M剛 OmS OF SHONAN 置NSTITUTE OF TemNOLOGY Vo1
.
29,
No
.
1,
1995フ
ラ
ンス
注釈
刑
法
・財
産
犯
(
1
)
上
野 芳 久
*LES
CRIMES
ET
DELITS
CONTRE
LES
BIENS
(
1
)
−
Commentaire
du
nouveau codeP6nal 一
Yoshihisa
UENo
Consid6rant
qu’
il
n’
y a pasbeaucQup
d’
article6crit
enjaponais
surle
droit
P螽nal sp6cialfranGais,
nQtamment en ce qui concerne
les
infractions
contreles
biens
etje
voudraisfaire
un petit pasdans
cedomaine .
C
’
es pour faciliter le travail des cherchersjaponais
quej
’
ai choisi de commenter article par article ce texte.
J
’
espξ}re queron
pourra apPrendre quelque chosesde
nouveau surle
plus nouveau code P6naldu
monde
.
1
.
は じ め に 近 時,
わが国にお け るフ ラ ン ス刑 法の研 究 はか なり盛んになっ て きた が,
財産犯につ い て はまだまだ未 開拓であ る。 そ こ で 本 稿で は,
本 年 (1994 年 )3月 1日に フ ラ ン ス 新 刑 法 典が施 行された の を 契 機と して,
こ の分 野に小さな一
歩 を踏み出して み たい と思 う% 本 稿の主 たる関 心は,
新 刑 法 典は,
旧ナ ポ レオ ン刑 法 典 と比べ て どの ように変 化 したのか,
日本の刑 法 と比べ て ど ん な特徴を持っ か,
の 二点に あ る。 幸い,
今 回の新 法 制 定にあた っ てフ ラン ス の国 会で展 開 さ れ た議 論が法 務 委 員 会 報 告書その他の文 書と し て公開さ れ て お り,
そ こ に, これらの 問 題に対する解答あ るい は その ヒン トが示さ れて い る。 あ えて 注釈の 形式を と るの は,
上記の二つ の点 を明確に し たいため も あるが,
もっ ぱ ら参照しやすくする ためで あ る。 特に刑 法 各 論は,
総 論と異なり,
参 照の容 易さ が求め ら れ かつ そ う す るこ とに適 し た分 野で あ る。 に も か か わ ら ずフ ラン ス刑 法につ いて は,
そうい う文 献 を 発 見でき なか っ た。 そこで,
本 稿でそ れ を 試 みて み たい。 その 意味では,
本 稿に も多少の 存 在 意 義があろうか と思 う。
思う に, かっ て 日本が模 範と した刑法 典 が最新の 内容を もつ 刑 法 典に変化した今,
そ して 時 代 が 刻々 と して変化して い く今こそ,
再び わ が国がフ ラン ス新 刑法か ら学ぶべ き点は多い はずである。以 下, さっ そ く条 文の順序に従っ て
一
つずつ 見て い くことに し よう2) 。 * 教 養 課 程 助 教 授 平成6
年10
月31
日受 付 注 1} 既に私は,
「フ ラン ス新 刑 法の研究5一
刑法各 則(2)財産に対する罪 」法律 時報66 巻ll号 (1994 年 10 月)で,
財産犯 罪の概 説を 試みたこと がある が,
そ こ で は紙幅の関係で細か く注 を 付 すこ と ができな か っ た.
本稿で は,一
っ一
つ 出典を明らかに し て,
その貨 をふ さぎたいと 思 う.
2) 条文の翻 訳にあ たっ ては,
新 刑 法 典につ い ては法 務 大 臣 官 房 編r
法 務 資 料 第 451 号 フ ラ ン ス刑 法 典 」 (亘994年 ),
旧 刑 法にっ いては 同 編 『フ ラン ス刑 法 典 』 (法 曹 会,
1991年 ) を 参考に しt.
以 下で は,
前者を 法 務 資 料 と して,
後 者 を 法 曹 会 と して,
引 用 する.
湘南工科 大学 紀 要 第 29 巻 第 1 号
2
. 本
文
第 3 部 財産に対す る重罪 及 び軽 罪
Livre
III
Crimes
etdelits
contre les biens 〔財 産 犯 罪 〕犯 罪統計 を み る と
,
四大 犯 罪と し て 盗 罪 (含賍物 罪 )〔66% ),
詐 欺・
経済犯罪 (15.
8
% ), 人 身犯 罪(3.
8% 〉,
麻 薬。公 共 犯 罪 (14.
3%)が分類さ れて い る。 し た が っ て, 主た る財 産 犯である前二者だ けで,
全 犯罪に 占め る割 合が何 と81.
8%とい うこ とにな る。 毀損罪は に含ま れ るの で,
それ を考 慮に入れ る と全犯 罪 中の 財産 犯の割 合 は さ らに高 くなる3) 。ま た
,
毎 年,
裁判 所に係属 する訴訟 件 数から みて も,
三 分の二以上が財産犯だ と言わ れ て い る4, 。 〔刑 法改正と 財 産 犯 罪 〕財産犯罪に関 す る諸 規 定は既に部 分 改 正の形で新し く なっ ていた た め (後 掲の 表 II注
2
参 照 ),
第三部は, 今回の新 刑法典の中で はもっ と も改 正 が 穏や か だ っ た部で ある といわ れて い る5}。 しか し,
前 段で述べ たよ うに,
統 計上 最も頻 発 する犯罪であ り, 訴 訟 件 数 も多 く,
現実の世界で は最 も重 要な犯 罪で ある。
改正 が穏やか だっ た と はい え
,
い くつ か新 設 規定もある。 その う ち主 な もの は 次の と お りであ る。・
窃盗 罪 関係:エ ネル ギー
盗 (311−
2条 ),
準 加重窃 盗 (同11
条),
外 国人の国内 滞在禁 止 (同 15条 ),
法 人責任 (同16
条 ),・強要罪 関 係:加重強 要 罪 (
312−2
条〜
同8
条),
加 重 恐 喝 罪 (同 11条 ),
法 人責任 (同15
条 ),
・
詐 欺 罪 関 係:未 成年 者以外の弱 者に対 する準 詐 欺 (313−
4 条),
公契 約か らの排除 (同9
条 ),
法 人 責 任 (同9
条 ),
・
横 領 罪 関 係 :法人責任 (314 −12
条, 同 13 条),
。賍物 罪関 係:組 織 集 団によ る賍物 罪 (
321−2
条 2号 ),
本 犯 者の補 充 刑の併科 (同10
条 ),
外 国人の国内滞在禁 止 (同 ll条 ),
法人責任 (同 15 条),・破 壊罪 関 係:軽 微ないたず ら書き (い わ ゆ る タグ行 為 )(322
−
1条 項 ),
非 故 意の爆 発 等 (同5
条), 故 意の爆発等で傷 害が軽い もの (同
7
条 ),
破 壊 等 を する旨の脅迫 罪 (同12
条 ),
破壊 等を 内容と する脅 追 罪 (同 13条 ),
外 国人の 国 内滞 在禁 止 (同 16 条),
法 人責任 (同17
条 ),
・
デー
タ自動 処理シ ス テ ム侵害罪 関 係:法 人 責 任 (323−6
条 ).
〔財 産 犯の体系〕第三部の各章 を 列 挙 し
,
その 内容に “ できるだけ”
対応 する 日本 刑 法の 財産 犯に関 する章を並べ て み ると , 表 1の ように な る が
,
ま ず目に っ く特 徴は,
不 法領得(appropriationsfrauduleuses
》と,
その他の財産侵 害(autres atteintes auxbiens
)の 二編に分 割 さ れて い る点で あ る。類 似の分 類と して
,
フ ラ ン ス の教 科書 (ただし刑 法改正前の本 ) が 採 る不 法 領 得 罪・
棄 損 罪とい う 二分 法が あ る6) 。 ヴィテユ
教授の説 明に よれ ば,
これは侵害形態に よ る分 類で 〔旧 〕 刑 法 典が採 る 考 え 方で あ るη 。 ところ が,
この分 類 に従 え ば 賍 物 罪は不法 領 得罪の一
っ であ るが,
新 法 はこれ を別の財 産 侵害 罪として い る。
つ ま り,
新 法の分類はこの 分 類 とは異な る8に とにな る。日本で も学説 上
,
領得 罪・
毀損 罪とい う分類が行わ れること が ある。
や は り侵害形態によ る分類とはい え るが,
フラ3) Aspects de]a criminalit6 et de la d61inqunace constat6es en France en l 990
.
p.
47.
4} Cjrc
.
14 mai l993,
inCODE
PENALiNOUVEAU CODE PENAL 1993−
94.
Dalloz,
p2121,
5) BOUL
,
Livre III Les infractions contre les biens dans le nouveau code pena1,
Rev.
Sc.
crim.
1993.
p.
48L6) MERLE et VITU
,
Trait6 de droit criminel,
Droit p6nal sp6cial,
1982,
p.
1794 et s.
;VOUIN et RASSAT.
Droit p6nalsp6cial
,
1988,
P.
19et s.
7) MERLE et VITU,
p.
1793.
8) BOULOC,
supra p,
483.
フ ラ ン ス 注 釈 刑法
・
財 産 犯(11 (上野 芳 久 ) 【表1
】 フ ラ ンス新刑 法 (1994
年 施 行 ) 日 本 刑 法 (1908
年 施行 ) 第 1編 不 法 領 得 1 章 盗取 (voD 36 章 窃盗 及 び 強 盗の 罪 2章 強 要 (extortion >3
章 詐 欺 及 び 周 辺 犯 罪}
37
章 詐 欺 及び 恐喝の罪 (含 電 子 計算 機 使 用詐欺,1987
年246
条の2
の追 加 ) 4 章 横 領 (d6tournement
) 38 章 横 領の 罪 第 2編 その他の財 産侵 害 1章 賍 物 (receD39
章 賍 物に関 する罪 2章 損 壊40
章 毀 棄及 び 隠 匿の罪3
章 デー
タ自動処理 シス テムの侵 害 (含 電 磁 的記録の毀 棄, 1987
年258 〜9
条の 改 正 ) ンス の それ とは微 妙に異な り,
問題 意識の重 点は不 法 領 得の意 思の要否にある。 他 方,
日本で は賍物罪は ふっ う領得 罪 と は別 個に考察さ れ てい るの で,
結 局,
領 得 罪・
賍 物 罪・
毀 損 罪の 三分法 とい うこ とになる。
こ う し て み ると,
新 法の 二分法は従 来フ ラ ンス に は見ら れ な かっ た 分 類で,
日本の分 類 とも異な る。ところで
,
改 正 条 文 を 前 提と し た新しい本9切 中に は,
領得犯 (盗 罪 強 要,
詐 欺,
横 領 ),
隠匿 犯 (賍 物), 非 領 得 犯 (毀 楓 情報犯 罪 )の三つ に分け るもの もあ り,
これ は 日本の 三分 法に か な り似てい る。
しか し.
賍 物 罪が領 得 犯と は や や性 質を異にする こと を 率 直に認めて分 離 した点は 理解で きる が, 非 領 得犯と して毀 損 罪 と情 報 犯 罪 と を まと め る のが良い か は問題 で あ る。 情報 犯 罪は必 ず しも毀 損 する行為だ け を罰する わ けで はな く (例.
不 法ア ク セ ス),
か な りの特殊性 を もっ か らであ る。 そうだ とする と,
賍物 罪以下の三 者 をそれぞれ 異な るもの と見て.
単 純に 「そ の他」 と い う枠で く くる方が 理解しや すい。
むしろ新刑法典は こ の行き方を とっ た よ うにも み え る。 【表II
】 フ ラ ン ス新 刑 法 (1994 年 施 行 ) 第3
部 財産 (biens
)に対 する重罪。
軽 罪 第 1編 不 法 領得1
章 盗取 (vo1 )(16)2
章 強 要 (extortion )(15)3
章 詐 欺・
周辺 犯 罪 (9) 4 章 横 領 (detournemenO
(13
) 1節 背 信 (Abus
de
confiance ) 第 2編 その他の 財産侵害 1 章 賍物(recel )(12)2 章
破壊
。
毀 損 ・毀 棄 (17)3
章デ
ー
タ自動 処 理シ ス テム の 侵害 (7) フ ラン ス 旧 刑 法 (1811 年 施 行 ) 第2
章 財産 (propriet6s )に対 す る重 罪・
軽 罪1
節 強盗 (vols}(15
)C81
) 400 条 強 要401
条 無銭 詐欺2
節 破産・
詐 欺 他の欺罔 (46)(’
87) 2款 背 信 (Abus
de
confiance ) 4 節 賍 物の 隠 匿 (4)3
節 破壊・
毀 損・損 害 (10
) 5節 航 空 機 強 取その 他 (2
) 第 3 章 情 報に関 する罪C87
) ぐ87
) (’
86) (’
88
) (注 )1.
括弧 内の数 字は各 章・
節の条 文 数 (削 除 規 定は除 く)を示 す.
2.
C81
)は,
その節 中で改正があっ た最 新 年が1981
年で あ るこ とを示す.
9) BLANCHOT
,
Droit penal special,
Les cours de droit,
1993,
これは実 務家の手にな るパ 丿1 大学の講 義 棄 私はかってパ リ に 留 学 し た と きt こ の本の 1991年版を使用し て BLANCHOT 講 師の講 義 を 聞いた.
水 準が高い の に厚く な く 理解し やすい本なの湘南工科大 学 紀 要 第
29
巻 第1
号 フ ラ ン ス人が財産 犯 罪の体 系をど う捉えて い るかは非 常に興 味深い 問題 だが,
いずれにせ よ,
章の配 列の レヴェ ルで み る限り (条文の 中 身は か な り違 うが),
フ ラ ン ス新 刑 法 は か なり日本 刑 法と似る ことになっ た。 〔旧法と の比較 〕 新 刑 法 典に対 応 するよ うに旧 刑法の規 定を並べ 替え る と,
表II
の よ うに な る。 第 1編 を一
見 して 分かるの は,
旧 法で は第1
節 盗 罪の中に強 要 罪 (400
条 )や無 銭 詐 欺 罪 (401
条 )な ど,
盗 罪と は 異なる犯 罪形態 が含ま れてい た点である。 401 条 が 第 1節に入 れ られてい るの は,
かっ て盗 罪 と考 え ら れていた か ら で あ る。 今日 で は はいずれ も被害 者 側の交付 行 為が ある点で盗罪とは異な ると さ れてい る。 他方,
1
日法の第2
節 破産・
詐欺 等の中に は,
競売 妨害 (4
款 ),
軍へ の納 入 者の軽罪 (6
款 )な ど さ まざま な犯 罪が お か れ, 背 信 罪もその一
っ であっ た 。 たしかに 人 を 欺 く点で は共 通 点が見 られ る が,
今日,
背 信 罪は自 己が占 有 する物に っ い て の犯 罪である点で詐欺とは異なると考え られてい る。 し た がっ て, 新 法も独立の規定 と してい る。 以上の点にっ き,
新 法は今日の考えに依っ てお り,
よ り理論 的・体 系 的になっ たとい え よ う。第 1 編 不 法領得 「『
it
「e 豆e「Des
appropriationsfrauduleuses
〔appropriations frauduleuses の訳 〕 appropriations とは, その動詞 形の approprier が
“
自分の もの にす る”
とい う意 味 を もっ てい る後 期ラ テ ン語 ap・
prpiare に起 源を もつ 1°,こ とわかる ように,“
自分の もの にする こと”
を 意味する。frauduleuses
は“
不 正 な,
い ん ち き な”
とい う意味で あ る か ら,
結局,
appropriationsfrauduleuses
は,
鬨
不正に 自分のもの にする こ と”
とい う か な り広 い意 味に な る。 し た が っ て, 日本 式に言えば, 盗取 行 為はも ちろ ん の こと, 相手を脅した り騙し て財産 を取得する恐喝 行為・
詐欺 行 為も含み,
さ らに,
自分が占有 する物に対 する横 領行 為 も含む わ けで ある。 本 稿で は, 慣 行に したがっ て 11) , 不法 領得とい う訳 を あて て お く。
日本 刑 法で使 わ れる不 法 領得の語に近い と思 わ れ る か ら である。 〔不 法 領 得 〕 (appropriationsfrauduleuses
> 不法 領得とは何 かにつ き,
特に法 文に定 義があ る わ けで は ない。 また,
主なフ ラ ン ス刑 法 各 論 (旧 刑 法 )の教 科 書 を 探してみて も,
こ の語 は ほ とんど 出て こない し12何の説明 もない。
おそ ら く単に,
第III
部を2
つ の編に わ け るに あた り,
第 1編の窃盗,
強 要,
詐 欺,
横 領 とい う4 つ の 諸 犯 罪 形 態を まと め る語,
っ ま り4犯 罪に共 通の表 現と して (前 段 参 照 ) 使わ れ た と思われる監3レ 。 第1
章 盗取Chapitre
l
erD
腫 vo 且 〔段階 的構 造 〕 本 章は,
日本 式にいえ ば窃盗 罪 と強盗罪 を合わせて規 定した章で ある。 た だ,
強 盗とい う概 念は使わ れず,
盗 取 行 為 (vol );
窃 盗が基本概 念とされ, それに一
定の事由 が 加 わると刑が 加 重 さ れ る。 法 文で言 うと,
単 純 窃 盗(vol simple )(第311−1
条.3
年の拘禁 刑 及び30
万フ ラ ン の罰金)が核と なる。 そ こ に加 重 事 由を加 算してい き, 結 果の重大 性が増す ごとに刑 罰も5
年・50
万フ ラ ン,7
年・70
万フ ラ ン,10
年・100
万フ ラ ンと重い段 階へ 進む形で規定されてい る (以 上 軽 罪 )。 さ らに重い段 階 (重 罪・
懲 役 刑 ) と して,
15年,20
年,30
年,
無期懲役まであるが,
罰 金はいず れ も100
万 フ ラ ン (約1800
万 円) 止ま りで あ る。 10} 小 学 館ロ ペー
ル仏 和 大辞 典129 頁 (1988年 ).
11} 同上 129 頁,
前 注 2)法 務 資 料 103頁.
12} appropriation の語は,
単 純 窃 盗の客 体は“
人 が 自 分の支配権を 及ぼすこと”
ができる物でなければな ら ないな ど と して良く出て く る (た とえば
,
MERLE er VITU,
supra p.
1806)が,
appropriations fraudu]euses の語は見 当た らな かっ た.
13) 第 1編 と 第2編の区 別 は
,
元 老 院 第一
読 会の後 に提 案さ れ,
国民議 会の法 務委 員会で採択さ れたもの だ が,
採択 時の説 明におい て も,
提 案を明確にす る 目的で 4っ の犯 罪 を ま とめた もの として第 1編 を 挿 入 した (第 2編につい ても 同 様 )と い う説明し か なフ ラン ス 注釈 刑法
・
財産 犯(D
(上野 芳 久 ) 〔旧法〕 もっ とも,
旧法 第 1 節の 盗罪で も,
単純 窃 盗 (381
条)を核と して加 重事 由 (382 条)に より段 階 的に刑 罰 を重く し て い く形がとら れ てい た。 しか し,
突然,
刑 罰規 定 (383
条)が出て き た り,
強 要罪 (400
条)や無銭 詐欺罪 (401
条 )な ど異な る犯 罪 形 態が置か れ たりで,
は な は だ体 系 性 を 欠い た。 部 分 改 正 (含 削 除 )が多かっ たこと14),
未 遂や 共犯 等が条文ごとに規定されて い たこ ともあ っ て,
条 文 自体が複 雑 化して いた。 古 典 的侵 入 方法 (393
条以下)や鍵 に こだ わ る条 文 (398
条以 ド)な ど時 代 錯誤的規 定 が多かっ
た。 これ らの欠 点を除 去 し 整 理 し たのが新 刑 法 典で ある。 〔本 章の構 成 〕 三つ の節か ら な る が,
第1
節が犯 罪類型を定めて いるの に対し,
第2
節,
第 3 節は,
そ の処罰に関する規 定を置 く。
第 2節は,一
定 親 族の刑 事 不 訴 追 (第 31H2 条 )と,
軽罪15)の 未遂 は既 遂と同一
刑で あるこ と (同 13 条) を 定め る。 第3
節 は,
自然 人に っ い ては,
補 充 刑 (同 ユ4条 )と外 国 人に対 す る国 内 滞 在 禁 止 刑 (同 15条 ) を 置 くこ とを,
法 人に っ い て は,
本章の罪につ き刑事 責任を負う場合が あ る16}こ と (同14
条 項 )と その場 合の刑 罰 (同14
条 項 項) を,
規 定し てい る。 ドり
−−−TJJJコ
−r+
−−
ヘ
ド
ヤ
コセ
ロ
り
へ
1
第 1節 単 純 窃 盗 及び加 重 窃 盗lSection
I Du vol simple et des vols aggraves 旨1
1
1 本 節は
,
窃 盗の意 義 (311−
1条,
同 2条 )・
刑 罰 (同3
条 )・
加 重 形 態 (同 4条〜
ll 条 )に関 する規 定 を 置 く。
〔加 重 形 態 〕 こ こでい う窃盗の加 重 形 態と は,
日本式に言うと窃盗か ら強 盗さ らに は強盗 致 死 まで含む 広い概 念で あ るが,
細か く み れば,
加重され る理由が何か に よ り,
次の ように分類で きよう。 A.
行 為 主 体に よ る加 重 (1
) 複数 人で あることに よ る加 重 (同4
条 項1
号,
同9
条 項) (2
)一
定の身 分・
地 位によ る加重 (同4
条 項2
号,3
号 ) B.
行 為 態 様に よ る加 重 (3
) 暴 行を伴う こ と に よ る加重 (同 4 条 項 4 号, 同5〜
7条, 同 9 条 項,
同 10 条 前段,
同11
条) (4
) 拷 問・
野 蛮行 為を伴うこ と に よ る加 重 (同10
条後段 ) (5) 破 壊 行 為 等を伴 うこ とに よる加 重 (同 4条 項8 号 ) (6
) 凶器を伴うこ と に よ る加重 (同8
条,
同9
条 項 ) (7》一
定の 場 所へ の侵 入に よ る加 重 (同4 条 項 6号 ) (8
)一
定の場 所で の行 為に よ る加 重 (同4
条 項7
号 )C
、
行為客体によ る加 重 (9) 弱者で ある こ とに よる加重 (同 4 条 項 5号 ) 〔新法の特徴 〕 第一
に,
暴行につ いて厳 しく細 かい規 定が置 かれ た ことである。
条 文の数 からして も.
新 法が いかに暴 行の阻 止に力 をいれて い る か が分か る。 た と え ば,
ひっ た く り の よ うな場 合は5
年,
傷害を惹起し た場 合は7
年以 上と かな り重 く罰 せられるが,
これは 「所 有権の尊重に対する人間の絶 対 的尊 重の優 位の明 記 」17)だ と さ れて い る 。 第二 に,
「法 律 が 多 す ぎ 刑 事 上の諸 価 値の混 同 を 引 き起こ して い」1 η た 盗 罪領域であっ たが,
新法では,
危 険 性に見 14) 盗 取の章では,
1981年のいわ ゆ る 「安全と自由」法に よ る改正が重要である.
ミッ テ ラン社会 党 政権が成 立 する直前,
当時 乱 れてい た治安を回復するべ く保守政権が制 定し た法.
刑法 関係で は身体。
財産の刑 罰が強化さ れ たが, 既に刑法 改 正草案も視野 に入 れ られていた.
森 下 忠 「フ ラ ン ス の いわ ゆ るく安 全と自 由〉法 」ジュ
リス ト740 号 (1981年),
恒光 徹 「現代フラン スに お け る刑 事政策の動 向」犯 罪 と刑 罰 1号 (1981 年 ).
15) こ こ で は軽罪にっ い て の み規定さ れ て い る が,
重罪につ いて もや は り未遂は既 遂 と同一
刑 となる。 た だ,
軽罪の場 合は未遂 を罰 する に は法 律の定 め が必要なの で,
このよ う な 規 定 が 置 か れているにす ぎ ない (第 121−
4条2号 )。
16) 法 人が刑 事 責 任 を 負うの は,
こ の よ うな 法 律 また は規 則の定がある場 合 だけ である (第 121−
2条 項 )。
17) いずれ も86年 草 案の理由 書の こ と ば.
訳は恒 光 徹 「フ ラ ン ス 1986 年 刑法 典 改正 法 案 〔1)」岡 山大学法学 会 雑 誌37 巻1号 (1987)176頁に よ る.
湘 南 工 科 大学 紀 要 第
29
巻 第1
号合っ た 区 別 が な さ れるよ うになっ た。 と くに 組織 的 性 格の もの と 暴行
・
武器 利 用の もの は重罪 化さ れ た。第
311 −1
条 〔窃盗 行 為の定 義〕窃盗 と は
,
他人の物を窃取する行 為で ある。
Art,311 −
1Le vol est la soustraction
frauduleuse
de
la
chose d’
autrui.
「
曹
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一一
一
一
一
一
一
一
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一
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一一
一
一
一
一
一
一
一
ll
旧第379
条 〔窃 盗行 為の定 義 〕lancient
Art.379
1
1 1 1
i
自己の所 有に属 し ない物を,
領 得の意 思 を もっ て窃 取しiQuiconque
a soustraitfrauduleusement
une chosei
l
た 者は,
盗 罪の 犯 人 と する。Iqui
nelui
appartient pas est coupablede
vol.
} 1 1 1
本条に よ り, 本 章の基本 概 念た る窃 盗 行 為が (も う少し大げ さに言 え ばフ ラン ス刑法 上の窃盗概念 が) 明確に さ れ
る。 すな わ ち
,
その構 成要 素は,
他 人の物,
窃 取 行為,
窃盗の故意の三っ で あ る。〔他人の物〕 {chose d
’
autrui }旧規 定は 「自己の所 有に属 し ない物 (chose
qui
nelui
appartient pas>」として い た が,
こ の定 義で は,
他 人が放棄 した物を取 得して も窃 盗が成 立するこ とに な っ て しま う。
そこで新 法は
,
判 例に従っ て そ れを「他人の物 (chose
d’
autrui )」と改め た。 これに よ り 他 人 が 放棄した物を客体か ら外すことが でき, そ の意 味で 定義の精 度が増し た とい え るIs, 。「物 」とは何か旦9〕につ いて は , 日本の教 科 書と同様な説明が なさ れて い る。 た と え ば, 物とは, 所 有する ことが で き る実在の物 体とい う意 味で
,
た とえ ば 金 銭,
商 品,
動 物,
自 動 車,
文書な ど で あ る が,
何ら かの価値を持っ もの で あ れ ば よい (金銭的 価値に限ら ない)とされて い る,
物理 的に窃取で きない不 動 産は含 ま れ ないが,
瓦 と か 鎧 戸の よ うな も の は取り外す と動 産にな り うる,
とい う具 合で ある201。 問 題 と さ れる点も日本と同 様なの で詳 述は避ける が,
フ ラ ンス で特に問題と さ れ た,
無 体 財 産 (bien
incorpore1
)は物といえるか, につ い て は触れておく必要があ ろ う。 判 例は,19
世 紀 末か ら水と か ガス は物で ある と して きた が,
20世 紀に 入 っ て か ら, 電気につ い て も そ れ ら と同 視で きる と して問 題を肯定 した2% こ の姿 勢が新 刑 法 典の エ ネル ギー
窃 盗 罪 (次 条 )創 設につ ながっ てい くことになる。 しか し, この よ う な物 概 念の拡 大 傾 向に も当然な が ら限界があ り,
た とえ ば債 権につ いて窃盗は認 め られ ない (但し,
そ れを証 明 する 書 面に は認め ら れ る)し,
民 法に み ら れ る よ うな無体財 産の概 念の拡大は刑法で は認められ ない22切 で あ る。 情 報が物 といえ る か につ い て は,
プジ ョー
社の 元 社 員 が 磁気ディ ス クの複 製行 為を した事 例で窃 盗罪の成 立を認め た下級 審判 例23, が あ る が, 学 説上, 大い に議 論がある 24レ 。「他人の」 とい う は, 他人が所 有する(appartenir )また は保 持 す る(
d6tenir
)とい う意味で ある。 既に 旧法 下の判 例 は, 被 害 者が窃 取さ れ た財 物の所 有者で あ るこ と は 必 要でない と して いた 25) 。 ただ し,
他 人に担 保と して提 供し た自分18) Doc
.
S6nat 54.
p.
22.
た だ し,
旧法の appartenant a とい う表 現こそ条 文 上か ら消え た が,
新法の chose d’
autrui とい う概 念 の下では,
同じ解釈が行わ れ る.
BLANCHOT,
p.
17.
19》 フ ラン ス の状況に触れ る邦 語文 献と し て澤登俊 雄 「電 気の財 物性 」フ ラ ン ス判 例 百 選 226頁 (1969 年 )
.
20) BLANCHOT
,
supra p.
16.
21)
Cass.8janv,
1958,
B.
33;IOavril l964,
B.
p.
242.
なお,
澤登・
前 注 19)論 文.
22》 BLANCHOT
,
supra p.
16.
23} Corn Monbeliard
,
28 mai 1978.
本 件にっ き,
南部 篤 「五 磁 気デ ィ ス クの複製 行為に盗罪の成立が認め ら れ た事例」国学 院 法学25巻4号210 頁以 下 (1988 年 )参 照.
241 情 報 と窃 盗 罪の関 係につ いて は,
島 岡 ま な 「フ ラ ン ス にお け る 無形 的 情 報の刑 法 的 保 護」法学 政 治 学 論 究3号 129頁以下 (1989 年 ),
グ ダル (宇 佐 美・
島 岡 訳 ) 「ソフ ト ウェ
ア の刑 法 的 保 護」国学院 法学27巻苴号88頁以下 (1989年) 参 照.
後者に よ れ ば,
ソ フ トに関 しては,
1957年3
月ll 日法で著作権で保護される こと が明 確にな り,
1985年7月3 日法に より著 作権 侵 害 罪 (旧 刑 法425 条 以 下 ) も適 用 可 能に なっ た.
グ ダル は,
まず 85 年 法で考え,
次に窃盗 罪を考え るべ き だ と す る.
な お,
旧 刑 法425 条 以 下 は 1992年 7月 1日法で削 除 さ れ,
知 的財産 法 L335−
2条以下に移さ れ た.
新 刑法典に は規 定が な い.
25) BLANCHOT.
supra p.
17,
p.
13.
フ ラン ス 注 釈 刑 法 ・財産 犯 (1) (上 野芳久) の 物を取り返 して も窃 盗は成 立し ない と さ れて い る26} 。 どの 瞬 間から他 人の物と な る か にっ き
,
自 分で建 築 してい る未 完成の 建 物か ら資 材を持ち出した建 築業 者の行 為は窃盗に な らない とする旧刑法379
条に関 する判 例2T)がある。
これ に対 して,
その 建 物が完成してい た場 合に,注文 者が代金 を支払わない ので窓や鎧戸 を と りはずし た場 合は窃 盗が成立 する。 後 者の場 合, 建 物は売 却されて い た か ら である z8} 。 他 人の物で あっ て も,
そ れ が放棄 さ れた物(chosedelaiss6es
) で あ れ ば窃盗は成立 しないが, 紛失物 (choses perduds )の場合は,
行 為者が拾 得し た時に 自分の もの にする故 意 を 持 て ば,
窃盗が成立す る29) 。 日本の ような占 有 離 脱 物 横 領 罪 (254 条 ) とい う犯 罪はない。 な お,
魚や野 うさぎ な どの無 主 物 (res nullius )が窃 盗の 対 象に な らない ことは言 う まで も ない3°1 。 〔soustractionfrauduleuse
の訳 〕 soustractionfrauduleuse
は不 法 領得と訳される こと も あるsl} 。 しか し, 第1
編の タ イ トル にあるappropriationsfrauduleuses
を 不 法 領得と訳 し たの で,
本 稿で は 「窃取 〔行 為 ユ」と訳すことに し たい。 そ れ は次の よ う な 理由に よる。 っ まり,
soustract 藍on とい う語 は,
古典 ラ テ ン語の subtrahere か ら発 達 した古フ ラ ンス語の subtraction の sub がSOUS に置 き換え られ た もの で32)
,
“
下 から引き抜く”
とい う意味を持ち,
現 代で は,
“
算 数の引き算,
(書 類な どの ) 窃取,
抜き取 り”
な どの 意味で使用さ れ る。frauduleuses
は不正に とい う意 味 33;なの で,
結 局 soustraction fraudul−
euse と は“
不 正に抜き取る行 為”
つ まり窃 取を意 味する か らで あ る。し た が っ て
,
soustraction 重rauduleuse と第1
編の タ イ トル に あ るappropriationsfrauduleuses
と比べ て み ると,
前 述 し た と おり後 者は
“
不正に 自 分の もの にするこ と”
とい うか な り広い意味だ っ たので, 前 者は, 後 者に含ま れ, か つ それよ りずっ と狭い意 味である こと がわ か る。 〔窃取 〕(soustraction frauduleuse ) 「窃 取」 とは,
誰か か ら,
そ の意に反 して,
何か物 を 取り上 げる 〔enlever )あるい は引っ ぱっ て取る(retirer )こ とをい う。 言い換え れば, 占有(possession)を移 転 する目的で, 所有 者(proprietaire)が知らない間に, そ の物を得る た めに 行わ れ た強制 行 為(contrainte )ま た は物理的行 為で あ る36] 。 もっ と も19
世 紀初め に は, 判 例は,
窃 取を他人の物を奪うこと (ravissement )に限 定し, 「窃 取の ため に は, 取る{prendre )
,
取り上 げる (enlever ),
奪う (ravir )こ とが 必要で ある」35〕と して (同 義 語を繰り返すことに よっ て概念を明確に し よ うと して)いた し
,
古 典 派 (ガロー
) もその ように厳 格に説 明して い た。 こ こか ら は2
要 素が明 らかにな る。
そ れ は占有と物理的取 得行 為で あ り, 窃取と は物理的行 為 (日本 的に言え ば交 付行 為 )に よっ て 占有を取得 すること を 意 味 するこ とになる3% しかし,
これで は被 害 者か らみ て窃 盗だ と感 じ ら れる行 為で も窃 盗 と構 成でき ない。
ところで,
占有は法 的概念で あ り行為 者の心 理 的 要 素 を含む。 そ こ で判 例は,
そ の心 理的 要素を考慮 するこ とに し て,
必 ず し も物理的 奪 取行 為が な く て も窃 取 行 為は成 立す る と し た。 学 説 も よ り広 く解釈す る よ う に な り,
窃取行為は 占有の 置 換え (interversion
de
la
possession
)だ とする説 (ガル ソン)が支 持さ れ る よ うになっ た。 こ の解 釈はロー
マ法の contrectatio に似て お り
,
占有の移転(transfert de possession )〔心理的要 素のみに よ る占有の移 転 〕とい う概念を認め るた め
,
窃盗を詐欺や背 信(abusde
confiance )に近づけるこ と に な る3T)。
し か し,
もちろん今日で は,
窃取 と 両罪とは性 質が異な る犯罪と考え られ てい る。謄
078Qげ
2229凵
0123 3333 34)35
) 36> 37)MERLE et VITU
,
supra p.
1809.
Cass.
13janv.
1971,
D.
1971.
191.
BLANCHOT
,
supra p.
17;Le meme hvre,
p、
16,
1991.
BLANCHOT ,
ibid.
ち な みに,
フ ラン ス法716 条の埋蔵 物の場合 は 土 地所有 者と発 見 者 との折 半とな る が,
隠されていた か 埋め ら れて い たこと が埋 蔵物の要 件な ので
,
こ こに い う紛 失物で は な い.
BLANCHOT,
ibid.
BLANCHOT.
ibid.
法 務資料 103頁
.
小 学 館 ロ ベ
ー
ル仏 和 大 辞 典 2280 頁 (1988年 ).
正 確に は
,
窃 盗の場 合,
frauduleuseは領 得の意 思 (intention fraduleuse )を もつ こと を 意 味 する.
注 2)法 曹 会 142頁379 条の注 を参照
,
BLANCHOT
,
p.
13.
Crim.
18 nov.
1837,
S.
1838.
1.
366.
VOUIN et RASSAT
,
p、
26.
湘 南工科 大 学 紀要 第
29
巻 第1
号 〔刑 法上 の占 有 〕 で は 占有 とは何か。 民 法2228
条 は,
占有 と は 物の保 持 (detention
) 38) ま たは収 益 権 (jouissance
)と定 義 するだ けで あ る。 保 持は,
所有 者の承諾を得て物を所 持して い る状 態で あ り,
保 持 者(detenteur
)に は占有す る意思が ない場 合も ある と さ れて い るの で,
民法の規 定だけか らで は明確に な ら ない。 「占有」といえるた めに は,
物 を手にする こと,
物 理 的に保 持 する こと (corpus 〕(自然 的 要 素 ),
物にっ い て所 有 者で あ る よ うに行動す る意図をもっ こ と (animus )(心理 的要 素 )が必要と さ れ る。 窃取が あっ た と言え る た めに は,
こ れ ら2
っ の要 素の面か らみて 占有の移 転があっ たといえ る場 合で なけれ ば な ら ない。 通常は,
こ の2
っ が同 時に存 在 する こ と に な るが,
それは短時間でもか ま わ ない。 た とえば,
コ ピー
する ために書 類を持ち出し,
コ ピー
後にすぐ戻し た よ う な場 合 (後 述 )で も窃盗 と なり うる。 ま た他方で,2
っ の要 素が常に同 時に存 在し な け れ ば な ら ない わけで は な い。 た と え ば,
使 用 窃 盗の つ も りで車 を 盗 んでか らガソ リンを 消 費 す る意 図 を もっ た 場 合 や,
セ ル フ・
サー
ヴィス型の 大型店 舗で 棚か ら品物を取っ たの ち黙 っ て代 金支払場 所 を 通 過 した 場 合 (後 述 )は,
自然 的 要 素 が存 在し た後に心 理 的 要 素が具 備さ れ る こ と に な る39) 。〔所有 者の同意〕 (consentement
du
propriξtaire)財 物の所 有者が占有の移 転にっ き同意 してい る場 合は
,
窃盗罪が成立 し ない4°)の は当然であるが,
で は その 同意 が 無効だっ た場 合は どうな る か。 第
一
に,
同意が暴 行 ・強 制に よっ た場 合は, その 同 意は無 効で あ り, 窃盗が成 立 する41 レ。第二 に
,
錯誤に よる同意(consentementdonn
色 par erreur )に っ いて は,
(A
}錯誤が譲 渡人(tradens}にあ る場 合と(B
)錯誤 が 受 取 人 (accipiens }に よ る場 合に分 け ら れる
。
た とえ ば,
商 人が釣 銭 と して 200 フ ラ ン渡 す ところ を500 フ ラ ン 札を渡し て しまっ た場 合は (A
)の一
例である が, 窃 取 行 為がない の で, 窃盗 罪は不成 立となる (判 例 ) 421 。 自分に誤っ て 渡され た 品物を 返 還 し な かっ た 場 合 も 同 様である431。 他 方,
(B>の受 取 人によっ て錯 誤 が 引 き起こ さ れ た 場 合に は,
欺 罔行 為が あ る な ら詐 欺罪が成立 する。 し か し欺 罔行 為が なく詐欺と言え ない場合,
判例は窃盗と す る傾 向に あ る 44レ 。 第 三に,
た と え ば心 神喪 失や酩 酊状 態にある者が無意 識に与え た同意の場合に は, 同意は無効 故, 窃 盗罪が成 立する 4fi) 。〔
C1
)機 か らの不当な 現 金 引出〕 (distributeur
automatique debillets
=
DAB )自分の 口座に十 分な預 金が ない の に CD 機から現 金を引 き出 した場合
,
窃盗 罪とは な らない。 な ぜ な ら,
銀行との契 約で 1週間に1800
フ ランか ら3000
フ ラ ンまで引 き 出 すこ と を 許 さ れて い る か らである46[。
機 械の錯 誤の問 題ではな い。 ただ し不 正に,
た とえ ば自分の カー
ドが盗ま れ た旨を申告 した後に,
引 き出した場合に は詐 欺 罪が成 立する4η。 〔窃盗の故 意 〕 窃 盗に は,
所 有 者の意 思に反してまた は知 らない間に故 意に行 動するという一
般 的故 意(dol
g6neral )の ほかに , 窃 取 し た物にっ い て所 有者の よ うにふ る ま う とい う特別故意 (del
special )4s}が 必要だ と さ れて き た49 } 。 38) detentionと は,
非 所有 者に よ る財 物の保 持の こ と で,
た と えば債権 者に よ る担 保物 件の使用 などをい うと されて い る.
小学 館 ロ ベー
ル仏和 大 辞典745頁.
39) BLANCHOT.
p.
14.
40)Crim.
24 nov,
1972,
B,
266.
41) Crim.
25janv.
1973,
B.
45.
武器に よ り脅し た場 合.
42) Crim
.
22janv.
1943,
B.
29;Crim.
230ct.
1958,
B.
p.
1159.
43) BLANCHOT,
p.
15.
44) Crim
.
10 fev.
1954,
B.
69.
45〕 BLANCHOT
,
p.
16.
判 例 は.
子 供に対 して も 同 様に解 して い る.
Crim.
25 mai l 938,
D.
H.
1938.
453,
46} Crim.
24 novembre 1983,
B,
315,
CD 関 係で は最も有名な判例,
47〕 BLANCHOT,
p.
16;BLANCHOT 199Lp.
14.
よ り詳 細にフラン ス の状 況 を 紹 介 するもの として,
島 岡まな 「フ ラン スにお け る キ ャ ッ シュ カー
ドの不 正使 用一
判 例お よび学 説の動 向を中心 と して一
」慶応 大学 大学 院 法 学 研究 科論 文集2S 号 (1988 年 ).
なお,
不処罰 を 主張するもの として,
ジャ ンディ デ ィ エ (島岡訳 )「磁気カー
ドの変造と不正使用 」国学 院法 学26巻2号 160頁 以 下 (1988年 ) 参 照.
48)一
般 故 意 とは,
法に よ り禁止さ れていることを 知 りな が ら,
禁 止され た行 為を実行 する意 思をいう.
し か し法は,
特 別の場 合に は,
特 別 故意を成立要 件と す る こ と が あ る.
そ の例と し て は,
窃盗の他人の物を領 得する意 思のほ か に も,
文書偽 造の個人 的ま た は社 会 的 損害を 引 き起こす意思 (旧150 条 ),
国内産 業 妨害罪の妨害 する意 思 (旧417 条 )があげら れて いる.
ス テ フ ァ ニ=
ルヴ ァスー
ル=
ブー
ロ ッ ク (澤 登・
新 倉 訳 )「フ ラ ン ス刑 事 法 〔刑 法 総 論 〕』172 頁 (成 文 堂,
1981).
49)MERLE et VITU,
p.
1830; VERON p.
21.
cf.
VOUIN et RASSAT,
pp,
37−
38.
フ ラン ス注 釈 刑 法
・
財 産 犯 (1)(上野 芳久 )窃 取 行 為(soustraction )は不 正 (frauduleurse )で な けれ ば なら ない
,
つ ま り,
行 為者は,
物の所 有 者の 意 思に反 して その物 を 支 配 する際に,
違 法な取 得(apprehesion )を 行う とい う認 識をもっ て い な け れ ば な ら な い。 したがっ て,
た とえ ば自 分の物だ と誤 解 して他 人の レイン コ
ー
ト を着 用 した場 合,
所 有者と して ふ るま う意 思 (intention
de
se conduir comme propri6tair)は あ っ た が,
不 正な故 意 (intentionfrauduleurse
) はないか ら窃盗にな ら ない。故 意は
,
不正 な取 得と同 時に存 在しな けれ ばな ら な い。 大 型スー
パー
での窃盗事 件に おいて,
行為 者が, 自分が商品を所 持し た と きに はまだ窃 取 する意 図はなか っ た ので あ る から
,
故 意 と窃 取 行 為が同時に存 在 して い ない と主張し た とき,
破棄 院は,
「〔商 品 を 〕買 物 袋の中に入れずに取 得 し,
隠 し,
持ち去っ た以 上,
窃 取 行為と不 正な故 意 は 同 時に存在 したの で あり
,
両者とも取 得・
隠 匿の 瞬間に生 じ たの で あ る」 と して,
窃盗の成 立を認め た こと が ある50)。 これ は
,
物理的保 持 (detention
)と窃取 〔soustraction )との違い の問題 とは異な る。 大 型スー
パー
の 店 内で は,
animus の移 転 の ない保 持 とい うこ とが ありうる し,
そ の移 転が あっ た瞬間に こそ故 意が同時存在し なけ れ ば な ら ない のである(後 述 )5% 〔窃 盗の動 機 (mobile )その他 〕
窃 盗の 故 意 と動 機の両 者を混 同 して は な ら な い
。
た と え ば,債 権者が その債 権の担 保の た め また は損 害 賠償の支 払い の た めに,
債 務 者か ら財 物 を窃 取し た場 合に は,
た と え その 目 的 が 公 正だ っ た と して も,
窃 盗 罪 が 成 立 する52) 。窃 盗によっ て
,
他人 が財政 上 貧困と な り,
行 為 者 が利益 を得た か否か は重 要で はない 。 行 為 者に金銭 欲があっ たか否 かも犯 罪構 成 要 素で は ない の で,
教 会 内に展示されてい た新聞 を 破 る 目 的で窃取 し, 川に投 げ捨て た者 も窃盗罪にとわ れ る53) 。 〔使用窃盗 〕 (vold’
usage )た と え ば
.
試 乗 する た め に渡さ れ た に す ぎ ない ス クー
ター
に乗っ て去る の は窃 盗で あ る54)が,
使用後に返却するっ も りで (あ るい は放棄するつ もりで)車を使用 した場 合は,
第一
に使用は物で はない し,
第二 に物を自己の もの に する意 思 を持た ない た め,
窃盗に はならない とさ れて き た。 し か し,
フ ラ ン スで は今日, 数 時間乗り回 す 目 的で盗 ま れる自動 車の 台数は非 常に多い551と さ れる.
そ こ で, 従 来は,
ガソ リン の窃盗 と して起 訴さ れて きたの であ るが,1959
年2
月 19 日の破 棄 院 判 例56}は,
借用者に も 「一
時 的に せ よ所 有 者の よ うにふ る ま う 意 図 」があると しt 限 ら れ た時 間の 占 有の 移転
が あっ たこと を認めて 問題に終
止 符を うっ た.
以 後,
判 例は使用窃
盗に旧刑法379
条 を適 用して罰 してき た57) 。しか し新刑法典は, ド イッ
・
スペ イ ン・
ギ リシ ャ等の使用窃盗を罰 する立 法 例に も かか わ ら ず,
使用 窃 盗に関 する規 定 を置い て いない。
〔文 書コ ピー
と窃 盗 〕使用 窃盗 との関 係で
,
文 書をコ ピー
す る ため に一
時持ち出しコ ピー
し た後に返 す 行為は窃盗 罪を構成 する か,
とい う 問 題が あ る が,
使用 窃 盗を肯 定 する判例が広く解さ れ, 判例はこ の 問 題にっ い ても肯 定 する ように なっ た58)。 肯 定説は, これ は 「不 正コ ピ
ー
行 為に よ る(par photocopiage )」窃盗であ り,
「コ ピー
その もの の (de photocopie )」窃盗で はない59)とい
う
。
50) Crim
,
14 mai 1958,
B.
p.
691;Crim.
10ju 孟n 1964,
G.
P.
1964.
2.
172,
51} BLANCHOT
,
p.
18;BLANCHOT,
1991,
p,
17.
52) BLANCHOT.
p.
18.
53} Crim
.
12mars 1970,
D.
70.
385.
54> Crim
.
21 avril l964,
J.
C.
P.
1965.
11.
13973,
note Ottenhof.
55) BLANCHOT 1991,
p.
13;VERON supra p.
20.
56) Crim
.
19f6vrier 1959,
D.
1959,
p.
331,
nQte Roujon de Boulさe.
57) Crim.
280ct.
且959,
D.
1960.
314,
note A.
Chavanne.
58) Crim
.
8janv.
1979,
D.
1979.
509,
noteP.
Corlay.
ロ バ ガ判決と呼ばれ,
よく引用 さ れ る,
59) 前注 のロ バ ガ判 決の ほ かに も
,
CTim.
29 avr,
1986,
D.
1987.
131,
note Lucas de Leyssac が あ る.
また,
文 献 と して Rev.
sc,
湘 南工科 大 学紀 要 第
29
巻 第1
号しか し, 窃盗 と言え る か 疑 わ しい と して判 例を批 判す る説 6°[も あ る 。 な ぜ な ら
,
こ の 説に よれば,
物 (文書 )の物理 的保 持の み が短時 間 侵 害された もの の,
行 為者に物 (文 書 ) を領 得 する意 思 はない し,
文 書コ ピー
行 為に は所 有 者 と し ての行 為を特 徴づ け る もの も ない から で ある。
刑 事 罰 を科すた めに は新たに特別の規定を立 法すべ きだ とする見解も あ る61) 。〔大型ス
ー
パー
で の窃 盗 〕 (ventesdans
les
magasinslibre
service )62}パ リの よ うな大 都 会や地方都 市の効 外に は
、
車で大量に 日用品を買い に く る人々 の た め に、 日本よ り一
回り大 きな規 模の スー
パー
が発 達 して い る。 そ こはセ ル フ・
サー
ヴィ ス型で , 客は棚か ら自由に品物を取っ て ワ ゴン に乗せ, 最後に 出口の レジで代 金を支 払っ て帰る シ ス テ ムに なっ て い る。 この シ ス テム 自体は 日本でも良く見かけ るもの だ が,
違 うの はレジ近 辺に屈 強の大 男 (コ ン トロー
ラー
と呼ば れ る)が いて,
ブラブラ し な が ら監視の 目を光ら せて い る点で あ る。1
週 間 分か1
か月 分か 知 ら ないが,
品 物 を 大 型 ワゴ ン に 山の よ うに買い込 む客が 多い ので,
売 上 額は おそ ら く10
台以 上の レジを合わ せ ると相 当の 大金になる (た だ し, 客は小切手かカー
ドを 利 用 すること が 多い)。
屈 強の 男はその安 全 を 守 る ためだ ろ うが,
万引きな ど も監 視して い る よ うで あ る。これ を
,
上 述の corpus (自然 的要素 ) とanimus (心 理 的 要 素 ) を 使 っ て 法 的に説 明 す れ ば,
次の ようになる。 売 手 の方は 客に corpus を自由に獲 得させること は意 図して い る が,
そ れ は レジ迄で ある。
また,
客が レジ を通 過 する ま で animus を持っ とは考え て いない。 たと え客が店内で品物を 移 動 さ せ た と しても,
その客 が その時に animus を 持つ 故 意を有して い た こと を証 明する ことは原 則と して不 可 能で ある (例外 と して,
客が た とえ ば 店 内でバ ナ ナを 食べ て し まっ た ときの よ うに商品を消 費し た の に, その 旨をレ ジ で申告しない場 合は, 商品の 隠匿に よっ て,
故 意 を 証 明で き る)。 客はいっ でも品 物を 元に戻 せ る し,
戻 さ ないまで も買 うの を中 止す る (レジ でそ う言う)こ ともでき るか らで あ る。 そこ で,
くだ んの コ ン トロー
ラー
は,
客が レ ジを通 過し た後に行 動を起こす ことにな る。 通過し た瞬 間に窃盗が成 立 するか ら6S) , 客はうっ か り して商 品を 見せ忘 れ たなど と言い訳 はで きない。 第 311−
2 〔エ ネ ルギー
窃盗 〕 他人の利益に反 するエ ネルギー
の不法領 得は,
窃盗 とみ なす。Art ,311−2
La soustractiQn
frauduleuse
d’
6nergie au prejudiced’
autrui est assimi16es au vo1.
新し い犯 罪形 態と し てエ ネル ギー
窃 盗が制 定された。 即に電 気につ い て は判 例 64}が窃盗の成立 を 認 めてい た とこ ろ で ある が,
本 条はいわ ば そ れ を追認 し た条文で ある。 〔電 気 窃 盗 〕 日本の よ うに,
窃 盗にっ いて電 気 を財 物と み なす規定 (245
条 )をもた な か っ た旧刑 法 典下で は, 電気が窃 盗の対象 と なるかに っ い て否定説 (ルー,
ガル ソ ン)と肯 定 説 (ガロー
)の対立が あっ た。 前者は, 電気は物 質 体で はなく,
振 動ま たは物質
の特 別な状態であ るこ と,
電 力会 社に損害を あ た えて不当に取 得す るこ と は可能であ るが,
そ れ は自然 力 の所 有で あり,
旧379
条に い う窃盗 とは され ない使 用窃盗 と同 視さ れるべ き もの であると し た。 それに対 して肯 定 説 は,
所 有可能な物か否か は物理的性 質に よ る も の で はない こと を 説 き,
ひとつ の財 (richesse )であるこ と,
器 械で測 定 可 能なこと, 送 電によっ て生 産 者の所 有 物 が 顧 客に移転す ること が認識可能な こ と,
そ して最後に は,
顧 客が自分で使 用 する か否か を選択で きる こ と を 理由と し て肯 定すべ き だ と 主張 した。 後 者の肯 定 説 が 通 説・
判 例 65; だっ たの であ り,
ガ ロー
は特 別 規定を新 設する必 要は ない とさ え言っ た66)が,
結 局,
本 条の ように明 文 化さ れ たの で あ る。60) VERON p