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西欧精神史における近代的政治社会意識の発生と展開 : 特にホッブズ・ロック・モンテスキュ-を中心として

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Academic year: 2021

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(1)西 欧精神史 にお け る近 代 的政 治 社会. 識 の 発 生 と展 開. 一 一 特 に ホ ッブ ズ 0ロ ック. 士. 武. モ ンテ ス キ ュ ー を 中心 と して一―. 夏. 男. そ の時代的背景 と諸作品 本論稿 で 些か 精神史的考察 を 試 み た い こ と は , ホ ッブズ (Th.HObbes, 1588∼ 1679)か ら ロ ック (J.Locke。 1632-1704)へ ,そ して ロ ックか ら モ ・ (Charles de Secondat,Baron de Brё ンテ ス キ ュー. de et de Ⅳbntesquieu. 1689∼ 1755)へ と明 らかに転形 を示 して いた とみ られ る所 の ,近 代 的政治社 会意識 の発生 と展 開及 びその構造的特質 につ いてで ある。 ホ ッブズ ,ロ ック. ,. モ ンテ スキ ュー はそれぞれ歴史的時差 と背景 とを相異 に して いた とはい うも のの , 一 般 に ひ と しく近代的 (mOdern)と 見倣 され る論拠 は , 彼等 の政治 社会 意識 が中世的神学 や伝統 か らでな く,内 奥を究 めた人 間研究 か ら演繹 し て 真 に革命的 といわれ る独 自の政治社会理 論 によ って ,何 れ も政治社会思 想 発展 史上 に不朽 の業績を成 し遂 げたか らで ある。 ホ ッブ ズ は イギ リス市民戦 争 (the ciVil War,1642∼. 1649)か ら 王政復古 の 時代 (the Restoration. 1660∼ 1688)に 至 る成立期 の絶対主 義時代 を背景 と し,そ の著『 法学要綱 』 (the Elements of Law。 1640),『 社会論』 (De Cive,1642),『 リヴ ァイアサ ン. (Leviathan,1651),ま た ロ ックは名誉革命 (Glorious Revolution,1688)と い うイギ リス市民革命 を背景 と し,そ の著『 政論 二 篇』 (the two Treatises. on Civil Government,1690)さ らに モ ンテ スキ ューは ル イ14世 末期 か ら 摂 政時代 ,ル イ15世 時代 にいた るフラ ンス絶対主 義時代 (前 近代的 なア ンシ ャ ン 0レ ジームの 時代 (Le rё gne de l'ancien rё gime)を 背景 と し, その著.

(2) 西欧精神史における近代的政治社会意識 の発生と展開. 31θ. 『 ロー マ人盛衰原 因論』 (COnCidё rasions sur les causes de la grandeur. de Romains et leur dё cadence,1734)及 び『 法 の精神』 (De 19esprit des lois,1748)等 の 諸作 品 に現 われた 政治社会意識 の 比較 史学 史的考察 に焦点 を しぼ って ,そ の展 開過程 に画 された転形 を政治 ・社会思想史的 に考 察 した い と思 う。 Ⅱ諸 作 品 の 比 較 史 学 史 的 考 察 1。. ホ ップズ と『 リヴ ァイ アサ ン』 周知 のよ うに , グーチ. (G.P.Gooch)の 呼 んだ17世 紀 の政治的論議 の時. 代 (Age of political discussion)に. おいて ,ホ ッブ ズの二 部作『 法学要綱』 ,. 『 社会論』,『 リヴ ァイアサ ン』 な どに 展示 された 政治的社会 の研究 (Study of political society)は 何 れ も人間性 の科学的研究 を も って 始 め られた,や が. て人 間論 か ら国家論 に うつ り,そ の最 も完成 した思想 は『 リヴ ァイアサ ン』 にみ られ るが , この著 は ロ ックの『 政論 二 篇』, モ ンテ ス キ ューの『 法 の精 神』 と共 に ,西 欧近代 の政治学 的古典 と して極 めて 重要 な政治社会思想史的 意義を もち,後 世 に永 く影響 を及 ぼす もの とな ったので あ る。 そ こで ,ホ ッブズの思想 の一般 的分析 か ら出発 して 問題 の焦 点を しぼ って 行 くと,ホ ッブズは先 ず ,政 治的社会成立 以 前 の 自然状態 において人間を考 察す る。そ して人 間社会 を人間本性 か ら自己保存 (Sdf― preservation)の 体 系 と して理 解す る。すなわ ち,彼 は人 間 と政治の とらえ方 にお いて ,人 間本 性 と しての 虚栄 (Vanity)競 争 (COmpetition)休 みな き永続 的 な 力 の 欲望 (a perpetual and resdess desire of power)な. どの人 間的欲望や激情 に深. く根差 した根本 的動機 か ら人間 は 自己保存 (Sel卜 preservation)の ため ,必 然的 に「 万人 の万人 に対す る闘争 の状態 (War Of every man against every. man:bellum omnium contra omnes)を 現 出す ると説 いた 。 そ して ホ ッブ ズ は ,こ の人間性 論 か ら自然状 態 =闘 争状 態 → 社会契約 → 政治社会 =リ ヴ ァ イアサ ン (Leviathan)の 形成 とい う論理的 プ ロセ スを導 き出 した。 彼 は一 貫 した 論理 を も って 論 理的 =非 歴 史的 に 自己保存 の論理 を展 開 した上 ,そ の.

(3) 311. 吉 武 夏 男. 自 己矛盾 か ら自己保存権 =自 然権 の 同時的相 互 的譲渡 によ る政治社会 の形成 を構想 したので ある。すなわ ち,ホ ッブ ズ的意味 にお け る政治社会 =(国 家 は自然権 の譲渡 に よ る人間 の 契約 と力 とを 媒介 と して 成立す る political. commonwealthを 意味 して いたので ある。 いいかえ ると, ホ ッブ ズ は 第 一 に社会 の基盤 と しての契約 ,第 二 に契約 その ものを 支 え る 力 と を 2つ の 根 本原理 とす る国家 の概念 を『 リヴ ァイアサ ン』 に於 いて 明確 な 形 と して 整 えたので ある。 ここに おいて , 彼 は「 設立 によ る 国家 (COmmOnwealth by lnstitution)に つ いて 次 の よ うに 述 べ る,「 一つの国家はつ ぎのときに設立され たといえる。すなわち,全 員の人格を,代 表す る権利を. (即. ちかれ らの 代表者 となる. 権利を)多 数決によ っていかな る個人 ま た は人 の集会に与えるべ きかを,全 員の同意 によ り,各 人が各人 との契約 によって定 めたときに国家は設立 される。各人 が 賛成 し なか った もの も同 じように, この個人または集会 のすべての行為 と判断 とが彼等 自身 の もので あると同 じように, これを承 認 (authOrize)し なければな らぬ。 この 目的は それによって彼等自身が平和に生活 し,外 敵か ら防衛 されることにある云 々」 と。 か く, ホ ッブズ は政 治 社 会 =(Leviathan)成 立 の基 盤 と して 社会 契 約 論 か ら出発 した 。 そ して そ の 契 約 論 は ,人 民 と政 府 との間 の 契 約 で な く して. ,. 各 個 人 の 同意 の 理 論 (theOry of consent)を 基 礎 と して いた こ と , これ を 要 約 す る と , この 契 約 の結 果 , 選 ば れ た た だ一人 の 人 格 (A sole person) に 国家 政 府 が授 け られ ,主 権 はそれ に 譲 渡 され る。 そ して主 権 者 =政 府 は契 約 の 当事 者 で な く,選 ばれ た 第 二 者 で あ るが故 に ,彼 は契 約 に した が う義務 や 制 約 に全 く東 縛 され な い。 また彼 は 国家 の 法 の 外 部 に 或 はそれ らを越 え て 存 在 す る。 契 約 の 結 果 ,各 人 が権 利 を譲 渡 す る こ とに よ って 直 接 に主 権 者 に 無 制 限 の 権 利 が発 生 す る。 国家 が設 立 され るや ,政 府 は ホ ッブ ズ に と って主 権 者 とな るので あ る。 そ こで は民主 的 政 府 は問題 とされ て いな か った 。人 民 はた だ 受 動 的 に 服 従 関係 が発 生 し,そ の 政 治 の 善 ,悪 に か か わ らず ,服 従 す るよ う義 務 付 け られ る。人 民 は あ らゆ る権 利 を譲 渡 す るので ,そ の 支 配 者 は 絶 対 的 支 配者 (absolute master)と な る。 か く して , 人 民 に よ つて 創 出 さ.

(4) 312. 西欧精神史における近代的政治社会意識の発生と展開. れなが ら, しか も人民 を越 えて絶対化 され るとい うホ ッブ ズの構想 が認 め ら れ るので ある,す なわ ち,ホ ッブ ズ は人民 の代表 た る主権 者 は契約 によ って 力を受権 し,そ の権 力 は人民 に対 して もつべ きもの とす る。人 間論 にお いて 個人 的利益又 は個人的善を強調 して いた ホ ッブ ズ は国家論 にお いて は主権 の 絶対的権 力を認 め るので あ る。殊 に ,そ の 国家権 力を受 け る主権 者 に多 くの 権 力 が無制限 に賦 与 され る。彼 は『 リヴ ァイアサ ン』第 18章 において主権 者 の諸権利 につ いて13項 目を挙示 した後 ,特 に主権 者 の権 力 は分割で きな い こ とを述 べ ,「 主権者の権力を国王,上 院, 下院に分割 したことが内乱の原因であった 云 々」 とさえ論 じてい る。 か く,ホ ッブズの構想 は , 国家政府 の主権 を確立 す る ことを 目的 と し, 主 権 (SOVereignty)は 政府 (GovernΠ lent)と 同 一視 し, 主権 の本質的属性 と して無 制限 (unlimited)で あ る こと, また 分割 さ れな い こ と (indiVisible)を 中心思想 と して いた。 このよ うに ,ホ ッブズが国家 の本質を主権 の絶対性 の上 に 置 こ うとす る所 に絶対君主政治 を 最上 と考 え る彼 の 思想 が現 われて いた 。 す なわ ち, 彼 は 『 リヴ ァイアサ ン』 において「君主政治においては私的利益と公的利益とが一致す る云 々」 と述 べ るよ うに , 君主 政治 の優越性 を主張 したので あ る。 このよ う な 絶対君主 制を本質 とす る国家 は近代的絶対君主 的国家 を意味 して いた とい う ことがで きる。 ホ ッブズは人間 の 自由 と平等 の理 論 か ら出発 しなが ら,民 主主 義者 (Democrat)又 は自由主 義者 (Liberalist)と して 民主政治を 主張 せ ず ,か え って , 絶対主 義的 国家論 (dOCtrine Of the absolute state)を 主 張 す るに至 った。 このよ うに ,ホ ッブズが人 民 を 自然的 に至 高的存在 と考 え. ,. 社会 の成立基盤 と して の 社会契約論 か ら 出発 しなが ら, 結局 , 絶対主権 (abS01ute sovereignty)を 確立 し,近 代西欧 の絶対主 義を理論的 に基礎付 け その思想的代弁者 とな ったの は,ホ ッブズ時代 の イギ リス社会 の歴 史的矛盾 ― 旧来 の封建 的 ,宗 教的勢力 と近代市民的 勢力 との拮抗 の影響 によ るもので あ った と考 え る ことがで きるで あろ う。. ,.

(5) 313. 吉 武 夏 男 2。. ロ ックと『 政論二 篇』. ホ ッブ ズ と ロ ックとは年令 は44才 の距 りこそ あ るが ,共 に内乱 ,革 命 を背 景 と して よ く相似 た人生 行路. (イ. ング ラ ン ド西部 出身 ,オ ックス フ ォー ド大. 学卒 )を 辿 りなが ら終生著作 に従事 した。それに もかかわ らず ,両 者 はそ の 学説 において極 めて著 しい対極 をなす思想家で あ り,断 絶 があるよ うな こと は ,稀 有 のよ うにす ら思 われ る。大 体 ,ロ ックが ヨー ロ ッパ 的名声を博 した のは ,1688年 の名誉革命 以 後 に公 刊 された諸作 品 によ ってで ある。例 えば. ,. 『 宗教的寛容 に 関す る書簡』 (AIン etter Concerning Toleration,1689)『 人 陛 に 関す るエ ッセ イ』 (An Essay Concerning Human Understanding, 間′ 膳′ 1690),『 政論 二 篇』 (TWO Treatises on Ci宙 l Government 1690),『 宗教 的. 寛容 につ いての第 二 の書簡』 (SecOnd Letter on Tderation 1690)『 宗教的 寛容 につ いての第 三 の書簡』 (Third Letter on Toleration,1691),『 教育 に 関す る若干 の思想』 (SOme ThOughts cOncerning Education,1693)な. どが. 挙 げ られ るが ,特 に有 名 な もの は政治的著作 と しての『 政論 二 篇』 で あ る: 彼 は政治的分野 の みな らず ,宗 教的領域 に於 いて も自由主 義者 と して ,個 人 的 自由 と宗教的寛容 の 教義を強力 に 擁護 した著作人 で あ った。 ロ ックの学 説 の 影響 は, イギ リス に止 ま らず ,遠 くバ ー ジニ ア の 権 利章典 (Virginia. Bill of Rights,12.6.1776.)ゃ ァメ リカ独立宣言 (American Declaration of lndependence,4.7。. 1776.), さ らに これ らの事件 を通 じて , 又 モ ンテ ス. キ ューな どの 学説 を経 由 して , フ ラ ンス革命 の 人権 宣言. (Dё daration. des. droits de rhomme et du citoyen,2681789。 )に も及 び ,そ の一連 の西欧 近代 の民主主 義運動 に ロ ックの原理 の適用 が見 出 され るので あ る。 彼 の『 政論 二 篇』 中 の 第 一 論稿 (First Treatise)は 直接 ロバ ー ト・ フイ ル マ ー 卿 (Sir Robert Filmer,1604∼ 1674)の 『 家 長 論』 (Patriarcha,. 1680)を 攻撃 し,そ の誤 れ る基礎 的原理を暴露 し覆 がえそ うと して論駁 した もので あ る。そ こで は ,ロ ックは絶 対君主 制 の決定的反対論者 と して現 われ る。その序 文 にお いて ロ ックは 「 この書の目的は国王ウイ リアムの王位を確実にし,彼 の地位を人民に対 し正当化.

(6) 西欧精神史 における近代的政治社会意識 の発生 と展開. 314. すると共に,適 法なる自然権への愛 と,こ の権利を確保せんとする決意によって 奴隷と碩廃への転落から自らを救 ったイギリス人民を,世 界に対 して合法化す るこ ,. とにある」 といい , 同時 に彼 は「 若 し当時の僧正会議が ロバー ト・ フイルマー卿 の学説を公に 採用して,そ れを支配的学説たらしめようと企てなかった ら, フイルマー卿 について それほど詳細 に論 じなかったであろう云 々」 といい,そ して「 国家に関する誤 った概 念の普及より以上に君主及び人民のために不利益なものはない云 々」とい うので あ る。 したが って ,そ こに於 け る論敵 は明 らかに フイル マ ー及 びその追 随者 で あ っ て ,ホ ッブズよ り王党派 に人気 が あ り,評 判 がよか ったので ,ホ ッブズを攻 撃す る必要 もなか ったわ けで あ る。 しか し論難 され るフイルマーの思想 は. ,. 絶対主義的 な点 に於 いて ホ ッブズ と一 脈相通ず るもので あ った。 フイルマー はそ の当時 のただ一人 の ,ホ ッブ ズ を賞 賛 す る政治 学者 で あ った といわれ る か ら,ロ ックの フイルマー批判 は間接 に ホ ッブズに指 向 されて いた もの とも 考 え られ る。 第 二 の政治論 (SecOnd Treatise)は ロ ック 自身 の 積極的 な 政治理念 を包 合 して い る もので あるが , そ こに 於 いて ロ ックは「市民政府の真の起源,範 囲. ,. 目的 (the true origin,extent,and end of civil government)」 を問 う こ と に よ つ て ,政 治的社会 と しての市民社会 に於 け る政治的権 力 の何 た るかを検 討 し ,. フイル マ ー を通 して ホ ッブズの学説 に対抗す るので あ った。尤 も,こ の場合. ,. ホ ッブ ズ と ロ ックの提起す る問題 は極 めて似通 うものが あ り,そ の 問題 とは 人間 はどう して政治的社会 を形成 しよ うとす るので あ るか ,又 それ はどの よ うに して形成 で きるか とい う ことで ある。 しか も この 問題 の解答 は ,ロ ック とホ ッブ ズ とは頗 る相異な る ものがあ り,ロ ックに於 いて は じめて ,市 民的 解答 が与え られた。 この点 において ,ロ ックはその後 の西欧近代 の民主主 義 思想発展 の上 に決定的意味を もつ もので あ った 。 このよ うな 問題 の解 決方法 と して ,ロ ックはホ ッブ ズ ,そ の他 17世 紀 の多 くの思想家 と同 じ く,自 然状 態及 び社会契約 理論か ら出発 して 自然法的 に 自己の政治理論を明確 に弁証 し たので ある。 ここに於 いて ,ロ ックは先 ず 自然状 態 の考 察か ら始 め る。すなわ ち,彼 は.

(7) 吉 武 夏 男. 375. 第 二 論 稿 の 冒頭 に お いて 「 自然状態 (state of natureり は自由の状態 (a state of libertyり であるが,放 縦 の状態 (a state of licence)で ない。 その 状態に於 いては 人間は自分 の身体や財 産 の処分 の無制約 自由を もってい るとはいえ, しか も彼は自己の 自由またはその所 有す る被造物をさえ これを破壊す る自由を もたない。 自然状態には,こ れを支配す る一つ の 自然法 (Law of nature,が ぁり,何 人 もそれに従わねばな らぬ, その 自 然法である理性 (Reasonり は これを重んずる全人類に,す べての者 は平等 (equ』 ) であ り,独 立 (independent)で ぁるか ら,誰 れ も他人 の生命 (life),健 康 (heal_. th),自 由 (liberty),ま た財産 (posseSSiOns)を 害すべ きでない ことを教えるので ある。人間はすべて,唯 一人の全智全能なる創造主の作品であ り,す べて,唯 一人 の主なる神の僕 (Servants of one sOvereign masterり として主の仕事 のためにこ の世 に送 り込まれたものであるか らである。人間はすべて主の もので ある。主のも の はただ主の心のままに存続せ られな くてはな らない。人間はすべて 同 じ能力を与 え られ,ま た 自然を共有 しているので あるか ら,劣 等 な動物が我 々の役に立つ よう に作 られているように,他 人 の役 に立つために,作 られているので はない。他人を 害す ることを 権威付けるような如何 なる隷従 関係 (SubOrdination)も 考え られな いので ある。各人は自然 自身を維持すべ きであ り,ま た自己の持物を勝手 に放棄す べ きではない。同 じ理由か らして,彼 は自ら自身の存続が危 くされない限 りで きる だけ他の人間を も維持すべ きであ り,そ して,侵 害者 に報復す る場合 を除いて は 他人 の生命ない し生命の維持 に役立つ もの,他 人 の 自由,身 体または財産を奪 い も ,. しくは傷つ けてはな らないのである云 々」 とい う。 こ こに い う ロ ックの 基 本 的 な 考 え 方 は ,第 一 に 自然状 態 に は既 に これ を支 配 す る一 つ の 自然 法 が あ り,何 人 もそれ に 従 わ ね ばな らぬ 。 第 二 に 自然 法 か らあ る 自然権 が 引 き出 され る。 第 三 に人 間 の 自然権 とは生 命 ,自 由及 び 所 有 へ の 権 利 (Rights to life,liberty,and property)が 挙 げ られ る。 四 に 第 自 己保 存. (Self― preservation)が. 自然状 態 の 原 理 で あ る。 第 五 に 自然法 は権 利. を許 与 す るの みで な く,そ れ は人 間 に 義務 を課 す る。 自 己の生 命 ,財 産 が 損 わ れ な い 限 りで き るだ け他 の 人 の 生 命 ,財 産 は尊 重 され な けれ ば な らな い。 自 己の生 命 保 存 は絶 対 的 権 利 で な い。 第 六 に人 間 関係 に は絶 対 的権 威 はな い。 従 って ,ロ ックの 自然状 態 は ホ ッブ ズ の い うよ うな万人 に 対 す る万人 の 闘争 状 態 で な い。 しか るに ,ロ ックの 自然状 態 に 於 け る人 間 は 自 己保 存 と ,他 人.

(8) 西欧精神史 における近代的政治社会意識 の発生 と展開. 31δ. の所 有 権. (prOperty)1生 命 ,自. 由 ,財 産 な ど これ らす べ て を 包 括 す る もの. と して の 所 有 権 尊 重 の 原 理 を通 じて考 え られ て いた 。 そ の 場合 ,自 己保 存 は 自 己 の 自然 的 意志 に よ る もので な く,自 然 法 即 ち人 間 の 創造 者 で あ る神 の意 志 に よ つて そ うす る こ とを命 ぜ られ て い る もの で あ る。 い いか え る と ,人 間 は神 に よ つて 創造 され た もの で あ る故 に 神 に 直 結 され ,こ の 直 結 に よ って 人 間 的支 配 関係 は切 断 され ,権 利 の主 体 と して成 立 す る とい う論 理 に基 礎 を 置 くもので あ つた 。 しか し自然状 態 は仮 令 ,戦 争 状 態 で な い と して も,不 幸 に もそ れ は平 和 が 確 保 され て いな い不 安 な 状 態 で あ る。 それ とい うの も,そ れ は絶 えず堕 落 した人 々の llk敗 と惇 徳 とに よ つて 平 和 が くつ が え され るか らで あ る。 それ 故 , 自然状 態 は如何 に 自由 な 状 態 で あ る と して も, 恐怖 (fear) と絶 え ざ る不 安 (uncertainty)の み ちて い るよ うな 状 態 で あ る。 そ こで ,ロ ックは 「 自然状 態においては生命,自 由,財 産,所 謂総称 して所有権 (prOperty)を 相互 に維持す るた めに必要な多 くの ものが欠けている。その一は自然状態 においては善 ・ 悪やすべての紛争を決裁す る基準 として人 々の同意によ つて承認 された確乎 とし た確定的な周知 のポ ジテ ィヴ (positiVe)な 法が欠如 していること, その二 は 自然 べ 状態 においては実定法 により権威を具 えて,す ての意見 の相違を決定す る周知 の 公平無私な裁判官が欠如 していること,そ の三は自然に於て 1lrの 判決が正 しくと も,そ の判決 を公平に執行せ しめる権力が欠如 していること云 々」 と述 べ ,彼 は 自然状 態 に 於 け る 3つ の 欠 陥 (imperfections)を 指 摘 す る の で あ る。 か く,自 然状 態 に 3つ の 欠 陥 が あ るので ,彼 は この 欠 陥 を治 療 す るた め 公 平 に法 を管 理 す る司 法 部 ,司 法 部 の 決定 を執 行 す る行 政 部 ,判 断 の一 般. ,. ル. ー ル を審 判 す る立 法 部 の 3つ が必 要 で あ る と した 。 そ こで ,ロ ックは い (CiVil Govern_ 「 市民政府 とは本来, 自然状態に お け る不便 の 救済 に他な らな ment is the proper remedy for inconveniences of the state of nature,」. とい うの と,正 に このよ うな理 由 に もとづ くといわれな ければ な らな い。 し たが って ,ホ ッブ ズの 自然状 態 に於 け る恐 怖 と ロ ックに於 け る不便 とは本質 的 に異 な った概念 で あるか ら,両 者 の政治社会成 立 に多 くの差異 の存 す るの.

(9) 317. 吉 武 夏 男. の は恐 怖 (fear) も,当 然 で あ った o即 ち ,ホ ツブズ に於 け る政 治 社 会 成 立 が か らの逃 避 が考 え られ , ロ ックに於 いて は 不 便 (incoVeniences)の 救 済 主 張 され ,人 間 は不 都合 ,不 便 な 自然状 態 か ら脱 却 す るた め ,相. 互 に契 約 を. る。 結 ん で政 治 的社 会 と して の 市 民 社 会 に入 るに至 る と され → こ こに於 いて ,ロ ツクは 自然状 態 → 自然権 =自 然法 社 会 契 約 の思 考 形 式 る に よ つて 政 治 的 社 会 =(市 民 社 会 )=国 家 の 成 立 に つ いて の理 論 を展 開 す べ る。 す な わ ち ,ロ ックは政 治 的 社 会 の 起 源 に つ いて 次 の よ うに述 ら,何 人 も自ら同意す る 「 人間はすべて自然的に自由にして独立 した存在であるか のでなければ,自 己の財産を奪われることもあり得 な し,ま た他 の ものの政治的権 は 力 (politiCal power)に 従わせ られることもあり得 ない。そ してその政治的権力 つて こ 快 他 の人 々との同意 によつて形成 されるのであって,人 々はそうす る とによ の 己 て 所有権 し ,自 に加入結合 る共同社会 つ とす な相互生活を目的 適 ,安 全旦 平和 のである。か (prOperties)を 安 じて享有 し,外 部 に対 して一層の安全保障を期す る に くて人 々が一個の共同体若 しくは政府をつ くることに同意 した場合 ,彼 等 はそれ いて ,多 ょ って一 つの政治体 (One bOdy pelitic)を 形成す る。 そ して その中脂幹 つ のである云」 を も も のを拘束する権利 の の も と残余 数 の人間 が決議 権利 と。 か く, 彼 は政 治 的 社 会 の 起 源 (Beginning of political society)を. 契 約 に求. め ,自 然状 態 か ら政 治 的社 会 へ の 移 行 過 程 に お け る契 約 の 第 一 段 階 と して各 して , 多 数 人 の す べ て の 同意 (COnsent of every individual),第 二 段 階 と この 場 合 , ロ ックに於 者 原 理 (maiority principle)を 主 張 す る ので あ る。 け る 契 約 は 政 治 的 社会 の 形 成 を 目的 と して い る の で 政 治 的 契 約 (politiCal cOntract)と もい い う る。 そ して この 契 約 は 多 数 の 同意 に基 づ き成 立 す る も こ の で あ るか ら多 数 者 原 理 に 賛 成 しな けれ ば ,如 何 な る こ と も決 定 す る とが で きな い し,国 家 も存 続 す る こ とがで きな い 。人 々 は先 ず ,あ る団体 に融合 い う。 こ す る とい う段 階 に入 る。 これ を ロ ックは共 同社 会 (COmmunity)と こで は 自然状 態 に於 け る個 人 の 代 わ りに ,こ の 共 同社 会 が新 し く主 体 とな り. ,. つ =(国 家 )を 設 自 らの上 に 市 民 政 府 (CiVil government)を も 政 治 的社 会 立 す るの が 第 二 の 段 階 で あ る。 そ れ故 ,共 同社 会 は政 治 的 社 会 の母 胎 で あ る。 この 場 合 , 共 同社 会 を 母 胎 と して 倉1設 さ れ た 国家 の 政 治 的権 力 (politiCal.

(10) 3」. 8. 西欧精神史 における近代的政治社会意識の発生と展開. power)は 共 同社 会 か らの 信 託. (Trust)に よ って 設 立 され る。 従 って , ロ ッ. クに 於 いて は ,政 府 とは一 定 の 目的 のた め に 行 動 す る信 託 的権 力. pOWer)に. (■. duciary. 過 ぎな か った 。 この よ うに ,ロ ックに 於 け る政 治 的権 力 の 転 移 過. 程 に は ,同 意 と信 託 とが 論 理 的 に連 関 して いた とみ られ ,こ の 同意理 論 及 び 信 託 理 論 に よ って ,段 階 的 に 政 治 的権 力 は転 移 す るの で あ る。 この よ うに み る と ,ロ ックの 契 約 は信 託 的権 力 を 創造 す る社 会 契 約 で あ り,権 力 が信 託 さ れ た 権 力 で あ る限 り,権 力 の 究 極 の 所 在 は信 託 者 で あ る共 同社 会 の 意志 に あ る と考 え られ る。 この 考 え 方 に よれ ば ,結 局 ,そ れ は最 高 権 力 を人 民 か ら移 さな い とい うに在 る。 この 点 ,ホ ッブズの よ うに ,国 家 の 最 高権 力 が主 権 に 移 譲 され ,究 極 の もの は『 リヴ ァイアサ ン』 の 意志 と して 国家 の主 権 的権 力 の 絶 対 化 に志 向 した こ と と相 異 な る といわ れ な けれ ばな らな い。 か く して ,ロ ックは ホ ッブズ と同 じよ うに ,自 然状 態 の 考 察 か ら出発 しな が ら,ホ ッブズ の 絶 対主 義 的志 向 とは正反 対 の 結 論 に 到達 した の で あ る。 そ こで ロ ックは 「 設立国家 における唯一 の至高権力である立法権は一定 の 目的 (自 然権や公共の福 祉 ,又 人民の平和など)の ため行為す る信託的権力であるに過 ぎないもので ある。 そ こでは立法行為す る場合,立 法行為 が人民 の 委ねた信託 (Trust)に 反 して行為 す る場合,立 法権を廃止又は変更する至高の権力はなお依然 として人民の掌中に残 存 しているので ある。というのは,目 的を達成す るため信託に基 づいて賦与せ られ たあ らゆる権力はこの 目的によ って制約されているので あるか ら,若 しこの 目的が 明 らかに無視されるか,又 は反対された場合 に於 いて は,そ の信託は必然的に取消 され,権 力は人民の手 に手渡 しされなければな らない。そ して人民は彼等 の安全 と もた らすに最 もふ さわ しいと考え られるものに新たに交替させ ることがで ヽ慮 きる云 々」. 保証. と述 べ る。 この よ うに ,ロ ックは立 法 行 為 に 対 す る人 民 の 廃 止 又 は変 更 の 権 利 を認 め そ の 改廃 も正 当 で あ る とい う抵 抗 権 及 び 革 命 権 の思 想 を成 立 せ しめ るの で あ る。 そ して 政 府 は人 民 の た め ,す な わ ち ,人 々の 生 命 ,健 康 ,自 由 ,財 産 な どの 自然 権 の 擁 護 を 目的 と して 組 織 され る もの で あ るが ,ホ ッブズ の所 説 と は違 って ,権 力 は 第 二 者 の 絶 対 的主 義者 に 移 譲 され ず ,実 際 の主 権 者 で あ る. ,.

(11) 吉 武 夏 男. 3F9. 人民 の掌 中 に残 されて いて ,そ れ は人民 か ら独立 して存在 しない ので ある。 この点 か らみ ると,ロ ックのい う国家 至高 の権 力 は人民 に 由来 し,人 民 の 信託 を基盤 とす るもので ,こ の信託 とい う地盤 のなかに こそ ,立 法権 とい う 最高権 力を生 む根基 が存す る。 ロ ックに と つて ,人 民 はあ らゆ る政治的権 力 の源泉 で あ り,国 家 は人民 か ら独立 した存在 で はな い。従 って ,国 家 は制限 されて いて ,絶 対的 な ものでな く,政 府 は社会契約 によ る人民 の機 関 に過 ぎ な い。厳密 な意味 において警察的諸権 力 に 限定 され るので ある。 このよ うに. ,. ロ ックに於 いて は ,人 民 が権 力発生 の場所 で あ るとされ る ことによ つて ,人 民主権 の立 場 は貫徹 され ,ル ソーの人民主権 の理 論 に先行 す る意味 で主 権在 (13). 民 の理論 は ロ ックのなかに先 ず見 出され るとい う ことがで きるで あろ う。. 3.モ ンテス キ ューと『 法 の精神』 ロ ックが『 政論 二 編 』を執筆 しつつ あ った 頃 ,モ ンテ スキ ューは1689年. ,. 法曹貴族 の長子 と して ボ ル ドー近 くの ラ・ ブ レー ドの城館 に生 まれ ,そ の成 長期 に体験 したの は ル イ14世 時代 の輝 か しい時代 で はな く,オ ル レア ン公 フ イ リップが摂政 して いた惨浩 た る時代 と,ル イ15世 の時代 とで あ った。彼 が フラ ンス絶対主 義的時流 に樟 ささず ,市 民革命 イデ オ ロギーの 闘士 と して人 民福社 の保証 を求 めたのは ,そ のよ うな社会 的 ,政 治的環境 に負 うと ころが 多 い。生来 ,モ ンテ スキ ューの もつ 多面性 の ゆえに ,従 来彼 を続 る論争 が繰 り返 され ,或 はよ り多 く18世 紀啓蒙主 義者 の仲間 に入 れ られ るか ,若 しくは 反動的気分 の世界 に入 れ て考 え られ るか ,又 或 るときは啓蒙主 義 の克服者 と して ロマ ン主 義者 とさえみ られ る。 しか し政治的 には彼 は近代 的 自由思 想及 び立憲政府 の 開拓者 だ と見倣 され る。 この場合 ,モ ンテ スキ ューに於 いて注 目す べ き ことは ,次 の 2個 の設 間が取 り上 げ られ た ことで ある。即 ち,そ の 一 は一定 の具体 的 国家 は いかな る特殊 の利害を有 す るか とい う問題 で あ り. ,. 他 は一 定 の政治的価値 ,殊 に政治的 自由 (Libertё politique)を 生 ぜ じめ る にはいかな る技術的な施設 が必 要 で あるか とい う問題 で あ った。すなわ ち. ,. モ ンテ スキ ューが設定 した この種 の 問題 は ,マ キアヴ ェ リに基礎付 け られ た.

(12) 32a. 西欧精神史における近代的政治社会意識の発生と展開. 古 き国家統治説 の伝統 に結 びつ いていた が ,彼 は就 中 ,政 治的 自由 こそ一 国 家 の最 高 の 標準 に ほかな らな い との 前提 の もとに立 って いた 。 そ して彼 は 『 法 の精神』 に 於 いて「世界には政治的自由をその憲法の直接 の目的としている一 つの国民がある云 々」 と述 べ , それ は 即 ち イギ リス 国民 で あ る と し, 有 名 な 「 イギ リス憲法論」を展開 して い るので ある。 ここに於 いて ,貴 賤を問わず あ らゆ る人 間諸 力 の生気張 る展 開を可能 な ら しめ ,結 局善 へ と向 かわ しめ る もの は ,イ ギ リス憲法 で あ り,そ れ は彼 によ って巧 みに , しか も合理主 義的 な按 配 で割 り出 された権力 分立 の機構 に ほかな らな い とされた。 元来 ,権 力分立論 史か らみ ると,ロ ックとモ ンテ ス キ ュー とはその代表的 地位を 占 めて い る。人 によ って 或 は ロ ックが権 力分立論 の 創案者 と見 倣 され. ,. 或 は モ ンテ スキ ュー こそその名 に価 す る者 で あ るといわれ る。 しか しロ ック もモ ンテ ス キ ュー も自由国家 の信奉者 で あ り,共 に名誉革命後 の人民主権 の 体 制 に着 目 しなが ら,自 由 の確保 のため権 力分立論を提 唱 したが ,ロ ックの 場合 ,自 然状態 → 自然権 → 自然法 → 社会契約理論 か ら出発 し,立 法権 の構成 を基軸 と して弁証 し,近 代 的権 力分立論を. llT」. 然 に或 は副 次的 に生 んだ とみ ら. れ る。すなわ ち,ロ ックは 自然状態 に於 いて人 々の所有権 を不安定 な ら しめ る 3つ の欠陥を考察 した。 そ して 彼 は その 3つ の欠陥を避 け, それに充 当 す る 3つ の 救 済 策 と して 立 法 権 (Legigative power),司 法権 (Judicial. power),執 行権 (Executive power)へ の設 立を考 えて いた よ うにみ られ る。 しか し必 らず しも上 に述 べ た 3つ で はな く,実 際 に立 法権 と執行権 の 2つ の 権 力 につ いての論述 をすす めて い る。即 ちその内 ,第 一 に立 法権 で ,そ れ は 彼 の い う所 の ,「 国家 の至 高 の権 力」 (the Supreme power of the CommOn‐. wealth)で あ り,他 のす べ ての権 力 は立 法権 に従属 しな ければ な らな い とい われ る。尤 も立法権 が至 高 の権 力 で あるとい って も,そ れ はただ人 民 か ら信 託 された権 力 で あ るか ら,そ の信託 によ って 制約 されて いて ,人 民 の生命. ,. 自由 ,財 産 な ど所有権 に対 して絶対専断権 力 で もな い し,ま た あ り得 な い。 しか しロ ックが 「 政府の存続する限り,常 にどんな場合で も立法権は至高の権力であり,こ の最高 権力に対 して,執 行権と外交権とは補助的且つ従属的な権力に過ぎない云 々」.

(13) 吉 武 夏 男. 321. とい うの が ,ロ ックの立 法権 至 高 の 立 場 で あ る。 第 二 に ,執 行 権 が 挙 示 され る。立 法 権 は常 に 行 使 され る態 勢 に あ る こ とを必 要 と しな い が ,制 定 され た 法 は恒 常 的 ,持 続 的 な 効 力 を もち11.つ その 絶 え ざ る執 行 を必 要 とす る もので あ るゆ え ,制 定 され 強 制 され るべ き法 の 執 行 に あ た るべ き常 時的存 在 の 権 力 が な けれ ば な らな い。 従 って ,立 法権 は非連 続 性. (Discontinuity)を. ,執 行権 は連 続性 (COntinuity)を. もつ もの とい い う る 。. この 場 合 ,ロ ックは 執 行 権 は立 法 権 との 関係 に お いて の み そ の 存 在 理 由 が考 え られ ,立 法権 の優 位 を認 め るが , しか し立 法 権 と執 行 権 とは分 離 せ られ る べ き もの と結 論 す るの で あ る。 とい う の は , ロ ックは「 とか く権力を掌握せん とす る傾 向をもつ人間性 の弱点 (human frailty)に とって余 り に も誘惑が大 きすぎる ため,法 律をつ くる権力を もってい るその同 じひとびとが, また法律を執行す る権力 を も自己の手中に握 りたがるか らである云 々」 とい うo この よ うな観 点 か ら,ロ ックは権 力分 立 論 (the dOCtrine of the separa―. tion of powers)を 告 知 して い るか の よ うに み え る。 さ らに ,ロ ックは 第 三 の 権 力所 謂 外 交 権 即 ち連 合 や 条 約 締 結 ,戦 争 や平 和 を行 う権 力 を 国家 の 対外 的 関係 を処 理 す る権 能 と した 。 ロ ックは執 行 権 を 国内 に 於 け る法 の 執行 に 関 す る権 能 で あ る と して ,こ の 執 行 権 と外 交 権 とを 本 質 的 に 区別 さ るべ き もの と した 。 とい うの は ,彼 は 自然状 態 の 考 察 か ら出発 す る限 り,国 家 相 互 の 関 係 はな お 自然状 態 に あ る もの と見 ざ るを得 ず ,こ の 関係 を処 理 す る権 能 を対 内 的権 能 と区別 せ ざ るを 得 な か った 。 しか し ロ ックに よれ ば ,実 際 的 に は そ れ らは分 離 され 難 く,殆 ん ど常 に 1つ の もの と して 結 合 され て いた 。 な お 司 法 権 は法 を執 行 す る権 能 と して 執 行 権 のな か に 合 まれ て お り,執 行 権 は司法 作 用 を も合 めて 対 内事 項 を処 理 す る権 能 で あ る とされ た 。 この よ うに , ロ ックは 政 治 的権 力 と して立 法 権 (the legislative power), 執行権. (the eXecutive power). 外交権. (the federative power) の三 権 に. つ いて 論 述 す るが ,こ の三 権 の 分 離 (Separation)を 強 調 して いな い。 む し ろ国家 機 構 内 に 於 け る立 法権 の優 越 とい う点 に 於 いて ロ ックの 権 力 分立 論 は 後 に 述 べ られ るよ うな モ ンテ ス キ ュー の それ と区別 され る。 しか し各 国家 機. ,.

(14) 322. 西欧精神史における近代的政治社会意識の発生 と展開. 構 の分立 に伴 う相互牽 制 と権 力濫用 の防止 な どが考 え られ て いた ことは上 に 述 べ た理 由 によ つて 明 らか で あ る。 この場合 ,注 目され るべ き こ とは ,ロ ッ クに於 ては立 法 ,執 行 ,外 交 の三 権 の分立 よ りも,む しろ国王対議会 の対立 と して遂 行 された名誉革命 の構造 を反映 して いて ,議 会至上主 義 を確立 した 名誉革命 に対す る ロ ックの位 置 が克 明 に映 出 されてい るとい う こ とで あ る。 即 ち,ロ ックは立法権 の議会 へ の分割 の主張 に於 いて ,そ の実践的理念 を現 わ して い る もの と考 え られ る。 ロ ックが『 政論 二 篇』 に於 いて ,立 法権 を最 高 と し,他 の す べ ての権 力を それに従属 せ じめた ことは ,議 会 の優 越 を説 く もので あ り,特 に人民を最 高 の地 位 に据 え ,そ の信託 によ つて 立法権 を行 う → 議会 をそ の次位 に 置 き,そ れに執行権 を従属 せ しめ ,人 民 → 議会 政府 の三 段階 に於 け る政治的権 力 の分立 を展 開す る ことによ つて ,イ ギ リス革命 を積 極的 に弁護 しよ う とす る政治的底意 か ら考 え られた とみ られ るので あ る。 上述 の よ う な ロ ック に 対 し モ ンテ ス キ ュー の 場合 , 旧制度 rё. (lancien. gime)を 基盤 とす る フランス絶対主 義 を 排 除 し自由を確保 す る ことを根. 本理念 と し,そ れか ら直 ちに国家機構を適切 に組 み合 わせ る意識的な推論 と して権 力分立論 が引 き出 された ので ある。従 って ,ロ ックに於 いて は幾 分便 宜論 の色彩 を帯 びていた のに対 し,モ ンテ スキ ューに於 いて は厳密 な原理 と して採 り上 げ られ ,国 家機構改造 の場合 ,出 来得 る限 りの 自由 の要求 を実現 す るた めには ,如 何 な る方法 に於 いて ,又 如何 な る手段 によ つて政治的権 力 が使用 され うるかを示 そ うと した。そ して 自由 はそれぞれ の政治的権 力 が相 牽 制 し,均 衡 を保 た しめ られ るとき始 めて可能 とされ る。 このよ うな権 力分 立論 こそモ ンテ スキ ューの根本理念 を一貫 して いた もの と考 え られ る。 このよ うな モ ンテ ス キ ューの三権 分立論 の萌芽 的形 態 は ,『 ペル シア人 の 手紙 』 (Les lettres Persanes,Amsterdam 1721 2 vols)の. うちに見 出 され る. が ,『 法 の精神』 のプ ラ ンをえが きつつ , 1728∼ 31年 に試 みた大規模 な ヨー ロ ッパ 旅行 中 ,イ ギ リス滞在 (1729∼ 31年 )の 約 2年 間 か ら受 けた影響 が極 めて大 き く,そ の萌芽 は一段成長 した とみ られ る。即 ち ロ ックの 自由主 義的 革命 の著『 政論 二 篇』及 び イギ リス政治史研究 の モ ンテ スキ ューヘ の影響 が.

(15) 吉 武 夏 男. 323. 極 めて大 きか った とみ られ る。 ロ ックの モ ンテ ス キ ューヘ の影響 につ いて. ,. モ ンテ ス キ ュー が イギ リスヘ 行 きなが ら直接 ロ ックの書物 をみて権 力分立論 を根拠 付 けたのでな く,モ ンテ ス キ ューの友人 で ロ ックの追随 者 で あるボ ー リングブ ロー ク (BolingbrOke(1678∼ 1751)を 通 して ロ ックの 学説を知 っ たに過 ぎな い といゎれ るが , しか し『 法 の精神』 と『 政論 二 篇』 とは極 めて 多 く符合 す る表現 があ って ,モ ンテ ス キ ュー が ロ ックの『 政論 二 篇』を読 ま なか った とは考 え られな い。 さ らに ,モ ンテ ス キ ュー は イギ リス政治史 の研 究 によ って 自由 な政治制度 を高 く評価 し,イ ギ リス風 の議会制度 の必要 を鼓 吹 し,人 民主権 を提 唱 したの も,そ の 1つ の影響 の現 われ とみ られ る。 しか しロ ックとモ ンテ ス キ ュー とは学 問的方法で は若干 の差異 が存 す る。両 者 の 論理 的 プ ロセ ス に於 いて は,ロ ックは 自然状態 → 自然権 → 自然法 → 社会契約 の思考形 式 によ る 自然法的国家論を論理的 前提 と したが ,モ ンテ ス キ ュー は 歴 史的立場 か ら人間 0社 会 ・政治 の 問題を科学 的に考察 したので あ る。 も っ と も,彼 は社会成立以 前 の 自然状 態 につ いて語 り,自 然法 につ いて 論述 して い るが ,彼 は社会 また は法 =(国 家 )を 歴史的 な経験 的事実 に基 づ いて現実 的 (real)に 把握 しよ うと したので あ る。 そ こで ,モ ンテ ス キ ュー は『 ローマ人盛衰原 因考』を実証 的 に歴 史的因果 関係 に基 づ いて解 明 したが ,そ の根本態度 は『 法 の精神』 に於 いて も貫徹 さ れて いた 。 この点 において ,モ ンテ ス キ ュー は このよ うな歴 史発展過程 の把 握 と解 明 とによ って こそ ,近 代 ヨー ロ ッパ 最 初 の歴 史家 と して歴 史的因果論 (HiStOrische KausalitatstheOrie)に 到達 す ることが で きた と い われ う るの で ある。 しか しモ ンテ ス キ ュー に於 いて は単 に歴 史的考察 その ものを 目的 と したので はな く,法 の精神 の把握 を 目的 と して いたので あ る。 したが って. ,. 彼 の学 問的研究 は『 ロー マ人盛衰原 因考 』 の歴 史的研究 を基 礎 的 出発点 と し て , 自己の研究 を拡 大展 開 して歴史研究 の枠 を越 え ,『 法 の精神』 にみ られ るよ うに ,政 治学 的 ,経 済学的 ,法 学的 ,社 会学的方 向 へ と進 んで行 った 。 結 局 ,モ ンテ ス キ ューの政治的 ,社 会 的関心 と理 念 とは『 ロー マ人盛衰原 因 考 』を入 口 と して ,歴 史学 か ら国家 ,社 会 の学 問 へ と接近 して行 ったので あ.

(16) 324. 西欧精神史における近代的政治社会意識の発生 と展開. る。 ここにおいて ,モ ンテ スキ ューの歴 史的 ,政 治的思性 の方法 をみ ると,先 ず歴 史的研究 を 入門 と して経験 的事実 を手掛 り と し,政 治学 の諸問題 を誘導 の し,設 定 し,次 にそ の 問題 の論理 的思索 によ る解決 が ,一 般 的普遍 的原理 の理論 確立 とな り,最 後 に この原理 の証 明 と して経験 的事実 を集 め来 り,そ の実効 を人間理性 (Raison humaine)に 照 ら して 吟 味 し, その原理 を客観 一 的 に決定 しよ うと した次 第 で あ るっ した が って ,彼 は経験 的事実 か ら 般 的 な超歴史 原理 を帰納す る ことに満足 しな いで ,さ らにその原理 はまた恒常 的 的 な人間理性 か ら生 ず るとな し,逆 に演繹 的方法を用 いてかか る原理 を特殊 の場合 にあて は めよ うと した ので ある。 この よ うに ,モ ンテ スキ ュー は既成 の法律 0制 度 ,そ の事実 を研究 して20年 の労作『 法 の精神』 を一貫 して根本 一 理念 と して探究 した三権分立論 の 内容を み ると,そ れ は『 法 の精神 』第十 の ち 立 篇第 六章「 イギ リス憲法 につ いて 」 の 中 に於 いて ,所 謂 三 種 権力即 「 法権 (La puissance legislative)「 万民法 に関す る事 項 を執行す る権」 (La puissance exё cutriCe des chOses qui dё pendent du droit des gens.). お. よび「 市民法 に関す る事項を執行する権 (La puissance exё cutrice de l'ё tat) につ いて述べ られている。 さらに,彼 はそれにつ いて「若し同一の人間又は同 一 の執政官 の一団の手 に立法権 と執行権 とが合一 される場合 には自由は存 しな. い。 な. ぜな ら, 同一の君主又は同一 の元老院が暴政的な法を作 って暴政的 に それを 執行 す る これ 又自由 恐れがあ るか ら, なお裁判権が立法及び執行権 か ら分離 していなければ, は存 しない。 若 し裁判権が立法権 と結合すれば,市 民 の生命 及び 自由に関す る権力が の 恣意的 となるであろう。若 し裁判権 が執行権に結合 されば,裁 判官は圧制者 力 を も ち得 よう。更に進 んで若 し同一 の人間又は顕官,貴 族,或 は人民の同一の団体が,. こ. (20). 々 と れ ら三種の権力を一手 に行使す るな らば,す べては 失われて しまうで あろう云 」 述 べ ,有 名 な三 権 分 立 論 を確 立 した ので あ る。 か く して ,ロ ックの分 立 論 は過 度 の 権 力集 中を 防止 す るた め ,権 力 の 分 離 の を主 張 した の で あ るが ,こ れ に対 して ,モ ンテ ス キ ュー は さ らに各 権 力 抑 の 必 要 を主 張 し,そ の各 々の 優 越 性 を認 め よ う とは しな か った 。 こ 制 ,均 後子.

(17) 325. 吉 武 夏 男. こに そ れ ぞ れ の 歴 史 的意 義 を省 察 す る と,ロ ックの権 力分 立 論 は議 会 至上 主 義 の イギ リス に 於 いて 実現 され た の で あ る。 モ ンテ ス キ ュー の三 権 分立 の 原 理 は ア メ リカ合 衆 国憲法 及 び 各 州 憲 法 に 於 いて 完 全 に近 い ほ ど実 現 され て い る。 さ らに ,フ ラ ンスに 於 いて は ,モ ンテ ス キ ュー の 原 理 は「 人 権 宣言 」 ま で の 君主 制下 の 初 期 革 命 時代 お よび ジ ャ コバ ン党 没 落 後 1795年 の「 テ ル ミ ド ー ルの 反 動 」 の 時代 に お け るテ ル ミ ド リア ン (ThermidOrien)の 革 命 思 想 を指 導 した ので あ る。 (1984.11。 10) 註 (1)Go P.Gooch;Political Thought in England from Bacon to Halifax,London, 1950, p. 1.. (2) M.A.Lindsay;Introduction to Hobbes Leviathan,Everyman's Library No.691. p. 19.. Wo Ro Sorley;A History of English philosophy,Cambridge,p. 64. (3) Th.HObbes; Leviathan,London, 1953,pt. 2,ch。 (4)Tho HObbes;op,cit,,pt.2,ch。. 18.. 18.. (5) Th. I‐IObbes; op,cit。 , pt. 2, ch。 19.. (6)イ エ リネ ック著「 人権宣言論外三 篇」法学叢書 ,72頁. .. 美濃部達 吉訳 (7) Jo Locke;Second Treatise on civil Government,1690,(the World's Classics。 ch.2. ,ch. 2.. (8) Jo Locke; op. cit。. (9)J.Locke;op.cit.,ch。 (lol. ). 9。. , ch. 2.. J. Locke; op. cit。. (lo J. Locke;op. cit。 ,ch.8.. 」. Locke;op.cit.,ch.13.. (121. C.Lo Wayper;Political Thought,p.71.. uЭ. l141. 54 吉武夏男 ;拙 抄録「 モ ンテ ス キュー に於 け るマ キ ァヴ ェ リ的 な もの」史学雑 誌第 2号 彙報参照 編第 モ ンテ スキュー著 ;「 法 の精神」第 一 篇第六章 .. l151. .. 宮沢俊義訳. 061 J.Locke;op.cit.,ch.13. l171 J. Locke;op.cit.,ch。. 12.. l181 Eo Cassirer;Die Philosophie der Aufklarung,s.26. l191 MOntesquieu; L'esprit des lois, Liv. 2,ch. 2. 1201. MOntesquieu; L'esprit des lois, :Liv. 11, ch. 6..

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参照

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