【同志社大学労働法研究会】重婚的内縁関係と社会 保障法における遺族補償給付の受給権者
著者 坂井 岳夫
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 6
ページ 169‑194
発行年 2010‑01‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012096
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一六九同志社法学 六一巻六号
(一九二五)
一 事 実 1 姻するとともに、Xと前夫との間の子であるBと養婚)と四亡A(男性)は、昭和九性年一一月二六日、X(女子
縁組をした。
2 六月一日に、XがBから、子供時代に亡Aから性的年、同成亡A・XおよびBは平九が年五月まで同居していた虐
待を受けたことを告白されたことを契機に、同月一一日に、XとBが家を出て別居が開始された。
Xは、亡Aの健康保険の被扶養者となっていたが、亡Aと別居した結果、亡Aの所持する健康保険証を使用できな
くなったため、Bの健康保険の被扶養者となった。 ◆同志社大学労働法研究会◆
重婚的内縁関係と社会保障法における 遺族補償給付の受給権者
福岡地裁平一九(行ウ)第三三号、遺族厚生年金不支給処分取消請求事件、平二〇・八・二六判決、判例タイムズ一二九一号八二頁
坂 井 岳 夫
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七〇同志社法学 六一巻六号
Xは、同年一二月ころに別居の解消を試みているが、亡AがXとの関係修復を拒んでいた。
。たっかなわ調は停調、がた 3 日一る旨の調停を申し立て月求六年九成平、はBとXめを、婚亡Aを相手方として離・払離縁およ〇慰謝料の支び Xは、平成一〇年一月、亡Aを相手方とする婚姻費用分担の調停を申し立て、審判手続に移行後の同年九月一一日、亡AがXに対し一一二万円を支払うことおよび同年九月以降当事者の離婚または別居状態の解消に至るまで毎月一四
万円を支払うことを命じる審判がなされた。なお、このころのXの収入は、パートタイム労働による月額六万円から七万円程度であった。
決といたし直りや度一うもAい亡てっあも安不な的済経とうは月判の却棄求請、日八一一意年一一成平、し明表を思 4 、、し求請を婚離し対にX月B二年〇一成平、はA亡、にで提中の続手のそ。たし起を対え訴るす求請を縁離しX
がなされた。
5 一三日、Xに一六八万円を振込送金し、その後も毎月年一用亡Aは、上記の婚姻費分一担の審判に従い、平成一月
一四万円をXに振込送金していた。しかし、平成一二年五月ころから支払が滞りがちになり、平成一三年三月、亡Aは婚姻費用分担債務の免除または大幅減額を求める申立てを行い、同年八月一六日、婚姻費用を月額一一万円に変更
する旨の審判がなされた。
ところが、亡Aが審判に係る婚姻費用の支払を履行しなかったため、Xは、亡Aの預金債権差押えの申立てをし、
同年一一月一九日、差押決定がなされた。その後、亡Aが未払分を支払ったことから、Xは同申立てを取り下げている。なお、平成一六年一月から五月までの間のXの給与収入は、月額六万円前後であった。
6 人として付き合うようになった。Cは、平成九年八友後、、亡Aは、平成元年ころCの(女性)と知り合い、そ月
(一九二六)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七一同志社法学 六一巻六号 ころから亡Aとともに老人介護施設や病院に入院した亡Aの母の身の回りの世話をするようになった。亡Aは平成一一年二月に肝臓病で入院し、その後入退院を繰り返すようになったが、それ以降、Cが一人で亡Aの母と亡Aの看病
を行った。
7 の母もそこを居所とした。そして、Cも、このマンA、亡月亡Aは、平成一一年五、しマンションを借りて転居シ
ョンに泊まることが多くなった。なお、この転居に当たり、亡AはXに転居先を知らせることはなかった。また、亡AとCは、平成一三年三月に資金を出し合って中古の住宅を購入し、同年七月から入居した。
あい当月五年一一成平。たて、っなにうよるす給受を金時亡年月が入収の円万〇四約額てAせわあを金年と与給はに 8 基ら年生厚齢老の給支別特かを月五年七成平、はA亡金受齢は老びよお金年生厚齢老ら給か月一一年九成平、し礎
り、Cには月額一一万円程度の給与収入があった。しかし、亡Aは退職後の平成一三年一月ころからは給与収入がパートタイム労働による月額一〇万円程度に減り、Cも平成一四年三月ころ以降の給与は月額七万円から八万円程度と
なった。
9 して、上記の住宅の所在地に住民票上の住所を異動と帯主に亡Aは平成一六年二月、世Cは同年四月に、各々をさ
せた。そして、亡Aの国民健康保険上、Cが被扶養者となった〔本判決ではこのような認定がなされているが、亡A
とCが同一世帯として国民健康保険の被保険者となったという趣旨であると思われる
―
評者注〕。10 腸手術、平成一六年一月に肝臓ガン手術をそれぞれに七月二亡Aは、平成一四年一月年に肝腫瘍手術、平成一五受
けたが、それらの際にはいずれも、Cが、亡Aの手術同意書に友人(知人)として同席者の立場で署名した。亡Aが同年五月二五日に死亡した際は、Cが一人で看取った。
Cは、喪主として亡Aの葬儀を行おうとしたが、亡AがXと婚姻する以前に前妻との間に設けた子からこれを断ら
(一九二七)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七二同志社法学 六一巻六号
れたため、葬儀は行わず、亡Aの子が行った葬儀には出席しなかった。
Xは、亡Aの母および亡Aの見舞いや看病に行くことはなかった。また、Xは、同年六月一日、亡Aの死亡を知った。そのため、亡Aの葬儀に参加できなかった。
旨、姻婚の間のとA亡とXし係対にXは官長同、日八関が月しいなし給支をれこ、てと実たいてし化骸形い失を体一 11 日対に官長庁険保会社、三遺月六年六一成平、はXし族年請七一成平、がたしを求定厚裁の旨るす給支を金年生三
の処分(以下、﹁本件処分﹂とする)をした。Xは、本件処分を不服として、同月二三日、社会保険審査官に対して審査請求をしたが、平成一八年六月一六日付けで、同審査請求は棄却された。さらに原告は、これを不服として、同
月二〇日付けで社会保険審査会に対し再審査請求をしたが、平成一九年三月三〇日付けで同審査請求は棄却された。
他方、Cは、平成一六年七月八日、亡Aに係る遺族厚生年金支給の裁定を請求し、平成一七年三月二四日、その裁
定を受けてこれを受給している。
12 るいてめ求をし消取の分処件本、し対に)国(Y、はX。 二 判 旨(請求認容)
1要のめたるけ受を給支の金年生厚族遺件 持下ういと﹂件要者偶配﹁以、(とこるす当該に者偶。)②の険維を計生てっよに等者保被被時当亡死の等者険保配等 ﹁保で妻の者たっあで者険被るは又者険保被にうよのあX者け険保被①、はにめたる受しを給支の金年生厚族遺てと
していたこと(以下﹁生計維持要件﹂という。)の二つの要件を満たす必要がある。﹂
(一九二八)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七三同志社法学 六一巻六号
2配偶者要件について
⑴ 判断基準 ﹁、る﹁配偶者﹂の概念は法定三条二項が﹁婚姻の届めの法下〔厚生年金保険法。以同項じ
―
評者注〕五九条一出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む﹂と規定していることからもうかがえるように、必ずしも民法上の配偶者の概念と同一に解する必要はなく、労働者の遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚生年
金保険給付の目的(法一条)に適合した解釈を行うべきである。もっとも、民法が法律婚主義を採用している以上、原則として戸籍上の届出をした配偶者をもって上記﹁配偶者﹂に当たる者とすべきである。
したがって、﹁配偶者﹂とは、原則として戸籍上婚姻の届出を行った者をいうが、そのような者であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、その状態が固定して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚
状態にあるときは、もはや﹁配偶者﹂に当たらないと解するのが相当である(最一小判昭五八・四・一四民集三七巻三号二七〇頁参照)。
そして、形骸化の有無を判断するに当たっては、別居の経緯、期間、婚姻関係を維持する意思の有無又は婚姻関係を修復するための努力の有無、相互の間の経済的依存の状況、別居後の音信、訪問等の状況、重婚的内縁関係の固定性等
を総合的に考慮すべきである。﹂
⑵ 具体的判断 だに、がるあでのもたっ至るのす居別てっなに機契がそ別こずん営を活生同共婦夫、ぎ居すに間年七約だ未は間期とた ﹁年ん営を活生同共婦夫間二き二約後姻婚、はA亡とでXし供明判が待虐的性の代時子とのへBるよにA亡、ろこた
(一九二九)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七四同志社法学 六一巻六号
期間に比してかなり短く、他方、亡AとCとの親密な関係は五年程度でしかない。また、Xは別居当初一時離婚を望ん
だこともあったが、亡AからXに対し離婚請求訴訟が提起された際には、離婚後の生活の不安などもあって亡Aとの婚姻継続を希望したことなどから、亡Aの離婚請求は未だ婚姻関係が破綻しているとは認められないとして平成一一年に
棄却されて確定し、さらに、Xは亡Aに対し婚姻費用の分担を請求し、別居後亡A死亡時まで、審判により命じられた金額(月額一一万円から一四万円)の振込送金を亡Aから受け続けてきており、加えて、亡AはXに対し離婚に伴う給
付を何ら行っていないのであって、これらの事実にかんがみると、亡AがXに転居先を秘して転居したことなどもあって双方の間の音信や訪問は行われておらず、また、亡AがCと平成一一年ころから親密な関係にあり重婚的な内縁関係
に至っていたとしても、未だXと亡Aの婚姻関係が実体を失って形骸化し、その状態が固定して近い将来解消される見込みがなく、いわば事実上の離婚状態にあったとまで認めることは相当でない。
なお、Yは、亡Aの支払が婚姻費用分担の審判に基づくものであったことを指摘するが、審判に従って支払うことをもって当該支払義務者に支払意思がないとはいえないのであって、Yの上記指摘事由をもって、経済的依存関係に関す
る判断が左右されるということはできない(たとえば、婚姻費用額を夫婦間で決めることができないために、上記審判が用いられることもある。⋮⋮)。
また、Yは、亡AがXに対する審判で定められた婚姻費用分担義務を履行しなかったとき、Xが、亡Aの債権につき強制執行申立てを行ったことをもって、亡Aとの婚姻関係を修復しようとする意思を有しなかったことを示すと主張す
る。しかしながら、婚姻費用分担義務の履行を求めるため、義務者が有する財産について強制執行を申し立てることは、法律上の権利であり(民事執行法一五一条の二参照)、また、別居の夫婦の間で、婚姻費用分担義務の履行のため、上
記のような申立てをすることは、しばしばあることであり、上記強制執行申立てをしたことをもって、Xに婚姻関係の
(一九三〇)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七五同志社法学 六一巻六号 修復の意思がなかったとはいえない。
さらに、約七年間の別居期間中の亡AからXへの婚姻費用の支払をもって事実上の離婚給付とみる見方⋮⋮は、採用
できない。
そうすると、Xは、配偶者要件を満たすというべきである。﹂
3生計維持要件について
⑴ 判断基準 ﹁場生計維持要件を満たす合ばを具体的に網羅的に示、れ法施五九条一項、四項、法行よ令三条の一〇の各文言にす
ことは困難であり、﹁その者によって生計を維持していたもの﹂(法五九条一項)とは、生計を同一にする場合のほか、これに準じる場合も含むものであり、その配偶者において、被保険者からの経済的援助がなければ、その生計の維持に
支障を来していたであろうという関係があれば足りるものと解すべきである。﹂
⑵ 具体的判断 こ、収てし働稼ら自、はX方を他。るあでのもたいて入得金額、ずぎ過に後前円万六月ては額金のそ、ののもたいし送 ﹁亡ま月五年六一成平るす死のらか年一一成平、はAで亡を一用費姻婚の上以円万〇額、月、し対にX、に的続継間
れのみで生計を維持することは著しく困難であったものと考えられる。
そうすると、Xは、亡Aからの援助がなければその生計の維持に支障を来していたであろうことは容易に認められる
ところであって、生計維持要件を満たすというべきである。﹂
(一九三一)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七六同志社法学 六一巻六号
4結論
。﹂旨あるから、これを支給しないのき本件処分は取消しを免れないで ﹁の件れずいの件要持維計生、要も者偶配はX、りおとの上を満ではあり、厚生以族年た金Xに支給されるべもす遺 〕ママ〔
三 評 釈(判旨賛成)
1本判決の意義と問題の所在 本件は、老齢厚生年金の受給権者が死亡した後に、法律婚関係にあった配偶者による遺族厚生年金の支給に係る裁定請求が棄却される一方で、当該受給権者と重婚的内縁関係にあった女性による遺族厚生年金の支給に係る裁定請求が認
められたという事情の下で、法律婚関係にあった配偶者が上記不支給処分の取消しを求めた事案である。裁判所は、法律婚関係にあった配偶者が遺族厚生年金の受給要件を満たしていると判断し、上記不支給処分を取り消している。この
ように、本件は、重婚的内縁関係という事情の下で遺族厚生年金の受給権者について争われた裁判例に一事例を加えるものであり、特に、①法律婚関係にあった配偶者から不支給処分の取消請求が行われ、②その取消請求が認容された
(法律婚関係にあった配偶者に遺族厚生年金の受給権が認められた)という類型に当たる。
厚生年金保険法は、法所定の保険料納付期間等を有する厚生年金保険の被保険者、老齢厚生年金の受給権者など(以 下、﹁被保険者等﹂とする)が死亡した場合に、一定の要件を満たした遺族に遺族厚生年金を支給する旨を定めている(厚年五八条一項)。その趣旨は、生計中心者の死亡によって遺族に生じた永続的な収入喪失の保障にあるとされる (
。これ 1)
と趣旨を同じくする遺族補償給付として、国家公務員共済組合の組合員、退職共済年金の受給権者等の死亡について支
(一九三二)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七七同志社法学 六一巻六号 給される遺族共済年金(国公共済八八条以下)、地方公務員共済組合の組合員、退職共済年金の受給権者等の死亡について支給される遺族共済年金(地公共済九九条以下)、労働者の業務上の死亡について支給される遺族補償年金(労災
一六条の二以下)などが挙げられる。そこで、本件の評釈を行うに当たっては、これらの各制度の下で争われた裁判例も必要な範囲で参照していく。
遺族厚生年金の支給を受ける遺族の要件として、法は、﹁被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母﹂であること、および、﹁被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時⋮⋮その者によつて生計を維持し
たもの﹂であることを求めている(厚年五九条一項。なお、妻以外の遺族については、年齢等の付加的な要件が定められている。同条但書)。前者が本判決にいう﹁配偶者要件﹂であり、後者が本判決にいう﹁生計維持要件﹂である。なお、
ここにいう﹁配偶者﹂には﹁婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあるもの﹂も含まれる(厚年三条二項)。その意義について、裁判例は、社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる事実関係を成立させよう
とする合意が当事者間にあり、かつ、その事実関係が存在するいわゆる内縁関係にあるものをいうと解している(東京地判平元・九・二六判例タイムズ七四一号一〇三頁)。
したがって、被保険者等について法律婚関係が存在せず、(唯一の)内縁関係が存在していた場合には、内縁配偶者
が配偶者要件を満たすことになる。これに対し、被保険者等について法律婚関係とともに重婚的内縁関係が存在していた場合には、法律婚関係にある配偶者と重婚的内縁関係にある配偶者のいずれが配偶者要件を充足するのかという問題
が生じる。法律上、この点に関する明文の定めはないため、解釈によって解決する必要がある。
また、生計維持要件の認定については、政令および行政解釈において、死亡配偶者と生計を同じくしていたという点
を重視した判断枠組みが示されている(
3く計生ていつに者偶配の上籍戸にと⑴内参照)。重婚的縁、関係の下では維
(一九三三)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七八同志社法学 六一巻六号
持要件の判断をいかに行うかが問題となるが、そこでは法の規定する生計維持要件の意義が、生計の同一性を重視する
上記の政令・行政解釈の判断枠組みの当否を含めて問題となる。
以下では、配偶者要件(
2)および生計維持要件(
3いくいてし討検次順、てつ)に断判の決判本る係に。 2配偶者要件(判旨
2)について
⑴ 配偶者要件に係る本件の判旨を検討する前提として、(戸籍上の配偶者および内縁配偶者の双方の立場からみた)重婚的内縁関係の下での配偶者要件の判断枠組みについて確認しておきたい。
まず、行政解釈は、﹁届出による婚姻関係にある者が重ねて他の者と内縁関係にある場合の取扱いについては、婚姻の成立が届出により法律上の効力を生ずることとされていることからして、届出による婚姻関係を優先すべきことは当 然であり、従つて、届出による婚姻関係がその実体を全く失つたものとなつているときに限り、内縁関係にある者を事実婚関係にある者として認定するものとすること﹂としている(昭五五・五・一六庁保発一五号 (
)。 2)
また、判例は、農林漁業団体職員共済組合法上の遺族給付について争われた事案において、農林漁業団体職員共済組合法の社会保障法的理念、および、共済組合が給付する遺族給付の社会保障的性格を指摘した上で、同法にいう﹁遺族
の範囲は組合員等の生活の実態に即し、現実的な観点から理解すべきであつて、遺族に属する配偶者についても、組合員等との関係において、互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいうものと解するの
が相当であり、戸籍上届出のある配偶者であつても、その婚姻関係が実態を失つて形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受ける
べき配偶者に該当しないものというべきである﹂と判示している(最一小判昭五八・四・一四民集三七巻三号二七〇頁。
(一九三四)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一七九同志社法学 六一巻六号 以下、﹁昭和五八年判決﹂とする)。当該事案は重婚的内縁関係を背景とする紛争ではあるが、戸籍上の配偶者に対する不支給処分についての取消訴訟であるため、上記の一般論も直接には戸籍上の配偶者の配偶者要件について述べてい
る。しかし、同判決の調査官解説は、上記の判示内容について、法律婚関係にある配偶者と事実婚関係にある者が競合する場合には、重婚的内縁関係にある者について生計維持要件の存否を判断するという枠組みではなく、法律婚関係に
ある配偶者について﹁事実上の離婚状態にある﹂か否かを判断するという枠組みを採用するものであると解している (
。 3)
以上のとおり、行政解釈および判例は、重婚的内縁関係の下での配偶者要件の認定に関し、①戸籍上の配偶者につ
いては、婚姻関係の形骸化あるいは事実上の離婚状態の有無(その具体的な意義については
断配ては、①の観点から戸籍上の偶つ者の配偶者要件の充足性を判いに件を者要者の充足性判配断し、②内縁配偶偶 2らか点観ういと)照参⑵ し、それが否定された場合に内縁配偶者の配偶者要件の充足性を判断するという枠組みを採用している (
格の自身の受給資格を左右するみ偶ならず、内縁配偶者の受給資者配の偶戸籍上の配偶者の配者要件該当性は、戸籍上 よこの。うに、 4)
をも左右することになる。
なお、昭和五八年判決後の下級審裁判例も、一貫して上記と同様の判断枠組みを採用している(東京地判昭六二・一
一・二五判例時報一二六一号五六頁、東京地判昭六三・三・二八判例時報一二七五号四六頁、前掲・東京地判平元・九・
二六、東京地判平二・一一・二〇判例タイムズ七六三号二一一頁、岡山地判平三・一〇・二九労働判例六〇二号四〇頁、東京地判平七・一〇・一九判例タイムズ九一五号九〇頁、青森地判平九・五・二七判例タイムズ九六二号二三二頁、東
京地判平一六・三・一九判例時報一八六六号三四頁、名古屋地判平一八・一一・一六判例タイムズ一二七二号七九頁)。⑵ つづいて、本判決において争われている、戸籍上の配偶者の配偶者要件の認定について検討する。
この点について行政解釈が﹁届出による婚姻関係がその実体を全く失つたものとなつているとき﹂に戸籍上の配偶者
(一九三五)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八〇同志社法学 六一巻六号
について配偶者要件該当性が否定されると解していることは上記のとおりであるが、その例としては、①﹁当事者が離
婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき﹂や、②﹁一方の悪意の遺棄によつて夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態が長期間(おおむね一〇
年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき﹂が挙げられている(昭五五・五・一六庁保発一三号。以下、﹁一三号通知﹂とする)。この場合、夫婦としての共同生活の状態にないと認定するため
には、ⓐ﹁当事者が住居を異にすること﹂、ⓑ﹁当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと﹂、ⓒ﹁当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと﹂という三つの要件をすべて満た
す必要があるとも指摘されている(一三号通知)。
一方、昭和五八年判決は、①戸籍上の妻と夫との間に婚姻関係を解消する合意があり、②夫の戸籍上の妻に対する
経済的給付に事実上の離婚給付としての性格があり、③戸籍上の妻に別居以後は婚姻関係を維持継続しようという意思がなかったという事情を総合して婚姻関係の形骸化および事実上の離婚状態を肯定した原審の判断を支持している。
同判決については、当初、婚姻関係を解消する合意を法律婚関係にある配偶者の配偶者要件を否定するための不可欠の要件と位置付けるものであるかという点に関し、評価が分かれていた (
関言婚律法、で上たし及に如欠の思意の婚離( 5)
係の形骸化を否定する裁判例として、前掲・東京地判昭六二・一一・二五、前掲・東京地判平元・九・二六、東京地判平五・一・二〇判例時報一四六四号五一頁。離婚の意思の欠如に言及する一方で、法律婚関係の形骸化を肯定する裁判
例として、東京地判平五・三・三判例タイムズ八五九号一二九頁、前掲・青森地判平九・五・二七)。その後、判例は、私立学校教職員共済法に基づく遺族共済年金に関する事案において、婚姻関係を解消する合意について指摘することな
く、加入者と法律婚関係にある配偶者との婚姻関係の形骸化を肯定した原審の判断を支持している(最一小判平一七・
(一九三六)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八一同志社法学 六一巻六号 四・二一判例時報一八九五号五〇頁)。同判決は、婚姻関係を解消する合意を、戸籍上の配偶者について配偶者要件該当性を否定するための考慮要素の一つとして位置付けたものと解されている (
前べ、てしと例判裁る述に確明を点のこ( 6)
掲・東京地判平五・三・三)。
そうすると、法律婚関係の形骸化の有無を判断するための要素としていかなる事情を考慮すべきかが問題となるが、
下級審裁判例の中には、この点について一般論を提示するものもある。そこでは、①別居の経緯、②別居期間、③婚姻関係を維持する意思の有無ないし婚姻関係を修復するための努力の有無、④別居後における経済的依存の状
況、⑤別居後における婚姻当事者間の音信・訪問の状況、⑥重婚的内縁関係の固定性といった考慮要素が挙げられている(前掲・東京地判昭六三・三・二八、前掲・東京地判平五・三・三、前掲・東京地判平一六・三・一九〔以上の要
素のほか、婚姻当事者の別居の有無を挙げる〕、前掲・名古屋地判平一八・一一・一六〔以上の要素のほか、離婚の意思の有無ないし離婚のための努力の有無を挙げる〕)。また、婚姻関係の形骸化を判断するに当たっては、婚姻関係の形
骸化に対する当事者の有責性の有無・程度は問題とならないと指摘する裁判例もある(前掲・東京地判昭六三・三・二八、前掲・東京地判平五・三・三)。本判決も、法律婚関係の形骸化の有無を判断する際の考慮要素について、上記と
同様の判断枠組みを提示するものである。
重婚的内縁関係の意義を﹁法律上の配偶者のある者が他の異性と事実上の夫婦共同生活を営む場合 (
関で実体が失われているのが通常あ活る。したがって、重婚的内縁の生る律それと競合す同法婚関係においては夫婦共 ると解す﹂ならば、 7)
係という事情の下で配偶者要件の充足性を判断する際に、もっぱら夫婦共同生活の実体があるかどうかという点を考慮する場合には、戸籍上の配偶者はその充足性を否定され、重婚的内縁配偶者はその充足性を肯定されることになる (
。 8)
しかし、共同生活の実体を過度に重視して配偶者要件の充足性を判断するという考え方は、生計中心者の死亡に伴う
(一九三七)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八二同志社法学 六一巻六号
所得喪失の保障という遺族厚生年金の趣旨に照らして、遺族(配偶者)の被扶養利益を不当に軽視するものであるとい
わざるをえない (
上提実事﹁てしと前のの務義助扶の間ⓐ離夫とで上ため求をこ婚いなに態状の﹂婦 ( て、はい。なら照に旨趣の法うばよの記上、ろしむせ、つ配に定認の件要者偶る戸係に者偶配の上籍 9)
活偶生てし対に者配の上籍戸ⓑ、 10)
費の補助が行われている場合やそのための働きかけがなされている場合には、配偶者要件の充足を認めるべきであろう。このような場合には、戸籍上の配偶者の被扶養利益はいまだ法的保護を必要とする段階にあると解され、判例・学
説が重視する社会保障法の理念に照らしても戸籍上の配偶者に遺族補償給付の受給権者としての適格性が認められるためである。
本判決が配偶者要件の充足性を判断する際の考慮要素として挙げる上記の事情は、①~③(場合によっては⑤・⑥)が﹁事実上の離婚﹂の状態の有無(ⓐ)を判断するための要素としての意義をもち、④(場合によっては③・⑤)が扶
養についての実態(ⓑ)を判断するための要素としての意義をもつものと解される。以上の検討に照らせば、本判決の提示する判断枠組みは妥当である。
⑶ つづいて、本判決の具体的判断についての当否の検討に移る。本判決は、①亡AによるBへの子供時代の性的虐待が判明したことが契機となってXと亡Aが別居するに至ったこと、②別居期間は約七年にすぎず、夫婦共同生活を
営んだ約二二年間に比してかなり短いこと、③亡AからXに離婚請求訴訟が提起されたが、Xが婚姻継続を希望し、同請求は棄却されていること、④Xは婚姻費用分担請求に係る審判により命じられた金額の送金を亡Aから受け続け
ており、亡AはXに対して離婚給付を行っていないことを指摘して、婚姻関係の形骸化を否定している。以下、本判決の判断の当否について検討を行うが、検討の都合上、②に係る判旨は最後に扱う。
まず、①(別居の経緯)について検討するに、判例・裁判例は、ⓐ死亡配偶者の不貞をきっかけとして、別居の合
(一九三八)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八三同志社法学 六一巻六号 意を経て別居が開始された事案(昭和五八年判決)、ⓑ死亡配偶者の不貞をきっかけとして、一方的に別居が開始された事案(前掲・東京地判昭六三・三・二八、前掲・東京地判平元・九・二六、前掲・東京地判平五・三・三)、ⓒ何ら
かの(重婚的内縁関係とは関係のない)事情で別居が開始され、その後に重婚的内縁関係が生じた事案(前掲・東京地判平二・一一・二〇)に大別することができる。
このうち、ⓐの類型に当たる昭和五八年判決は、別居の合意の内容から﹁事実上婚姻関係を解消する﹂合意があったとして、婚姻関係の形骸化を肯定する事情の一つと位置付けている。ⓑの類型をどう評価するかについては、裁判例に
よって位置付けの違いがみられる。ある裁判例は、別居の目的が重婚的内縁配偶者との同居であったことなどを指摘した上で、﹁その内縁関係が相当強固なものになっている﹂と判示しており、婚姻関係の形骸化を肯定する事情の一つと
位置付けているようである(前掲・東京地判平五・三・三)。これに対し、他の裁判例は、死亡配偶者の不貞によって別居が開始されたのであり、夫婦の合意に基づいて別居に至ったものではないと判示して、婚姻関係の形骸化を否定す
る事情の一つとして位置付けている(前掲・東京地判平元・九・二六 (
亡じいつにとこた生、が係関縁内的婚て法に欠死、かとたいを律さ滑円が係関婚重後合た務の都により別居が開始され るた当に偶型類の判裁者例は、死亡配)。の勤ⓒ 11)
配偶者が重婚的内縁配偶者と同居を始めたという事情によるものではないと指摘して、婚姻関係の形骸化を否定する事
情の一つと位置付けている(前掲・東京地判平二・一一・二〇)。
本件は、Bへの過去の性的虐待の判明というやや特殊な事情によって別居が開始された事案ではあるが、上記の類型
に当てはめるならばⓒに属する。別居に至るまでのこのような事実は、上記の判例・裁判例(ⓐ・ⓑの類型)が指摘するような離婚の合意を基礎付ける事情とも、重婚的内縁関係の強固さを基礎付ける事情とも評価されるものではない。
そうすると、本件における①の事実(別居の経緯)は、婚姻関係の形骸化を否定する要素であると解される。
(一九三九)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八四同志社法学 六一巻六号
また、③(婚姻関係を維持する意思の有無または婚姻関係を修復するための努力の有無)について検討すると、裁判
例は、ⓐ戸籍上の配偶者が死亡配偶者との復縁を拒絶したり、死亡配偶者との接触を避けていた事案(東京地判昭五二・一〇・二四行集二八巻一〇号一一一九頁、前掲・東京地判平五・三・三)、ⓑ戸籍上の配偶者が夫婦関係の修復に
向けた話合いや同居の働きかけをしていなかった事案(別居直後にのみ働きかけを行っていた事案や、単に離婚を拒否するのみであった事案を含む)(前掲・東京地判昭六三・三・二八、前掲・青森地判平九・五・二七、名古屋地判平一三・
九・一四判例タイムズ一〇八六号一二四頁、前掲・東京地判平一六・三・一九、前掲・名古屋地判平一八・一一・一六)、ⓒそもそも死亡配偶者に婚姻関係を解消する意思を見出しがたい事案(前掲・東京地判平元・九・二六、前掲・東京
地判平二・一一・二〇、前掲・岡山地判平三・一〇・二九)などに分類することができる。
これらの中でも評価が難しいのがⓑの類型であるが、裁判例の多くは、戸籍上の配偶者が婚姻関係を修復するための
積極的な行動に出ていないことを捉えて、このような事実を婚姻関係の形骸化を肯定する要素として考慮している。これに対し、近時の裁判例の中には、戸籍上の配偶者が別居直後を除いて婚姻関係を維持するための働きかけをしていな
かったことなどに言及して、﹁婚姻関係は、実質的な夫婦としての交流や精神的な依存関係が希薄化し、現実的な修復が困難な状況になっていたものと解すべき余地がある﹂と指摘する一方で、戸籍上の配偶者が離婚を拒否し、役所に離
婚届の不受理願いを提出し、これに対して死亡配偶者が法的な離婚手続にまでは及んでいなかったことなどに言及して、死亡配偶者は﹁少なくとも法的な婚姻関係を維持、継続し、〔戸籍上の配偶者〕への生活費の送金を続けてその生
計を維持する意思であったものと解される﹂と指摘するものもある(前掲・名古屋地判平一八・一一・一六)。
本件は、戸籍上の配偶者が離婚の申入れを拒否する一方で、婚姻関係の修復に向けた積極的な働きかけを行っていな
かったという点で、ⓑの類型に当たるものである。従来の裁判例の多くがこの点を婚姻関係の形骸化を肯定する事情と
(一九四〇)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八五同志社法学 六一巻六号 して考慮してきたことに照らすと、本件は戸籍上の配偶者にやや有利な判断を行ったものといえる。離婚請求訴訟においてXが婚姻継続を希望したことをもって、Xの﹁婚姻関係を維持する意思﹂を認める一方で、同請求が棄却されてか
ら亡Aが死亡するまでの期間が約五年にとどまっていたことから、その間に亡Aに対して積極的な働きかけがなされていなかったとしても、Xの﹁婚姻関係を修復する努力﹂の欠如を示す事情としては考慮されなかったものと解される。
さらに、④(相互の間の経済的依存の状況)について検討するに、従来の裁判例は、ⓐ死亡配偶者の任意で生活費の支払いがなされていた事案(前掲・東京地判平元・九・二六、前掲・岡山地判平三・一〇・二九、前掲・東京地判平
五・一・二〇、前掲・名古屋地判平一八・一一・一六)、ⓑ婚姻費用分担の調停を経て生活費の支払いがなされていた事案(前掲・東京地判平七・一〇・一九)などについて、経済的な依存関係を認めている。
なお、死亡配偶者からの金銭給付が婚姻費用の分担なのか、事実上の離婚給付なのかという点が争われる場合も少なくない。裁判例は給付の意図や支払いの形態に着目して判断を行っており、ⓐ死亡配偶者が、戸籍上の配偶者が離婚
に同意することを期待して、同女が居住する居宅を売却する一方で、同女の転居先の家賃を負担していた場合に、その金銭給付が﹁〔死亡配偶者〕が〔戸籍上の配偶者〕にその意思に反して売却した右居宅を明渡させるため及び〔戸籍上
の配偶者〕との離婚調停等において財産分与として与えると約束していた右居宅を〔戸籍上の配偶者〕の意に反して売
却したことの代償として給付していたものであって、特段同女との間の婚姻関係の維持存続を目的ないし前提として給付されたものではない﹂と判断した事案(前掲・東京地判昭六三・三・二八)、ⓑ死亡配偶者が自身の経営する会社か
ら給料の形式で戸籍上の配偶者に金銭を支払い、または同女との間の子(上記の会社の代表者)の給料に上乗せして同女に金銭を支払っていた場合に、﹁〔戸籍上の配偶者〕において金銭給付を条件に離婚する旨の意思を表明していたこと
を認めるに足りる証拠はないこと⋮⋮、また、〔死亡配偶者〕の〔戸籍上の配偶者〕に対する⋮⋮継続的かつ次第に増
(一九四一)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八六同志社法学 六一巻六号
額していった経済的給付﹂などに照らせば、その﹁金銭給付を事実上の離婚後の給付と同視することはできない﹂と判
断した事案(前掲・東京地判平元・九・二六)、ⓒ一度に一〇〇〇万円の送金がなされ、死亡配偶者の側がその支払いに婚姻関係を清算する趣旨を含めていた(当初、そのような趣旨は戸籍上の配偶者に明らかにされていなかった)場合
に、その金銭給付が﹁婚姻関係を清算するための慰謝料ないし謝罪金を支払う意図があったものであって、通常の婚姻費用の分担のための送金とは全く趣旨が異なる﹂と判断した事案(前掲・東京地判平一六・三・一九)などがある。
本件は、亡AからXに対して婚姻費用の分担としての送金が継続的に行われていた事案であり、経済的な依存関係が認められる。実質的にも、給付の意図(送金が離婚を前提としてなされていたという事情は見当たらない)や支払いの
形態(一時未払いがあったものの基本的には毎月一定額の支払いがなされていた)から、この送金が事実上の離婚給付として行われていたとは認められない。なお、Yは送金が家庭裁判所の審判に基づくものであることを問題視するが、
ここで審査すべきは亡AとXとの間の経済的依存についての実態(事実関係および法律関係)であり、審判の有無でその評価が左右されるわけではないから、この点をもって経済的な依存関係の存在が否定されるべきではない (
。 12)
最後に、②(別居の期間)について検討する。行政解釈は、別居、経済的依存関係の欠如、音信・訪問等の不存在といった事情の下で、その状態がおおむね一〇年以上継続し、当事者の生活関係が固定している場合を、配偶者要件が否
定される一例として挙げている(一三号通知)。また、裁判例の中には、ⓐ別居期間が約二八年に及ぶ一方で、死亡配偶者が生活費の援助を行うなど家族の生活に関心を払い一定の関わりを保っていた場合に、婚姻関係の形骸化を否定し
た事案(前掲・東京地判平元・九・二六)、ⓑ別居期間が三〇年を超える一方で、死亡配偶者が毎月一回程度帰宅し、一定の時期まで金銭の給付がなされていた場合に、婚姻関係の形骸化を否定した事案(前掲・東京地判平二・一一・二
〇)、ⓒ別居期間が三六年を超える一方で、死亡配偶者が生活費の定期的な送金をし、音信や連絡を継続していた場合
(一九四二)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八七同志社法学 六一巻六号 に、婚姻関係の形骸化を否定した事案(前掲・名古屋地判平一八・一一・一六)などがある。 このように、行政解釈は、別居期間の長期化によって婚姻関係の形骸化を認める不可欠の前提として、経済的な依存 関係が存在しないことや音信・訪問等が存在しないことを求めている (
をめ的済経、はにた存るめ認を化骸形依関係認とこいなれらめが係等問訪・信音やの関期姻別居間の長期化によって婚 、も例る判裁、た記上なの状況に鑑み。らば、ま 13)
前提としているか、少なくとも別居期間の長さと上記のような夫婦の関係性を相関的に考慮しているものということができる。
本件では、経済的な依存関係を婚姻費用の分担によって明確に認めることができる一方で、訪問・音信等は別居直後を除いて行われていなかったようである。もっとも、本件の別居期間は約七年であって、上記の裁判例と比較しても相
当に短い。結局、別居期間の長さと夫婦の関係性とを相関的に考慮しても、婚姻関係が形骸化していたとの判断には至らない事案であったと解される。
以上で検討してきたところによれば、判旨が婚姻関係の形骸化を否定する事情として挙げる①~④はいずれも妥当なものであり、このような事情に照らせば婚姻関係の形骸化は認められず、Xは配偶者要件を充足しているというべきで
ある。
3生計維持要件(判旨
3)について
⑴ 生計維持要件を満たす遺族について、法は、﹁被保険者又は被保険者であつた者によつて生計を維持していたことの認定に関し必要な事項 0000000000は、政令で定める﹂(傍点は評者)と規定している(厚年五九条四項)。これを受けて、政令は、
生計維持要件を満たす遺族を、﹁被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であ
(一九四三)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八八同志社法学 六一巻六号
つて厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたつて有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者と
して厚生労働大臣の定める者﹂と定めている(厚年令三条の一〇)。なお、後段部分に係る厚生労働大臣の定めは存在しない。
また、行政解釈は、生計維持要件への該当性を判断するに当たっては、生計同一要件と収入要件の二要件によるものと定めると同時に、﹁これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通
念上妥当性を欠くこととなる場合には、この限りではない﹂(以下、﹁例外規定﹂とする)との留保を付している(昭六一・四・三〇庁保険発二九号。以下、﹁二九号通知﹂とする)。このうち、本件で問題となっている(配偶者に係る)生
計同一要件については、①住民票上同一世帯に属しているとき、②住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき、③住所が住民票上異なっているが、ⓐ現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしてい
ると認められるとき、または、ⓑ単身赴任・就学または病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、生活費・療養費等の経済的な援助が行われるとともに、定期的に音信・訪問が行われており、上記の事情が
消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるときに、要件の充足を認めるものとしている(二九号通知)。
このように、政令も、行政解釈も、生計維持要件の認定に当たっては生計同一要件および収入要件の有無を基準とした判断枠組みを示している。しかし、生計維持要件についてこのような基準に従う場合には、死亡配偶者に重婚的内縁
関係が生じている場合の戸籍上の配偶者が同要件を充足することは稀であろう。裁判例の中には、住所を異にし、同居の再開についての話合いもなされていなかった場合に、行政解釈が挙げる③ⓑの類型に当たると解することは困難であ
るとして、行政解釈を基準とするならば生計維持要件が認められないと判示する事案がある(東京地判平一〇・三・二五判例タイムズ九八七号一六五頁。なお、同判決は、裁判例が採用する下記の基準によったとしても、生計維持要件は
(一九四四)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一八九同志社法学 六一巻六号 認められないと判断している)。
これに対し、裁判例は、政令および行政解釈の示す上記の判断枠組みが、法の定める生計維持要件を認定するための
要件を網羅的に示すものではないとの理解を採っている。すなわち、政令との関係では、生計同一要件ではなく収入要件について争われていた事案においてではあるが、政令の示す基準について﹁その基準を満たせば当然に要件該当性を
認定するとの運用を行うことにより、多数の裁定請求の大部分を一律かつ迅速に判断する一方、その基準に形式的には該当しない事案については、基準に該当しないことのみで不支給と即断することなく、当該事案について仔細に検討し
た上で、法の定める生計維持要件を実質的に満たすか否かを健全な社会通念に照らして判断する余地を残しているものでなければならない﹂と述べる裁判例がある(東京地判平一四・一一・五判例時報一八二一号二〇頁。前掲・東京地判
平五・三・三も参照)。また、行政解釈との関係では、生計維持要件の﹁認定の基準および取扱いについて一般的な訓示をする通達に過ぎないことが認められるから、これによって、法及び法施行令に定める⋮⋮各要件が変更されたり、
加重されたりする余地はない﹂と述べる裁判例がある(前掲・東京地判平五・一・二〇)。
このような理解を前提とすると、生計維持要件の具体的な意義をどう解するかが問題となるが、裁判例は、法の規定
に従って生計維持要件の内容を合理的に解釈すべきであるとして、﹁その配偶者において、被保険者からの援助がなけ
れば、その生計の維持に支障を来していたであろうという関係があることをいい、かつそれで足りるものというべく、必ずしも被保険者と現実の生活を共にしていたり、同居し、または住民登録上の世帯若しくは住所を同じくしたりして
いなければならないものではない﹂との判断枠組みを提示している(前掲・東京地判平五・三・三。前掲・東京地判平五・一・二〇、前掲・東京地判平一〇・三・二五も同旨)。本判決も、同様の判断枠組みを採用している。
生計維持要件は、生計中心者の死亡に際して保障の対象とされるべき遺族の範囲を画定するための要件である。この
(一九四五)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一九〇同志社法学 六一巻六号
点、生計同一要件と収入要件を充足する遺族は、遺族厚生年金による保障が求められる蓋然性の高い類型であり、この
限りでこの二つの要件を充足した遺族について生計維持要件の充足を認めるという政令および行政解釈にも合理性はある。もっとも、別居をしながら生活費の援助を受けるという場合にも法の定める﹁〔被保険者等〕によって生計を維持
したもの﹂に該当する余地はあるというべきであり、政令および行政解釈は遺族厚生年金によって保障されるべき遺族を網羅するものとはいいがたい。したがって、法の定める生計維持要件の意義については、その趣旨および規定に従っ
て解釈する必要がある。そこで求められる生計維持の程度を一義的に明らかにすることは難しいが、遺族補償給付の性格を生計中心者によって行われてきた扶養の代替と解するならば (
の援計生のそばれけなが助的済経のらか等者険保被、 14)
維持に支障を来していたという水準にその基準を求める本判決の解釈が合理的であろう。⑵ つづいて、本判決の具体的判断に関する検討に移る。本判決は、亡AからXに対する婚姻費用の送金額と、X自身
の収入額とに言及した上で、﹁Xは、亡Aからの援助がなければその生計の維持に支障を来していたであろうことは容易に認められる﹂と述べて、生計維持要件の充足を認めている。
生計維持要件の認定に関する従来の裁判例を概観すると、①送金額は必ずしも高額とはいえないものの、戸籍上の配偶者が自ら稼働して収入を得てはいなかった場合に、配偶者要件の充足を肯定した事案(前掲・東京地判平五・一・
二〇)、②当初は継続的な送金があったが﹁生計維持の一助とするにも足りない程度﹂であり、その後は送金が不定期になっていた場合に、生計維持要件の充足を否定した事案(東京高判平五・三・二二訟務月報三九巻一一号二三八八頁、
東京地判平四・一一・一〇訟務月報三九巻一一号二三九三頁)、③死亡配偶者からの送金が少額かつ不定期であり、戸籍上の配偶者が自らの収入で生計を立てていた場合に、生計維持要件の充足を否定した事案(前掲・東京地判平五・三・
三)などがある。裁判例は、死亡配偶者からの送金の額および継続性と、戸籍上の配偶者自身の収入の状況とを考慮し
(一九四六)
重婚的内縁関係と社会保障法における遺族補償給付の受給権者一九一同志社法学 六一巻六号 て、生計維持要件の認定を行ってきたということができよう。
本件では、亡Aによる送金は一个月につき一一万円ないし一四万円であり、一時期を除いて継続的な支払いがなされ
ており、一方、X自身の収入は約六万円から約七万円であった。このような事情に照らせば、Xは亡Aからの経済的援助がなければその生計に支障を来していたとの本判決の判断に異論はない。
以上に検討してきたとおり、Xは配偶者要件および生計維持要件を充足しており、遺族厚生年金の受給権者に当たるというべきである。本判決は、判旨・結論ともに妥当である。
4立法政策上の課題 最後に、重婚的内縁関係の下での遺族補償給付の受給権者の決定に関する立法政策に関わる議論について付言しておきたい。
本件においてC(重婚的内縁配偶者)は、亡Aと共同生活を営み、また亡Aの母の身の回りの世話や看病を行うなどしてきたものである。現行法の解釈・適用においては、このような事情のみでX(戸籍上の配偶者)の保護を否定し、
Cの保護を肯定するという結論を採るべきではないということは、すでに検討してきたとおりである。もっとも、立法
政策を含めて論じる場合には、Cのような事情の下にある重婚的内縁配偶者の法的保護について、さらなる検討の余地があるものと解される。
この点、学説においては、重婚的内縁関係の下では遺族補償給付を戸籍上の配偶者と重婚的内縁配偶者とに割合的に配分すべきであるという見解が主張されている(配分的保護論 (
取はな的一択者二の行現、に景背の張主なうよのこ)。 15)
扱いがときとして不合理な帰結を導くものであり、生活の実態や保護の必要性に応じた保護の在り方が模索されるべき
(一九四七)