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大学弓道部活動実践者の弓道観に関する研究-「伝統的理念」と「的中主義」の関係を中心に-

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(1)学 位 論 文 大学弓道部活動実践者の弓道観に関する研究 一「伝統的理念」と「的中主義」の関係を中心に一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教科領域教育専攻 生活・健康系コース. 学籍番号 氏 名. MO5291G. 大竹 亜由美.

(2) 目次. 1.研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 1. 皿.研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 6. 1.質問紙の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 6. 1−1.質問項目の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 6. 1−2.予備調査を踏まえた質問内容の作成・・・・・・・・・…. 10. 1−3.「スポーツ観」の観点による質問内容・・・・・・・・…. 16. 2.調査対象と時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 24. 皿.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 25. 1.3グループの平均得点の結果・・・・・・・・・・・・・・・…. 26. 2.因子分析による結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 31. 3.標準因子得点による3グループの比較・・・・・・・・・・・…. 35. 3−1.第1因子「人格形成」についての結果・・・・・・・…. 36. 3−2.第2因子「修行観」についての結果・・・・・・・・…. 37. 3−3.第3因子「試合観」についての結果・・・・・・・・…. 38. 3−4.第4因子「的中主義」についての結果・・・・・・・…. 39. 3−5.第5因子「精神性理解」についての結果・・・・・・…. 40. 3−6.第6因子「精神集中」についての結果・・・・・・・…. 40. 3−7.第7因子「技術観」についての結果・・・・・・・・…. 41. 3−8.第8因子「スポーツ観」についての結果・・・・・・・…. 42.

(3) 4.標準因子得点による大学間の比較・・・・・・・・・・・・…. 43. 4−1.第1因子「人格形成」についての結果・・・・・・・…. 43. 4−2.第2因子「修行観」についての結果・・・・・・・・…. 44. 4−3.第3因子「試合観」についての結果・・・・・・・・…. 45. 4−4.第4因子「的中主義」についての結果・・・・・・・…. 46. 4−5.第5因子「精神性理解」についての結果・・・・・・…. 47. 4−6.第6因子「精神集中」についての結果・・・・・・・…. 47. 4−7.第7因子「技術観」についての結果・・・・・・・・…. 48. 4−8.第8因子「スポーツ観」についての結果・・・・・・・…. 49. 5.スポーツ価値志向尺度によるグループ間の比較・・・・・・・…. 50. 5−1.スポーツ価値志向尺度「楽しみ」についての結果・・…. 51. 5−2.スポーツ価値志向尺度「自己鍛錬」についての結果・…. 52. 5−3.スポーツ価値志向尺度「勝利」についての結果・・・…. 53. 6.スポーツ価値志向尺度による大学間の比較・・・・・・・・…. 54. 5−1.スポーツ価値志向尺度「楽しみ」についての結果・・…. 55. 5−2.スポーツ価値志向尺度「自己鍛錬」についての結果・…. 56. 5−3.スポーツ価値志向尺度「勝利」についての結果・・・…. 57. 7.K:enyonのスポーツ態度尺度についての結果・・・・・・・・…. 7−1.ヌポーツ態度尺度 現在の参加動機 第1位選択のみの結果・・・・・…. 58. 7−2.スポーツ態度尺度現在の参加動機 第1位選択のみの結果・・・・・…. 60. 7−3.スポーツ態度尺度 現在の参加動機 第3位選択までの結果・・・・・…. 65. 7−4.スポーツ態度尺度現在の参加動機 第3位選択までの結果・・・・・…. 71. 58.

(4) IV.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 76. V.総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 86. VI.参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 89. 皿... ’●”●●. モ辞..∴..._..._.._...._.. V皿.資料. 94.

(5) 1.研究の目的. 弓道は太平洋戦争終結直後の1945(s20)年から1951(s26)年まで, GH:Q の指導により学校における授業はもちろんのこと,課外での部活動を含めて全 面に禁止され,その禁止対象には高校だけではなく大学での弓道も含まれてい た.(ただし,社会一般における弓道は,ほそぼそながらも存続していた1).1950. (s25)年, GHQが学校教育に柔道を復活させることを許可したことに続き,. 1951(S26)年に弓道も復活した.しかし,その際柔道とともに「武道として ではなく,競技スポーツとして行う」ということが制約された.このような経 緯があり,特に大学の弓道部活動では,大会試合が盛んとなって今日まで至っ ている.大学の大会には,全日本学生弓道選手権やリーグ戦,全日本学生弓道 王座決定戦,全国大学弓道選抜大会などが開催されている. そもそも弓道というものは,柔道や剣道と同様に「道」がっく以上,「武道」. としての枠組みの中の一つであることは周知されていることであろう.武道に 属する種目は,競技的な優劣よりも技術向上に伴う精神修養や,伝統的な「形」. や心構えを重んじることが他のスポーツ競技とは異なる特性として挙げられる が,このような武道の性格,意義を有するものとして完成されたのは近世であ がしんしょうたん. つた.それは,日清戦争の勝利以降,「臥薪嘗胆」に表現されるような国内情勢. の中,日本国民の民族意識の高揚,国力を増強することを武道に期待し,1896 (M28)年に武道をまとめる組織として,武道の総合団体である「大日本武徳 会」が創設された.学校教育の中に武道が取り入れられていく中で,同様に弓. 道も学校教育に取り上げられ,1893(M25)年頃には,第一高等学校,早稲田 大学,慶磨義塾大学などに弓道部が創設されたという記録がある2.. 大学における弓道(以下,学生弓道と称す)では,明治40年代初期に「東 11946(S21)年S,月に文部省が発令した「社会体育の実施に関する件」(粘体95号),の第 九条が示すように,柔道・弓道については「一層明朗健全なるスポーツとしての面目を 発揮するよう充分なる努力をなすこと」(文部省大臣官房文書課(1997/1950),終戦教 育事務塵理提要3,国書刊行会,p.652.),を前提に,「個人の趣味,嗜好」によって 行うことについては認められた. 2山田佳弘(1994),弓道(近代弓道).二木謙一・入江康平・加藤i寛編,日本史小百科く武 道〉,東京堂出版,p.204。. 1.

(6) 京都学生弓道連合会」が結成され,この頃から競技会が盛んに開催されるとと もに,弓道の普及,発展に貢献した.以降,大正期に入り,学生による競技が 盛んになるのにあわせて,大会も全国レベルで行われていくようになった3.同. 時期に,現在の東北大学(当時の第二高等学校)の弓道部師範を務めていた阿 波研造は,学生が弓道において的中至上になり,弓道が闘争の具になっている ことを危惧し,学生が弓道における「正しい射」での結果の的中でないことに 対して,自身の指導に試行錯誤し始めたという4.このことから,学生弓道界に おいて「的中主義」,「勝利志向」は存在していたと考えられる.. 弓道が「武道」の枠組みであることは先に述べたが,弓道の理念及び精神修 養のあり方について以下に述べる.. まず,弓道における理念について,全日本弓道連盟の会長を務めた宇野は以 下のように述べている5。. ・射法,射技の研修 ・礼に即した体配の修練 ・射品,射影の向上 ・人間完成の必要. らいき この他にも,弓道の理念は,多くの弓道場に掲げられている「礼八一射義一」 しんたいしゅうせん. あた. に示されている.その冒頭には「射は進退周遷必ず礼に中り(以下略)」6と記 きゅうしゃ. されており,これは,弓射7は「礼に始まり礼に終わる」という意味である.. つまりは,弓を射る方法である射法と礼が一致していることを示し,人に勝つ ことよりも「誠」をつくすことが大切であり,自己以外に対する礼と,自己を 慎むことを指す.このことから,弓道に礼儀作法が必要であり,弓道修練を通 して礼を身につけることが必要であると捉えられる.. 3前掲,山田(1994),p.204. 4馬二巴昭久(2006),璽前,財団法人日本武道館,p.126. 5宇野要三郎(1953),改訂増補にあたって.弓道教本第1巻一射法篇一,財団法人全日本 弓道連盟,p.16. 6弓道教本第1巻一射法篇一(1953),財団法人全日本弓道連盟. 7立ち振る舞いや,心的状態など,弓を射ることの総称.. 2.

(7) 弓道の心的態度を示す言葉として「平常心」という言葉が用いられる.「平常 あた 心」とは,平静を失わない心であり,的に夢中になり中ることに捉われない心. を持つことを示す.弓道では,弓射においてこの「平常心」が重要であるとさ れ,前林は「心身と弓が一体になること(中略)が求められているのである.」. 8と述べている.また,浦上が「弓道では感情の起伏,心の動きが射に直接影響 します」9と述べていることから,弓射において心的状態が大きく影響するとい うことが理解できる.. この射法と精神修養の向上を目指した弓道修練の評価法の一つとして,「段 位」がある.審査では,継承されてきた「形」が守られているかということと,. 目に見えない「心」の在りかた,先述した弓と心身の一致が求められる.これ は,弓道修練において,的中を得るための技術向上ではなく,同時に自己を高 める「精神鍛錬:」,「自己鍛錬」がなされているかを評価するというものである.. 審査における評価基準は全日本弓道連盟が定める審査規定に基づいて評価さ れ,弓道では「段位」の他に「称号」と呼ばれるものがある.「称号」とは,練. 士,教士,範士と3種類あり,称号の受審資格ならびに審査規定は,「弓道の 修練において研鎭練磨の実力を備え,且つ功績顕著な会員(全日本弓道連盟に 所属する者)に対し,(中略)その栄誉を表彰するものである.」10とあり,段. 位,称号を習得するまでの努力と過程に重要な意味が込められており11,射技 および精神修養の結果を「段位」,「称号」という形で表現するということであ る.. この審査規定に記述さているように,高段位,称号を有する者は弓道修練年 数も長いと捉えることができ,また,松尾が「高段者であることは自己の修練 経験も豊富であることが推測され.」12と述べていることから,精神修養におけ. る「人間性の向上」がなされるためには,長い年月をかけて修練し,弓道の理. 8前林清和(2007),武道における身体と心,財団日本武道館,p.305. 9浦上博子(2001),弓道のすすめ,成美堂出版,p.12. 10前掲,浦上(2001),p.170. 11田中守(2005),武道 過去・現在・未来,財団法人 日本武道館,p.250. 12松尾牧則(2003),学校教育のなかの弓道.大道等・頼住一昭・太田博編著,近代武道 の系譜,杏林書院,p.50. 3.

(8) 念である「礼」や,精神特性を自己に内面化していくことが必要であると考え られる.このような修練経験が豊富な指導者は,高校生や大学生に対する指導 の中で弓射において「平常心」であることや,「正しい射」であることを強調し,. 的中だけに固執してはならないと戒やることがある.的中というものは単なる 結果であり,自ら求めるものではない.つまりは,正しい射をおこない,心と 射技が一体となったことによって矢は的に的中するという考えであり,馬見塚 あた. は阿波研造の「中りは正射に対する結論であって,正しい精神の具現でもある」. 13と述べていたことを著書の中で記述していることから,的中を求めて弓を引 くのではないということが理解できる. せいりょくぜんよう 「武道」としての目的,目標の「人格形成」の他,柔道において,「精力善用」, じたきょうえい. 「自他共栄」という理念があるように,弓道には弓道独自の理念および目標が しんぜんび. ある.それは「真善美」という言葉で示される.即吟では真実(弓の冴え,弦 音,的中すなわち正しい射)を追求し,礼ならびに平静を失わない心的態度(善). を養い,それらが一体となったときに人間の美的感覚を刺激するような射を求 めることが,弓道独自の高い指標となっている.. 以上のように,弓道は武道という枠組みから,第一の目的は「人格形成」で あり,弓道修練は技術向上を通して精神修養を進めていくという特性があると 言える.. 大学弓道部活動実践者は,弓道の理念についての理解や,感得が全くなされ ていないというわけではなく,「正しい射」や「礼儀i作法」等の伝統に対する意. 識がそれほど低下していないようにも思われる.しかしながら,先述したよう に,大正期には学生弓道界に的中主義志向が存在していたと考えられ,小笠原 が「学生弓道は試合で勝つことが最優先されている」14と述べているように,. 今日の学生弓道界においても大学弓道部活動実践者は「的中主義」に走り,本 来の弓道の目的とは異なる弓道観を有しているという意見がある.実際に指導 者が大学弓道部活動実践者に対し,「的中にこだわるな」,「平常心を保て」とい 13前掲,馬三二(2006),p.110.. 14小笠原清忠(2005),日本体育学会第56回大会体育史専門分科会シンポジウム報告, 日本の伝統スポーツと近代.体育史研究第23号,pp.135−136.. 4.

(9) う指導をなしても,「勝ちたい」という感情が目に見えてわかる学生や,ガッツ あて ポーズをする学生,練習中にも「結局試合で中ればいい」15という発言をする. 者が実在する.このことから,現在の学生弓道界では試合での勝敗(的中)に 重点をおき,本来の弓道の目的である「人格形成」は次点であるという観点が 存在しているように見受けられる.このような大学弓道部活動の「スポーツ」 あた. 的な在り方に?いて,「中りにこだわるのは目本の弓の本来の姿ではありませ ん」16というような批判がこれまでにも発せられてきた.大学生が大学卒業後 に県や市の弓道連盟に所属し,弓道を続けようと道場を訪問しても,「学生の弓 あて. (弓道)は中るだけでだめだ」と言われることが原因でその後弓道を実践しな. くなることがある.このように,大学で弓道を実践してきたにも関わらず,上 述したような理由から卒業後の実践継続を諦めるということは,今後の弓道界 を担うであろう世代が減少することに繋がると考えられる.. 実際に大学弓道部活動実践者と,県や市の弓道連盟に所属して実践している 指導者の弓道観の間にズレがあるとすれば,何を重視して弓道を実践している かという価値観の違いである.そこで本研究では,大学弓道部活動実践者の弓 道観は,勝利を第一とする「的中主義」が主要なものであると仮定し,伝統的 理念についてはどのように捉えられているのか,さらにそれと的中主義との関 係について,実証的に明らかにすることを目的とした.なお,今まで言われて いる「学生は的中主義である」という意見について,それが事実か否か実証さ れた研究は今までに存在していない.. あた. あて. 15本来は「正射」の結果として「中る」と表現するが,「中る」と表現していることには, 意図して的中しよう(させよう)とする意識を指す.. 16横山亮次(2002),特集 学生弓道50年。弓道,10月号,通巻629号,財団法人全日 本弓道連盟内鴨川乃武幸,p.9. 5.

(10) H.研究の方法. 1.質問紙の作成. 1−1 質問項目の設定 質問紙を作成するに際して,まず,これまでの弓道に関する文献を参考に, 弓道の概念がどのような側面から捉えられているかについて整理,検討した。 その結果,弓道の概念を構成するカテゴリーは「心理性」,「自己鍛錬性」,「技 術性」,「国際性」,「芸術性」,「倫理性」,「社会性」,「生涯性」と捉えることが. できた.以下,本文で説明するように,これらのカテゴリーを質問項目設定の ための観点とした.なお,表1にはカテゴリーを抽出する際に着眼したキーワ ードを記している.. 表1質問項目のカテゴリーおよびキーワード. カテゴリー. キーワード. 心理性. 平常心. Iにとらわれない心. タ定した心的状況 自己鍛錬性. 人格形成. Sを鍛える 技術性. 綺麗な射. Z術習得の時間 国際性. 国際化. 総ロ大会 芸術性. 芸術的. │を引く姿は美しい. ?I感覚. 6.

(11) 倫理性. 相互肯定. 社会性. 交友. 生涯性. 生涯性. V若男女 きゅうしゃ. 「心理性」のカテゴリーについては武道の側面から,弓射において求められ る心的状態に関する項目で構成した.これらは,兵法家伝書を前林がまとめた 文中に「物事にこだわらない心理状況を平常心と説いている」17と述べている 他,浦上が「いつも平らな心をもつように」18と述べているような内容に依拠 し質問を作成した.. 「自己鍛錬:性」のカテゴリーについては,武道の最終目的が戦前から現在に あ わけんぞう. 至るまで人間形成であることから,自己鍛錬に関する項目で構成した.阿波研造. が「弓は人格建造の道具」19と述べていることや,藤堂が「自己をコントロー ルする心(中略)も磨いていかなければならない」20と述べている,自己鍛錬 の目的である観点に依拠している.. 「技術性」のカテゴリーについては弓を用いて矢を射る運動技術に関して,. 技術修得の困難さや技術における伝統的な理念に関する項目から構成した.浦 上が「努力の積み重ねで上達する.忍耐が必要」21と述べていることまた,ア メリカで弓道を実践しているフィリップ.スウェインが,対談の中「(技術習得. に)なぜこんなに時間がかかるのかという質問がでる」22と述べていることに 依拠している.また,阿波研造が弓射における「正しい射」の重要性について 17前林清和(1998),近世武芸における心身観.身体運動文化学会編,武と知の新しい地 平一体系的武道学研究をめざして一,昭和堂,p.23。 18前掲,浦上(2001),p.11. 19東憲一(2000),弓道の歴史.田中守・藤堂良明・二二一著,武道を知る,不昧堂, p.100. 20藤堂良明(2000),武道と精神修養。田中守・藤堂良明・東憲一著,武道を知る,不昧 堂,p.35. 21前掲,浦上(2001),p.11.. 22フィリップスウェイン(2003),〈座談会〉弓道の国際化を語る,弓道5月号,財団法 人全日本弓道連盟,p.6. 7.

(12) 「手先で弓を引くことは的中に走るだけの『舟遊病』であり,本来の弓ではな い」23という発言を魚住が著書の中でまとめている.. 「国際性」のカテゴリーについては,弓道が目本の伝統文化を尊重する特性 を持っていることや,国際理解を深めることに関する項目から構成した.弓道 教本第2巻に「弓道は国際的にならなければならない」24と記述されているこ と,また,2007年に国際弓道連盟発足するにあたり連盟規約草案に「国際大会 の開催」が盛り込まれており,森は弓道のオリンピック参加を唱え,「全世界で 受け入れられていけば五輪参加も十分可能」.25と述べていることに依拠してい る.. 「芸術性」のカテゴリーについては弓道において「真善美」という言葉があ り,弓道の「美」に関する項目で構成した。弓道教本第1巻において,「弓自体 そうごん. が最も美しいといえるが,その荘厳性と人間の進退聖遷,それに静かな心的態 度がリズミカルに動くことはわれわれの美的感覚を刺激することが大きい」26 と記述されており,弓を引く姿そのものは,動きと心の一体によって美的価値 を表現しているものと捉えられ,その動作が人間の美的感覚を刺激すると理解 される。さらに,弓道教本第2巻において「弓射の技術は芸術の中に分類され ることが正しい」27と記述してある他,フィリップ.が対談の中で「弓道はスポ ーツよりも芸術に近い」28と述べている弓道観に依拠している.. 「倫理性」のカテゴリーについては,戦前までに儒教の影響を受け弓道が発 達してきたことで,弓道が重視してきた伝統的な倫理,道徳性に関する項目で 構成している.大道と小出が日本古来の「道」という精神性の部分の行動様式 23魚住孝至(2003),弓の道一ヘリゲルの弓道修行一大道等・二二一昭・太田博編著,近 代武道の系譜,杏林書院, p.101. 24前掲,弓道教本第1巻一射法篇一(1953),p。36.. 25森敏男(2003),特集国際連盟へ,魅力訴え世界に広げよう.弓道9月号,全日本弓 道連盟,p.10.. 26前掲,弓道教本第1巻一射法篇一(1953),p.44. 27弓道教本第2巻一射技篇一(1955),財団法人全日本弓道連盟.pp.10−11. 28前掲,フィリップスウェイン,p.11。 8.

(13) について述べている中で「対戦した相手を尊重する『礼』ができるということ である」29と述べている他,藤堂が稽古時や試合で行う「礼」について「武道 は対人格闘として行われる場合が多く,あえて相手を敬う精神が必要であった」. や,「自分の技の向上を助けてくれた相手に感謝の精神が重んじられている」30 と述べているような「礼」の意義に依拠している.「礼」に関する意義に加え,. 藤堂が「個人で行う弓道では,演武前に的に向かって深々と頭を下げ,気を引 き締めて,終了時にも『自分の思い通りに弓が引けたか』と自問して礼を行っ ゆう. ているのである(揖)」31と述べているような,礼は人のみに対して行うもので はないという観点に依拠している.. 「社会性」のカテゴリーについては,弓道を通しての社会性に関する項目で 構成している.浦上が「礼節の心を養うことで社会生活のうえでは人間関係を 円滑にすることができる」32と述べている観点に依拠している.. 「生涯性」のカテゴリーについては,筋力,技術の面から弓道の持続に関す る項目から構成されている.弓道教本や浦上が「老若男女間わずできる運動」33. と述べている運動観に依拠している.また,入江が「すべての人々が生涯にわ たって親しむことのできるすぐれた特性を持っている」,「高齢になってから新 しく始めても技術向上の可能性がある」34という観点に依拠している.. 以上から8カテゴリー75項目を作成した.なお,予備調査で用いた質問紙は. 29大道等・小出高義(2003),「格技から武道へ」の名称変更と体育授業.大道等・頼住一 昭・太田博編著,近大武道の系譜,杏林書院,p.61. 30前掲,藤堂(2000),pp.31−32.. 31前掲,藤堂(2000),p.32 32前掲,浦上(2001),p.11. 33前掲,浦上(2001),p.7.. 弓道教本第3巻一続射三編一(1955),財団法人全日本弓道連盟.p.6. 入江康平(1998a),弓道総論.入江康平・森俊三編,弓道指導の理論と実際,不昧二二 版,P.63. 34 前掲,入江康平(1998a), p.60.. 9.

(14) 資料1として添付する.. 1−2. 予備調査を踏まえた質問内容の作成. 平成18年6から平成19年6,月にかけて,主に2大学の弓道部活動実践者 27名に対して,前述のキーワードから作成した予備調査の質問項目から,具体 的な質問内容を考え,予備調査を行った.. 回答の傾向や,意見,感想を収集して修正を加えながら質問項目及び質問内 容を精選していった.その結果,最終的に作成された質問内容を表2に示す.. 表2 カテゴリーならびに質問内容. カテゴリー 伝統性. 質問項目. ・弓道場では,気持ちが引き締まるような雰囲気が大切である. ・弓道の伝統的な心構えや習慣はそのまま継承すべきである. ・弓道の古くさい面は,時代に応じて変えてもよい. 道の伝統的な考え(真善美や正射必中)などを重視していれば上 達し,的中率もあがると思う.. 礼法など. ・弓道では,定められた礼法は常に守らなければならない. ・弓道を続けると,日常生活でも礼儀正しくなる. ・段位の高い人は,人間的にも立派な人が多い.. ・弓道を続けると,上下関係(先輩・後輩や段位)にけじめが付 けれるようになる.. ・弓道を続けている人は,誠実で信頼できる.. ・弓道の試合では,派手な声援や相手を見下すような態度・発言 は慎むべきである.. ・弓道を始めて自己の人格形成に影響があったと思う.. 10.

(15) 精神鍛錬. ・弓道をしていると,平常心が養える. ・弓道をしていると,集中力が養える. ・弓道をしていると,競争心が養える. ・弓道をしていると,忍耐力が養える.. ・弓道による精神的な向上は,長く修行を続けなければ得られな い. ・弓道で射や的中が心の問題と関連していることは,誰にでも理 解できる.. ・感情の起伏は射に大きな影響を与えると思う.. ・精神修養は技術習得を重ねるうちに自然とできてくるものであ る.. 技術性. ・弓道では,試合においても撃てることより綺麗な射術が大切で ある.. ・弓道の技術は,日々の修練によって誰にでも修得できる. ・弓道の技術は難しく上達するにはセンスや才能も必要である. ・段位の高い人は,やはり的中率も高くあってほしい.. ・弓道を始めて間もないものは,何よりもまず技術を習得するべ きである.. スポーツ性. ・弓道の試合では,中でなければ意味がない. ・弓道は,生涯続けても身体に無理がない.. ・弓道は,生涯を通しても飽きることなく楽しむことができる. ・弓道では,中てることこそが楽しい. ・弓道の国際化をさらに進めるべきである. ・弓道は,スポーツ種目のひとつである.. ・弓道は,洋弓(アーチェリー)とは全く異なる,純粋な日本の武 道である.. ・試合で中るためならば射を崩しても仕方がない.. 、11.

(16) 「伝統性」のカテゴリーについては予備調査における倫理性を修正した内容 であり,予備調査で構成した内容と同様,弓道が重視している伝統に関する質 問項目で構成した.弓道場内に神棚が設置されているということで練習前に神 前礼拝を行う道場も少なくないことから,道場が神聖な場所であると捉えるこ とができ,加藤が「道場は相互肯定の精神によってのみ成立する.その精神性 の具体化が礼という形式で表現され,その形から内容を一層深めていくために. 礼は重要な意義を持つ」3㍗いう道場のあり方について述べた内容,また,武 道憲章の第四条の「道場は,心身鍛錬の場であり,(中略)静粛・清潔・安全を. 旨とし,厳粛な環境の維持に努める」36という内容に依拠している.伝統の継. 承についての質問は,弓道教本第1巻において,「時代は急激なスピードで変 転している。(中略)このはげしい流転の中で,弓道はどんなふうに時代に即し ていくのか」,「時代が進むとともに進まなくてはならない」,「その伝承した経. 験から,新しい経験を引き出すことがさらに必要である」37という内容に依拠 している.伝統の継承に関しては,理念だけでなく射法についての質問も作成 した.弓道の射法は,全日本弓道連盟が小笠原流をもとに定めた射法の他に, かた 流派毎の射法などがあり,「形」として今日まで継承されてきている.そのよう. な射法を実践するにあたり,「正射必中」という正しい形で弓を引くと必ず的中 するという意味の教えがある.このことについては,魚住が「『正射必中』38,. (中略)ができれば,ねらわずともおのずからあたる」39と述べ,阿波研造が. その意味がどのようなことかを実証したという記録も残っている40.このよう なことに依拠し,自ら的中を求めるための弓の引き方(射法)ではなく,「正し. い射」を日頃から意識重視していれば技術上達するという意識の有無を問う 35加藤寛(1994),礼.二木謙一・入江康平・加藤寛編,日本小百科く武道〉,東京堂出 版 P.230. 36武道憲章第四条. 37前掲,弓道教本第1巻(1953),p.37, p.40.. 38魚住は「正射必中」のことを,弓矢と心身の状態が一致した正しい引き分けと無心の 離れのことであると記している. 39前掲,魚住(2003),p.103.. 40阿波は真っ暗な夜の道場で,28m先の的の前に線香1本と点じただけで,一手2本を 射てみせた.暗闇で的も見えない中で,2本とも的中しただけでなく,第2射は第1 射の軸を引き裂いて突き刺さっていたという。 12.

(17) 項目として作成した.. 「礼法など」のカテゴリーについては,弓道実践者の人間性に関する項目で. 構成した.弓道の最終目的は人間形成であることから,自己の人格に影響があ ったか否かを問う質問は,入江が「武術が(中略)技術の修得過程で人間的成 長の具現が期待できる(中略)として価値が強調されるようになった」41と述 べていることに依拠している.礼と人間性についての質問は,藤堂が「武道を 心がける人は(中略)自己をコントロールする心,更には日常生活に必要な正 義感や寛大さも磨いていかねばならないだろう」,「禅における平均的な人間以. 上の生き方を求める修行としての礼法は武道にも大きな影響を与え」42と述べ ている他,魚住文衛が「道場内での立居振舞いが,いわゆる礼儀作法(礼の心 と形式)にかなわねばならないことは当然」43というような内容に依拠してい る.この他にも柔道の山下泰裕選手が「人間を作るのはよい親と子供の関係で あり,よい師弟関係であり,さらにはよき友人であった」44と述べたことを藤 堂が著書の中で記述していることからこの項目を作成した.試合での礼(礼儀i). に関する質問は,松尾が「弓道競技ではガッツポーズもしない」45と述べてい ることの他,2002年当時の全日本学生弓道連盟会長の横山と,日本大学弓道部 監督の落合(他3名参加)の対談46において,落合が「(試合で的中したときの) あた. 中りの掛け声もやたらと長くてわめくようなものがありますね.私は拍手だけ. 4!入江康平(2005),理念としての武道一武道の特性から考える一,日本の教育に“武道 を”一21世紀に心技体を鍛える一,p.235. 42前掲,藤i堂(2000),p.32, p.35。. 43回忌文衛(1996),弓道概論 二,弓道の理念について 三,体配と射ネL弓道5,月号, 財団法人全日本弓道連盟,p.4. 武道憲章 第二条. 44前掲,藤堂(2000),p.34。 柔道の山下泰裕の発言を文中に記述している. 前掲,入江(1998a), P.60.. 45この他,「(試合も含め)喜怒哀楽,動揺が態度に出ることは良いこととしない」とも 記述している. 前掲,松尾(2003),p.50.. 46その他にも当時の全日本学生弓道連盟委員長の山田(東京大学),と,東京都学生弓道連 盟副会長の黒澤,大東文化大学弓道部監督の坂田が対談に参加して,第50回全日本学 生弓道選手権大会開催記念及び全日本学生弓道連盟発足50周年を記念した対談が開催 された. 13.

(18) にして掛け声はなくしたらと思っています」と,試合での声援について述べて いることに対し,横山が「全く声を出してはいけないというわけではない」と 逆の意見を述べているが,過度な掛け声に対して「日本の騒々しい弓は何だと いうことになります.無秩序のあのばかげた行為は早くなくした方がいいです ね」47とマナーを守った範囲内での声援を求める考えを述べていることから, 試合においてのマナーという視点もふまえこの項目を作成した.. 「精神鍛錬」のカテゴリーについては,武道の目的である「人間形成」とい う観点から,弓道を通して人間性を高めるための方法に関する項目で構成した.. 直射にあたっての心的状態についての質問は,浦上が「上達するためには努力 と忍耐が必要」48と述べていること,藤堂が「集中力の養成こそ武道人が求め る精神修養のひとつ」「試合に挑んでの集中力と闘争心を磨く自己の心のコント. ロール」49と述べていることに依拠している.技術と心の関係についての質問 は,浦上が「技術が進むにつれて心のあり方がどれほど大きく左右するかがわ かってくる」50と述べている内容に依拠しており,弓道を始めて,弓の操作に 慣れ,的に向かって弓を射るという技術を習得したからといって,すぐに精神. 的な向上がなされるというわけではなく,10年,20年半長く継続的に修行を 続けることによって人間性が高まるという観点に依拠している.射と心の関連 性は,浦上の述べている「弓道は感情の起伏,心の動きが射に直接影響する」51. ということの他,松尾の述べる「いかなる状態においても喜怒哀楽,動揺が態 度に表れることはよいこことはされない」52という内容に依拠している.. 「技術性」のカテゴリーについては,八尋の技術において重要とされる弓道 観に関する項目で構成される.高い技術を持つことについての質問は,松尾が 述べているような「高段者であることは,射術修練経験も豊富であることが推. 47横山亮次・落合栄司(2002),特集 学生弓道50年,弓道10,月号,財団法人全日本弓 道連盟,p.8. 48前掲,浦上(2001),p.11. 49前掲,藤堂(2000),p29, p.35. 50前掲,浦上(2001),p。7. 51前掲,浦上(2001),p.7. 52前掲,松尾(2003),p.50.. 14.

(19) 測され」53という視点に依拠している.初心者の技術修得の重要性を問う質問 は,浦上が「初心のときに基本を固めておくと(中略)驚くほど上達するもの」 54. ニ述べ,また,弓道教本で「弓は特に正しい基礎を固めなければ本当の味わ. いがわかりにくいもの」55という内容に依拠しており,始める際には武道とし ての自己鍛錬も大事だが,技術向上と共に精神的向上もなされるという観点に 依拠して作成した.. 「スポーツ性」のカテゴリーについては,国際スポーツ体育協会の定義する スポーツの基本要件をもとに,弓道のスポーツとしての観点に関する項目から 構成した.スポーツを構成する基本要件の中の「自己または他者との闘争や自 然的要素との対決を含む」56という要件や,小笠原が「学生弓道は試合で勝つ ことが最優先されている」57と述べていることは,試合において勝負(的中). を重視していると捉えることができる.しかし,弓道においては試合では他者 に勝つということを最重要の課題として行うことはよいこととされず,試合で あて. あて. 中なければ意味がないという考えや,射を崩してでも中たいという考えは弓道. の理念に反していると考えられる。この質問は実践者が弓道をスポーツと捕ら えているのか否かを図る一尺度として作成した.弓道がスポーツのひとつであ るという「武道」か「スポーツ」かの位置づけを問う質問は,入江が「諸外国 の中には近代になってスポーツとして再出発したものがあるが,武道はあくま で終始真面目ごととして取り組んできた経緯がある」と述べていることと,菊 本が「日本で育まれてきた『武道』と(中略)『スポーツ』は多くの共通点を持. ちながらも,本来,文化的に異質なものである」58という武道とスポーツが異 なるものであるという観点に依拠している.生涯性についての質問と,国際性 についての質問は,予備調査の項目の表現を若干修正して質問項目として作成 した.. 53前掲,松尾(2003),p.55. 54前掲,浦上(2001),p.7, p.40.. 55前掲,弓道教本第3巻(1955),p.4. 56前掲,入江(2005),p.240. 57前掲,小笠原(2005),pp.135−136. 58菊本智之(2003),武道とスポーツ。入江康平編,武道文化の探求,不昧堂,p.86. 15.

(20) なお,質問紙作成の際の質問項目の順番は乱数表を用いて順不同で作成した.. 調査で用いた質問紙は資料2として添付する.. 1−3.「スポーツ観」の観点による質問内容. 本研究に際しては,前述の弓道観に関する質問内容とは別に,「スポーツ観」. の視点による質問内容を加えた.前記の弓道観に関する質問内容は弓道界の内 部から立ち上げられたものであるため,弓道実践者に固有の価値観を捉えるこ とは可能であるが,広く一般化しうる「スポーツ観」に弓道実践者の価値観を 位置づけて捉えることはでき難い.「研究の背景」でも触れたように,戦後の特. に大学生弓道部活動実践者の弓道観には「競技スポーツ」として弓道を捉える 価値観が含まれていると想定されるため,「スポーツ観」という枠組視点から 弓道実践者の価値観を相対化して定位させることも重要であると考えられたの である.前記の弓道の概念に関する質問調査が,弓道実践者の固有の価値観を 捉えるための,いわば「エミッタ」な内観的アプローチによるものに対して,. スポーツ観という枠組,視点からの調査は,いわば「エティック」な外観的ア プローチによるものであり,前者のアプローチを補う位置づけにある.、59 59エミッタ(emic)とは,文化の内在的な固有属性を意味し,エティック(etic)とは,外在. 的立場からも理解可能な文化の属性を意味する.濱口恵俊(1980),日本社会論 比較社. 会論熊谷尚夫・篠原三代平編.経済学大辞典H.東洋経済新報社,p.943, p.954. また,グッドエナフが「諸文化の比較研究や,文化外的な現象に対して文化的な現象が もつ関係についての比較研究が,エミッタな民族誌の欠如により,またそれにともなつ た満足すべきエティックな概念の欠如によって,ハンディキャップを負うことを知って いる」と述べているように,文化比較の方法論として,エミックス性とエティックス性 の両面を考慮したアプローチの必要性が指摘されている.グッドエナフ,W.H.(寺岡蓑・ 古橋政次訳),(1977),文化人類学の記述と比較.弘文堂,p.169.. 16.

(21) そこで,スポーツ観を探るための質問内容として,永木らによって修正され た「スポーツ価値志向尺度(value・rientati・ns t・ward S p.・rt Scale)」,および,. kenyon.G,Sによる「スポーツへの態度尺度(Kenyon’s A瞭udeもToward P.hysica藍 Activity Scale)」を取り入れた.. 以下に各々について説明しておく.. 1−3−1. 「スポーツ価値志向尺度」について. 「スポーツ価値志向」を捉えるための尺度は,これまでにもH、Webb60, T. Kiddら61,多々納ら62, Yamaguchi.Y63らによって構成され,種々の調査に適用. されている.以下,それらの先行研究における尺度の構成とその適用の結果に ついて概観しておく.. 永木ら64によると,Webbは,共同体型農業社会から都市型産業化社会への移 行に伴って,人々の価値志向が「所属(あるいは帰属)」から「達成」という 基準に変わり,その達成思考的な社会を特徴:づける価値は,「勝利(victory)」,. 「公正(equity)」,「技術(Ski11)」の要素を組み合わせて構成し,人々がそ. れらをどのように重みづけるかを質問するもので,成長に伴ってプレイ志向か らプロ志向へと向かう傾向にあるのかどうかをみることができると仮定した. そして,このような近代産業社会特有の価値志向をスポーツに照らして, 「勝. 60Wbbb,H(1969), P.rofbssionalization of attitudesもoward p.1ay among adolescents. In K:enyon,G.S.(Ed.),,As p.ecもs of contem p.orary S p.ort Sociology, North P.alm. Beach, Fla:The Athletic I皿stitute, pp.161・179.. 61Kidd,T alld Wbodman,W(1975), Sex and orientations toward winning in s p.orも. The Research Quarterly 46(4), PP.476−483.. 62多々納秀雄ほか(1984),スポーツ行動における行動特性と態度・価値パターンに関す る国際比較研究.昭和58年度科学研究費補助金:研究成果報告書。 63Y『Yamaguchi(1984), Socialization into physical ac七ivity in corporate settings:a. comparison of Japan and Canada. Doctoral Dissertation, Dept. of kinesiology, University of Waterloo, Ontario, Canada.. 64永木耕介ほか(1997),柔道実践者のスポーツ価値志向に関する実証的研究一特に伝統 性と近代性の視点から一 1997武道学研究30・(2),p.2. 露林幸喜(1996),剣道実践者のスポーツ観に関する研究一アメリカンフットボール実 践者との比較から一,pp.7・8.. 17.

(22) 利」, 「フェア」,「ベスト」の3分法尺度を作成し,アメリカ人の公立学校. とカトリック教区付属学校の児童生徒に適用した結果,一般的に学年が上がる (加齢)に伴ってフェア志向が減少し,勝利志向とベスト志向が増加することな. どを明らかにしている.Webbの仮説は技術が専門化されればされるほど勝利志 向が強まることを前提としており,競争社会の達成志向がスポーツにも反映さ れていることを指摘したものである.. T・R・KiddらはWebbの価値志向尺度を参考に,「技術水準のステージに応じて 価値志向が変化する」と仮定し, 「楽しみ」, 「スキル」, 「勝利」の3つを. 使って図1のような枠組みを設定して分析した.. 第1ステージ. 初心者 「楽しみ」. 第3ステージ. 第2ステージ. →. 中級者 「スキル」. →. 上級者 「勝利」. 図1。Kiddら(1975)のスポーツ価値志向モデル. そしてその尺度をアメリカ人大学生に適用した結果,頻繁にスポーツを実施 するものは実施度の低い者より勝利志向が強く,女性よりも男性の方が勝利志 向は強いという結果であった.これは技術水準が高いほど「勝利志向」の傾向 が強いということを明らかにしている. また,多々納ら65は,Webb, Kiddらの研究を参考にして,「勝利」「フェア」. 「ベスト」に「楽しみ」を加えた4つの尺度によって日本人大学生のスポーツ. 価値志向を調査し,その結果一般的な日本人大学生は「楽しみ」志向が強い傾 向にあること,特にそれは男子より女子に,スポーツ実施度の低い者などで顕 65前掲,多々納ほか(1984).. 18.

(23) 著であることを明らかにしている.さらに永木らが教員養成系の日本人大学生 に対して多々納らの尺度を修正した追試的調査を実施した結果,同様に男女と も「楽しみ」志向が最も強いことを確認している66.. Yamaguchi67はWebbによる「勝利」,「フェア」, 「ベスト」の尺度を日本人. にあてはめる場合,日本人特有の価値志向としての「自己鍛錬」を加え,カナ ダと日本人企業従業員のスポーツ観について比較を行い,特徴付けを試みてい る.結果,日本人の方が「自己鍛錬」志向が強く,カナダ人は「フェア」志向 が強かったことなどを明らかにした.このことから, 「自己鍛錬」は日本人の 伝統的価値思考であること, 「フェア」志向は西欧で重要な価値志向であるが 日本人にはなじまないものであると指摘している68.. 小椋ら69は「勝利」志向を主にして,中学生時と成人してからの比較を行っ た.結果,成人してから高い技術水準でスポーツを行っている者ほど中学生時 から「勝利」志向が強いと結論づけた.また,目下ら70は「勝利」と「楽しみ」. とは対極にあるとして,「快楽一勝利主義スポーツ観」という枠組みを設定し た.その結果「勝利主義」的スポーツ観は,競技的スポーツ観への参与程度が 高い若年層に強く存在することを明らかにした.. 日本人の「フェア」志向については,今までに挙げた小椋ら71,多々納72,永. 木ら73の調査結果で日本人は低い傾向を示している.これらを整理し尺度構成 すると図2のようになり,永木ら74は特に日本的な特徴を考慮したスポーツ価値 志向尺度として,「楽しみ」,「勝利」,「自己鍛錬」が重要であると捉えた. 66永木万一ほか(1996),日本人大学生のスポーツ観に関する一考察一教員養成系大学学 部生を対象として一.兵庫教育大学実技教育研究,10,pp.77・85. 67前掲,YYamaguchi(1984). 68前掲,YYamaguchi(1984). 69小椋博ほか(1984),スポーツに対する態度,特に勝利志向の分析一『スポーツへの社 会化』に関する国際調査から一,体育社会学研究会編,体育社会学研究6,道和書院, p.57・68.. 70 日下裕弘・丸山富雄(1998),一般成人のスポーツ観に関する研究.体育スポーツ社会 学研究7,pp.131・158. 71前掲,小椋ほか(1984). 72前掲,多々納ほか(1984). 73前掲,永木ほか(1997). 74前掲,永木ほか(1997),p.2.. 19.

(24) ベスト フェア. 多々納(1984). Kidd(1975). Webb(1969) 勝利. 勝利. →. スキル 楽しみ. 勝利. →. ベスト フェア 楽しみ. ↓. 山口(1984). 勝利. ベスト フェア. 自己鍛錬 図2.先行研究における尺度構成. 本研究で,大学生弓道実践者の弓道観を明らかにする一つの側面として,永 木75の作成した「スポーツ価値志向尺度」を採用することにした.ここで「勝 利」, 「楽しみ」, 「自己鍛錬」の各概念について確認しておく.. 「勝利志向」は,Webbから始まりその後の研究に一貫して構成された目的 尺度の根幹を成している.入江76が述べていたスポーツを構成する基本要件に 「競争性」が含まれており,国際スポーツ・体育協会ICS P Eの一「スポーツ宣. 言」でスポーツを「遊戯性を持ち,自己または他者との闘争や自然的要素との 対決を含む身体活動のすべて」と定義づけられている.また,永木らはスポー ツが他者との優劣を競うという競技的特性を有する限り普遍的なものであり,. 実践者の専門性が高まれば高まるほど「勝利志向」になっていくという前提が 得られており,不可欠の価値志向であるとしている.これらのことから,弓道 での「勝利志向」にあてはめると,試合が実践の中心となっているグループ及 び的中率が高い実践者,学校は「勝利志向」が強いと仮定することができる.. 75前掲,永木ほか(1997),p.4. 76前掲,入江康平(2005),p.237.. 20.

(25) 「楽しみ志向」は,人々がスポーツに参加する際の内発的動機づけとして不 可欠であり,M.チクセントミハイによれば,行為者の技能水準と挑戦水準が 一致したときに「自我意識の喪失や自己の環境に対する支配感」などの「楽し い状態」が生じる77としており,西洋流の遊びのみではなく日本の武芸も例に 取り上げられている.このことから人間の遊びや文化には,その入り口あるい は根底に「楽しみ」という目的があると捉えられる.このようなことから,「楽. しみ」という概念は,心理的な側面からのスポーツを選択する価値基準である と言える.. 「自己鍛錬志向」は,永木ら78はスポーツ活動における人格陶治的価値(道徳 的価値)と密接に関連しており,日本的なスポニツ観として重要なものであると. している.霞林は剣道の特性に迫ることも考え合わせ,Yamaguchiの結果を参 考に「勝利」という他者あるいは外に向かう価値の対極としている79.このこ とから,古来より倫理性,道徳性を持った「道」の思想であり,人間形成目的 とした武道の特性をもつ志向であるといえる.. そして,本調査で用いた「スポーツ価値志向尺度」を表3に示す.. 表3.「スポーツ価値志向尺度」の質問内容. あなたがスポーツ活動を行う際、最も重要と思うものはどれですか。. 以下の三つのうち、 と. の 勤 に1∼3と. つ1て. ※武道もスポーツに含めて考えてください。. 記入例[21 [. ]楽しみのために行う。. [3】 [. ]自己を鍛えるために行う。. [11 [. ]相手や他のチームに勝るために行う。. 77前掲,永木ほか(1997),p.3. 78前掲,永木ほか(1997).p.3. 79前掲,永木ほか(1997),p.3.. 21.

(26) 1−3−2. 「スポーツへの態度尺度」について. Kenyonはスポーツ活動が「何の役に立つか」という手段的価値(inst㎜ental value)における特徴を,理論的考察から活動動機iについて調査し6つにモデル化. し80,さらにそれらをスポーツ実践者の反応を統計的に分析することにより,ス ポーツへの参加動機を測る尺度として構成した81. モデル化された6つは図3のように,「社会的経験」, 「健康と体力」, 「スリ ルの追求」, 「動きの美しさ」, 「緊張の解消」, 「禁欲鍛錬」である.. 社会的経験. 健康と体力. スリルの追求. 身体活動 動きの美しさ. 緊張の解消. 禁欲鍛錬. 図3. Kenyonの身体活動への態度モデル. さらにKenyonはこの「スポーツへの態度尺度」を,イギリスをはじめ,イギ リスで生まれた近代スポーツが,アングロサクソン系によって直接的に広まっ. たアメリカ,カナダ,オーストラリアの英語圏4三国に対し,スポーツ参加態度 及び価値観の普遍1生と多様性を追求している82.このKenyonの追試研究は1981. 年の時点ですでに100件近くが報告されている83.このことからこの尺度は一般 化されたものと捉えることができると言える.. 80 Kenyon,G.S.(1968a), A conce p.utual model{br characterizing p.hysical activity、. The Research Quarもaly 39(1), PP.96・lo5. 81 Kenyon,G.S.(1968b), Six scales fbr assesing attitude toward p.hysica豆activity. The. Research Quarterly 39(3), PP566−574.. 82前掲,Kenyon,G.S(1968a). 83 K:ellyon,G.S., Andrews,D(1981), Attitude toward p.hysical activity scales: An annotated bibliogra p.hy and related materials. University of Waterloo, Canada、. 22.

(27) そこで,本調査ではKenyonによる「スポーツへの態度尺度」の表現内容を若 干修正し,次の質問を用いた.表4に質問内容を示す.. 表4, 「スポーツへの態度尺度」の質問内容 下には、人々がスポーツ活動(武道を己む)に参加する理由が、6つ挙げてあります。 それぞれを読み、以下の質問にお答え下さい。. 1。友人との交流など、社会的経験が得られる. 2,健康や体力の維持・向上が得られる. 3,スリルや興奮を味わうことができる. 4,動きの美しさを追求することができる. 5.ストレス発散や、緊張解消(リラックス)することができる. 6,長く徹底した練習などから、禁欲(忍耐)の経験が得られる. ※強い相手との勝負も含む. ①6つ面のうち、あなたが墨査置凱一 3つ1 ・い 記入例[ 1,3,6 ]. ②同様に、 圃い. ・い. [. ]. [. ]. ・. 記入例[ 2,5,6 】. これら「スポーツ価値志向尺度」と「スポーツ態度尺度」の2つを用いるこ とには,「スポーツ価値志向尺度」にはスポーツには不可欠の価値である「勝利」. 志向が含まれていること,また,「スポーツ態度尺度」では,弓道の理念にある. 「真善美」の「美」を指すと捉えられる「美しさの追求」が含まれていること. から,それぞれに含まれない価値を補完し,様々な角度からスポーツ観を探る ことを狙いとしている.. 23.

(28) 2.調査対象と時期. 調査時期:平成19年9月∼10,月.. 調査対象:関西,関東地区の大学生弓道部活動実践者. 16大学:有効回答者数372名.. 関西,関東地区の高校生弓道部活動実践者. 7校:有効回答者数174名. 九州,中国,関西地区の県または市の弓道連盟に所属する指導者. (高校,大学で指導している者も含む):有効回答者数32名.. 指導者を対象としたのは「研究の目的」で述べたように,大学生弓道部活動 実践者の弓道観は社会一般における弓道観とは異なっていると想定されること から,各群を比較することによって大学生弓道部活動実践者の弓道観をより定 位させるためである.なお,指導者は弓道経験年数:11年以上及び五段以上を有 する者とした84.また,高校生弓道部活動実践者を対象としたのは,同様に大学 生と比較するためである.. なお,質問紙の配布及び回収は関西,中国地区の大学生および高校生弓道部 活動実践者,指導者は手渡しによる配布,回収を行った.九州地区の一般,関 東地区の大学生および高校生弓道部活動実践者については,県弓道連盟の責任 者ならびに各部の責任者を通じた郵送法により配布,回収を行った.. 84一般の経験年数・段位の設定理由は,一般的に中学生から弓道を始めた場合でも,大 学卒業時に経験年数が11年未満であること,また,大学在学中に五段を取得すること は困難であることによる.. 24.

(29) 皿.結果. すでに方法の箇所で示したが,弓道観の特性から構成した32項目について は,「そう思わない」,「あまりそう思わない」,「ややそう思う」,「そう思う」の. 4段階評定尺度により回答を求めた.ここではまず,回答の傾向を知るための 基本的な資料として4段階評定尺度に対する回答に「そう思わない」から「そ う思う」まで,それぞれ1∼4点の得点を与えた.各グループ(大学,高校, 指導者)の平均値を求め,得点2.5点以上を肯定的,2.5以下を否定的と分類 し,各グループにおける弓道観に対しての捉え方を見ることにした.. 結果を表5に示す.なお,グラフ中の質問項目は簡略化したものである.. 25.

(30) 1.各グループの平均得点の結果 表5.32項目4尺度の各グループにおける平均値. 蟻騨 搏鵡 2 3. 思わない 1. 4)時代に応じて変化. そう思う. 4. ■一、. 4. 5)伝統はそのまま継承. ㍗. 14)伝統の重視で上達. 28)道場での静粛さの必要性. ’. rご. 1)誠実で信頼できる. 2)人格に影響があった. 8)派手な声援や見下しの禁止. !. 【. 、蒐. \穿. 2. y. ll)礼儀正しくなる. /ダ. <. 16)高段位=立派な人 23)上下関係. \. 24)礼法の遵守 7)集中力が養える. ←. 9)競争心が養える. 〆. 12)忍耐力が養える. 興. 19)平常心が養える. 21)射と心の関連の理解. ≒L■. 22)精神修養は技術習得で可能 27)精神的向上=年数. \. 30)感情=射に影響. ニニ”. 3)まず技術習得. ■ 、、. 17)高段位=高的中率を望む. ;. 20)技術=センスも必要 25)試合=椅麗な射. ヂ コ、、. 、. 、、i. 31)技術=誰でも習得 6)国際化を進めるべき. A戸. ぐ. 瑛. 10)弓道=スポーツ 一 一 一. 一. 一. 13)弓道≠アーチェリー. 区. /「. 15)飽きることなく楽しめる. ‡ 1. 18)的中=楽しい 一. 一. 一. p 一. 匿. 29)試合=的中. 32)試合で的中≠正射. 一. 〆. 26)生涯続けられる @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @ @. @@ @@ @@ @@ @@ @@ @@ @. ㌍π1 一1■. ロ. ぐレ. 指 高 大. 響校学 26.

(31) 「伝統性」のカテゴリーでは,「4)弓道の古くさい面は,時代に応じて変えて. もよい」は,大学生グループ2.45点から指導者グループ2.41点,高校生グル ープ2.14点までの間であり,3グループ共に否定的であった.「5)弓道の伝統 的な心構えや習慣はそのまま継承すべきである」は,指導者グループ3.66点か. ら高校生グループ3.52点,大学生グループ3.4点までにまとまり,3グループ ともに強く肯定的であった.「14)弓道の伝統的な考え(真善美や正射必中)など. を重視していれば上達し,的中率もあがると思う」は,指導者グループ3.16点. から高校生グループ3.1点,大学生グループ2.94点までにまとまり,3グルー プともにやや肯定的であった.「28)弓道場では,気持ちが引き締まるような 雰囲気が大切である」は,指導者グループの3.56点から高校生グループ3.52 点,大学生グループ3.3点まであり3グループともに肯定的であったが,その中 でも指導者グループと高校生グループが強く肯定的であった. 「礼法など」のカテゴリーでは,「1)弓道を続けている人は,誠実で信頼で きる」は,指導者グループ2.97点から高校生グループ2.75点,大学生グループ 2.33点まであり,高校生グループと指導者グループは肯定的であるのに対し,. 大学生グループ生はやや否定的であった.「2)弓道を始めて自己の人格形成に 影響があったと思う」は,指導者グループ3.56点から高校生グループ3.1点, 大学生グループ3.09点まであり,各グループとも肯定的ではあるが,指導者グ ループが平均点3.5点以上と強く肯定的であった.「8)弓道の試合では,派手. な声援や相手を見下すような態度・発言は慎むべきである」は,指導者グルー プ3.72点から高校生グループ3.53点,大学生グループ3.15点まであり,各グ. ループともに肯定的ではあるが,中でも指導者グループは非常に強く肯定的で あった.「11)弓道を続けると,日常生活でも礼儀正しくなる」は,指導者グル ープ3.19点から高校生グループ3.14点,大学生グループ2.81点の間であり,. 各グループ共に肯定的であったが,大学生グループは他のグループよりも肯定 度が低いという結果であった.「16)段位の高い人は,人間的にも立派な人が 多い」は,高校生グループ2.78点から指導者グループ2.41点,大学生グルー プ2.26点まであり,大学生グループと指導者グループはやや否定的であったの. 27.

(32) に対し,逆に高校生グループはやや肯定的であった.「23)弓道を続けると,. 上下関係(先輩・後輩や段位)にけじめが付けれるようになる」は,指導者グ ループ3.25点から高校生グループ3.2点,大学生グループ3.09点にまとまり 各グループともに肯定的であった.「24)弓道では,定められた礼法は常に守ら. なければならない」は,指導者グループ3.53点から高校生グループ3.41点, 大学生グループ3.11点の間であり,各グループともに肯定的であった. 「精神鍛錬」のカテゴリーでは,「7)弓道をしていると,集中力が養える」. は指導者グループ3.38点から高校生グループ3.35点,大学生グループ2.99 点までの間であり,各グループともに肯定的であったが,大学生グループのみ 3点を下回っていた.「9)弓道をしていると,競争心が養える」は,高校生グ ループ2.9点から大学生グループ2,74点,指導者グループ2.5点までの間であ り,各グループともに肯定的であった.「12)弓道をしていると,忍耐力が養え. る」は指導者グループ3.28点から高校生グループ3.22点,大学生グループ3.0 点にまとまり,各グループともに肯定的であった.「19)弓道をしていると,平. 常心が養える」は指導者グループ3.19点から高校生グループ3.06点,大学生 グループ2.67点まであり,各グループともに肯定的であったが,指導者グルー プと大学生グループの差が0.52点あり,指導者グループの方が強く肯定的であ った.「21)弓道で射や的中が心の問題と関連していることは,誰にでも理解で. きる」は指導者グループ3.16点から大学生グループ3.02点,高校生グループ 2,99点までにまとまり,全体的に肯定的であった.「22)精神修養は技術習得を. 重ねるうちに自然とできてくるものである」はゴ高校生グループ2.91点から指 導者グループ2.88点,大学生グループ2.69点にまとまり,各グループともにや や肯定的であった.「27)弓道による精神的な向上は,長く修行を続けなければ 得られない」は,指導者グループ3.09点から高校生グループ3.06点,大学生グ ループ2.93点にまとまり,各グループともに肯定的であった.「30)感情の起 伏は射に大きな影響を与えると思う」も,指導者グループ3.78点から大学生グ. ループ3.67点,高校生グループの3,61点にまとまり,各グループともに強く 肯定的であった.. 28.

(33) 「技術」のカテゴリーでは,「3)弓道を始めて間もないものは,何よりもま ず技術を習得するべきである」は,大学生グループ2.63点から指導者グループ 2.53点,高校生グループ2.36点の間であり,大学生グループと指導者グループ がやや肯定的であるのに対し,高校生グループはやや否定的であった.「17)段. 位の高い人は,やはり的中率も高くあってほしい」は,大学生グループ3.26 点から高校生グループ3.14点,指導者グループ3.13点にまとまり,各グルー プともに肯定的であった.「20)弓道の技術は難しく,上達するにはセンスや才. 能も必要である」も,大学生グループ3.15点から指導者グループ2.88点,高 校生グループの2.87点の間であり,「31)弓道の技術は,日々の修練によって 誰にでも修得できる」も,指導者グループ3,38点から高校生グループ3.27点, 大学生グループ3.11点までの間であり,各グループともに肯定的であった.. 「25)弓道では,試合においても中てることより綺麗な射術が大切である」. は高校生グループ2.69点から指導者グループ2.56点,大学生グループ2.24 点までの問であり,高校生グループと指導者グループはやや肯定的であったが, 大学生グループはやや否定的であった.. 「スポーツ性」のカテゴリーでは,「6)弓道の国際化をさらに進めるべきで. ある」は高校生グループ,指導者グループ3.03点から大学生グループ2.96点 の間でまとまり各グループともに肯定的であった.「10)弓道は,スポーツ種目. のひとつである」は大学生グループ3.45点から高校生グループ3.37点,指導 者グループ2.97点の間であり,大学生グループならびに高校生グループが強く 肯定的であった.「13)弓道は,洋弓(アーチェリー)とは全く異なる,純粋な日. 本の武道である」は,指導者グループ3.66点から高校生グループ3.63点,大 学生グループ3.47点にまとまり,各グループとも強く肯定的であった.「15). 弓道は,生涯を通しても飽きることなく楽しむことができる」は,指導者グル ープ3.97点から高校生グループ3.26点,大学生グループ3,23点であり,指導 者グループは,非常に強く肯定的であった.「18)弓道では,中てることこそが. 楽しい」は,大学生グループ3.05点から高校生グループ2.95点,指導者グル ープ2.56点までの間であり,大学生グループならびに高校生グループが,指導. 29.

(34) 者よりも肯定度合いが高いという結果であった.「26)弓道は,生涯続けても身. 体に無理がない」ぽ指導者グループ3.63点から高校生グループ2.87点,大学 生グループ2.47点まであり,高校生グループと指導者グループが肯定的である のに対し,大学生グループはやや否定的であった.「29)弓道の試合では,中で. なければ意味がない」は大学生グループ3.27点から指導者グループ3.03点,. 高校生グループ2.91点までの間であり,各グループともに肯定的であった. 「32)試合で中るためならば射を崩しても仕方がない」は,大学生グループ2.33. 点から高校生グループ1.8点,指導者グループ1.31点まであり,全グループ否. 定的であるが,高校生グループと指導者グループは平均値1点台と,強く否定 的であるのに対し,大学生グループだけが2点台とやや否定的であった. 以上の結果をグループ別に見ると,大学生グループは「伝統性」の項目No,4, 「礼法など」の項目No.1, No.16,「技術性」の項目NO.25,「スポーツ性」は項. 目No.26.32が否定的であり,その他は肯定的であった.「精神鍛錬」にいたっ ては全ての項目が肯定的であった. 高校生グループは「伝統性」の項目No.4,「技術性」の項目No.3,「スポーツ. 性」の項目No,32が否定的であり,その他は肯定的であった.大学生グループ と同様に「精神鍛錬」は全て肯定的であった. 指導者グループは,「伝統性」の項目No.4,「礼法など」の項目No.16,「スポ ーツ性」の項目No.32が否定的であり,その他は肯定的であった.「精神鍛錬:」. 大学生グループ,高校生グループと同様に全て肯定的であった.. 否定的であった項目の中でも項目No.4は弓道で古くから継承されてきた面 を変えていくことに対して否定しているものであり,伝統を継承することが大 事と捉えていると理解できる.. 平均値の最大値と最小値の差が0.5点以上あった質問項目を抽出すると,「1) 弓道を続けている人は,誠実で信頼できる」が0.64点差.「8)弓道の試合では,. 派手な声援や相手を見下すような態度・発言は慎むべきである」が0.57点差. 「16)段位の高い人は,人間的にも立派な人が多い」が0.52点差.「19)弓道. をしていると,平常心が養える」が0.52点差.「26)弓道は,生涯続けても身. 30.

(35) 体に無理がない」が1.16点差.「32)試合で中るためならば射を崩しても仕方 がない」が1.02点差であった.. 2.因子分析による結果. 全回答者(578名)の32項目の質問に対する評価にはどのような因子が在 るのかを確認し,共通する概念を抽出するため,因子分析をおこなった.主因. 子法により初期値を1に設定し,固有値1.0以上を目安に因子数は8が適当で あると判断した.さらに因子を解釈しやすくするため,斜交プロマックス回転 を用いた.因子負荷量(因子の中で項目が持つ重要度)0.4以上の項目から因 子を解釈,命名をおこなった.回転後の結果を表6に示す. 第1因子は,「忍耐力が養える」,「集中力が養える」,「日常でも礼儀正しく なる」,「人格に影響があった」,「平常心が養える」,「誠実で信頼できる」,「上. 下関係をわきまえることができる」という項目の因子負荷量が高く,弓道を通 して人間性を高めることを表しているので「人格形成」と命名した.なお,こ の因子寄与率は19.67%を占め,抽出された8因子の中でも最も高く,重要な因 子である.. 第2因子は,「精神的向上は年数を重ねなければできない」,「弓道はアーチ ェリーとはことなる純粋な日本の武道である」,「生涯飽きることなく楽しむこ とができる」,「伝統的な心構えや慣習を継承すべきである」,「伝統的な考えを 実践することで上達する」,「決められた礼法を守らなければならない」,「古い. と思われる面は時代に応じて変化させるべきである」という項目の因子負荷量 が高く,弓道における自己鍛錬の内容を指すことを関わることを表しているの で「修行観」と命名した.. 第3因子は「派手な声援の禁止」,「試合では的中より正しい射が大事」「試 合で中るためには射を崩しても仕方がない」という項目の因子負荷量が高く, 試合に関することを表しているので「試合観」と命名した.. 3].

参照

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