平成18 年度修士論文
バット用材としての
アオダモ,ホワイトアッシュおよびシュガーメープルの材質特性
北海道大学大学院 農学研究科 環境資源学専攻 木材科学講座 木材工学分野 武藤 吾一目次
1. 背景と目的 1 2. 材料および試験体 4 3. 試験方法 11 4. 結果と考察 4.1 アオダモ強度特性の地域間差 17 4.2 成長速度と強度特性の関係 22 4.3 強度特性の樹種間差 26 4.4 バット材の強度特性 29 5. 結論 31 謝辞 33 引用文献 341. 背景と目的 アオダモ(Fraxinus lanuginosa)は,曲げ強さをはじめとする力学的特性に優れ,野球用 バットに用いられる主要な樹種である。現在,バット用のアオダモ原木のほとんどは北海道 内で伐採されており,材の生産は全て天然林に依存している。近年,北海道内のアオダモ蓄 積資源の減少が深刻化しており,バット材料としてアオダモ材を安定的に供給しつづけるた めには人工造林によるアオダモ資源の育成が不可欠であるとされている。これまでにアオダ モの試験的な人工造林は行われてきているが,良好な成果は得られておらず(福長 2005), 選抜育種も含めて未だ育成技術の確立には至っていない。アオダモの人工造林を行う上で求 められるのは,植栽から伐採までのサイクルを短くし効率的に材を生産すること,そして, バット材に適した樹形と材質を持つアオダモを安定的に生産することの 2 点である。アオダ モ資源の育成を目指した人工造林事業の成功には,アオダモの造林適地の選定,バット材に 適した材質を持つ優良個体の選抜,良好な成長と優良な材質を両立させるための育成技術の 確立が必要となる。 そこで本研究では,第一にアオダモの造林適地について検討するため,北海道内の 7 箇 所で採取された天然生のアオダモを供試材料として各種強度試験を行い,アオダモの強度特 性の地域間差について検討した。 また,一般に成長の遅いアオダモを通常よりも速い成長速度で育成した場合に,バット 材料に適した材を生産することが可能であるのか明らかにするため,北海道厚真町に植栽さ れた著しく成長の良いアオダモを供試材料として強度試験を行い,通常天然林に生育するよ りも良好な成長を示したアオダモの強度特性について検討した。
さらに,図 1.1 に示すように,アオダモ資源の減少に伴って,日本国内のバット材市場 でシェアを伸ばしている北米材のホワイトアッシュ(Fraxinus americana)とシュガーメープ ル(Acer saccharum)を供試材料として強度試験を行い,アオダモの結果と比較することでバ ット用材の強度特性の樹種間差について検討した。 一方,アオダモの造林適地の選定や優良個体の選抜には,バット材料としての適性を判 定する評価指標が必要である。評価すべきバット性能としてはバットの折れにくさ,破断し にくさ(折損時に破片が飛ばないか),反発係数(ボールの反発しやすさ),軽さ(操作性のよさ, スイングスピードの速さ),そして打球時しなり(ボールを捉える感触)が考えられる。本研究 ではこれらのバット性能を,それぞれ,曲げ強さ(MOR),静的曲げ破壊エネルギー(U),5% 部分圧縮強さ(5%LBS),比重(SG),そして曲げヤング率(MOE)の各材質指標によって評価が 可能であると想定した。 また,プロ野球・大学野球において使用され折損したバットを供試材料として強度試験 を行い,結果をアオダモおよびその他の樹種の強度特性と比較することにより,バット製品 に用いられている材料の強度特性を明らかにし,バット材の生産において重要となる指標に ついて検討した。
図1.1 某バット工場におけるプロ野球用バット材の樹種使用割合 78 73 63 58 55 52 15 28 22 27 37 42 30 21 0 20 40 60 80 100 2000 2001 2002 2003 2004 2005 年度 割合 (%) アオダモ シュガーメープル ホワイトアッシュ
2. 材料および試験体 供試材料として,アオダモは北海道の胆振・日高地方の苫小牧市(植苗),むかわ町,平取 町,日高町,新冠町,新ひだか町,浦河町,厚真町で採取された丸太材(直径 10~15 ㎝,長さ 40 ㎝,図 2.1)または板材(断面寸法 3×7 ㎝,長さ 90 ㎝)を用いた。採取地を図 2.2 に示す。 材料を採取した林分のうち,植苗から浦河町までの林分が天然林であるのに対し,厚真 町のアオダモは,1980 年頃に防風林として列状に植栽されたカラマツ(Larix kaempferi),ヤ チダモ(Fraxinus mandshurica var. japonica)のうちヤチダモに混じって誤植されていたも のである。防風林周辺の地形は平坦で周囲はカラマツ人工林と畑作地であり,ここから採取 されたアオダモは樹高成長・直径成長ともに約20 年の生育期間を通して常に良好であり,既 往の天然生アオダモ個体の成長量を大きく上回っていた(福長 2005)。厚真の林分内の様子 を図2.3 および図 2.4 に示す。 北米材のホワイトアッシュはアメリカ合衆国のインディアナ州,バージニア州,ペンシ ルベニア州,シュガーメープルはアイオワ州,インディアナ州,ノースキャロライナ州,ペ ンシルベニア州で採取された板材(断面寸法 3×7 ㎝,長さ 90 ㎝)を用いた(図 2.5)。 バット製品は,プロ野球と大学野球でそれぞれ使用され折損したバットの非破壊部を用 いた。使用したバットのほとんどがグリップ付近で破壊していた(図 2.6)。 材料の採取地(ソース),供試木数および試験体数を表 2.1 に示す。
試験体は全て断面寸法 20×20 ㎜の無欠点小試験体である。材料のうち丸太材からは, 髄から直交4 方向に柾目板を木取り,気乾状態に乾燥した後,樹皮側から連続的に試験体を 作製した。板材は,長さを60 ㎝に切り揃え気乾状態まで乾燥後,できるだけ多くの試験体を 作製した。なお,板材から作製した無欠点小試験体は,一端から35 ㎝までの部分を曲げ試験 等に供し,残った 25 ㎝部分を衝撃曲げ試験に供した。バット製品は,バットを軸方向に 2 つに割った後,両片から2~3 体の試験体を作製した。バット製品からの試験体の作製工程を 図 2.7 に示す。作製した全ての試験体は,温度 20℃・湿度 65%(夏季は 30℃・68%)に設定 した恒温恒湿槽にて含水率が約12%になるよう約 2 週間調整した後,各種強度試験に供した。
Lot No. 1 アオダモ 植苗 (天然林) 3 32 2 アオダモ むかわ (天然林) 9 35 3 アオダモ 平取 (天然林) 5 14 4 アオダモ 日高 (天然林) 10 29 5 アオダモ 新冠 (天然林) 3 30 6 アオダモ 新ひだか (天然林) 9 39 7 アオダモ 浦河 (天然林) 4 47 8 アオダモ 厚真 (人工林) 5 22 9 アオダモ プロ野球バット 2 6 10 アオダモ 大学野球バット 3 6 11 ホワイトアッシュ インディアナ州 5 15 12 ホワイトアッシュ バージニア州 5 15 13 ホワイトアッシュ ペンシルベニア州 5 15 14 ホワイトアッシュ 大学野球バット 1 2 15 シュガーメープル アイオワ州 5 15 16 シュガーメープル インディアナ州 5 15 17 シュガーメープル ノースキャロライナ州 5 15 18 シュガーメープル ペンシルベニア州 4 12 19 シュガーメープル プロ野球バット 1 3 20 シュガーメープル 大学野球バット 1 2 表2.1 材料の採取地(ソース),供試木数および試験体数 樹種 採取地・ソース 供試木数 試験体数
図2.1 材料として用いたアオダモの丸太材
図2.3 厚真町に防風林として列状に植栽されたヤチダモに混ざって生育するアオダモ
a. 非破壊部を切り取る b. 基準線で 2 つに割る
c. 20 ㎜各が 2 ないし 3 体取れる d. 作製した試験体 図2.7 バット製品から試験体を作製する工程
折損部位
3. 試験方法 無欠点小試験体の寸法と平均年輪幅(ARW)を測定した後,捩り試験,縦振動試験,曲げ 試験を行い,続いて曲げ試験の非破壊部から部分圧縮試験,縦圧縮試験,せん断試験用の試 験体を作製し各試験を行った。一部の供試材料については衝撃曲げ試験を行った。 捩り試験は,試験体の一端を固定し,他端に4.9N×140 ㎜のモーメントをかける方法で 行い,150 ㎜スパンでの捩り率の測定値からせん断弾性係数(G)を求めた。 縦振動試験は,試験体の中央部を手で支持し,一端をハンマーで打撃する方法で行い, 発生させた縦振動音をFFT アナライザにより解析して,動的ヤング率(Ed)を求めた。
G = M/k1
・θ・b
3・h
k1(矩形断面を持つ軸のねじりに関する係数)=0.141 θ(捩り率)= aS
φ
=’
・
δ
b aS
S
Sa:測定長さ, Sb:測定幅 φ:捩り角, δ:垂直変位Ed (Pa) = 4・fr
2・l
2・ρ
fr :固有振動数(Hz) l :試験体長(m) ρ :密度(kg/m3)曲げ試験,部分圧縮試験,縦圧縮試験,せん断試験は容量10t の油圧型万能試験機,衝 撃曲げ試験はシャルピー衝撃試験機をそれぞれ用いて,JIS-Z-2101に準拠した方法で行った。 曲げ試験からは曲げヤング率(MOE),曲げ強さ(MOR)および静的曲げ破壊エネルギー(U) を求めた。U は図 3.1 に示すように,曲げ荷重−変位曲線において,荷重開始点から試験体 が破壊した後,荷重が 0.8Pmaxまで降下した点までの曲線と x 軸とで囲まれる面積と定義し た。
MOE =
Δδ
Δ
I
Pl
48
3MOR =
Z
Pl
4
P:最大荷重 ΔP :比例域における上限荷重と下限荷重の差 l :スパン I :断面 2 次モーメント Z :断面係数 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 0 5 10 15 20 変位 (mm) 荷重 (N ) 静的曲げ破壊エネルギー0.8P
max 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 0 5 10 15 20 変位 (mm) 荷重 (N ) 静的曲げ破壊エネルギー0.8P
max0.8P
max部分圧縮試験からは5%部分圧縮強さ(5%LBS)を求めた。試験体長は余長効果を考慮し, 60 ㎜に統一した。 縦圧縮試験からは縦圧縮強さ(CS)を求めた。 せん断試験からはせん断強さ(SS)を求めた。
5%LBS =
bh
P
0.05 P0.05 :変位が材せいの5%(1 ㎜)に達した時点での荷重 b , h :材背,材幅CS = Pmax
/A
Pmax :最大荷重 A :断面積SS = Pmax
/A
Pmax :最大荷重 A :せん断面面積衝撃曲げ試験からは衝撃曲げ吸収エネルギー(Ud)を求めた。JIS-Z-2101 では Udを(衝撃 仕事量÷試験体の断面積)としているが,本研究では静的曲げ試験で得られる U と結果を対応 させるために衝撃仕事量をそのままUdとした。 試験項目と得られた強度指標を表3.1 にまとめる。
試験項目
材質指標
捩り試験
せん断弾性係数(G )
縦振動試験
動的ヤング率(E
d)
曲げヤング率(MOE )
曲げ強さ(MOR )
静的曲げ破壊エネルギー(U )
部分圧縮試験
5%部分圧縮強さ(5%LBS )
縦圧縮試験
縦圧縮強さ(CS )
せん断試験
せん断強さ(SS )
衝撃曲げ試験
衝撃曲げ吸収エネルギー(U
d)
曲げ試験
表3.1 試験項目と得られた材質指標
Ud = m・r・(cos(θ1
/
180・π)‐cos(θ0
/
180・π))
m :ハンマー重量 r :衝撃ハンマーの回転半径 θ1 :破壊後振上げ角度(°) θ0 :初期角度=155.8°4. 結果と考察
樹種・採取地(ソース)別の強度試験結果を表 4.1 および 4.2 に示す。
Lot ARW SG G Ed MOE MOR U Ud 5%LBS CS SS No. (mm) (MPa) (GPa) (GPa) (MPa) (N・m) (N・m) (MPa) (MPa) (MPa)
1.7 0.70 1391 13.1 10.9 116 26.4 ― 20.2 41.0 ― (13.2) (6.6) (7.2) (4.0) (5.6) (8.8) (13.3) (13.4) (9.0) 1.1 0.78 1753 13.9 11.1 118 24.8 45.3 24.1 48.1 16.5 (27.8) (8.1) (15.8) (15.6) (16.0) (14.5) (17.0) (28.7) (14.7) (11.0) (8.4) 1.2 0.69 1427 13.4 11.2 109 20.1 34.2 20.0 48.1 14.1 (8.5) (8.1) (18.2) (11.6) (12.1) (11.1) (22.9) (36.1) (20.0) (12.1) (10.9) 1.7 0.75 1530 14.8 12.0 115 25.7 46.7 22.7 50.2 16.3 (31.8) (4.4) (11.0) (12.6) (12.5) (10.9) (28.8) (22.5) (15.4) (10.4) (16.5) 0.9 0.74 1535 13.5 10.8 118 22.4 ― 26.1 55.8 17.3 (7.4) (3.1) (10.4) (9.9) (10.1) (6.5) (12.1) (8.7) (5.0) (4.8) 1.0 0.71 1408 14.8 12.0 109 21.7 ― 20.5 48.8 15.0 (27.7) (5.0) (9.4) (9.3) (9.6) (5.4) (19.5) (7.9) (2.9) (3.5) 0.9 0.72 1442 13.1 10.3 107 20.3 ― 24.4 49.7 15.4 (27.7) (6.0) (10.9) (13.1) (13.9) (10.8) (16.5) (14.5) (7.6) (10.0) Ave. 1.3 0.73 1522 14.1 11.4 113 23.3 43.3 22.4 48.9 15.7 3.5 0.73 1595 13.8 10.7* 109* 32.1 ― 20.5* 50.5* 14.3* (29.2) (4.2) (3.3) (11.5) (11.5) (3.3) (30.3) (9.2) (4.8) (6.4) 9 2.0 0.72 1343 ― 14.0 115 26.3 ― 19.4 52.7 14.2 10 2.1 0.77 1654 ― 13.1 129 24.2 ― 25.3 56.2 16.6 上段: 平均値 下段,括弧内: 変動係数(%) [凡例] ARW : 平均年輪幅, SG : 気乾比重(含水率12%), G : せん断弾性係数, Ed: 動的ヤング率
MOE : 静的曲げヤング率, MOR : 曲げ強さ, U : 静的曲げ破壊エネルギー
Ud: 衝撃曲げ吸収エネルギー, 5%LBS : 5%部分圧縮強さ, CS : 縦圧縮強さ, SS : せん断強さ *: 含水率12%時に換算した値 表4.1 アオダモの採取地(ソース)別の試験結果 樹種 ア オ ダ モ 8 7 2 1 6 5 4 3
Lot ARW SG G Ed MOE MOR U Ud 5%LBS CS SS No. (mm) (MPa) (GPa) (GPa) (MPa) (N・m) (N・m) (MPa) (MPa) (MPa)
3.2 0.76 1233 15.0 12.5 115 20.6 37.0 22.0 52.7 15.1 (35.4) (3.9) (7.7) (16.5) (15.8) (10.1) (11.7) (22.6) (6.5) (8.9) (4.8) 3.1 0.70 1158 15.8 13.0 114 31.1 39.2 20.6 50.3 13.7 (37.0) (12.9) (21.6) (18.2) (16.5) (15.3) (68.6) (66.3) (21.1) (10.7) (20.8) 5.4 0.73 1373 13.2 11.1 106 25.5 49.3 22.4 46.9 14.3 (22.1) (4.7) (8.0) (25.1) (22.8) (10.0) (21.6) (22.2) (10.4) (12.2) (4.2) Ave. 3.9 0.73 1255 14.6 12.2 112 25.7 41.8 21.7 50.0 14.4 14 1.9 0.74 1463 ― 12.5 133 23.3 ― 26.0 ― 15.8 1.9 0.75 1485 17.1 14.1 129 22.7 50.2 21.4 58.6 14.6 (32.9) (3.7) (5.8) (5.8) (5.3) (5.5) (12.7) (14.0) (5.4) (5.3) (3.3) 3.5 0.70 1427 15.6 12.9 124 21.7 44.0 17.3 57.3 14.4 (31.0) (1.6) (7.9) (6.8) (6.1) (3.1) (13.3) (14.8) (6.6) (3.2) (5.7) 4.1 0.69 1307 15.3 12.5 112 20.4 38.4 16.2 51.6 12.9 (38.7) (6.7) (14.8) (7.4) (6.0) (3.5) (20.0) (34.9) (15.4) (3.4) (13.7) 1.8 0.72 1379 18.3 15.1 128 30.4 54.9 18.9 58.5 14.8 (19.1) (1.2) (5.3) (2.6) (2.6) (0.9) (28.2) (29.4) (2.1) (1.8) (5.7) Ave. 2.9 0.71 1401 16.5 13.6 123 23.4 46.6 18.5 56.4 14.1 19 3.6 0.73 1452 ― 12.5 120 20.2 ― 20.6 55.0 ― 20 2.1 0.74 1570 ― 14.9 138 19.3 ― 19.2 ― 14.9 上段: 平均値 下段,括弧内: 変動係数(%) [凡例] ARW : 平均年輪幅, SG : 気乾比重(含水率12%), G : せん断弾性係数, Ed: 動的ヤング率
MOE : 静的曲げヤング率, MOR : 曲げ強さ, U : 静的曲げ破壊エネルギー
Ud: 衝撃曲げ吸収エネルギー, 5%LBS : 5%部分圧縮強さ, CS : 縦圧縮強さ, SS : せん断強さ シュ ガー メー プ ル 15 16 17 18 表4.2 ホワイトアッシュ,シュガーメープルの採取地(ソース)別の試験結果 樹種 ホ ワ イ ト アッ シュ 11 13 12
4.1 アオダモ強度特性の地域間差 道内の天然林に生育するアオダモの地域的な材質変異を調べるため,厚真を除いた 7 採 取地の試験結果をもとに,各強度指標の分散分析を行った。この結果,ARW について有意水 準1%,SG,G,5%LBS および CS について有意水準 5%の有意差が検出された(表 4.3)。各 強度指標の採取地ごとの平均値および標準偏差を図4.1,4.2 に示す。 ARW の 7 採取地の平均値は 0.9~1.7 ㎜の範囲となり,総平均は 1.3 ㎜であった。最大の 植苗,日高と最小の新冠,浦河では値に 2 倍近くの差があったが,他の指標に比べると採取 地内における値の変動が大きく,むかわ・日高・新ひだか・浦河ではCV が 30%近い値を示 した(表 4.1)。 SG の平均値は 0.69~0.78 の範囲となり,7 採取地の総平均は 0.73 であった。分散分析 により有意差が検出されたものの,採取地間の差はそれほど大きくなかった。G の平均値は 1391~1753MPa の範囲となり,7 採取地の総平均は 1522MPa であった。 Edの平均値は 13.1~14.8GPa となり,7 採取地の総平均は 14.1GPa であった。また, MOE の平均値は 10.3~12.0GPa となり,7 採取地の総平均は 11.4GPa であった。採取地内 の変動はSG に比べて大きく有意差は検出されなかった。
MOR の平均値は 107~118MPa の範囲となり,7 採取地の総平均は 113MPa であった。 U の平均値は 20.1~26.4N・m の範囲となり,7 採取地の総平均は 23.3N・m であった。各採 取地内の変動は比較的大きく有意差は検出されなかった。Udはむかわ,平取,日高の3 箇所 についてのみ試験を行ったが,平均値の範囲は34.2~46.7N・m となり,3 採取地の総平均は 43.3N・m であった。また,U と同様に採取地内の変動が大きく有意差は検出されなかった。
衝撃曲げ試験によるUdの測定値にはばらつきが多いという報告(宮島 1985)があり,本試験 の結果でもそういった傾向が見られた。 5%LBS の平均値は 20.0~26.1MPa の範囲となり,7 採取地の総平均は 22.4MPa であっ た。図4 に示したように変動の小さい新冠と新ひだかでは平均値の差が明らかであり,有意 差が検出される結果となった。 CS の平均値は 41.0~55.8MPa の範囲となり,7 採取地の総平均は 48.9MPa であった。 図4 から新冠と植苗の差は明らかであり,有意差が検出された。SSの平均値は 14.1~17.3MPa の範囲となり,7 採取地の総平均は 15.7MPa であった。また,分散分析による有意差は検出 されなかった。 結果を総合すると,肥大成長に関しては植苗と日高が非常に良好であり,材料を採取し た林分が成長に関して適性の高い土地であることが推測された。一方,材質面では,バット 性能に関わる指標のうちSG と 5%LBS に有意差が見られた。これら 2 つの指標に注目する と,植苗と平取は SG が比較的小さくバットの操作性について有利であるのに対して, 5%LBS が小さく,反発係数は小さいことが推測された。一方,新冠は SG が中間的な値を示 した一方で,5%LBS が大きく反発係数に優れていることがわかった。曲げ性能の指標である MOE,MOR,U については有意差が検出されなかったため,これらの指標については地域 的な材質変異が小さいことが示唆された。
採取地間 採取地内 採取地間 採取地内 ARW 6 36 0.68 0.12 5.52** SG 6 36 0.0065 0.0021 3.13* G 6 36 120248 39639 3.03* Ed 6 35 3.34 2.94 1.14 MOE 6 36 2.52 2.02 1.25 MOR 6 36 128 148 0.86 U 6 36 37.08 26.04 1.42 Ud 2 18 278.49 135.98 2.05 5%LBS 6 36 27.01 9.92 2.72* CS 6 33 59.88 20.45 2.93* SS 5 31 6.48 3.05 2.13 **:有意水準1%で有意差あり, *:有意水準5%で有意差あり 表4.3 アオダモの採取地間分散分析の結果 自由度 分散 要因 分散比
0 1 2 0.6 0.7 0.8 1000 1500 2000 10 12 14 16 8 10 12 14 ARW (mm) MOE (GPa) E d (GPa) G (MPa) SG 図4.1 アオダモの各材質指標の採取地間差(1) 植苗 むかわ 新 浦河 ひだか 新冠 日高 平取
MOR (MPa) CS (MPa) 5% LBS (MPa) Ud (N ・m) U (N ・m) SS (MPa) 植苗 むかわ 新 浦河 ひだか 新冠 日高 平取 80 100 120 140 10 20 30 20 40 60 15 20 25 30 30 40 50 60 10 15 20 図4.2 アオダモの各指標の採取地間差(2)
4.2 成長速度と強度特性の関係 効率的な材の生産を目指した人工造林を行う上では,いかに速い成長速度でアオダモを 育成するかが重要な課題となるが,同時にバット材に適した材質のアオダモを育成すること にも注力する必要がある。そこで,通常の天然生アオダモよりも速い成長速度で成長したア オダモの材質を調べるため,約20 年前に人工造林され平均年輪幅が 3.5 ㎜と著しく良好な肥 大成長を示した厚真町産のアオダモを供試材料とし,前項で検討した天然林である 7 採取地 の結果と比較した。表4.1 に示した試験結果において,厚真の試験時含水率が平均約 9.9%と 天然林に比べ 2%程度低かったため,MOE,MOR,5%LBS,CS,SS については結果を含 水率12%時の値に換算した 。換算には,Wood Handbook (USDA 1994, 4-34)に示されてい る以下の換算式を用いた。なお,Wood Handbook には換算に必要なアオダモのデータが収 録されていないため,ホワイトアッシュのデータを代用した。
−
−
=
12
12
12
12
pM
M
g
P
P
P
P
P :含水率 M%時の値 P12 :含水率 12%時の値※1 Pg :生材時の値※1 M :試験時含水率(%) Mp :繊維飽和点(%)※2 ※1:ホワイトアッシュのデータを使用, ※2:24(%)ARW は天然林と同様に厚真においても林分内の変動が大きく,CV は 29.2%であった。 SG は厚真と天然林の平均値に差がなく,どちらも 0.73 であった。また,ARW と SG の間に 相関は認められなかった(図 4.5)。環孔材の樹種の中には,年輪幅が広くなるのに伴い 1 年輪 内に占める木繊維の割合が高まり,細胞壁量が増加するため比重が大きくなる傾向を示すも のがある(宮島 1979)。しかし,今回の結果により,アオダモは年輪幅が増大しても比重は 増加しないことが示唆された。厚真の年輪構造について光学顕微鏡を用いて観察したところ, 年輪幅が広いことに加えて孔圏幅が広く孔圏道管径が大きいことがわかった(図 4.4)。このこ とがアオダモについてARW が増大しても SG が増加しなかったことの要因であると考えら れる。 U については厚真が天然林を約 38%上回った。また,U と ARW との間には正の相関 (r=0.569)が認められた。一方,U 以外の指標については厚真と天然林の間に大きな差が見ら れず,ARW との相関も認められなかった(図 5)。 既往の研究では,アオダモの ARW とその他の材質指標の間には明瞭な関係性が見られ ないことが報告されている(宮島 1979,1985)。それらの研究で用いられたアオダモの ARW の個体平均値は1.2~1.4 ㎜の範囲であり,ARW が 2 ㎜を超えるような個体に関する検討が不 十分であった。今回の結果から,ARW が 2 ㎜を超えるアオダモについても,ARW と他の材 質指標のほとんどとの間に顕著な関係性が見られないことを確認することができた。また, ARW が通常よりも大きな厚真産アオダモの強度特性は天然生アオダモに劣っておらず,アオ ダモの人工造林において,速い成長速度と,バット材に適した材質は両立が可能であることが示 唆された。
厚真 新ひだか 浦河 孔圏 図4.4 厚真・新ひだか・浦河の木口面顕微鏡写真(×20) 図4.3 厚真(左)とむかわの木口面写真
10 ㎝
0.60 0.70 0.80 0.90 1000 1500 2000 5 10 15 20 5 10 15 0 1 2 3 4 5 50 100 150 0 20 40 60 0 20 40 60 80 10 20 30 40 30 40 50 60 70 0 1 2 3 4 5 10 15 20 SG G (MPa) MOR (MPa) E d (GPa) SS (MPa) CS (MPa) 5% LBS (MPa) Ud (N ・m) U (N ・m) MOE (GPa) 図4.5 アオダモの ARW とその他の指標の関係 ARW (mm) ARW (mm)
4.3 強度特性の樹種間差 アオダモ,ホワイトアッシュ,シュガーメープルの平均値と標準偏差を図 4.7 に示す。 ここで,アオダモは厚真の結果を含んでいない。アオダモ,ホワイトアッシュ,シュガーメ ープルの強度特性の樹種間差を明らかにするため,各強度指標について一元配置の分散分析 を行った結果を表4.4 に示す。分散分析により,G,Ed,MOE,MOR,5%LBS,CS および SS について樹種間で有意水準 1%の有意差が検出された。 SG には樹種間でほとんど差が認められず,有意差は検出されなかった。G はアオダモが 最も大きく,ホワイトアッシュを約21%上回った。また,シュガーメープルは両者の中間と なった。EdとMOE はシュガーメープルが最も大きく,次いでホワイトアッシュ,最小がア オダモであった。樹種内の変動はアオダモ・ホワイトアッシュで比較的大きく,シュガーメ ープルでは小さかった。MOR はシュガーメープルがアオダモ・ホワイトアッシュを約 10% 上回った。また,樹種内の変動は MOE と同様にシュガーメープルで小さかった。U と Ud は樹種間で平均値に大きな差が見られず,また,それぞれ樹種内での値の変動が極めて大き く有意差が検出されなかった。5%LBS はアオダモ・ホワイトアッシュに比べてシュガーメー プルが顕著に劣る結果となり,アオダモとシュガーメープルの差は 20%を超えた。CS はシ ュガーメープルが他2 樹種に比べて大きく上回る結果となった。また,アオダモとホワイト アッシュの間に大きな差は見られなかった。SS はアオダモがホワイトアッシュとシュガーメ ープルを10%前後上回った。 各樹種の強度特性を整理すると,アオダモは3 樹種の中で G,5%LBS,SS が大きく, EdとMOE は劣っていた。シュガーメープルは MOE,MOR,CS に優れ,5%LBS と SS は
小さかった。ホワイトアッシュはG が顕著に小さかったが,その他の指標はアオダモとシュ ガーメープルの中間的な値を示した。バット材に対する一般的な評価としてアオダモ製のバ ットはしなりやすく,シュガーメープル製のバットは硬い(しなりにくい)とされているが, MOE に関する結果はこの評価と一致していた。また,MOR についてもシュガーメープルが 最大であったことから,バット性能として重要である曲げ性能に関しては総じてシュガーメ ープルが優れているといえる。一方で,一般にバット材としてシュガーメープルは材質的に 優れるものの,比重が大きいと評価される傾向があるが,今回の結果では樹種間で SG の差 はほとんど見られなかった。また,シュガーメープルは 5%LBS が小さかったことから反発 係数は3 樹種の中で最も小さいと推測される。 樹種間 樹種内 樹種間 樹種内 ARW 2 74 45.15 1.05 42.99** SG 2 74 0.0031 0.0025 1.25 G 2 74 416136 39634 10.50** Ed 2 73 39.08 3.85 10.15** MOE 2 72 31.28 2.52 12.43** MOR 2 72 757 134 5.66** U 2 72 41.51 54.48 0.76 Ud 2 50 92.73 174.74 0.53 5%LBS 2 74 105.87 10.08 10.50** CS 2 71 368.91 23.77 15.52** SS 2 68 18.95 2.90 6.53** **:有意水準1%で有意差あり 表4.4 樹種間分散分析の結果 要因 自由度 分散 分散比
0.65 0.70 0.75 0.80 1000 1200 1400 1600 1800 10 12 14 16 18 8 10 12 14 90 100 110 120 130 10 20 30 40 20 30 40 50 60 15 20 25 40 50 60 12 14 16 18 図4.7 各強度指標の樹種間差 SG G (MPa) MOR (MPa) Ed (GPa) SS (MPa) CS (MPa) 5% LBS (MPa) Ud (N ・m) U (N ・m) MOE (GPa) アオダモ ホワイトアッシュ シュガーメープル アオダモ ホワイトアッシュ シュガーメープル
4.4 バット材の強度特性 表 4.1 に示したプロ野球・大学野球バットの平均値と,アオダモ,ホワイトアッシュ, シュガーメープルの用材の値を樹種毎に比較すると,各樹種とも SG に大きな差が見られな かった。その他の指標については樹種によって傾向が異なっていた。図4.8 に道内 7 ヶ所で 採取したアオダモの平均値に対するバット製品(アオダモ)の平均値の比を示したが,大学野球 バットは全ての指標について 1 より大きかったのに対し,プロ野球バットは G,5%LBS, SS で 1 を下回った。プロ野球・大学野球バットに共通していたのは用材に比べ MOE の値が 大きかったことである。アオダモのバット製品のMOE はプロ野球が 14.0GPa,大学野球が 13.1GPa であり,シュガーメープル用材の平均値 13.6GPa と近い値であった。一方,SG は バット製品と用材でほぼ同等であったことから,今回供試したアオダモのバット製品は比ヤ ング率(MOE/SG)が大きかったといえる。バット製造の現場では,特にプロ野球向けの製品 について,手でバット材を叩いたときの音が材の判断基準の一つとして用いられているが, この作業は,本研究で行った縦振動試験と同様に比ヤング率の評価を行っているものと考え られる。今回の結果において,バット製品の方が道内7箇所で採取した天然生アオダモに比 べて MOE が大きかったことは,バット製造の現場において比ヤング率の高い材が選択的に 使用されていることを示唆している。今回試験した全てのアオダモ個体の中でバット製品の 比ヤング率(プロ野球と大学野球の平均値 18.1GPa)に達していたものは全体の約 10%であっ た。したがって,バット製品の材質を目標とする場合には,比ヤング率による優良木の選抜 が重要になるといえる。
図4.8 アオダモ用材とアオダモ製バット製品の比較 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 道内 7ヶ 所 で 採取 した アオダモ の 平均値 に 対 する 比 プロ 大学
5. 結論 本研究で得られた結果について以下にまとめる。 (1) 北海道内に生育する天然生のアオダモについて地域的な材質変異を明らかにするた め,各強度指標の分散分析を行ったところ,バット重量,反発係数の指標であるSG と5%LBS について有意差が検出された。一方,バットのしなり,折れにくさの指標 であるMOE と MOR については有意差が検出されず,今回対象とした胆振・日高地 方について曲げ性能に関わる指標の地域的な材質変異は小さいことが示唆された。 (2) ARW が 2 ㎜を超えるアオダモについて,ARW と SG の間に相関は見られなかった。 年輪幅の広い厚真産アオダモでは,孔圏幅も広く孔圏道管径が大きいことが観察され, このことが,ARW が増大しても SG が増加しなかった要因であると考えられた。 (3) アオダモの ARW と他の強度指標の関係について,既往の研究より ARW の広い範囲 (>2 ㎜)についても U を除いて顕著な関係性が認められず,また,極めて肥大成長の 良好な厚真産アオダモの強度特性が天然生アオダモに劣らなかったことから,アオダ モの人工造林において速い成長速度とバット材に適した材質の両立が可能であるこ とが示唆された。
(4) 主要なバット用樹種であるアオダモ,ホワイトアッシュ,シュガーメープルについて, 各強度指標の分散分析を行ったところ,G,Ed,MOE,MOR,5%LBS,CS,SS に ついて有意差が検出された。特に,MOE,MOR,5%LBS といったバット性能に関 わる強度指標について樹種間差が顕著であった。各樹種の材質的特徴をまとめると, 3 樹種間に比重(操作性,スイングスピード)の点で差はないが,アオダモは打球時に しなりやすく,材表面が硬いため反発係数が大きい,シュガーメープルはしなりにく いが材表面の硬さは他に劣る,ホワイトアッシュはアオダモとシュガーメープルの中 間的な材質を持つ,と評価することができた。 (5) プロ野球・大学野球バットの試験結果から,実際の製品に用いられている材料は天然 生アオダモの中でも比ヤング率(MOE/MOR)の値が大きな材であることがわかった。 このことは,バット製造の現場において比ヤング率の大きなものが選択的に使用され ていることを示す結果となったが,同時に,天然生アオダモのうちバット材に適した 材質を持つ個体の割合が低いことも示唆していた。したがって,今後アオダモ育成を 行う場合には比ヤング率による優良木の選抜が有効であることが示唆された。
謝辞 本研究を進めるにあたり,木材工学研究室の平井卓郎教授,佐々木義久技官,森林資源生物 学研究室の矢島崇教授,福長絢一郎氏,樹木生物学研究室の佐野雄三助手には平素からご指導, ご助力いただきました。また,木材工学研究室の院生,学生諸氏には多大な協力をいただきまし た。そして,本研究室の小泉章夫助教授には3 年間終始一貫してご指導いただきました。最後に, ㈱北海道バット産業の西村勝宏氏には試験材料のほとんどを提供していただき,さらに貴重な助 言を賜りました。本研究に協力していただいた全ての皆様に深く感謝の意を表します。
引用文献
Forest Products Laboratory (1994): Wood Handbook. USDA Forest Service, Madison, WI,
USA. 海老原徹 (1986): プロ野球バットの折損と原因,林業試験場場報 No.261,2-5 澤田秀邦ほか (1985): 北海道のアオダモに関する基礎資料,北海道森林技術センター 中野達夫 (1986): バットの折損とその原因について,林業技術 53(5),16-20 西田厚生 (1978): アオダモ材の有効利用,北海道営林局業務研究発表集録 23,87-95 半田孝俊 (2002): アオダモ優良個体の選抜と増殖,北海道の林木育種 45(1),14-17 福長絢一郎: バット生産を目的としたアオダモ人工林育成,北海道大学大学院農学研究科森林 資源生物学分野,平成17 年度修士論文 宮島寛 (1979): 日高産アオダモ材の生長と基礎材質,北海道大学演習林研究報告 36(2), 421-450 宮島寛,上田恒司,山崎亨史 (1985): 夕張産アオダモ材の生長と基礎材質,北海道大学演習 林研究報告 42(3),609-624 吉田真希子 (1994): 「バットの森」について,林業技術 631,33-35