「エイジング・イン・プレイス」の可能性を探る : 古き日本のインフォーマル・ケアと新しい24時間ケ ア
著者 松岡 洋子, 落合 明美
雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告
巻 37
ページ 129‑135
発行年 2014‑07
出版者 東京家政大学生活科学研究所
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009959/
《温故知新プロジェクト》
「エイジング・イン・プレイス」の可能性を探る
―古き日本のインフォーマル・ケアと新しい
24時間ケア―
松 岡 洋 子
*1落 合 明 美
*2Potentiality of Ageing in Place in Japan Japanese Informal Care in Old Age and New
24 hour Community-Based Care
Yoko MATSUOKA, and Akemi OCHIAI
1. 背景と目的
2012年4月より、介護保険の新しい地域密着型サービ スとして「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が始まっ た。従来の「訪問介護(居宅サービス)」では週に数回の 比較的長時間の訪問が中心であったが、必要があれば毎日 でも短時間で複数回の訪問を定額の範囲内で包括的に行う ものである。実質的に利用者の地域での生活継続を支え る、地域包括ケアの中核をなすサービスと言える。
本研究のタイトルにある「エイジング・イン・プレイス
(地域居住)」とは、平たく言えば「住み慣れた地域でその 人らしく最期まで」生きることを支えることであり、施設 入所の反対概念として1990年代に現れたものである。
エイジング・イン・プレイスを進めていくには「住まい とケアの分離」を推進しなければならない。施設にパッ ケージ化された住まい機能と24時間ケア機能を分離して、
地域に分散配置するということである(松岡,2005;松 岡,2011)。住まいにあたるのが高齢者住宅であり、ケア にあたるものが24時間在宅ケアである。なお、本研究で 対象としている「定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以 下、定期随時ケア)」は、「住まいとケアの分離」の文脈に 沿う24時間在宅ケアである。
実際問題として、高齢者は「虚弱になっても、今の家で 暮らし続けたい」と望んでおり、「畳の上で死にたい」と いうのは古くからの日本人共通の願いである。しかし、医 学の進歩によって、1970年代に人間の死に場は自宅から 病院へと変化した。こうした意味において、エイジング・
イン・プレイスは、古きよき日本の「家族に囲まれながら の畳の上での死(在宅死)」を支えるものと軌を一にして いる。異なるのは、かつての在宅死は家族介護(イン
フォーマル・ケア)に支えられていたが、現在では介護を 行う家族が存在せず、いたとしても介護で疲弊してしまっ ている。
そこで本研究では、日本で新しく開始された「定期巡 回・随時対応型訪問介護看護」サービスに焦点をあててそ の実態を明らかにしながら、一方で古き良き家族の力や地 域のインフォーマル資源にも着目し、両者の対比の中から
「定期巡回ケア」を基盤とする在宅24時間ケアの可能性・
課題について考察することを目的とする。
本研究は2年(平成24年度、平成25年度)にわたる研 究である。平成24年度は、比較的成果を上げている事業 者を訪問調査したが、平成25年度は多様な事業所調査を 計画した。昨年度の成果を踏まえ、異なる点を明確にしな がら全体をまとめたい。
2. 定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業の実態 我が国においては、1995年に巡回型ケアのモデル事業 が開始された(孫ら,2000)。しかしその後、2000年に 始まった介護保険では巡回型の訪問介護は登場しなかっ た。
定期巡回ケアは平成24年4月からスタートした介護保 険の新しいサービスであり、平成24年11月時点で125事 業所、平成25年度9月時点で335事業所(4,261人)、平 成26年度2月時点で414事業所(利用者61,261人)と、
急速ではないが地道にその数を伸ばしている。施設の廊下 ではなく、地域の道路を移動して巡回する割には高い介護 報酬が設定されているわけではなく、地域居住を支えるこ との重要性を認識し、そこにミッション性を感じていなけ れば継続が困難であり、始めてはみたが中止せざるを得な い事業者も少なくない。2012年5月に発表された実態調 査を概観してみたい(三菱東京UFJ, 2013)。
利用者が10人以下の事業所が大半で、利用者が広がっ
*1 東京家政大学(Tokyo Kasei University)
松岡洋子 落合明美 である。サービス提供の形態として、地域へサービス提供
する地域展開型と、サービス付き高齢者向け住宅住人を対 象とする集合住宅型があるが、訪問回数は前者「2.3〜3.2 回」、後者「6.3〜10.5回」であり、随時コールの回数もそ れぞれ「6.9回」「15.9回」と大きく異なっている。
このサービスの利用に至らなかった理由として、「既存 サービスからの切り替えが困難(54.3%)、施設等に入 所・入居した(37.1%)、家族の同意が得られなかった
(28.6%)、担当ケアマネが不要と判断(20.0%)、利用前 に逝去(17.1%)」などが挙げられている。
3. 調査デザイン 1) 情報収集法・分析法
本研究では、2年間にわたり全国の事業所を訪問し、以 下の内容で情報収集を行った。情報収集の内容は、以下の とおりである。
(1) 事業展開の実態(オープンデータ、事業所資料)
(2) この事業の可能性・課題(事業責任者、計画作成 責任者、ヘルパーへの半構造的インタビュー)
また、可能性・課題の分析には「絶えざる比較法(メリア ム,2004)」を採用した。許可を得た上でインタビューを 録音し、フィールド・ノーツをとり、「可能性」「課題」と いうテーマを設定して要素を抽出し、評価尺度や特徴を規 定する基準を探索していった。
2) 調査対象
初年度は財団法人在宅24時間ケア研究所より比較的順 調な事業所を紹介していただいた。また、新しく開始され たサービスであるので、25年度は公募指定(自治体が一 斉に公募・指定するもの)によってサービス提供している 事業者、広域展開を行っている事業所など、多様性を確保 できるよう選定した。訪問は随時行った。
平成24年度 A事業団(北海道S市)
B社会福祉法人(大分県N市)
C株式会社(愛知県G市)
D社会福祉法人(鹿児島県K市)
平成25年度 E株式会社(北海道Y市)
F社会福祉法人(北海道H市)
G社会福祉法人(北海道S市)
H社会福祉法人(鹿児島県K市)
I公益財団法人(鹿児島県K市)
4. 定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業の実態(調査 対象)
調査対象事業所の実態は、表1のとおりである。
1) A事業団(北海道S市)
〈組織の特徴〉
A事業団は、在宅生活支援に特化したS市の第三セク ター的な位置づけである。S市における全18事業所のう ち4事業所を運営しており、10区のうち6区の市民にサー ビス提供している形である。地域包括支援センターも4か 所の委託を受けており、在宅生活を支えるボランティアセ ンターを運営し、ケアマネ120人、ヘルパー900人を擁す る大組織である。
〈定期巡回ケアの特徴〉
チーム運営方式とは、1人のリーダー(サービス提供責 任者)とヘルパー10人(非常勤)からなるグループが3
〜4集まって一つのチームを構成して100〜150人の利用 者のケアにあたる。1事業所はおおむね3チームで構成さ れており、こうした事業所が6つあり、S市の6区を担当 している。
定期巡回ケアの利用者は現在22名で、指定訪問介護の 利用者から比べればまだまだ少ない。専任スタッフを雇用 せずに、訪問介護(介護保険法)・障害者訪問介護(自立 支援法)スタッフが兼任することで統合的に行っている。
柔軟に動ける点がよいと評価していた。
2) B社会福祉法人(大分県N市)
〈組織の特徴〉
特別養護老人ホーム・ケアハウス・高齢者住宅などを運 営し「在宅生活の充実」を法人の理念とする全国でも有数 の社会福祉法人である。在宅ケアについては、平成2年 の段階でヘルパーが84人おり、訪問看護は平成9年に始 めるなど、在宅ケアのリーディング組織である。平成18 年介護保険法改正で開始された「夜間対応型訪問介護」で は、100人の利用者を集めたことで全国的にも注目を集め た。「地域に目を向けることは社会福祉法人の使命」とし て、積極的に取り組んでいる。
〈定期巡回ケアの特徴〉
市内(人口8.5万人)の人口集積地(北部)を担当し、
東西南北10 km圏域を7チームでカバーしている。1チー ムの構成は、サービス提供責任者1人とヘルパー10人で ある。
これまで在宅ケアに力を入れてきたが、定期巡回ケアは 服薬・食事・排泄ケアが確実となり、生活基盤の形成が可 能となる。また、異変を発見してすみやかに対応できるた め、実際に入院や施設入所につながることも少ない、とい う効果を確認している。「さまざまなリスクを水際で防ぐ ことができる」との評価である。
表1 定期巡回・随時対応型訪問介護看護事務所への訪問調査結果 A事業団B社会福祉法人C株式会社 (社福系)D社会福祉法人E株式会社F社会福祉法人G社会福祉法人H社会福祉法人I公益財団法人 場所北海道S市大分県N市岐阜県G市鹿児島県K市北海道Y市北海道H市北海道S市鹿児島県K市鹿児島県K市 平成24年平成24年平成24年平成24年平成25年平成25年平成25年平成25年平成25年 連携型連携型連携型連携型連携型一体型一体型連携型連携型 191万人 25% 18事業の4事業
8.5万人 25.3% 1事業の1事業
41万人 26% 4事業の1事業
10万人 24.8%1事業の1 事業
1万人 45.1% 1事業の1事業
27.7万人 28.7% 5事業の1事業
191万人 25% 18事業の1事業
60万人 21.2% 10事業の1事業
60万人 21.2% 10事業の1事業 22人40人2人11人8人20人21人2人2人 (兼務のため特定で きない)約80名―5名(CM、OT、 ヘルパー)4名10名20名(看護師、介 護士,OT/PT)―― ・ CM120人、ヘ ルパー900人の 大組織。 ・ 平成10年より 24時間ケア開 始。
・ 特養、ケアハウ ス、高齢者住宅 等複合施設運営。 ・ 古くから在宅に 力。
・ 在宅生活支援に 熱心な社会福祉 法人が設立した 会社。 ・ 駅前タワービル に地域ケア拠点。 高優賃(106戸)
・ 特養・養護・デ イなどの複合施 設を持ち、地域 密着型サービス も積極的に展開。
・ 在宅医療、まち づくりに熱心な 医療法人が設立。 ・ 拠点は町なかに 独立系で。
・ 医療法人設立に よる社会福祉法 人。ステーショ ンは病院内。
・ 特養を核とした 地域包括ケアを 総合力で推進。 ・ 市内に3圏域を 設定して人口の 半分以上をカ バー
・ 特養、ケアハウ ス、訪問介護な ど総合的なサー ビス提供を行う 社会福祉法人。
・ 病院、老健併設 で在宅部門あり。 ・ 地域包括ケアを 本格的に推進し ようと開始。 ・ チーム運営方式。 1事業所に3〜4 チーム。4事業 所。 ・ 専任なしで統合 的に(訪問介護、 障害者訪問介護)
・ 10 km圏内(6 万世帯)7チー ムでカバー ・ 1チームにサ責 1人、ヘルパー 10人
・ 訪問介護「身体 0」も使って地 元方式を模索。 複数連続巡回も あり。よって、 定期随時ケア利 用者は多くない。
・ 精鋭職員を集め て挑戦。初年度 で利用者11人。 次年度19人と 着実展開。
・ 複数名の医師に よる在宅医療を 基盤に連携によ り「生活を壊さ ずサポート」
・ 積極的なCM事 業所へのPR・ 研修で半年で利 用者増加。 ・デイ利用も多い。
・ リハビリにも注 力 ・ 高齢者住宅に暮 らす方4人。住 宅系・在宅系で ルート2本。 ・ 随時でも即座に 対応できるよう 事業所から20 分圏域のみ。実 際に確認。
・ 訪問介護部門 (責任者5、ヘル パー26)がある ので、核スタッ フ中心に人材は 柔軟に。
・ 訪問介護部門が あり、そこに拠 点を置いている。 ・ 住宅型有料老人 ホームへも提供。 効果
・入手情報の多さ から先手必勝プラ ンが可能
・ 入退院、入所の 減少 ・ 早期発見、早期 対処 ・ 異変を発見しや すい
・ 定期巡回ケアは 在宅復帰直後に 有効。
・ 利用者が地道に 増えている。 ・ 短時間訪問のメ リット多し。
・ 複数回訪問で生 活が見えてくる。 ・ みとりにも威力 発揮 ・ その人らしさ支 えるサービス
・ デイも利用して いただくことで 満足度高い ・ ターミナル事例 2件
・ 地域居住継続を 可能とするサー ビス。 ・ リハビリにも力 入れることで自 立促進。
・ ターミナル事例 3件 ・ 安否確認、重度 の複数回訪問、 限度超の方に良 い。 ・柔軟に動ける
・ 老健から在宅復 帰の際に家族に も安心。 課題・ 地方都市におけ る移動距離の長 さ。
・ これからのサー ビス、今は赤字。・ 3.2以上30人以 上なら安定だが、 難しい。
・ ニーズはあるが 継続支援が難し い。
・ これから挑戦し ていく。
松岡洋子 落合明美 3) C株式会社(愛知県G市)
〈組織の特徴〉
社会福祉法人が包括的な地域ケアを推進するために立ち あげた株式会社である。常に先進的な取り組みで社会に貢 献しており、JR駅前の高層タワービルの1フロアを使っ て創設した地域ケアの拠点は、全国的にも話題になった。
上層階には、高齢者優良賃貸住宅(106戸)・分譲マン ションがあり、集合住宅と地域へ等価にサービス提供して いる。
〈定期巡回ケアの特徴〉
定期巡回・随時対応型訪問介護看護のみではなく、指定 訪問介護の「身体0」を使って提供している。定期巡回ケ アの報酬が包括式(要介護度ごとに報酬が決まっていてど れだけサービスを提供してもその報酬は変わらないシステ ム)であることは利用者の依存性を高め、職員にも過大な 負担がかかる可能性があるとして、G県と協力して「地 元方式」を推進している。しかしながら、従来の指定訪問 介護とは二律背反ではなく、双方がどのようなケース・場 面に適しているのかを見極めた上で、使いこなす道を模索 している。
タワービル内の高優賃住人が利用していることから、指 定訪問介護も含めて利用者は80人と多く、訪問しては事 務所に帰るという「帰還型巡回」ではなく、一度出かける と数軒を巡回して帰るという「連続型巡回」を行うなど効 率にも配慮した運営がなされている。
4) 社会福祉法人(鹿児島県K市)
〈組織の特徴〉
養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイサービスを はじめ、小規模多機能居宅介護など地域密着型サービスも 積極的に展開するなど、先進的取り組みに積極的な社会福 祉法人である。
〈定期巡回ケアのシステム〉
平成25年3月からサービスを始め、同3月末時点ですで に利用者は11名である。スタッフは、ケアマネ、PT、ベ テランヘルパーを含む専属職員を5名配置して、拠点事務 所については市の補助を受けて新しく建物を建てるなど、
意欲的なスタートを切った。アルコール中毒を煩う息子を 持つ要求の多い利用者宅では、短時間訪問が功を奏し、利 用継続が可能となった成功例などがある。地方都市である ので移動距離の長さが課題となっている。
5) E株式会社(北海道Y市)
〈組織の特徴〉
破たんした自治体の病院再建から始まり、在宅医療に心 血を注ぐ医師がまちづくりも含めて地域の人々の普通の暮
らしを支えようとする取り組みの一環として設立した会社 である(平成24年)。在宅医療への取り組みは3名の医 師が関わっており、複数市を含む広域でサテライト的な診 療所を設けるなど、本格的なプライマリーケアに取り組ん でいる。訪問診療の際にも、「早く元気になってラーメン 食べに行こう」など暮らしの意欲をかきたてる会話に心を くだく医師であり、日本の医療にも大きな影響を与えてい る。医療の視点から介護と24時間巡回型の重要性を鑑み、
在宅医療全体の中で定期巡回ケアを位置づけている。
〈定期巡回ケアの特徴〉
市内に独立拠点を設けて、サービス提供している。一日 複数回訪問することで生活が見えてくる。「その人らしい 生活を壊さずサポート」できるサービスだと、可能性に期 待をかけている。しかし、利用者の広がりが地道である点 が経営的に困難であるとの感触であった。医師との連携が スムーズであるので、看取りにも力を発揮している。
6) F社会福祉法人(北海道H市)
〈組織の特徴〉
H市の拠点病院を経営する医療法人が設立した社会法 人である。定期巡回ケアのステーションも病院内にあり、
病院のインフォメーションボードでも紹介するなどしてい た。
〈定期巡回ケアの特徴〉
平成25年6月にスタートし、11月末時点で20名の利用 者を得ているのは、管理責任者がケア・マネジャー(以 下、CM)を対象とした説明会開催、訪問活動を行った成 果である。3日で100の居宅介護支援事業所を訪問したと いう。また、社会交流は重要であるとの視点からデイサー ビスの利用も勧めており、病院・デイ・定期巡回ケア一体 となった支援を特徴としている。とはいえ、内部からの紹 介は20名中5名で、あとは外部CMからの紹介である。
7) G社会福祉法人(北海道S市)
〈組織の特徴〉
人口191万人の市内に3圏域を設定し、特別養護老人 ホームを核とした地域包括ケアシステムを総合的に構築し ている。利用者をサービス毎に捉えるのではなく、長期に わたる継続的な視点から支えようとしている。拠点にある 介護老人保健施設にはアセスメント機能を持たせ、地域復 帰へのリハビリにも力を入れている。また、在宅生活にお ける機能低下にも着目してリハビリを強化するなど、総合 的な地域生活支援を特徴としている。
〈定期巡回ケアの特徴〉
独立型ステーションを市内に構えている。定期巡回ケア としての「独立採算」を基本とし、平均要介護度3.2で利
用者30人なら経営が安定すると試算している。
在宅部門においてもOT・PTが配置されており、老健 におけるアセスメント結果を受け、利用中の機能低下にも 留意し、在宅でのリハビリにも力を入れている。随時対応 時も速やかに訪問することが重要であり、実際に車で走っ て20分以内の利用者であることを確認している。また、
食事は配食サービスを活用するなどして、アベイラビリ ティ(サービスを利用できること)を高めている。
8) H社会福祉法人(鹿児島県K市)
〈組織の特徴〉
特別養護老人ホームからデイサービスまで、総合的な サービス提供を行う社会福祉法人である。在宅部門には CM9名、ヘルパー26名、利用者140名がおり、在宅部 門にも経験と実績がある。K市の公募指定(平成24年4 月)で手を挙げた。
〈定期巡回ケアの特徴〉
定期巡回ケアは平成25年4月から開始した。12月時 点で利用者は2名であるが、3名の看取りを含めて9名の 利用があった。指定訪問介護では服薬確認などが難しく、
不必要な滞留時間があったのに比べて、定期巡回ケアは今 後重要性が増す。軽度で安否確認の必要がある方、重度で 複数回訪問の必要がある方、支給限度額が超過する方など に非常に有効であるとの評価をしている。しかし利用者確 保など、経営面の困難性がある。
9) I公益財団法人(鹿児島県K市)
〈組織の特徴〉
病院、老健に隣接して在宅部門を構える公益財団法人で ある。在宅部門にはCM11名、訪問介護では約80名の利 用者がいる大きな組織である。地域包括ケアを本格的に推 進しようと、K市の公募指定(平成24年4月)に参加し た。
〈定期巡回ケアの特徴〉
老健から在宅復帰する際に、不安を払拭し、今後の暮ら しのイメージをもってもらうのに適したサービスであると の評価であった。また、同法人が運営する住宅型有料老人 ホーム(13戸)の住人にサービス提供するケースもあり、
挑戦を続け、どのようなケース、どのような状況に適した サービスであるか見極めたい、との意向であった。
5. 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の可能性と課題 定期巡回ケアの可能性と課題について、インタビュー結 果を絶えざる比較法によって分析した結果を記述する。初 年度は、利用者の側面から「生活が見える」「アセスメン
ることが増えた(自立支援)」「自宅生活継続の自信」、職 員の側面から「新人でもスタート可能」「無駄な滞在・待 機時間がない」、家族の側面から「家族の協力」「家族の安 心感」などが抽出された。これらを踏まえ、新たな要素を 加えてまとめる。
1) 定期巡回ケアの可能性
〈本人・利用者の側面から〉
起床、着替え、朝食、昼食、排泄、夕食、就寝など、複 数回の訪問は、生活基盤を形成して独居でも在宅で暮らし 続けられる基盤を支えるものである。また何度か来てくれ て緊急時の対応もあることはスタッフへの信頼と大きな安 心感につながり、「自宅生活継続の自信がついた」という 利用者の声も聞かれた。
また、一日に複数回訪問することで、その人の「生活が 見え」「変化を即キャッチでき」暮らしの全体像が見えて くる。よって、「できる」可能性のあることが見えてくる し、逆に「できない」で困っている実態も見えてくる。洗 濯はできなくても干すこととたたむことはできるなどであ る。
生活全体が見えることは、的確なアセスメントという視 点からも重要である。本人・家族から直接入手する情報は 伝聞で入手する情報とは質的に異なる。よって、自立支援 のケアプランへの可能性が高まり、実際に「できることが 増えた」という利用者もいた。
また、「変化を即キャッチでき」るので、早期発見・早 期対応が可能となり、悪化を予防することもできる。さら に、生活全体が見え、変化をキャッチすることで、その次 に何が起きるのか、どんなリスクがあるのか予測でき、先 を読む予測型介入が可能となる。
〈職員の側面から〉
短時間訪問なので、新人でもスタートすることができ る。従来の指定訪問介護では滞在時間が長いため、コミュ ニケーション能力などの経験を積まなければできない要素 が多かった。必要なケアをして次の利用者宅へ向かうこと が基本であるため、必要以上のコミュニケーション能力は 求められず、ムダな時間を短縮できる。
〈地域・家族の側面から〉
サービス提供の現場に同行させていただいたが、同居の 場合は、家族の方のゆとりある表情には生活に密着してく れているスタッフへの信頼が見え、介護負担の軽減の効果 を確認できた。また独居の方もおられ、家族が近くにいる 場合は、食事を保存容器に詰めて届ける、手すりを息子が 設置するなど、家族の協力がよく見られた。北海道Y市 のドクターは「本当によくできた人たち」という表現をし
松岡洋子 落合明美 ていくことができるサービスであると評価していた。
また、老親と離れて暮らす子供にとっても、その安心感 は非常に高いことを確認できた。
2) 定期巡回ケアの課題
課題については、初年度「医療・看護など連携先の不 足」「従来型ケアプランとの不整合」「規模の経済性が発揮 できない」「移動距離、駐車場問題」「深夜シフトの人材 難」「包括報酬の合理性・非合理性」が挙げられた。これ らに加え、今回目立ったものをまとめる。
〈事業としての課題〉
利用者の拡大に困難を感じている事業者が多い。利用者 が増えたと思ったら、死亡・施設入所・入院のために利用 中止となり、安定性に欠けるという意見もあった。これと 関連して、なかなか利益が出せないという事業者も多かっ た。しかしながら、ニーズの存在やこのサービスの意義は どの事業者も認めるところであった。初年度には、「新規 の利用が多い」「病院の医療ソーシャルワーカーからの紹 介が多い」などの声が聞かれた。事業推進については、次 節の考察で考えてみたい。
損益分岐点についてであるが、平均要介護度3.0以上で、
利用者25〜30人を挙げる事業者が複数あり、一つの目安 になるのではないだろうかと思われた。地域包括ケアの推 進や社会貢献と同等に、事業のサステイナビリティは重要 な課題である。
〈保険者としての課題〉
2年間で、公募指定を行っている自治体を3市訪問した。
同じ公募指定であっても、「一緒にいいサービスを作って いきましょう!」と担当者自ら事業者を訪問して呼びかけ るなどの積極策をとっている自治体がある一方で、支援体 制にはばらつきが見られた。介護保険の保険者たる自治体 の格差は、定期巡回ケアの普及と発展に大きな影響を与え る。
6. 考 察
定期巡回ケアは平成24年4月より開始された。このタ イミングを捉えて調査研究を開始して2年継続した。平 成22年度のモデル事業に参加した事業所があったとはい え、始まったばかりのサービスであるところから、可能性 や課題についてさまざまな意見が聞かれたが、2年目(平 成25年度)には、このサービスの効果や意義を認める声 にも、困難さを訴求する声にも、統一したものが見られる ようになった。前節でまとめたものである。
可能性については、「生活の基盤を支え」「生活が見え る」サービスとして、即時対応、予測的介入ができ、「で きることを増やし」「自宅生活継続の自信」を感じさせる
自立支援のサービスであることと集約できる。的確なアセ スメントを可能にするものであり、CMよりも先に変化の 状況などを察知できるところから、これまでのケアプラン のあり方や、CMの位置づけについて再考を迫る動きにも つながる可能性すら感じられる。
温故知新の視点からは、家族の安心感とゆとりを創出す るサービスであることが明確であった。介護保険サービス と家族介護が同時進行で進んでいくであろう我が国の現状 からは、古き良き家族の力を支え、負担を軽減していくも のとして位置付けられていくだろう。また、仕事を持ち近 くに住む子供世代にとっては、できる範囲で協力するな ど、新しい関わり方を可能にしてくれるサービスであると も言える。さらに、遠くに住む家族にとってはこまめな安 否確認は何よりも大きな安心感につながる。
また、今後期待できるサービスではあるが、事業として の収益性・安定性を高めるためには課題が多いことも明ら かにされた。この課題を超えていくためには成功事例に学 ぶことが肝要であろう。
実績を上げている事業者からは、「CMへの説明会開催 と訪問に力を注いだ」という声が聞かれ、100件を超える 訪問を実施していた。また、人口190万の市内半分を視 野に入れ、その半数を対象に3圏域に分けて地域包括ケ アを総合的に実践している社会福祉法人は、このサービス を地域居住継続を実質的に可能とするものと位置づけ、総 合事業の一角に組み入れていた。また、地道にじっくりと 取り組んで徐々に利用者を拡大している事業者もあった。
共通点は、それぞれの組織内においてこの事業を位置づ け、戦略をもって取り組めば前に進む、ということであ る。待機する利用者を選定するだけで成り立つ施設事業で はなく、自ら地域を歩いて開拓していく事業であるのだか ら困難であり、戦略やビジョンが功を奏するのである。
また、各組織によって、定期巡回ケアの捉え方や全体事 業での位置づけが異なっていた。デンマークの在宅24時 間ケアの文脈からすれば、定期巡回・随時対応型訪問介護 看護は在宅ケアの基幹サービスとなる。しかし、病院・老 健から在宅復帰時に効果的に利用できる「中継ぎ型」の位 置づけをしている事業者も目立った。さらに、軽度者と重 度者、医療ニーズの高い人と低い人では利用法も異なって くるだろう。在宅での機能低下を予防するために、リハビ リに注力しているケースも見られた。また、指定訪問介護 との関係も重要な課題である。こうしたバリエーションに ついて整理していくことも、このサービスの発展に結び付 くだろう。今後の実証研究が待たれるところである。
最後に、自治体間格差についてである。自治体はビジョ ンをもってこのサービスを育て、地域包括ケアを推進して ほしい。今回、事業推進に苦労されている事業者を訪問し
て、自治体からの情報提供、情報交換会開催などの支援が あれば、さらに前にすすんでいくのではないかと思われ た。
定期巡回ケアは、地域包括ケアの根幹をなすサービスで ある。今後の発展に寄与すべく、筆者も調査研究を継続し ていきたい。
謝 辞
調査対象先の選定に大いなる援助を下さいました一般社 団法人24時間在宅ケア研究会(時田純理事長)の種田 聖様、調査にご協力くださいました法人、会社、自治体の 方々に心よりの御礼を申し上げます。
この調査研究は、東京家政大学生活科学研究所の「総合 研究プロジェクト温故知新」の助成を受けて行われたもの
です。記して感謝の意を伝えます。
文 献
1)松岡洋子(2005).『デンマークの高齢者福祉と地域居住』新 評論
2)松岡洋子(2011).『エイジング・イン・プレイスと高齢者住 宅』新評論
3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2013).『実践から 見えてきた定期巡回・随時対応型訪問介護看護』
4)孫 良・奥西栄介・峯本佳世子・浅野 仁(2000).『24時 間対応(巡回型)ホームヘルプサービスの現状と課題―関西 6市町のモデル事業実態調査を通して―』関西学院大学社会 学部紀要,第85号,137–150ページ