WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の 相克 : GATT第二〇条(g)号の「実質的関連性基準」
著者 張 博一
雑誌名 同志社法學
巻 68
号 6
ページ 2061‑2091
発行年 2017‑01‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016890
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号六七二〇六一
W T O に お け る 天 然 鉱 物 資 源 の 保 存 と 輸 出 制 限 規 制 の 相 克
― ― G A T T 第 二 〇 条 ⒢ 号 の 「 実 質 的 関 連 性 基 準 」 ― ―
張 博 一
一 はじめに二 レアアースをめぐる中国の国内政策と輸出制限措置
1 中国のレアアース戦略とその弊害
2 主要な国内政策
3 輸出制限措置三 中国レアアース等輸出規制事件
1 輸出割当とGATT第二〇条⒢号
⑴ 有限天然資源の保存に関する(relating to)措置
⑵ 国内生産消費制限と﹁関連して実施(made effective in conjunction with)﹂
2 輸出割当に関する上級委員会判断
( )同志社法学 六八巻六号六八WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇六二二〇六二
四 GATT第二〇条⒢号の解釈的適用基準
1 GATT第二〇条⒢号要件の検討
2 DSU第一一条﹁客観的評価﹂と政府政策裁量
3
にりわお五 ﹁永久的天権﹂原則るす対に源資然主
一 は じ め に
天然資源の埋蔵量の減少とそれに対する各国の依存度の増大、とりわけ途上国及び新興国の急成長に伴う国内需要及び消費量の高まりにより、天然資源の戦略的地位は向上し続け、国際貿易の中でも最も注目を集める分野となっている。
世界貿易機関(WTO)は二〇一〇年の﹃世界貿易報告書﹄において既に、詳細な数値・データを用いて天然資源貿易
の経済的重要性と貿易フローへの影響を取りまとめ、当該分野における貿易障壁の撤廃と国際協力体制の樹立の必要性
を強調している )1
(。
二〇一〇年﹃世界貿易報告書﹄は国際貿易の実情に対する懸念を反映したものである。二〇〇〇年代のコモディティ ブームを契機として、多くの資源保有国は輸出制限措置を採用するようになった )2
(。特筆すべきは、その対象範囲の広さ
と持続期間の長さ、そして理論的根拠において、それまでの散発的な輸出制限や一九七〇年代の第一次輸出制限とは性
質を異にする点である。今日の輸出制限規制をめぐる動きは、かつてのような国内需要供給や国際市場価格調整のため
の一時的な緊急対応措置ではなく、その背後には、資源国による天然資源の枯渇防止、国内環境保全、さらには、国民
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号六九二〇六三二〇六三 経済の安定と発展を促進し、経済発展方式の転換と国際貿易構造の転換を図るための政策変更といった長期的・戦略的 意図が複雑に交錯している )3
(。資源国のこうした動きに対して、これまで資源の輸入に依存してきた西側諸国は、輸出制
限措置は国際市場の価格に影響を及ぼすのみならず、供給安定性そのものを害するとして、強い警戒感を示している。
天然鉱物資源をめぐる対立が具体的な紛争として表れたのが中国鉱物資源輸出制限事件
)4
(と中国レアアース等輸出制限
事件 )5
(である。中国は豊富な天然資源の保有国である )6
(が、近年の経済発展により国内需要が劇的に拡大しており、二〇〇
〇年以降、様々な国内法整備を行い、自国天然資源の採掘・生産、国内流通・消費、国際貿易など多方面に渡って政府
統制を図ってきた。しかし、このような国内政策調整が国際貿易市場に与える影響は大きく、二〇〇九年一一月、米国、
EU、及びメキシコは中国による九種類の鉱物資源の輸出制限措置はWTO協定上の義務に抵触するとしてWTO紛争
解決手続に申立て、パネル、上級委員会はともにWTO協定違反を認定した )7
(。その報告書が採択されてわずか四个月後
の二〇一二年六月、日本、米国及びEUが申立国となり、中国の原材料三品目(レアアース、タングステン及びモリブ
デン)に関する輸出制限がWTO諸規則に違反するとしてパネル設置を要請し、二〇一四年八月、パネル・上級委員会
は再度、申立国側の主張を全面的に認める報告書を発出した。これら二つの事案はいずれも、中国による比較的早期な
履行をもって終結しが、二〇一六年七月、米国とEUは、中国に対して中国が一一種類の原材料に対して課した輸出制
限措置に関する新たな協議要請を行った
)8
(。このことは、これまでに争われた天然鉱物資源は単なる一例にすぎず、天然
資源をめぐる貿易紛争は一過性のものではないことを改めて認識させるものである。
このような現状を踏まえて、本稿は、WTO体制下における有限天然鉱物資源に対する輸出制限規制について考察す
る。天然鉱物資源は二つの点において他の国際貿易商品と性質を異にする。第一に、その埋蔵量の地理的分布の偏在性
( )同志社法学 六八巻六号七〇WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇六四
である。ゆえに、国家間の相互依存度は高く、国際自由貿易による安定的供給と公正な競争に基づくアクセスの確保が
より一層重要となる。第二に、その再生不能性に起因する希少性、枯渇可能性である。よって、天然鉱物資源の採掘及
び利用に際して、持続的発展を維持するための必要な措置が採られることが不可欠である。しかし、これらの二つの特
徴に基づいて採られる措置は、時として相反する側面をもつ。すなわち、自由貿易の観点から、資源国による資源の囲
い込み、国内生産者の優先的利用は認められるべきではなく、他の産品と同様、貿易制限的措置の禁止に関するWTO
規定に服すべきことは言を俟たない。他方で、持続的発展及び資源保全の観点から、主権国家は自国の資源政策に一定
の裁量を持つことを認められるべきであり、天然資源の保全、環境保護といった非貿易的利益は自由貿易利益に譲歩す
べきではない。このような﹁天然資源の国際的需要に対する供給﹂と﹁資源保有国の主権﹂という二つの利益が衝突す
る場合に、その衡量を如何に図るべきかについて、WTO規則はどのような答えを提示しているのか、現行規定は妥当
と言えるかを含めて探る必要がある。
その手掛かりとなるのがGATT第二〇条⒢号である。GATT第二〇条⒢号は﹁有限天然資源の保存に関する措置﹂
を一般的例外の一つに挙げているが、その判断のための具体的基準は明示されていない。このことから、GATT第二
〇条⒢号の解釈基準が自由貿易の優位か加盟国の規制裁量の尊重かに決定的な役割を果たしているといえる。実際、中
国鉱物資源輸出制限事件と中国レアアース制限事件のいずれにおいても、中国はそのWTO協定違反については争わず、
様々な証拠を挙げ、その輸出制限措置がGATT二〇条⒢号によって正当化されることを主張した )9
(。以上のことから、
本稿は、加盟国は如何なる要件を満たした場合に、貿易制限的国内規制を例外的に採ることを認められるのかという問
題関心のもと、中国の採った具体的措置をGATT第二〇条⒢号の解釈適用基準に照らして検討し、主権国家がその天
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号七一二〇六五 然資源の保全をめぐる措置に有する政策裁量の幅を解析することを目的とする。
二 レ ア ア ー ス を め ぐ る 中 国 の 国 内 政 策 と 輸 出 制 限 措 置
WTO諸規定のもとで認められる加盟国の国内政策裁量余地を検討する前提として、本章では、中国レアアース事件において問題となった中国の具体的措置とこれらの措置を採るに至った背景について簡単にみておくこととする。
1 中 国 の レ ア ア ー ス 戦 略 と そ の 弊 害
レアアースとは三一鉱種あるレアメタルの一種で、スカンジウム(21
Sc
)、イットリウム(39Y
)の二元素と、ランタ ノイドと呼ばれるランタン(57L a
)からルテチウム(71L u
)までの一五元素の計一七種類の非鉄金属元素(希土類)の 総称である )₁₀(。世界のレアアース可採埋蔵量は一億三〇〇〇万t程度と推定され、その鉱脈は中国、アメリカ、カザフス
タン、インド、ベトナム等、多数の国に分布しているが、その最大の埋蔵国は中国であり、世界全体のおよそ四〇%の
五、五〇〇万tとされている )₁₁
(。
中国は一九八〇年代半ばに内モンゴル自治区、江西省などでレアアース鉱床が次々と発見されて以来、レアアースを 外貨獲得のための重要国家戦略資源と位置づけ、大量生産の体制を作り )₁₂
(、一連の優遇政策を採り、低価格で輸出を行っ
てきた。その結果、二〇〇〇年以降中国が世界総産出量の九〇%以上を占め、二〇一五年も八四・七%と中国の供給寡
占は明らかである )₁₃
(。他方で、二〇〇〇年以降は新技術と新素材の急速な発展によってレアアース応用分野が拡大したこ
( )同志社法学 六八巻六号七二WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇六六
とにより、中国国内市場での需要も高まり、二〇〇六年公布の︽国家中長期科学和技術発展規劃綱(二〇〇六
二〇 - 二
〇)︾のなかで、二〇二〇年までに中国を低技術生産拠点から重要な開発拠点へと移行させる事によって中国経済構造
の現代化を図るとし、レアアースの生産技術の向上はこの計画の優先分野に指定されている。
中国における安価な労働力、比較的緩やかな環境規制、多数の大規模レアアース鉱床の存在、重希土類に富むイオン
吸着鉱の存在等の要因に過度に進められてきた開発推進政策が加わり、世界におけるレアアース生産の中国一極集中が
実現したが、このことは同時に多くの弊害をもたらした。第一に、レアアースの採掘、分離精製の技術に起因する生態
環境の破壊である。資源開発は、探査から採掘、製錬にいたるまで、大量の気体・液体・固体廃棄物が発生するため、
それぞれの段階で適正な対策を講じなければ、環境への負荷が非常に大きい活動である。レアアース鉱山採掘による森
林伐採、採掘・製錬過程で大量の放射性廃棄物質の発生、鉱山の廃水による水源汚染 )₁₄
(、周辺地域住民への健康被害等そ
の現状は極めて深刻である。レアアース業界の年間廃水排出量は二〇〇〇万トンあまり、そのうちアンモニア・窒素含
有量は三〇〇~五〇〇my/Lで、国の排出基準の十数倍~百倍にのぼる。また、レアアースが鉱山から抽出される際
に、レアアースを含む鉱石は個々の成分を出すのに複雑な分離・加工過程を経る必要があり、分離に使用される化学薬
品は環境汚染の危険が高く、さらには放射性の廃棄物が残されるなどその採取には多くの問題が伴う。
第二に、有限天然資源の保全の必要性である。天然資源は一般に森林資源や水産資源のような﹁再生可能資源﹂と地
下鉱物や化学燃料といったエネルギー資源などの﹁再生不可能資源﹂に区別される。﹁再生可能資源﹂は、持続的利用
の観点から適切な保存管理が行われる必要があるが、一定の時間を経れば回復しうるのに対して、﹁再生不可能資源﹂
は人為的な製造が不可能であり、絶対量が決まっており、使い切ればなくなることから、枯渇の可能性がより高く、よ
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号七三二〇六七 り慎重な対応が求められる。レアアースは人為的な製造が不可能な希少資源に属し、中国は世界生産量の九割を供給し
続けているが、過剰採掘により埋蔵量が減少し、採掘可能期間が縮減され、主要鉱山の多くが枯渇しつつある状況にあ
る。中国商務省の試算によれば、現在の生産ペースではレアアースは一五
よがのこ、れさ測予と〇こるす渇枯に年 - 二
うな資源枯渇のリスクを中国だけが負うべきではない )₁₅
(と危機感を示している。
このような現状を踏まえて、二〇一二年に中国政府が発表した﹁﹃中国のレアアースの現状と政策﹄白書﹂において、
レアアース産業の急成長の代償として、行き過ぎた資源開発、生態環境の破壊、不均衡な産業構造、価値と価格の著し
い乖離、密輸出の横行の五点を挙げ、これらの深刻な問題を解決するために、レアアースの開採・生産・流通・輸出入
に対する管理を強化し、レアアース産業の管理強化に関する法律・法令の制定及び整備を進める必要があるとしてい
る )₁₆
(。
2 主 要 な 国 内 政 策
中国のレアアースに関する政策については、国土資源部が鉱山開発・採掘量について、工業信息化部がレアアース関
連産業について、商務部が輸出数量割当枠について所管しており、さらに環境保護部が環境・安全対策の強化の面で各
種施策を進めている。特に二〇〇八年以降、︽稀土工業発展的専項規画二〇〇九
〇一五年︾(二〇〇九年)、︽国務院 - 二
関与促進稀土行業持続健康発展的若干意見︾(二〇一一年)、(稀土産業に関する通達二〇一一年)︽稀土工業汚染物排放
標準︾(二〇一一年)などに代表されるように、各政府部門は様々な国内法整備を行い、法に基づく取締まりの強化、
産業秩序の維持を押し進めてきた )₁₇
(。その国内措置は大きく以下の四つに分類できる。
( )同志社法学 六八巻六号七四WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇六八
① 年 間 採 掘 総 量 の 規 制
国土資源部は二〇〇六年以降、国内生産管理指標(採掘総量資源指標)を設定し、開採及び生産総量を厳しく制限してきた。具体的には、二〇〇六年~二〇一三年に八六、六二〇t~九三、八〇〇tの間で推移し、二〇一四年は二〇一
三年度に比べ約一二%引き上げた一〇万五〇〇〇tとしている )₁₈
(。また、一一のレアアース国家採掘計画ゾーンを指定し、
管轄部署を地方当局から国土資源部に移し、これらの地域での資源の情報収集と産業管理の向上を目指した。
② 企 業 の 集 約 化 に よ る 採 掘 権 の 整 備
レアアース業界の課題である﹁多、小、散﹂(企業数が多い、企業規模が小さい、産業集約度が低い)を改善するために、まず、悪質な中小企業を閉鎖し、大型企業に事業を集約させる政策転換行ってきた。また、全国的な探査許可書、
採掘許可書の新たな申請を停止して新規参入をし、大型企業が主導する産業構造への転換を図るべく、国内すべてのレ
アアース鉱山、分離・精錬企業を六大集団に統合することを目指している。このような鉱業界全体の調整と統合は、か
つての企業の乱立や需要動向を無視した過剰生産、過当競争を抑制する効果があるのみならず、大型企業による新設備
の開発、応用、製品化による二次加工技術レベルの向上につながり、さらに、国家による細部にわたる管理強化、監督、
指導が可能となる。
③ 環 境 保 護 基 準 の 厳 格 化
レアアース企業の生産技術、生産設備の特徴、原材料と補助材料の成分をふまえ、レアアース企業が排出する主要汚( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号七五二〇六九 染物を抑制し、廃水・排気ガス・放射性物質の排出について明確な規定を作成し、排出基準で定められた濃度・量・方
法に従って汚染物質を基準値内に抑えて排出することが義務づけられる。また、環境アセスメント制度が厳密に実施さ
れており、環境への影響を分析・予測・評価し、予防措置と環境への影響を軽減するための措置を講じることが義務づ
けられている。このような高い環境基準はレアアース産業参入のハードルを効果的に高め、レアアース業界の持続的か
つ健全な発展を促すとみられる。
④ 資 源 税 の 引 上 げ
財務部は二〇一一年に、レアアースの資源税税額基準を軽稀土類鉱石は六〇元/tに、中重稀土類鉱石は三〇元/tと、調整前の〇・四元~二元から大幅に引き上げた。資源税の引上げはレアアースの生産コストの増加に繋がり、市場
価格の上昇をもたらすことで需給関係を変化させ、密輸や他国による買い占めを減少させる効果が期待された。
3 輸 出 制 限 措 置
中国によるレアアースの輸出規制手段は、主として輸出割当と輸出税の賦課である。 輸出割当に関しては、一九九八年以降毎年、輸出実績に基づく輸出企業リストを作成し、輸出許可書管理制度を採っ
てきた。このような輸出規制は、中国の原材料貿易政策の典型的な措置であり、導入当初さほど批判されることはなか
ったが、二〇〇六年以降商務部が割当額を継続的に減少してきたことから情勢がかわった。特に、二〇〇九年の五万一
四五トンに対して、二〇一〇年は三万二五九トンと輸出枠約四〇%削減され、二〇一〇年~二〇一四年五年間はほぼ三
( )同志社法学 六八巻六号七六WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇七〇
万トンで推移している )₁₉
(。また、国内企業統合及び審査基準の厳格化の結果、輸出許可書の発給を受ける企業の数も二〇
〇六年の五九社から、二〇一四年には二八社へと半減した。
二〇〇六年から輸出割当に加え輸出税の賦課も開始した )₂₀
(。輸出税は、輸出者に課税対象となっている物品の輸出を思
い止めさせる、あるいは他の非課税物品の輸出に切り替える誘因となりうるという点において輸出割当と類似の貿易制
限効果をもつとされているが、中国は二〇一二年の時点でレアアースについては一〇~二五%の税率を適用していた。
このように、中国が行ってきたレアアース等に関する一連の輸出制限は、これまでの誤った開発政策に伴う環境汚染
に歯止めをかけ、近い将来に枯渇する可能性のある自国資源の持続的な発展を促進するための手段の一つとして採られ
たものであるとみることも可能である。また、輸出制限措置を採ると同時に、採掘量の制限、生産企業の集約化、環境
基準の設定など様々な国内管理を行ってきたのもまた事実である。さらに、中国が輸出規制を行う背景には、輸出価格
の不合理に対する不満がある。レアメタルはハイテク製品の部品に加工される段階で初めて高い付加価値が生じ、原材
料輸出価格を一とすれば、ハイテク製品の輸入価格は数百倍も高くなる場合がある。近年、中国を含む新興国の急速な
経済発展に伴い、資源保有国自身が資源需要国となり、また応用技術水準が向上したため、輸出制限は、資源の無制限
の一方的流出を防ぎ、原材料を自国国内産業に供給し、高付加価値産品を国内で生産できるように産業構造の転換を図
る政策的動機に基づくものである。資源国によるこれらの目的に基づく輸出制限措置は果たしてWTO規則のもとで認
められるのであろうか。
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号七七二〇七一
三 中 国 レ ア ア ー ス 等 輸 出 規 制 事 件
1 輸 出 割 当 と G A T T 第 二 〇 条 ⒢ 号
GATT第一一条一項は﹁締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられ
る産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置による
とを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない﹂と規定し、輸出入
割当、輸出入承認制度等いかなる手段をもってするかを問わず、輸出入制限を禁止している )₂₁
(。しかし、この原則にはい
くつかの適用例外が認められる。GATT第一一条第二項⒜に規定されている﹁食料・不可欠な産品の危機的不足を防
止し、又は緩和するための輸出制限﹂ )₂₂
(、GATT第二〇条⒜~⒥号に規定されている一般的例外、そしてGATT第二
一条の安全保障例外の場合である。
本件において、中国は輸出割当がGATT第一一条一項に違反することを認めたうえで、当該措置は資源保全のため
の措置であり、よってGATT第二〇条⒢によって正当化されると主張した。GATT第二〇条⒢は﹁有限天然資源の
保存に関する措置﹂であることが認められる場合に、貿易制限措置を例外的に認める旨を規定しているが、いくつかの
要件を満たすことが求められる。すなわち、①有限天然資源であること②有限天然資源の保存に﹁関する﹂措置である
こと③当該措置が国内の生産又は消費に対する制限と﹁関連して﹂実施されていること、④GATT第二〇条柱書に規
定されている﹁任意の若しくは正当と認められない差別待遇﹂にならないこと及び﹁国際貿易の偽装された制限﹂にな
らないことである。本件輸出制限措置の対象であるレアアース、タングステン及モリブデンは①﹁有限天然資源﹂に該
( )同志社法学 六八巻六号七八WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇七二
当することについては争いがなく、また④GATT第二〇条柱書は各号の要件が充たされていることを前提とすること
から )₂₃
(、以下、②と③の文言解釈についてみていく。
⑴ 有 限 天 然 資 源 の 保 存 に 関 す る ( relating to ) 措 置
パネルはまず、保存に﹁関する(re la tin g to
)﹂の意味するところについて、米国エビ・エビ製品輸入禁止事件で上 級委員会の判断を踏襲し、﹁関する﹂と言えるためには当該措置が保存を﹁主たる目的(pr im ar ily a im ed a t
)﹂とする必要はなく、措置の一般的な構造とデザインに着目し、問題となる措置と有限天然資源の保存という目的との間に﹁密
接かつ真正な関連性(
clo se a nd g en uin e r ela tio ns hip
)﹂を有するかを基準とすべきであるとした )₂₄(。
このような一般的基準を踏まえて、パネルは中国の輸出割当がレアアース等の保存という目的と﹁密接かつ真正な関
係﹂にあるかについて検討を行った。最初に、中国はレアアースの輸出割当に関する五つの国内法令の中で規定されて
いる措置の文言が明示的に﹁資源の保護﹂の目的に触れており、割当と資源保存政策を明確に関連づけていると主張し
た。パネルは、確かに様々な法律文書のなかで天然資源の保存を目的として掲げられており、そのような明確な言及は
これらの措置が保存に﹁関する﹂証拠となりうるとしたうえで、個々の国内法令の文言を検討した結果、﹁保存﹂への
単なる言及は、輸出割当と有限天然資源の保存という目的との関係性を説明したことにはならないとした )₂₅
(。
次にパネルは中国がその様々な提出文書の中で行った主張は大きく、輸出割当は⒜密輸/違法な採掘の輸出を防ぐ⒝
違法な採掘/生産に対する国内需要を減らす⒞国内外のレアアース消費者に追加的供給源の発見を促すシグナルを与え
る⒟持続的発展を害するおそれがある需要の投機的上昇を予防する⒠中国に限られたレアアース資源の供給を可能にす
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号七九二〇七三 る効果を有すること、そして⒡輸出割当の実施方法自体が保存に﹁関する﹂という六つに分けることができるとした。
そのなかで重要なものを挙げると、たとえば、中国は、特定の企業に輸出割当を行うことによりその輸出源を特定でき、
違法採掘品に対する厳格な水際対策は違法に採掘、生産、輸出への動機を減らし、よって保存に﹁関する﹂措置である
と主張した。しかしこれに対してパネルは、違法な採掘・生産品の輸出防止のためになぜ合法に採取され輸出できる産
品の量まで制限する必要があるのか疑問であり、また、割当上限がなくとも、中国はレアアース輸出に対して検査監視
を行うため、輸出割当による量的制限の目的は合法に採掘生産されたレアアースがどれだけ中国を出たかをコントロー
ルするためである。しかし資源がどこで消費されたかは資源の保存とは無関係である )₂₆
(。さらに中国は、採掘量のみを制
限した場合、国際的な需要の向上に比例して合法的に採掘生産されたレアアースはほとんどが輸出される可能性がある。
そこで、国内需要に応えるために違法な採掘生産が行われるため、輸出割当は国内供給不足を防ぐための措置であると
する。これに対してもパネルは、輸出の数量制限と国内の採掘生産割当の関係はあまりにも曖昧であり、国内の違法採
掘生産に対する需要は輸出割当によってコントロールできるものではないとした。さらにパネルは、国内需要に対する
供給量の不足が違法採掘を生み出しているとの中国の主張と前提とするならば、このことは採掘割当を行うことによっ
て国内消費を削減する効果を持つとする包括的な資源保存プログラムに矛盾する。なぜなら、採掘割当による生産量の
制限は結局、違法採掘の増大をもたらし国内消費の削減につながらないということになってしまうからである。いずれ
にしても中国は違法採掘生産を取り締まる必要があり、このことは輸出割当とは別問題である )₂₇
(とした。
この他にも、輸出割当は外国消費者にレアアースの代替調達先の開発に繋がることにより資源保存政策に貢献すると
する中国の主張に対し、パネルはそのようなメッセージ効果は認められるとする一方で、輸出割当は同時に国内消費者
( )同志社法学 六八巻六号八〇WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇七四
に対して国内下流産業への供給分を確保するという負のメッセージを与えることになるとした )₂₈
(。
⑵ 国 内 生 産 消 費 制 限 と 「 関 連 し て 実 施 ( made effective in conjunction with )」
まず、一般的解釈として、﹁関連して実施(
m ad e ef fe ct iv e in c on ju nc tio n w ith
)﹂とは、輸出割当が国内生産消費制 限と﹁ともに実施(w or k t og et he r
)﹂されることを意味し、その際、特定の効果基準を課すものではないとした )₂₉(。また、
国内生産制限と実施するのに当たって、GATT第二〇条⒢の文言にはないものの、その文脈から導かれる重要な原則
として内外﹁公平性(
ev en -h an de dn es s
)﹂要件があり、これを充足する必要がある。そして、中国が行った輸出制限が﹁国内生産制限と関連して﹂実施してされているかについて、ⅰ中国が国内の生産又は消費制限を課しているかⅱ輸
出割当がそれらの国内生産消費制限とともに実施されているか、という二つに分けて検討するとした。
中国が実施している国内生産消費制限措置として﹁アクセス条件﹂﹁資源税﹂﹁量制限﹂﹁環境基準﹂について検討を
行ったが、その際に、パネルは国内法令において制限する規定があるのか否かのみならず、その制限を履行する措置を
伴っているかをも検討するとした )₃₀
(。アクセス条件について中国は、採掘権を得るためには、アクセス要件(採鉱、溶錬、
析出に関する最小生産規模の設定など)を満たす必要があり、また、新規採掘申請受付停止および採掘規模拡大の禁止
によって、一定の能力を有するよく組織された専門的な企業に限定して採掘を許可していることが国内生産制限に繋が
ると主張した。しかし、パネルは、このようなアクセス条件による制限は新規参入企業を規制するのみで、必ずしも既
存の企業による採掘をコントロールすることを意味せず、国内生産制限のためのものと見なすことはできないとした。
量制限については、中国は現在国内法令に基づいて実施している採掘及び生産割当を挙げたが、パネルは法令が採掘及
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号八一二〇七五 び生産を規定しているだけでは十分ではなく、それを効果的に実施していることを中国は証明する必要がある(
le ga l fra m ew or k
+le ga lly im ple m en t
)とした。そのうえで、二〇一一年の実質採掘量が八万四九四三tであったにも関わらず、二〇一二年の採掘量は九万三八〇〇tに設定された点を挙げ、国内需要の高まりなどから、次年度の採掘許可分
を前年の実質採掘分よりも高く設定することをもって直ちに制限を行っていないということにはならないが、中国は設
定数値が国内生産を制限していることの証拠を提示していないこと、制約枠に実質採掘量が達していないことなどから、
採掘及び生産制限を行っていると結論づけることはできないとした。その他、資源税の増税や環境基準の設定について
も、パネルはこれらの措置がどの程度の国内採掘生産抑制効果を有するかについて十分な証拠を提示していないとした。 次に、輸出割当が国内生産消費制限と﹁関連して﹂実施されているかについて、パネルは﹁時期﹂と﹁程度﹂で判断
する必要があるとした。時期については、輸出割当と国内生産消費制限は﹁ほぼ同時期﹂に実施する必要があるが、中
国が行った採掘割当、生産割当、輸出割当の間にいかなる共同作用や相互調整もみられないとした。また設定程度に関
しても二〇一二年を例に挙げ、第一期輸出割当枠が未消化であったにも関わらず第二期を設定しているのは、余剰分は
中国国内市場に回されることを予見しているからであり、結局採掘分の多くは国内で消費されることとなると判断した。
2 輸 出 割 当 に 関 す る 上 級 委 員 会 判 断
中国国内の諸策を検討した結果、パネルは中国の国内消費は輸出割当によって制限されておらず、中国の措置は資源
の保存というより中国の製造業者に優先的に資源を供給するという産業政策上の目標を達成するためのものであると結
論づけた。中国はパネルの結論自体に対しては異議を唱えず、WTO加盟国の有限天然資源を存する権利を明らかにす
( )同志社法学 六八巻六号八二WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇七六
るためにGATT第二〇条⒢の解釈と適用について再度上級委員会の判断を求めた。
まず、﹁関する﹂の解釈に関して、中国は、パネルは措置の関連性の判断に際して、資源保存と﹁密接で真実の関連﹂
の有無を重視すべきであるところを、当該措置のデザインと構造という視点からのみ判断し、措置の実際上の﹁効果﹂
を排除している点において誤りがあるとした。これに対して上級委員会は、パネルが措置のデザインや構造を重視して
いる手法は妥当であり、このことは事案の性質に応じてケースバイケースに効果分析をすることを妨げないとした )₃₁
(。
﹁T離して解釈し、GAT第を二〇条⒢は輸出割当が分件国お内措置と関連して﹂にい要て、パネルは﹁公平性﹂国
内生産又は消費の制限と関連して行われているのに加え、外国需要者と国内需要者の間に﹁平等な取扱﹂という独立の
要件をさらに課しているように判断している点において誤りがある )₃₂
(。そのうえで、﹁関連して﹂とは輸出割当を行う加
盟国が﹁同時に﹂その対象となる資源の国内生産又は消費について﹁真に効果的な制限﹂を行うことを意味するに過ぎ
ず、必ずしも﹁平等﹂の関係を要求するとはいえないとした )₃₃
(。しかし、この誤りはパネルの結論に影響を与えるもので
はない。
四 G A T T 第 二 〇 条 ⒢ 号 の 解 釈 的 適 用 基 準
1 G A T T 第 二 〇 条 ⒢ 号 要 件 の 検 討
今日まで、GATT第二〇条⒢が援用された事案は、GATT期に五件 )₃₄
(、WTOでは四件 )₃₅
(である。WTOパネル・上
級委員会は協定解釈に関して、理論的には政策裁量の伸縮はないが、条約の実体的・手続き的な法の欠缺や文言の曖昧
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号八三二〇七七 さに対処するために、法創造を行ってきており、国家の通商上の政策裁量の幅は、実質的にパネル・上級委員会の協定 解釈に依存する )₃₆
(といえる。
起草過程における各国の認識では﹁有限天然資源﹂とは鉱物のような不足している非生物天然資源と考えられていた が、その後の判例の蓄積において、﹁生物資源・非生物資源﹂の双方を含むとする解釈が比較的早い段階で確立した )₃₇
(結果、
生物保護、環境保護を正当化する際にGATT第二〇条⒝と合わせて用いられてきた。他方、⒝号で用いられている﹁必
要性基準﹂、すなわち﹁必要な﹂という字句は、﹁合理的に利用可能な(
“r ea so na bly a va ila ble ”
)他により貿易制限的で ない代替手段(“le ss tr ad e- re st ric tiv e alt er na tiv e m ea su re ”
)がないこと﹂という趣旨に狭く解釈されてきており、それを援用しようとする国は、その目的を達成するためには他にガット整合的でより貿易制限的でない措置が存在しない
ことを証明しなければならなかった )₃₈
(。これに対して、GATT第二〇条⒢には﹁必要な﹂という文言は見られず )₃₉
(、﹁有
限天然資源﹂保存の目的に﹁関する﹂措置であるか及び当該措置は国内の生産や消費に対する制限と﹁関連して﹂実施
されたかが問題となる。
GATT第二〇条⒢項が最初に援用されたのは米国のカナダ産マグロ及びマグロ製品の輸入禁止事件である。本件に
おいて米国は、カナダ産マグロ及びマグロ製品に対して行った輸入禁止措置は、経済的動機からではなく、マグロ資源
の合理的な国際保存と管理の必要性によるものであり、また輸入禁止措置と関連して国内においてもマグロ生産及び消
費を制限していたことや、措置が任意または差別的な方法での国際貿易の偽装された制限ではないことから、GATT
第二〇条⒢項の諸要件を満たし正当化されると主張した )₄₀
(。一九八〇年代初頭に争われた本件におけるパネルの裁定は、
GATT第二〇条⒢項の要件解釈について必ずしも十分な検討が行われず、米国がカナダに対して行ったマグロの輸入
( )同志社法学 六八巻六号八四WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇七八
禁止はあらゆる種類のカナダ産マグロ及びマグロ産品に適用されるのに対して、米国国内で採られている生産制限は大
西洋のキハダマグロなどいくつかの種類のみに限定されているとして、GATT第二〇条⒢項の正当化は認められない
とした )₄₁
(。もっとも、GATT第二〇条⒢項の要件のうち、一つでも充足していなければ正当化される余地がなく、よっ
てパネルの判断それ自体に異論はない。しかし、GATT第二〇条⒢項を検討するうえで、措置の目的が持つ意味は何
か、措置が保存に﹁関する﹂ものであるか否かを判断する基準は何か、さらに、国内措置はどの程度実施していれば﹁関
連して﹂と認定されるのかなど、多くの論点を残した。
GATT第二〇条⒢について最初に詳細な解釈を行ったのがカナダの未加工サケ・ニシン輸入制限事件パネルであ
る )₄₂
(。一九八〇年代後半、カナダは﹁サケ類強化プログラム﹂という政令のもとで﹁ニシン、ニシンの卵、ピンク・サー
モン、紅鮭﹂を未加工のまま輸出することを禁じていた。これに対して米国はこのカナダの輸出禁止措置は自国の川下
産業の保護のためであり、GATT第一一条一項にいう数量制限の一般的禁止に違反するとして紛争処理に訴えた。カ
ナダは上記の措置が数量制限であることは認めた上で、当該措置は漁業資源の保存・管理のためのものであり、よって
GATT第二〇条⒢によって正当化されると主張した )₄₃
(。判断を求められたパネルは、GATT第二〇条⒢項は問題の措
置がどのように保存に﹁関する﹂ものであり、また国内措置ともどのように﹁関連して﹂いなければいけないのかにつ
いて言及しておらず、よって、少しでも関係及び関連性があれば良いのか、それとも特定の関係及び関連性が必要とな
るのかが問題となるとした。そのうえで、パネルは、GATT二〇条⒢の目的は貿易政策措置の範囲の拡大ではなく、
GATTのものでの義務が有限自然資源政策の実現の保護を妨げない事を保障するのみであることを勘案すれば、問題
の措置が有限天然資源の保存に﹁関する﹂とされるためには、有限天然資源の保全を﹁第一の目的としている(
pr im ar ily
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号八五二〇七九
aim ed a t
)﹂措置でなければならないとの基準を示したのである )₄₄(。
﹁はも用いられた。パネル米い国の海洋哺乳動物保護てお第キ一の目的﹂基準は米国ハにダマグロ輸入制限事件I法
に基づくキハダマグロ及びその加工産品の輸入禁止がGATT第二〇条⒢によって正当化されるか否かについて、ある
措置が⒢の意味における﹁有限天然資源の保存に関する﹂ものとみなしうるためには、その措置がそのような保存を主
要な目的としていなければならないとし、本件措置は、メキシコの当局者にとって予見不可能な条件に基づく貿易制限
措置であり、したがってイルカの保存を主要な目的としているものとはみなしえないとした )₄₅
(。米国キハダマグロ輸入制
限事件Ⅱにおいても、パネルは、﹁二〇条⒢の﹁関する﹂という用語は天然資源の保存を﹁主たる目的とする﹂ことを
意味し、﹁に関連して﹂という用語は国内の生産又は消費に対する制限を有効にすることを﹁主たる目的とする﹂こと
を意味する。本件措置は他国の政策変更を強制することを目的としており、そのような変更が実現して初めて有効とな
る。そのような措置は、有限天然資源の保存又は国内の生産又は消費に対する制限を有効にすることを主たる目的とし
ていない﹂とした )₄₆
(。
このように、GATT期は条文にないパネルによって﹁発明﹂された﹁第一の目的﹂基準に照らして、いずれもGA
TT第二〇条⒢例外適用を否定した。しかし、﹁関する﹂という文言がパネルによって厳格に解釈された印象が否めない。
また、⒢の第二文である﹁関連して﹂の解釈については、﹁関する﹂と特に区別することなく、当該措置が国内の生産
又は消費に対する制限を効果的にすることを﹁第一の目的﹂としているかが基準とされた。
WTOの最初のパネル報告書である米国・ガソリン精製基準事件でも同様に、﹁輸入品を国産品から区別する措置は、
第一に﹁有限天然資源の保存﹂を目的にしておらず、﹁有限天然資源の保存に関する﹂措置とは言えない﹂とした。こ
( )同志社法学 六八巻六号八六WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇八〇
れに対して、上級委員会は、第一の目的とするという用語は協定で用いられているものではないとしたうえで、当該措
置と有限天然資源の保護との間に﹁直接的な関連性﹂はなくても﹁実質的な関連性(
su bs ta nt ia l r ela tio ns hip
)﹂があれば、第一の目的とするという要件は満たされると緩やかに判断した。また、﹁国内の生産または消費に対する制限と関
連して実施される場合に限る﹂という要件についても、貿易制限措置と国内の制限が同一のものである必要はなく、同
時に(
to ge th er o r j oin tly w ith
)公平に(ev en -h an de dn es s
)実施されているだけでよいと判断した。また、﹁ev en - ha nd ed ne ss tr ea tm en t
﹂とは全く同様の扱いまでを要求している訳ではない。輸出制限は国内生産・消費制限の補充手 段であると捉えるべきである、なぜならば、最も実効的な自然資源保全は国内生産を制限する事である。さらに、em pir ic al ef fe ct s t es t
が用いられる必要はないとした。なぜならば、措置と効果との関連性やそれに要される時間を特定するのは困難だからである。
米国エビ・エビ製品輸入禁止事件では、上級委員会は"第一の目的とする"というテストを放棄し、措置の一般的構 造とデザインを基準として、措置と目的の間に合理的な関連性があるかどうか(
a clo se a nd g en uin e re la tio ns hip o f en ds a nd m ea ns
)に焦点を当てて判断した )₄₇(。
中国鉱物資源輸出制限事件でも同様に、問題の輸出規制が﹁保存に関する﹂かを決定するためには、措置の文言、デ
ザイン及び構造並びに文脈を検討する必要があるとした。また、﹁国内の生産又は消費に対する制限と関連して実施さ
れる﹂の解釈に関して、パネルは⑴輸出制限が国内生産又は消費に対する制限とともに行われること、及び⑵この輸出
制限は国内制限の効果を保証する目的でなされること、という二要件が必要であるとした。これに対して上級委員会は、
⑴はこの規定の文言上明らかであるとしたが、⑵については規定の文言上の根拠がないとしてこれを破棄した。必ずし
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号八七二〇八一 も補助手段として位置づけられる必要はないのである。
このように、GATT期では厳格、保守的な立場を採ってきたが、米国ガソリン事件上級委員会判断を契機として、
﹁第一の目的﹂基準は﹁実質的関連性﹂基準を採用し、正当性が認められやすい方向に解釈の基準を緩めたことにより、
環境政策の方向に舵を取ったとも評価されている。さらに、中国鉱物資源輸出制限事件と本件において、従来の判断に
比べ、﹁関する﹂﹁関連して﹂をより詳細に検討し、その明確化を図ろうとしている。﹁公平性﹂は独立要件としての機
能を持ち合わせておらず、輸出入制限措置が国内措置と同時に実施されることに採って充たされうることが明らかとな
った。また、措置を評価する際に、必ずしも﹁効果﹂まで要求しないことが明らかとなった。このように、判例の蓄積
により、GATT第二〇条⒢が援用される際に満たすべき基準は明らかとなったといえる。しかし、問題は、こういっ
た一般的基準が具体的措置に適用された途端に曖昧となるということである。採られた措置の性質に照らしてケースバ
イケースで判断を行うほかないが、﹁関する﹂を解釈する際に、国内立法は包括的、抽象的であるのが一般、ある特定
の目的のみに明確に焦点を当てた立法は可能なのか疑問が残る。また﹁国内措置と関連して﹂という場合にも、どの程
度の国内措置が必要か )₄₈
(不明確である。このように、一般的基準は明らかとなったものの、被申立国の立証は極めて困難
であり、不利である )₄₉
(と言わざるを得ない。
2 D S U 第 一 一 条 「 客 観 的 評 価 」 と 政 府 政 策 裁 量
WTOにおける挙証責任については、申立国は協定違反について一応(
pr im a f ac ie
)の証明を行えば足り、それがな された後は、被申立国側に反証の責任が転換される )₅₀(。よって、GATT第二〇条例外を援用する場合には、被申立国は
( )同志社法学 六八巻六号八八WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇八二
﹁何を﹂﹁どこまで﹂立証しなければならないのか、そして、パネル・上級委員会はそれに対してどこまで審査権限をも
つのかが問題となる。すなわち、DSU第一一条では、パネルは﹁自己に付託された問題の客観的な評価(特に、問題
の事実関係、関連する対象協定の適用の可能性及び当該協定との適合性に関するもの)を行い、及び同機関が対象協定
に規定する勧告又は裁定を行うために役立つその他の認定を行うべきである﹂と規定しているが、﹁客観的な評価﹂とは、
どの程度の加盟国の国内政策への関与が認められるのであろうか。
本件において、パネルが中国の採った輸出制限がGATT第二〇条⒢項の要件に適合するか否かを検討する過程から、
措置と目的の間の﹁密接かつ真正な関係﹂を極めて重視しているという点が確認できたといえる。中国が主張した輸出
割当の理由として、例えばレアアースの密輸及び違法な採掘を減らすことがレアアースの保存につながるといったもの
には一定の説得力が認められる。また、中国国土資源省が二〇一〇年六月三〇日までの中国におけるレアアースの調査、
採掘資格の申請を停止すると発表したように、二〇〇八年以降、採掘割当や資源税の賦課などによってレアアースの国
内の生産・消費をコントロールしようと様々な措置を講じているのも事実である。しかし、パネルが﹁資源保存になぜ
輸出割当が必要なのかを説明できていない﹂﹁国内生産を制限している証拠を提示していない﹂と繰り返しているように、
中国が敗訴した背景には、輸出割当及び国内生産消費制限措置が間接的あるいは長期的には資源の保存効果をもつとし
ても、GATT第二〇条⒢で求められている要件の証明に失敗したのである。その結果、パネルは中国が行っている輸
出制限の真の目的は中国の製造者が有限資源を優先的に使用するのを確保する産業政策のためのものであると結論づけ
たのである。
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号八九二〇八三
3
「 永 原 」 権 主 的 久 る 天 す 対 に 源 資 然 則
最後に、パネル・上級委員会が認定したように、中国の輸出割当が自国で採掘された有限鉱物資源を自国のために優
先的に使うためであったとして、このことがWTO枠組みのもとで認められているだろうか。これについては﹁天然資
源に対する永久的主権﹂原則とGATT/WTO義務の関係の問題となる )₅₁
(。
WTOへの加盟は、WTO加盟国が天然資源に対する主権を放棄したことを意味しない。他方で、主権があったとし
ても、それに制約を掛ける形で国際条約を締結したのであれば、その約束を守るべきであることは言うまでもない。国
家は確かにその天然資源に対する主権をもつが、この主権はあくまで天然資源を採掘するか、或いは採掘せず、土壌に
そのままにして置いておくかを自由に決定する主権でしかなく、一度その資源が採掘され市場に入れば当然輸出割当禁
止、内国民待遇といったWTOのルールに従うことになる。WTO規則で問題となるのは、資源産出国が資源の採掘規
制を行うことではなく、産出した資源を内外差別的に分配することのないよう規制することである。そしてその自国資
源の保存を図る唯一の手段がGATT第二〇条⒢の要件を満たすことであるということができよう。
ただ、ここでさらに問題となるのが、GATT第二〇条⒢の﹁措置が国内の生産又は消費に対する制限と関連して実 施される﹂ことから導かれる﹁公平性﹂(
ev en -h an de dn es s
)、すなわち、輸出国国内で産出された輸出制限対象物資の どの割合が輸出に割り当てられ、どの割合が国内販売向けに割り当てられるかである )₅₂(。この配分に関しては、GATT
やWTO諸協定には具体的な規定は存在しない。一般に、これは当該措置によって生じる負担は原材料の国内ユーザー
と外国ユーザーに公平な形で分配される必要があるという意味であるが、﹁公平﹂とは、国内事業者と国外事業者に同
一の制約を課すことを要求するものか、それとも負担する犠牲の公平性を要求するものか、何によって﹁公平﹂を判断
( )同志社法学 六八巻六号九〇WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇八四
し、国内生産・消費と国外への輸出する内外分配をどのような割合で行えば公平と認められるのかは依然として不明確
である )₅₃
(。本件の文脈では、中国がここ数年設定している採掘総量九万三八〇〇トンのうちその三分の一である三万トン
を輸出に当てているが、この場合は公平性を満たすかどうかである。さらに、この採掘総量と輸出量の割合の関係はG
ATT第二〇条柱書で要求されている﹁同様の条件の下にある諸国の間において任意の若しくは正当と認められない差
別待遇の手段となるような方法﹂にも関連すると思われる。内外の事業者負担の公平性を明確にする、すなわち、全体
の生産量のうち、輸出と国内消費をどのように分配するかの基準の確立は、産出国による裁定の履行や今後の類似の事
案にとって必要不可欠である。
五 お わ り に
以上﹁中国レアアース等輸出規制事件﹂を素材として、WTO枠組下における天然鉱物資源の保存と輸出制限規制についてみてきた。貿易障害の実質的軽減、差別的待遇の廃止により多角的自由貿易体制の確立することを目指すWTO
において、自国産業の保護や資源の独占のみを目的とする偽装された保護主義は認められない。他方で、貿易利益と他
の重大な利益が衝突する場合には、両者の調整を図る必要があり、その役割を果たしてきたのがGATT第二〇条の一
般的例外である。また、GATT第二〇条⒢における﹁天然資源﹂に関して、天然資源に対する永続的主権や自国の持
続可能な開発を決定する政府裁量も考慮されて然るべきであり、自由貿易との﹁均衡点﹂が模索される必要がある。
しかし、中国の敗訴を捉えて、紛争解決機関が環境や資源保存と言った非貿易的利益よりも貿易の自由化を重視した
( )WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克同志社法学 六八巻六号九一二〇八五 結果であると断定するのは早計である。実際、中国のレアアース資源保存にとって最大の課題は国内違法業者による乱
採掘と割当企業による割当量以上の採掘であり、国内の取り締まりに手を焼いているのが実情である。二〇〇四年以来、
実質輸出額は中国政府が規定した輸出割当額の五〇~六〇%しか満たない。これに対して、中国税関はレアアースを重
点密輸項目の一つとしているが、密輸の現象は依然と悩ましい )₅₄
(。二〇〇六年~二〇〇八年に関して、海外税関の中国か
らのレアアース輸入総量は中国の税関の輸出統計より三五%、五九%、三六%高い。さらに、二〇一一年は一二〇倍と
いう )₅₅
(。このように、レアアース政策に関して中国政府はジレンマを抱えており、輸出割当はあくまでもレアアース保存
のための次善策でしかなく、それが認められなかったのは当然であるとも言える。他方で、中国の主張が何一つ認めら
れなかった点を見ると、GATT第二〇条⒢による正当化、さらには本稿では詳細に検討できなかったが、消極要件と
してのGATT第二〇条柱書の要件を満たしていることを立証するには、極めて高いハードルが課せられていることも
また明らかになったといえよう。
日本のレアアース需要は二〇〇六年の二万九〇四〇tとピークに達したが、二〇一四年には一万四二五五tと半減し
ており、二〇一三年の中国からのレアアース輸入も二〇一〇年の四分の一程度まで低下した。また、中国が輸出割当、
輸出税を完全に撤廃したことにより、﹁レアアース戦争﹂は収束したとみることができよう。しかし、レアアースは単
なる有限天然資源の代名詞にしかすぎず、資源の奪い合いや食料需給の逼迫による輸出規制をめぐる紛争が増加するこ
とが予想されるなか、天然鉱物資源が人類の共有財産であることを考えた場合に、GATT第二〇条例外をどのように
捉えるか、今後の判例における更なる要件の明確化が待たれる。
( )同志社法学 六八巻六号九二WTOにおける天然鉱物資源の保存と輸出制限規制の相克二〇八六
(
ldorW年は一九九八六の易一三〇億額源貿ル資然天の界世、し義定と﹂ドらか〇。たしとたっなと倍六で間年一資にルド億万七・三の年八〇〇二源 1) 境最はたま料材原、るす在存に環限然自﹁を源資然天、はで書告報小の用消有に的済経つか少希ていおに費は加たま産生、で態状のれずいの工な
Trade Report 2010: Trade in Natural Resources, p.46. (https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/anrep_e/world_trade_report10_e.pdf) (
九め計統の置措限制出輸、たといなは務報通のへOTWを義るOこ〇〇二、るよにDCEと、あでは困で難る。他方と るが義いてけづ務規を表公の制易貿各て、る国あと、ずらなみのでに分十不が表公るよし﹂方直るようない法により、ちでに公表しなければならなき 2司、令法るれさ用適に般す一るT施〇GA上T第一条実は﹁締約国が法) の諸がとこる知が者業易貿び及府政⋮判)ていに(定決の上政行び及決つ
( 22org/tadtm/name,/n72,en.htm.84参照)。 orawf R otstioxpn E onsicat Mwerials 2014, http://wwes.oecd.trf R orytoennv, IDCEO材てし対に料が原な々様出国輸制るっ(限れさとたとを(置措) 間一二年の〇に、六〇カ- 二 t IlaorxpEa, sp Eria3置のいて詳細に検証したもとにして、措限制出輸の年近つ律を観めぐる経済的、政策的点規を踏まえつつ、) TO法W Restrictions on Critical Minerals and Metals: Testing the Adequacy of WTO Disciplines(Cambridge University Press, 2015, xxiii 379p.)(
22T, 839S/DT, W539S/D, W439S/DT, WChina – Raw Materialsarious Raw Materials China – Measures Related to the exportation of V4) )(
February 2012.(
( 1.1220e un J29, 43S/DT, WChina – Rare earthsChina-Measures Related to the exportation of Rare earths, tungsten and Molybdenum 5) )(
( 大三七類が世界最種の産者である。生 を%~八〇%る占めてい。米五〇にの質ゼオライト)関産しても世界生地国調八れば、鉱物資源〇に査類のうち、よ種書S告所USG()報鉱物資源の ネグマ、、灰石鉛黒ウシ石ム化合物、珪灰、天然天然、ウム、銀水、鉄銑、ウイジンイ、ム石ニマケ素ゲ石蛍、トンメセ、晶、重、ナミルア融溶ル 6二属タ、スーアアレ、ムウシネグマ金〇、ングモチンアは国中、年〇一ン) スる、スマスビ(料材原の類種二。いテ八ンの世界生産〇て%以上を占め一 , 439SD島ついは、川雄富士細﹁︻WTに件詳のパ事限制出輸源資物鉱国中Oてネ国ル置措るす関に出輸の料材原︱(中会︼上級委員・報書解説⑦告 反TTAG、定違書議入加一国第た一条違反にあると認定された。は中当同品品目を使用した加工品・半加工に割対して課している輸出税、輸出九 7本ームウシマネグマ、石蛍、スクマ件コ、トイサキーボが国中、はで、) ンコび及目品九の鉛亜、ンリ黄、ンリガ属金、トイバーカンコリシ、ンシ DS395, DS398)︱に対する規律に関する解釈の現状と課題︱﹂RIETI Policy Discussion Paper Series 13-P-015参照。(
d taS/DTWs, te S8ditenUe th50, s inans tieuDa–h13; C1620lyu Jbyn Rtioina-Export Duties on Certainaw Cesltasuon Cort fu Meq Rlsiaerath8)
Other Measures Concerning the Export of Certain Raw Materials Request for Consultations by the European Union, WT/DS509, 19 July2016.