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学位論文題名農村地域における窒素フローに関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 松 本 成 夫

     学位論文題名

農村地域における窒素フローに関する研究

一理想的な窒素循環を維持する有機物管理を中心にして一

学位論文内容の要旨

  作物の安定多収を維持するために、多量の化学肥料が施用されている。しかしそ れは地下水や河川に負荷を起こす場合もあることが指摘されている。また高品質な 畜産物の高位安定生産のために大量の飼料が家畜に与えられてきたが、排出される 家畜糞尿を農地に還元できずに、廃棄せざる得ない地域も生じ、環境汚染を起こし ている場合も指摘されている。都市部に集中する住民の屎尿・生ゴミなど多量の生 活廃棄有機物は処理場に輸送され、処理水は河川に排出されている。農地、家畜、

人間系のいずれも、多量な物質が流入しては余剰物質を排出し、環境負荷を生む方 向に向かっている。その是正のために、物質循環の観点から、栄養塩を多く含む家 畜糞尿や生活廃棄有機物を農地に還元し、化学肥料を減じる方向性が探られている。

すなわち低投入・環境保全型農業を構築しようとしている。そのためには、農地、

家畜、人間系において、実際にどれだけの有機物資源が生産され利用されているの か、それに伴なってどのように栄養元素が農地、家畜、人間系を巡っているかを、

知らねぱならない。

  本研究は、その物質循環を地域レペルでモデル化し、さまざまな統計資料やアン ケート調査資料に基づいて、現在の有機物資源と栄養元素、特に窒素の動態を明ら かにすることを目的にしたものである。農地、家畜、人間系の間のフローを定量し、

系内の収支を求め、農村、山村、都市地域の窒素循環の特徴を明らかにし、当該地 域、地域間における適正な有機物管理を考察した。

  窒素フローモデルは「農地」−「食料・飼料」―「人・家畜」―「糞尿」ー「農 地」の循環系を基本としている。この循環系に窒素が出入りする経路を加えてモデ ルは構築されている。農地系には「施肥」、「堆肥施用」、「降雨」、「窒素固定」

による窒素の流入と、「脱窒」、「作物吸収」による窒素の流出がある。この流入 が流出を上回ると、窒素は農地に「蓄積」し、ひいては農地から「溶脱」する。作 物に吸収された窒素のうち主産物に含まれるもの;ま「出荷」されたり家畜の「飼料」

となる。残りの副産物中の窒素jま、家畜糞尿とともに「堆肥」に利用されたり「廃 棄」される。家畜系には牧草・飼料作物とともに「購入飼料」による窒素が流入す る一方で、家畜生産物として「出荷」される。糞尿中の窒素は「堆肥」化されるが 一部は「廃棄」される。人間系には「購入食料」による窒素が流入する一方で、生

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ゴミや屎尿により窒素は流出する。

  これら窒素フローは地域の農林水産統計資料や農業センサス、農家生計費統計、

畜産物生産費統計などの統計資料、地力保全基本調査総合成績書や農林水産省によ る堆厩肥施用のアンケート調査デー夕、その他50編の文献に基づいて計算された。

  本モデルを茨城県内の土地利用形態の異なる平地農村地域である牛久沼流域、山 地畜産地域である里美村、都市地域である取手市の3地域に適用し、窒素フローの 現状を評価した。その概要は以下のように要約される。

  平地農村地域の牛久沼流域は、農地が地域の40%を占め、豚が2頭/ha飼育されて いる農家人口が総人口の30%を占める地域である。そこでは年間142kg/haの窒素に 相当吏る堆肥化可能な有機物資源が生産されると見積もられたが、その40%は屎尿 と生ゴミであり、実際に堆肥として農地に流入する窒素は 77kg/haであった。作物吸 収により129kg/haの窒素が農地から流出するが、化学肥料は109k g/ha与えられてお り、結局農地には年間72k g/haの窒素が蓄積し、溶脱する可能性を示していた。廃棄 窒素の70%は処分場で除去できずに流出するため、地域かちは5. 3ppmの窒素濃度を もつ水が河川に流出する可能性を示していた。なお農業用水基準はlppmとされてい る。

  山地畜産地域の里美村は、林野が地域の90%を占め、農地は5%を占めるに過ぎ ない。農地の大半が放牧地で牛が2.3頭/ha飼育される農家人口が総人口の74%を占 める地域である。生産される有機物資源窒素量は、年間266kg/haと見積もられた。

その85%が堆肥化され、187kg/haが農地に還元され、他地域にも堆肥tま販売されて いた。作物吸収により197kg/haの窒素が農地から流出するが、化学肥料により93kg /haが与えられるため、結局農地には109k g/haの窒素が蓄積される。農地蓄積量は多 いものの廃棄量が少ないため、地域からは平均1.5ppmの窒素濃度をもつ水の排出が 予測される。

  都市地域の取手市1ま、人口密度が2000人/km、農家人口は総人口の6%を占める地 域である。農地面積は地域面積の23%を占め、その73%は水田である。そこでは、

年間398kg/haの有機物資源が生産されていた。しかしその84%は屎尿・生ゴミであり 堆肥による農地還元窒素量は65kg/haにすぎなかった。植物吸収により108kg/haが農 地から流出するが、化学肥料は92kg/ha与えられており、農地には65kg/haの蓄積が ある。農地への蓄積量はもっとも少ないが廃棄量が多いため、地域からは7.4ppmの 窒素濃度をもっ水の排出が考えられる。

  以上の結果から、地域における有機物資源由来の窒素量はいずれも作物吸収量を 上回っている。しかしその利用率は山地畜産地域で85%、平地農村地域では50%、

都市地域では10%と異なり、その違いが人間系を通る窒素の廃棄によるものであり、

その利用率の低さが河川への排出水の窒素濃度を高める原因となることが明らかに なった。したがってまず廃棄窒素量を減らし、堆肥化する必要のあることが強く指 摘された。次に有機物資源の利用効率が高まると、農地への窒素蓄積量が多くなる。

この蓄積を適正なレペルにするために化学肥料の施与量を減じ、裏作の導入により 余剰窒素を吸収固定することが指摘された。都市や畜産地域など食料と飼料の購入 により外部から多量の窒素が持ち込まれている地域では、その農地は明らかに全量

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の窒素を受け入れることができない。この窒素は、農産物輸出国を含む他地域ヘ販 売する必要があることが指摘された。

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学位論文審査の要旨 主査   教授   波多野隆介 副査    教授    但 野利秋 副査   教授   大久保正彦

    学 位 論 文 題 名

゛ 農 村 地 域 に お け る 窒 素 フ ロ ー に 関 す る 研 究   一 理 想 的 な 窒 素 循環 を 維 持 す る 有機 物管 理を 中心 にし て一

  本論文は11章で構成され、図35、表44、引用文献86および付表17と引用資料50を 含 む 総 頁 数240の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 論 文11編 が 添 え ら れ て い る 。   現在、先進各国では作物生産、家畜生産、人間生活のいずれもが、多量な物質が 流入しては余剰物質を排出し、環境負荷を起こす方向に向かっていることが指摘さ れている。その是正のために、物質循環の観点から、栄養塩を多く含む家畜糞尿や 生活廃棄有機物を農地に還元し、化学肥料を減じる低投入・環境保全型農業の方向 性が探られている。そのためには、農地、家畜、人間系において、実際にどれだけ の有機物資源が生産され利用されているのか、それに伴なってどのように栄養元素 が 農 地 、 家 畜 、 人 間 系 を 巡 っ て い る か を 、 知 ら ね ば な ら な い 。   本研究は、その物質循環を地域レペルでモデル化し、さまざまな統計資料や調査 資料に基づいて、有機物資源と栄養元素、特に窒素の動態を明らかにすることを目 的にしたものである。農地、家畜、人間系の間のフローを定量し、系内の収支を求 め、農村、山村、都市地域の窒素循環の特徴を明らかにし、当該地域、地域間にお ける適正な有機物管理を考察した。

  窒素フ口ーモデルは「農地」―「食料・飼料」−「人・家畜」―「糞尿」―「農 地」の循環系を基本としている。この循環系に窒素が出入りする経路を加えてモデ ルは構築されている。農地系には「施肥」、「堆肥施用」、「降雨」、「窒素固定」

による窒素の流入と、「脱窒」、「作物吸収」による窒素の流出がある。この流入 が流出を上回ると、窒素は農地に「蓄積」し、農地から「溶脱」する。作物に吸収 された窒素のうち主産物に含まれるものIま「出荷」されたり家畜の「飼料」となる。

残りの副産物中の窒素は、家畜糞尿とともに「堆肥」に利用されたり「廃棄」され る。家畜系には牧草・飼料作物とともに「購入飼料」による窒素が流入する一方で、

家畜生産物として「出荷」される。糞尿中の窒素iま「堆肥」化されるが一部は「廃 棄」される。人間系には「購入食料」による窒素が流入する一方で、生ゴミや屎尿 として窒素は「廃棄」される。

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  こ れ ら の窒 素 フ 口ー は 、 地域 の 農 林水産 統計資料 や農業 センサス 、農家生 計費統 計 、畜 産 物 生産 費 統 計な ど の 統計 資 料、 地力保全 基本調査 総合成 績書や農 林水産 省 による堆厩肥施川のアンケート言冏査デー夕、その他50編の資料に盤づい・て〓!.ユ9.さiL た。

  木モデ ルを茨 城県内の土地利用形態の異なる平地農村、山地畜産、州市の:ニjj に 適 用 し 、 窒 素 フ ロ ー の 現 状 を 評 価 し た 。 そ の 特 徴 を 以 下 に 要 約 す る 。   平地農 村地域 では、年 間142kg/haの窒 素に相当する堆肥化可能な有磯物資源かニi 産されるが、その40%は屎尿と生ゴミ,であり、実際に堆肥とし`く農地に流入.;.る窒 素は77k g/llaであ った。作 物吸収 により129kg/haの窒素が農地から流出するが、化学 肥料は109kg/lia与 えらjLてお り、結 局農地に は年間72kg/haの窒 素が蓄積し、溶脱す る 可能 性 を 示し て い た。 廃 棄 窒素 の70%は 処分場で 除去で きずに排 出される ため、

地 域か ら は 平均5.3ppmの窒 素 濃 度を も つ水が河 川に流出 する可 能性を示 してい る。

なお農業用水基準はlppmとされている。

  山 地 畜 産地 域 で の有 織 物 資源 窒 素 畳は、 年間266kg/haと 見積もら れたー その85 が 堆肥 化 さ れ、187kg/haが 農 地に 還 元さ れ、他地 域にも 堆肥は販 売されて いた。 作 物吸収 により197kg/liaの窒 素が農 地から流出するが、化学肥料により93kg/11aが与え ら れる た め 、結 局 農 地に は109kg/haの窒 素が蓄積 される 。蓄積量 は多いが 、廃棄 量 は 少 な く 、 地 域 か らtま 平 均1.5ppmの 窒 素 濃 度 を も つ 水 の 排 出 が 予 測 さ れ る 。   都 市 地 域で は 、 年間398kg/haの 有 機物資 源窒素が 生産さ れていた 。しか しその84

%は屎 尿・生ゴ ミであり、堆肥による農地還元窒素量iま65 kg/liaにすぎなかった。楠 物 吸収 に より108kg/haが農地 から流出 するが 、化学肥 料で92kg/ha与えら れてお り、

農 地に は65kg/haの蓄積 がある。3地域 のなか では農地 への蓄 積量1まもっと も少な い が 廃棄 量 が 多い た め 、地 域 か らは 平 均7.4ppmの 窒素濃度 をもつ 水の排出 が予測 され る。

  対象地 域にお ける有機 物資源由 来の窒 素量1まいずれも作物吸収量を上回っていた。

し かし そ の 利用 率 は 山地 畜 産 地域 で85%、 平地農村 地域で は50%、都 市地域 では10

% と異 な り 、そ の 遵 いは 地 域 の人 間 系を 通る窒素 の廃棄に より生 じていた 。そし て そ の利 用 率 が低 下 す ると 、 河 川へ の 排出 水の窒素 濃度を高 める可 能性のあ ること が 明 らか に な った 。 し たが っ て まず 廃 棄窒 素量を減 らし、堆 肥化す る必要の あるこ と が 強く 指 摘 され た 。 次に 有 機 物資 源 の利 用効率が 高まると 農地へ の窒素蓄 積量が 多 く なる が 、 この 蓄 積 を抑 え る には 化 学肥 料の施与 量を減ら し、裏 作の導入 により 余 剰 窒素 を 吸 収固 定 す るこ と が 指摘 さ れた 。都市や 畜産地域 など食 料と飼料 の購入 に よ り外 部 から 多量の窒 素が持 ち込まれ ている 地域では 、その 農地tま明らか に全量 の 窒 素を 受 け 入れ る こ とが で き ない 。 この 窒素は、 農産物輸 出国を 含む他地 域へ販 売 する必要のあることが指摘された。

  以 上 の ように 本論文 は、農村 地域にお ける窒 素循環を 膨大な 統計資料 と:周 査資刊 に 基づ い て モデ ル 化 し、 環 境 保全 の ため の有機物 管理に資 する定 量的基礎 データ の 構 築方 法 を 明ら か に した も の であ り 、学 術上のみ ならず、 社会的 にも大き く貢献 す るものである。

  よって 審査員 一同は、 松本成夫 がf専士(農 学)の 学位を受 けるに十I分な資格を有 するものと認めた。  ―190

参照

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