 巻1号1頁)も. 刑 集31巻4号681頁,最. 判 昭 和55年1月11日. 刑 集34. 顕 著 で あ る。. も っ と も,近 時,未 決 勾 留 算 入 の 算 定 方 法 に誤 りが あ るが,算 入 自体 が 裁 判 所 の 裁 量 に ゆだ ね られ る もの で あ る と して,破 棄 の 必 要 が 否 定 され た 例(最 決 平 成14年6月5日 ⑨. 判 時1786号160頁)も. 見 られ る。. その 他. その 他 と して,被 告 人 の 法 定 代 理 人 が 選 任 した弁 護 人 が 上 訴 を した場 合 につ いて,判 例 変 更 の 上,有 効 性 を 認 め た例(最 大 決 昭 和63年2月17日 集42巻2号299頁),誤 年1月14日. って 被 告 人 に訴 訟 費 用 を 負 担 させ た例(最 判 昭 和30. 刑 集9巻1号52頁,最. 46年4月27日. 刑. 判 昭和37年9月4日. 刑 集25巻3号534頁)で,本. 判 時319号48頁,昭. 和. 号 に よ り破 棄 され て い る。. ま た,本 号 は,抗 告 手 続 で 準 用 され る例 も多 く,例 え ば,少 年 事 件 に お け る保 護 処 分 取 消 請 求 に対 す る不 取 消 決 定 につ いて,再 抗 告 事 由 は認 め ら れ な いが,抗 告 事 由が あ る場 合 に これ を 取 消 さな けれ ば著 反 正 義 と認 め ら れ る場 合 に は,原 決 定 を 取 消 す こ とが で き る と され た例(最 決 昭 和58年9 月5日 刑 集37巻7号901頁=柏. 少 女 殺 人 事 件),要. 件 を 誤 って,被 押 収 者 で. な い者 に押 収 物 が 還 付 され た例(最 決 平 成2年4月20日. 刑 集44巻3号283. 頁),公 判 期 日が不 当 に延 期 され た例(検 察 側 抗 告 事 例)(最 月9日 刑 集15巻5号771頁,最. 決 昭和37年2月14日. 決 昭 和36年5. 刑 集16巻2号85頁)な. ど. で,本 号 に よ り原 決 定 が 破 棄 され て い る。. 2.著 ①. しい量 刑 不 当(2号) 原 判 決 よ り減 軽 した例. 原 判 決 が 実 刑 に処 したが,こ れ を破 棄 し,執 行 猶 予 が付 され た例 と して, 同情 す べ き動 機 の 下 に無 免 許 運 転 を 行 っ た初 犯 若 年 の 被 告 人 に法 定 刑 の 最 高 限 を 科 した例(最. 判 昭 和27年12月2日 16. 刑 集6巻11号1281頁),犯. 情 が軽.

(17) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. く,前. 科 も 軽 微 な も の で あ っ た 例(最. 判 昭 和33年6月19日. 刑 集12巻10号. 2236頁),業. 過 事 件 で 被 告 人 ひ と りに 刑 事 責 任 を 負 わせ る の は酷 で あ る と. さ れ た 例(最. 判 昭 和58年9月22日. 誘 拐 事 件 で,動. 判 時1089号17頁),近. 機 の 評 価 に 誤 りが あ っ た 等 と さ れ た 例(最. 12日 判 時1950号173頁)が. 挙 げ ら れ る 。 こ れ ら は,す. て い る 点 に 特 徴 が 見 られ る 。 そ の 他,殺 と して,最. 判 昭 和51年11月18日. こ れ 以 外 に,拘. 昭 和52年12月22日. ②. が あ る。 棄 差 戻 と した 例. 刑 に 関 して 審 理 不 尽 の. と 本 号 の 重 畳 適 用 に よ り破 棄 差 戻 と した 例(最. 判. 見 られ る 。. 著 反 正 義 を 明 示 して 原 判 決 を 維 持 した 例(最. 集 刑176号295頁=原. 判 決 の 具 体 的 量 刑 は 不 明)も. 判昭. あ る。. 死刑関連事件. 本 号 に つ い て,特 ま ず,原. に死 刑 の 適 否 が 問 題 とな る こ とが 多 い。. 判 決 が 死 刑 に 処 し た が,こ. 最 判 昭 和28年6月4日 巻8号571頁. して,以. れ を 無 期 懲 役 刑 に 減 軽 し た 例 と し て,. 刑 集7巻6号1251頁,最. 判 平 成8年9月20日. 刑 集50. が あ る。. 他 方,原. 判 決 が 無 期 懲 役 と し た が,検 下 の も の が あ る 。 ま ず,原. 年7月8日. 刑 集37巻6号609頁=永. 巻9号1160頁,最. 11年11月29日. 判 時1693号154頁,最. 最 決 平 成11年12月16日. 察 側 が 死 刑 を 求 め て 上 告 した 例 と. 判 決 を 破 棄 し た 例 と して,最 山 事 件,最. 判 平 成18年6月20日. が 挙 げ られ る 。 こ れ に 対 し,無. 号160頁. 判 時832号114頁. 刑 集31巻7号1147頁)も. 過 事 件 で,不. 和45年5月22日. 人 罪 に つ い て 懲 役 刑 を 減 軽 した 例. 刑 集21巻10号1441頁)や,量. 違 法 が あ る と して,1号. 判 平 成18年10月. べ て 最 高 裁 が 自判 し. 留20日 間 は 犯 情 か ら重 過 ぎ る と して,破. (最 判 昭 和42年12月21日. 他 方,業. 親 者 に よ る未 成 年 者. 判 昭 和58. 判 平 成11年12月10日. 判 時1941号38頁=光. 刑 集53. 市母子殺害事件. 期 懲 役 刑 が 維 持 さ れ た 例 と して,最 決 平 成11年12月16日. 判 時1698号148頁,最. が 挙 げ ら れ る。 死 刑 の 適 否 は,量. 17. 判平成. 判 時1699号158頁,. 決 平 成11年12月21日. 判 時1696. 刑 に 際 し 強 く 「正 義 」 の 観 点 か.

(18) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. ら考 察 さ れ る べ き 問 題 で あ る と い え よ う 。. 3.判 ①. 決 に影 響 あ る重 大 な 事 実 誤 認(3号) 本号の適用範囲. 法 文 は 「事 実 誤 認 が あ る こ と」 と規 定 され て お り,犯 行 日時 に被 告 人 が 他 の 事 件 を 理 由 に未 決 勾 留 に付 され て い た例(最 判 昭 和29年4月16日 8巻4号521頁)や,検. 刑集. 察 官 の 上 告 審 に お け る答 弁 補 充 書 に他 者 が 真 犯 人 で. あ る との 記 述 が あ っ た例(最 判 昭 和47年2月10日. 判 時658号86頁)の. よう. に,事 実 誤 認 が 明 白で あ る事 例 につ いて 本 号 の 適 用 に問 題 はな く,ま た, それ らの 事 例 で は,最 高 裁 が 自判 し,無 罪 判 決 を 下 して い る。 も っ と も,最 判 昭 和28年11月27日 刑 集7巻11号2303頁. に お いて 「公 訴 事. 実 につ いて 自 ら事 実 審 理 を す る権 能 の な い上 告 裁 判 所 に お いて は,原 判 決 に如 何 な る事 実 の誤 認 が あ るか を確 定 す る こ とが で き な い場 合 もあ るか ら,右 刑 訴411条3号. の法 意 は,判 決 に影 響 を 及 ぼす べ き重 大 な 事 実 の 誤 認. が あ る と疑 う に足 る顕 著 な 事 由が あ って,も. しこの 疑 が 存 す る にか か わ ら. ず 原 判 決 を 維 持 しその 判 決 を 確 定 させ た とす れ ば著 し く正 義 に反 す る と き は,原 判 決 に法 令 の 違 反 はな くて も,こ れ を 破 棄 す る こ とを も上 告 裁 判 所 に許 した もの と いわ な けれ ばな らな い」 と判 示 され て い る よ う に,事 実 誤 認 の 疑 い に と ど ま る場 合 が 大 半 で あ り,か つ,破 棄 要 件 と して も それ で 足 りる と理 解 され て い る。 そ して,事 実 誤 認 の 疑 いで 破 棄 され る場 合 に は, 原 審 に差 戻 さ れ る の が 通 例 で あ る。 しか し,最 判 昭 和48年12月13日 判 時 725号104頁 で は,被 告 人 が 真 犯 人 で あ る との 疑 い が 残 る と しつ つ,そ の よ う に断 定 す る こ と につ いて 合 理 的 疑 いが 存 す る以 上,原 有 罪 判 決 を 維 持 す る こ と は妥 当で はな い と した上 で,自 判 無 罪 と され て い る。 ②1号. との 重 畳 適 用. 事 実 誤 認 又 は その 疑 い は,事 実 審 に お け る審 理 不 尽 や 採 証 法 則 違 反 の 違 18.

(19) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 法 と 結 び つ く こ と か ら,本 例 え ば,自. 号 と1号. とが 重 畳 的 に適 用 され る事 例 も多 い。. 白 の 信 用 性 に 疑 い が あ る と さ れ た 例(最. 刑 集7巻11号2303頁,最 63年1月29日. 判 昭 和32年2月14日. 刑 集42巻1号38頁),犯. 判 昭 和28年11月27日. 刑 集11巻2号554頁,最. 判昭和. 罪 事 実 の 認 定 が 不 合 理 で あ り,か つ 伝. 聞 証 拠 を 違 法 に 採 用 し た 例(最. 判 昭 和30年3月9日. 裁 時197号5頁),自. 白. の 任 意 性 調 査 が 不 十 分 で あ っ た と さ れ た 例(最. 判 昭 和30年12月26日. 集 刑. 111号995頁),共. 犯 者 等 の 供 述 の 信 用 性 に 疑 い が あ る と さ れ た 例(最. 和31年9月14日 頁),被. 集 刑114号641頁,最. 判 昭 和60年12月19日. 害 者 供 述 の 信 用 性 に 疑 い が あ る と さ れ た 例(最. 判 時1331号145頁=板. 橋 強 制 わ い せ つ 事 件),証. 実 の 認 定 が 不 合 理 で あ る と さ れ た 例(最 2731頁=第. 一 次 八 海 事 件 判 決,最. =第 二 次 八 海 事 件 判 決 ,最 次 八 海 事 件 判 決,最 年12月27日. 集 刑122号931頁,最. 判 昭 和58年10月6日. 判 平 成 元 年10月26日. 拠 評 価 の 誤 り等 か ら 犯 罪 事. 判 昭 和37年5月19日. 判 昭 和32年12月26日. 刑 集11巻11号. 刑 集16巻6号609頁. 刑 集22巻11号961頁=第. 刑 集11巻14号3398頁,最. 判 昭 和44年3月13日. 判 時1097号137頁,最. 判 時1194号138. 判 昭 和32年10月15日. 判 昭 和43年10月25日. 判昭. 三. 判 昭 和32. 刑 集23巻3号132頁,最. 判 平 成 元 年4月21日. 判 時1319号. 39頁),被. 告 人 の ア リバ イ 等 の 弁 解 を 排 斥 した 根 拠 が 不 合 理 で あ っ た と さ. れ た 例(最. 判 昭 和44年3月14日. 934号126頁,最. 判 時594号96頁,最. 判 昭 和59年4月24日. に 疑 い が あ る と さ れ た 例(最. 刑 集38巻6号2196頁),責. 判 昭 和53年3月24日. 意 の 認 定 に 疑 い が あ る と さ れ た 例(最 967頁,最. 判 昭 和58年2月24日. 1735号145頁),審 50年4月24日 ③. 判 昭 和54年7月20日. 判時. 任能力の判断. 刑 集32巻2号408頁),故. 判 昭 和53年6月29日. 判 平 成13年1月25日. 判時. 理 不 尽 か ら事 実 誤 認 の 疑 い が あ る と さ れ た 例(最. 判昭和. 判 時774号119頁)が. 判 時1070号5頁,最. 刑 集32巻4号. こ れ に あ た る。. その 他. そ の 他,本. 号 に 関 連 して,原. 判 決 後 に 判 明 し た 新 証 拠 か ら は,有. 19. 罪認定.

(20) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. に 疑 い が 生 じ る と さ れ た 例(最. 大 判 昭 和34年8月10日. 刑 集13巻9号1419頁. =松 川 事 件) ,罪 責 の 一 部 に 事 実 誤 認 の 疑 い が あ る た め,罪 責 全 体 に 重 大 な 事 実 誤 認 の 疑 い が あ る と さ れ た 例(最 =青 梅 事 件 ,最. 判 昭 和36年9月15日. 月21日 判 時1688号173頁)も. 4.再. 判 昭 和41年3月24日. 刑 集15巻8号1442頁,最. 判 時439号19頁 判 平 成11年10. 注 目 され る。. 審 請 求 事 由 の 存 在(4号). 本 号 に 関 して,特. に,原 判 決 後 に真 犯 人 が発 見 さ れ,被 告 人 が 無 実 で. あ っ た こ とが 判 明 した と い う事 例 が 顕 著 で あ る。 例 え ば,最 判 昭和27年4月24日. 刑 集6巻4号708頁. 人 が検 挙 さ れ 有 罪 判 決 を受 けて,そ. で は,原 判 決 後 に真 犯. の 裁 判 が確 定 した と い う事 例 で あ る. が,最 高 裁 は,本 号 を適 用 し,破 棄 自判 の上,被 告 人 を無 罪 と した。 ま た, 被 告 人 が 身 代 わ り犯 人 で あ っ た こ とが 判 明 した場 合 も,同 り破 棄 され,自 判 無 罪 と され た例(最 判 昭和45年6月19日 頁,最 判 昭 和47年12月12日 判 時687号99頁,最 号130頁)が. 5.判 ①. じ く,本 号 に よ 刑 集24巻6号299. 判 昭和53年12月15日 判 時926. 見 られ る。. 決 後 の 刑 廃 止 ・変 更 ・大 赦(5号) 破 棄 され た例. 本 号 の 適 用 に関 して,被 告 人 が 適 法 に上 告 趣 意 書 を 提 出 しな か っ た場 合 で も,原 判 決 後 に大 赦 が あ っ た と き は,本 号 に よ って 原 判 決 を 破 棄 す べ き と した例(最 大 判 昭 和32年2月27日. 刑 集11巻2号935頁)が. 見 られ る。. 刑 の 廃 止 につ いて,第 二 次 世 界 大 戦 後 の 占領 時 代 に発 令 され た 占領 目的 阻 害 行 為 処 罰 令(昭 和25年 政 令325号)に. よ る言 論 制 限 違 反 が,サ. ンフラ. ンシ ス コ平 和 条 約 発 効 に よ って 廃 止 され た との 解 釈 に よ り,本 号 が 適 用 さ れ た例(最 大 判 昭 和28年12月16日 刑 集7巻12号2457頁,最 20. 大 判 昭 和28年12.

(21) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 月16日 刑 集7巻12号2520頁,最 最 大 判 昭 和30年11月30日 集9巻12号2545頁,最 和31年1月25日. 大 判 昭 和30年4月27日 刑 集9巻12号2529頁,最. 号1694頁)が. 顕 著 で あ る 。 ま た,や. (最 大 判 昭 和29年11月10日 集9巻1号69頁,最. 2509頁,最. 刑 集11巻10号2497頁,最. 12日 刑 集16巻12号1672頁)も. ま た,旧. 大 判 昭 和30年10月9日. 刑 集11巻13号3197頁,最. 年6月9日. 刑. 大判昭和 刑 集11巻10号. 大 判 昭 和37年12月. 多 く見 ら れ る 。 合 国 占 領 軍 財 産 等 収 受 所 持 禁 止 令 違 反 に つ い て,. 刑 集14巻7号861頁)が. 号 が 適 用 さ れ た 例(最. 告 審 の 途 中で 公 訴 時 効. 号 の 準 用 に よ り原 判 決 が 破 棄 さ れ た 例(最. 刑 集14巻7号953頁)が. 判昭和. あ る。. 刑 訴 法 時 代 に 公 訴 提 起 さ れ た 事 件 で,上. が 完 成 し た と して,本. 許可. 判 昭 和30年1月21日. 刑 集9巻2号344頁,最. 昭 和27年 政 令 に よ る 大 赦 が あ っ た と して,本 35年5月6日. 刑 集12巻8. の 廃 止 を 理 由 に本 号 が 適 用 され た 例. 刑 集8巻11号1791頁,最. 判 昭 和32年12月10日. 刑. 大判昭. は り 占 領 目 的 阻 害 行 為 と して,無. 大 判 昭 和30年2月23日. 大 赦 の 例 と して は,連. 刑 集10巻1号89頁,最. 大 判 昭 和33年5月28日. で の 海 外 渡 航 や 貿 易 行 為 に つ い て,刑. 30年10月9日. 大 判 昭 和30年11月30日. 大 判 昭 和31年1月25日 刑 集10巻1号105頁,最. 刑 集9巻5号947頁,. 判 昭 和35. あ る。. 本 号 の 適 用 に よ り原 判 決 が 破 棄 さ れ た 前 述 事 例 は,全. て,自. 判 の 上,免. 訴 判 決 が 下 され て い る。 ②. 破 棄 され な か っ た例. 他 方,刑. の 廃 止 等 が 認 め られ な が ら,不. 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 が 維 持. され た例 も あ る。 最 判 昭 和28年2月19日. 刑 集7巻2号260頁. 部 に つ い て 大 赦 が あ っ た が,そ. は,原. 判 決 後 に 公 訴 事 実 の 一・. れ は 有 罪 と さ れ た 多 くの 犯 罪 事 実 の う ち わ. ず か な 部 分 で あ っ た 。 最 判 昭 和50年5月29日. 判 時778号108頁. は,観. 念的競. 合 関 係 に あ る 二 罪 の う ち 一一 つ に つ い て 原 判 決 後 に 刑 の 廃 止 が あ っ た が,右. 21.

(22) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 二 罪 の 法 定 刑 は 同 じで あ っ た た め処 断 刑 に変 更 はな く,具 体 的 科 刑 も相 当 で あ った と判 断 され た。 最 判 平 成8年11月28日. 刑 集50巻10号827頁. は,尊. 属 傷 害 致 死 と殺 人 の 併 合 罪 で 起 訴 され,前 者 が 原 判 決 後 に廃 止 され た例 で あ るが,前 者 につ いて 改 正 後 の 法 定 刑 の 範 囲 内で あ る有 期 懲 役 刑 が 選 択 さ れ,併 合 罪 関 係 に あ る殺 人 罪 か ら無 期 懲 役 刑 を 選 択 した上 で,無 期 懲 役 刑 が 科 され た もの で あ り,犯 情 等 か ら原 判 決 が 維 持 され た。. 四. 1.裁. 検. 討. 判例の傾 向. 以 上,網 羅 的 で はな い にせ よ多 くの 裁 判 例 か ら,最 高 裁 の 著 反 正 義 要 件 に対 す る一一 定 の 傾 向 が 読 取 れ る(7)。 第 一 に,著 反 正 義 と不 著 反 正 義 を 分 け る判 断 基 準 と して,具 体 的 量 刑 が 妥 当で あ るか,被 告 人 の 防 御 が 実 際 に どれ ほ ど侵 害 され たか,と. い う点 が. 挙 げ られ る。 これ は,当 事 者 の 具 体 的 救 済 と い う点 か ら,控 訴 審 まで と は 異 な り,最 高 裁 で は,被 告 人 の 実 質 的 保 護 と い う観 点 が 重 視 され て い る結 果 で あ る と いえ よ う。 例 え ば,手 続 法 違 反 に際 し,被 告 人 側 が その 王 段疵 を 事 実 審 に お いて 主 張 して い たか と い っ た点 は,判 断 に影 響 を 与 え う る。 ま た,前 掲 最 判 昭 和55年12月17日=チ. ッソ川 本 事 件 は,公 訴 権 濫 用 を 理 由 に. 手 続 を 打 切 った 原 判 決 の 理 論 を否 定 しつ つ,事 件 の具 体 的 背 景 等 を考 慮 し,不 著 反 正 義 を 理 由 に原 判 決 を 維 持 して い るが,こ れ な ど は,具 体 的 事 件 に お け る結 論 の 妥 当性 を 追 求 す る こ とか ら導 か れ た もの と いえ よ う。 こ の よ うな 視 点 は,事 実 誤 認 の 破 棄 事 由 につ いて,複 数 犯 罪 の 一一 部 事 実 につ いて 事 実 誤 認 が あ る場 合,そ れ を 除 外 し他 の 犯 罪 事 実 だ けで も原 判 決 の 量 刑 が 著 反 正 義 と まで いえ な い場 合 に,原 判 決 が 維 持 され て い る傾 向 に も通 (7)原. 田(前. 掲 注(3))『 大 コ ン メ ン タ ー ル 刑 事 訴 訟 法 』568頁. 22. 。.

(23) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. 底 す る。 第 二 に,最 高 裁 が,法 令 解 釈 の 統 一一 を 図 るべ く,具 体 的 事 件 に関 す る結 論 の 妥 当性 よ りも,法 令 解 釈 適 用 を 明 確 に し,実 務 上 の 統 一 的 基 準 を 提 示 す る こ とに主 眼 を お いて,原 判 決 を破 棄 す る と い う傾 向 が見 られ る(8)。 例 え ば,前 掲 最 判 昭 和43年7月11日. で は,未 決 勾 留 日数 の 算 入 が わ ず か 一 日. 過 剰 で あ っ た と い うだ けで 原 判 決 が 破 棄 され て い る。 第 三 に,量 刑 不 当 に関 して,そ れ が 「著 し く不 当 」 で あ る場 合 に は,お よ そ著 反 正 義 と認 め られ る こ とが 通 常 で あ る。 それ ゆえ,こ の 破 棄 事 由 に 関 して は,具 体 的 事 例 に お け る結 論 の 妥 当性 が 強 く要 請 され る。 但 し,死 刑 の 当否 が 問 題 とな る事 件 で は,生 命 剥 奪 と い う死 刑 制 度 そ の もの の あ り 方 を め ぐ り,量 刑 の 著 しい不 当性 が 全 て 著 反 正 義 と まで いえ るか は留 保 が 必 要 で あ ろ う。. 2.若. 干の考察. 裁 判 例 に お いて 以 上 の 傾 向 が 認 め られ るが,こ れ ら は,本 条 の 適 用 ・運 用 に お いて 妥 当で あ る と いえ るか 。 本 条 の 著 反 正 義 要 件 は,ど の よ う に理 解 され るべ きか を 検 討 す る。 そ も そ も 「正 義 」 と は,問 題 領 域 ご と に多 様 に定 義 され う る概 念 で あ る が,刑 事 訴 訟 で い う それ は,"justice",つ る秩 序 を 実 現 し維 持 す る こ と」(広 辞 苑)で. ま り 「社 会 全 体 の 幸 福 を 保 障 す あ る と理 解 さ れ る。 す な わ ち,. 「刑 事 事 件 につ き,公 共 の 福 祉 の維 持 と個 人 の基 本 的 人 権 の 保 障 とを 全 う しつ つ,事 案 の 真 相 を 明 らか に し,刑 罰 法 令 を 適 正 且 つ 迅 速 に適 用 実 現 す る こ と」(刑 訴 法1条)で. あ る。 従 って,刑 事 訴 訟 で は,実 体 の 解 明及 び. 刑 罰 法 令 の 適 切 な 実 現 と,個 人 の 基 本 的 人 権 の 保 障 とが,正 義 を 実 現 す る た めの 不 可 欠 の 要 素 とな る。 それ は,実 体 的 正 義 と手 続 的 正 義 の 二 面 か ら (8)千 葉 裕 「判 例 解 説 」 昭 和43年 最 判 解184,192頁(1969年)。. 23.

(24) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 構 成 され る と い って よ いだ ろ う。 それ ゆえ,正 義 に反 す る と は,実 体 的 正 義 と手 続 的 正 義 の いず れ か に お いて,個 人 及 び社 会 の いず れ か に不 当な 結 果 が 生 じて い る こ とを い う。 も っ と も,個 人 と社 会,実 体 的 正 義 と手 続 的 正 義 の4つ の フ ァ ク タ ーで 構 成 され るべ き正 義 は,場 面 に よ って は,そ の 全 て を充 足 す る こ とが 困 難 な 場 合 も あ りう る。 その よ うな 場 合,要 素 間 で の 衡 量 が 必 要 とな るが,不 著 反 正 義 と い い う る た め に は,一 一 部の要素 にお け る不 正 義 が な お受 忍 され るべ き必 要 最 小 限 度 の もの に と ど ま って いな け れ ばな らな い。 受 忍 限 度 を 超 え る場 合 に は,も はや,著 反 正 義 と いわ な け れ ばな らな い。 正 義 に 関 す る こ の よ うな 衡 量 的観 点 に加 え て,刑 訴 法411条 の運 用 に あ た って は,最 高 裁 判 所 が 担 うべ き その 機 能 如 何 の 問 題 を あわ せ て 考 慮 しな けれ ばな らな い。 この 点 につ いて は,前 述(一 う した と こ ろで あ るが,そ れ に よ る と,違 憲 審 査 権 行 使 に よ る国 家 機 関 の 行 動 統 制,最 上 級 審 と して の 法 令 解 釈 の 統 一一,そ して 具 体 的 事 件 に お け る訴 訟 当事 者 の 救 済 と い っ た 点 が 挙 げ られ る。 この よ うな 観 点 か らは,例 え ば,法 令 解 釈 適 用 の 誤 りや,事 実 誤 認 に よ り,無 実 の 者 が 処 罰 され る こ と は,著 反 正 義 の 最 た る もの と い って よ い。 も っ と も,そ の逆 の場 合,つ ま り法 律 上 本 来 処 罰 され る べ き で あ った者 が, 原 判 決 の 解 釈 適 用 の 誤 り又 は 事 実 誤 認 か ら,誤 って 無 罪 と さ れ た 場 合 に も,常 に著 反 正 義 と い い う るわ けで はな い。 正 義 の 要 請 が 必 罰 主 義 と必 ず しも結 びつ くわ けで はな く,現 行 訴 訟 法 内の 枠 組 を 超 え て,現 行 制 度 に対 す る批 判 的要 素 も盛 込 ん だ もの と考 え う るな らば(9>,原無 罪 判 決 へ の 被 告 人 の 信 頼 や,検 察 官 上 訴 制 度 の 問 題 点 な どの 批 判 的 要 素 の 存 在 は,法 的 に 誤 っ た原 判 決 を 破 棄 しな くて も,著 反 正 義 と は いえ な い場 合 も あ りう る。 具 体 的 事 案 に お け る刑 の 軽 重 等 も考 慮 の 上,結 論 の 妥 当性 が 実 質 的 に検 討 (9)渡 部 保 夫 「判 例 解 説 」 昭 和55年 最 判 解392,434頁(1992年)。. 24.

(25) 刑 訴 法411条 に よ り原 判 決 が 破 棄 され るべ き 「著 反 正 義 」 要 件 につ いて. され な けれ ばな らな い。 付 加 刑 付 与 や,未 決 勾 留 日数 算 入 につ いて も,同 様 に,被 告 人 側 に有 利 な 方 向 で の み,片 面 的 に破 棄 の 当 否 を 考 慮 す る と い う こ と も許 され るで あ ろ う。 この よ うな 運 用 に よ って も,国 家 機 関 の 行 為 の 是 正 や,法 令 解 釈 の 統 一一と い っ た要 請 は,最 高 裁 が 違 法 との 判 断 を 示 す こ とだ けで も十 分 果 た され う る と思 わ れ る。 ま た,手 続 的 正 義 の 観 点 か らも,被 告 人 側 に有 利 な か た ちで 片 面 的 に考 察 す る こ とは 許 さ れ るで あ ろ う。 弁 護 権 の 侵 害 や 公 判 期 日へ の 出頭 不 能 等,被 告 人 の 防 御 へ の 影 響 が 強 度 の もの で あ る場 合,具 体 的 事 件 にお け る 科 刑 の 妥 当性 を 離 れ て,手 続 的 正 義 の 実 現 が 追 求 され な けれ ばな らな い。 この こ と は,証 拠 能 力 や 信 用 性 判 断 に お いて も,同 様 で あ る。 被 告 人 に対 す る手 続 的 保 障 が 十 分 果 た され て こ そ,当 事 者 主 義 の 要 請 と して,結 論 に 対 す る被 告 人 の 納 得 が 得 られ る。 それ ゆえ,手 続 法 違 反,特. に被 告 人 の 防. 御 権 に実 質 的 な 影 響 を 与 え る環 疵 につ いて は,基 本 的 に,原 判 決 を破 棄 し, 改 めて 手 続 保 障 を 十 分 行 っ た上 で,審 理 を や り直 させ るべ きで あ る。 前 掲 最 判 昭 和43年4月26日. は,具 体 的 科 刑 に対 す る影 響 が な いな どの 理 由で 原. 判 決 を 維 持 し,そ の 際 被 告 人 の 側 に 「重 大 な 法 律 上 の 利 益 の 侵 害 を 生 ず る こ と はな い」 と判 示 して い るが,そ. こで い う法 律 上 の 利 益 侵 害 が 単 に具 体. 的 事 件 の 結 論 で あ る量 刑 の み を 指 す の で あれ ば,本 号(刑 訴 法411条1号) は独 立 の 意 義 を 持 たな い もの とな るで あ ろ う。 この 意 味 か ら は,規 定 に反 して 判 事 補 が 合 議 制 裁 判 に関 与 して い た事 例(前 掲 最 判 平 成19年7月10日) だ けで な く,も っ と広 く破 棄 され て よ い。 検 察 官 不 在 の 判 決 宣 告 事 例(前 掲 最 決 平 成19年6月19日)な. ど は,限 界 事 例 で あ るが,こ の 段 階 で は も は. や 被 告 人 の 防 御 へ の 影 響 は ほ とん ど考 え られ な いた め,原 判 決 維 持 は妥 当 で あ っ た と思 わ れ る。 これ に対 し,検 察 官 側 に不 利 な 暇 疵 につ いて は,そ の 程 度 や,検 察 官 か らの 当該 審 級 内で の 異 議 申立 の 有 無 等 も考 慮 の 上,原 判 決 破 棄 が ま さ に著 しい王 段疵 が あ る場 合 に限 定 され るべ きで あ る。 訴 因 変 25.

(26) 近畿大学法学. 第56巻 第2号. 更 の 必 要 性 が 問 題 とな っ たが,有 罪 認 定 に影 響 が な い と され た前 掲 最 決 平 成15年2月20日. の よ うな 場 合 だ けで な く,検 察 官 側 に不 利 な 環 疵 につ いて. は,そ の報 疵 の指 摘 だ け に と どめ,で き る限 り原 判 決 を維 持 す るべ き で あ る。. 五. お わ りに. 以 上,本 稿 は,最 高 裁 判 所 が 原 判 決 を 職 権 で 破 棄 す る た めの 要 件 で あ る 著 反 正 義 につ いて,裁 判 例 の 整 理 及 び分 析 を 行 っ た上 で,若 干 の 考 察 を 加 え た。 指 摘 した裁 判 例 は断 片 的 な もの に と ど ま り,ま だ まだ 不 十 分 な 点 も 多 い が,本 要 件 につ い て の,最 高 裁 の 傾 向 を読 取 り,考 察 を加 え る に あ た って は,最 小 限 度 を 満 た して い るで あ ろ う。 考 察 に あ た り,「正 義 」の 実 現 に際 し被 告 人 側 に有 利 な か た ちで 片 面 的 に 構 成 され るべ き,と の 私 見 を 提 示 した。 も ち ろん,そ れ は絶 対 的 な もの で はな く,当 該 事 件 の犯 情 や,具 体 的 手 続 状 況 等 を 考 慮 した 上 で,「 政 策 的 配 慮 」 を前 提 と した 「健 全 な 法 的 感 覚 」 に基 づ いて 判 断 され な けれ ばな らな い⑩。 しか し,そ の 際 に も,前 述 した よ うな 最 高 裁 の任 務,及. び,本 条 に. よ る最 高 裁 の 介 入 が 職 権 に よ る もの で あ る こ とを,忘 れ て はな らな い。 当 事 者 主 義 を 基 調 と しつ つ,そ れ を 補 完 す るか た ちで 裁 判 所 の 職 権 的 介 入 を 認 め る現 行 法 の趣 旨 は,著 反 正 義 の判 断 に際 して も,基 本 的 に,被 告 人 側 に 有 利 な方 向 で片 面 的 に考 察 す べ き こ とを要 請 して い る とい うべ きで あ ろ う。 本 稿 で 検 討 され た著 反 正 義 要 件 は,ま さ に,刑 事 訴 訟 に お け る 「正 義 」 如 何 を問 題 と し,刑 事 訴 訟 の 本 質 を 問 うべ き規 定 で あ る。 司 法 の 姿 勢 が 顕 著 に具 現 化 され る もの と して,今 後 も,最 高 裁 に よ る その 解 釈 ・運 用 に注 目 して い き た い。 (2008年6月 ω. 原 田(前 掲 注(3))『大 コ ン メ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法 』573頁 。. 26. 脱 稿).

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