「受動的安らぎ」か?「自立的緊張」か? : 施設な き時代の地域ケア(定期巡回・随時対応型訪問介護 看護)の成功要因・停滞要因 (温故知新プロジェク ト)
著者 松岡 洋子
雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告
巻 38
ページ 99‑105
発行年 2015‑07
出版者 東京家政大学生活科学研究所
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009977/
《温故知新プロジェクト》
「受動的安らぎ」か?「自立的緊張」か?
〜施設なき時代の地域ケア(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)の 成功要因・停滞要因〜
松 岡 洋 子
*Passive Comfort or Independent Tension ?
Elements for Success of 24 Hour Community-Based Care in the Age without Institutions
Yoko MATSUOKA
1. 背景と目的 1) 背景
高齢者の自立的環境を守りつつ、その人らしい最期まで の暮らしを支える福祉施策は、高齢化が急速に進展しつつ ある先進諸国共通の喫緊課題である。施設については 1960年代からTownsend(イギリスの社会学者)やGof- man(イギリス)によって批判がなされたにもかかわら ず、戦後の経済成長を背景に増え続けた。しかし施設の時 代はオイルショックを契機に終焉し、オルタナティブを模 索する時代を経て「住み慣れた地域でその人らしく最期ま で」を目指す「エイジング・イン・プレイス(地域居住)」
の時代が到来している(松岡,2011)。
「エイジング・イン・プレイス」は概念であり、実践方 法については「住まいとケアの分離」理論がある。施設に パッケージされた「(バリアフリーの)住まい機能」と
「(24時間の)ケア機能」を分離して、地域に住む人々に よって共有できるようにする方法である。この理論を世界 に先駆けて実践したのはデンマークであり、「住まい機能」
は「高齢者住宅」、「ケア機能」は「在宅24時間ケア」と して発展していった(松岡,2005)。オランダにおいても
「住まいとケアの分離」が図られ、現在、高齢者住宅と24 時間在宅ケアが地域において展開されている。イギリスに おいても同様である(松岡,2011)。
日本においては、上記の文脈における「住まい」はサー ビス付き高齢者向け住宅(以下、サ付き住宅と略す)とし て制度化され(2012年10月より登録開始)、「ケア」は定 期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下定期巡回サービ ス、定期巡回Sと略す)として制度化された(2012年4 月)。
2) 目的
本論文では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護に焦点 を当て、以下の2点を明らかにすることを目的とする。
(1) 特定の集合住宅にケア提供している「集合住宅型」
(受動的安らぎ)と地域の自宅に暮らす「地域提供 型」(自立的緊張)におけるケアの質の違いを明ら かにする。
(2) そのために、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の 実態を踏まえつつ、事業者の意識も含めて事業発展 要因の要素を抽出する。
本研究は2年継続の研究であり、本年は特に(2)につ
いて明らかにする。制度が始まって間もない介護保険事業 であり、事業に対する価値観や成功要因もさまざまである ので、これらを明らかにすることが重要である。
2. 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の実態(他の調査 より)
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、日中・夜間を通 じて、訪問介護と看護の両方を提供し、定期巡回と利用者 からのコールに対しての随時対応(訪問を含む)を行う サービスである。2012年4月に創設され、平成26年3月 現在、196保険者(全保険者1,580)、434事業者、利用者
6,792人と徐々に広がりつつある。しかしながら、第5期
介護保険では300保険者が計画されており、達成率は 65%に満たず普及は十分とは言えない状況である。
「平成24年度介護保険報酬改訂の効果検証及び調査研究 に係る調査(平成25年度調査)」(厚生労働省)を参考に、
本研究と関連の深い点について概要をまとめる。これは、
平成25年6月時点での299事業所を対象にした悉皆調査 であり、152事業所より有効回答を得ている(有効回答率 50.8%)。
要介護度別分布:利用者の要介護度別分布は、要介護1
*東京家政大学(Tokyo Kasei University)
松岡洋子
(22.0%)、2(24.4%)、3(19.5%)、4(19.5%)、5(12.2%)
であり(カッコ内が割合)、要介護1・2で46%を超えて いる。当初は重度者に適したサービスであることが予測さ れたが、服薬確認や認知症見守りなど、頻回訪問が軽度者 にも有効であることが明らかとなっている。
地域提供型、集合住宅型:定期巡回サービスには、地域の 自宅に居住する利用者に対して訪問する「地域提供型」と サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなど の特定の集合住宅に提供する「集合住宅型」、さらに両者 に提供する「地域+集住型」がある。内訳は順に61.2%、
16.4%、17.8%であり、地域提供型が6割以上を占めてい る。「集合住宅型」の今後の地域展開意向では「地域展開 の予定はない」12.0%であり、今後の地域展開意向のある 事業者が多いことも明らかとなった。
事業所の法人種別:事業所の法人種別では、「営利法人」
48.0%、「社 会 福 祉 法 人」30.9%、「医 療 法 人」12.5%、
「NPO法人」2.6%であり、約半分を営利法人が占めてい る。とくに、「集合住宅型」では営利法人52.0%であり、
割合がやや高い。
3. 調査デザイン 1) 情報収集法・分析法
本調査では、目的を達成するために定期巡回サービス事 業所を訪問して、以下の点についてインタビューを行っ た。インタビュイーは管理者を中心に計画作成責任者以上 として、次のようなインタビューフローを用意して半構造 的インタビューで自由に話していただいた。
(1) 定期巡回サービスを提供しての感想・評価(良い評 価、悪い評価、何でもご自由に)
(2) 定期巡回サービスの位置づけとビジョン(組織全体・
訪問系サービスの中での位置づけ、何でも結構です)
分析には「絶えざる比較法(メリアム、2004)」を用い た。許可を得たうえでインタビューを録音し、フィール ド・ノーツをとり、インタビューの中で気づいた点などを メモして分析の対象とした。「事業促進のポイント」「事業 阻害のポイント」というテーマを設定して要素を抽出した。
2)調査対象
定期巡回サービス事業者は平成26年3月時点で434事 業所が指定を受けている。本研究では、事業の進展度合い に多様性を持たせて実態を探るために、保険者に焦点をあ ててできるだけその保険者内の事業所のすべてを訪問して 情報収集することとした。
厚生労働省発表による「定期巡回・随時対応型訪問介護 看護事業所数」(インターネット)のリストから公募指定 を行っている保険者を絞り込み、事業所数が10前後の保
険者を選んだ。次に、厚生労働省がインターネットで開示 しているリストに従って事業所に連絡をとり、インタ ビューの依頼をし、了解の得られた事業所を訪問した。訪 問先とその概要は表1のとおり、3保険者・11事業所であ る(表1)。
4. 訪問事業者の実態
各事業所における定期巡回サービスの取組みを、保険者 に分けて記述する(表1参照)。
1) 福岡県A市
人口150万人の政令指定都市。市内は7地区に分割され ており、平成24年4月エリア公募指定した(5事業所、2 地区で事業者不在)事業者より毎月利用者報告を義務づけ 普及促進を呼び掛けている。
日常生活圏域(39圏域)を平成25年度より57圏域に細 分し、介護保険第6期計画では日常生活圏域に小規模多機 能型居宅介護(以下、小規模多機能と略す)を配置する予 定である。これは、グループホームは多いが、小規模多機 能の整備が進まない現状へのテコ入れである。
(1) NPO法人F協会
(i) 組織概要
1999年設立の在宅介護系NPO法人で、市内に4拠点を 持つ。とくに訪問介護では市内2拠点で400名弱の利用者 があり、障害者支援も80名を超える。スタッフは正規職 員39名のほかに、登録ヘルパー80名を抱える。
この2拠点に加えて、通所介護併設の高齢者住宅があ り、市内計4拠点で市民目線のサービスを提供している。
ボランティア事業部もあり、主として囲碁サロン・書道教 室・お茶会・健康麻雀などの教室活動を展開して根強い人 気がある。地元にしっかりと根付いたNPO法人である。
(ii) 定期巡回サービスの特徴
平成26年11月時点で利用者は15名。1日平均訪問回数 は、27.6回である。
平成26年12月に第4回介護・医療連携会議推進会議に 参加する機会を得た。市役所担当者、連携している訪問看 護スタッフ、地域包括支援センター、特養ホーム、民生委 員などの参加を得て看取り事例の発表など、情緒面への深 い配慮のある連携とサービス提供の実態が話されていた。
医療依存度の高い人、インスリン注射、病院からの退院 時に有効なサービスであり、本人はもとより家族の満足度 が非常に高い。問題点としては、朝夕の利用集中、スタッ フ不足などが挙げられた。経管栄養の人も2名受け入れて いるが、負担が非常に大きく、医療依存度の高い人には訪 問看護との連携が重要であり、経営的には課題がある。重
表1 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の概要(保険者、事業所別) 福岡県A市熊本県B市兵庫県C市 人口:150万人人口:75万人人口:150万人 行政区:7地区、日常生活圏域(57)行政区:5地区、日常生活圏域(27)行政区:9地区、日常生活圏域(78) 指定:エリア公募指定(平成24年4月5事業所、7地区中5地区)指定:公募指定(平成25年4月5事業所)指定:エリア公募指定(平成25年1月5事業所、平成26年1月5事業所追 加) 法人名NPO法人F協会N株式会社M株式会社FS医療法人SM医療法人SJ医療法人SK株式会社K株式会社R社会福祉法人H社会福祉法人D社会福祉法人 組織の特徴
・ 1999年設立。 訪問介護で実 績のあるNPO 法人。 ・ ボランティア 事業も行う。
・ 建築関連会社 のサ付き住宅 に併設。
・ 小規模多機能 の実績もあり 寮転換有料老 人ホーム。 ・ 定期巡回Sを 広げたい。そ の受け皿とし ての有料老人 ホーム。
・ 2014年病院・ 老健・有料老 人ホーム・デ イケア・訪問 系の総合医療 施設開設。
・ 病院のほか老 健、住宅型有 料老人ホーム 運営。
・ デイケアない 時代から通所 リハ。在宅ケ アにも注力。 ・ 訪問介護300 人、訪問看護 100人。地域か らの信頼厚い。
・ 在宅ケア大手 の支社。 ・ 訪問介護、訪 問看護ともに 100人超。
・ 市内5地区で訪 問事業展開。 他市ではリハ、 GHも。 ・ 一拠点で訪問 介護100人、 訪問看護70 人、居宅介護 50人。
・ 100年の歴史の 社会福祉法人。 養護老人ホー ム、特養ホー ム。 ・ 訪問介護では 200人の実績。
・ 3拠点で、特 養・小規模多 機能・訪問介 護。 ・ 訪問介護150 人の実績(1拠 点)。
・ 医療生協とと もに歩む社会 福祉法人。 ・ 2007年小規模 多機能、SS、 高齢者住宅等 の複合施設建 設。
定 期 巡 回 サ ー ビ ス 連携型/一体型連携型一体型一体型一体型連携型連携型一体型一体型連携型一体型連携型 利用者 (地域/住宅)15人/0人3人/27人18人/40人15人/0人0人/4人2人33人10人 (別地区でも10人)6人6人2人 スタッフ5人(訪問介護全 体では24、登録 H92)
27人(定期専任 7、訪介専任3、 兼務17)
36人(看護師6、 介護士25、H5)全体(常勤介護 7、非常勤介護6、 看護師7)
50人(常勤介護 8、登録H40、ケ アマネ14)
全体(常勤5、登 録H20、看護師 3人、ケアマネ3)
14人(介護7、 看護3、常勤6)11人(専任6、 夜間対応6)全体(常勤10、 非常勤17、看護 師3)
全体(サ責5、常 勤H2、登録 H22) 評価 ◎強く期待 ○期待 △期待薄い
◎看取り例も多 く今後増やした い。
△住宅にも不向。 地域展開困難。◎ビジネスモデ ル確立目指し、 定期巡回S拡大。
○施設から在宅 へ、を促すサー ビス。
○有老ホームへ の(86)ケア提 供。地域展開意 向有。
△在宅継続安定 までの「つなぎ」 の位置づけ。
◎ADL改善者も あり。○地域を施設の ようにできる サービス。
△滞留できず手 厚いケアにつな がらない危惧。
◎「今後の在宅 ケアの柱」地域 に広めたい。
△広げたいが、 サ責は主婦が多 く拡大が難しい。 特徴・実態
・ 訪問介護経験、 地域の信頼を 基盤に進展。 ・ 医療ニーズ高 い人の利用多 い。 ・ 連携会議順調。 看取り事例増 えている。
・ サ付き住人28 人は訪問介護、 29人定期巡回 S。 ・ 訪問のない時 間が不安。 ・ 地域利用者は 褥瘡、PEG、 糖尿病。
・ 地域にも利用 者18人を拡大 ・ 住まい+地域 ケアの事業モ デル模索。
・ 退院患者、が んターミナル、 頻回訪問に良 い。 ・ 有料老人ホー ムあるが地域 提供が中心。 ・ ヘルパーは自 転車利用。 (15–20分)
・ 有老ホーム60 人に訪問介護、 4人に定期巡回 S。 ・ 地域開拓意向 あるもスタッ フ不足。
・ 利用者5人から 2人に減少。 ・ ターミナル、 退院後の在宅 定着。
・ 地域型で10㎞ 四方で移動困 難。 ・ ターミナルケ ア退院時の利 用多い。 ・ 要介護4–5が 増えている。
・ 認知症の服薬、 ターミナル、 オムツ交換。
・ 随時対応で安 心感が高い。 ・ ターミナルに 適す。家族介 護者の救い。 ・ 要介護4が3 人。
・ 90%が15分圏 内に。 ・ ターミナル、 服薬管理、短 時間ケアに最 適。 ・ 職員はやりが いを感じてい る。
・ 手術退院後、 ターミナル、 服薬確認に有 効。 ・ 独居認知症者 にも適す。 効果・発見
・ 家族の満足度 が高い。 ・ 連携会議も しっかり開催。
・ 訪問介護で気 づけなかった 事が発見でき 予防へ。 ・ 病院、老健か らが多い。
・ インシュリン 注射、服薬確 認などに有効。
・ 退院後落ち着 くまでに有効。 ・ 尿路感染など 頻回訪問に有 効
・ 「支えられてい る」実感が伝 わる。 ・ 夏場、室温管 理必要な場に も有効。
・ 生活パターン つかめ褥瘡改 善、ADL向上 ・ 医師「在宅不 可能」判断も 支えた。 ・ スタッフのス キル向上。
・ 暮らし全体が 見え、情報共 有できADL改 善 ・ 連携推進会議 開催し連携深 化 ・ 地域を施設の ようにできる S
・ 夜間もしっか り支えられる。・ 安心感を創造 (夜間も来てく れる) ・ 地域を施設の ようにしたい。
・ 一日の生活が わかり、能力・ 困難が見える。 ・ 6割が家事支援 利用。ないと 生活成り立た ない 課題・ 医療ニーズ高 い方にも適す るが負担大。
・ スキマ時間の 見守りが困難。・ 移動に30分み ているが、1日 5–6件が限度。
・ 競争厳しく、 人手不足で地 域展開ができ ない
・ 訪問時間集 中・不規則勤 務で人が集ま らない ・ ケアマネに「ま ずデイ」意識 あり。
・ 訪看の点数が 低い。区をま たげない。 ・ 家族・本人の 受け入れが条 件となる。
・ 赤字覚悟で開 始、課題多(減 算、家事なし) ・ 人手不足で月3 名以上の新規 とれない。
・ オペレーター など市の規制 が厳しい。
・ 「何でもしても らえる」CM の誤解。 ・ サ責は主婦が 多く夜勤不能。 *CM=ケアマネジャー、GH=グループホーム、SS=ショートステイ *凡例:CM=ケアマネジャー、GH=グループホーム、SS=ショートステイ
松岡洋子 度者・処置の多い方には1時間を超え「滞在型になってし まう」との声が聞かれた。
(2) N株式会社
(i) 組織概要
高級感あるサ付き住宅(自立19%、介護81%)に併設 する形で、定期巡回サービス(一体型)を提供している
(平成24年11月)。デイサービス(35名)も併設されてい る。1階にはクリニック(別法人)が入っており訪問看護 を含めて、24時間の医療の安心感を訴求している。
(ii) 定期巡回サービス
定期随時サービス利用者は住宅29人・地域3人である。
地域の利用者3人は、褥瘡、PEG利用、インスリン注射 など、頻回の訪問を必要とする利用者である。PEG利用 者は外出を好む人で、デイで管理して在宅生活を支えてい る。サ付き住宅住人28人は訪問介護を利用している。
定期巡回サービスではスキマの時間ができるため、特定 施設入居者生活介護のほうが適しているのではないかと考 えつつ、可能性を探るために地域にも定期巡回サービスを 押し広げている。定期巡回サービスの良さとしては、頻回 訪問(オムツ交換など)の良さを確認している。
(3) M株式会社
(i) 組織概要
民家改造の小規模多機能をF市における単独小規模多 機能1号として立ち上げ、のちにグループホームを併設し た。「利用者、スタッフ、地域の満足」を考えて運営した いという看護師・ケアマネの専門職経営者が、平成25年 4月に寮転換型の有料老人ホームを開設した。その際、定 期巡回サービスを導入したものである。定期巡回サービス で地域を支えたいという意欲があり、その受け皿として有 料老人ホームを位置づけ新しいモデルを模索している。地 域の定期巡回サービス利用者への配食サービス(1食350 円)を提供して総合的に支えることを目指している。
(ii) 定期巡回サービス
定期巡回サービスの利用者は有料老人ホームで40人、
地域で18人である。10人のユニットがワンフロアに2つ ずつ2階と3階にある。1階にはデイケア(30人)、リハ ビリクリニックを併設するなど、リハビリにも力を入れて いる。職員は看護師6人、介護職30人(介護福祉士25人、
ヘルパー5人)と介護福祉士率も高い。訪問介護はない。
「家に帰りたい!と望む人を在宅で支える」がモットー であり、今後は看取りにも力を入れていく予定である。地 域における介護は一般人から見えにくいものである。その 際、住まいは地域の介護を「見える」化してくれる。金融 機関からの信用も得て、住まいの保証がついた地域ケアモ
デルを定期巡回サービスで構築しようとしている。
(4) S医療法人
(i) 組織概要
東京・九州に拠点を持つ医療法人である。平成26年4 月、病院、健康診断センター、老健、デイケア(80)、住 宅型有料老人ホーム(100)、在宅介護までを含む総合医 療施設がオープンした。
(ii) 定期巡回サービスの特徴
利用者は15人で有料老人ホームでの利用はなく、今後 もその予定はない。あくまでも地域ケアをめざしており、
1ルート5〜6件の訪問を設定し、看護師は車で、介護士・
ヘルパーは自転車で巡回訪問している。退院後の選択肢と して在宅も視野に入れた総合性を特徴としている。
2) 熊本県B市
熊本県B市は、人口75万人の政令指定都市である。5 行政区あり、日常生活圏域は27である。定期巡回サービ スは平成24年11月より公募を開始し、翌4月5事業所に よって開始された。事業者意見交換会、ケアマネを対象と した説明会を開催して事業普及に努めてきた。
(1) S医療法人
(i) 組織概要
S医療法人では老健のほか住宅型有料老人ホーム(86)、
デイサービス2ヵ所を運営しており、有料老人ホームにお いて訪問介護と定期巡回サービスを提供している。
(ii) 定期巡回サービス
住宅型有料老人ホーム72人のうち、60人が訪問介護、
4人が定期巡回サービスを利用している(要介護1・3・
4)。訪問介護利用者は地域に50人いるが、地域での定期
巡回サービス利用者はいない。訪問介護事業所が多く「ス タッフ争奪」している状況であり、広げたいとの意向があ るが、戦略を練っているところである。
(2) SJ医療法人
(i) 組織概要
歴史ある整形外科、リハ病院を持つ医療法人でデイケア がない時代から通所リハを提供。古くより在宅ケアにも力 を入れ、訪問介護280人、訪問看護90人、居宅介護400 件の実績がある。
(ii) 定期巡回サービス
定期巡回サービスの利用者は5人から2人に減り、普及 の困難性を感じている。退院後の在宅への定着、ターミナ ルケアに有効であるが、継続利用には不向きで「在宅継続 へのつなぎ」の位置づけを行いつつある。
(3) 株式会社SK
(i) 組織概要
全国に広がる在宅ケア大手企業の九州支社で、全国でも 数少ない定期巡回サービス拠点である。訪問介護150人、
訪問看護90人、居宅介護90人の利用者がいる。
(ii) 定期巡回サービス
利用者は33人で40人近くまで伸びたが、訪問時、開口一
番「たいへんです」の言葉が出た。ターミナルや退院時の 利用が多く、利用者が10㎞四方に広がって移動距離が長い、
訪問時間が集中する、不規則勤務で人が集まらない、減算 がキツイなどの困難がある。知識不足で「在宅無理」と判 断する医師(実際には在宅生活を支えた)、「まずデイサー ビス!」という低意識のケアマネなど専門職の意識の低さも 悩みの種である。しかし、定期巡回サービスでは日常生活パ ターンがつかめるため、認知症の方が落ち着き、ADL改善、
褥瘡の改善にも有効である。こうした経験の中でスタッフの スキルが上がっていく。要介護4〜5も増えている。
3) 兵庫県C市
兵庫県C市(人口150万、政令指定都市)では、9行政 区がある。平成24年5月にニーズ調査・参入意向調査を 行ない、平成25年1月5事業所(2地区に1事業所)を指 定、平成26年1月5事業所(1地区1事業所)を追加指定 した。利用が進まない中、平成25年9月には大規模なシ ンポジウムを開催し、普及に努めている。事業者からの提 案による連絡協議会結成に市も協力するなど、前向きな努 力が続けられている。10事業所のうち5事業所を訪問した。
(1)K株式会社
(i) 組織概要
1995年創業の訪問看護・介護の会社であり、市内9地区 のうち5地区に事業所を持つ。他市にはグループホームやリ ハビリなどの提供もある。訪問した本部では訪問介護100 人、訪問看護70人、居宅介護50人の利用者実績であった。
(ii) 定期巡回サービス・一体型
平成25年1月に指定を受け、利用者は10人。他地区で の指定も受けている。短時間頻回に入れるので服薬管理に 適している。訪問介護だと1対1で終わってしまうが、定 期巡回サービスでは暮らしの全体が見えてきて情報量が多 くそれを看護も含めて共有でき、次のプランに役立てるこ とができる。ケアマネへのPRなど営業にも力を入れ、ケ アマネからリピートも発生している。
(2) R社会福祉法人
(i) 組織概要
100年の歴史を持つ老舗法人で、養護老人ホーム、特養
ホーム、デイサービスなどを運営。訪問介護でも200人の 利用者がいる。
(ii) 定期巡回サービス連携型
平成25年1月指定。利用者は6人(①1、②2、④3)。
新しいサービス開始の意欲、赤字覚悟でスタートしたが、
デイやショート利用の減算、家事援助までできない、食事 に時間をかけてほしい家族の希望など、困難が多い。ター ミナルケアには効果がある。短時間で頻回訪問できても、
滞留ができないので手厚いケアができない、と評価。需要 があってもスタッフ不足で、月3名以上は増やせない、と いう現状である。
(3) H社会福祉法人
(i) 組織概要
3地域で特養ホーム、小規模多機能・グループホーム、
訪問介護を展開する1998年設立の社会福祉法人である。
訪問介護拠点では130人の実績がある。
(ii) 定期巡回サービス・一体型
今後の地域ケアの柱になるサービスであると判断して、
平成26年3月より開始。ケアマネ対象の勉強会を月2回、
病院MSWへの営業、民生委員の集まりに参加するなど
の努力で9人の利用者がいる。ターミナル、服薬確認やオ
ムツ交換など5分10分で終了するケアに最適である。短 時間訪問でニーズに応えることができ、1地区でのシェア を上げられる点を魅力に感じている。90%の利用者は15分 圏内におり、今後増やしていきたいサービスと捉えている。
(4) D社会福祉法人
(i) 組織概要・連携型
医療生協とともに安心して住み続けられる地域づくりに
取り組む1990年来の社会福祉法人。特養ホーム、小規模
多機能施設、訪問介護などのサービスを提供している。1拠 点のみでも、訪問介護70人、居宅介護80人の実績がある。
(ii) 定期巡回サービス・連携型
平成26年3月より開始。利用者は2人。服薬管理、ター ミナルケアに適している。本人が決断すれば定期巡回サー ビスで在宅生活は支えられるが、決断しなければ家族が施 設と契約してしまう。訪問介護では点しか見えなかったが、
一日の生活全体が見え、生活の能力も見えてきた。ターミ ナルケアでは看護との連携で食事と服薬の関係や排泄リズ ムの把握など学ぶことが多い。広げたいが、サービス提供 責任者は主婦が多く、夜勤ができないなど限界がある。
5. 結果と考察
定期巡回サービスについてのインタビュー(半構造的)
を絶えざる比較法によって分析した結果は次のとおりであ
松岡洋子 る。訪問インタビュー内容、フィールド・ノーツ、インタ ビュー後の印象メモを分析対象として、「どのような実践 や主観が定期巡回サービスを発展させ成功に導くのか、逆 に衰退させていくのか」を軸として要素を抽出し、似通っ た要素を集めてできたグループをカテゴリーとした。表2
のような7つのカテゴリーが抽出できた(表2)。
1)「未来戦略」カテゴリー
「施設ケアに限界があることは、時代の趨勢を見ている と明らか」であり、「定期巡回サービスが訪問系の主軸に なる」という判断で事業を推進している事業所が成果を上 げていた。利用者の「在宅で暮らしたい」という声を日々 聞いており、「ニーズは確かにある」という確信が生まれ る。また、利用者やご家族から「つぶれそうになるところ を救ってもらった」「肩の荷がおりました」という感謝の 言葉にやりがいを感じ、次へとつながっている。未来戦略 の中での位置づけがあれば、2)のような困難を克服する 力も生まれる。
2)「困難への対処」カテゴリー
サービス提供していて感じるさまざまな困難より、多く
が「定期巡回サービスを地域で広げていくことは難しい」
と認識していた。施設とは異なり、利用者宅間の移動距離 が長い、利用者出入りが多く安定しない、包括報酬と減算、
決まった時間でのニーズ集中、スタッフ確保の難しさ、な どである。こうした困難に遭遇して、意欲喪失につながる 事業者と克服しようとする事業者がある。後者は、ミッショ ン性の認識やビジネス感覚で乗り越えようとしていた。
3)「専門職の低意識」カテゴリー
病院からの退院時に医師が「この方は在宅生活が絶対に 無理」と判断した人が在宅生活を継続でき、その結果に医 師が驚いた例が見られた。また、ケアマネには「限度額が 超えるので定期巡回サービスへ」と回してくるケースが多 く、意識が低い。専門職の低意識を嘆く声は多く、これを 克服しなければ壁を超えられないと気づき、定期巡回サー ビスの有効性や意義を伝えるための勉強会・研修会主催の 努力を継続していた。行政の協力は常にあるとは限らない。
4)「ミッション性」カテゴリー
利用者が少なく採算ベースに乗っていなくても、「安心 して住み続けられる地域を作っていきたい」という使命感
表2 定期巡回・随時対応型訪問介護看護「事業発展要素」の分析結果
カテゴリー 内 容
未来戦略 ・施設でケアするには、この先限界がある。
・訪問系は、定期巡回サービスが主軸になる。
・ニーズは確かにある。
・ご利用者(家族含む)の満足を感じている。
・(今はまだ利益を十分に生み出してないが)今後伸びていく将来性のある事業。
困難への対処 ・利用者が亡くなられたりして安定しない。
・ご利用者宅の移動が大変。
・包括報酬は厳しい。
・デイサービスやショートステイ利用の減算は経営面で厳しい。
・利用時間(モーニングケア、ナイトケア)の集中がある。
・スタッフ確保に苦労している(ニーズはあってもスタッフが確保できない)。
専門職の低意識 ・医療者は在宅生活の可能性について知らない。
・「限度額オーバー」を理由に依頼するケアマネが多く意識が低い。
ミッション性 ・安心して住み続けられる地域づくりのために頑張っている。
・今は採算に合わないが、サービス提供は続けていく。
・ケアマネの定期巡回サービスへの理解がない。
ビジネス感覚 ・ご利用者を増やすなど、利用者数が事業の成否を左右する。
・集合住宅への集住を、うまく生かしていきたい。
・関係専門職(ケアマネ、医療SW)を対象とした説明会などを積極的に開いた。
・良さを実感したケアマネからの紹介が始まっている。
専門性向上 ・看取りをすることで職員が成長する。
・適切なアセスメントをすれば深夜の訪問はコントロールできる。
・実際にADLが改善している。
・過剰なサービス提供せず、自立支援に努めるのは重要。
・利用者の生活が見える。能力が見える。
地域連携 ・医療介護連携推進会議は意義深い。
・医療・看護との連携が決め手。
にも似た思いが、事業者を突き動かしていた。「地域で暮 らす人々を支援するためには、私たちがやらなければ」と いう覚悟にも似た思いである。
5)「ビジネス感覚」カテゴリー
利用者が増えている事業所では、ビジネス感覚でビジョ ンを描き、普及のためのたゆまぬ営業努力をしていた。ケ アマネや医療ソーシャルワーカーを対象とした説明会を単 独で、あるいは市役所と合同で繰り返し開催する、事業所 を訪問して説明するなどである。利用者にも知られていな いので、チラシを制作して関連施設に置かせてもらうなど の工夫も見られた。一たびケアマネがその良さを知ると、
口コミ効果で広がる例もあった。
また、定期巡回サービスでビジネスモデル構築を目指す 挑戦、地域独占の可能性があるとの意識なども事業推進の 大いなる活力となっていた。
6)「専門性向上」カテゴリー
最も目立ったのが、「頻回訪問で生活全体が見える」「生 活パターンがわかる」「訪問介護では点しか見えなかった が面で見える」というものである。入ってくる情報が多 く、それを共有することで自立支援のケアプランに活かす ことができる。
ターミナルに最適であるという評価も多く、最初は不安 がっていた職員が看取りを経験することで「生きることを 支えるサービスである、生活を丸ごと支えるサービスであ る」ことに気づき、人間としての成長を経験していた。ま た、適切なアセスメントで昼間のケアをしっかりと行えば 深夜の訪問がコントロールできる、こまめなケアで褥瘡 が改善し、暮らし全体が見えるのでできることも見えてき てADLの改善にもつながる。こうした経験を通じて、ス タッフの力量がアップしていく。「できないことをしてあ げる」介護から「できることを増やす」自立支援へと質的 に変容していく例が見られた。
7)「地域連携」カテゴリー
医療介護地域連携推進会議は開催が義務づけられてお り、関係専門職や行政職員だけでなく地域住民も巻き込む ことが求められている。地域の中で日常的に離れて働く専 門職の連携のみならず、関係者すべてを巻き込んだ連携の あり方が模索されていた。
定期巡回サービスを発展・停滞させる要素が7つのカテ ゴリーとして抽出された。
定期巡回サービスは、建物内の廊下を移動する施設ケア とは異なり、道路を車や自転車を利用して地域に点在する
利用者宅を巡回訪問するものである。効率が悪く、負担も 大きい。デイサービスやショート利用による減算も厳し い。さらには、人材不足の問題や在宅ケアへのなじみのな さ、深夜勤務の厳しさなどがあることが明らかにされた。
また、「限度額が超えるので定期巡回サービスへ」と考え るケアマネの意識の低さ、さらには在宅ケアの可能性を知 らない医療者の意識なども困難要素として浮かび上がっ た。
しかし、こうした困難を克服しても普及に力を入れるの は、「地域で暮らし続けたい」と望む利用者ニーズに応え、
地域居住を支えたい、地域包括ケアを育てたいという使命 感にも似た思いがあるからである。また、「定期巡回サー ビスは地域包括ケアにおける主軸となる」という確信があ るからである。
こうしたプロセスで利用者を確実に増やしている事業所 は、ビジネスモデルの構築や地域独占を視野に入れて、ケ アマネの啓蒙を目的とした勉強会開催、市と協働して進め る研修会、関連組織への周知活動などを、戦略的に展開し ていた。
サービス提供を通じて確認できた多くの利点は、専門性 の向上へとつながるものである。今後は、利用者やその家 族、地域住人、専門職も含めた地域連携が求められるであ ろう。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、始まって3年が 経過する新しい地域密着サービスである。新しい時代を切 り拓くには、困難を乗り超えるミッション性やビジネス感 覚が必要であり、それによってこれまでにない専門性が向 上し、こうした新しいサービスを通じて地域連携も推進さ れる。今後の事業者の展開が地域包括ケアに及ぼす影響も 大きく、さらに継続してモニタリングしていく必要がある。
謝 辞
この調査研究は、東京家政大学生活科学研究所の「総合 研究プロジェクト温故知新」の助成を受けて行われたもの です。記して感謝の意を伝えます。
文 献
1)松岡洋子:デンマークの高齢者福祉と地域居住.新評論
(2005).
2)松岡洋子:エイジング・イン・プレイスと高齢者住宅.新評 論(2011).
3)厚生労働省:「定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所数
(平成26年8月末),http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/
bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/dl/jissi-h2608.
4) S. B.メリアム著,堀 薫夫,久保真人,成島美弥訳:質的
調査法入門.ミネルヴァ書房(2004).