「羊毛」「絹」「紙」自然繊維を使ったファイバー アートの作品への展開とワークショップ (温故知新 プロジェクト)
著者 岡本 恵
雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告
巻 40
ページ 61‑65
発行年 2017‑07
出版者 東京家政大学生活科学研究所
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010005/
《温故知新プロジェクト》
「羊毛」「絹」「紙」
自然繊維を使ったファイバーアートの作品への展開とワークショップ
岡 本 恵
*
1「Wool」 「Silk」 「Paper」
Natural Fiber Works and Work Shop for Children
Megumi OKAMOTO
1. 緒 言 1)目的
羊毛、絹、紙は古くから伝わってきた環境に優しい自然 繊維である。日本における地方の繊維産業の実態を探求す る。繊維の特徴を生かしながら自己の作品に展開する。ま た、子供へのワークショップを展開し、繊維に親しみ未来 の繊維産業の発展に役立てたい。
2)概要
平成26年度生活科学研究所温故知新プロジェクトにお いて「紬と紡ぎ、結城紬にみる手つむぎの特徴とファイ バーアートへの展開」という題目で結城紬のつむぎを中心 に研究した。またその特徴を生かし、ファイバーアートの 作品制作に応用した。地方の繊維業界の努力と衰退を目の 当たりにし、幼少期の実体験から、幼児に繊維に触れる経 験が未来の繊維産業への関心に繋がると考え、平成27年 度生活科学研究所自主研究として、幼児を対象とした「糸 つむぎ等による造形ワークショップの実践と教育的意義の 考察」と題し、ワークショップへと繋がる研究をした。幼 少期の楽しい体験を未来の繊維業界の発展に役立たせた い。本研究では羊毛、絹、紙と環境に優しい自然繊維に着 目し、それぞれの特徴を研究しながら作品制作をする。ま た、地域でどのように子供と関わっているのかを探りワー クショップを展開する。本研究は2年間のプロジェクトの 1年目の研究成果である。風土と密接に関係のあることは 結城紬の研究を通し理解したので、古くからある繊維産業 の地域、羊毛―岩手県、紙糸―岐阜県を調査した。
2. 羊毛・紙 1)羊毛
岩手県盛岡付近 平成28年8月下旬
日本の羊毛は英国から宣教師によって伝えられ、風土の 似ている岩手に根付いたとばかり思っていたが、現地調査
をし、風土のみならず国家戦略、軍事に影響しあっている ことに気付かされた。日清、日露戦争時に寒冷地を攻略す るための防寒着が出来ておらず、多くの犠牲者を出した。
そこで、国家は英国より羊を輸入し、日本の地域で試した
*1 東京家政大学(Tokyo Kasei University)
写真1 みちのくあかね会 盛岡
写真2 日本ホームスパン 花巻
岡本 恵 ところ、英国の風土に似て、湿気の少ない岩手の盛岡付近 で繁殖が成功した。手織り・手紡ぎは電気を必要としなく、
動力は人であり、東北人の粘り強い気質も合わせて盛岡の 産業に繋がった。しかしながら、第二次世界大戦では南を 攻めていたので、防寒着としての羊毛の需要はなくなり、
食糧難でもあったことから盛岡の羊は一気にいなくなっ た。現在でも当初の英国から輸入した織機を使用している 工房が少なくはない。木材を使用しているため、破損部は 地域の大工が修理し、受け継がれてきた。現在現地で飼育 されている羊は数少なく、海外からの輸入に頼っている。
2)紙糸 岐阜県美濃付近 平成28年10月下旬
テキスタイルの分類方法でnon-woven fabricとwoven
fabricがある。前者はフェルトや紙などで楮、三椏、雁皮
などの植物の繊維を絡め紙を製作する。後者は織布であ る。woven fabricとして結城紬を調査していたこともあ り、同じユネスコの無形文化遺産登録認定されたnon-wo-
ven fabricの本美濃紙に興味を持った。古くから産業が発
達するところには必ず水源がある。岐阜の河川は6つの水 系からなっている。木曽川水系の長良川を使っていた。現 在は製紙産業に代わり伝統工芸としての和紙を生産してい る。紙漉きは過酷な労働であった。冬場の仕事であった紙 漉きは冷たい川に入り繊維を洗い、カルシウムの多く入っ た漉き舟と呼ばれる紙漉きの桶に手を入れると手がむくみ 掌を開くことができなかったと以前、紙漉きをしていた方 が語っていた。
写真3 押し台
漉き上げた紙を脱水する道具 美濃
写真4 旧古田行三郎邸前からみた長良川 美濃
写真5 羊毛をすだれの上に敷きその上に洗剤水をかける
写真7 ナナイロテント
写真6 すだれと共に羊毛を巻きゴロゴロしながら圧縮させる
写真10 野菜スタンプ 写真9 縮絨ゴロゴロ
写真8 好きな色の羊毛を選びベース羊毛にのせ洗剤水をかける
写真11 野菜スタンプを押したテント
写真12 作ったテントと遊ぶ
写真13 ナナイロテント
岡本 恵 ワークショップ1:平成28年8月下旬 長野県東御市 梅野記念絵画館、長野アートチャレンジ・スケッチ大会で の野外における造形ワークショップで「七色テント」と題 し、武蔵野美術大学非常勤講師田中千賀子氏と企画し、本 学の学生3名、大学院生1名、本学元助手1名、の7名で 繊維を使用し、七色七種のテント空間をした。小学校就学 前の幼児、児童と保護者を中心に日常生活において当たり 前にある物の意味を知り、主体的に学ぶことを育てること を目指した。
繊維の特徴を観察しファイバーワーク制作につなげる。
また、子供たちに繊維の面白さを理解してもらうワーク ショップを展開する。
ワークショップ2:平成28年9月上旬 本学、本学にお いて、森のサロンの土曜日サロンで三歳児を中心に保護者 との共同作業である。幼児は保護者の顔を認識し、保護者 が楽しんでいることに興味を示すことが多い。これらのこ とから保護者も楽しめる企画を目指している。
森のサロンでの企画は3度目になる。幼児は新しいもの に長い間興味を惹きつけることが難しいと感じ、3つの企 画を同時に進めてみた。1件目は8月に行ったフェルトで のテント制作と同様であるが、はっきりとした色を好む傾 向がある幼児を意識して、カラフルな羊毛を使用した。柔 らかい羊毛を触り、好きなところに配置するなど幼児の好 みが見えた。もう1件は石に羊毛を巻きフェルトにしたも のに目をつけ、フェルトの動物を作る。目をつけることに より、石に羊毛をつけた物体は命を吹き込まれ、家に持ち 帰った時もこの作業を思い出していくことが目的であっ た。最後の1件は自宅から持って来ていただいた野菜を切 り、あらかじめ作っておいた布テントにスタンプをする。
自宅からワークショップへの期待を持たせ、保護者との会 話ができるのではないかという目的をたててみた。天候に も恵まれ、芝生の上でカラフルに出来上がったテントは幼 児が中に入ったりして当初の計画が成功した。
考察
自己の制作とワークショップという2つの内容の研究で ある。制作者として、ものを作る喜びを知ってもらい、地 域と連携して楽しく興味の持てるワークショップをするこ とにより、子供たちが育った時少しでも地域の産業に目を 制作展示:gallery FIND十条 平成28年11月中旬 と題し、
衣服という形態を意識した3点の制作である。自己と社会との対 話、自然との関わりを交差しながら生きる様子を表現した。古 くから伝わる繊維の特徴を他の繊維と合わせシワや歪みや膨ら みができる。新しい生地の可能性を見つけたい。
写真14 marvelous 80×80×160 cm
モヘアウール・キビソシルク 膠
写真15 eternal an apple 80×80×170 cm ウール・キビソシルク 羊毛・綿布・柿渋・膠
向けれるような役に立ちたいと願っている。次年度も「羊 毛」「絹」「紙」の自然繊維を使用したワークショップを継 続し、また自己制作を通して新しい布への制作に活用させ たい。
写真16 g 80×80×180 cm ウール・キビソシルク 膠・水溶性ビニロン・金箔