博 士 ( 薬 学 ) 北 村 正 典
学 位 論 文 題 名
機能性を有する縮合多環式化合物の合成とその応用 学位論文内容の要旨
1
.はじめにベンゼン環が直線状に縮環したポリアセン類は、光物理的および電子的機能性を有する化 合物である。例えぱ、ポリアセン類の螢光を利用して、糖類のセンサーが開発されている。
また、ポリアセン類の反応性を用いて、一重項酸素の検出物質としても利用されている。し かしながらポリアセンは、2つの問題点をもつ。その1っは、「ポリアセンが有機溶媒に難溶 性であること」である。化合物が不溶であると、単離精製や、材料として加工を行う際に難 点となる。2つめは、「多置換ポリアセン誘導体の系統的合成法が確立していないこと」であ る。
そこで本研究では、溶解性や機能性の向上を目的として、種々の「置換基」を持ったポリ アセン類の合成とその手法の開発を行った。さらに、置換基を導入したポリアセンの機能性 を検討した。また、多置換ポリアセンの前駆体となる多置換縮合多環式化合物の「置換基」
効果についても検討した6
釜!:鐘金窒墓盡iヒ金塑Q杢モロゲーションによる合成法
I
鬮まず、種々の「置換基」を持ったポリアセン類の前駆体となる、縮合多環式化合物の系統 的合成を行った。ある特定の官能基を利用して新たに環を構築し、新たに構築した環に同一 の官能基を導入する。もしこの過程が可能であれぱ、これら操作を繰り返すことで縮合多環 式化合物への手がかりになる。この方法一―ホモロゲーション法一は、ジルコノセンを用いた 環化反応を鍵とすることで達成される。高橋らは、ジルコナシクロペンタジェンが銅塩存在 下で
DMAD
と環化反応し、フタル酸誘導体を合成できることを報告している。このフタル酸 誘導体には、本法で重要な2つのメトキシカルボニル基が存在する。これらを用いて、再びCP2ZrBu2
を用いた環化反応が行えるように、ジインヘの変換を行った。メトキシカルボニル 基を還元してジオールとし、これをジプロミドとした。ジブロミドに対してりチウムアセ チリドを用いたアルキニル化を行い、ジインを合成した。このようにして得られたジインを、ClhZrBu2
で処理してDMAD
との環化反応を行ったところ、3
環式化合物、アントラセン誘導 体が81%で得られた。同じく、これら―連の反応を繰り返し、5環式、7環式化合物を得た。さらに、4,
10‑
テ卜ラデカジインを使った環化で得られる、2環式ナフタレン誘導体を出発物 質として、同様の操作を行うことで、偶数個の環で構成された縮合型多環式化合物の合成が、可能であぅた。これらのことから、本方法を用いることで任意の数の環で構成された多環式 化合物の合成が、理論上可能である。
2‑2.
壇還厘塵Q
整鑓ここまでの合成方法では、2環ずつ増環が行われ、
2
っのメトキシカルボニル基を持つ化合 物が得られた。しかし、様々な多環式化合物を合成しようという観点からは、常に2
っのメ トキシカルポニル基を持つ化合物になるのは、よいことではなぃ。そこで、環化反応を異な る別法で行い、増環反応を終結させることを行った。別法というのは、鋼塩存在下でのジル コナシクロペンタジェンとジョードベンゼン類とのカップリング反応である。さらに、ニツ ケル錯体存在下でのジルコナシクロペンタジェンと様々なアルキンとの環化反応によっても、― 808―
種々の多環式化合物の合成ができた。
2‑3
:窒眞基盤.型Z童Z麺堕金盧合成した縮合型多環式化合物には飽和環が存在する。これをDDQ(2,3‐ジクロロ‐5,6.ジシ アノ
‑p‑
ベンゾ キノン )など の酸化 剤で芳 香族化することでポリアセンヘ導くことができる。テ ト ラヒ ド ロ ナ フタ レ ン誘 導体を
DDQ
で酸化 してナ フタレ ン誘導 体とし 、2環を 増環さ せる 一連 の反応 を繰り 返した 。さら に、得ら れたジ ヒドロ ナフタ セン誘 導体をDDQ
で酸化 して、ナ フ タ セ ン 誘 導 体 を 得 た 。 こ の 構 造 を 、
X
線 結 晶 構 造 解 析 に よ り 確 認 し た 。 きn‑BuLi/TMEDA/CHlI
童 周 ! ニ た 釜Z生 量坐 置 墓 ジ ヒド ロ ア ン トラ セ ンQ
菱 垂 藍iヒ竺、
DDQ
を 用 いた 芳 香 族 化で は 、DDQ
と生 成 物がDiels‑Alder
反応 し、副 生成物 を生じ る。そ ` こ で、 今 回n‑BuLi/TMEDNMel
と い う新 し い 芳 香族 化 反 応 を見 い だ し た。 は じ め の段 階 で 、 ジヒ ド ロ ア ント ラ セ ン 誘導 体 に2
当 量 のn‑BuLiとTMEDA (NN,N:N
′‐テ トラメ チルエ チレン ジアミ ン)を加 え′50℃で撹拌 する。 その後 、室温 にして ョウ化メチルを加えるとアントラセ ン誘導 体が高収 率で得 られた 。さま ざまな 基質で 反応を 行ったところ、置換基(アルキル基)を持つ 基質に有 効であ ること がわか った。
生 固 笠 迭 聾 に お け 塁9,10‑ジ ヒ ド ロ ア ン ト2窒Z透 婆 倥Q豊 墨 的 醒 塵 墨 蛙 倥m
6置 換 ベ ン ゼ ン の 配 座 異 性 体 で は 、 隣 り 合 う 置 換 基 の 立 体 障 害 の た め に 、 置 換 基 は 交 互 に 並 ぶ 。 こ の 配 座 異 性 体 は 、 非 常 に 安 定 で あ る と 考 え ら れ 、 こ の 配 座 を 利 用 し た 応 用 研 究 も 既 に な さ れ て い る 。
今 回 合 成 し た9,10. ジ ヒド ロ ‐1,2,3,4,5,6,7,8− オ クタ プ ロピ ルア ン トラ セ ンのX線 結 晶構 造解 析 を 行 っ て み る と 、3つ 連 続 で 置 換 基 が 同 じ 側 を 向 い て い る 特 異 的 な 配 座 が 見 ら れ た 。 こ れ は 、 こ れ ま で の 研 究 で 得 ら れ な か っ た 新 し い 知 見 で あ り 、 常 に 置 換 基 が 交 互 に 配 置 さ れ な ぃ こ と を 示 し て い る 。
曇 臺 置 逸pリ ア セZQ撞 鐘 性
ア ル キ ル 基 は 、 ポ リ ア セ ン の 溶 解 性 を 向 上 さ せ る 。1,2,3,4,5,6,7,8‐ オ クタ ブ チル ア ント ラセ ン の 溶 解 度 は 、 母 体 ア ン ト ラ セ ン に 比 ベ 、 モ ル 数 で 約20倍 良 好 に な っ た 。
ま た 、 種 々 の ナ フ タ セ ン 誘 導 体 に つ い て 、 蛍 光 ス ペ ク ト ル の 測 定 を 行 っ た 。 官 能 基 に 依 存 し 疋 、 蛍 光 発 光 波 長 と 蛍 光 量 子 収 率 は 変 化 し た 。 特 に 、 エ ス テ ル 基 を 導 入 し た ナ フ タ セ ン 誘 導 体 の 量 子 収 率 が 、 母 体 の も の よ り 向 上 し て い た こ と は 特 筆 す べ き こ と で あ る 。 今 後 、 こ の よ う な 物 性 を 用 い 、 セ ン サ ー な ど が 開 発 さ れ る こ と を 期 待 す る 。 6. . ま と め
今 回 、 多 置 換 ポ リ ア セ ン 類 を 合 成 す る 系 統 的 合 成 法 亠 一 ホ モ ロ ゲ ー シ ョ ン 法 亠 一 を 確 立 し た 。 ア ル キ ル 基 に よ っ て 、 ポ リ ア セ ン の 溶 解 度 は 向 上 し て お り 、 官 能 基 に よ っ て そ の 物 性 を 大 き く 変 え る こ と が わ か っ た 。 ま た 、n‑BuLi/TMEDA/CH3Iを 用 い た ジ ヒ ド ロ ア ン ト ラ セ ン 類 の 芳 香 族 化 反 応 を 見 出 し 、 こ の 方 法 が 「 置 換 基 」 を も つ 化 合 物 に 有 効 で あ る こ と が わ か っ た 。 さ ら に 、 固 体 状 態 で の ジ ヒ ド ロ ア ン ト ラ セ ン 類 の 側 鎖 で あ る 「 置 換 基 」 の 特 異 的 配 座 異 性 体 を 見 出 し た 。
1) T. Takahashi, M. Kitamura, B.Shen, and K. Nakajima, J Am. Chem. Soc., i22, 12876 c2000).
2) T. Takahashi, Y. Li, P. Stepnicka, M. Kitamura, Y. Liu, K. Nakajima, and M. Kotora, J Am. Chem.
Soc., 124, 576 (2002).
3) M. Kitamura, B. Shen, Y. Liu, H. Zheng, and T. Takahashi, Chem. Lett., ZO01, 646.
4) M. Kitamura, G Gao, Y. Liu, K. Nakajima, and T. Takahashi, Chem. Lett., 2002, 1076.
―809 ‑
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
高橋 森 佐藤 小笠原
学 位 論 文 題 名
保 美和子 美洋 正道
機能 性を有す る縮合 多環式化 合物の合成とその応用
ポ リ ア セ ン は 、 光 物 理 的 お よ び 電 子 的 機 能 性 を 有 す る 前 途 有 望 な 化 合 物 で あ る 。 な ぜ な ら 、 ポ リ ア セ , ン 類の 螢光 を利 用 レて 、糖 類の セン サー が開 発さ れて いた り、
ポ リ ア セ ン 類 の 反 応 性 を 用 い て 、 一 重 項 酸 素 の 検 出 物 質 と し て も 利 用 さ れ て い るか ら で あ る 。 し か し な が ら 、 ポ リ ア セ ン は 、 「 ポ リ ア セ ン が 有 機 溶 媒 に 難 溶 性 で ある こ と 」 と 「 多 置 換 ポ リ ア セ ン 誘 導 体 の 系 統 的 合 成 法 が 確 立 し て い な い こ と 」 と いう
一
問題 点を 抱え てい るの は、 学位 申請 者が 挙 げる 通り であ る。
こ の 研 究 で は 、 溶 解 性 や 機 能 性 の 向 上 を 目 的 と し て 、 種 々 の 「 置 換 基 」 を 持 った ポ リ ア セ ン 類 及 び 縮 合 多 環 式 化 合 物 の 合 成 と そ の 手 法 の 開 発 が 行 わ れ て い る 。 さら に 、 置 換 基 を 導 入 し た ポ リ ア セ ン の 機 能 性 に つ い て 検 討 が 行 わ れ て い る 。 具 体 的に は、 っぎ の通 りで ある 。
第
1
章 で は 、 種 々 の 「 置 換 基 」 を 持 っ た ポ リ ア セ ン 類 の 前 駆 体 と な る 、 縮 合 多 環 式 化 合 物 の 系 統 的 合 成 に つ い て で あ る 。 あ る 特 定 の 官 能 基 を 利 用 し て 新 た に 環 を構 築 し 、 新 た に 構 築 し た 環 に 同 一 の 官 能 基 を 導 入 す る 。 こ れ ら 操 作 を 繰 り 返 す こ とで 縮 合 多 環 式 化 合 物 へ の 手 が か り と し た 。 銅 塩 存 在 下 で の ジ ル コ ナ シ ク 口 ペ ン タ ジェ ン とDMAD
と の 反 応 を 鍵 反 応 と し 、 こ の 反 応 に よ り 得 ら れ る フ タ ル 酸 誘 導 体 を 出 発 と し て い る 。 こ の フ タ ル 酸 誘 導 体 に は 、 本 法 で 重 要 な2
つ の メ ト キ シ カ ル ボ ニ ル 基 が 存 在 す る 。 こ れ ら を 用 い て 、 再 びCp2ZrBu
: を 用 い た環 化反 応が 行え るよ うに 、ジ イ ン ヘ の 変 換 を 行 っ た 。 ジ イ ン を 、Cp
ユZrBu2
で 処 理 してDMAD
との 環化 反応 を行 った と こ ろ 、3
環 式 化 合 物 、 ジ ヒ ド ロ ア ン ト ラ セ ン 誘 導 体 を81
名 で 得 て い る 。 同 じ く 、 こ れ ら 一 連 の 反 応 を 繰 り 返 し 、5
環 式 、7
環 式 化 合 物 を 得 て い る 。 本 方 法 を 用 い る こ と で 任 意 の 数 の 環 で 構 成 さ れ た 多 環 式 化 合 物 の 合 成 が 、 理 論 上 可 能 で あ る こ とを 明ら かと して いる 。第
2
章 で は 、 多 置 換 ポ リ ア セ ン の 合 成 に つ い て 述 べ て い る 。 合 成 し た 縮 合 多 環 式 化合 物に は飽 和環 が存 在す る。 これをDDQ(2,3―ジク口口―5,6ージシアノー ケベンゾ キ ノ ン ) な ど の 酸 化 剤 で 芳 香 族 化 す る こ と で ポ リ ア セ ン ヘ 導 く こ と が で き る 。 テトラ ヒ ド 口 ナ フ タ レ ン 誘 導 体 を
DDQ
で 酸 化 し て ナ フ タ レ ン 誘 導 体 と し 、2
環 を 増 環 さ せ る 一 連 の 反 応 を 繰 り 返 し た 。 さ ら に 、 得 ら れ た ジ ヒ ド 口 ナ フ タ セ ン 誘 導 体 をDDQ
で 酸 化 し て 、 ナ フ タ セ ン 誘 導 体 を 得 た 。 こ の 構 造 を 、X
線 結 晶 構 造 解 析 に よ り 確 認 している。第
3
章 で は 、 多 置 換 縮 合 多 環 式 化 合 物 に 有 効 な 新 規 芳 香 族 化 に つ い て 述 べ ら れ て い る 。DDQ
を 用 い た 芳 香 族 化 で は 、DDQ
と 生 成 物 がDiels
ーAlder
反 応 し 、 副 生 成 物 を 生 じ る 。 今 回 見 出 し て い るn‑BuL i/TMEDA/MeI
と い う 新 し い 芳 香 族 化 反 応 で は 、 こ の よ う な 副 反 応 を 起 こ さ な い 。 は じ め の 段 階 で 、 ジ ヒ ド 口 ア ン ト ラ セ ン 誘導 体に2
当 量のirBuLi
とTMEDA
( ルルル′,ル′―テトラメチルェチレンジア ミン)を加え50°C で 撹 拌 す る 。 そ の 後 、 室 温 に し て ヨ ウ 化 メ チ ル を 加 え る と ア ン ト ラ セ ン 誘 導体 が高 収 率 で 得 ら れ て い る 。さ まざ まな 基質 で反 応を 行っ たと ころ 、置 換基 (ア ル キル 基)を持つ基質に有 効であることがわかっている。
第
4
章 で は 、 特 異 的 な9
,10
一 ジ ヒ ド 口 ア ン ト ラ セ ン 誘 導 体 の 配 座 異 性 体 につ いて 述 べ ら れ て い る 。6
置 換 ベ ン ゼ ン の 配 座 異 性 体 で は 、 置 換 基 は 交 互 に 並 び 、 こ の 配 座 異 性 体 は 、 非 常 に 安 定 で あ る と 考 え ら れ て き た 。9
.10
ー ジ ヒ ド 口―1,2,3,4,
5
,6,7,8―オクタプ口ピルアントラセンのX線結晶構造解析を行ってみる と 、3
つ 連 続 で 置 換 基 が 同 じ 側 を 向 い て い る 特 異 的 な 配 座 が 見 ら れ た 。 こ れ は 、 こ れ ま で の 研 究 で 得 ら れ な か っ た 新 し い 知 見 で あ り 、 常 に 置 換 基 が 交 互 に 配 置さ れな いことを示:し ている。最 箪 の 第
5
章 で は 、 多 置 換 ポ リ ア セ ン の 機 能 性 に つ い て 研 究 が 行 わ れ て い る 。 ア ルキル基は、ポ リアセンの溶解性を向上させる。1,2,3,4,5,6,7,8―オクタブチルア ン ト ラ セ ン の 溶 解 度 は 、 母 体 ア ン 卜 ラ セ ン に 比 ベ 、 モ ル 数 で 約20
倍 良 好 に なっ た。ま だ 、 種 々 の ナ フ タ セ ン 誘 導 体 に つ い て 、 螢 光 ス ベ ク ト ル の 測 定 を 行 っ た 。官 能基 に 依 存 し て 、 螢 光 発 光 波 長 と 螢 光 量 子 収 率 は 変 化 し た 。 特 に 、 エ ス テ ル 基 を導 入し た ナ フ タ セ ン 誘 導 体 の 量 子 収 率 が 、 母 体 の も の よ り 向 上 し て い た 。