鉄道構造物における角形鋼柱の適用範囲拡大に向けた実験的検討について
JR
東日本 正会員 ○黒田 智也 正会員 網谷 岳夫JR
東日本 正会員 青木 千里 正会員 山田 正人1.はじめに
平成
7
年に発生した兵庫県南部地震によって甚大な 被害を受けた.わが国ではこの地震を契機に耐震設計 法の見直しや既設構造物への耐震補強方法の開発が盛 んに行われるようになった.鉄道構造物の耐震設計は,鉄道構造物等設計標準(耐震設計)1)(以下,耐震標準)
により行われている.
耐震設計標準に示される部材耐力及び変形性能とい った断面性能は,ある一定の部材諸元(細長比,幅厚 比パラメータ等)(以下,部材パラメータ)の範囲の中 で,過去の実験結果に試験データに基づき定められた もので,耐震標準制定前に設計された構造物の耐震診 断に適用するには多くの課題がある.そこで本研究は,
既設構造物の耐震診断においても耐震標準に示される 部材性能算定式を適用性を確認することを目的とし,
耐震標準の適用範囲を超える柱部材を対象に正負交番 載荷試験により耐力,変形性能について検討を行った のでその結果について報告する.
2.試験概要 2.1 試験体諸元
図 1 に制限範囲のうち細長比パラメータと幅厚比パ ラメータの関係を示す.試験体は,実際の既設構造物 における部材諸元等を考慮し,図 1 に示すとおり試験 体1として細長比パラメータλが
0.954,幅厚比パラメ
ータRr
が0.388
の薄肉長柱の試験体(以下,試験体1)と,細長比パラメータλが
0.302,幅厚比パラメータ Rr
が0.158
の厚肉短柱の試験体(以下,試験体2)の2
体とした.補剛材比γ/γ*も既設構造物を参考に0.65
とした.試験体の主な諸元を表 1,耐震標準の制限範囲 と試験体の部材パラメータの関係を表 2に示す.2.2 試験方法
図 2 に試験状況を示す.試験は,一定鉛直軸力を載 荷した正負水平交番載荷試験を実施した.鉛直軸力は,
既設構造物と同程度の全塑性軸力に対して
0.05(軸力
比N’/N’y=0.05)とした.載荷ステップは,降伏変位δ
yの整数倍の変位を
1
回繰返しで行った.なお,降伏変 位は載荷方向に対して引張側の鋼板が降伏ひずみに達 した時点をδyとした.3.試験結果
3.1 試験体 1(薄肉長柱)
試験体1は,降伏後(降伏荷重
P
y=115.6 ,降伏変位δ
キーワード 角形鋼柱 鉄道構造物 部材パラメータ 適用範囲拡大 耐震診断連絡先 〒151-8512 東京都渋谷区代々木 2-2-6 JR 新宿ビル TEL 03-3379-4353 FAX 03-3372-7980
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
幅厚比パラメータ Rr
細長比パラメータ λ
厚肉 薄肉
短柱
耐震標準算定式 適用範囲 長柱
既設構造物において多 かった部材諸元の範囲
試験体1
試験体2
図 1 部材パラメータの制限範囲と試験体
0.65 0.05
0.158 0.302
試験体2
≧1.0
0.65
補剛材比γ/γ*
≦0.3
0.05
軸力比 パラメータN’/N’y
0.3-0.7 0.388
幅厚比 パラメータRr
0.2-0.5
耐震標準0.954
試験体1細長比 パラメータ
λ
0.65 0.05
0.158 0.302
試験体2
≧1.0
0.65
補剛材比γ/γ*
≦0.3
0.05
軸力比 パラメータN’/N’y
0.3-0.7 0.388
幅厚比 パラメータRr
0.2-0.5
耐震標準0.954
試験体1細長比 パラメータ
λ
4.6 12.4 せん断スパ
ン比L/D
24.4 32.8 幅厚比
D/t
1800 SM490
390×390 16.0
試験体2
3650 せん断 スパンL(mm) SM570
材 質
295×295 9.0
試験体1板厚 t(mm) 柱寸法 D(mm)
4.6 12.4 せん断スパ
ン比L/D
24.4 32.8 幅厚比
D/t
1800 SM490
390×390 16.0
試験体2
3650 せん断 スパンL(mm) SM570
材 質
295×295 9.0
試験体1板厚 t(mm) 柱寸法 D(mm)
表 1 試験体諸元
表 2 試験体の部材パラメータ
図 2 正負交番載荷試験状況(試験体 2)
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
‑135‑
Ⅰ‑068
y
=80.3mm) 2δ
yで最大荷重に達し,2.5δyで柱基部にき 裂が生じ荷重が低下したため試験を終了した.柱基部 に生じたき裂を図 3(A)に示す.終局時は柱基部の角溶 接部を起点に脆性的に破壊した.本試験体は,本試験 体は,既設構造物の構造細目を再現するため部分溶け 込み溶接したためであると考えられる.図 3(B)(C)に履 歴曲線及び包絡線を示す.本論で示す履歴曲線は,P
− Δ効果による影響を考慮し試験結果を補正した値のも のである.履歴特性に示すとおり耐震標準に示される 一般的の鋼柱と同様に最大荷重の95%付近まで荷重を
維持しており,算定値から定まる骨格曲線とほぼ同様 の曲線となる.図 5 に両試験体の降伏,最大,終局時の試験値,計算値の比較を示すが計算値と同等以上の 性能を有していることが確認でき,耐震標準による算 定式を適用することが可能であるといえる.
3.2 試験体 2(厚肉短柱)
試験体
1
と同様に試験体2
の試験結果を図 4,5に示 す . 降 伏 後 ( 降 伏 荷 重P
y=492kN ,
降 伏 変 位 δy
=13.9mm)
,8δy で柱基部にき裂を生じたが,試験体2
は柱母材の角部を起点にき裂が発生した.その他の試 験結果は,試験体1
と同様の傾向を示しており,厚肉 短柱の試験体2
も耐震標準の算定式を精度良く再現す ることが可能であると言える.4.まとめ
本論は,鉄道構造物における角形鋼柱の適用範囲拡 大に向け耐震標準で適用範囲外とされる部材諸元を有 する試験体に対し正負交番載荷試験を実施し,耐震性 能を明らかにすると共に耐震標準の算定式の適用性に ついて検証を行った.本試験の諸元であれば耐震標準 に示される算定式を用いて,柱の耐力及び変形性能を 算出することが可能であることが明らかとなった.本 試験結果により,耐震標準が制定される以前の既設構 造物に対して,耐震標準による部材パラメータを満足 させる様な補強等が不要となり耐震補強費の軽減等に 寄与できるものと考えられる.本論が既設鉄道構造物 の耐震診断の一助となれば幸いである.
参考文献
1)(財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・
同解説(耐震設計),1990.10 (A)損傷状況
(B) 履歴曲線
図 4 試験体 2 試験結果 (C) 包絡線 図 3 試験体 1 試験結果
(C) 包絡線
-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1
部材角θ(rad)
曲げモーメントM(kNm)
試験値 計算値
(B) 履歴曲線
(A)損傷状況
-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1
部材角θ(rad)
曲げモーメントM(kNm) 降伏
最大荷重 局部座屈発生
き 裂発生
(荷重低下 )
載荷終了 95%
-2500 -2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1
部材角θ (rad)
曲げモーメント (kNm)
降伏 き裂発生
(荷重低下 )
座屈発生 載荷終了
95%
-2500 -2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1
部材角θ (rad)
曲げモーメント (kNm)
試験値 計算値
(A) 試験体 1
0 200 400 600 800
0 200 400 600 800
曲げモーメントM(kNm) [計算値]
曲げモーメントM(kNm) [試験値]
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 部材角θ(rad) [計算値]
部材角θ(rad)[試験値]
0 500 1000 1500 2000
0 500 1000 1500 2000
曲げモーメントM(kNm) [計算値]
曲げモーメントM(kNm) [試験値]
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 部材角θ(rad) [計算値]
部材角θ(rad)[試験値]
図 5 曲げモーメント,部材角比較 (B)試験体 2
○:降伏,△:最大,×:終局
○:降伏,△:最大,×:終局
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)