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雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

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Academic year: 2021

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(1)

富山県南砺市利賀村の伝統文化の伝承と地域の活性 化に関する研究 : 子どもの育ちを中心に (温故知 新プロジェクト)

著者 梅谷 千代子, 菱田 隆昭, 岩川 眞紀

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

巻 38

ページ 1‑5

発行年 2015‑07

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009962/

(2)

《温故知新プロジェクト》

富山県南砺市利賀村の伝統文化の伝承と地域の活性化に関する研究

――子どもの育ちを中心に――

梅谷千代子

*

1 菱 田 隆 昭

*

2 岩 川 眞 紀

*

3

Study about the Inheritance of Traditional Culture and Regional Activation in Togamura

̶With a Focus on Children Raised̶

Chiyoko UMETANI, Takaaki HISHIDA, and Maki IWAKAWA

1. は じ め に

富山県南西端にある南砺市利賀村は、旧平村、旧上平村 とあわせて五箇山とも呼ばれ、日本有数の豪雪地帯であ る。1950年代に電気や道路が整備されるまで、他地域と の行き来が大変困難であったため、独自の生活、文化が形 成され、昔ながらの社会制度や民俗、習慣が色濃く残され てきた。1995(平成7)年、五箇山合掌造り集落(相倉・菅 沼)は、白川郷合掌造り集落(岐阜県)とあわせて、世界 遺産(文化遺産)に登録されている。また、五箇山・上梨 の山里を中心に伝承された古代民謡「筑子(こきりこ)」

は、約1400年前より田楽として歌い継がれてきたという

説もあり、1973(昭和58)年、「麦屋節」「といちんさ」(五 箇山の唄と踊)などとあわせて、国選択無形民俗文化財

(民俗芸能)に指定されている。五箇山地方は平家落ち武 者の隠れ里として知られており、これにまつわる数々の伝 承や民謡も残されている。

2. 研究の目的

本研究の対象とする南砺市利賀村では、豊かな自然の中 で培われてきた伝統文化の中の特に民謡の価値に着目し、

地域活性化の起爆剤として民謡を中心とした多彩なイベン トを立ち上げている。さらに今日的課題である学校と地域 社会の協働による次世代育成の手段として民謡を活用して いる。

本研究は利賀村における伝統文化の継承の事例を次世代 を担う子どもの視点から捉え直し、伝統文化としての民謡 の習得や村のいくつかのイベントでの民謡発表が、子ども たちの育ちにどのような影響をもたらしているのか、併せ て民謡の教育的意義について明らかにしようと試みるもの

である。

併せて、その成果を踏まえて、本学で学ぶ学生の教材と して民謡を活用し、日本の伝統文化を身につけた学生を育 てることをねらいとする。

3. 研究の対象―利賀村の概要―

利賀村は岐阜県境に位置し、面積は177.58 km2であり、

97%が林野である。村の中央部に標高900〜1,400 m 南北に連なる山並みが、利賀川、百瀬川の分水嶺として形 成され、両河川の流域に集落が点在している。山深く、国 内有数の豪雪地帯ということもあり、1950年代は通学路 の確保もままならず、利賀小学校は本校と11の分校、冬 場はさらに九つの冬期分校に分かれ学習がなされていた。

1955(昭和30)年に、両河川を結ぶ楢尾隧道(歩道)開通 や道路整備がなされるまでは、各集落の独自性が色濃く、

民謡もそれぞれ盛んであった。

現在は道路も整備され、隧道も車が通れるトンネルに改 修され、冬期は除雪が十分行われているので、富山駅から

車で1時間ほどとなっている。

また2004(平成16)年には、八つの町村合併により南砺 市利賀村になり、利賀村は大字として残された。現在、利 賀村では毎年8月〜9月にかけて世界演劇祭が行われ、世 界に向けて発信している。

さらに、「合掌文化村」「演劇の村」「そばの郷」「瞑想の 里」をキーワードに多くのイベントを立ちあげ、国内およ び国際交流を行っている。2月「そば祭り」、10月「ドー ンと山祭り」などがある。

4. 研究の方法

南砺市利賀村における民謡を中心とした地域活性化の取 組みと、学校と地域社会の協働による民謡学習を中心とし た次世代育成の取組みの現地調査を行った。

1) 2014(平 成26)年5月  春 祭 り:北 豆 谷 地 区(53

*1 東京家政大学(Tokyo Kasei University)

*2 和洋女子大学(Wayo Wonen’s University)

*3 こども教育宝仙大学(Hosen College of Childhood Educa- tion)

(3)

梅谷千代子 菱田隆昭 岩川眞紀 日)、利賀中央地区(5月4日)、阿別当地区(5月4日)、

上百瀬地区(5月5日)の春祭りに参加し、実態調査を 行った(カメラ、VTRレコーダー併用)。

2) 利賀小学校および利賀中学校の合同学習発表会「金 剛祭」(1019日)に参加し、その内容を記録(カメ ラ併用)し、さらに参加者の聞き取り調査を行った。

3) 利賀村民謡の実技研修(1026日)を行った。利賀 村むぎや節保存会の方に指導を受けた「こっきりこ」

「むぎや節(女性手踊り)」(VTR併用)。

4) 2014年12月13日・14日 利賀村民謡の実技研修、

および地元在住者に 地域にとっての民謡の歴史や意義 などを聞き取り調査(カメラ、VTR併用)

5) 2014年1221日 1950年代、旧利賀村の小学校分 校で民謡を教育に取り入れた 山本一二三氏に聞き取り 調査を行った(於 富山市自宅)(ICレコーダー、VTR 併用)。

6) 第11回南砺市利賀そば祭り 2015(平成27)年2月6 日・7日に、本学学生とともに参加し、現地調査を行っ た。

7) 利賀村の子どもが関わる年間行事

利賀村の子どもが関わる年間行事は表1のとおりであ る。

学校が主催のものと地域が主催のものがある。その中 で、民謡を披露するのは合同運動会、姉妹都市交流、セカ ンドスクール、盆踊り、山祭り、学習発表会「金剛祭」、

そば祭りである。また、県中学学習発表会では舞台で上演 する機会もある。民謡を踊る子どもたちの様子は、小中学 校とも学校要覧に掲載されている。

子どもに関わる伝統文化の継承としての行事には、1 の初午、5月の春祭りがある。

5. 研究の成果1―春祭り―

利賀村だけでなく五箇山地方、広くは富山県全体にとっ て、非常に重要な行事が春祭りである。五穀豊穣を祈るの はもちろん長く厳しい冬からの脱却という意味がある。地 元の人への調査では「さあ、やるぞ」ということばも聞か れた。

春祭りは、利賀村では獅子舞がメインになる。獅子舞の 舞い手は、獅子方若連中や青年団、住民あるいは進学や就 職などで利賀村を離れた大人であるが、子どもたちは重要 な役である獅子とりや三番叟を演じる。舞い手たちは朝 10時ころから獅子宿に集合し、神社で舞った後、地区を 周る。途中、休憩所でも郷土料理や仕出し料理、郷土の酒 を楽しみつつ、時に民謡を踊る。夕刻にようやく新しい獅 子宿に到着し、皆で親睦を深める。利賀村では舞い手、笛 の演奏、太鼓の打ち手など、誰でもできるかの印象であ る。

小学生たちも笛を吹きながら、獅子舞いの列に連なって いた。

本来、獅子とりは長男だけが舞っていたとのことである が、少子化に伴い次男、三男も行うようになり、現在では 女子も舞っている。地域によっては子どもがいないため に、成人した女子、高校生も演じざるを得ない状況にある とのことである。獅子の舞い手や先頭の旗持ちの人数が足 りない地区は県外からのボランティアが行っていた。

獅子舞いの姿(夫婦獅子、10人で舞う百足獅子など)、

舞い方、獅子とり役の採り物(獅子とりが持つものでフ サ、ゴヘイ、六尺棒、木製の刀など)等が四地区ごとに異 なる。そのため、人数が不足しているからと言っても合同 で開催というわけにはいかないようである。また、神明宮 が地区ごとにあるので合同開催は難しいともいえる。

利賀村の春祭りは、村を離れた人が故郷へ帰る機会であ ると同時に、帰ってこないと祭りが成立しないようであ る。

6. 研究の成果2―金剛祭―

1) 金剛祭とは

小中学校合同で行われる学習発表会である。平成26 度のプログラムは(図3)のとおりであり、1019日(日 表1 利賀村のこどもに関わる年間行事

図1 上百瀬地区 春祭り

(4)

曜)利賀複合教育施設、通称アーパス(小中学校および公 民館、体育施設併設)のホールで開催された。本年度の出 演児童は17名、生徒も17名、計34名であった。民謡披 露、一輪車やマットなどの体育実技、合唱、劇などの発表 があった。

2) 事前の学習

民謡については、小中学校とも利賀村むぎや節保存会に 指導を依頼している。特に中学生は「地元の文化を継承 し、地元に誇りを持つ」というねらいのもとに「総合学習 の時間」に「民謡学習」が組まれている。

踊り、地方、唄など10時間の指導プログラムである。

毎回、学習記録や感想をとっている。

小学生は、発表会前に数回、指導を受ける(図2)。

2が平成26年度中学生の総合学習「民謡学習」の予 定表である。

3) 発表当日

プログラムは民謡で幕を開ける。ホールは観客でいっぱ いであり、後方には30台を超すビデオカメラが並んでい

た(図4 写真左)。昼食時には二つの大きな教室が用意

されていた。一人の子どもに少なくとも7〜8人の大人が 応援に駆け付けている感じであった(図4 写真右)。母 親たちは早朝から昼食の準備に精を出すということであ る。

育成会という組織があり、学校運営に協力している。ま た金剛祭では30名を超す会員が合唱を披露した。

利賀村における金剛祭は、子どもとその保護者にとって の学校行事にとどまらず、地域住民のイベントとなってい る。そして地域全体で、子どもの育ちを支援している機会 となっているといえる。

7. 研究の成果3―そば祭り―

1) そば祭り

利賀村の名産であるそばと岩魚の塩焼き、ごへい餅など の味覚の販売と伝統行事「丑曳」、大人・子供による民謡 発表、会場いっぱいの雪像、花火などが3日間の会期中に 行われる。600人強の地域住人に対しおよそ50倍の来訪 者を集める3日間のイベントである。

2月6日(金曜)には、夜6時から利賀村むぎや節保存 会による民謡発表が行われた。

表2 中学生民謡学習

図2 小学生民謡練習風景

図3 プログラム

図4 参加者の様子

(5)

梅谷千代子 菱田隆昭 岩川眞紀

27日(土曜)午後1時から上利賀子供民謡保存会、

両百瀬子供民謡保存会による民謡発表が行われた。

2) 子ども民謡

二つの子供民謡保存会がそれぞれ2曲ずつ披露した(利 賀木遣り、こっきりこ、たろじ節、炭焼きじいさの口説き 唄)。上利賀子供民謡保存会は地方も小学生たちが担当し、

堂々の演技であった。そば祭りの演技に対しては学校での 練習はなく、それぞれの民謡保存会で大人たちが夜間指導 するとのことである。

舞台前では150人くらいの観客が真剣に見て、大きな拍 手をおくっていた。また、後方では名産の味覚を楽しみな がら座って見ている人もかなりの人数であった。

日頃、利賀村の子どもたちは顔見知りの中で生活してい る。そば祭りの期間中はおよそ住民の50倍の集客がある。

多くの地元外からの観衆の前で演ずることは、子どもに とって自信と地域の誇りを感ずる機会となっている。

学校の先生方も 男性は駐車場の整理係りを、女性はご へい餅の販売など惜しみなく協力し、イベントを支え、地 域の行事に積極的に関わっている姿が見られた。

3) 雪像作り

本年初めて東京家政大学造形表現学科の学生6人が雪像 作りに参加した(図6)。同時に、そば祭りの運営スタッ フとしての活動も行った。「楽しかった、雪って硬いんで すね、また参加したい」といった学生の感想が寄せられ

た。

利賀村には青年山村協力隊や利賀ゼミという成人向けの 協力体制がある。最終的には定住村づくりを目標としてい るが、富山県外に住み、イベントごとに様々な手伝いをし ている。彼らの助けがないとイベント実施が難しいものも あるようだ。

8. 研究の成果4―民謡実技研修―

利賀村むぎや節保存会会員の方に民謡を習う機会を得 た。最初から会員による唄に合わせて、踊る方法であっ た。イベントで民謡を見る限り、何とか踊れるのではと 思っていたが、手振り、足運び、からだの向き、顔さらに 音に合わせてとなると、本当に難しい。雰囲気を体験する 良さの反面、正確に学ぶとなると難しいという全習法の好 悪である。まして、笠やこっきりこ(30 cmくらいの小 竹)の操作が加わると、さらに複雑なものになる。

指導者は歌詞、一つ一つと照らし合わせ、史実とも対比 するように指導してくださった。おかげでイメージは理解 できた。指導者たちのことばの端端に、自分たちの踊りに 対する絶対的な自信がうかがえる。さらに郷土愛を感じ る。これらは民謡学習や民謡上演を通して、利賀村の子ど もたちに継承されているのであろう。

利賀村に育った人は、幼少から民謡を見て、聞いて、

歌って、踊ってそして演奏してと民謡の中に育つ。よって 振りを覚えることに何ら苦労はないように思われる。

むぎや節には男性笠踊り、女性手踊り、女性笠踊り、運 動会用、マスゲーム用と数種類の踊りがあるということで ある。さらに盆踊り用の振りもある。利賀村の人々は民謡 を見せる機会が多くあり、見せる振付、見せる踊りになっ ている。また、子どもたちがむぎや節を最初に人前で踊る のは運動会のようであり、その時、民謡を楽しむと見せる 図5 そば祭り民謡上演

図6 家政大生制作雪像

図7 民謡実技研修

(6)

を同時に行っている。

教材化に向けてすべきことは、いかに音、歌、動きの中 にいる時間を増やすかであろう。また、初めてこのような 動き、音楽に触れる学生にとっては、手振り、足運び、顔 などの基礎的な部分を練習することや歌詞を理解するな ど、地元の中学生の民謡用学習とは異なった方法を構築す る必要があると思われる。

9. ま と め

今回研究の成果として取り上げた三つの祭りは、

・春祭りは利賀村の伝統的な祭り

・金剛祭は学校行事の学習発表会(文化祭)

・そば祭りは地域活性化のイベント的要素の強い祭り と、それぞれ特徴的要素がある。利賀村においては伝統 行事、学校行事、地域のイベントといった性格の異なる地 域の祭りすべてに子どもの民謡が取り入れられている。そ れぞれの祭りの意味合いを踏まえて、子どもの育ちの視点 から見ると下記のようにまとめられる。

1 地域と学校とが一体になって子どもを育てている  2 子どもが一つ一つの祭りにおいて役割を果たしていく

中で、地域愛や自己への肯定感が身についていると思わ れる。

3 それの中心になっているのが民謡である。

地域に受け継がれた民謡の教育的価値は、子どもに地域 愛と自信を育てている。そして、それはまさに伝統文化の 伝承が地域の活性化に結びついている。

今後の課題

今後の課題としては、小中学生に聞き取り調査を行い、

子どもの民謡学習に対する内省分析を行いたい。併せて、

利賀村の民謡の理解を深め、教材化を試みることである。

謝   辞

温故知新プロジェクトにより、現地調査を行うことがで き、多様な視点から利賀村の伝統文化の伝承、子どもと民 謡についての検証の第一歩ができましたことを心より感謝 申し上げます。

文   献

1)利賀村教育委員会編:利賀のはつうま.利賀村教育委員会

(1988).

2)利賀村むぎや節保存会:利賀の民謡.利賀村むぎや節保存会

(2000).

3)富山県南砺市編:南砺市勢要覧.p. 1,富山県南砺市(2009).

4)利 賀 村 史 編 集 委 員 会 編:利 賀 村 史3近 代・現 代,利 賀 村

(2004).

5)菱田隆昭,岩川眞紀:「民謡」の学校教育への導入―戦後教 育改革期の「学習指導要領」を中心として―.こども教育宝 仙大学紀要,第3号,pp. 67–74(2012).

6)梅谷千代子,菱田隆昭,岩川眞紀:富山県南砺市利賀村にお ける民謡の伝承と地域の活性化に関する研究―上利賀地区,

利賀中央地区の盆踊り―.比較文化史研究,第15号,pp.

47–58(2014).

参照

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