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博 士 ( 薬 学 ) 吉 岡 忠 夫 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 薬 学 ) 吉 岡 忠 夫

学 位 論 文 題 名

哺 乳 動 物 精 子 及 び 酸 触 媒 に よ る 非 酸 化 的 N ― ア リ ル ア シ ル ヒ ド ロ キ サ ム 酸 生 成 機 構

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

[ 目的 ]

  芳香族 含窒素 化合物 を始 めとす る生体 異物の 毒性 発現に は,殆 どの場 合生体内での代謝活性化 が 必要 とされ ており ,体細 胞を 対象とした異物代謝研究が行われている。また,異物の中には種々 の 遺伝 毒性を 有する ものが 知ら れてお り,そ れら異 物の代 謝活 性化に 関する研究が生殖器官にお い ても 展開さ れてい る。し かし ,生殖細胞そのものの異物代謝能にっいての報告は皆無に等しい。

こ れら のこと から著 者はヒ トを 含めた 哺乳動 物精子 におけ る芳 香族含 窒素化合物の代謝研究を企 画 し, 芳香族 ニトロ ソ化合 物か ら近接 発ガン 体脂質 含量の 一分 子種で あるNーア リルア セトヒ ド 口 キサ ム酸の 生物学 的及び 非生 物学的 のニっ の新生 成経路 を見 出した 。本研究は生物学的活性が ミ ト コ ン ド リ ア 局 在 の ピ ル ビ ン 酸脱 水 素 酵 素 複合 体(PDHC)に よ るこ と の 証 明 と酵 素 的 及 び 非 生物 学的反 応機構 の解明 を目 的とし ,さら に広範 に使用 され ている 芳香族ニトロ系除草剤の環 境 中に おける 代謝物 のニト ロソ 体から のN−アセ トヒド ロキサ ム酸体 に二 経路に よる生 成能と そ の 意義 にっい ても検 討を行 った 。

[結 果及び 考察]

1.哺乳 動物精 子によ るN―アリ ルアセ トヒ ドロキ サム酸 生成

  豚精 子に グルコ ―スを 始めと する解 糖経 路中の 化合物 を添加 した 生理的条件下で,ニトロソベ ン ゼ ン(NOB)か らN− フ ェ ニ ル ア セ ト ヒ ド 口 キ サ ム 酸(N−OH―AA)の 生 成 を 見 出 し た 。 同条 件下, アニリ ン及 びアセ トアニ リドに 対す るN一 水酸 化活性 は認め られな いこと から ,この N−OH→AA生 成 がP−450介 在 の 酸 化 的 反 応 に よ る こ と は 否 定 さ れ た 。NOBか ら のN―OH ーAA生 成 に お い て ピ ル ビ ン酸 は 最 も 有 効な 基 質 で あ り, [3−'3C] 標 識 ピ ルビ ン 酸 を 用 い た'3C取 り 込 み 実 験 並 び ピン ポ ンBiBi機 構 を 支持 す る 反 応 速度 論 的 実 験 結 果か ら ,NOBと ピ ル ビ ン 酸 がN−OH―AA生 成 反 応 の 直 接 反 応 物 質 で あ る こ と が 証 明 さ れ た 。NOB以 外 に 発ガ

(2)

ン性 が 知 ら れ てい る2ー ニ トロ ソ フ ル オ レン 及 び4―ニト 口ソビ フェニ ルから も対 応するN― ア セト ヒ ド ロ キ サム 酸 体 生 成 が認 め ら れ た 。ま た , 豚以外 にラ ット及 びヒト の精子 もN―OH−AA 生成 活 性を示 したこ とから ,芳 香族二 トロソ 化合物 からのN― アセト ヒド ロキサ ム酸体 生成反 応 は 哺 乳 動物 精 子 に 普 遍的 で あ る こ とが 示 唆 さ れ た。 豚 精 子 のNーOH―AA生 成 活 性 は ミト コ ン ド リ ア で構 築 さ れ て いる 精 子 中 片 部に 局 在 し て おり , チ ア ミ ン ピロ リ ン 酸(TPP)添 加に よ る 活性増 強及び チアミ ンチア ゾロ ンピロリン酸添加による活性阻害が認められた。以上の結果から,

N―OH―AA生 成 活 性 は ミ ト コ ン ド リ ア 局 在 酵 素PDHCに よ る と 推 察 さ れ た 。 尚 ,3 ̄P― NMRに よ りTPPは 豚 精 子 の 細 胞 膜 を 通 過す る こ と が 確認 さ れ , こ の結 果 は 精 子 の保 存 目 的 で 添加さ れる薬 剤とし ての有 効性 を示す もので ある。

2.N―ア リルア セト ヒドロ キサム 酸生成 機構

. 精 子 のN― ア リ ル アセ ト ヒ ド 口 キサ ム 酸 生 成 活性 が , ミ ト コン ド リ ア 局 在 酵素PDHCに よ る ことの 証明実 験を行 った。 精子 のミト コンド リアは 体細 胞のミ トコン ドリア と本質的には同一の 特性を 有する ことが 知られ てい るので ,分離 法が確 立さ れてい る心筋 ミトコ ンドリアと単離豚心 筋PDHCを 用 い てN― ア リ ル アセ 卜 ヒ ド 口 キサ ム 酸 生 成 活性 の 有 無 を 調 べた 。 豚 , ウ シ及 び ヒ ト心 筋 ミトコ ンドリ アは何 れも 精子と 同様に ピルビ ン酸依 存性 のN― アリ ルアセ トヒド ロキサ ム 酸 生 成 活 性 を 示 し た 。 単 離 豚 心 筋PDHCもN−OH―AA生 成 活 性 を 示 し , そ の 至 適pH及 び 活性化 工ネル ギーは 豚心筋 ミト コンド リアで 得られ た値 と一致 した。 以上の ことから哺乳動物精 子 で 認 めら れ たN− アリ ル ア セ ト ヒド 口 キ サ ム 酸生 成 は ミ ト コン ド リ ア 局 在 酵素PDHCに よ る こ と が 強く 示 唆 さ れ た。 単 離 豚 心 筋PDHCによ るN― ア リル ア シ ル ヒ ド ロキ サ 厶 酸 生 成で は , 他 に 以 下 の 知 見 が 得 ら れ た 。 (1)N―OH―AA生 成 反 応 は ピ ン ポ ンBiBi機 構 に 従 い , ピ ル ビ ン 酸 に 対 す るkm値 はPDHCの 正 常 反 応 で の 値 と 一 致 し た 。(2)N―OHーAA生 成 活 性 は Nー エ チ ル マ レ イ ミ ド に よ り 阻 害 さ れ な い が ,ATPに よ り 制 御 を 受 け た 。(3)N―OHーAA 生 成 活 性 はPDHCの 構 成 酵 素 (El,E2及 びE3)の う ち ピ ル ビ ン 酸 の 酸 化 的 脱 炭 酸 反 応 を 触媒 す るE1酵 素 の 単 独 作 用で あ り ,E1酵 素 活 性 発 現に 必 須 な ヒ スチ ジ ン残 基が 本反応 に関与 して い る こ と が示 唆 さ れ た。 (4)a―オキ ソ酸に 対する 基質 特異性 では, ば―オ キソ酸 のア ル キン 基 の 立 体 的効 果 に よ る著 しい影 響が 認めら れた。 (5)芳 香族二 トロソ 化合物 に対す る基 質

(3)

3.酸触媒によるN―アリルアシルヒド口キサム酸生成

  上記した酵素反応機構解明に関連して行った芳香族ニト口ソ化合物とa―オキソ酸からの非酵 素的なN―アリルアシルヒドロキサム酸生成における構造活性相関性に関する実験から,非酵素 的反応における芳香環置換基効果は前述したEl酵素による反応の場合と正反対(芳香族二トロ ソ化合物は酵素的反応では親電子剤,非酵素的反応では求核剤)であるという顕著な相違点が得 られた。尚,本反応は,簡便さと高収率の点で種々のN―アリルアシルヒドロキサム酸合成法と しても有用である。

4.ニ卜ロジフェニルエーテル系除草剤のニトロソ体からのN−アリルアセトヒドロキサム酸体 生成

  上記除草剤には発ガン性が知られているものがあり,また,上記除草剤は環境中でニトロ基の 還元及び脱クロル化反応等が認められている。還元生成物としてアミノ体が確認されていること は,これら除草剤のニト口ソ体が環境中で生成している可能性を示している。これら除草剤及び 脱ク口ル化体のニト口ソ体を用いて豚精子及び酸触媒によるN宀アセトヒド口キサム酸体生成の 有無を検討した結果,両反応系ともにN―アセトヒドロキサム酸体生成率はクロル置換基数の滅 少に伴って増大した。

[ まと め]

(1)精子に認められた芳香族ニト口ソ化合物からのN―アリルアシルヒドロキサム酸生成が,ミ ト コ ン ド リ ア に 局 在 す るPDHCの 構 成 酵 素El酵 素 に よ る こ と を 明 ら か に し た 。

(2)酵素的及び 非酵素的なN―アリルアシル ヒド口キサム酸の生成機構を明らかにした。

(3)ニト口ジフェニル工―テル系除草剤のニト口ソ体からのNーアルルアヒド口キサム酸体生成 が中性一酸性の液性領域にわたって環境中で起こる可能性が示唆され,また脱ク口ル化に伴って 反 応 性 が 増 大 す る こ と は 本 除 草 剤 の 安 全 性 に 対 す る 警 鐘 と な る こ と を 示 し た 。

(4)本反応は生殖細胞及び体細胞のみならず全ての好気的生物における近接発ガン体生成とエネ ル ギ ー 代 謝 ・ 物 質 代 謝 の 撹 乱 と い う 両 面 に お い て 重 要 な 代 謝 経 路 と 考 え ら れ る 。

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授    米 教 授    鎌 助教授   浜 助 教 授 横

光   宰 滝哲也 田辰夫 井   毅

  芳香族含窒素化合物などの生体異物の毒性作用発現には,生体内で代謝を受けて生成する活性 代謝物によるものが多いことが知られており,体細胞による代謝研究がよく行われている。これ ら毒性物質の中には,遺伝毒性を有するものも種々知られており,これらの生殖器官における代 謝活性化に関する研究も行われている。しかし,生殖細胞そのものにおける異物代謝にっいての 報告は皆無に等しい。本研究は豚をはじめラット,ヒトなど哺乳動物精子における芳香族含窒素 化合物の代謝研究に取り組み,芳香族ニト口ソ化合物から近接発がん体の一分子種であるN−ア リルアセ トヒド口キサム酸(NーOH―AA)の生成を初めて発見し,詳 細な反応機構の検討を 行い,さらに同 じ反応が非酵素的触媒反応で も進行することも明らかにしたものである。

  ブ夕精 子にグルコースを添加した生 理的条件下で,二トロソベ ンゼン(NOB)からN―OH‑

AAの生成が認められた。この反応は従来から知ら・れているP―450介在の酸化的代謝経路によ るものではない 。[3―'3C]標識ピルビン酸 を用いてN―OH−AAへの'3C取り込みを調べ,

ピンポンBiBi機構で反応が進行することから,ピルビン酸が直接の基質であることが証明され た。N―OH−AA生 成はブ夕以外にラッ卜及び ヒ卜の精子においても認められたことから,こ のNOBか らN−OH一AA生 成 反 応 は , 哺 乳 動 物 精 子 に 共 通 し た も の と 思 わ れ る 。   夕ブ精子のN―OH―AA生成活性はミトコン ドリアで構築されている精子中片部に局在して おり,こ の活性はミトコンドリアに局 在するTPP依存酵素であるPDHCによるものと推察さ れた。このことを分離法が確立されている心筋ミトコンドリアを用いて証明することができた。

即ち,ブ夕,ウシ,及びヒトの心筋ミトコンドリアは何れも精子と同様にピルビン酸を基質とす るN―OH−AA生成活性を示した。さら に単離したブ夕心筋PDHCでも 全く同じ結果をえた。

(5)

  N一OH−AAの 生 成 はpH5以 下 の 酸 性 側 で は 非 酵 素 的 酸 触 媒 反 応 に よ っ て も 進 行 す る 。 NOBと ピ ル ビ ン 酸 か ら の 酸 触 媒 に よ るN―OH―AA生 成 の 二 次 反 応 速 度 定 数 とpHと の 関 係 な ど に よ り, こ の 非 酵 素的N−OH−AA生 成 の機 構 も 解 明 して い る 。 最 後 に, 除 草 剤 の 環境 中 で の変化 にも言 及して いる。 即ち ,塩基 化ニト 口ジフ ェニ ルェー テル系 除草剤の中には発がん性 の も の も ある 。 こ ら れ の還 元 が 知 ら れて い る が , 環境 中 ニ ト 口 ソ 体を 経 てN−OH―AA誘導 体 へ の変化 の可能 性があ ること を警 告して いる。 以上, 本研 究は芳 香族含 窒素化合物が精子及び酸 触 媒 に よ ってN−OH―AAに 変 換さ れ る こ と を詳 細 な メ カ ニズ ム の 検 討 と 共に は じ め て 明ら か に したも ので, この研 究を行 った申請者は博士(薬学)の学位を受けるに充分価すると認定した。

参照

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