グループ法人の課税における諸問題
野 田 秀 三
目 次 はじめに Ⅰ 論点の基本的な考え方 Ⅱ グループに係る税制 おわりにはじめに
平成 22 年度税制改正大綱(以下「大綱」という)が 2009 年(平成 21 年)12 月 22 日に閣議決定され、 公表された。その中で法人課税に係る税制改正内容が明らかにされている。そのうち資本に関係 する取引等に係る税制改正では、①グループ内取引等に係る税制、②資本に関係する取引等に係 る税制が明らかにされている。 ここでは、これらの税制改正が行われた経緯を検証することにする。なお、ここで取り上げる内 容は、拙稿の「資本取引等に関する論点とりまとめの検証」(税理 VOL.53.No.1、2010 年 1 月)ほ かの筆者の既発表論文をもとにしていることをお断りしておきたい。 企業グループに関しては、最近の会社法における会社分割制度の創設(2000 年)、会社法の制 定(2005 年)における組織再編制度、税制における組織再編成税制(2001 年)及び連結納税制 度(2002)の整備により、企業グループ活動が活発に行われており、その企業グループの税制も 整備されてきていたが、その税制そのものにも様々な問題が内在していた。 今回の税制改正における資本に関係する取引等の改正内容は、租税法学者、経済団体、日税連 等が参加した勉強会における、「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会」(平成 21 年 7 月)と題する論点とりまとめ(以下「論点」という)がもとになっている。この論点では、グルー プ法人の一体的な運営が加速されてきていることに対して、税制のあり方を再検討する材料とし て提示されたものであり、それが今回の税制改正に反映されている。Ⅰ 論点の基本的な考え方
論点では、グループ企業における法人税制のあり方として、第一に、グループに係る税制、第二に、 資本に関係する取引等に係る税制について、2010 年度税制改正前の現在の税制上の取扱いとその 問題点、その改善点を明らかにしている。Ⅱ グループに係る税制
グループに係る税制の論点では、グループを構成する法人グループを一つの納税グループとし て税制を検討しようとする考えを示している。 平成 14 年税制改正で導入された連結納税制度では、連結グループは、親法人と子法人との資本 関係が 100%の支配従属関係のある親法人と子法人を連結グループとして、連結グループを 1 つの 納税主体として、親法人が納税主体となる税制が導入されている。連結納税制度は選択制である ことから、法人グループを構成して連結納税の対象法人である場合でも、連結納税制度を選択し ていない場合は、法人グループの各法人が納税主体となる単体での法人課税が行われている。 連結納税制度は、連結親法人と直接又は間接に 100%の完全支配関係にある連結子法人の課税 所得を通算して連結所得を計算して、その連結所得に税率を積算して、連結納税グループとして の連結税額を確定し、その連結税額を各連結法人に帰属させる制度となっている。わが国の連結 納税制度では、連結グループの親法人が連結税額の納税義務があり、各連結子法人は連帯して納 税義務を負うことになる。 この論点では、法人グループを構成している場合には、「グループ法人税制」を検討することが 適当であるとしている(論点Ⅱ一)。連結納税を選択していない法人グループに対する税制を「グ ループ法人単体課税制度」として、法人グループを一つの納税主体として所得通算する連結納税 制度とは区別しているが、法人グループ間の取引については法人グループを納税主体としている のと同等に扱おうとするものである。 なお、この場合の法人グループとは、100%支配関係のあるグループ法人を検討の対象としてい る。このグループ法人は、現在のところ 100%の株式保有による支配関係を対象に考えており、そ の場合に外国法人や個人も含まれることになるが、連結納税制度において、外国子法人や個人は 対象外になっていることから、平成 22 年度税制改正では、制度の趣旨により、対象法人の範囲には、 100%のグループ法人に限られ、三角合併で親法人が外国法人の場合もあることから、外国親法人 は法人グループの対象から除外されている。 1 グループ内取引 グループ内取引で検討されたのは、グループ法人間の譲渡取引、グループ法人間の寄附金、グルー プ内の資本関係取引である。 (1)グループ法人間の譲渡取引 平成 22 年度税制改正の大綱では、資本に関係する取引等に係る税制において、次のように述べ ている。 「企業グループを対象とした法制度や会計制度が定着しつつある中、税制においても、法人の組 織形態の多様化に対応するとともに、課税の中立性や公平性等を確保する観点から、次の見直し を行います。①グループ内取引等に係る税制 イ 100%グループ内の法人間の資産の譲渡取引等 (イ) 連結法人間取引の損益の調整制度を改組し、100%グループ内の内国法人間で一定の資産の 移転(非適格合併による移転を含みます。)を行ったことにより生ずる譲渡損益を、その資 産のそのグループ外への移転等の時に、その移転を行った法人において計上する制度とし ます。これに伴い、適格事後設立制度を廃止します。 (注) 100%グループ内の法人とは、完全支配関係(原則として、発行済株式の全部を直接又 は間接に保有する関係)のある法人をいいます。 (ロ) 100%グループ内の法人間の非適格株式交換等を、非適格株式交換等に係る完全子法人等の 有する資産の時価評価制度の対象から除外します。 (注) 合併等の対価として一定の外国親法人株式が交付されるものを除きます。」 わが国の連結納税制度では、連結納税法人グループの個別の所得を連結することから、連結納 税法人間のグループ取引は、連結納税法人グループ内の内部取引とみることもできる。内部取引 とみた場合には、連結納税法人間の取引による所得は連結所得の調整をすることになる。わが国 の連結納税制度では、連結納税法人間の譲渡取引については内部取引とみて課税の繰り延べの調 整をしているが、租税回避行為につながるような取引については、連結所得の繰り延べの調整は していない。 従来の連結納税制度では、連結グループ間の取引で、固定資産、土地(土地の上に存する権利 を含み、固定資産に該当するものを除く)、有価証券(譲渡側または譲受側で売買目的有価証券と なるものは除く)、金銭債権、繰延資産で、譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万円以上のものは、譲渡 損益は、繰り延べられる。そして、繰り延べられた譲渡損益は、連結グループ法人の譲受法人が 連結グループ外に譲渡資産を譲渡したとき、あるいは譲渡資産を譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、 除却、固定資産の滅失等があれば、譲渡損益を計上することになる。 グループ法人単体課税制度においても、連結納税制度の連結グループ間の取引で譲渡資産を繰 り延べる制度と同様の制度を導入することになったことから、連結納税制度と同一内容とするかが 問題となる。連結納税制度は、選択制であるが、連結納税制度を選択した場合には 100%の支配 従属関係にある連結グループの所得を通算するために、連結グループ内の譲渡取引における譲渡 資産の含み損を任意に所得計算に含めることを回避する必要があり、譲渡資産を企業グループ外 に譲渡等した場合には、譲渡損益を計上することになる。 連結納税制度では、連結法人間の資産の取引は時価で取引することを原則としている。連結法 人間で資産を譲渡した場合には、連結法人間で当該資産に譲渡損益が生ずることになる。連結納 税制度は、各連結グループの課税所得を通算して連結所得を計算する仕組みとなっていることか ら、連結グループ間で資産が移転すれば移転する資産の譲渡損益も連結所得に含まれる。連結グ ループの連結所得を計算する場合には、連結グループ内の譲渡損益はまだ実現していない損益と みることができることから、連結グループ内で生ずる譲渡損益は連結所得計算上は、すべて実現
していない損益として繰り延べるというのが本来の原則となる。 わが国の連結納税制度では、連結法人間の資産の譲渡に伴う譲渡損益を繰り延べることができ る資産は、すべての資産の譲渡について適用するのではなく限定している。 内国法人である連結法人が各連結事業年度に有する資産のうち連結法人間で譲渡される資産で 譲渡に伴う譲渡損益を繰り延べることのできる資産を「譲渡損益調整資産」として、当該譲渡損 益資産を他の連結法人に譲渡した場合は、譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に 相当する金額は、当該各連結事業年度の連結所得の計算上、損金の額又は益金の額に算入するこ とにより、連結納税グループ内の取引で生ずる譲渡利益額又は譲渡損失額は繰り延べることにな る(法法 81 の 10)。 譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当する ものを除く。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産をいう(法法 61 の 13 ①、法令 122 の 14)。 譲渡損益調整資産となる資産のうち対象とならない資産は、次のものである(法令 122 の 14)。 イ 売買目的有価証券 ロ 連結完全支配関係のある譲受法人において売買目的有価証券とされる有価証券 ハ その譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万円未満の資産(その譲渡した資産を財務省令で定める 単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とする。) これらの資産は転売ないしは短期的に譲渡される資産であり、連結グループ内に長期に留保さ れるものではなく、詳細に譲渡損益調整資産とするには、事務手続き上煩雑になることから除外さ れていると解することができる。 譲渡損益調整資産となる資産のうち対象とならない資産には、その譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万円未満の資産となるものが含まれているが、その譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万円未満の資産と なるかどうかは、財務省令で定める単位に区分した後の帳簿価額とされている(法規則 27 の13 の 4、 法規則 27 の 15 ①)。 連結納税制度では、連結グループ内の法人間の土地取引は、譲渡直前の帳簿価額が 1,000 万円 以上であれば譲渡損益調整資産に該当することになる。 平成 22 年度税制改正では、連結納税法人間および 100%グループ法人間においても譲渡資産の 譲渡損益を繰り延べることになり、100%グループ外に譲渡したときに、譲渡損益を実現した損益 として認識することになる。 ここで問題となるのは、グループ法人単体課税制度では、グループの各法人は個々に納税主体 となっていることから、グループ内の譲渡取引については、譲渡資産の譲渡損益の繰延べに限定し、 譲渡資産の償却、評価換え、貸倒れ、除却、固定資産の滅失等が生じた場合に、譲渡損益を計上 するかどうかは細部の制度設計が明らかになるまでは検討課題となる。 大綱では、100%グループ内の法人間の非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の 時価評価は適用しないというこを明らかにしている。 法人税法では、法人が非適格株式交換等を行った場合には、その法人が非適格株式交換等の直
前の時において有する時価評価資産の評価益又は評価損は、非適格株式交換等の日の属する事業 年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することになっている(法法 62 の 9 ①)。 大綱では、この規定は、100%グループ内の法人における非適格株式交換等においては、適用しな いことを明らかにしている。 なお、非適格株式交換等とは、自己を株式交換完全子法人又は株式移転完全子法人とする株式 交換又は株式移転(適格株式交換及び適格株式移転を除く。)をいう(法法 12 の 16、12 の 17)。 また、時価評価資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む。)、有価証券、金銭債 権及び繰延資産で、次のものは、除かれる(法令 123 の 11 ①)。 イ 前 5 年内事業年度等において圧縮記帳の規定の適用を受けた減価償却資産 ロ 売買目的有価証券 ハ 償還有価証券 ニ 含み損益が資本金等の額の 2 分の 1 に相当する金額又は 1,000 万円のいずれか少ない金額 未満のもの (2)グループ法人間の寄附金 連結納税制度では、連結グループ内の連結法人間の寄附金はその全額が損金不算入となってい る(法 37 ②、法 81 の 6 ②)。連結納税のグループを一つの企業とみた場合は、連結納税法人間の 寄附金は、資金の移動にすぎないとみることができる。しかし、寄附金は損金算入に限度額を設 けているとはいえ、多額の寄附金を連結グループ内で行えば、所得の移転がなされるという問題 があった。そこで、連結納税制度では、連結納税グループ内の寄附金については損金算入を認め ていない。 連結納税制度で、連結納税法人間の寄附金の全額について損金算入を認めなかった理由として は、関係会社グループ間の土地に代表される転売取引が譲渡取引に限定せずに寄附金に相当する ものとしたことと関係がある。 連結納税制度では、連結グループ内の寄附金は、寄附をした法人においては全額損金不算入で あり、寄附を受けた側では、受贈益を認識することになる。連結納税制度で連結グループ内の寄 附金を全額損金不算入にした理由が所得移転にあるといわれているが、連結所得の通算では、寄 附金の支出により寄附金を受けた側で連結所得が生ずることになる。現在の連結納税制度におけ る問題点の一つである。本来は、連結グループ内での寄附金は資金の移動に過ぎないのであり、 連結グループ内の寄附金は、寄附をした法人および寄附を受けた法人で相殺されるべきである。 論点では、連結納税制度において、寄附金については、寄附による所得移転への対応の観点から、 寄附金の支出側および受け手側のいずれの側においても損金不算入、益金不算入とする方向で見 直しをすることが検討されている。 グループ法人単体課税制度においても、連結納税制度における寄附金の取扱いに対応して、寄 附金のあり方について検討することを示唆している。
大綱では、100%グループ内の内国法人間の寄附金については、支出法人において全額損金不算 入するとともに、受領法人においても全額益金不算入としている。 これにより、連結納税においても、100%グループ内の内国法人間の寄附金については、支出法 人において全額損金不算入するとともに、受領法人においても全額益金不算入とすることにより、 寄附金をめぐる問題は解決することになる。 (3)100%グループ内の法人間の資本関連取引 論点では、グループ内の資本関係取引としては、①現物配当、②受取配当の益金不算入に係る 負債利子控除、③グループ子法人株式の発行法人への譲渡による譲渡損益、④グループ内組織再 編成、の 4 点を取り上げている。 ① 現物配当 グループ法人間の現物配当においても、譲渡損益が生ずることがあり、論点では、その現物配 当の譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられ、残余財産の分配やみなし配当の場合も同様に 取り扱うべきことが強調されている。 大綱では、100%グループ内の内国法人間の現物配当(みなし配当を含む。)について、組織再 編税制の一環として位置づけ、譲渡損益の計上を繰り延べる等の措置を講ずることとしている。 この場合に、源泉徴収等を行わないこととしている。 残余財産の分配における課税の繰延べにより、グループ法人が解散した場合には、清算所得課 税は行われないことになり、清算所得課税については廃止することとしている。 ②受取配当の益金不算入制度における負債利子控除 連結納税制度では、連結グループ内の受取配当は、連結グループ内の資金の移動に伴うもので あることから、受取配当は益金不算入、それに伴う負債利子控除は行われないことになっているこ とに関して、論点では、グループ法人単体課税制度においても、グループ法人間の受取配当は益 金不算入にするとともに、それに伴う負債利子も控除しないことを検討している。グループ法人単 体課税制度においても、連結納税制度と同様に、100%子法人からの受取配当に対しては、資金の 移動とみることもできることから、負債利子の控除をしないことは可能といえる。 大綱では、100%グループ内の内国法人からの受取配当について益金不算入制度を適用する場合 には、負債利子控除を適用しないこととしている。 ③グループ子法人株式の発行法人への譲渡による譲渡損益 グループ子法人株式をその発行法人であるグループ子法人に譲渡した場合の譲渡損益は、グ ループ法人単体課税制度においては、同じグループ法人内の譲渡に当たることから、そのグルー プ子法人株式の譲渡に伴う譲渡損益は、計上しないことが考えられている。 子法人の資本構成が資本金等の額よりも利益積立金額のほうが大きくて、子法人株式の取得価 額に占める子法人の資本金等の額がその取得価額を下回る場合には、子法人株式を子法人に譲渡 することにより、譲渡対価の資本金等の額以外の部分の金額は、みなし配当とみなされ、みなし
配当は益金不算入となるが、同時に譲渡損失が生ずることになる(注 1)。 例えば、親法人の子法人株式の取得価額 50、子法人株式の譲渡対価 100、子法人株式の譲渡対 価に占める資本金等の金額 30、それ以外の部分の金額 70 とする。その結果は、次のとおりである。 親法人における仕訳 (借) 現金 100 (貸) 子法人株式 50 譲渡損失 20 みなし配当 70 論点では、このような税法上の不備を認め、この場合のみなし配当には、益金不算入を認めな いのが適当としている。 なお、論点では、合併法人が保有する被合併法人の株式(抱合せ株式)について、非適格合併 の場合でも、譲渡損益を認識しないことが考えられるとしている。 大綱では、100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する等の場合には、その 譲渡損益を計上しないこととしている。 ④グループ内組織再編成 親法人が 100%子法人を合併するときには、子法人の株主は親法人であることから、株式を交付 をしないで合併することになり、この場合の無対価組織再編成について、論点では、その処理方 法等を明確化すべきことが指摘されている。 大綱では、無対価組織再編成について、その処理方法等を明確化するとしている。 (4)グループ法人単体課税制度の対象法人に内在する問題点 論点では、グループ法人単体課税制度の適用法人を検討する場合に、何を基準にしてグループ 法人単体課税制度の対象法人にするかについては意見が分かれており、結論に導くまでは時間が かかる問題となっている。 特に中小法人に適用されている、交際費の損金不算入制度、800 万円以下の軽減税率、留保金 課税などは、グループ法人単体課税制度において、適用されるのか、あるいは適用されなくなり、 中小法人には不利な制度になってしまうのか、あるいは他の取扱いとの組み合わせで必ずしも不 利にはならない制度となるかどうかという問題があり、時間をかけて検討しなければならない。 この問題について、大綱では、中小企業向け特例措置を大法人の 100%子法人に対して、次の 場合については適用するとしている。 資本金の額又は出資金の額が 1 億円以下の中小法人に適用されている特例措置で、次の制度に ついては、資本金の額若しくは出資金の額が 5 億円以上の法人又は相互会社等の 100%子法人に は適用しないこととしている。 (イ) 軽減税率 (ロ) 特定同族会社の特別税率の不適用 (ハ) 貸倒引当金の法定繰入率 (ニ) 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
(ホ) 欠損金の繰戻しによる還付制度 2 連結納税制度固有の論点 論点では、連結納税制度固有の論点として、①連結子法人の範囲、②連結納税グループへの加 入時期の柔軟化、③連結納税開始等における子法人の単体欠損金の持込制限、④連結納税開始等 の際の子法人が有する資産に対する時価評価課税、⑤連結納税の適用の承認申請の期間、につい てとりあげている。 ① 連結子法人の範囲 連結子法人の範囲について、現在は株式保有割合が直接又は間接の保有が 100%の法人を対象 にしているが、株式保有割合 100%未満の法人も対象とすることについては、中長期的な課題と している。なお、連結納税制度を採用している米国では、連結子法人の範囲は、株式保有割合が 80%以上であり、イギリスは 75%以上、オランダは 100%、フランスは 95%以上、ドイツは 50% 以上となっているが、いずれの場合でも少数株主の権利保護の問題があることから、株式保有割 合 100%未満の法人も連結子法人として含めるには、更なる検討が必要である。 株式保有割合 100%の子法人であっても、連結子法人に含めるかどうかは選択が可能であるこ とから、これについては、論点においても問題点としているところである。 大綱では、連結子法人の範囲については、100%の子法人に限定している。 ②連結納税グループへの加入時期の柔軟化 事業年度途中に連結親法人との間に完全支配関係が生じたことにより連結納税グループに加入 する時期については、論点では、企業会計における取扱い等も考慮すべきとしている。 企業会計の連結財務諸表制度と税務上の連結納税制度とは制度に異なるところが多いが、連結 納税制度における連結グループへの加入の時期については、企業会計との整合性を図ることも重 要である。 大綱では、事業年度の中途で連結親法人との間に完全支配関係が生じた場合の連結納税の承認 の効力発生日の特例制度について、加入法人のその完全支配関係が生じた日(加入日)以後最初 の月次決算日の翌日を効力発生日とすることができる制度に改組することとしている。 ③連結納税開始等における子法人の単体欠損金の持込制限 現在の連結納税制度では、連結納税開始時あるいは子法人が連結グループに加入する条件がそ ろい連結グループに加入するときには、子法人の単体欠損金を連結所得計算上、連結グループに 持ち込むことは認めていない。論点では、連結納税開始時や連結納税グループへの加入時におけ る子法人の単体欠損金の持込制限を緩和することについて、次のように言及している。 「持込制限緩和の対象となる子法人の範囲についてどのように整理するかを検討する必要がある。 その際、連結親法人の単体欠損金の取扱いについても議論する必要があるか検討する必要がある。」 (論点Ⅱ一 4(3)①) わが国の連結納税制度を導入するにあたって参考にしている米国の連結納税制度では、租税回
避防止の観点から連結グループに加入する以前の子会社の繰越欠損金の控除については税制上制 限している。 わが国では、子会社の繰越欠損金額は、株式移転に係る連結子法人の欠損金額又は連結欠損金 個別帰属額については連結納税の所得計算上、繰越しを認めているが、原則として連結子会社の 繰越欠損金額の引き継ぎを認めていない。 米国の連結納税制度では、わが国のように原則として子会社の繰越欠損金の引き継ぎを認めな いということではなく、子会社が親会社の連結グループに加入する前の繰越欠損金については、 SRLY(separate return limitation year)原則により所得制限を設けて規制しているのである。 SRLY 原則では、加入前の子法人の繰越欠損金は、連結グループに引き継がれるが、加入年度 以後の連結グループの連結所得の計算においては、連結子法人の各事業年度の所得を限度として、 連結所得の損金の額に算入することになる(注 2)。 大綱では、連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度の適用対象外 となる連結子法人のその開始又は加入前に生じた欠損金額を、その個別所得金額を限度として、 連結納税制度の下での繰越控除の対象に追加するとしている。 これにより、わが国においても、米国と同様に、連結子法人の繰越欠損金は、その連結子法人 の所得金額を限度として繰越控除することができることとなった。 ④連結納税開始等の際の子法人が有する資産に対する時価評価課税 連結納税開始時又は連結納税グループへの加入に際して、当該の子法人の有する資産で、一定 の要件に該当する資産は、時価評価をしたうえで連納納税を開始するか、あるいは連結グループ に加入することが求められている。しかし、最近では、納税者の事務負担あるいは資金負担を考 慮して、例外が認められている。 適用除外が認められている連結子法人には、①連結グループ内の法人により設立された子法人、 ②適格株式交換における完全子法人、③適格合併等により加入した子法人で、被合併法人等の長 期保有子法人、④単元未満株式の買取り等により加入した子法人、⑤連結子法人の解散と残余財 産の分配によりその保有する他の連結子法人が離脱後再加入した子法人、がある(法法 61 の 12 ①一~五)(注 3)。 例外規定があることから、論点では、連結納税開始等の際の子法人が有する資産に対する時価 評価課税については、再検討することの要否を指摘している。 大綱では、連結納税の開始又は連結グループへの加入に伴う資産の時価評価制度について、そ の開始又は加入後 2 月以内に連結グループから離脱する法人の有する資産を時価評価の対象から 除外することとしている。 なお、現在における時価評価の対象とならない法人及び時価評価資産は、次のとおりである。 イ 時価評価の対象とならない法人 連結納税では、連結親法人のもとに連結子法人が加入し連結納税をする場合には、原則として 連結子法人の資産を時価で評価することにしている。
連結子法人の資産の時価評価の対象から除かれる法人は、次の法人である。 (イ) 連結親法人を株式移転で設立した完全子会社 (ロ) 長期にわたり保有している子法人等 (ハ) 長期保有子法人 (ニ) グループ内法人により設立された法人 (ホ) 適格合併等による子法人で長期保有子法人に準ずるもの (ヘ) 端株の買取りにより 100%保有となった子法人 (ト) 株式交換による完全子会社で、一定の要件を満たしているもの 連結納税の所得金額の計算で、連結子法人の資産を時価評価しないこととなる法人は、株式交 換又は株式移転等で完全子会社となっている法人等になっている。 ロ 時価評価の対象となる資産 時価評価の対象となる資産には、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に 該当するものは、除く。)、金銭債権、有価証券(売買目的有価証券、償還有価証券は除く。)、繰 延資産である。 時価評価が求められないものに、上記の資産に含み損益がある場合には、その含み損益がその 子法人の資本金等の額の 2 分の 1 又は 1,000 万円のいずれか少ない金額に満たないものは時価評 価の対象から除かれている。 時価評価する資産の時価とは、各資産ごとに定められている(連基通 13-2-2)。 無形減価償却資産及び生物は、定額法による未償却残高による。 時価評価の対象となっている資産のうち無形固定資産の営業権の時価評価はどのようにしたら よいかということが問題となる。 ⑤連結納税の適用の承認申請の期間 連結納税の適用の承認申請の期間は、最初の連結事業年度の開始前 6 ヶ月の日までにすること になっているが、これを短縮することができるかどうかが検討事項になっている。連結納税の承認 申請の期日を短縮することは、連結納税制度を導入することを検討している法人には、歓迎される 手続の短縮化につながる考えである。 大綱では、連結納税の承認申請書の提出期限について、その適用しようとする事業年度開始の 日から 3 月前の日(現行 6 月前の日)に短縮するとしている。 3 資本に関係する取引等に係る税制 論点では、この他に、適格合併等の場合における欠損金の制限措置等についての見直し、清算 所得課税制度に係る見直し等を指摘している。 大綱では、資本に関係する取引等に係る税制については、次のようにまとめている。 (1)みなし配当の際の譲渡損益
イ 100%グループ内の内国法人の株式を発行法人に対して譲渡する等の場合には、その譲渡 損益を計上しないこととする。 ロ 自己株式として取得されることを予定して取得した株式が自己株式として取得された際に 生ずるみなし配当については、益金不算入制度(外国子会社配当益金不算入制度を含む。) を適用しないこととする。 ハ 抱合株式については、譲渡損益を計上しないこととする。 (2)清算所得課税 清算所得課税を廃止し、通常の所得課税に移行する。その際、期限切れ欠損金の損金算入制度 を整備する等の所要の措置を講ずる。また、連結子法人の解散を原則として連結納税の承認の取 消事由から除外する。 (3)その他 イ 適格合併等の場合における欠損金の制限措置等について、実態に応じて適用要件を見直す。 ロ 分割型分割については、みなし事業年度を設けないこととする。 ハ 売買目的有価証券、未決済デリバティブ取引に係る契約等を適格分社型分割等により移転 する場合の処理について整備を行う。 ニ 合併類似適格分割型分割制度を廃止する。 ホ 受取配当の益金不算入制度における負債利子控除額の計算の簡便法の基準年度を見直す。 ヘ その他所要の措置を講ずる。
おわりに
論点で指摘されている事項は、現在のグループ税制が組織再編成税制及び連結納税制度で構成 されていることに加えてグループ法人単体課税制度を新たに創設して、グループ税制に係る諸問 題を包括的に解決していこうとする姿がみえてきているように見受けられる。 大綱において、論点で取り上げた項目および内容が、平成 22 年度税制改正に反映されているが、 グループ税制が、100%の法人グループに限定していることに対して、それを 100%以外のグルー プ法人との取引に拡大していくことが今後の課題となる。 法人のグループ化に伴う様々な問題点をこれからも洗い出して、よりよいグループ法人税制が構 築されていくことを期待する。 注 (1) 「『資本関係取引等税制の勉強会』論点のポイント」TAmaster No.322 2009 年 9 月 14 日 4 頁。 (2) 野田秀三「連結納税制度における欠損金の取扱い」『税務事例研究』80 号 (財)日本税務研究センター 2004 年 7 月 12 頁。 (3) 稲見誠一・大野久子監修『詳解連結納税 Q & A』第五版 清文社 2008 年 11 月 384 頁。参考文献 稲見誠一・大野久子監修『詳解連結納税 Q & A』第五版 清文社 2008 年 11 月 野田秀三 「資本取引等に関する論点とりまとめの検証」税理 53 巻 1 号 2010 年 1 月 野田秀三 「連結納税制度と繰越欠損金」『欠損金の繰越し制度等の理論と実務』日税研論集 59 号 2009 年 11 月 野田秀三 「企業結合と会社組織再編成税制に係る諸問題」 経営政策論集 6 巻 2 号 2007 年 3 月 野田秀三 「連結納税法人間のグループ取引に係る諸問題」 租税研究 670 号 2005 年 8 月 野田秀三 「連結納税制度における欠損金の取扱い」 税務事例研究 80 号 2004 年 7 月 野田秀三 「連結納税法人間の関係会社取引」 税務事例研究 74 号 2003 年 7 月 野田秀三 「連結納税制度」 税務会計研究 11 号 2000 年 9 月