別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 ○甲 ・乙 第 2873 号 氏 名 井出 翔太郎
論文審査担当者
主査 教授 宮﨑 隆 副査 教授 槇 宏太郎
副査 教授 美島 健二
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Effect of Silane Coupling Treatment to Filler Surface on Color Stability of Resin
Composite」について、上記の主査1名、副査 2名が個別に審査を行った。
現在 Minimal interventionを基本とする修復処置に必要不可欠なコンポジットレジンで あ
るが、その着色の原因については、過去の研究ではマトリックスレジンやフィ ラーの種類、含 有量等の違いによる製品間の比較は多く行われてきたものの、フィラーの表面処理方法の有無 による比較はほとんど行われてなかった。本論文ではシランカップリング処理フィラー含有コ ンポジットレジン:SC(-)と未処理フィラー含有:SC(+)の2種類を用いて、シランカップリング 処理がコンポジットレジンの色調安定性及び表面性状に及ぼす影響を、経時的色調変化、表面 性状の分析、吸水量の結果か ら比較検した。サーマルサイクルを行った場合、ΔE値と Opacity、
表面粗さ、吸 水量のす べてで有意差 が認めら れ た。SC(-)はサーマ ル サイクルによ りマトリ ッ ク ス レ ジ ン と フ ィ ラ ー の 熱 膨 張 係 数 の 違 い か ら フ ィ ラ ー の 脱 落 及 び 両 者 の 不 完 全 な 結 合 の 劣 化から亀裂が生じ、この亀裂から吸水し、マトリックスレジン中に色素が拡散することで、表 面に加えて内部に色素が浸透し、その結果表面の色差 ΔEだけでなく不透明度を表す Opacity の値が増加したと考えられる。SC(+)においてはサーマルサイクル前後で ΔE 値及び吸水量の 値に有意差を認めたが、Opacityには変化が認めらなかった。ベースレジンとフィラーの結合 がコンポジットレジンの色調不安定性の原因の一つであることが明らかにな った。本研究より フ ィ ラ ー 表 面 へ の シ ラ ン カ ッ プ リ ン グ 処 理 は コ ン ポ ジ ッ ト レ ジ ン の 色 調 安 定 性 に 関 わ っ て い ることが示唆された
本論文の審査において、副査の槇委員及び美島委員から多くの質問があり、その一部とそれ に対する回答を以下に示す。
槇委員の質問と回答:
1. 今後さらに色調安定 性の良いコンポジットレジンを開発する場合にシランカップリング処理の改善点 について説明せよ。
(主査が記載)
今 回 の 研 究 に よ り シ ラ ン カ ッ プ リ ン グ 処 理 に よ る ベ ー ス レ ジ ン と フ ィ ラ ー と の 結 合 が コ ン ポジットレジンの色調安定性に影響を及ぼすと報告したが、シランカップリング処理は長期的 浸漬により加水分解することが認められている。従って、より長期の色調安定性に対してはシ ランカップリング剤の加水分解を抑制する必要がある。また今回は6%のシランカップリング 剤を用いたが、濃度による効果の差が考えられるため、有効な濃度を検討する必要がある。
美島委員の質問と回答:
1. シランカップリング処理のメカニズムについて
ま ず 無 機 フィ ラ ー の表面 に 吸 着 して い る 水分に よ っ て シラ ン カ ップリ ン グ 剤 γ-MPTS のメ トキシ基が加水分解されシラノール基(Si-OH)となる。そしてシランカップリング剤と無機 フ ィ ラ ー 表 面 の そ れ ぞ れ の シ ラ ノ ー ル 基 が 水 素 結 合 ま た は 脱 水 縮 合 を 起 こ し お 互 い が 結 合 す る。これによりシランカップリング剤がフィラーに化学的に結合する。フィラーは表面がシラ ン カ ッ プ リ ン グ 処 理 に よ っ て 疎 水 性 に 変 化 し た た め 疎 水 性 で あ る マ ト リ ッ ク ス レ ジ ン と の 馴 染みが改善される。γ-MPTS は有機官能基としてメタクリロイル基を有するため、マトリッ クスレジンと共重合を起こす。結果としてシランカップリング剤はマトリックスレジンとフィ ラーを結びつける。シランカップリング剤はSiO2を構成要素とするシリカフィラーに対し吸 着が起こりやすく、形成されるシロキサン結合が化学的に安定である。
両副査は上記の質問に対する回答の妥当性を確認した。
宮﨑委員からの質問と回答 :
1.口腔内では pH の変化が認められるが、pH とコンポジットレジンの着色の関係について
pH の低下はレジンの摩耗抵抗に影響を与えるとされている。またアルカリ 環境下では酸性 環境下と比較してコンポジットレジンの加水分解が促進され 、表面性状の微細構造を劣化させ る。アルカリ溶液の強い影響は加水分解の過程で OH イオンの相互作用に影響する。シラン カップリング剤の加水分解による劣化に加えて、OHイオンの過多はマトリックスレジンの加 水分解を引き起こす可能性がある。さらにアルカリ環境下ではフィラーとマトリックスレジン の剥離や、フィラーの脱落が認められ、結果として表面性状の劣化を引き起こし、コンポジッ トレジンの着色は増加する。
主査の宮﨑委員は両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張を さらに確認するために上記の質問を行ったところ明確かつ適切な回答が得られた。
以上の結果から本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。
(主査が記載)