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福田 誠氏 博士学位申請論文審査報告書

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Academic year: 2021

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2009 年 1 月 7 日 スポーツ科学研究科長 殿

福田 誠氏 博士学位申請論文審査報告書

福田 誠氏の学位申請論文を下記の審査委員会は、スポーツ科学研究科の委嘱をうけ審 査をしてきましたが、2008 年 12 月 19 日に審査を終了しましたので、ここにその結果をご 報告します。

1. 申請者氏名 福田 誠

2. 論文題名 発揮筋力の視覚フィードバックによる随意最大筋力増強のメカニズムに 関する研究

3. 本論文の構成と内容

本論文は第1章から第5章までの本論と文献から構成されている。

第1章:緒言と目的

身体運動の出来ばえは、骨格筋の発揮張力に大きく影響される。ゆえに、骨格筋の発 揮張力増大に関与する要因を明らかにすることは、競技力向上を目指すアスリートおよ びそのトレーニングに有用な知見を与えることができる。

従来、骨格筋の発揮張力を知るための方法の一つとして、最大随意収縮(MVC)にお ける筋力が測定されてきた。MVCにおける筋力は、筋横断面積(CSA)と正の相関関係 にあることが先行研究から示されている。しかしながら、同じCSAを有する被験者にお いてもMVCの筋力にばらつきが認められている。また、MVCにおける神経系の興奮レ ベルには個人間でばらつきが示されている。これらのことから、CSAあたりのMVCの 筋力の個人差に、神経系の興奮レベルが関与する可能性がある。一方、MVCの筋力は発 揮筋力を視覚フィードバックすること(VFB)により増強することが知られている。つ まり、VFB により MVCの筋力が増強されるならば、MVCにおいて神経系の興奮レベ ルの低い被験者ほど、VFBによる筋力増強の効果が高くなり、その結果、CSAあたりの 筋力が増強される可能性がある。また、Baltzopoulos et al. (1991)は、VFBによるMVC の筋力増加の要因として、被験者の動機や意欲の向上が MVC の筋力に関与することを 考察している。しかしながら、VFBによるMVCの筋力増強における大脳の活動ならび

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に筋活動レベルを調べた研究はない。

本学位論文は、VFBが、動機や意欲に関与する前頭前野から筋への運動指令を司る一 次運動野への神経伝達、M1から脊髄運動ニューロンにおける錐体細胞の興奮性、そして 脊髄運動ニューロンと筋における運動単位の動員様相のそれぞれの経路を観察し、VFB による筋力増大のメカニズムを明らかにすることを目的とした。

第 2 章:発揮筋力の視覚フィードバックによる等尺性最大筋力の変化と筋横断面積あた りの筋力との関係

CSAあたりのMVCのトルクとVFBによるトルク増強との関係を観察することにより、

CSAあたりのMVCのトルクにおける神経系の興奮レベルの影響を知ることができる。

そこで、若齢男性14名を対象に、肘関節屈曲筋力測定装置を用いて、VFBそしてVFB 無し(nVFB)による等尺性肘関節屈曲MVCを行った。VFB として、実験前 MVCに よるトルクを 1回測定し、その際の発揮トルクを目標トルクとしてオシロスコープに呈 示した。また、発揮トルクをリアルタイムに呈示した。被験者には、開始の合図ととも に全速全力でトルクを発揮し目標トルクを越えるように教示した。さらに、MRI法を用 いて肘関節屈曲筋群の CSA を測定し、CSA あたりの MVC のトルクと VFB における MVCのトルク変化との間の関係を観察した。その結果、VFBより発揮トルクは4.5%

有意に増加した。また、nVFBによる CSAあたりの MVCトルクとVFBによる MVC トルクの変化率との間には、有意な負の相関関係が示された。以上の結果から、MVCに おいて神経系の興奮レベルの低い被験者ほどCSAあたりのMVCのトルクが低いことが 示された。

第 3 章:発揮筋力の視覚フィードバックが等尺性最大筋力および神経・筋の活動に与え る影響

VFBをともなうMVCの筋力増強における神経系の興奮レベルには個人間でばらつき が認められる。また、肘関節屈曲 MVC における協働筋間では、筋活動レベルが異なる ことが示されている。しかしながら、VFBによるMVCの筋力増強における神経系の興 奮レベルおよび筋活動レベルは先行研究から明らかにされていない。そこで、若齢男性 27名を対象として実験を行った。測定課題および測定条件は第2章と同様とした。肘関 節屈曲筋群においてinterpolated twitch法で神経系の興奮レベル、そして筋電図法で上 腕二頭筋および腕橈骨筋の筋活動レベルをそれぞれ測定し、VFBによるMVCのトルク 増大とそれらとの関係を検討した。その結果、nVFBと比較してVFBによりMVCのト ルクが4%、神経系の興奮レベルが1%、そして腕橈骨筋の筋放電量が5%有意に増大し た。また、VFBにおける腕橈骨筋の筋放電量の変化率とMVCのトルクの変化率との間 には有意な正の相関が認められた。したがって、VFBによるMVCのトルクの増大が大 きな被験者ほど、腕橈骨筋の筋活動レベルの高まりが大きいことが明らかとなった。

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第4章:発揮筋力の視覚フィードバックをともなう等尺性最大筋力における前頭前野の 血流動態

VFBによるMVCの筋力増強の要因として、被験者の意欲や動機の向上が考察されて いる。意欲や動機は大脳の前頭前野が司る機能の一つである。しかしながら、VFBによ るMVCの筋力増強と前頭前野との関係は明らかにされていない。そこで、若齢男性11 名を対象として等尺性最大肘関節筋力発揮中に、多チャンネル近赤外分光装置により前 頭前野の血流動態を計測し、VFB によるトルクの増大との間の関係について検討した。

測定条件は第2章と同様とした。その結果、nVFBと比較してVFBにより、前頭前野の 活動が24%有意に増大した。また、VFBによる前頭前野活動の変化率とトルクの変化率 との間には、有意な正の相関関係が認められ、前頭前野活動のべき乗に比例して発揮ト ルクが増大した。これらの結果から、VFBによるトルクの増大には、前頭前野の活動が 関与することが明らかとなった。

第5章:総括論議

本研究で主に得られた知見として、VFBによるMVCで前頭前野の活動、肘屈曲筋群 の神経系の興奮レベル、腕橈骨筋の筋放電量、そして発揮トルクがnVFBと比較してそ れぞれ有意に増大した。また、CSAあたりのMVCのトルクが低い被験者ほど、VFBに よるトルク増強の効果は高いことが明らかとなった。これらの知見から、筋力増強のメ カニズムとして以下のことが考えられた。まず、VFBにより被験者の意欲や動機の高ま りに基づき前頭前野が活動し、筋への運動指令を司る一次運動野へ神経伝達したものと 考えられる。これにより、一次運動野から脊髄運動ニューロンにおける錐体細胞の興奮 性が高められたものと考えられる。次に、錐体細胞の興奮性増加は、運動単位の動員増 大を引き起こしたが、上腕二頭筋では筋活動レベルが増大しないものの、腕橈骨筋の筋 活動レベルはnVFBと比べ有意に増大した。その結果として、発揮トルクはnVFBと比 べてVFBにより有意に増強され、その増加率はCSAあたりのMVCの筋力が低い被験 者ほど大きいことが示された。

一方、VFBによるMVCの筋力増強における脳活動、神経系の興奮レベル、筋活動レ ベルのそれぞれを近赤外分光法(第3章)、interpolated twitch法(第2章)、そして 表面筋電図法(第2章)を用いて測定した。これらの測定指標におけるVFBによる増加 率は、前頭前野の活動において24%、神経系の興奮レベルにおいて1%、そして腕橈骨筋 の筋活動レベルにおいて5%であり、その程度に差が認められる。本研究第4章の結果か ら、VFBによるMVCにおいて前頭前野のべき乗に比例して発揮トルクが増大する関係 が認められた。即ち、VFBによるMVCの発揮トルクの増加率には頭打ちが示されるが、

前頭前野には頭打ちが見られず大幅に活動が増大する可能性がある。このため、VFBに よる神経系の興奮レベルおよび腕橈骨筋の筋放電量の増加率と比べて、前頭前野活動の

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増加率がより大きく示された可能性が示唆される。しかしながら、本研究では、筋への 運動指令を司る一次運動野、そして脊髄運動ニューロンプールにおける興奮性について は直接測定されていないため、その詳細については明らかではない。今後、こうした領 域を含めて測定を行い、VFBによる筋力増強との関係を明らかにしていく必要があるも のと考えられる。

本研究の結果から、VFBにともなうMVCの筋力増強メカニズムが明らかとされた。

これにより、MVCの筋力計測におけるVFBの使用は、被験者の動機づけ水準を統制す る上で有効な手法であり、骨格筋の発揮張力を適正に評価することが可能であることが 結論付けられた。

本論文の評価

最大筋力の発揮様相に関して、大脳レベルから末梢の筋活動まで詳細に検討を加えた 本論文は、人間の筋力発揮メカニズムを明らかにすることに大きく貢献するものと考え られる。得られた知見は筋力トレーニングやスポーツパフォーマンス向上のために有効 に活用されるであろう。本申請者の今後の研究上の活躍が大いに期待できる。

上記のような評価を得て、本審査委員会は、福田 誠氏の学位申請論文が博士(スポ ーツ科学)に十分値する研究であるとの結論に達した。

以上

4. 福田 誠氏 博士学位申請論文審査委員会

主任審査員 早稲田大学 教授 博士(教育学)(東京大学) 川上泰雄 審 査 員 鹿屋体育大学 学長 教育学博士(東京大学) 福永哲夫 審 査 員 早稲田大学 教授 Ph.D.(アイオワ大学) 矢内利政 審 査 員 早稲田大学 教授 博士(医学)(東京医科歯科大学)内田 直

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