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雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

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(1)

「受動的安らぎ」か?「自立的緊張」か? (2) : 施 設なき時代の地域ケア(定期巡回・随時対応型訪問 介護看護)の成功要因・停滞要因 (温故知新プロジ ェクト)

著者 松岡 洋子

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

巻 39

ページ 75‑81

発行年 2016‑07

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009991/

(2)

《温故知新プロジェクト》

「受動的安らぎ」か?「自立的緊張」か?(2)

〜施設なき時代の地域ケア(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)の 成功要因・停滞要因〜

松 岡 洋 子*

Passive Comfort or Independent Tension ?

Elements for Success of 24 Hour Community-Based Care in the Age without Institutions

Yoko MATSUOKA

1. 背景と目的 1) 背景

高齢期において、とくに介護が必要になった時にどこで 暮らすかは最重要課題である。日本においては、1963 に老人福祉法が施行され、特別養護老人ホームが公式に制 度化された。その後、1971年からの「社会福祉施設緊急

整備5ヶ年計画」によって施設の建設に拍車がかけられ

た。1999年を目標とするゴールドプラン(1989年)では 24万床が計画され、新ゴールドプランで29万床に上方修 正された。現在は53万床へとさらに増えて、現在も少な からず建設が続いている。

この間の世界の動きを見ると、1970年代は戦後の経済 成長を背景に大規模な施設が建設された。しかし、1973 年のオイルショック後は施設を建設する財政的な余裕もな くなり、1980年代は施設のオルタナティブ模索の時代と 言われるようになった。1990年代に入ると「エイジング・

イン・プレイス」という概念が登場し、「(施設に移り住む のではなく)住み慣れた地域でその人らしく最期まで」住 み続けるための方策が模索された。

デンマークでは、旧型の高齢者施設である「プライエ ム」の新規建設が1988年に禁止された。「住まいとケアの 分離」理論によって、地域には24時間ケアを整え、60 m2 の面積がある高齢者住宅を建設した。施設には「住まいと ケア」がパッケージされているので、そこ(施設)に住む 人しか恩恵を享受することができない。両者を分離して、

地域に質の高い住宅と24時間ケアを提供すれば、これま で住んできた場所でそのまま年を重ね、生きてきたように 人生を終えることができるのである(松岡,2005)。

「住まいとケアの分離」は、施設大国であったオランダ でも1983年より実践され、近年(2008年)、2000カ所の

施設(verpleijhuis, nursing home)のうち800施設を在 宅ケアへと転換する計画が示されて、ドラスチックな変革 が進められている。

イギリスでも、ケア・ホームを新規建設する財政的な余 力は自治体にはもはやなく、古いケア・ホームはシェル タード・ハウジング(社会住宅)を基盤とするエキスト ラ・ケア・ハウジングへと建て替えられているケースが目 立つ。

日本においても、「地域包括ケア」が目指されるように なった。適切な住宅があることを前提に、医療・保健、介 護、リハビリが連携して、住み慣れた地域での生活を支援 していこうというものである。これは、1980年代からの 世界の潮流「エイジング・イン・プレイス(地域居住)」

とシンクロするものである(松岡,2011)。

「地域包括ケア」においては、「住まいとケアの分離」の 文脈に沿う「住まい」は「サービス付き高齢者向け住宅」

で提供され、「ケア」は「定期巡回・随時対応型訪問介護 看護(定期巡回サービスと略す)」によって提供されるこ とが期待されている。

本研究では、ケアの側面では「定期巡回サービス」に焦 点を当てるが、このサービスは2012年にスタートしたも のであり、在宅生活者に介護を提供するサービスとしては

「指定訪問介護」が存在してきた。「定期巡回サービス」に ついて論じるには、この従来型の「指定訪問介護」との違 いを明確にする必要がある。

2) 目的

そこで本研究では、「施設ケア」をLawton (1976) 言う「受動的安らぎ」の世界=1960年代以前のケアと捉 え、「在宅ケア」を「自立的緊張」=1980年代以降のケア とみる。

温故知新の文脈から述べると、「施設のケア(温故)」

*東京家政大学(Tokyo Kasei University)

(3)

松岡洋子

「指定訪問介護のケア」「定期巡回・随時対応型訪問介護看 護のケア(知新)」の特徴を明らかにして、今後の地域包 括ケアの核となる「定期巡回サービス」について未来志向 の考察を行なうことを目的とする。

2. 「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の特徴

調査・研究について述べる前に、「定期巡回サービス」

という介護保険サービスについて簡潔に解説する。

1) 制度

定期巡回サービスは2012年の介護保険改正によって誕 生した地域密着型サービスである。これまでの「訪問介 護」は30分以上を単位として、介護報酬が加算方式で積 み上げられ、限度額を超えると100%自己負担しなければ ならなかった。よって1時間を超える滞在型の訪問を週に 数回受けるスタイルが中心で、毎日訪問してもらうことは 非常に難しく、家族介護者がいなければ在宅での暮らしは 実質的に不可能であった。

これに対して「定期巡回サービス」は15分ほどの短い 訪問を一日に複数回行なう巡回型のサービスで、さらに夜 中であっても緊急時のコールに対応してもらえ、さらに報 酬は包括方式であって、独居でもその人の暮らしを24 間にわたって支えることを目指している。デンマークにお いて「住まいとケアの分離」がなされ、1980年代に構築 されていった24時間ケアが、短時間訪問を中心とした巡 回型サービスに緊急アラームコールを組み合わせたもので あった。

当初は、24時間巡回の負担や深夜の随時対応への負担 感の大きさを敬遠する声が多く存在した。また、利用が増 えない理由として、既存サービスからの切り替えが困難

(54%)、施設等にすでに入所した(37%)、担当ケアマネ の不要との判断(20%)などが挙げられた(三菱UFJ,

2013)。さらに、医療や看護など連携先の不足、従来型ケ アプランとの不整合、規模の経済性が働かない、移動距離 が長く駐車場確保が困難、包括報酬の非合理性などの課題 も多く指摘された。

しかしながら、徐々にサービスが広がるにつれ、「一日 に複数回訪問するので『生活』が見える」、「変化をキャッ チしやすく、即介入が可能」、「予測して介入できる未来志 向のサービス」との評価がなされるようになり、これらを もって「利用者ができることが増え、自立支援につなが る」「自宅生活継続の自信が生まれる」ケアという評価も 聞かれるようになった。さらに、離れてくらす家族にとっ ても、「家族が安心できる」サービスであるという声も聞 かれるようになった(松岡,2015)。

開始半年後の2012年11月には125事業所がこのサービ

スを開始しており、利用者10人以下の事業者が大半で あった。要介護3以上の中重度者が利用者の中心であろう と予測されたが、中重度者の利用は50%に留まった。利 用者が少ないと規模の経済性が働かない。また、中重度者 が半数に留まることは介護報酬の低さを意味する。

それでなくても、これまで施設の建物内の廊下を移動し て提供していた24時間のケアを、町なかの道路を移動し て届けるサービスであるので、負担の大きさや効率の悪さ は容易に想像できる。しかしなお継続してこのサービスを 提供しようというのは、高齢者は「自宅で暮らす」ことを 熱望している事実を重く受けとめ、高齢者が生活する場へ ケアを届ける意義の大きさや、「地域包括ケア」において 目指す方向性を深く理解しているからに他ならない。

2014年3月には434事業者、196保険者(1,580保険者 のうち)、利用者6,792人と普及の速度は地道であった。

また第5期介護保険でも、300保険者が計画されていたと ころ達成率は65%に満たず普及は十分とは言えない状況 であった。

3年後にあたる2015年12月には763事業所(328保 険者)まで広がり、利用者もようやく1万人を超え13,000 人弱となった(厚生労働省,2015)。

このサービスが広がる速度は決して速いものではない。

しかし、高齢者の「自宅で暮らし続けたい」という普遍的 な希望、「地域包括ケア」の目的や意義、目指す方向を考 えれば、定期巡回サービスはなくてはならないサービスで ある。時間はかかっても、しっかりと地域に根を張り、浸 透をはかっていくべきサービスなのである。

2) 実態(他の調査より)

その実態をより詳細に理解するために、「平成24年度介 護保険報酬改訂の効果検証及び調査研究に係る調査(平成 25年度調査)」(厚生労働省,2014)と「平成27年度定期 巡回・随時対応型訪問介護看護の実態と効率的なサービス 提供のあり方に関する調査(平成27年度調査)」(厚生労 働省,2016)とを概観してみたい。前者は平成256月

時点での299事業所を対象にした悉皆調査であり(有効回

答率50.8%)、後者は平成2710月時点での763事業所 を対象にした悉皆調査である(有効回収率29.5%)。実態 を見てみよう。

サービス提供事業者:どのような組織・法人がこのサービ スを提供しているかは、株式会社(39.7%)、社会福祉法 人(36.7%)、医療法人(14.6%)であり(カッコ内が割 合)、株式会社と社会福祉法人が拮抗している(厚生労働 省,2016)。2年前の調査(厚生労働省,2014)では株式

会社が48%とトップであったことと比較すると、社会福

祉法人のシェアが伸びていることがわかる。

(4)

要介護度別分布:要介護1(22.0%)、2(24.4%)、3(19.5%)、

4 (19.5%)、5 (12.2%)であり、要介護1・2と要介護3・

4・5で分けあう形となっている(厚生労働省,2014)。

地域提供型、集合住宅型:定期巡回サービスには、地域の 自宅に居住する利用者に対して訪問する「地域型」とサー ビス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなどの特 定の集合住宅に提供する「集合住宅型」、さらに両者に提 供する「混合型」がある。内訳の変化を両年度で比べて順 に 並 べ る と(平 成25年 度→27年 度)、「地 域 型」61.2%

→43.5%、「集 合 住 宅 型」16.4%→33.5%、「混 合 型」

17.8%→23.0%である(厚生労働省,2016)(厚生労働省,

2014)。「地域型」が減少し、「集合住宅型」が増えている。

3. 調査デザイン

調査デザインは、以下のとおりである。

1) 調査対象

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を提供している 4事業所を2015年12月〜2016年3月に訪問し、以下の条 件に該当する介護職員・サービス担当責任者12名とイン タビューを行なった。

① 高齢者福祉の現場体験が3年以上あること

② 「定期巡回サービス」に1年以上従事していること

③  施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設)」「訪 問介護」のどちらかの経験があること

2) 調査方法

インタビュー・フローを設定して、自由に話していただ く半構造的インタビューとした。インタビュー形式は1

1または1対多であった。インタビュー・フローは以下の

とおりである。

①  「施設のケア」の特徴について、何でも結構ですので 自由にお話ください

②  「定期巡回サービス」の特徴について「指定訪問介護」

を意識しながら自由にお話ください

3) 分析方法

インタビューは許可を得てICレコーダーに録音した。

テープ起こしをし、絶えざる比較法(メリアム,2004)

によって分析した。絶えざる比較法はグランデッド・セオ リーを発展させるための手段として、グレイザーとストラ ウスによって開発されたものであり、データに密着して テーマ軸に沿って分析するなどの基本的特徴はグランデッ ド・セオリーと共通している。グランデッド・セオリーは 対象者へのソーシャルワーク的介入による変容の過程を分 析するのに適している。本研究では「施設」「訪問介護」

「定期巡回サービス」の特徴の違いを明確にすることを目 的としているため、絶えざる比較法の分析手法を採用した。

分析にあたっては客観性を担保するため、複数人で分析 を行ない、「特徴は何か」という分析軸を立てて概念を抽 出し、既出の概念と比較しながら新しい概念を生成して いった。さらに、概念間の関係からカテゴリーを生成し た。

4. 調 査 結 果

「施設」「訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看 護」についての分析結果を、図1、図2、図3で示し、ス トリーラインを記述する。図の中で太字はカテゴリーであ り、「・」で示したものが概念である。ストリーラインで は、下線が概念であり、〈〉内がカテゴリーである。

1) 「施設」の特徴

現在、特別養護老人ホームなどの施設では2002年以降 ユニットケアが導入され、普通の生活に立脚し、職員との なじみの関係に重きをおいたケアによって、その質は大幅 に改善されている。語られている「施設」の特徴は、ユ ニットケアが幅広く導入される以前のケアに関するもので あると思われるので、予め断っておく。

〈職員ペースの分刻み流れ作業〉カテゴリー

施設で行われていたケアは分刻みの流れ作業であり、

「今日は排泄介助担当」と決められれば一日中排泄介助を し、入浴介助でも、服を脱がせる・体を洗う・湯をかけ る・拭く・服を着せる、というプロセス毎の担当者が決め られて、決まった事を繰り返し行っていた。これらは分刻 みの流れ作業として職員のペースで進められ、「早く行な うことが優秀な介護者である」という価値観が蔓延してい た。よって、座って高齢者と会話することはサボリと見做 される風土があった。

図1 施設のケア

(5)

松岡洋子

〈生活・歴史が見えない〉

施設や病院では、その人の在宅での生活が見えず、その 方が生きてきた歴史も見えない。生活というものがないの で、何ができなくて何ができるかという能力も見えない。

また、管理者は事務室に籠って現場に降りてこないので、

現場職員にはご利用者の生活や歴史が見えていたとしても 変革がなされることはない。

〈主役は誰?〉

施設には医師・看護師を頂点とする専門職ヒエラルキー があり、また職員のペースで仕事が進められるため、お年 寄り本人の決定がなされず、ご本人が外出するにしても

「許可証」が必要であり、本人が望むことをするとなると 非常に時間がかかる。

〈良くない環境〉

施設・病院には四季がなく、家族も来ない。

〈お年寄りの遠慮と職員の罪悪感〉

施設に暮らすおとりよりは「家に帰りたい」と思いなが ら暮らし、何事にも遠慮しながら気を遣って暮らしてい る。一方、職員はそうしたお年寄りの気持ちを知りつつ、

専門職ヒエラルキーの中でお年寄りに嘘を言ってだましだ ましケアをするしかなく、「申し訳ない」と思いつつ仕事 をしている。よって、仕事を通しての喜びがなく、働き甲 斐もなくて辞めていく。今こうして在宅の高齢者の暮らし を支える仕事をしているのは「施設時代の罪滅ぼし」なの である。

施設の良い面としては、「基本的衣食住の保障」「家庭崩 壊の防止」などが、施設の負の側面を述べる前の前置きと して少し話されたのみである。Lawtonが言う「受動的安 らぎ」概念は語られなかった。

2) 「指定訪問介護」の特徴

〈生活援助が中心〉

訪問介護では、洗濯・掃除などの生活援助が中心である ため45分〜1時間を基本とするプランが立てられる。よっ て、時間的には比較的ゆとりがある。

〈プランが固定的〉

ケアケアマネジャーは月1回利用者を訪問するが、この 頻度では微妙な変化を捉えることができない。プランは固 定的で、6ヶ月〜1年変えることができない。

〈ケアマネに服従〉

介護保険が導入された頃、ケアマネは「えらい先生」で あった。ケアマネはケアプランを立ててサービス提供事業 所につないでいくので「ケアマネに嫌われたら最後」とい う雰囲気があり何も言えなかった。

〈専門性が活かされず職員が育たない〉

掃除・洗濯・買物などの生活援助中心のサービスでは、

身体介護を基盤とした専門性の高いサービスを提供する場 が少なく、専門教育を受けてきた職員の知識が活かされ ず、経験や技能も蓄積されずに専門性が育たない。訪問介 護は今後は「手作り料理を食べたい・食べさせたい」とい うニーズに対応するサービスになっていくだろう。

3) 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 これまでに言われてきた特徴…

〈相手の生活圏にお邪魔し生活の全体が見える〉

施設に利用者を迎えるのではなく、相手の生活圏にお邪 魔するサービスであり、しかも一日複数回訪問するので生 活の全体が見えてくる。午前はテレビを見ている、ソファ で寝ている、庭の草むしりをしているなど、その人の能力 も見えてくる。これによって、一人ひとりの生活や歴史を 踏まえたケアが可能となる。

図3 定期巡回・随時対応型訪問介護看護のケア 図2 指定訪問介護のケア

(6)

〈ピンポイントのサービスで臨機応変〉

服薬確認、排せつ介助など、その時に必要なケアをピン ポイント的に提供するものであり、微妙な変化にもすぐに 気付いて臨機応変に対応できケアマネにも連絡してプラン を柔軟に変えることができる。

〈こまめな訪問で確認&安心〉

滞在時間は短くとも「お昼にまた来ますね」と言うと安 心していただける。一日複数回の訪問で安否確認ができ、

徘徊されるようになってもどこに行っているかわかるので 特に効果的である。

未来への示唆…

〈介護中心に生活の全体を支える〉

訪問介護では生活援助が中心であるが、定期巡回サービ スでは命の営みを支える介護(排泄、入浴、食事)が核と なる。専門性の高いケア提供をすると同時に、ゴミ出しか ら通院介助まで「生活の全体を支える」には当然という意 識で支援している。

〈3年の成果と確信〉

初期には「短時間でできるのか?」という疑問があり、

「シンドイ」という声も聞こえた。しかし、虚弱化してい くご利用者を見ていて複数回訪問でないと支えきれないこ とがわかってきた。施設で可能なことを地域でも可能にす るためには、複数回訪問は当然という意識に変わってき た。そこで、30分訪問でやり切る工夫をするようになっ た。清拭と入浴の組み合わせ、家電、コンビニ宅配・コン ビニ食材の活用などありとあらゆる資源を活用する。ICT を積極的に活用し、訪問前にしっかりと準備して玄関を叩 くようにもなった。

随時コールのあった翌日には訪問して、その理由をアセ スメントして予防につなげるなど、予防の領域にも進んで いる。

〈生活の流れ全体が逐一わかるチームアプローチの中心〉

毎日複数回訪問するため変化のキャッチが早く、長期変 化も捉えており、情報の中枢にいるという優位性がある。

医者や看護師は利用者の日常生活情報に触れることができ ないので、価値ある情報を提供し、情報共有の核・チーム アプローチの中心にいる。

〈地域を巻き込む〉

利用者の状況を説明して近隣にも見守りや通報などのイ ンフォーマルな支援を依頼したり、認知症セミナーを開催 して啓蒙したり、地域がその人の存在を認めている風土を 作り上げる。「いずれは私も」という当事者意識を醸成す る。家族・友人にも無理のない範囲で手伝ってもらい、イ ンフォーマルケアをつないでいく。

結果として…

〈ご利用者のQOL向上〉

訪問の度に起こして生活リズムを作るなどの定期的で自 立支援につながるケアができるのでQOL向上に効果であ る。また、その人らしく「自宅でくつろいでいる」暮らし を安全に配慮しながら心の豊かさを支えることができてい る。

〈働くことが楽しい&キャリアアップ〉

専門性がより高い身体介護中心のサービスであるところ から、働き甲斐を感じつつキャリアアップを図ることがで き離職率が低い。男子職員の生活スキルも高まり、育メン 男子が活躍する職場環境が育成されている。

5. 考察と提言

「施設」についての評価がネガティブ側面のものが中心 であった。現在、施設ケアについてもユニットケアが導入 されるなど、利用者主体で普通の暮らしに基盤を置いたも のに改善されてきており、状況は変化している。施設に対 する評価がこのように厳しいものになった理由として、現 在、定期巡回・随時対応型サービスなどの地域密着型サー ビスに従事する職員が、施設ケアに限界を感じて新しい在 宅ケアに挑戦している側面を挙げることができる。そもそ も定期巡回サービスの趣旨は「施設のケアをそのまま地域 へ」というものであった。調査を深めていく必要がある。

一方、定期巡回サービスが始まって3年がたった成果も 見られ、未来への示唆を得るにふさわしいカテゴリーが抽 出された。

調査結果を受けて、未来への示唆という視点で定期巡 回・随時対応型訪問介護看護の今後の発展の中軸を整理す る。

① 身体介護を中心とする専門性

これまで自宅で暮らす高齢者には「指定訪問介護」が提 供され、45分以上の長時間滞在を基本として週に2回〜3 回の訪問がいわば定形であった。その内容は生活援助(掃 除、洗濯、買物)が中心である。利用者の視点からいえ ば、同居家族が身体介護の大部分を担っているからこそ成 り立つサービスであり、同時に家族は介護に疲れて本来の 愛情を喪失して心にもない暴言を吐くなど虐待の温床にさ えなっている。一方、提供者の視点からは、生活援助中心 のサービスでは専門性を要求されることなく、介護福祉士 などの国家資格を取得した職員がより経験値を高めていく ような土壌が形成されてこなかった。

定期巡回サービスでは、身体介護を中心に必要なサービ スをピンポイント的に届け、変化をキャッチして即対応す るなど、介護福祉士としての本来の専門性を生かしたサー ビス提供が可能となる。これは、働き甲斐や専門職として

(7)

松岡洋子 のキャリアアップにもつながるものである。

② 生活援助を統合的に付加して「生活の全体を支える」

また、定期巡回サービスは包括報酬であるため、生活援 助をどの範囲まで行うかが議論の対象になりつつある。し かし、定期巡回サービスは「施設で可能なことを、地域で も可能にしよう」という理念に基づくものであり、各事業 者では「ゴミ出しから通院介助まで行って当然」「私たち は生活全体を支えている」という言葉が聞かれた。生活援 助部分を有料サービスにする、地域のボランタリー組織に 委託するなど手法は様々であるが、生活全体をホリス ティックに捉えることの重要性を指摘する声が多かった。

生活援助を統合的に提供するのか、分断していくのかは重 要なテーマであり、今後議論される必要がある。

③ 最期までを支える、短時間巡回型訪問の可能性 短時間巡回型訪問ついては、初期のころは多くの職員か ら「短時間で何ができるのか」「シンドイ」という声が聞 かれた。しかし、利用者の虚弱化のプロセスを見て「週に 数回の訪問では支えられない。短時間巡回型でなければ」

というリアリティを伴う評価が内発的に沸いてくるように なった。

これを踏まえて、「30分訪問で可能なこと」を工夫する ようになった。職員によるICTの活用や、利用者宅での 家電の活用、スーパーやコンビニの宅配の活用、コンビニ の食材の利用など、民間企業のサービスも総動員し工夫し て暮らしを支えようとする姿勢に、定期巡回サービスの大 きな可能性がある。事業所を超えて情報交換して、家族が なく独居でも短時間巡回型訪問で最期までの生活を支える ことができるシステムを構築する必要がある。

④ 情報の核はチームアプローチの中心

一日数回、毎日訪問することで「生活が見えてくる」定 期巡回サービスでは、時々刻々変化する高齢者の様子も把 握でき即刻の対応も可能である(もちろん、ケアマネ ジャーへの相談・報告は必須である)。

定期巡回サービスが始まる以前には、時々刻々変化する 在宅高齢者の変化をいったい誰が把握していたのだろう か、と思うほどに、指定訪問介護における変化状況の把握 は低位であったことが判明する形になっている。

地域包括ケアでは、医療・看護・介護・リハビリの連携 が骨格に位置付けられている。日々の変化に臨機応変に対 応できる連携体制が重要であり、それ以上に刻々変化する 状況を捉え、わかりやすく伝える拠点にこの定期巡回サー ビスがあることを再認識する必要がある。情報の核にいる ということは、チームアプローチの中心にいるということ である。

⑤ 地域を巻き込みインフォーマル資源をつなぐ

定期巡回サービスを提供するほとんどの事業者が、イン

フォーマルなケアの重要性を指摘した。「施設のケアを地 域で展開する」ためには、定期巡回サービスの職員のみで は不十分であり、家族・友人の近隣の方に見守りや外出時 の通報の協力を依頼することで地域のきずなを再構築する ことも可能である。まさに、介護を通した地域づくりであ る。地域包括支援センターがあり、地域コーディネーター の制度も作られようとしているが、介護保険の各サービス 提供を通じて地域づくりを進め、ささやかな絆を束ねてい くことがまさに「弱い絆の強さ(strength of week tie)」

であり、地域での太く強い絆づくりにつながるのではない だろうか。

定期巡回サービスは、毎日・一日複数回訪問するサービ スであるので、地域を巻き込みインフォーマル資源をつな ぐことのできる可能性を秘めたサービスである。

「身体介護を中心とする専門性」「生活援助を統合的に付 加して生活の全体を支える」「最期までを支える、短時間 巡回型訪問の可能性」「情報の核はチームアプローチの中 心」「地域を巻き込みインフォーマル資源をつなぐ」とい うキーワードが、定期巡回サービスを通して未来の在宅ケ アを切り拓いていく要素として浮かび上がった。このサー ビスの浸透には時間がかかるであろう。しかし、「地域包 括ケア」の基盤サービスである以上、急激な普及よりも着 実な浸透を目指して、誠実な事業者、ケアマネジャー、他 の専門職たちと地域住民とがともに育て上げていくことが 重要ではないだろうか。

謝   辞

この調査研究は、東京家政大学生活科学研究所の「総合 研究プロジェクト 温故知新」の助成を受けて行われたも のです。記して感謝の意を伝えます。

文   献

1)厚生労働省:「平成24年度介護保険報酬改訂の効果検証及び 調査研究に係る調査(平成25年度調査)」(2014).

2)厚生労働省:「定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所数

(平成26年8月末)」,http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/

bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/dl/jissi-h2608.

pdf

3)厚生労働省:「平成27年度 厚生労働省老人保健健康増進等事 業 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の実態と効率的な サービス提供のあり方に関する調査事業」(2016年3月).

4) Lawton, M.P.: The Relative Impact of Congregate and Tra- ditional Housing Housing on Elderly Tenants. The Geron- tologist, 16(3), 237–242(1976).

5)松岡洋子:デンマークの高齢者福祉と地域居住.新評論

(2005).

6)松岡洋子:エイジング・イン・プレイスと高齢者住宅.新評

(8)

論(2011).

7) 松岡洋子:「受動的安らぎ」か?「自立的緊張」か?〜施設 なき時代の地域ケア(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)

の成功要因・停滞要因〜.平成26年温故知新プロジェクト研

究報告書,生活科学研究所(平成27年3月).

8) S. B.メリアム著,堀 薫夫・久保真人・成島美弥訳:質的

調査法入門.ミネルヴァ書房(2004).

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