はじめに
電子回路は,電気回路という抵抗,コイル,コンデンサの受動素子に加えて,ト ランジスタやダイオードなどの半導体素子が加わった回路を扱う学問である.いま, われわれの生活においては,この電子回路を基礎とした電子機器がいたるところで 使用されている.電子回路は,それが大規模になると,例えば集積回路などになっ てくる. 本書は,大学や高等専門学校の電気・電子・情報系をはじめとした学生,もしく は,これに準じた勉強をしたい方を読者の対象とした教科書である.また,電子・ 通信・情報系における各種資格試験のための基礎学習に資する自習書にもなるよう に配慮した. また,本書は,ごく基本的な回路解析を中心として演習問題に答えていくような 方式で内容が理解できるように記述した.つまり,高校生向けの学習参考書などの 体裁を意識した,「電子回路の参考書」となるような配慮をした.このような体裁に よって執筆した理由は,電子回路の内容そのものが章を追うごとに難解になりがち なものであっても(レベルが高くなっても),わかりやすく補足説明などをしていけ ば,それなりの理解ができると考えたからである(多くの受験参考書はそれ相応の レベルは要求されるので,レベルを下げることが困難である分,ページ数を割いて わかりやすく説明しようとしている). なお,最初の段階としてつまずきやすい,等価回路(トランジスタやFETを比較 的わかりやすい電気回路の形に置き換えた回路)の導出などには,できるだけ丁寧 に説明を加えたつもりである.ただし,どの例題にあっても,数値例を加えること はほとんどしていない.その理由は,回路の使用目的や,その構造や,使用デバイ ス(時代の趨勢により最良動作点も微妙に変化しているようだ)などへ依存する場 合が少なからずあるからである. ところで,大学や高等専門学校の授業で,電子回路というものを理解するには, 電気回路や電磁気学などと同じように,演習問題を数多く解くことが有効であると される.確かに,演習問題を解くことは重要であるが,電子回路におけるポイントii は,的確な等価回路をかけて,それから電気回路と同様な解析ができるという点で ある.どちらかといえば,回路独特の数字を覚えることよりも,その数字を求める ための手段を論理的に理解されたい. また,本書の守備範囲は,近年出版されてきている電子回路の教科書や参考書と 比較すると,かなり広い傾向にある.というのも,オーディオ機器やビジュアル機 器や通信機器や電力変換機器などへの応用となるための糸口として電子回路を理解 していただきたかったからである. 執筆者は,本来の専門を画像工学としているが,大学では情報や回路に関する講 義を担当している.もちろん,画像機器(撮像デバイスや表示デバイスなど)など の理解もあって,電子回路も教えているが,「なぜこの式が成り立つか」,「なぜこの ようになるのか」の理解が学生にとっては年々難しくなってきていると思えるよう になった.これまで名著と呼ばれたテキストも,近年では,その行間を理解すると いうこと自体が,学生にとってみれば,いきおい難しくなってきているように感じ られるのである. そこで,内容自体は少々レベルが高かったり,分量が多かったりするかもしれな いものの,これまでの名著を理解させしめるために充分な参考書として位置づけた いと考え,浅学を顧みず本書を執筆した.もちろん,本書を概ね理解したならば, 実際に回路を工作したり,実装したりするための技術の学習なども引き続き行われ ることを願いたい.正直なところ,電子回路という分野は,研究の軸足が高集積化, 超微細化,高性能化,各種アプリケーションへの応用という方向に傾いてはいるも のの,基礎的かつ重要な分野であることに変わりはないと考えている. ところで,本書を執筆するに機会をお与えくださり,いろいろとお世話くださっ た共立出版の鵜飼訓子氏に感謝申し上げる. 2011年10月 田中 賢一